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‐ 飲食店の移住起業に着目して ‐

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Ⅰ.はじめに 1 .研究の背景

 近年,日本の農山村では高度経済成長期以降の地域 活力低下における対策として,人口減少を緩和する地 域活性化策や地域社会維持の地域づくりが課題とされ ている。その中で 2014 年に国策として施行された地 方創生策では,地方への移住・定住促進が農山村の人 口減少対策として掲げられている。

 上記のような政策展開を背景として,農山村移住

(都市から農山村への人口移動)の動きは近年におい て勢いを見せている。だが農山村移住は近年になって 始まったことではなく,例えば 1960 〜 70 年代におけ る学生のヒッピームーブメントや,2000 年代におけ る「団塊の世代」の大量退職に伴うセカンドライフと しての農山村移住の動きがあった(筒井ほか,2014)。

このような農山村移住に対して地理学分野では,農 山村移住者の農林水産業における就業の特質や課題 について論じる研究や(例えば,中川,1995;河本,

2005),移住者の地域定着における中間組織の役割を

論じる研究(例えば,谷川,2004;竹下,2006)等が 行われてきた。

 近年における農山村移住の特徴は,若年層を中心と した世代の農山村移住であること,そして移住行動に 反映されないながらも都市住民の農山村に対する関心 が高まっていることが挙げられており,このような現 象は「田園回帰」と称される(小田切,2014)。

 これに対して地理学分野では,理論的・実証的な研 究がいくつか行われている。例えば中條(2018)は,

若年層の農山村移住が高齢地域社会に不足する発想・

技術・社会的人脈をもたらす可能性を実証的な調査を 基に議論しており,中川(2018)は農村地理学で議論 される「農村空間の商品化」と絡めて,田園回帰の農 山村振興における意義について議論している。また筒 井ほか(2015)は田園回帰でみられる農山村移住者の 生計確保に着目し,地域において新たな価値を創造す る「起業」と,人口減少が進む農山村における地域住 民の活動維持につながる「継業」の地域づくりにおけ る意義を論じている。このように田園回帰現象に対し 地理学論集

Vol. 95, No. 1(2020) Geographical Studies

Vol. 95, No. 1(2020)

北海道東川町における移住起業の進展要因

‐ 飲食店の移住起業に着目して ‐

Factors in the Development of Entrepreneurial Migration to Higashikawa Town, Hokkaido Prefecture, Japan:

Focusing on Restaurant Entrepreneurship

土 田 慎一郎1 Shinichiro TSUCHIDA1

1 北海道大学大学院文学研究科・大学院生 /Graduate student, Graduate School of Letters, Hokkaido University, Japan 要 旨

 本稿は,農山村への移住起業において,多面的な価値を農山村へもたらすことが期待される飲食店の移住起業に着目した。そし て飲食店の移住起業が町内に広く展開する北海道東川町を事例として,移住起業を行った経営者への聞き取り調査によって得られ た発言内容を分析することで,同町における飲食店の移住起業が進展する要因を明らかにした。

 移住起業の進展要因は,移住起業者側にある内的要因と,移住起業先である東川町に存在する外的要因に分けられる。対象とし た移住起業者は,子育て・スローライフ・セカンドライフ等の実践における農山村移住・起業志向,家族や親類の存在,小規模経 営志向による内的な作用を受けながら飲食店の移住起業を行っていた。また,東川町における水資源などの自然環境,都市に近接 する立地条件,農業活動・社会的背景・行政による制度的支援活動・サポート人材によるインフォーマルな活動等の人文環境によ る影響も受けていた。そしてこれらの内的・外的要因が相互に連関し,同町における飲食店の移住起業の進展要因となっていた。

キーワード:農山村移住,移住起業,飲食店,フードツーリズム,北海道東川町

(2)

て地理学では,農山村移住による量的な人口移動より も,都市からの移住者がどのように地域づくりへ貢献 しうるか,といった「地域づくり論的」な視点から議 論する研究が多く試みられている。

2 .本研究の視点

 田園回帰の主体である「働き世代」の農山村移住者 は、農山村における生計確保に課題があることが指摘 されている(小田切,2014)。したがって,筒井ほか

(2014)の議論する「起業・継業」は,農山村地域の 課題解決につながるのみならず,農山村移住者が直面 する課題の解決策ともなりうる。この点から,田園回 帰現象に伴う農山村移住者の「起業・継業」は,今後 も注目すべき事象であるといえる。

 なかでも,衰退しつつある地域経済を活性化し新た な価値創造をもたらす源泉ともいえる移住者の起業行 動に着目したい。先行研究による調査結果(例えば,

酒井ほか,2020;鈴木ほか,2019)では,農山村移住 者は飲食業や宿泊業など多様な業種の起業を行うこと が報告されている。しかし,特定業種の起業行動が農 村地域にどのような背景のもと卓越するか,といった 点に関する議論は管見の限り少ない。移住者により特 定業種の起業が盛んに行われることで,地域住民の日 常生活における利便性向上のみならず,新たな地域イ メージの創造やツーリズムの展開などの多面的な価値 創造が行われることが予想され,このような視点に基 づく実証的研究は意義あるものと考えられる。そこで 本研究では,特定業種の移住起業1)が顕著に進展す る農村地域において,その要因を実証的に明らかにす ることを目的としたい。

 本研究では,特定業種として「飲食店」2)の移住起 業に着目する。飲食店は地域住民にとって「外食の 場」や「憩の場」「交流の場」として日常生活の中で 機能するのみならず,農山村の資源を活用した飲食店 は観光資源として地域外住民を誘引する役割も期待で きる。このように,飲食店は農山村において多面的な 価値創造が期待されることから,着目する意義は大き いと考えられる。

 特に,観光資源となるような飲食店の集積は,農 山村における「フードツーリズム」の展開に結びつ くことが期待される。フードツーリズムは Hall et al.

