<2 実践事例>
実践事例1
1 題材名 「災害を予測し,地震を正しく恐れよう」 (第3学年)
-より確かな地震情報の読み取り-
2 題材観 (1) 地震への意識
静岡県全域に甚大な被害を引き起こすと言われ ている東海地震説とは,1976年に当時東京大学理 学部の石橋克彦氏(現神戸大学名誉教授)らにより 発表された「駿河湾地震説」がもととなっていま す。石橋氏の説は,マスコミにも盛んに取り上げ られ,静岡県の災害対策強化や直前予知体制が官 民挙げて進められるきっかけとなりました。そう いったこともあり,静岡県の地震への備えは全国 的にもかなり高いレベルにあります。たとえば,
自治体や学校,職場単位での訓練の充実,建物の 耐震化率などは全国でもトップクラスです。
ところが県民意識調査によると,東日本大震災 直後の2011年に「東海地震に対して非常に関心が ある」と答えた人が63.8%いたにもかかわらず,
昨年度調査では36.8%にまで(震災前より低い値)
に減少しています。つまり,県民一人一人に目を 向けたとき,全国トップレベルの防災対策とは裏 腹に,地震への意識が薄れてきているのです。
東海地震説が世に出てから,今年でちょうど40 年にもなります。その間,2009年や2011年に駿河 湾や県東部に大きな地震はあったものの,東北や 阪神地区のような広範囲に甚大な被害を引き起こ すような災害が県内で起きていないのは周知の通 りです。地震への意識の薄れは,そういった理由 もあるのでしょう。とは言え,東海地震について 日々出される情報を知れば知るほど,「大地震は今 にでも起きる」と考えざるを得ません。東海地震 についての情報に一人一人がどのように向き合う のか考えることだけでも,地震に対する意識は変 わるのかもしれません。
(2) 東海地震とは
まず,東海地震が,以前から警戒されている理 由について考えてみます。
地震とは,大陸プレートに海洋プレートが潜り 込み,大陸プレートの先端が引きずり込まれるこ とが原因で起きるものです。引きずり込まれた際 に“ひずみ”が蓄積し,それが限界に達したとき に大陸プレートが跳ね上がり,地下深くで岩石崩 壊が起き,陸地でゆれが生じるのです(図1)。
静岡県にある駿河湾から遠州沖にかけて,駿河
トラフ(細長い海底盆地)があり,それがいわゆる ユーラシア(大陸)プレートとフィリピン海(海洋) プレートの境になります(図2)。
また近頃,東海地 震は南海トラフ地震 と呼ばれることが多 くなりました。これ まで,東海地震の駿 河トラフと言われた 部分は南海トラフの 東端の位置にあたる からです。これだけ でも,私たち静岡県 民がいかに地震が起 きやすい場所で生活 しているかがわかる
でしょう。ただし,静岡県では「南海トラフ地震」
と完全に名称を変えることでの意識の低下を懸念 し,「東海地震」という名称をできるだけ使用して いるようですので,本題材においても駿河トラフ で起きている地震は「東海地震」という名称を使 用します。
(3) 過去の記録からわかること
図3は,南海トラフで過去に起きた大地震の震 源域と時間的分布を過去の文献などから紐解いた ものですが,南海トラフ全域を震源域とする大地 震が繰り返し起きていることがわかります。
ここでは,震源が集中している地点を震源域と し,南海トラフ全域の震源域を,南海沖(日向海
ひゆうが
盆,土佐海盆,室戸海盆)と東海沖(熊野海盆,遠 州
と さ む ろ と く ま の えんしゆう
図 2 日 本 付 近の プ レー ト 図1 プ レー ト 境界 型 地 震が 発 生す る しく み
海盆,駿河湾)の二つ(細かく分けると六つ)のブ
す る が
ロックに分けています。つまり,東海地震の震源 域と言われる駿河湾も,南海トラフ地震の一部と 考えています。実際には各々のブロックでほぼ同 じ時期に地震が起きていることが多いことが読み 取れます。そもそも六つのブロックは同じ大陸プ レート上であるため,一つのブロックだけでなく 各々のブロックが影響し合いながら地震が起きて いるのでしょう。
さらに過去の地震の記録からわかることは,ほ ぼ一定の間隔をあけて地震が起きているというこ とです。具体的には,1361年の 正 平東海地震,14
しようへい98年の明応地震,1605年の慶 長 地震,1707年の宝永
めいおう けいちよう ほうえい地震,1854年の安政東海地震などは,およそ100年
あんせい~150年に1回の周期で大地震が起きています。こ のことから南海トラフでは,ある一定の時間をか けてたまった“ひずみ”が大きく跳ね上がり,そ こで大地震が起きた後,また一定の時間をかけて エネルギーがたまっていくことが繰り返されてい るイメージがもてるでしょう。
このように,一定の周期で全域が連動して起こ る南海トラフ地震ですが,1944年の昭和東南海地 震と1946年の昭和南海地震からわかるように,駿 河湾を除いた四つのブロックで地震が起きていま す。つまり,南海トラフ地域の最東端(駿河湾)を 震源とした地震に限って見れば,ほぼ同時に起き るはずであろう地震が,1944~46年から約70年も の間起こっていないのです。また,時間が経てば 経つほどプレートの“ひずみ”が相当蓄積されて
図3 南 海 ト ラ フ で 過 去 に 起 き た 大 地 震 の 震 源 域 の 時 間 的 分 布
いるでしょうから,次に地震が起きた場合にはか なり大規模な地震になることが予測できます。こ れらが,東海地震説のもとである「駿河湾地震説」
の有力な根拠となっているようです。
理科年表(2016)によると,前回の地震との間隔 が147年あった安政東海地震では,文献等による災 害の記録などから,地震の規模であるマグニチュ ード(以下M)は8.4だったとされています。現在は 安政東海地震から162年経過しており,想定されて いる東海地震は比較的早い時期に安政地震と同等 かそれ以上の規模で,ほぼ確実に起きることが予 測できるでしょう。
気象庁はM8.0~8.7程度,最大級でM9と想定 しています。また,地震調査研究推進本部の長期 評価(図4)では,今後30年以内にM7~8クラス の地震が70%の確率で起こると想定していますの で,おおむね図3の歴史的なデータから考えられ る予測と同じです。
このように,地震のしくみを過去の地震のデー タと結びつけることで,おおまかには地震を予測 することができるでしょう。しかし,ここで注意 しなければならないのは,根拠となるデータの質 です。つまり,根拠となるデータが「定性的か定 量的か」「どのようにしてわかったことなのか」と いったことをふまえて予測するということです。
ここまでのデータの出どころは,過去の文献等 が主となっています。できるだけ正確に調査はし ているものの,もとより古い文献はよくわからな い点が多いはずです。たとえばMは,文献から読 み取れる被害状況から推測した数値であるため,
定性的な要素が濃いデータです。加えて根拠とな る記載内容も,詳細な情報とは言えないものも含 まれているでしょう。図3の場合,江戸時代以前 の文献は,特に不明瞭なようです。そこで,近年
図4 今 後30年 間の 地 震 発生 確 率と 推 定地 震 規 模
駿 河 湾 が 震 源 域 !!
