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(1)

外国雑誌における実証的な管理会計研究の検討 : Van der Stede et al. (2005)の研究を中心として

著者 中川 優

雑誌名 同志社商学

巻 59

号 3‑4

ページ 105‑114

発行年 2007‑12‑20

権利 同志社大学商学会

ドウシシャ ダイガク ショウガッカイ

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000007383

(2)

《研究ノート》

外国雑誌における実証的な管理会計研究の検討

──Van der Stede et al.(2005)の研究を中心とし

1

て──

中 川 優

Ⅰ はじめに

Ⅱ Van der Stede et al.(2005)の研究

Ⅲ 結びにかえて

はじめに

管理会計研究における実証的な研究は,郵送質問票に代表される大量サンプルによる 調査,ケース研究,また日本では比較的少数である実験室実験等がある。本稿では,管 理会計における実証的な研究において,数多くの研究が蓄積されてきた大量サンプル調 査(英語では

survey research

と呼ばれている)について,欧米の過去の研究を検討した

Van der Stede et al.

(2005)の研究を中心に検討しながら,管理会計研究における大量サ

ンプルを利用した調査研究に関する課題について検討する。

Van der Stede et al. (2005)の研究

Van der Stede et al.(2005)は,過去 20

年間(1982年から

2001

年)に管理会計に関 する研究が比較的多く掲載される主要な英文ジャーナル

8

誌(AOS : Accounting, Organi-

zations and Society, BRIA : Behavioral Research in Accounting, CAR : Contemporary Ac- counting Research, JAE : Journal of Accounting and Economics, JAR : Journal of Accounting Research, JMAR : Journal of Management Accounting Research, MAR : Management Ac- counting Research, TAR : The Accounting Review)に掲載された大量サンプル調査研究に

ついて,検討を行ってい

2

る。

────────────

1 本稿は,日本会計研究学会特別委員会(「企業組織と管理会計の研究」委員長:廣本敏郎〔一橋大学教 授〕)最終報告書第14章に,加筆・修正を行ったものである。

2 彼らは,管理会計研究をFoster=Young(1997)の定義に従い,厳密な手法を用いて現存の管理会計シ ステムの変化が,漓経営管理者の行動,動機付け,組織上の役割にいかに影響を与えるのか,滷組織内 外の力が管理会計システムの設計または変更にいかに影響を与えるのか,を説明または予測するものと している。また,実証的研究とは,Brinberg=Shields=Young(1990)の定義に従い,アーカイバル・デ ータ,アンケート,フィールド・スタディや実験室実験などのデータに基づいた研究であり,数学的!

255)105

(3)

この研究の意図は,近年,回収率の低下等の理由により困難となってきている郵送質 問票調査を中心とする大量サンプル調査(Survey Research)の質の向上に資することを 意図している。

その検討のフレームワークのベースとして,漓調査の目的,滷調査対象の定義および サンプルの選択,澆調査における問題意識および調査方法,潺データ入力の正確性,潸 調査に関する開示と報告という

5

つの視点を挙げてい

3

る。

これらの視点を踏まえた上で,具体的には過去

20

年間に上記

8

誌に掲載された大量 サンプル調査を用いて執筆された論文について,漓調査対象,滷回収率,澆事前調査の 有無,潺督促の有無,潸無回答バイアスに関する分析という

5

つの項目について調査・

分類を行っている。

調査対象となった論文の内訳は,第

1

表のとおりである。

1

表からも明らかなように,彼らが調査対象としている

1982

年から

2001

年の

20

年 間 を 前 半

10

年(1982年〜1991年)と 後 半

10

年(1992年〜2001年)に 分 け て,集 計を行っているが,AOS,JMAR,BRIAの

3

誌を除いて,大量サンプル調査による実 証研究の比率は,後半の

10

年において低下している。これは,後にも指摘されている ように,質問票の回収率の低下が原因ではないかと思われる。

さて,Van der Stede et al.(2005)においては,上記の

5

つの視点を踏まえた上で提示

────────────

! な分析やコンピュータシュミレーションは含まない。また,大量サンプル調査の中でも説明の容易さか ら,郵送質問票調査に焦点を当てており,ケース研究との組み合わせや,訪問によるアンケート調査や 対面式のアンケート調査等による研究は除かれている(Van der Stede et al.(2005),pp. 655−657.)