(2003)により「食料の第 1 次生産者,第 2 次生産者,

フードフェスティバル,飲食店,および食を味わった り経験する場所への訪問が,動機付けの主要因となる 旅行」(本文英語,筆者訳)と定義づけられるように,

地域における「食」の経験が,人々による訪問の主要 動機となる観光現象である。ここで,飲食サービスを 提供する飲食店や食料品小売店は,フードツーリズム の主要アトラクションとなる(尾家,2015)。

 菊地(2008, 2016)は上記の Hall et al. (2003)に よる議論を踏襲し,農山村におけるフードツーリズム は,「農村景観の空間」「農業景観や農産物生産の空間」

「生活文化やスローフードの空間」「美食文化の空間」

が相互に関連する重層的な構造を基盤として持続的に 成熟し,「食」は各空間の構成要素を結び付ける主題 として機能する,という農村空間の多層的な空間概念 を基底に据えた地理学的な議論を展開している。

 ここまでの議論を踏まえるならば,農村に新規参入 する飲食店は農村地域に「スローフード空間」や「美 食空間」の新規形成・拡大をもたらすのみならず,例 えば地元農産物の活用や農業景観を利用した経営など により,農村地域の「農業景観・農産物生産の空間」

や「農村景観の空間」を構成する地域資源を,「食」

をテーマとして結びつける主体となる可能性を有する といえる。それはすなわち,農山村における飲食店の 起業は,重層的な空間構造を基盤とする持続的な農村 ツーリズムの展開に寄与する可能性を有する事象であ り,ひいては農村の持続的発展システムの構築におけ る意義の大きいことを意味している。

 ところで,移住者が農山村地域で起業行動をとる際 には,地域における自然・人文環境といった外的要因 に加え,移住者個々の志向性や経験などの内的要因が 作用すると考えられる。だが,鈴木ほか(2019)も指 摘するように,従来の農山村移住に関する地理学的研 究は,移住者を受け入れる地域社会側に基盤が置かれ ており,移住者個々の理解についてはあまり力点が置 かれていない。移住者はそれぞれ多様な背景や志向性 を有しており,それらが農村地域における自然・人文 環境に影響されながら移住・起業行動として発露する ものと予想される。すなわち移住者の内面理解は,農 山村地域における移住起業行動理解に欠かせないもの であるといえる。

 以上の問題意識より本研究では,飲食店の移住起業 が盛んに行われる農山村地域において,移住起業者の 内的要因とそれに影響を与える地域的基盤に着目し,

その進展要因を明らかにすることを目的とする。

3 .研究方法

 本研究では北海道東川町を対象地域とする。北海道 は近年移住希望先として人気であり3),特に旭川市の 東部に接する東川町は近年移住者が盛んに流入してい る。そして,写真文化首都「写真の町」東川町編(2019)

や玉村・小島(2016)にて紹介されているように,同 町の移住者は町内で小規模な飲食店等の起業を行う事 例が多く4),本研究の対象地域として適切である。

 農山村移住における研究では,管見の限り移住者に 対するアンケート調査が行われるケースが多いが,本 研究では質的データを重要視する立場から,聞き取り 調査を採用した。農山村移住者は全体数が少ないため 統計的な把握が難しく,また事例蓄積の少ない起業行 動についてその実態をより具体的に理解するために は,移住者から得られた発言を中心に考察することが 有効であると考えられる。このように農山村移住者の 発言を中心に考察している研究は、移住者の「ライフ ヒストリー」から移住過程と移住後のコミュニティと の関りについて考察した谷川(2004)や,移住者への

(3)

聞き取り調査によって離島へのIターン移住に仲介不 動産業者が果たす役割等について考察した竹下(2006)

などがある。特にここに挙げた両研究では,移住者の 絶対数が少ない地域において,彼らの移住経緯や地域 社会との関わりを具体的に記述することに成功してい る。

 よって本研究では,先述の目的を達成するため以下 の方法をとる。まずⅡでは文献および現地観察によ り,移住起業行動の基盤となる対象地域の地誌的背景 を記述し,加えて同町における飲食店の空間的展開に ついてその特徴を明らかにする。続くⅢ・Ⅳ・Ⅴは対 象となる移住起業者への聞き取り調査の結果を基に進 める。Ⅲでは,移住者の基本属性及び移住起業動機を 明らかにし,農山村への移住起業に関わる移住者の属 性・志向性をみる。Ⅳでは,移住者の居住地移動・東 川町への移住起業経緯を明らかにし,同町への移住起 業における彼らの意思決定過程とそれに関与する地域 的基盤についてみる。Ⅴでは,今日の飲食店経営に関 わる発言を基に,起業から今日に至るまで飲食店の経 営維持を可能とした基盤について明らかにする。そし てⅥではⅡ〜Vの内容を基に,東川町における飲食店 の移住起業が進展した要因について考察する。最後に

Ⅶにて本研究で得られた知見と今後の展望について整 理し記述する。

Ⅱ.対象地域概要と飲食店の空間的展開 1.対象地域概要

( 1 )地域概観

 東川町は北海道中央部に位置し,北海道第 2 の都市 である旭川市に近接する自治体である(図 1)。町の 南東部は山地となっており,北海道最高峰である旭岳 を有する大雪山系が広がっている。旭岳は登山や紅葉,

ウィンタースポーツ,山麓の温泉等の観光資源を有 し,1 年を通して観光客が訪れる。西部は石狩川水系 の忠別川右岸に形成される段丘によって平地となって おり,市街地や水田・畑作地等の農地が広がる。中心 市街地には役所をはじめ教育機関や道の駅,商店街が 立地し,その外延を住宅地が取り囲む集落形態となっ ている。一方,農地が広く展開する北西部では,殖民 区画の名残である正方形の農地区画に住居が点在する 散村形態がみられ,中心市街地と農業生産空間とで異 なる景観が生じている。

 基幹産業は米・野菜を中心とする農業で,特に米は

「東川米」としてブランド化を進めている。また,明 治時代に端を発した「旭川家具」の約 30 %は東川町 で生産されており(玉村・小島,2016),その流れを 受けたクラフト職人が町内に工房・ギャラリーを構え るなど,「木工の町」としても知られている。

 また,同町は大雪山系の伏流水による地下水が豊富 に存在し,上水道ではなく全戸で井戸を整備し地下 水を利用している。この水は 2008 年に環境省の平成 名水百選にも選ばれ,「良質な水」としてブランド化 されている。そして 2013 年にはその水資源を活用し,

図1 東川町の位置と地域概観図

東川町

凡例 市町村界

河川 道路

ロープウェイ 農地

市街地 湖沼 温泉

0 3 6 km

町役場 山頂

図5-cの範囲

(4)

町やコープさっぽろ等の組織が連携して,「大雪旭岳 源水」と銘打ったペットボトル入りの飲料水を製造・

販売している(写真文化首都「写真の町」東川町編,

2019)。

( 2 )人口動態

 東川町は他の農山村地域と同様に,1960 年代の高 度経済成長期において人口が減少し,過疎化を経験し た。しかしその後は図 2 のように 1993 年度以降人口 が増加しており,2017 年までに 1000 人以上の人口増 加を記録している。また,図3は同期間の同町におけ る転入者数と社会増減数(転入者数-転出者数)の推 移を示しているが,安定的な転入者数に支えられほと んどの年度で社会増加となっており,特に 2014 年以 降は 100 人以上の社会増加が続いている。このような 人口増加により,同町は 2017 年時点で人口 8,217 人(東 川町公開統計資料より)となっている。

 2017 年度における東川町への転入者の年齢層は 20

〜 40 歳代が全体の半数を占めており,加えて 0 〜 19 歳の層も2割を超えている5)。このように東川町への 移住者は働き世代の若年層が主体であり,その中には 子どもを有する世帯も一定数含まれることが指摘され る。

