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哺乳類科学 57(2): ,2017 日本哺乳類学会 特集やんばる国立公園 奄美群島国立公園指定記念 : 中琉球の哺乳類の生態, 行動, 保全 報 227 告 絶滅危惧種オキナワトゲネズミ Tokudaia muenninki の分布の変遷 安田雅俊 1, 関伸一 2, 亘悠哉 3, 齋

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摘     要 現在沖縄島北部に局所的に分布する絶滅危惧種オキナ ワトゲネズミTokudaia muenninki(齧歯目ネズミ科)を対 象として,過去の生息記録等を収集し,分布の変遷を検 討した.本種は,有史以前には沖縄島の全域と伊江島に 分布した可能性がある.1939 年の発見時には,少なくと も現在の名護市北部から国頭村にいたる沖縄島北部に広 く分布した.外来の食肉類の糞中にオキナワトゲネズミ の体組織(刺毛等)が見つかる割合は,1970 年代後半に は 75–80%であったが,1990 年代後半までに大きく低下 し,2016 年 1 月の本調査では 0%であった.トゲネズミ の生息地面積は,有史以前から現在までに 99.6%,種の 発見時点から現在までに 98.4%縮小したと見積もられた. は じ め に オキナワトゲネズミTokudaia muenninki(齧歯目ネズ ミ科)は沖縄島にのみに分布し(Iwasa 2015a),近縁の アマミトゲネズミT. osimensisとトクノシマトゲネズミT. tokunoshimensis はそれぞれ奄美大島と徳之島に分布する (Iwasa 2015b,c).これら 3 種は国の天然記念物,国内 希少野生動植物種に指定されている.このうちオキナワ トゲネズミはもっとも絶滅のおそれが高く,IUCN(Ishii 2016),環境省(2017 年版レッドリスト;URL:http:// www.env.go.jp/press/103881.html;2017 年 7 月 25 日確認), 沖縄県(沖縄県環境部自然保護課 2017)のいずれの レッドリストにおいても絶滅危惧IA 類(critically en-dangered)に選定されている.本種の個体数減少の要因 として,フイリマングースHerpestes auropunctatus,ノネ

Felis catus,ノイヌ Canis familiaris といった外来の食 肉類による捕食(河内・佐々木 2002;城ヶ原ほか 2003; 城ヶ原 2016)や外来種クマネズミRattus rattus との競合 (湊 1993;久高・久高 2017)などが懸念されているが, 影響の程度については未解明である.本種は 1939 年に 発見され(黒田 1943),20 世紀末には絶滅したとも考え られていたが,2008 年に再発見された(Yamada et al. 2010).現在の生息地面積は沖縄島北部の数平方キロメー トルと考えられている(河内ほか 2010;Yamada et al. 2010;木戸ほか 2013;城ヶ原 2016). トゲネズミ属はその名の通り特徴的な刺毛をもち (Iwasa 2015a),外来の食肉類の糞からその刺毛がみいだ されることがある.このことを利用したオキナワトゲネ ズミの生息分布調査が,1970 年代以降,沖縄島北部で 行われてきた(宮城 1976;沖縄県教育委員会 1981;大 島 ほ か 1997; 河 内 紀 浩・ 佐 々 木 2002; 城 ヶ 原 ほ か 2003).これらのデータに基づき,Yamada et al.(2010) は本種の分布の縮小傾向について言及したが,先史時代 以前の分布や 1939 年の標本の産地(黒田 1943)等の情 報が含まれておらず,過去の分布の変遷を検討するには 不十分であった. そこで本研究では,オキナワトゲネズミの分布の変遷 と現状をあきらかにするために,文献資料や標本等の確 実な生息記録を精査するとともに,沖縄島北部において 食肉類の糞の調査を行った. 調 査 地 と 方 法 1.生息記録等,地理区分,年代区分の定義 本稿では,標本や写真等のオキナワトゲネズミ(以下, 原則としてトゲネズミと呼ぶ)に関する物的証拠をとも ない,時期と地点がおおむね特定できる情報を確実な生 息記録と定義した.ここで物的証拠とは,標本,化石(遺 跡等から出土した動物遺体を含む),トゲネズミの体組