Ibid , p. 657.

第1表 主要英文雑誌における大量サンプル調査による管理会計研究の実態

雑誌名 実証的な管理会計研究の 論文数(本数)

大量サンプル調査による 管理会計研究の論文数(本数)

実証的研究における大量 サンプル調査による 管理会計研究の比率(%)

年代 1982−2001 1982−1991 1992−2001 1982−2001 1982−1991 1992−2001 1982−2001 1982−1991 1992−2001 AOS

BRIA CAR JAE JAR JMAR

MAR TAR

138 22 13 33 28 55 100 50

64 0 6 8 18 12 9 21

74 22 7 25 10 43 91 29

60 8 3 2 5 21 25 6

24 0 3 1 5 4 3 4

36 8 0 1 0 17 22 2

43.5 36.4 23.1 6.1 17.9 37.5 25.0 12.0

37.5

− 50 12.5 27.8 33.3 33.3 19.0

46.7 36.4 0 4.0 0 39.5 24.2 6.9 合計 439 138 301 130 44 86 29.6 31.9 28.6 注:AOS : Accounting, Organization and Society, BRIA : Behavioral Research in Accounting, CAR : Contem-

porary Accounting Research, JAE : Journal of Accounting and Economics, JAR : Journal of Accounting Re- search, JMAR : Journal of Management Accounting Research, MAR : Management Accounting Research, TAR : The Accounting Review.

出所:Van der Stede et al.(2005), p. 658.

同志社商学 第59巻 第3・4号(2007年12月)

106(256

(4)

された問題点は,以下の通りである。

漓調査の目的と設計

全体の調査

130

本のうち

116

本(89%)が仮説検証型の研究である。記述統計のみの ものは,ごく少数である。上記の英文ジャーナルは,当然のことながらレフェリー制を 採用しており,一定の要件を満たさなければ,掲載の受理は行われない。したがって,

単純な記述統計のレベルでは,それらの数値にかなり独特な意味や研究上の貢献がなけ れば,掲載に至らないことが推察される。したがって,仮説検証型や仮設発見型の研究 ではないと受理されていないために,このような結果になったと思われる。

また,研究の目的や研究上の問題提起(research question)も重要であり,当然のこ とながら研究そのものの設計に大きな影響を与えることになる。研究の目的や問題提起 が明確にされていることにより,不適切なサンプルや回答者の選択を回避することがで きる。

さらに,回答者に誤解を与えるような質問や重要性のない質問を行うことも防ぐこと にな

4

る。また,大量サンプル調査は,時間の経過による変化や変化のプロセスを見る意 味からも,ある程度の時間が経過してから,同様の調査を行うという経時的な分析は有 効ではあるが,時間,コスト,回収率の低下などにより上記の対象論文の中ではあまり 行われていない。

組織階層や部門ごとの分析を行う際には,同一階層または部門から複数に対して調査 を行うかどうかを検討すべきであると指摘している。すなわち,各組織(企業)に一人 の回答者では,回答者がその組織(企業)として最も適切かどうかは,外部にいる研究 者からは必ずしも分からないということである。

特に郵送質問票調査においては,研究者側が調査対象としている企業に関する情報を 十分に持っていない場合が多い。上場企業の全企業を対象とするような調査では,公刊 されている会社職員録等により,経理部長,管理部長,工場長など,調査の内容によ り,最も適切と判断された職位の人物を対象として送付されることになる。しかし,研 究者側が判断した職位が回答者として最も適切なのかは,研究者の側で知りうることは できない。そこで,これらの問題を回避するために,質問票の冒頭や添付した書類に,

アンケート調査の目的,概要を記した上で,回答不能な場合には,回答者として適切な 人に転送して回答してもらえるような注意書きを加えるなどの工夫も見られる。

しかし,アンケートを受け取った人がこのような丁寧な対応をしてくれるのかは不明 である。また,アンケートを受け取った人が,どれぐらいの期間その職位にあるかによ っても,回答者として適切なのかということと関連がある。筆者の経験からも,「過去

────────────

Ibid , p. 657.