 以上のように東川町では,若年層や子育て世帯を中 心とした転入者の継続的な流入により,1993 年以降 安定した人口増加がみられている。

( 3 )地域振興に向けた行政の取組

 東川町は地域振興に向けた事業を意欲的に実践して おり,その最たる例は 1985 年から始められている「写 真の町事業」である。これは「写真文化」を主体に据 えた地域振興事業であり,具体的な取り組みは,写真 の町条例の制定,国際写真フェスティバルや写真甲 子園6)といったイベント開催等である。その他にも,

ふるさと納税制度に類似した「ひがしかわ株主制度」

や町立日本語学校の設立など,特徴的な地域振興事業 が実践されている。

 住民に対する助成制度の整備も進んでおり,例えば 0 〜 15 歳までの子どもに対し入通院代を支給する制 度によって育児環境の向上が図られている。また町内 で起業を行う住民に対し一定額の助成を行う「起業化 支援制度」が整備され,特に小規模店舗の開業におけ る障壁が緩和されている。この制度の活用実績を示し たのが図 4 であるが,特に 2012 年以降は活用が進ん でいる。また制度活用による起業は飲食店が多く,図 4 には全ての起業活動は反映されていないものの,町 内の飲食店起業が進んでいる傾向が読み取れる。飲食 店以外の起業でどのような業種が多くみられるかにつ いては資料から明らかにできなかったが , 道の駅が作 成している「ひがしかわ家具とクラフトいろいろお 店マップ」7)では雑貨店や家具・クラフト工房などが 45 店舗記載されており , これらの業種の起業において も当該制度はある程度活用されていると思われる。

2 . 東川町における飲食店の空間的展開

 先述した自然・人文環境を基盤として,同町ではど のような飲食店が,どのような地域に起業されてきた のか。それを明らかにするため,東川町の道の駅で 作成されている「ひがしかわグルメマップ」7)と玉村

(2016)に記載される店舗情報及び現地観察に基づき 図 5 と表 1 を作成した。図 5 は東川町における飲食店 の立地を示した地図であり,飲食店を示す記号は起業 時期に対応している。また表 1 では地図中に示した飲 食店の店種をまとめた。

図 4 東川町における起業化支援制度の活用実績

(写真文化首都「写真の町」東川町編(2019)に 掲載の図を改変し作成)

0 5 10 15 20

2003 2006 2009 2012 2015 2018

(件)

飲食店 飲食店以外 (年)

図3 東川町における転入者数及び社会増減数の推移

(1993–2017) (東川町統計資料をもとに作成)

-50500 100150 200250 300350 400450 500550 600650 700

1993 1997 2001 2005 2009 2013 2017

(人)

(年)

転入者数(人) 社会増減数(人)

図2 東川町における人口推移(1993–2017)

(東川町統計資料をもとに作成)

0 1000 2000 3000 40005000 6000 7000 8000 9000

1993 1997 2001 2005 2009 2013 2017

(人)

(年)

(5)

 町の中心部(図 5-a)にはうどんやラーメン,居酒屋,

カフェ等の多種多様な飲食店が集積して立地している 様子がみられ,起業時期も新旧が混在している。この 地域には道の駅や行政機関,教育機関,コミュニティ センター等の施設が集中して立地しており,人の往来 も多い。また,飲食店以外にも道道沿線には小売店な どがいくつか立ち並び,商店街を形成している。特に 近年は商店街の空き店舗を再利用する形で起業が行わ

れている様子がみられる。このように町の中心部では,

高い需要を基礎として現在に至るまで多様な飲食店の 起業が行われてきた。

 中心部の外延に位置する住宅地(図 5-b)では,主 にカフェ,レストラン,ダイニングバーなどの飲食店 が住宅の合間に点在している様子がみられる。このよ うな住宅地における飲食店は,地域住民の食料調達や 外食の場,憩の場としての需要があると考えられる。

図 5 東川町における飲食店の立地展開

玉村・小島(2016)及び「ひがしかわグルメマップ」に記載される店舗情報及び現地観察をもとに作成。

背景地図は図 5-a, 5-bが基盤地図情報,図 5-cが地理院地図淡色地図を用いている。

1 3 9

8 2

4 5

6

7 12

13

14 15

16 17

18

19

23

22

242534 33

32 31

28

29 27

3926 41

38 40

37 36

35 47

42 464544

43 49

Ⅰ期(1920~70年)

Ⅱ期(1971~2000年)

Ⅲ期(2001~10年)

Ⅳ期(2011~2017年)

図5-c 図5-a

図5-b 道の駅

役場 凡例

10 30 48 50

21

1120

0 1 2 km

250 500

0 m

200 100

0 m

図5-bの範囲

図5-aの範囲

  表 1 東川町における飲食店の店種と起業時期(玉村・小島, 2016 の店舗情報をもとに作成。表中の番号は図 5 の番号と一致)

番号 店種8)

立地 時期区分 番号

店種 立地 時期区分 番号

店種 立地 時期区分

大区分 小区分 大区分 小区分 大区分 小区分

1 小売店 みそ・こうじ 郊外 Ⅰ 21 小売店 パン 住宅地 Ⅲ 41 飲食店 ドーナツ・カフェ 郊外 2 小売店 豆腐 中心部 Ⅰ 22 小売店 パン 郊外 Ⅲ 42 飲食店 カフェ・パン 郊外 3 小売店 豆腐 郊外 Ⅰ 23 飲食店 食堂・レストラン 中心部 Ⅲ 43 飲食店 カフェ・レストラン 郊外 4 小売店 菓子 中心部 Ⅰ 24 飲食店 うどん 中心部 Ⅳ 44 飲食店 カフェ 郊外 5 飲食店 焼肉・居酒屋 中心部 Ⅱ 25 飲食店 ピザ・イタリア料理 中心部 Ⅳ 45 飲食店 カフェ 郊外 6 飲食店 寿司 中心部 Ⅱ 26 小売店 ハム・ベーコン 住宅地 Ⅳ 46 飲食店 カフェ 郊外 7 飲食店 寿司 住宅地 Ⅱ 27 飲食店 おにぎり 郊外 Ⅳ 47 飲食店 カフェ 郊外 8 飲食店 ラーメン 中心部 Ⅱ 28 飲食店 カフェ・バー 中心部 Ⅳ 48 飲食店 食堂・レストラン 住宅地 Ⅳ 9 飲食店 カフェ・パン 郊外 Ⅱ 29 飲食店 カフェ・レストラン 住宅地 Ⅳ 49 飲食店 カフェ 郊外 10 飲食店 ラーメン 住宅地 Ⅱ 30 飲食店 カフェ 住宅地 Ⅳ 50 飲食店 カフェ・レストラン 住宅地 Ⅳ 11 飲食店 カフェ・ギャラリー 住宅地 Ⅱ 31 飲食店 カフェ 中心部 Ⅳ