駿 河 湾
の計器を用いた定量的なデータにも目を向けてみ ます。
(4) 最新のデータからわかること
阪神淡路大震災以降,全国に地震計を配備し,
体に感じない微量な地震動も正確に観測するよう になりました。このように,様々な最新の技術を 活かして地震のメカニズムを解き明かし,予測に 役立てようとしています。
その中の一つとして,海上保安庁がGPS(全地 球測位システム)などを用いて世界で初めて長期に わたり海底地盤の変動を観測したものがあり,結 果が今年5月に発表されました(図5)。それによ ると,特に東海地震の震源域の南西側(遠州海盆付 近)や,静岡県中西部の陸地に大きな変化があるこ とから,かねてから言われていたように静岡県の 沿岸部や陸地に“ひずみ”が蓄積されている可能 性がより強まることとなりました。この結果は,
過去の地震の記録から紐解いた駿河湾を震源とす る東海地震とは,若干見解の異なる震源域となっ ていますが,静岡県の周辺で,すぐにでも大地震 が起きるかもしれないことを示す大変有力なデー タとなるでしょう。
さらに,この調査結果から考えられることは,
南海沖にも“ひずみ”が蓄積されているというこ とです。つまり,南海沖を震源域として大地震が 起きる可能性も大いにあるのです。過去の地震の 記録からも,南海沖と東海沖の地震はほぼ同時に 起きることが多いので,東海沖の大地震が起きて しばらくした後に南海沖の大地震が起きる,また はその逆が起きることも考えられます。
このように最新のデータは,新たな発見を見い だせるばかりではなく,これまでの地震の予測に も客観性を与えるでしょう。ただし,これまでと は異なるデータが得られた場合には,最新だから と言って安易に考えを更新せず,それぞれのデー タの質もふまえて,丁寧に考えていく必要がある
図5 地 殻変 動 観測 か ら推 定 さ れた ひ ずみ 蓄 積の 分 布
でしょう。
だからこそ,東海地震の規模や震度を予測する ためには,1つのデータから考えるのではなく,
様々なデータを持ち寄り,それぞれのデータの質 をふまえながら考えていく必要があるのでしょう。
(5) 学校周辺はどのような災害が起こるのか
県はGIS統合基盤地理情報システムの中で,
「地震被害想定震度分布」を一般に情報公開して います。これまでは,2000年までのデータをもと に被害を想定していましたが(図6),今年度新た に更新されました(図7)。想定している地震の規 模はほぼ変わりないものの,東日本大震災等の経 験や新たなデータを加えて被害想定も若干大きく なっていたり,詳細になっていたりします。
一般的に震源からの距離に応じて震度が決まる はずが,二つの分布ともまばらになっています。
それは,地盤による影響が大きいと思われます。
一般的に軟らかい地盤では,ゆれも大きくなる 傾向があります。静岡の市街地は安倍川の扇状地 ですので,多くの土地が川の堆積物,いわゆる礫
れきや砂,シルト(砂と泥の中間くらいの粒子),泥な どで構成されています(図8)。
安倍川が運んできた堆積物の中で,重い粒子で ある礫が安倍川周辺に堆積しています。そのまわ りを砂が堆積するのですが,シルトや泥は山など の入り組んだところにたまってしまいます。その
図6 第 3次 地 震被 害 想 定推 定 震度 分 布(2000年)
※ 本 校周 辺 の推 定 震度 は 6 強
図7 第 4次 地 震被 害 想 定推 定 震度 分 布(2016年)
※ 本 校周 辺 の推 定 震度 は 6 強~ 7
ために,市街地北部の山際から南部の有度山にか けて,泥を中心とした地盤が点在することになり ます(図9)。
本校周辺(図9の○印)の地質を見ると,礫と砂 の入り組んだ微妙な地盤であることがわかります。
したがって,第3次被害想定(図6)ではおおまか に6強としていますが,正しく災害を予想すると,
第4次の分布図(図7)のように震度は6強なのか 7なのか判断に迷うところです。気象庁で定めら れている震度階級(図10)から考えると,6強では あきらかに室内の固定されていない家具などは倒 れ,外ではブロックがはがれるなどの被害が出る でしょう。最大階級の7であれば,固定したはず の家具も倒れたり,建物の一部が倒壊したりする 危険もあります。2009年の震度5強を観測した駿 河湾地震では,駿府城公園の石垣が崩れたり,歩
図8 静 岡平 野 の成 り 立ち
図9 静 岡平 野 の地 質 図 凡 例 ( 表 層 約 5 m ま で ) Am 泥質地盤 Ams 泥まじりの
砂質地盤 Amg 砂まじりの
泥質地盤 As 砂質地盤 Ag 礫地盤
D 丘陵地
N 岩盤
道のタイルが陥没したり割れたりするなどの被害 が出ました。
また,泥や砂が主成分の地盤となると,心配さ れるのが,土砂と水が地面から噴き出す液状化現 象が起き,地盤が崩れることです。本校周辺の地 質が礫と砂の入り組んだ微妙な地盤であることか らも,起こらないとは言い切れないところでしょ う。県の被害想定でも「可能性あり」とあります。
では,津波の心配はどうでしょう。東日本大震 災において,静岡市と同じような海岸平野部の津 波の高さは10m前後でした。図9の地質図による と,本校周辺はおよそ海抜20mです。東海地震が 陸地にかなり近い海底を震源にする可能性がある ことからも,本校の位置であれば津波による浸水 の可能性は低いと思われます。県の被害想定でも,
ほぼ同じ見解です。
このように,いくつかの事実を重ね合わせると,
東海地震の際に起こるであろう災害が,一般の私 たちにも大まかには予想できそうです。ただし,
これらの情報を読み取るときに注意しなければな らないことがあります。前頁の図6と図7を例に 述べます。
本校の位置は,第3次被害想定(図6)では震度 6強と想定されています。情報を受け取る側とし て,この段階では素直に6強のゆれを想定するで しょう。しかし,第4次被害想定(図7)になると 7なのか6強なのか迷うところです。
この情報は地質データなどをもとにゆれやすい 場所,ゆれにくい場所などを割り出して地図上に あらわしたものです。おおむね図9の地質図のよ うな地盤の様子を表していると言ってもよいでし
図 10 気 象 庁で 定 め られ て いる 震 度階 級
ょう。したがって,正しくは図6~7のような四 角形のドットで表せるものではありません。震度 7の枠の中が,必ずしも震度7であるとは言い切 れないのです。このように,四角形のドットなど で地図上にあらわすような“加工された情報の読 み取り”には注意が必要です。
さらに,根拠となるデータ量にも注目したいと ころです。3次から4次にかけて,ドットの大き さが小さくなっています。おそらく根拠となる地 盤のデータ量が増えたことが大きいでしょう。こ のように,データが多ければ多いほど,地震情報 としては詳細になりますし,信頼性も高くなりま す。