外国雑誌における実証的な管理会計研究の検討(中川) (257)107

(5)

の資料を調べないと回答できない質問がある。」とか,フォローアップを行おうとした 際に,回答者がすでに異動になっていたケースもあった。このように,適切な回答者を 選択するということは,通常は研究者側でコントロールすることが,難しい場合が多い。

Van der Stede et al.(2005)の調査では,50

本(38%)は,同一の組織から複数の回 答を求めて,その平均値をその組織の回答としている。しかし,複数の回答者が協議し て回答するようになっているものは,ほとんどなく,彼らの調査対象ではわずか

2

本の みであっ

5

た。

滷調査対象の定義とサンプリング

Van der Stede et al.

(2005)では,調査対象には,すべての重要な回答者を含み,不適

切,回答する知識がない,無関心な者は排除すべきであるとしている。また,全数調査 を行わない場合には,母集団と類似した特徴を持つ部分集合を代表としてサンプリング する必要があるとしてい

6

る。大量サンプル調査においては,上場企業のすべてを対象と する場合があるが,これは,上場企業が日本の大企業をほぼカバーしているので,上場 企業を対象に調査を行うことが,日本の大企業全体に調査を行うことと近似していると いう前提に立っていることになる。

澆調査対象数

調査対象数とは,研究者が利用可能なすべての回答者の集合である。Van der Stede et

al.(2005)の研究では,検討対象とした論文における調査対象数の平均値は 373

であ

る。(ただし,分布を歪めるような極端に大きい値と小さい値は除いている。)これは,

比較的少ないと言えよう。日本の場合には,東証

1

部上場企業は現在

1700

社を超えて おり,製造業に限定したとしても

1000

社以上あると推察される。日本における郵送質 問票調査は,東証

1

部上場の製造業全社を対象とした調査は,それほど稀ではない。し たがって,これらの実態はやや意外な印象を受ける。

潺サンプルの選択

全数調査が不可能な場合には,全体の中から一部を抜き取ってサンプルとして,調査 を行う場合がある。この時には,サンプルの選択は,調査による発見事項の一般化に直 接的な影響を与えることになる。サンプル選択,すなわちサンプリングにおいては,大 きく分けると確率等を利用するランダム・サンプリングとそれらを用いない任意のサン プリングがある。通常は簡便性から任意のサンプリングが行われることが多い。ただ

────────────

Ibid , p. 666.

Ibid , p. 666.

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108(258

(6)

し,確率等を用いたランダム・サンプリングが実用的でない場合でも,選択に関してバ イアスがかからないような配慮が必要となる。

多くの管理会計研究の場合には,調査対象の全数に関するデータを持ちえない。した がって,郵送による質問票の送付という形態が採られる場合が多い。しかし,送付先が 調査対象全体を代表するものかどうかは,十分に検証できない。このため,仮説の一般 化に影響を与える可能性がある。

これらを回避する方法として,会社職員録等の利用がある。実際の問題としては,管 理会計研究においては厳密なサンプリングは,行われていない。注意しなければならな いのは,アクセスしやすいという理由でサンプリングが行われている可能性があること であ

7

る。

潸サンプルの大きさ

サンプリングに関する専門書では,サンプルの分布と期待回収率を見積もる必要があ るとされているが,管理会計研究におけるアンケート調査は,ほとんどが仮説検定を行 うもの(調査対象では