12 飲食店 居酒屋 中心部 Ⅱ 32 飲食店 カフェ 住宅地 Ⅳ 13 飲食店 食堂・レストラン 郊外 Ⅲ 33 飲食店 ハンバーガー 中心部 Ⅳ 14 小売店 漬物 郊外 Ⅲ 34 飲食店 そば 中心部 Ⅳ 15 飲食店 パン・カフェ 郊外 Ⅲ 35 小売店 菓子 住宅地 Ⅳ 16 飲食店 カフェ 郊外 Ⅲ 36 小売店 菓子 住宅地 Ⅳ 17 飲食店 カフェ 郊外 Ⅲ 37 小売店 惣菜 住宅地 Ⅳ 18 小売店 パン・菓子 郊外 Ⅲ 38 飲食店 ダイニングバー 住宅地 Ⅳ 19 飲食店 カフェ・レストラン 郊外 Ⅲ 39 飲食店 レストラン 住宅地 Ⅳ 20 飲食店 カフェ 住宅地 Ⅲ 40 飲食店 カフェ 郊外

(6)

これらの店舗は住宅や旧店舗を改装したものや,マン ションの 1 階部分を改装したものなどの形態がみら れ,住居兼店舗として職住一体な経営形態であること が推測される。また,これらの飲食店は 2011 年以降 に起業されたものが多く,近年飲食店の起業が活発な エリアであるともいえる。

 市街地の郊外(図 5-c)は,図に示したように農業 地域となっている。郊外では主に 2001 年以降に開業 したカフェやレストラン,パンなどの飲食店が農地の 中に点在している様子がみられる。郊外の農業地域で は遠くに大雪山系の山々を望む開放的な農村景観がみ られ(図 6),郊外立地の飲食店はその景観も経営資 源の 1 つとして活用する様子もみられた。建物も農家 の住居が主に再利用されるが、新築する事例もあり,

住居兼店舗の事例も複数みられた。北東部には飲食店 が複数集積する地区(図 5 中の番号 44, 45, 46, 49)が みられるが,そこでは 1980 年代からクラフト職人の 移住が進展し,クラフト工房やギャラリーが立ち並ん でいる。近年はそれに付設されるカフェの開業が相次 いでおり,クラフト職人が自ら営む事例もみられた。

 このように,東川町における飲食店の起業は町内に 広く展開しているが、その時期や店種において空間的 差異がみられる。いずれの地域でも飲食店の起業は盛 んであるが,近年は特に住宅地や郊外でその動きが顕 著である。また,中心部や住宅地では多様な店種が確 認されたが,郊外ではカフェ,レストラン,パン屋が 主体である。

Ⅲ . 移住起業の動機 1. 調査方法

 前章で示した飲食店のうち , どの店舗が移住起業に よるものか , という点は資料の制約から明らかにでき なかった。だが先述のように,東川町では近年移住者 による小規模な飲食店等の起業が多くみられており , 図 4 でも特に 2008 年以降は毎年新たな飲食店が起業 されている状況を示している。また , 同期間における 転入者数も安定的に存在し , その層も生計確保手段を 必要とする若年層や子育て世帯が主である。従って , 本研究では 2008 年以降の飲食店起業は移住起業者に よるものの可能性が高いと推測し , この店舗群の中か ら対象者を選出した。

 対象者は , 該当する飲食店に対し電話にて連絡を取 り , 移住者であること , 調査に協力可能であることの 2 点に合致した店舗の経営者を選定した。また,空間 的展開の差異を踏まえ , 中心部・住宅地・郊外それぞ れの地域から対象者が選出されるよう配慮した。

 このようにして抽出した 10 名の移住起業者に対し , 2017 年 10 月上旬〜 11 月上旬の期間において聞き取 り調査を実施した。調査では最初に本研究の趣旨につ いて説明した後 , 年齢・家族構成・居住地移動歴など の基本情報を聞き , その後東川町への移住起業におけ る「動機」及び「経緯」,「飲食店の経営現況」に関 わる半構造化インタビューを行った。インタビュー時 間はそれぞれ 30 〜 45 分程度で , それぞれの店舗内で 行った。加えて , 移住者への調査に先立ち , 東川町役 場の担当者に対する聞き取り調査を同年 9 月下旬に併 せて行った。

 以上このような方法によって得られた結果を基に ,

Ⅲ〜Ⅴにおける内容を構成している。

2 .移住起業者の基本情報

 移住起業者の基本情報についてまとめたものが表 2 である。なお,本研究では事業体を各1事例として扱い, 基本情報はその代表者のもののみを記載している。

 移住者の年齢と移住時の年齢に注目すると , 30 〜 40 代の働き世代の時期に移住を行った事例が多くみ られ , 先述した田園回帰の特徴と重なる。出身地は 7 事例が北海道外であり , 遠隔地から移住した事例が多

  表 2 調査対象者の基本情報(聞き取り調査をもとに作成)

記号 性別 年代 移住年度 出身地 家族構成 番号 店種

起業年度 形態 立地 大区分 小区分

A 40 2011 北海道札幌市 夫婦+子 24 飲食店 うどん 2011 住居別 中心部 B 50 2008 神奈川県 夫婦+子 21 小売店 パン 2010 住居一体 住宅地 C 60 2010 青森県 単身 26 小売店 ハム・ベーコン 2011 住居一体 住宅地 D 30 2015 熊本県 夫婦 38 飲食店 ダイニングバー 2015 住居別 住宅地 E 30 2000 北海道東神楽町 父母 50 飲食店 カフェ・レストラン 2011 住居一体 住宅地 F 40 2009 東京都 夫婦+子 22 小売店 パン 2010 住居一体 郊外 G 40 2015 東京都 単身 43 飲食店 カフェ・レストラン 2015 住居一体 郊外 H 60 2010 北海道釧路市 単身 45 飲食店 カフェ 2015 住居一体 郊外 I 30 2015 青森県 夫婦+子 47 飲食店 カフェ 2015 住居別 郊外 J 50 2016 広島県 単身 49 飲食店 カフェ 2016 住居別 郊外

図 6 東川町郊外における農村景観 2017 年 10 月に筆者撮影。広大な農地に住居が点在し,

遠景には冠雪した大雪山系の山々を一望する。

(7)

い。また , 家族構成は単身・夫婦・夫婦+子供・父母 との同居 , これら 4 形態がみられた。若者世代が中心 であるため , 単身と同程度に夫婦+子供という形態も 多いのが特徴的である。

 移住者の起業した飲食店は , 表 1 にて前掲した通り であり , 表 2 では対応する番号と共に店種を再掲した。

その経営形態をみると , 店舗と住居が分離される「住 居別」, 店舗と住居が一体であるか同じ敷地内にある

「住居一体」の双方が見られた。

 このように , 対象とした移住起業者の特徴は , 働き 世代を中心とした , 北海道外等遠方からの移住者であ る点 , 単身のみならず核家族世帯を始めとした多様な 家族構成をとる点 , 店舗と住居が一体となる形態だけ でなく分離される形態も認められた点 , これらが指摘 できる。

