災害時要援護者の避難支援に向けた ロケーションベースシステムの構築
宮城 里沙,西村 治彦,川向 肇,白川 功
Development of Location-based System for Evacuation Support of Vulnerable People in Disasters
Risa MIYAGI, Haruhiko NISHIMURA, Hajime KAWAMUKAI and Isao SHIRAKAWA
Abstract: In order to alleviate human suffering when disasters strike, it is important to prepare for disasters by establishing systems to support vulnerable people and secure evacuation routes. It is necessary to identify the locations and the contents of problems on evacuation routes for vulnerable people. For these purpose, we have constructed a location-based system using a Geographic Information System and palm-sized computers with Global Positioning System.
Keywords: 災害時要援護者(vulnerable people in disasters),避難経路(evacuation route),ロケーションベースサービス(location-based service)
1. はじめに
全国各地で様々な災害が発生し,高齢者をは じめとする災害時要援護者がその犠牲者となる ケースが多く見られることを受け,全国で災害 時要援護者支援への取り組みが行われている.
平成16年度に発生した一連の風水害をきっかけ に,内閣府が全国の自治体向けに災害時要援護 者支援のガイドライン(内閣府 (2006,2007)) を取りまとめ,それに前後して各地で支援への取 り組みが進められるようになり,多くの市町村 で災害時要援護者支援のためのデータ整備が着 手されつつある.
その中で,災害時要援護者の把握と災害発生
時の支援者の対応の際に,自治体内にある個人 情報を活用することが検討されている.これらの 個人情報は,内閣府(2006)や山崎ほか(2007) の指摘する通り,データの扱いに慎重が期される 必要がある.しかし,災害時要援護者支援を効果 的に実現するため,個人情報保護に配慮した上で のデータ活用方策と並行して,支援に関わる具体 的・多面的な対応策の検討が重要である.中でも,
本年8 月の台風 9号における避難時の人的被害 に見られるように,避難経路上の問題への取り組 みは重要であるが,この問題への対策は十分に行 われていない現状がある.
近年,災害時要援護者の存在を想定した実践 的な防災訓練なども試みられるようになってお り,その機会に災害時要援護者およびその支援 者からの聞き取り調査によって,避難経路の評価 を行うことが考えられる.しかし,防災訓練など 宮城 里沙: 兵庫県神戸市中央区東川崎町1-3-3
神戸ハーバーランドセンタービル
兵庫県立大学大学院応用情報科学研究科(西村研究室)
e-mail: [email protected]
の終了後に,課題が見られる地点以外の場所で行 う聞き取り調査では,課題 が認識された場所の位 置情報やその内容が曖昧になる可能性が高い.そ こで避難経路を実際に確認しながら,課題が認識 された地点に関する情報をロケーションベース で取得・整理可能なツールの構築が必要となる.
さらに,避難経路上の課題に関するデータを地域 の様々な関係者と共有することが災害時の被害 軽減のために必要であり,このためデータの一元 的管理と共有を支援するシステム構築を試みた.
2. システムの概要
本研究で構築しようとするシステムは,避難 経路上に存在する災害時要援護者にとっての課 題をロケーションベースで記録し,収集したデー タを整理することができるようにしたものであ る.このシステムのプロトタイプとして,ESRI 社製の ArcGIS,ArcPad,および屋外調査高度 化研究会(2006)の屋外調査支援システム(POS) を活用して,実証実験を行うこととした.避難経 路の確認・記録に用いる PDAとして GPSによ る位置特定機能を搭載した,Mio Technology社 製 の DigiWalker,Nikon Trimble 社 製 の GeoExplorer 2008を採用した.
POS は災害時に家屋の被災状況調査の目的で 開発されたものである.POS はロケーションベ ースのデータ取得に優れており,多目的に利用で きるため,災害時要援護者が避難経路上で感じる 問題点の把握にも利用できると考え,これをベー スとして用いることとした.先にも述べたように,
避難経路上の問題点の調査にはロケーションベ ースでデータをリアルタイムに取得することが 重要であり,ベースシステムをどのように活用す れば災害時要援護者の避難経路上の課題の把握 に有効活用できるかを検討した(図1).
このシステムの機能として,あらかじめ準備し た地図データなどを持たせたGPS付PDA を用 い,位置情報を確認しながら避難経路上の課題を PDA に記録する機能を実装する.さらに,課題 の内容を他の関係者との情報共有のために現場 の写真撮影を行い,調査後に持ち帰ったデータ を一覧性に優れた帳票形式に出力する.
POS で使用するデータベースとして,調査対 象項目を用意した.データベースの主要項目と しては,調査対象項目の「経路上の困難性」「経 路上の危険性」「困難性のレベル」「危険性のレベ ル」を設定した.また,それぞれの対象項目の属 性値については図2に示す通りである.その他の 項目を含めたデータベースの主要項目は表 1 の ようになっている.
なお,調査対象項目は開発メンバーでブレイ ンストーミングし,分類などを行ったものであ る.
図1. ロケーションベースシステム概略図
図2. 調査対象項目の構造
表1. データベースの主要項目
フィールド名 データタイプ エイリアス
P_DATE Text 調査日
P_TIME Text 調査時刻
DDIF Text 経路上の困難性
DDANGER Text 経路上の危険
DIF_LEVEL Text 困難性のレベル
DAN_LEVEL Text 危険性のレベル
PHOTO Text 写 真 フ ァ イ ル の
アドレス
避難経路において調査すべき内容としては,
勾配や道幅,ブロック塀の有無といった避難経 路上の問題と,その問題が避難に影響する度合 いの大きさである.避難経路上の問題の種類は さらに「経路上の危険性」と「避難の困難性」に 分類したうえで,それぞれの深刻度に応じて「危 険性のレベル」と「困難性のレベル」を付与した.