絶滅危惧種オキナワトゲネズミ

Tokudaia muenninki の分布の変遷

安田 雅俊

1

,関  伸一

2

,亘  悠哉

3

,齋藤 和彦

2

,山田 文雄

3

,小高 信彦

1 1国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所九州支所 2国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所関西支所 3国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所野生動物研究領域

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織(外来食肉類の糞調査でえられたものを含む),写真 を指す.写真は,外見的特徴や撮影時に観察された行動 等に基づき撮影者がトゲネズミと識別したものである. また,物的証拠をともなわないが,研究者への聞き取り でえられた時期と地点がおおむね特定できる情報を確度 の高い生息情報と定義した.以下では,両者を合わせて 生息記録等と呼ぶ. また国頭村の与那と安田を結ぶ県道 2 号線(与那安田 横断道路)を境界として国頭村を北部と南部に分け,必 要に応じて地名や施設名称を付記した.原則として原稿 執筆時点の市町村名や地名,施設名称等を用いた.本種 の生息記録が比較的まとまっている山域(与那覇岳付 近,西銘岳付近)については,それぞれの山頂を中心と する半径数キロメートル程度の円内を指すものとした (Fig. 1). えられた生息記録等の時期を以下のような 4 期に区分 した―I 期:1939 年の本種の発見以前,II 期:本種の発 見から天然記念物指定までの 33 年間(1939 年~ 1971 年),III 期:天然記念物指定から再発見までの 36 年間 (1972 年~ 2007 年),IV 期:再発見から本稿執筆時点 までの約 10 年間(2008 年~ 2017 年 8 月).なお,本種 の天然記念物指定(1972 年 5 月 15 日)は沖縄返還と同 時である. 2.文献調査 2015 年から 2016 年にかけて,沖縄県立図書館,那覇 市立図書館,名護市立図書館に所蔵されているトゲネズ ミに関係する文献資料を閲覧した.また,国立情報学研 究 所 学 術 情 報 ナ ビ ゲ ー タCiNii Articles(URL:http:// ci.nii.ac.jp;2017 年 8 月 18 日確認),科学技術振興機構 科学技術情報発信・流通総合システムJ-STAGE(URL: http://jstage.jst.go.jp;2017 年 8 月 18 日確認),琉球大学 学術リポジトリ(URL:http://ir.lib.u-ryukyu.ac.jp;2017年 8 月 18 日確認)を用いて,トゲネズミに関係する文献 資料を検索した. 3.標本調査 2015 年から 2016 年にかけて,国立科学博物館,琉球 大学資料館(風樹館),九州大学総合研究博物館,九州 大学農学研究院動物学教室,沖縄県立博物館・美術館に 収蔵されている沖縄産トゲネズミの標本ラベルに記載さ れている情報を収集した.なお本稿では各標本の採集時 期(年月),採集地,採集者,性の情報のみを記載し, 測定値については割愛する.一部の標本の測定値につい てはKaneko(2001),Yamada et al.(2010)に記されて いるので参照されたい.

Fig. 1. Geographic records of past and the present occurrences of the Okinawa spiny rat in the literature, specimens and observations from the prehistoric period to the present. ❶~❼: prehistoric period (late Pleistocene to Holocene); ⑧~㉞: species discovery to the present (1939–2017). Lower-case letters were applied when a source contained two or more records. UREF: University of the Ryukyus Experimental Forest (Yona, Kunigami V.).