(6) より確かに情報を読み取る意味
冒頭で述べたように,県民一人一人の地震に対 する意識が下がっています。さらに,県民意識調 査には「東海地震発生のメカニズムをあまり知ら ない」と答えた人が34.4%と前回から10.8ポイン ト増えている(昭和63年の調査から最高の増加)と の報告があります。いつ起こるかわからない地震 に対して意識を保ち続けるには,「なぜ地震が起こ るのか」「どのような災害が起こるか」といったこ とが少しでもイメージできていることが大事なの でしょう。つまり,地震を知っていることが意識 の向上を促す一つのきっかけになるのではないか と考えます。そのような地震情報は,様々な機関 から出されています。
地震調査研究推進本部の長期評価によると,東
海地区においてM7~8クラスの大地震が30年以 内に起きる確率が70%程度となっています。規模 も確率も他の地域と比較するとかなり高い数値で す。この情報から,私たちは何を感じるでしょう か。
情報を安易に解釈し「この情報はどうせ当たら ない」と楽観的にとらえたり,「地震に備えてもム ダだ」と悲観的にとらえたりしては,助かる命も 助かりません。つまり,情報を知ることに加え,
情報を読み取るとき,予測するのに用いたデータ の質や量といった根拠に少しでも目を向け,その 情報がどのような意味をもっているのかを感じ取 ることこそが大切なのです。そのように,より確 かに情報を読み取れるのかが,地震に対する意識 を左右するでしょう。
本題材では,「様々な情報から東海地震の災害を 予測する」活動を行います。やがて起こる自然災 害だけに,子どもたちは必死に取り組むものと思 われます。また,自分たちなりにつくることで,
地震という自然災害と主体的に向き合うことがで きるでしょう。地震に関するデータをもとに一人 一人が考えをもち,データを根拠に対話すること で,自分たちなりに災害を予測する子どもたちの 姿を引き出そうと考えています。その際,子ども たちがデータの質や量に目を向け,より確かな情 報の読み取りができたら幸いです。
そうした子どもたちが地震への意識をより高め,
地震への備えにもつなげていくことを願っていま す。
参考文献:上大岡トメ(2011)『地震学入門』 幻冬舎
石橋克彦(2014)『南海トラフ巨大地震』 岩波書店 国立天文台編(2016)『理科年表』 丸善
静岡県危機管理部(2002)『地域の地盤と地震被害』 静岡県地震対策資料№198
(2014)『静岡県の地震対策』 静岡県地震対策資料№282
(2016)『地震防災ガイドブック』 静岡県地震対策資料№287
(2016)『平成27年度南海トラフ地震(東海地震)についての県民意識調査 報告書』 静岡県地震対策資料№290
海上保安庁(2016)『南海トラフ想定震源域のひずみの分布状態』 海上保安庁広報資料
3 学習指導要領との関連(7)自然と人間
自然環境を調べ,自然界における生物相互の関係や自然界のつり合いについて理解させるととも に,自然と人間のかかわり方について認識を深め,自然環境の保全と科学技術の利用の在り方につ いて科学的に考察し判断する態度を養う。
イ 自然の恵みと災害
(ア)自然の恵みと災害
自然がもたらす恵みと災害などについて調べ,これらを多面的,総合的にとらえて,自然と人
間のかかわり方について考察すること。
4 授業実践 (1) 思いをもつ
個々で前時の振り返りをしたり,プラナリアの 継続観察をしている子どもたちが観察をしたりす る時間でした。この時間の終盤におおよそ観察の 片 付 け を 終 え た と こ ろ
で,予告なしに緊急地震 速報を鳴らしました。授 業前の計画では,子ども たちが驚き机の下にもぐ ろうとするなどの動きを 見せ,「地震はいつ起こ
るかわからない」と切迫感を感じさせるつもりで した。しかし,何と機械操作のミスでその数分前 に微量な音で鳴ってしまったのです。そのためか,
子どもたちのほとんどは,「これが緊急地震速報な のか」と初めて聞く音に納得したような反応でし た。そこで,授業者から「今,ここで緊急地震速 報が出たらどうする」となげかけ,実際にどのよ うな行動をとるかシミュレーションし,話し合う ことにしました。
「まずは机にもぐる」と言って実際に机にもぐ る子どもがいる中,「もぐった後の行動は,ここで どのような災害が起こるかで変わってくる」とい った意見も聞かれました。そこで授業者は,「今,
ここで(よく言われる)東海地震が起きたらどのよ うな災害が起きるだろうか」と子どもたちに問い ました。子どもたちからは以下のような声が聞か れました。
・津波 ・液状化 ・地盤沈下 ・地割れ
・建物の倒壊 ・駿府城の石垣が崩れる
・川の氾濫 ・火山(富士山)の噴火
・デマが流れる ・食糧不足に陥る
・夏場であれば熱中症が心配
・ガソリンが不足し車での移動が困難になる など 様々な意見があがる中で,地震による直接的な 災害と間接的な問題を授業者が分け,ここでは直 接的な災害(津波や液状化など)についてイメージ するように子どもたちに伝えました。すると,子 どもたちから次のような疑問があがりました。
・津波ってここまで来るの
・ここはずいぶん内陸だから来ないのではない か
・液状化が起こる様子を見たことがない
授業者は子どもたちに,2011年の東日本大震災 時の津波の様子や液状化現象が起こった瞬間を映
像で見せました。当時小学3年生だった子どもた ちの多くは,あまりテレビでまじまじと見なかっ たのでしょうか,食い入るように動画を見つめて いました。そして,内陸まで津波が来る様子や液 状化現象により水が地面から噴き出す様子から,
子どもたちは「地震の怖さ」「ここで地震が起きた らどうなるのか」「東海地震はどれくらいの地震な のか」といった切迫感を感じ始めている様子でし た。そこで授業者は「予測のようなものはありま すよ」と子どもたちに伝え,地震調査研究推進本 部から出されている「今後30年間の地震発生確率 と推定地震規模(巻末参照)」の2010年度版と2014 年度版を見せました。子どもたちの多くは,この 2つの年の間に,東日本大震災が起きていること にわずかな時間で気づきました。そして,この時 間の子どもたちの‟追究の記録”には,主に次のよ うなことが書かれていました。
・比較的,太平洋側で高い確率になっている
・やはり,プレートの境目で地震が多い
・ところどころ,予測が変わっている
・東海地震の予測が2014年になくなている
・想定される震源域が広がっている
・全体的に想定される地震の規模は大きくなっ ている
・東日本大震災が起きる前よりも,かなり確率 が高くなっている
・東日本大震災は予測していた規模よりもかな り大きいものだった
・南海トラフ沖も,地震が起こる確率が高いし,
地震の規模もかなり大きい
・予測はもっと大々的に公表すべきだ
・予測はあくまでも予測。100%ではない