3. システムの運用方法
システムの運用方法は,以下に示す 3 段階か らなる.各段階での詳細な作業内容を以下に示 す.
<フィールド調査の事前作業>
① 調査対象地区の地図データ(地図画像,ハザ ードマップのデータ,ベクターデータなど)
の準備
② データベース項目の整備・構築
③ PDA用データとして変換
④ PDA上に③のデータを移転
<フィールド調査>
⑤ 実際のフィールドで調査・データ入力 / 写真 撮影
<フィールド調査の事後作業>
⑥ PDAのデータをPC上に移転
⑦ 調査データの整理
⑧ 帳票ファイルなどの出力
図3. 避難経路確認中のPDAの画面
事前の準備として,①では調査対象地区の地 図データを用意する.この地図データは,地図画 像,ハザードマップのデータ,ベクターデータな どが含まれ,必要に応じて準備する.②ではPC 上に準備した地図データや,調査時に入力する項 目をデータベースに追加する.これらのデータ をPDA 用に変換した上でPDA に移転すること で準備は完了する(③,④).
⑤でのフィールド調査の際には,GPS で課題 箇所の位置にポイントデータを作成し,避難経 路上の困難性・危険性とそのレベルを記録する
(図3).これはプルダウンメニューで選択する ことにより,容易に記録ができるようになる.さ らに,その問題点の視覚的情報共有を図るため,
デジタルカメラなどで課題として認識された箇 所の写真を撮影する.
事後作業としては,PDA で記録したデータと 撮影した写真をPCに取り込み(⑥),写真と記 録したデータのタイムスタンプを基に関連付け を行う(⑦).このデータを HTML 形式や Microsoft Excelファイルによる帳票形式で保存 し,さらにプリンターで出力する(⑧)ことで,
得られた情報について縦覧性を確保しつつ活 用・共有することができる.
4. フィールド実験とそれによる知見
このシステムを使用して実際に避難経路の確 認を行い,動作テストと課題の検討を行った.ま ず開発メンバーで機能的側面の検証を行い,実際 にフィールド調査を実施することにより項目の
過不足など入力項目の再検討を行った.その後で 災害時要援護者の例として考えられる車椅子の 利用者を想定し,神戸市中央区の下山手通り付近 において避難所までの経路を確認し,調査ポイン トごとに課題と認識される箇所の位置と内容,お よびそのレベルを取得する作業を実際に行った
(図 4).さらに現場での写真を撮影し,課題の 共有に向けての問題点についても検討した.
フィールド調査により得られた知見は以下の 通りである.急な坂道を記録する場合など,位置 だけでなく区間や方向という情報が重要になる 可能性があることが分かった.また,ロケーショ ンを特定する上では,Nikon Trimble社製のGPS 機能付PDA,GeoExplorerは衛星信号の受信に 課題があることが確認された.都市部など,鉄 骨・鉄筋造の建物が密集している地域では精度の 高いGPS機能付きPDA の方がかえってデータ を取得できないこともあり,Mio Technology社 製のDigiWalkerの方が運用しやすいことも分か った.
図4. 実際のフィールド調査の様子
5. おわりに
本研究で構築したシステムでの実証実験結果 からは,災害時要援護者に支援者がサポートしつ つ調査を進める上では大きな不都合は見られな かった.しかし,ポイントによる課題の記録だけ では方向や区間などの情報を記録することがで きないため,線分での記録が必要ではないかとす る指摘があった.この点を踏まえた調査システム の開発を現在検討している.
また,精度の高い PDA よりも,廉価な PDA の方がGPSの電波をキャッチしやすく運用しや すいという結果から,実際のシステム運用におけ
るPDAの選定の際には精度と運用のしやすさの バランスを考慮する必要がある.
PDA 上のシステムのインタフェースにおいて は,PDAを使用する支援者が高齢の場合などに,
画面の文字のサイズが小さく見づらいという課 題があり,文字の大きさや変更方法などについて 検討の余地が見られた.
調査結果のHTML出力については,出力した 結果をWeb 上の地図とリンクさせることはでき ないかという要望が聞かれ,Web 上の地図に取 得した情報を反映させた上で調査データを活用 していくことも検討する予定である.
今後さらに研究を進めていくと共に,いくつか の自治体での避難訓練での利用により,より一層 の知見を深めていきたい.
謝辞
本研究は科研費(B20310097)の助成を受け たものである.
参考文献
内閣府(2006)災害時要援護者の避難支援ガイド ライン(改訂版),
http://www.bousai.go.jp/hinan_kentou/060328/
内閣府(2007)災害時要援護者対策の進め方につ いて(報告書),
http://www.bousai.go.jp/hinan_kentou/070419/
山崎 栄一・立木 茂雄・林 春男・田村 圭子・原田 賢治(2007)災害時要援護者の避難支援―個人 情報のより実践的な収集・共有を目指して,地域 安全学会論文集,No.9,p157-166.
屋外調査高度化研究会(2006)屋外調査支援シス テム ver.2 チュートリアル,
http://www.esrij.com/products/pos/pos2_tutoria l.html