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2 号線の一部 2.2 km,県道 2 号線と安波ダムを結ぶ道路 3.9 km)において,2016 年 1 月 14 日~ 18 日,食肉類の 糞調査を実施した.この調査地は,城ヶ原ほか(2003) の調査地のうち県道 2 号線以南の大部分をリセンサスす るように設定した.2 名の調査者が道路の左右に分かれ, 時速約 3 km で同一方向に歩きながら,道路上あるいは 道路脇の食肉類の糞(以下,糞)を探索した.発見した 糞は回収し,分析まで冷凍保存した.糞を 2 mm メッシュ で洗浄し,残渣を目視および実態顕微鏡で分類し,餌種 を同定した. 5.発見年におけるトゲネズミの生息地面積の推定 沖縄におけるトゲネズミの発見年(1939 年)におけ る本種の分布面積について,発見年のトゲネズミの生息 地面積をH1939,発見から現在までにトゲネズミの生息 記録等がある市町村の面積合計をA,発見年の森林率を F1939とし, H1939=A×F1939 の式から求めた.ただし,A は後述する本研究の結果か ら,北部 3 村(国頭村,大宜味村,東村)に名護市羽地 (旧羽地村)を加えた面積(393 km2)とする.F 1939は 1939 年前後の諸資料(農林省山林局 1937;粂川 1938; 沖縄県総務部統計課 1942)より求めた当時の上記 4 村 全体の森林率(81.7%)を用いた. 結     果 1.化石および生息記録等 I 期については,トゲネズミの化石の出土地点に通し 番号を付し,それらの番号を地図に配置した(Fig. 1 の ~).II 期から IV 期については,えられた文献資料 に通し番号を付し,それらの番号を地図上に配置した (Fig. 1 の⑧~).同一の文献資料が異なる地点の生息 記録等を含む場合はアルファベットを付して区別した. 地点の詳細が不明な場合にはFig. 1 の市町村名の下に番 号を配置した. I 期(先史時代~ 1938 年) 更新世後期から完新世のものとされるトゲネズミの化 石が以下の 7 地点から出土した(Kowalski and Hasegawa

ク原(南城市),5)港川フィッシャー遺跡(八重瀬町), 6)採石場(本部町). 伊江島:7)ゴヘズ洞穴(伊江村).なお,I 期の地点が 南方に偏在している(Fig. 1)のは,それらの地域にカ ルシウム分を多く含む石灰岩や貝塚があり,土壌中に骨 格が残りやすいためである. II 期(1939 年~ 1971 年) 8)1939 年 6 月,名護市北部(原文では「羽地村源河 山(稲嶺附近)」)と国頭村北部(辺野喜)において,蜂 須賀正氏により,それぞれ性不明の 1 個体の標本と性不 明の腐敗死体の刺毛がえられ,沖縄産のトゲネズミ発見 とされた(黒田 1943;Fig. 1 の⑧ a,⑧ b). 9)1945 年 9 月,国頭村南部において,13 個体(雌 5, 雄 6,不明 2)が捕獲され,これらの標本に基づきオキ ナワトゲネズミTokudamys osimensis muenninki が記載さ

れた(Johnson 1946).原記載の記述から,採集地は国頭 村辺土名と与那覇岳の間の森林とみられる(Fig. 1 の⑨). 10)1956 年 8 月,国頭村(詳細不明)において,高 良鉄夫により,毛皮が拾得された[琉球大学資料館所蔵, 標本番号RUMF-ZZ-00045;琉球大学資料館(風樹館) 2011;Fig. 1 の⑩]. 11)1962 年 5 月,国頭村南部(琉球大学農学部附属 亜熱帯フィールド科学教育研究センター与那フィールド 演習林;以下,琉大演習林)において,加納六郎により, 雄 1 個体が採集され,寄生虫研究に供された(国立科学 博物館所蔵,標本番号M8422;Kaneko 1964;Fig. 1 の⑪). なお標本ラベルには「Alt 300 m」,標本台帳には「渓流 横の山道の倒木下に手づかみで捕獲する」とある. 12)1965 年 10 月,大宜味村(詳細不明)において, 性不明の成獣 1 個体が採集された[琉球大学資料館所蔵, 標本番号RUMF-ZZ-00049;琉球大学資料館(風樹館) 2011;Fig. 1 の⑫]. 13)1967 年 12 月,国頭村において,計 3 個体(雌 2, 雄 1)の標本が採集された(九州大学総合研究博物館所 蔵 2,九州大学農学研究院動物学教室所蔵 1).うち 1 個 体の標本ラベルには「内田 沖縄国頭普川上流 スダジ イ―リュウキュウチク林 琉大実習時採集 コドラート D8」とあるため,当時九州大学助手であった内田照章 が採集者と考えられる.普川は国頭村内を流れる普久川 (現地読み:フンガー)のことであろう.残る 2 個体の 採集地について標本ラベルにはそれぞれ「沖縄県国頭