3 .移住起業の動機

 では次に , 対象となる移住起業者らがそれぞれどの ような動機で農山村への移住及び起業を行ったのかを 明らかにしたい。表 3 では , 聞き取り調査で得られた

「移住・起業動機」に関する発言を事例ごとにまとめ , さらにそれらを一般化させたコードを付記した。また , 発言にはそれぞれ番号を付し , 後の記述にもその番号 を用いて発言の典拠を示している。

 移住動機について , 多くみられたのは移住者の農村 志向が伺える発言(番号 1, 5, 11, 13, 16, 17, 19)である。

それらは農村での子育てを志向するもの(1, 11, 17),

農村でのスローライフやセカンドライフを志向するも

の(5, 13),反都市的な農村志向(5, 16)に細分化さ れる。一方で,家族の存在と関係した動機(3, 9, 14)や,

知り合いのつてで物件が入手できた場所に移住すると いった動機(7)もみられ , 農村志向が直接的に移住 動機となっていない事例も存在した。

 続いて,起業動機についてみると , 趣味を発展させ た起業(4, 6), 農村で店を営むことに価値を置いた起 業(12, 13)等 , 農村で個人のライフスタイルを追求 する志向性が窺える動機がみられた。一方で , 家族の 存在が契機となる起業(2, 18)や , 都市で蓄積した知 識や経験を基盤として独立開業の意識が高まったこと による起業(8, 10, 20), 本業であるクラフト工房の ギャラリーに人を呼び込む目的としての飲食店起業

(15)といった起業動機もみられた。

Ⅳ . 移住起業に至る経緯 1. 移住起業者の居住地移動

 前章では , 移住起業者の特徴と , 農山村へ移住・起 業するに至った動機について明らかにした。続いて本 章では , 実際に移住起業者がどのような経緯をたどり 東川町へ移住・起業を行ったのか , 明らかにしていく。

まずは , 移住起業者が出生地から現居住地までどのよ うな居住地移動を行ってきたのか明らかにしたい。表 4 は聞き取り調査で得られた情報を基に , 対象者の居 住地移動歴をまとめたものである。前述のように , 対 象となる移住起業者は北海道外の出身が多い。このよ うな北海道外出身者の場合 , 札幌市や旭川市 , 富良野 市等 , 北海道内の都市に何カ所か居住した後 , 東川町

  表 3 対象者の移住起業動機に関する発言とコード(聞き取り調査をもとに作成)

発言 コード

A 1 ・子どもが生まれたことを契機に,田舎で子育てをしたいと考えた。 農村での子育て

2 ・家族で一緒にできる仕事として飲食店を選択した。 家族と共にできる仕事

B 3 ・夫が東川町へ赴任することになり一緒に移住してきた。 家族に随伴して移住

4 ・趣味として続けていたが,徐々に店を持ちたいという意識が高まり開業に至った。 趣味としての仕事 C 5 ・子どもが独立したことを契機に,単身で移住することにした。もともと都会の喧騒が嫌いで,田舎暮

らしがしたかった。 農村でのセカンドライフ

6 ・20年来の趣味を広げて,セカンドライフとして起業した。 趣味としての仕事 D 7 ・東川町に知り合いがおり,そこで物件を融通してくれることになったので移住した。 知り合いのつてで移住

8 ・他店でソムリエとして働いていた,独立して自分の店を持ちたいと考えていた。 独立開業への志向性 E 9 ・高校生のときに,祖父母の暮らす東川町へ両親とともに移住した。 家族に随伴して移住 10 ・喫茶店や料理店勤務の後,独立を考えるようになった。 独立開業への志向性

F 11 ・人とのつながりの中で子育てをしたいと考えた。 農村での子育て

12 ・良好な自然景観の中で店を構え,商売したいと考えた。 農村景観の中での起業 G 13 ・昔から「田舎で店を営みながらのんびりと過ごしたい」という夢を持っていた。 農村でのスローライフ

H 14 ・東川町で暮らす両親の介護のため移住した。 両親の存在

15 ・自身が運営するギャラリーに客を呼び込むためにカフェをはじめた。 本業に資する飲食店起業

I

16 ・最初は都会暮らしへの憧れがあり東京で暮らしたが,東日本大震災を経験したことで都市の脆弱性 を実感し,農村志向へと変わった。震災の時期に子どもが誕生し,子育てを都会で行なう事に不安

を覚えたことも移住の理由の 1 つであった。 都市の脆弱性

17 ・震災の時期に子どもが誕生し,子育てを都会で行なう事に不安を覚えた。 農村での子育て 18 ・都市への通勤は時間がかかり,子育てにも支障が出るため自営業をはじめた。 子育てと両立できる仕事 J 19 ・旭川市在住時に東川町へ何度か訪れたことがあったが,山並み等の風景が気に入ったため移住を考えた。 農村景観への志向性

20 ・札幌近郊のコーヒー店で働くなかで,自身の店を持ちたいと考えるようになった。 独立開業への志向性

(8)

へ移住している事例が多くみられる(事例 B, C, D, F, G, J)。これは北海道外住民が主要都市へ移住し , そこ での居住期間中に何らかの契機で東川町の情報を入手 して移住へとつながったものと考えられる。

2 . 移住起業に至る経緯

 では対象となる移住起業者らは , それぞれどのよう な経緯で東川町へ移住し , 町内で起業を行ったのか。

本研究では移住者が東川町へ移住するに至った経緯

に加え , 起業にあたり物件入手 , 制度活用等をどのよ うに行ったか , という点を中心に聞き取り調査を行っ た。

 表 5 は対象者への聞き取り調査から得られた上記に 関する発言をまとめ , 加えて移住者の店舗入手手段及 び東川町の起業支援制度活用についての情報も付記し たものである。

 東川町へ移住することとなった直接な契機として は , 移住者自身の主体的な移住先選定によるもの(1, 8, 10, 15)と , 家族の存在や知人による物件紹介など当 事者以外の人物の存在や行動が契機となったもの(3, 5, 6, 7, 12, 17)が見られた。前者は「補助の充実」「役 場の対応」「光回線の普及」「育児環境」といった行 政に関わるものや , 「水や空気の清浄さ」といった農 村の自然環境に関わるもの , 「都市・空港への近接性」

といった農村の立地条件 , 「町への愛着」といった個 人の地域に対する思い入れに関わるもの等が選定条件 となっていた。

 移住者にとって移住先の住居や店舗となる物件につ いては,中古物件の改築を行う事例が多くみられた。

中古物件の入手においては , 知人や親類等による紹介 や融通によるもの(5, 6, 7, 13, 17)が多くみられたほか ,

  表 5 対象者の移住起業経緯(聞き取り調査をもとに作成)