・一度大きな地震が起きたところは,確率が高 いのか
・東日本大震災は想定外と言うが,想定されて いたのでは
・本当に附中のそばに津波は来ないのか
・どのようにして予測しているのか
など
(2) 問いをつくる
1年時に学んだ地震のしくみや南海トラフ地震
という名称になった経緯を,資料を用いて説明し
た後,‟追究の記録”に書いたことをもとに,子ど
もたちと地震予測について話し合いました。「どう
やって予測しているのか」「予測を決める判断基準
は」といった疑問があがる中,以下のようなやり
とりもありました。
・予測は地震観測のデータをもとに出している
・予測が細かくなったり変わったりするのは,
観測データが増えたからだ
↓
・予測が細かくなったり変わったりするのは,
東日本大震災があったせいでは
・そもそも予測とはあやふやなもので完ぺきで はない
・予測は信用できない
↓
・予測以外に信用するものはない
・予測を参考にして上手に防災に活かすべき など これらの意見を受けて,授業者からJESEA(地震 科学探査機構)という地震予測を行う民間会社を 映像で紹介しました。
(https://www.youtube.com/watch?v=3xcQunRXEMU) これは,2013年に設立し,測量工学の分野で活 躍してきた村井俊治東京大学名誉教授とこの地震 予測方法の元祖である荒木春視工学博士が顧問を 務める組織です。特に村井氏は,東日本大震災の 教訓を活かし,自分なりに予測したものをメール 等を活用して積極的に発信している方であり,国 や自治体から出される予測を受け身でとらえてい た子どもたちに一石を投じる事例となりました。
実際に子どもたちの中には「予測って国じゃなく てもできるの」「できれば予測してみたい」といっ たようなつぶやきが聞かれました。そこで授業者 から「みんなもこの民間会社みたいに地震予測を してみない」と子どもたちに提案しました。そし て,『東海地震が起こった際に学校周辺ではどのよ うな災害が起こるのか』という問いを全体で共有
しました。
予測する項目は, 「地震が起こる時期」や「震源」,
「地震の規模」,「震度」をはじめ,話題となった
「津波」や「液状化の有無」などについてとしま した。また,「予測のためにどんなデータがほしい か」と子どもたちに問いかけました。
以下は,この時間の子どもたちの‟追究の記録”
に書かれてた主な内容です。
・村井先生のように予測ができるのならば,積 極的に公表していくことはいいことだと思う
・資料を集めて自分たちで考えて予測するなん て興味深い
・データから地震の起こる傾向を知りたい
・いろいろなデータを比較してみたい
・どのような状況で地震が起きるのか,知る必 要がある
・確実な根拠をもとに考えていきたい
・過去の地震データを見れば傾向があるかもし れない
・地殻の変動やプレートの動き,海底の状況が わかれば予測できるかも
・学校周辺の地盤や地質,正確な地形を知れば 揺れの大きさがある程度わかるかも
・東日本大震災の時の状況を知りたい
など
(3) 個々で迫る
まず,各グループが 地震予測の会社となる ように伝えました。そ して,地震予測会社で 必要となるデータを話 し合いました。具体的 に , 子 ど も た ち の ‟ 追 究の記録”をもとに,
必要とするデータやそれらのデータによってわか りそうなことなど,予測するまでの見通しを立て たのです。その結果,以下の3つの視点のデータ から予測をしていくことになりました。
ア 「歴史系」
・過去の地震の歴史から予測する
・地震が起こる法則のようなものがわかるか もしれない
・過去の地震の規模や震度の記録から,東海 地震の災害もイメージできるかもしれない
イ 「地殻変動系」・海底や陸上の地殻変動の様子から予測する
・地殻やプレートの動きがわかれば,どれく らいのひずみが蓄積されているかがわかる だろう
・ひずみの蓄積具合では,地震の規模が大き いのか小さいのかがわかりそう
ウ 「地質系」
・地形や地盤の様子から予測する
・地盤がかたいか軟らかいかで,ゆれが大き
くなるのか小さくなるのかがわかりそう
・液状化などの災害が予測できそう
授業者は,これら3つの視点のデータを会社(グ ループ)内で分担して調査し,各々の視点(係)
から予測をたてるよう子どもたちに提案しました。
そして,各々の予測を突き合わせることで,会社
(グループ)独自の予測を考えていくように伝え ました。
分担し終えたところで同じ係同士が集まり,調 査を始めました。最初の1~2分は,iPadを用い て様々な機関のデータを集めようとしたのですが,
なかなか思うように進まない様子でした。そこで,
あらかじめ授業者が 用意した資料を各係 へ配付しました。各 々がデータから考え たり,感じたりした 主な内容は次の通り です。
ア 「歴史系」
【データから読み取ったこと】
・南海トラフ地域で起こる大きな地震には,
連続性や周期性が見られる
・約100~150年くらいの周期で大きな起きて いる(約150~200年との声も…)
・最大は300年の間隔がある時期もある
・現代に近づくにつれて,間隔が短く,規模 は全体的に大きくなってきている(小さく なってきているとの声も…)
・南海トラフでは,広い地域にわたって同じ 時期に同時に大きな地震が起きている(つ まり,連続性がある)
・最後の東海地震(駿河湾付近で起きた大き な地震)は1854年の安政東海地震だった
・1854年の安政東海地震以降,ほかの南海ト ラフの地域では90~92年後の昭和に大きな 地震が起きているのに,駿河湾付近では162 年間大きな地震が起きていない
・過去の地震で市内には液状化や火事の被害 もあったらしい
・津波はあまりない
↓
【データから見た地震予測】
・150年周期だとすると,安政東海地震を最後 に駿河湾で162年起きていないので,今すぐ にでも大きな地震は起きる
・最大300年周期と考えて,安政東海地震を最 後に駿河湾で162年起きていないので,90年 以内には確実に大きな地震が起きる
・安政東海地震の災害は,これから起こる東 海地震の参考になる
・昭和南海地震が1946年なので,100年間隔と して2046年まで(30年以内)に,南海トラ フの中で大きな地震が起きる
・周期が短くなってきているので,今すぐに でも南海トラフの中で大きな地震が起きる
↓
【データについての疑問や考え】
・資料にある大きな地震以外に,本当に大き な地震がなかったのか
・今と違って昔のMや震度は観測機器がない 頃の数字なので,確実なデータではないの ではないか
・昔は火事や液状化が多いが,建物も道路も が昔と異なりしっかりとしている現代でも,
同じような被害が起きるのだろうか
・これらのデータには,余震による被害も含 まれているのか
・近年になってMが小さくなっているのは,
観測機器が発達したり,細かく観測してい るから(昔のMや震度はおおざっぱ!?)