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村」,「与那」と記されている.2015 年 7 月 2 日に電話 で内田に聞き取りを行ったところ,少なくとも 1 個体は 琉大演習林の旧本館付近で捕獲されたことが判明した (Fig. 1 の⑬). 14)1968 年 4 月,国頭村(詳細不明)において,高 良鉄夫により,雌 1 個体が採集された(国立科学博物館 所蔵,標本番号M12911;Fig. 1 の⑭).標本台帳には「1968 年 4 月 26 日死亡」とある. 15)1970 年 1 月,沖縄産(詳細不明)の雄 1 個体が 飼育後に標本化された(国立科学博物館所蔵,標本番号 M14377).標本ラベルには「Loc 沖縄産 本館飼育殺」 とあるが詳細は不明である.標本台帳には「KT391」と ある. 16)1972 年以前(年月不明),国頭村南部(与那覇岳 付近)において,池原貞雄により,1 個体が収集された(沖 縄県立博物館・美術館所蔵,標本番号OPM-Ma-1700052- 00;Fig. 1 の⑯). III 期(1972 年~ 2007 年) 17)1973 年 6 月,国頭村南部(与那覇岳付近)にお いて,千木良芳範により,トゲネズミが写真撮影された (千木良芳範 私信;Fig. 1 の⑰). 18)1975 年 4 月~ 7 月,国頭村南部(与那覇岳付近, 安波ダム付近;総延長不明)において,食肉類の糞調査 が行われた.12 個の糞のうち 9 個(75.0%)にトゲネズ ミ の 毛 が 含 ま れ た( 宮 城 1976;Fig. 1 の ⑱ a, ⑱ b; Fig. 2). 19)1974 年 10 月~ 12 月,国頭村南部(与那覇岳付近) において,トゲネズミの捕獲調査が行われ,1 個体が捕 獲された(Shiroma and Ikehara 1976;Fig. 1 の⑲).

20)1976 年 3 月,国頭村南部(与那覇岳付近)にお いて,千木良芳範により,トゲネズミが写真撮影された (千木良芳範 私信;Fig. 1 の⑳). 21)1978 年 5 月~ 12 月,国頭村南部(与那覇岳付近) に お い て, の べ 29 個 体 が 捕 獲 さ れ た( 三 井・ 池 原 1979;Fig. 1 の㉑).うち 1 個体が飼育下での行動観察 に供された(三井・池原 1983). 22)1978 年 3 月~ 12 月,与那覇岳付近の林道(総延 長不明)において,食肉類の糞調査が行われた.20 個 の糞のうち 16 個(80.0%)にトゲネズミの毛,骨,歯 が含まれていた(沖縄県教育委員会 1981;Fig. 1 の㉒, Fig. 2). 23)1988 年 3 月~ 4 月,国頭村南部(与那覇岳付近) において,池原貞雄と岩附信紀により,性不明の 2 個体 の新鮮な死体が拾得され,寄生虫研究に供された(長谷 川ほか 1990;Hasegawa 1990;Fig. 1 の㉓). 24)1993 年 2 月~ 4 月,国頭村南部(琉大演習林) において,本種の成獣と幼獣が写真撮影された(湊 1993;湊 1994;Fig. 1 の㉔). 25)1996 年 11 月,国頭村南部(与那覇岳付近)にお いて,横田昌嗣により,トゲネズミの死体が拾得された (横田昌嗣 私信;Fig. 1 の㉕). 26)1996 年 5 月~ 1997 年 2 月,国頭村北部と南部に おいて自動撮影カメラによる調査が行われ,また国頭村 南部と大宜味村(大国林道全線,35.5 km)において食 肉類の糞調査が行われた.ノネコとノイヌは撮影された が,トゲネズミは撮影されなかった.みつかった 56 個 の糞のうち 7 個にトゲネズミの体組織(毛,歯,爪)が 含まれた(12.5%;大島ほか 1997;Fig. 1 の㉖ a,㉖ b, ㉖ c,Fig. 2). 27)1998 年 5 月と 1999 年 6 月,国頭村北部,同村南 部および大宜味村の林道(総延長 59.6 km)において, 食肉類の糞調査が行われた.22 個の糞にトゲネズミの 体組織は含まれなかった(0.0%;河内・佐々木 2002; Fig. 2). 28)2001 年 3 月~ 8 月,国頭村北部,同村南部およ び大宜味村の林道(総延長不明)と集落付近において, 食肉類の糞調査が行われた.林道でみつかった 28 個の 糞のうち,県道 2 号線普久川ダム付近で採集された 1 個 からトゲネズミの毛がみいだされた(3.6%;城ヶ原ほ か 2003;Fig. 1 の㉘,Fig. 2). Fig. 2. Temporal changes in the proportion of alien carnivore’s feces