事例 番号 発言 店舗

入手 起業化 支援制度 A 1 ・移住先は札幌圏を考えていたが,旭川に親類が居住していたため,近郊の東川町も候補としていた。

 補助が充実しており,役場の対応の良さから東川町に決めた。 改築 活用

2 ・店舗は町の起業化支援制度を活用し改築した。

B

3 ・自然豊かで開放的な雰囲気に魅力を感じて札幌へ移住した。そこで出会った夫と結婚し,夫の仕事の都合 で東川町へ移住することとなった。

改築 活用 4 ・住居は表通りから少し離れており,景観が良い場所であることが選定基準だった。町の制度を活用して住

居を改築し店舗とし,子育てが落ち着いた頃に開業した。

C 5 ・ハムづくりは豊富町(道北の町)在住時に知人の影響で始めた。そこで開業するように勧められたが,気 候や客足を考えて他の地域で開業することとした。友人のつてで東川町の物件を紹介してもら い,条件

が良かったため起業に至った。 改築 活用

D 6 ・現店舗である建物の大家とは旭川市在住時からの知り合いであり,その縁で店舗を貸してもらった。

町の制度は 5 年以上の経営継続を条件としており,そこを懸念して自費で店舗の改修をした。独立開業の

意識と物件紹介のタイミングがあったため起業に至った。 改築 非活用

E 7 ・旭川市内の飲食店で勤務するうち独立を考えるようになり,勤務店の支援も受け開業に踏み切った。

 店舗は祖父母の家の建物を譲り受けて一階部分を改装した。改装には町の制度を活用した。 改築 活用 F 8 ・夫が在宅ワークとなったため農村生活を考え移住先を探した。光回線の普及・育児環境の充実などが条件

であり,東川町はそれらに合致した。役場の対応がとても親身で丁寧だったことも理由であった。 新築 非活用 9 ・田園風景の中に店を構えたいという理由で今の場所に店舗を新築した。町の制度は適用外であった。

G

10 ・旭川市在住時に東川町でアルバイトをしており,その中で愛着を抱くようになった。そしてかねてからの 田舎暮らしの夢を実現すべく単身で移住した。

改築 活用 11 ・田舎暮らしのイメージとして「景色が良い場所で広い土地で野菜を自家栽培する」ことなどがあり,それ

に合致にする郊外の物件が売りに出されているのを見つけ購入した。町の制度を活用し改築を行った。

H

12 ・ジュエリー作家として東京で活動していたが,両親の介護のため東川町へ移住した。

改築 活用 13 ・両親の他界後,住居をギャラリー兼カフェとして起業した。工房は作業に当たり広い土地と作業音を考慮

する必要があるため,市街地から離れた場所が都合良かった。また自然豊かな環境が創造意欲を掻き立てる。

14 ・起業に際しては,役場の方々がとても親身にアドバイスしてくれた。

I 15 ・移住先を見つけるため家族で日本中を周った。東川町は水と空気が綺麗で,都市や空港に近いことから移

住先に決めた。 改築 活用

16 ・痛みの激しい民家を町の制度を活用して改築した。場所は客があまり来なくとも静かな場所を選んだ。

J 17 ・東川町に住む知り合いのクラフト作家が工房を建て替えることをきっかけに,敷地内の建物を借りてカフェ

を開業するに至った。改築には町の制度を活用した。 改築 活用

  表 4 対象者の居住地移動歴(聞き取り調査をもとに作成)

事例 居住地移動歴

A 札幌市→東川町

B 神奈川県→札幌市→東川町 C 青森県→帯広市→道内各地→東川町 D 熊本県→関西地方各地→旭川市→東川町 E 北海道東神楽町→東川町

F 東京都→富良野市→江別市→東川町 G 東京都→札幌市→旭川市→東川町 H 釧路市→道内各地→東京都→東川町

I 青森県→東京都→福岡県→東川町 J 広島県→旭川市→札幌市→東川町

(9)

自ら中古物件を購入し店舗へ改修したもの(11, 16), 住居を入手後にそれを改築して店舗としたもの(4)

等の例があった。また物件の選定や建設場所において は , 「景観の良さ」(4, 9, 11)や「静かな場所」(16),

「農業のできる広い土地」(11)など移住者の「田舎暮 らし」のスタイルが実現できる条件であるものや , 「工 房の作業に適する環境」(13)といった本職である生 業に関連する条件があった。

 移住者は起業に際し物件の新築・改築を行い , 店舗 を用意している。その際 , 物件の改築には東川町の起 業化支援制度が活用されている事例が多くみられた。

この制度は先述したように , 町内で新たに起業を行う 事業者に一定の資金を助成する制度である。しかし中 には「5 年以上の事業継続が条件である」という理由 から活用を見送った事例(D)もあった。また , 起業 に際し物件を新築する場合は対象外となるため , 活用 ができなかった事例(F)も見られた。

V.移住起業による飲食店の経営維持基盤

 前章では , 対象者の移住から起業に至る経緯を , 聞 き取り調査から得られた情報を基に明らかにした。だ が今日にみられる飲食店が町内に広く展開する景観 は , 移住者が起業から現在に至るまで飲食店の経営を 持続させてきたことによって現出されている。よって 本章では , 移住者が起業から今日に至るまで飲食店を 持続的に経営することが可能となった基盤を , 今日の 飲食店経営に関する聞き取り調査の結果から明らかに していきたい。

 表 6 は今日における移住者の飲食店経営において ,

「客層」と「経営の現況」についての非構造化インタ ビューによって得られた情報・発言をまとめたもので ある。

 まず飲食店に訪れる客層に注目すると , 隣接する旭 川市の方面からの訪問がみられる事例が多く , 都市に

近接する町であることの優位性が読み取れる。また旭 川より遠方である札幌市などの大都市や北海道外から の訪問 , 旭岳等の観光資源を目的とした観光客の訪問 等があることがわかった。一方で地元客の訪問も見ら れる事例も過半であり , 事例 D のように常連客によっ て経営が支えられている店舗もある(4)。このように , 対象となる店舗は近隣都市のみならず , 遠方都市の消 費者や地域住民による訪問によって経営が維持されて きた。

 また , 聞き取り調査により得られた移住者の発言を みると , 彼らの小規模な経営志向が窺われるものが複 数ある(2, 3, 5, 7, 8, 11)。その要因は , 家族の収入源 が他にあること(2, 7, 11), 製法にこだわりがあるこ と(3), 静かな雰囲気を重視する経営志向があること

(5), 素材の一部を畑で自給していること(8)等が発 言内容から読み取れる。

 一方で , これらの小規模経営志向は , 飲食店の維持 を困難にしているように思われる。だが事例Cのよう に , 製法へのこだわりがそれに共鳴する消費者の購買 意欲を喚起し需要を生じさせている例(3)もある。