など
イ 「地殻変動系」
【データから読み取ったこと】
・四国沖や静岡県の南側(遠州沖)の海底で,
ひずみが強くなっている
・震度は新しい資料だと7が増えている
・(HPの資料から)ひずみのエネルギーがゆ っくり少しずつ解放されているとのデータ あり!?
・(HPの資料から)静岡市内には大きな活断 層がない
↓
【データから見た地震予測や疑問,考え】
・大きな地震がすぐにでも起きるかもしれな い
・四国沖の方が,広い範囲でひずみが強くな っているので,震源は四国沖である
・静岡県沖は,これまでも東海地震の震源と 言われてきたこともあり,やはりここで大 きな地震が起きる
・震度6強または7の地震が起きる
↓
【データについての疑問や考え】
・震度が四角(ドットみたいに)で表されて いるので,6強か7なのかは断定しにくい
など
ウ 「地質系」
【データから読み取ったこと】
・市街地は安倍川の扇状地になっていて,礫,
砂,泥などでできた地盤である。つまり,
全体的にはかたい地盤ではない
・学校周辺は礫中心の地質と泥まじりの砂中 心の地質が入り組んでいる
・(HPの資料から)学校周辺のボーリングの データが少ない。駅周辺やバイパス沿いな どは多い
・海抜は20m程度である
↓
【データから見た地震予測や疑問,考え】
・やわらかい地質なので,ゆれが大きくなる だろう
・学校周辺は砂や泥もあるので,どちらかと 言えばゆれが大きくなりそう
・震源地から学校までの間にやわらかい地層 が多ければ,地震の波が伝わりやすくゆれ も大きくなるかもしれない
・学校周辺は液状化の可能性がある(ないと の声もあるが…)
・学校の東側あたりが泥まじりの砂中心の地 質のようなので,そこでは液状化の心配が ある。ただし,学校自体は液状化は起きな いだろう
↓
【データについての疑問や考え】
・学校周辺は地質の境目がわかりにくい
・学校周辺はボーリング調査が少ない所でも あるので,地質の境目が正確でないかもし れない
・海から離れているので,津波は来ないだろ う
・河川があるため,津波がのぼってきて学校 も被害にあうかもしれない
・海抜20mであることから,津波が来る可能 性はある!?
など 以上は,子どもたちが考えたものです。
なお,授業前の構想では,子どもたちが配付し たデータや資料をメインにして考えると授業者は 思っていました。しかし,意外にもiPadなどで自 分の調べた資料やデータに執着し,データの吟味 や予測にまでいきつかない子どもたちもあらわれ てしまいました。そこで,配付された資料のデー タから自分なりの予測を整理するようにはたらき かけました。
予測はしたものの,「わからない項目がある」と
いった声が聞かれるなど,子どもたちにとっては 自分の予測が完全とは言い切れないと感じ始めま した。また,それぞれの視点(係)から予測が可能 だった項目(地震が起こる時期・地震の規模・震度
・津波・液状化の有無など)を下記の写真のように 全体で確認するすることで,さらにそのような思 いがふくらんだようです。このように,他の意見 を聞いてみたいといった思いを感じたところで,
社内判定会を行うように伝えました。
(4) グループの仲間で迫る(社内判定会)
それぞれの視点(係)から予測したことをもとに,
『グループ(会社)内で地震予測の判定会を開こう』
と子どもたちになげかけました。その際,大切に してほしいことを次のように伝えました。
「できるだけ明確の予測をすること」
「根拠とするデータを吟味すること」
社内判定会の中で話題になったり,それを受け ての子どもたちの考えや感想は以下の通りです。
【地震が起こる時期について】
・
アの 歴 史 的 な 周 期 と ,
イの ひ ず み の デ ー タ を 結 び 付 け て考えればよい
・
アで は っ き り と し た規則性がないだ
けに,イのひずみで判断した方がよい。し かし,ひずみだと駿河湾と南海(土佐)の方 に意見が分かれてしまう
・イのような最新のデータでなく,アの歴史 的なデータから見た周期がもっとも信用で きるのでは
・“ひずみがこれくらいたまっているときにこ れくらいの周期で地震がおきる”といった ような,歴史的なデータと現在のひずみの データを結び付ける根拠があればよい
【震源について】
・アの歴史的なデータと,イのひずみのデー タを結び付けて考えればよい
・南海沖と駿河湾で判断に迷う
・イのデータが最新だから,それを信用した 方のがよいのか
・南海沖が震源になって,静岡の被害はそれ ほど大きくなるのか
・駿河トラフは南海トラフにつながっている ので,震源がどこであろうと被害は多くな るだろう
【地震の規模について】
・アの歴史的なデ ータと,イのひ ずみのデータを 結び付けて考え ればよい
・アの歴史的なデ
ータからはM6~8くらいなのかもしれな いけれど,イのひずみがたまっていること をどう読み取ればいいのか迷うところ
・アもイも根拠が乏しい
・アの歴史的なデータからしか読み取れない のではないか
・東日本大震災の規模があまりに大きくて,
アの過去の地震から予測ができるのか。で
も,それ以外に考える材料がない
・アやイの視点もあるが,地震が起こる時期 によって規模も違うのではないか
・おおざっぱもいいが,M1ちがうと32倍の ちがいがある。少しの数字の違いで被害が かなり変わるので慎重に決めたい
【震度について】
・イのひずみのデータと,ウの地盤や地形の データを結び付けて考えればよい
・震度は大まかに7または6強としたが,こ れではだいぶ地震の様子がちがう
・ウの地盤の性質は,読み取り方によって判 断が異なる
【津波について】
・アの歴史的なデータと,ウの地盤や地形の データを結び付けて考えればよい
・震源の場所によると思う
・ウでは海抜が20mだから大丈夫だと思うが,
アでは1854年の安政南海地震では,M8.4で
11mの津波が来ているある。もし,M8.4以 上の地震が来たらそれ以上になる心配もあ る
・東日本大震災だと,川を津波があがってく ることもあったので,ウのように海抜が高 いだけでは判断できない
【液状化の有無について】
・アの歴史的なデータと,ウの地盤や地形の データを結び付けて考えればよい
・ウの地盤から見た意見を優先していいだろ う
・見方によって予測が違うかも
【全体を通して】
・それぞれのデータを重ね合わせながら考え ることができた