containing Okinawa spiny rat. Ratios of sample size and the number of feces containing Okinawa spiny rat (spinous hairs, bones, etc.) are shown in parentheses. Data sources: Miyagi (1976), Okinawa Prefectural Board of Education (1981), Ohshima et al. (1997), Kawauchi and Sasaki (2002), Jogahara et al. (2003) and the present study.

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査が行われた.2008 年 2 月以降,国頭村北部(西銘岳 付近)においてトゲネズミが写真撮影され,計 24 個体 が捕獲された(Yamada et al. 2010;Fig. 1 の㉙).

30)2008 年 2 月~ 2009 年 7 月,国頭村北部(詳細不明) において,自動撮影カメラによる調査が行われ,トゲネ ズミが写真撮影された(久高・久高 2017;Fig. 1 の㉚). 31)2009 年 4 月,沖縄島(詳細不明)において,外 来食肉類によって捕殺されたとみられるトゲネズミ 1 個 体の死体が拾得された[琉球大学資料館所蔵,標本番号 RUMF-ZZ-00135 および 000136;琉球大学資料館(風樹 館)データベース,URL:http://fujukan.lib.u-ryukyu.ac.jp/ database.php;2017 年 10 月 12 日確認;Fig. 1 の㉛]. 32)2011 年 12 月,国頭村北部(西銘岳付近)において, 千木良芳範により,トゲネズミが写真撮影された(千木 良芳範 私信;Fig. 1 の㉜). 33)2012 年 2 月,国頭村(詳細不明)において,トゲ ネズミ 1 個体の死体が拾得された[琉球大学資料館所蔵, 標本番号RUMF-ZZ-00143および000144;琉球大学資料館 (風樹館)データベース,URL:http://fujukan.lib.u-ryukyu. ac.jp/database.php;2017 年 10 月 12 日確認;Fig. 1 の㉝]. 34)2013 年 8 月,国頭村北部(宇嘉)の用水路にお いて,山川安雄により,トゲネズミの新鮮な死体が拾得 された(沖縄県立博物館・美術館所蔵,標本番号 OPM-Ma-1700140-00;Fig. 1 の㉞). 35)2016 年 1 月, 国 頭 村 南 部 と 大 宜 味 村 の 林 道 等 (総延長 30.3 km)において,食肉類の糞調査が行われた (本研究).採集された 5 個のノネコの糞にトゲネズミの 体組織は含まれなかった(0.0%;Fig. 2).なお,1 個の 糞にケナガネズミDiplothrix legata の毛と骨が含まれて いた. 36)2017 年 3 月,国頭村北部(西銘岳付近)において, 久高奈津子と安田雅俊により,舗装された林道上に散ら ばっていたトゲネズミの刺毛が拾得された(Yambaru Green 所蔵;Fig. 1 の㊱). 2.生息地面積の推移 トゲネズミの時空間的な分布変化(Fig. 1)から推定 した本種の生息地面積の推移をFig. 3 に示した.先史時 代(I 期)には沖縄島の北部から南部ならびに伊江島に おいて広くトゲネズミが分布したこと(Fig. 1)を考慮し, 本種は当時,沖縄島と伊江島の全域(1,230 km2)に分 布していたと仮定した.そして,まだ人為活動が少なかっ た当時の森林率を 100%と仮定して,生息地面積の最大 値を算出した.次に,本種が発見された 1939 年(II 期 の初年)の生息地面積については,生息記録等のある 4 村の面積(393 km2)に当時の森林率(81.7%)を乗じ ることで 321 km2と推定した.さらに,現在(IV 期) の生息地面積については,過去の研究(河内ほか 2010; Yamada et al. 2010;木戸ほか 2013;城ヶ原 2016)で国 頭村北部の数平方キロメートルとされているので,ここ では 5 km2と仮定した.これらの値から計算すると,ト ゲネズミの生息地面積は,有史以前から現在までに 99.6%,種の発見時点から現在までに 98.4%縮小したと 見積もられた(Fig. 3). 考     察 本研究により,オキナワトゲネズミの時空間的な分布 変化があきらかとなり(Fig. 1),生息地面積の縮小傾向 がはじめて定量的に示された(Fig. 3).各時代の生息地 面積の推定値(Fig. 3)はある程度の誤差を含み,さら なる過去の生息記録等の発見によって将来的に修正され る可能性はあるものの,Fig. 2 の傾向と合わせて考える と,直近の約 30 年間に本種の分布が急速に縮小し,そ れにともなって個体数が大幅に減少したことが強く示唆 される. 本研究の結果に基づいてトゲネズミの分布の変遷を概 観すると次のようになる.(1)I 期:トゲネズミは有史 以前の沖縄島のほぼ全域とその属島に分布した,(2)II 期:名護市北部以北に広く分布した,(3)III 期:分布 は 1990 年代後半までに大きく縮小し,国頭村北部の一 Fig. 3. Temporal changes of estimated habitat area of the Okinawa spiny rat from the prehistoric period (late Pleistocene to Holocene) to the present. The specimens collected by Masauji Hachisuka in 1939 (Kuroda 1943) indicate the known southern limit of the species distribution on Okinawa Island in the historic period.