また , 事例E・Fのように情報誌や口コミにより店舗 の情報が拡散した結果 , 経営が想定外に規模の大きい ものとなっている例(5, 7)もみられた。このように , 小規模経営志向ながらも , 製品にみられるこだわりや 店舗の特徴などが , メディア等による情報拡散も手 伝って消費者の訪問を喚起し , 経営持続性を高めてい る事例もみられた。

 加えて , 移住者が言及しているのは東川町における

「水資源」の有用性である(1, 6)。先述のように , 東 川町一帯には大雪山由来の伏流水が地下水として存在 し , 住民はそれを生活用水として活用している。対象 店舗ではこのような良質な水を無料で使用できるとい う点に水資源の有用性を感じている事例もみられた。

また , 役場や地域おこし協力隊,商工会等の組織が協

  表 6 対象者の経営飲食店における客層と経営の現況に関する発言(聞き取り調査をもとに作成)

事例 客層 番号 発言

A 地元客・旭川市 1 ・移住してから東川町の水の良質さに気が付いた。うどんに水は重要。

B 地元客・旭川市 2 ・夫の収入もあるため,利益はあまり重視していない。パンも低価格で販売している。

C 旭川市・札幌圏 3 ・生肉使用・無添加製法で「安心安全」な製品を作ることを売りにしているが,反面発色の悪さや日持ち しないことから販路の拡大は厳しい。健康志向の消費者はよく訪れる。

D 観光客・地元客 4 ・夏場は旭岳へ向かう観光客が多いが,冬は地元客がほとんど。夜飲みにやってくる常連客もいる。

E 旭川市・地元客 5 ・当初は静かな雰囲気をコンセプトとしており,町内の方が来る程度だったが,情報誌に紹介してもらっ てから, 旭川市方面などからの客も多く来るようになり,今では多い時期で 50 〜 60 人ほど来てくれる。

6 ・東川町では地下水を汲み上げて使うため水道代が無料で,経営の助けになっている。

F 旭川市・札幌市 7 ・夫の収入もあり,当所は「パート代程度稼げればよい」との考えで経営は趣味的なものだったが,現在 では口コミなどの影響か予想外に人気で,道の駅に出品しているほか旭川市内の売店にも卸しており,

販路を拡大している。

G 観光客 8 ・敷地内の畑で自家栽培した野菜も料理に使用している。

9 ・役場の人は店へ顔を出してくれるなど気にかけてくれている。

H 旭川市・北海道外 - -

I 旭川市・地元客 10 ・夫は在宅ワークで収入もあるため,客は程よく来てくれればいい,と考えている。

J 旭川市・地元客 11 ・役場の人や地域おこし協力隊,商工会は協力的で,店に顔を出したり,イベントの際によく声をかけて くれる。

(10)

力的である(9, 11),という指摘をしている事例もあっ た。このように,東川町の水資源やサポート人材の存 在も,移住者の飲食店経営に作用するものであった。

Ⅵ . 考察:飲食店の移住起業が進展した要因

 ここまでⅡ〜Ⅴにて , 東川町における飲食店の移住 起業行動を , 空間的展開 , 移住・起業動機及び経緯 , 経営維持基盤に着目し , 聞き取り調査で得た情報を基 に明らかにしてきた。これらを踏まえ , 本章では移住 者による飲食店の起業行動が進展する要因について考 えていきたい。先述のように移住起業行動には , 移住 起業者の属性や志向性という内面的な要因と , 移住先 である地域の自然環境や制度等の人文環境という外的 な要因とが作用すると考えられる。よって本章では , 進展要因を移住起業者の内面にある内的要因と , 地域 に存在する外的要因とに分けて考察したい。

1 . 移住起業者の内的要因

( 1 ) 農山村居住への志向性

 移住者の移住・起業動機からは , 「子育て」や「スロー ライフ」, 「セカンドライフ」等において農村居住・起 業に優位性を見いだす志向性がいくつかの事例で読み 取れた。移住者にとってこのような理由に基づく農山 村居住及び起業の志向性は , やはり農山村への移住起 業行動における第一の要因であるといえる。

( 2 )家族・親類の存在

 農山村における家族や親類の存在が , 移住行動へ大 きな影響を与えている事例もみられた。広義的に考え るならば , 子育てにおける農村志向も子どもという家 族の存在が基底にあるといえる。

 加えて家族・親類の存在は , 移住者の物件入手過程 においても , 建物や土地の融通等によってその促進要 因となっている。また , 子供を有する世帯の事例では , 家族で一緒にできる仕事として飲食店を選択したとい う事例もみられ , 家族と共に生活する事を志向するラ イフスタイルが町内での起業という選択と結びついた といえる。

( 3 )小規模経営志向

 飲食店の起業は趣味から派生して始め , 現在も収入 にそれほどこだわらず趣味の延長のような小規模経営 を行っている事例が多くみられた。このような小規 模経営志向は , 都市と比べ相対的に需要の少ない農山 村地域 , 特にその郊外地域における起業店舗の経営持 続性を高めるものと言える。だがその小規模経営を成 立させる基盤として , 家族に複数の収入源がある点 , 副業として飲食店を経営している点 , 退職後のセカン ドライフである点 , 製法に特徴のある点 , 等があるこ とが指摘でき , 移住者の家族形態や生業形態 , ライフ コース , 経営方針といった背景も関与している。

2 . 東川町における外的要因

( 1 )自然環境

 東川町においては , 水や空気の清浄さが「反都市」

志向の移住者を誘引していた。特に水資源に着目する ならば , 同町の良質な地下水を無料で使用できる点に 優位性を感じていると発言していた事例もあった。ま た , 同町には旭岳という観光資源が存在しており , そ こへ向かう観光客は , 事例としてあげたいくつかの店 舗へ足を運び経営を支えていた。

 このように , 東川町における自然環境は , 移住起業 者の移住起業行動において進展要因の一つとなってい る。

( 2 )農山村の立地条件

 先述のように東川町は旭川市に隣接する地域であ る。よって対象店舗では , 旭川市方面から訪れる客層 が多いという情報が多く得られた。また , 都市や空港 への近接性が移住先の選定条件となった事例もあっ た。

 このように , 北海道における中核都市である旭川市 の近郊に位置する東川町の立地条件が , 移住起業行動 を支える要素となっている。特に , 地域の交流人口に 経営が左右される飲食店にとって , 都市の近郊に位置 する農村である点は重要な要素であると言える。

( 3 )人文環境

 外的要因としての東川町における人文環境は , 地域 の農業活動 , 社会的背景 , 行政の多角的な取り組み , 移住起業者に対するサポート人材の存在 , これらが挙 げられる。