・同じ項目を予測するにも,見ているデータ によって考えが違う
・どのデータを優先して考えればよいか,難 しいと感じた
・どれも,予測するための根拠となるデータ の量や歴史が乏しいのかも
・繰り返されているデータは割と信頼できる
・2つの視点から出した予測が違う場合,最 新の情報で判断した方がよいのではないか
・この業界の最前線ではたらく人が扱うデー タを見てみたい
・可能性はいえるけれど,予測はできないの ではないか
・予測は信頼できるのか
・より緻密な予測にするにはどうしたらよい のか
・不明確な点は,もう少し深めてみたい
20分程度の話し合いの後,グループ(会社)内で
の地震予測を黒板にはり出してみました。
(5) 全体で見つめなおす
それぞれのグループでつくった,『東海地震の災 害予測』を出し合いました。予測会社(グループ) で話し合われた内容によって,部分的に異なる見 解が見られました。そこで授業者から,他のグル ープに聞きたいことがあれば質問をするようにな げかけました。また,判断に迷った部分もあれば 紹介するように伝えました。
時期については「今すぐにでも起こる」が1グ ループのみであったこともあり,そこに質問が集 中しました。このグループは,地震の周期の解釈 が他のグループとは異なっていたのです。
また,地震の規模についても話題があがりまし た。ほとんどのグループがM7~8としたのに対 して,1グループだけM9以上としたからです。
このグループがそう判断したのは,ひずみがかな り蓄積されているために,これまで以上の規模の 地震が起こるであろうと考えたのです。歴史的な データと,現在のひずみのデータが結びつかない 部分で悩んでいたグループが多かったので,地震 の規模については,それ以上の話にはなりません でした。
その後,「データを読み取る際に,それぞれのよ さや欠点をふまえること」や「様々な視点を合わ せて考えていかなければならない」といった,自 分たちが予測をする際に意識したことを述べる子 どもがあらわれ,データをとらえる際に大切にす べきことが全体で確認できました。さらに,話を 深める子どもがあらわれ,気象などの他の自然観 測よりも地震観測の歴史が浅いことや,データの とらえ方が人によって異なることに話題が及びま した。
そこで授業者は,上記の写真のようにデータ→
予測の先に,情報発信→私たちの行動があること を黒板に示し,想定される東海地震の情報が掲載 されている地震防災ガイドブックを配付し,『予測
を活かす側は何を大切にすべきだろう』と問いか けました。以下は子どもたちからあがった発言内 容と,子どもたちが記入した主な感想です。
・地震がどのように予測されるのかがわかった
・ガイドブックに書いてある予測と,同じとこ ろもあればちがうところもあった
・地震の予測はとても難しい
・特に震源地の予測は難しい
・地震のことが正確にわかっているわけではな い
・様々なことを根拠に出されている予測であれ ば,案外信用できる
・様々なところから出されている予測を見て判 断した方がよい
・デマ(風評)に流されないことが大切。混乱を 招くだけである
・人に助けてもらうことを期待するのではなく,
自分で判断し,備えていくことも大切
・情報の見極めが大切
・出されている情報が,どのような根拠をもと にしているのかが大切
・テレビやラジオなどの情報をより正確に検討 するには,自分の住んでいる土地,地質,海 抜や,起こりやすい災害などをあらかじめ知 っておくことが大切
・データの少ない自分たちは大きな情報はでき ない分,小さな情報は心が大切。例えば,家 族や友人と確認し合うことなど
・その地域ごとの防災対策を考えた方がよい
・小さな確率であったとしても備えるべき。
・だからこそ,日頃から地震に備えることが大 切
・南海トラフ地震が身近に感じた
さらに,このような社会に対する提案もありま した。
・身近なところから情報発信したほうがよい
・もっと地震観測の技術が発達し,データが蓄 積されるとよい
・今回の私たちのように,自治体や会社など地
震観測を行う組織がもっと連携すればよい
5 学習活動の概要
【思いをもつ】
○緊急地震速報を流す
○津波や液状化の映像の提示
○地震予測の資料の提示
【問いを共有する】
○地震のしくみや南海トラフ地震の 概略についての確認
○「地震予測」についての話し合い
○民間地震予測会社(村井俊治東京 大学名誉教授の活動)を映像で紹 介
問いである
『東海地震が起こった際に学校周辺では どのような災害が起こるのか』
を全体で共有
【個々で迫る】本時(終末から)
○地震予測会社で必要となるデータの話し合い
○各視点(係)によるデータ から調査・追究活動
【グループの仲間で迫る】
○各視点(係)から予測できた災害の確認 ○会社(グループ)内での判定会
【全体で見つめなおす】
○会社(グループ)が出した予測について質問し,予測する際に意識したことを共有
○「地震防災ガイドブック」を配付する
・ 今 , こ こ で 地 震 が 起 き た ら ど う な る の か
・ ど の よ う に し て 地 震 を 予 測 し て い る の か
・ 観 測 や 調 査 の デ ー タ を も と に 地 震 は 予 測 さ れ て い る
・ 予 測 が 頻 繁 に 変 わ る の は ど う か と 思 う
・ 今 あ る 予 測 を 参 考 に し て 防 災 に 活 か す べ き
・ 地 震 予 測 に 対 し て 賛 否 両 論
・ 自 分 た ち も 地 震 を 予 測 し て み た い
・ 過 去 の 地 震 デ ー タ を 見 れ ば 地 震 の 傾 向 が わ か る か も し れ な い
・ 地 殻 の 変 動 や プ レ ー ト の 動 き , 海 底 の 状 況 が わ か れ ば 地 震 が 予 測 で き る か も し れ な い
・ 学 校 周 辺 の 地 盤 や 正 確 な 地 形 を 知 れ ば ゆ れ の 程 度 が わ か る か も し れ な い
・ 各 グ ル ー プ が 地 震 予 測 の 「 会 社 」 と な る
・ 各 デ ー タ か ら わ か り そ う な こ と を 出 し 合 う
ア 「 歴 史 系 」
・ 過 去 の 地 震 の 歴 史 か ら 予 測 す る
・ 連 続 性 や 周 期 性 を 見 い だ す