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部に限られるようになった,(4)IV 期:国頭村北部に おける再発見後も,II ~ III 期に生息記録等が多かった 国頭村南部において分布の回復がみられない.よって, 本種の現在の分布の中心は国頭村北部と推察される. 城ヶ原(2016)は,環境省・沖縄県のマングース防除事 業において錯誤捕獲されたトゲネズミのデータに基づき 同様な結論に達している. 本種の分布縮小をもたらした要因は時期によって異 なっていたと推察される.I 期と II 期の分布の縮小には 森林の減少が影響した可能性があるが,本研究で示した ように,これらの時期の生息記録等は化石や標本採集が 大きな割合を占め,トゲネズミの個体群の状態を定量的 に示すデータが乏しいため,森林減少の影響の程度を詳 しく評価することは困難である. III 期の分布の縮小には,沖縄返還(1972 年)後の沖 縄島北部の森林開発が直接的,間接的に影響した可能性 がある.森林から農地への土地利用の転換,林道や農道 の開設がもたらした外来の食肉類(ノネコ,ノイヌ)の 侵入と定着は,1970 年代後半からトゲネズミの大量捕 食 を 引 き 起 こ し た( 宮 城 1976; 沖 縄 県 教 育 委 員 会 1981;大島ほか 1997).1970 年代後半には大国林道や与 那覇岳付近においてトゲネズミの体組織を含むノネコ, ノイヌの糞が高頻度でみつかっていたが,その割合は 1990 年代後半までに大きく低下した(Fig. 2).沖縄島 北部の脊梁部を縦断する大国林道は 1978 年度に着工し, 1993 年度に全線開通している.1910 年に沖縄島に導入 されたフイリマングースが北上し,その分布域が面的に 大宜味村や東村にかかりはじめたのは 1993 年とされる (小倉・山田 2011)が,その頃すでに国頭村の内陸部に おいてもフイリマングースの目撃情報がある(阿部 1991).すなわち,1990 年代半ばまでに,トゲネズミの 分布域に生息しトゲネズミを捕食する可能性のある外来 の食肉類はノネコとノイヌにフイリマングースを加えた 3 種となっていた.このようなことから考えて,沖縄島 北部の森林開発によって外来の食肉類の侵入定着が促進 され,捕食圧が増大した結果として,III 期にトゲネズ ミの分布が大きく縮小した可能性がある.今後,トゲネ ズミ個体群に対する森林開発や外来の食肉類の捕食の影 響についてさらに詳しく解明するとともに,外来の食肉 類の完全排除に向けた取り組みとトゲネズミの個体群の 状態のモニタリングが必要である. 謝     辞 本研究の実施にあたり,以下の方々から有益な情報を 賜った.ここに記して感謝する.川田伸一郎・森 健人 (国立科学博物館動物研究部),飯田 弘(九州大学九州 大学大学院農学研究院),内田照章(元九州大学農学部 教授),山﨑仁也(沖縄県立博物館・美術館),千木良芳 範(元沖縄県立博物館・美術館副館長),佐々木健志[琉 球大学資料館(風樹館)],横田昌嗣(琉球大学理学部), 高嶋敦史(琉球大学農学部附属亜熱帯フィールド科学教 育 研 究 セ ン タ ー), 久 高 奈 津 子・ 久 高 將 和(Yambaru Green),村山 望(野鳥の会やんばる支部).本研究の 一部は環境研究総合推進費 4-1503 によって実施した. 引 用 文 献 阿部愼太郎.1994.沖縄島の移入マングースの現状―沖縄島・ 奄美大島の在来種保護のためのマングース防除策を考え る―.チリモス 5: 34–43. 知念幸子.2013.琉球大学資料館収蔵資料目録 第 8 号.沖縄 産化石標本目録 野原朝秀コレクション.琉球大学資料館 (風樹館),西原,67 pp.