 東川町は先述のように米や野菜を主作物とした農業 が展開されており , それにより市街地の郊外には広々 とした開放的な田園景観が形成されている。対象者の 中にはこのような農村景観を移住起業において志向し たものもみられ , また小規模な農業を営みながら飲食 店を経営することを志向した事例もあった。このよう に , 同町における過去から現在に至る農業活動の蓄積 が農地や農業景観を形成・維持し , 今日の移住起業行 動へ作用したものと考えられる。

 先述のように同町では高度経済成長期のいわゆる

「向都離村」により , 1960 年代頃から 1990 年代中頃 にかけて人口減少が進んだ。それに伴い , 中心部と農 業地域それぞれにおいて商店街の衰退や離農が進行し た。このような社会的背景のもと , 同町では中心部・

郊外双方において空き物件が生じることとなった。対 象者となる移住起業者は , このような中古物件を改築 した事例が多く , それにより町の中心部・郊外両地域 において新規起業が進んだものと考えられる。

 そして , これら中古物件の改築に当たって活用され ていたのが町で実施される「起業化支援事業」であっ た。その他にも東川町は育児環境整備や光回線整備を 推進してきており , このような社会環境を移住先の選 定条件とした事例もあった。特に光回線の整備は地域 における在宅ワークの選択肢を生み出し , それにより 家族に主要な収入源を創出せしめ , 飲食店の小規模経 営を可能としたことにもつながっている。このように , 行政による多角的な地域振興事業は , 移住起業行動に 大きな可能性を与えることに寄与していると言える。

(11)

 また上記の様な制度的環境のみならず , 役場の担当 者や地域おこし協力隊 , 商工会による移住起業者への インフォーマルなサポートもいくつかの事例で確認 された。加えて , 地域住民の店舗への訪問も多くの事 例で見られており , 常連として経営を支えるケースも あった。筒井ほか(2015)は , 農山村での移住起業へ のサポートにおいて , 行政による起業時の制度的な支 援のみならず , 地域住民などによる「経営が軌道に乗 るためのサポート」や「日常の運営へのサポート」が 合わせて重要であることを指摘している。このことは , 訪問者の存在を経営基盤とする飲食店にとって一層肝 要となるといえるだろう。このように , 地域における サポート人材とも呼べる人々の活動も移住起業行動を 維持・促進していると考えられる。

 以上のように , 東川町における飲食店の移住起業行 動には , 農村居住への志向性・家族の存在・小規模経 営志向といった内的要因と , 自然環境・農村の立地条 件・社会的背景や行政の取り組み等の人文環境といっ た種々の外的要因が作用していることが考えられる。

しかし , これらの要因は別個に作用するわけではなく , 例えば光回線の整備という人文環境の構築が間接的に ではあるものの移住起業者の小規模経営志向を実現せ しめ , 一方で「在宅ワーク」という選択肢をとれる移 住者の社会的属性が , 同町における光回線の整備とい う人文環境に意味を与え価値を顕在化できるといった 様に , 移住起業者の有する内的要因と地域に存在する 外的要因は相互に連関しながら存在するものである。

したがって,彼らの移住起業行動を説明する際にはこ れら 2 要因を不可分のものとして明らかにすべきもの であるといえる。

Ⅶ . おわりに

1 . 本研究で得られた知見

 本研究では , 農山村への移住起業において , 特に多 面的な価値を農山村へもたらすことが期待される飲食 店の移住起業に着目し , 飲食店の移住起業が町内に広 く展開する東川町を事例として , 経営者の発言内容か らその進展要因を明らかにした。

 移住起業の進展要因は , 移住起業者側にある内的要 因と , 移住起業先である東川町に存在する外的要因に 分けられる。対象とした移住起業者は , 子育て・スロー ライフ・セカンドライフ等の実践における農山村移 住・起業志向 , 家族や親類の存在 , 小規模経営志向に よる内的な作用を受けながら飲食店の移住起業を行っ ていた。また , 東川町における水資源などの自然環境 , 都市に近接する立地条件 , 農業活動・社会的背景・行 政による制度的支援活動・サポート人材によるイン フォーマルな活動等の人文環境によっても影響を受け ていた。そしてこれらの内的・外的要因が相互に連関 し , 同町における飲食店の移住起業の進展要因となっ ていた。

 これらを踏まえるならば , 移住起業者を受け入れる 側の農山村は , 地域的な外的要因となる環境の創出が

移住者の誘致にとって重要であろう。だが先に示した ように , 移住起業を進展させる外的要因は移住起業者 個々の内的要因に応じて多様であり , また自然環境な ど人間が創出できない要素もある。したがって , 移住 起業促進に向け農山村において実践されるべきは , 東 川町の様な移住定住・起業促進にとどまらない多様な 主体による多角的な地域振興活動であり , 東川町にお ける「水資源のブランド化」に例示されるように自然 資源に価値づけを行うと共にその「価値」を広く発信 することであろう。

2 . 今後の展望

 本研究で対象とした東川町では , 飲食店の移住起業 は町内に広く展開しており , 事例調査ではそれぞれの 地区で地域住民 , 地域外訪問者による利用が確認でき た。この点からは , 移住者の起業が農山村において「外 食の場」や「観光の場」といった異なる複数の価値を 創出したといえるだろう。また先述した菊地(2008,

2016)によるフードツーリズムに関する議論を踏まえ ると , 事例とした店舗の中には東川町の農山村景観や 水資源 , 農産物 , クラフト産業など , 種々の地域資源 を活用しているものもみられ , この点からは移住者が

「食」を主題としてそれら地域資源を結び付けること で , 持続的なフードツーリズムの構築に繋がっている とも指摘できる。

 だが , 本研究は移住起業者に焦点をあてており , 店 舗への訪問者に視点を向けた調査は行うことができな かった。起業された店舗に価値を生じさせる一主体 はそこへの訪問者であり , 移住者の訪問目的や頻度と いった情報を明らかにすることによって , 起業された 飲食店の農山村へもたらす価値はより具体的に明らか になると考えられる。このような起業店舗への訪問者 に視点を向けた実証的研究については今後の課題とい える。

謝 辞

 本論文は 2017 年に北海道大学文学部へ提出した卒業論文を 大幅に加筆修正したものです。本論文を執筆するに際しご指導 ご鞭撻を賜りました , 仁平准教授並びに地域システム科学講座

(現地域科学研究室)の先生方に深く御礼申し上げます。また , 資料提供及び現地調査にご協力していただいた東川町役場の皆 様及び東川町民の皆様に感謝の意を表するとともに , 同町の更 なる発展を願っています。

1 ) 「移住起業」は酒井ほか(2020)にても用いられており , 本 研究ではそこでの用いられ方と同様に , 他市町村から特定 の市町村へ居住地移動した人物が同市町村内で起業を行う ことを指す。

2 ) 総務省の「日本産業分類(2013 年改訂)」では , 「飲食店」

は「サービス業」に分類され , 菓子やパンを製造して販売 する「製造小売業」と明確に区別されている。しかし , 当

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