・ 実 証 性 に つ い て 疑 問 を も ち 始 め る
イ 「 地 殻 変 動 系 」
・ 海 底 や 陸 上 の 地 殻 変 動 の よ う す か ら 予 測 す る
・ ひ ず み が 強 く な っ て い る 部 分 が わ か る
・ 地 震 の 時 期 や 震 源 地 な ど を 予 測
・ 四 角 ( ド ッ ト ) で 表 さ れ て い る の で , 震 度 の 断 定 に 迷 う
・ 新 し い 観 測 方 法 に つ い て の 再 現 性 に つ い て 疑 問 を も ち 始 め る
ウ 「 地 質 系 」
・ 地 形 や 地 盤 の よ う す か ら 予 測 す る
・ ゆ れ の 程 度 , 液 状 化 , 津 波 の 被 害 に つ い て 考 え る
・ 地 質 図 に お け る 境 界 線 の 正 確 さ に つ い て 疑 問 を も ち 始 め る
・ ア , イ , ウ の 互 い に 異 な る 視 点 か ら 考 え た 予 測 を も と に 災 害 を 予 測 す る
・ 予 測 す る 際 に , そ の 根 拠 を 実 証 性 ・ 再 現 性 ・ 客 観 性 を も っ た 対 話 で 吟 味 し て い く
・ デ ー タ の 質 や 量 に 目 を 向 け 始 め る
・ 各 会 社 ( グ ル ー プ ) が 出 し た 予 測 を 提 示 し , 相 違 点 や あ い ま い な 点 を 出 し 合 う
・ 根 拠 と な る 調 査 ・ 観 測 結 果 (デ ー タ )に つ い て の 見 方 が 広 が る
・ 一 般 に 公 開 さ れ て い る 地 震 予 測 を 見 る 際 に , 大 切 に し た い こ と を 自 分 な り に 見 い だ す
実践事例2
1 題材名 「スピーカーからなぜ音が出るのだろう?」 (第2学年)
-身近なものから電流と磁界の関係を探る-
2 題材観 (1) 日常の音
電車やバスに乗ると,多くの人が携帯電話や携 帯音楽プレーヤーにイヤフォンを差し込み,音を 聞いている姿を見かけます。イヤフォンのしくみ を資料で調べてみると,その作りはスピーカーと ほぼ同じ構造をしていることがわかりました。イ ヤフォンもスピーカーも磁石とコイルを利用して,
音を発生させていました。電磁誘導の原理を利用 し,イヤフォン内部にある振動板を振動させるこ とで,迫力のある音や繊細な音を表現させている のです。コイルに電流が流れることで発生する磁 界と磁石のもつ磁界が互いに作用し,振動板に固 定されたコイルが動いて,音をつくり出している ことが改めて分かりました。
日常で何気なく利用しているものでも,そのし くみを理解していないものは多いのではないでし ょうか。「理科の授業が将来どのように役立つかわ からない」という声を子どもから聞くことがあり ます。しかし,普段何気なく利用しているものも,
これからの学習でそのしくみを十分理解すること ができると考えると,理科を学習する価値がある と言えるのではないでしょうか。
(2) 百聞は一見にしかず
資料にあったイヤフォン(スピーカー)のしく みを確認するために,実際にイヤフォンを分解し て,どのような作りになっているのかを調べてみ ました。すると,薄い膜にコイルが固定され,そ の中央に磁石が設置されており,資料とほぼ同じ 構造であることがわかりました(図1)。ただし,
予想していたよりもコイルが小さく,また細い導 線が使われていること,磁石についてもそれほど 強力な磁石ではないことがわかりました。このよ うに,資料で調べ
たことを実際に確 かめたことで,イ ヤフォン(スピー カー)への興味が さらに,わいてき ました。
(3) 音をつくり出すもの
①スピーカーから音が出る理由
イヤフォン(スピーカー)の内部を確認した後,
図1 イヤフォンを分解したところ
身の周りのもので代用することができないかと考 え,実際につくってみることにしました。しかし,
イヤフォンは小型で作成が難しそうだったので,
同じ構造をしているスピーカーに挑戦しました。
材料は次の通りです。
・プラスチックカップ ・コイル
・磁石 ・アンプ まず,プラスチック カップの外側の底面に 50回巻きコイルを貼り 付け,2個の磁石をカ ップの底面を挟み込む ようにつけました(図 2)。そして,CDデ ッキの出力にオーディ オ 用 の コ ー ド を 接 続 し,コイルとつなぎ,
実際に音楽を流して み ま し た ( 図 3 )。
しかし,耳で聞き取 れるほどの音量はあ りませんでした。
そこで,アンプを 利用し,音を増幅さ せることで,本当に 音楽が鳴っているの
かを確かめることにしました。CDデッキとプラ スチックカップでつくったスピーカーの間にアン プを取りつけ,アンプのボリュームを徐々にあげ ると,カップが大きく振動し始めるとともに,カ ップから音が聞こえてきました。その際,音が鳴 っている最中に磁石を外すと音が止まったことか ら,磁石やコイルがスピーカーとしての役割を果 たすために欠かすことができないものということ も,身をもって確かめることができました。
さらに音を鳴らしていると,プラスチックカッ プから煙が出始め,カップに穴が空きました。貼 りつけていたコイルから熱が発生し,その熱がカ ップに穴を空けたようです。ここで「コイルから 熱が発生するということは,イヤフォンジャック から電圧がかかり,電流が流れていることになる。
イヤフォンジャックから電流が発せられているの
図2 コイルと磁石をつけたカップ
図3 イヤフォンジャックとつないだ図
ならば,豆電球が光るのではないか」と考えまし た。そこでカップの代わりに豆電球のソケットを アンプにつないでみると,予想通り豆電球が光り ました。ただ光り続けるのではなく,強弱の変化 をつけながら光っていました。つまり,イヤフォ ンジャックからの電圧は常に一定ではなく,変化 していることがわかりました。ただし,アンプを 用いなければ豆電球が光っていることを確認でき なかったので,アンプは音を増幅させるのではな く,電圧を増幅させることで流れる電流を大きく させているのでしょう。
このように磁石や電流は,磁界という共通した 力のはたらく場をもち,その中で互いに影響し合 うことに自然事象の不思議さを感じずにはいられ ません。