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ABSTRACT

Special Report Endangered Mammals in the Central Ryukyus: Ecology, Behavior and Conservation

Historical distribution trends of the critically endangered Okinawa spiny rat Tokudaia muenninki

on the Ryukyu Islands

Masatoshi Yasuda1,*, Shin-ichi Seki2, Yuya Watari3, Kazuhiko Saito2, Fumio Yamada3 and Nobuhiko Kotaka1

1 Kyushu Research Center, Forestry and Forest Products Research Institute, 4-11-16, Kurokami, Chuo-ku, Kumamoto, Kumamoto 860-0862, Japan 2 Kansai Research Center, Forestry and Forest Products Research Institute, 68 Nagaikyutaroh, Momoyama, Fushimi-ku, Kyoto, Kyoto 612-0855,

Japan

3 Laboratory of Wildlife Ecology, Forestry and Forest Products Research Institute, 1 Matsunosato, Tsukuba, Ibaraki 305-8687, Japan

*E-mail: [email protected]

We studied historical distribution trends of the critically endangered Okinawa spiny rat (Tokudaia muenninki; Rodentia, Muridae), which has recently become restricted to the northern part of Okinawa Island. Various kinds of literatures, specimens, fossil records, and observation records were compiled and evaluated. We suggest that 1) Okinawa spiny rat was distributed throughout Okinawa Island and Ie Island in the prehistoric period, and 2) it was restricted to the northern part of Okinawa Island (from northern Nago City to Kunigami Village) when discovered in 1939. Proportions of alien carnivore’s feces containing Okinawa spiny rat (spinous hairs, bones, etc.) were high (75–80%) in the late 1970s, decreased greatly by late 1990s, and became 0% in the January 2016 survey. This study also suggests that the estimated habitat area of the species decreased 99.6% from the prehistoric period and 98.4% from the year of species discovery in 1939.

Key words: Tokudaia muenninki, critically endangered species, distribution changes, predation, invasive alien carnivores 受付日:2017 年 8 月 31 日,受理日:2017 年 10 月 13 日 著 者: 安田雅俊 *・小高信彦,〒 860-0862 熊本県熊本市中央区黒髪 4-11-16 国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究 所九州支所 *[email protected] 関 伸一・齋藤和彦,〒 612-0855 京都府京都市伏見区桃山町永井久太郎 68 国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合 研究所関西支所 亘 悠哉・山田文雄,〒 305-8687 茨城県つくば市松の里 1 国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所

Fig. 1.  Geographic records of past and the present occurrences of the Okinawa spiny rat in the literature, specimens and observations from the  prehistoric period to the present
Fig. 2.  Temporal changes in the proportion of alien carnivore’s feces  containing Okinawa spiny rat

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