②音の大きさはどのようにして変わるのか
ここまで実験を行ってみて,音の大きさには電 流がかかわっており,電流の大きさによって音の 大きさが変化することは確認できました。しかし,
市販されているスピーカーはアンプを利用しなく ても十分聞こえるだけの音量が発生します。なぜ,
手作りのスピーカーでは十分な音量が発生しなか ったのでしょうか。アンプを用いた実験から,コ イルに流れる電流を大きくすると音が大きくなる ことはわかりました。しかし,イヤフォンジャッ クからの電流は一定です(本来は音楽に合わせて 変化していますが,市販であろうと手作りであろ うと,イヤフォンジャックから流れ出る電流のリ ズム や大 きさ は変 化 しないこ とを 一定と 考えま す)。電流の大きさを変えずに音量を大きくするに はどうすればよいのでしょうか。すぐに思いつく のが,コイルの巻き数を変えることと,磁石を強 力なものに変えることです。コイルの巻き数を50 回巻きのものから100回巻きのものに変えて同様の 実験を行いました。すると,確かに音は大きくな ったように感じましたが,倍というほどではあり ませんでした。磁石も同じように強さを変えて行 うと,多少は大きくなったように感じましたが,
コイルの巻き数と同じようにそこまでの変化は感 じられませんでした。予想では,巻き数が倍にな ったのならば,音量も倍近くなってもよいはずな のになぜそこまでの違いが出なかったのでしょう か。
あまり変化が感じられなかった理由として,コ イルや磁石を増やすことで質量が増えてしまった ことがあげられます。質量が増えるとそれだけ,
物体を動かしにくくなり,いくら磁界の強さが大 きくなっても十分な音量がでないということが言 えそうです。
そこで,コイル を固定したまま,
磁石だけをカップ の外側からコイル に近づけるように しました(図4)。
すると,磁石やコ イルを両方固定し て い た と き よ り も,はっきりと大
きく音が聞こえるようになりました。おそらく,
磁石が底面から外れたことにより,底面の質量が 軽くなり,動きやすくなったことが原因として考 えることができそうです。
これらのことから考えると,音量を上げるため に単純にコイルや磁石を増やしたり,強力にした りするだけではなく,それらの質量にも目を向け る必要がありそうです。スピーカーの音量を上げ ていくために,電流が作り出す磁界の力を維持し ながら,振動させる場所の軽量化を図り,最適な バランスを検討していかなければスピーカーをつ くることができないということがわかりました。
(4) 子どもたちと電気
事前に子どもたち(40人)に電気に関するアン ケートを採りました。
【電気を利用しているもので思いつくものを挙 げてください】
・アイロン ・エアコン ・扇風機 ・テレビ
・パソコン ・照明 ・冷蔵庫 ・ラジオ など
【上で挙げたものは電気をどのように利用して いると考えていますか】
・電気を風や光,熱などに変えて利用している
(18人)
・電気がモーターを動かしている(11人)
・フィラメントに電気を流し,抵抗が光を出し ている(3人)
・音の波を何かが伝えている(1人)
・わからない,無回答(7人)
など
【電気について不思議に思うことはありますか】
・どのようにして光や熱,回転を生み出すのか
・電気はなぜ磁石から力を受けるのか
・なぜ電気が音に変わるのか
など 上記のように,多くの子どもたちはテレビやエ
図4 磁石を近づける図
アコン,扇風機などコンセントに差し込んで利用 する電化製品を多く挙げていました。しかし,電 気を利用していることは知っていても,どのよう に利用されているのかまでは知らない子どもが多 くみられました。テレビやエアコン,扇風機など では「どのようにして光や熱,回転を生み出すの か」「なぜ電気が音に変わるのか」という原理やし くみについては知識がないことがわかります。も しかしたら,知識を得る以前に,そのようなこと を考えたことがなかったのかもしれません。
子どもたちはスピーカーという身の回りの電化 製品に目を向け「なぜ音が出るのか」「どうやった ら音が大きくなるのか」などの調べ学習や,実験 の試行錯誤をすることを通して,電圧がかかって 電流が流れているコイルと磁界の間にはたらく力 や磁界の中にあるコイルが動く際に電圧が発生し ていることに気づき,電気に対する理解を深めて いくことでしょう。その際には,予想や推察をも とに実験を行い,自分の考えの根拠を明確にする ことを大切にしてほしいと思っています。
電気という目に見えない世界について,自分の 考えをもつために,子どもたちはこれまであまり 意識していなかった電流と磁界の関係について,
新たにとらえ始めるでしょう。電気に対する新た な知識が自分の考えの根拠となり,その考えをも とに仲間と図やモデルを用いて仲間と意見交換を することで,自分の考えをより深めていくでしょ う。
これまで知らなかった現象の原理を理解するこ とや,それを解明しようとする過程には,理科を 学ぶ価値があると思います。このような経験が,
日常の何気ないものに対して,「なぜだろう」「ど うしてこのようになるのだろう」と関心をもつこ とにつながり,そのしくみを自分なりの根拠をも とに解き明かし,自分の生活をよりよくするため に活用していくのではないでしょうか。根拠をも とに,自らの生活をよりよくしようとしている人 には,「科学のまなざし」が育まれていると考える ことができるのではないでしょうか。
私たちはそのような「科学のまなざし」が子ど もたちに育まれるように,授業構想を心がけると ともに,子どもたちが自然事象に関心をもち,そ の原因を解明しようと自ら活動していく姿が見ら れることに期待しています。
参考文献:谷腰欣司(2000)『磁石と磁気のしくみ』 日本実業出版社 後藤尚久(2007)『なっとくする電磁気学の疑問55』 講談社
3 学習指導要領との関連(3) 電流とその利用
イ 電流と磁界
(ア) 電流がつくる磁界
磁石や電流による磁界の観察を行い,磁界を磁力線で表すことを理解するとともに,コイルの 周りに磁界ができることを知ること。
(イ) 磁界中の電流が受ける力
磁石とコイルを用いた実験を行い,磁界中のコイルに電流を流すと力が働くことを見いだすこ と。
4 授業実践
(1) スピーカーからなぜ音が出るのだろう