89%)であり,世論調査のような結論の一般化が目的ではない

ので,サンプルの分布と期待回収率の見積もりは,必ずしも用いる必要はないと思われ る。また,通常は,複数の変数間の関係を検証しようとする場合が多いので,一般的な 方法論上の正確性は,厳密には要求されていないと考えるべきである。また,サンプル の大きさは,データの質に比べれば,それほど大きな問題ではないとも言える。しかし ながら,多くの大量サンプル調査は,統計的な処理を行うので,統計処理に足りうるサ ンプルが必要となる。統計処理に耐えうるサンプル数としては,200〜300程度あれば よいとされてきた。この調査対象論文におけるサンプル数の平均値は

239

である。しか し,論文によってかなり大きなばらつきがあ

8

る。

澁その他の方法論上の問題

その他の方法論上の問題として

1

つは,非サンプリングエラーである。非サンプリン グエラーとは,漓サンプリングの不正確さにより,サンプルが全体と反映したものとな っておらず,対象としている回答者が回答してないというエラーと,滷回答者が行った 回答自体に含まれるエラーであ

9

る。前者は,サンプリングそのものの問題であるが,後 者については,質問票の内容が回答者に正確に理解されていない可能性もある。また,

質問票における質問の順序も重要である。ある特定の回答を誘導したり,誤解を与える

────────────

Ibid , p. 667.

Ibid , p. 669.

Ibid , p. 670.

外国雑誌における実証的な管理会計研究の検討(中川) (259)109

(7)

ようなものであってはならない。質問票の内容が理解されているかどうかは,面接方式 によって回答を回答者から直接聞く以外は,わからない。このため,質問の内容が理解 されているかどうかは,後述するパイロットテストにより行う必要がある。また,調査 全体の信頼性,正確性を向上するために,回収率を上昇させることも必要であるが,こ れも後述する事後の督促により行うことが可能であ

10

る。

澀事前調査(パイロットテスト)

郵送質問票調査においては,回答者が直接,研究者に対して質問することができない ため,パイロットテストは特に重要である。質問の内容が回答者によって正確に理解さ れているかどうかを確かめるプロセスとして重要である。特に専門用語内容の理解の程 度などにより回答率に影響を与える可能性がある。上記の調査対象の論文のうち,パイ ロットテストを実施しているのは,30本(23%)のみである。これは,意外に少ない と言えるだろ

11

う。

潯回収率

上記の調査対象論文の回収率の平均値は

55%(回収率不明の 8

本は除外)である。

組織行動関連の雑誌に掲載された論文の回収率の平均も

56% であった。これは,比較

的高いと言えるが,前述したように調査対 象 の 後 半

10

年 間(1992年〜2001年)で は,明らかに低下傾向がみられる。回収率の低下の原因としては,多くの場合,企業で 働く実務家のため,仕事が多忙であるなどの回答者の時間的制約が大きいと思われる。

さらに,郵送質問票方式による調査研究の増加に伴って,企業等に送付されてくる質問 票は,かなり多くなっていると考えられる。筆者も,訪問調査を行った際に,企業の担 当者から「たくさんの質問票が送られてくるので,こちらの調査には回答するが,別の 調査には回答しないということでは困るので,全て回答しないようにしている。」との 話を聞かされたことがあった。この回収率の低下傾向は管理会計だけではなく,他の社 会科学の分野でも同様であ

12

る。

潛督促(フォローアップ)とその他の回収率アップの方法

督促(フォローアップ)は,回収率を引き上げるための有効な方法である。調査対象 となった論文の中には

2

回にわたる督促を行っている論文もある。このように督促は,

効果的であるが,新たな問題を引き起こす可能性である。それは,督促を行うと回答時

────────────

10 Ibid , p. 670.

11 Ibid , pp. 670−671.

12 Ibid , p. 671.

同志社商学 第59巻 第3・4号(2007年12月)

110(260

(8)

期によるバイアスがかかる可能性がある。すなわち,回答締め切り後に督促を行ってか ら返送されてきた質問票の回答と,回収期限内に返送された質問票の回答との間に何ら かのバイアスが存在する可能性である。具体的には回収期限を経過してから督促をされ て以後には,回答者がいい加減に回答したり,正確性を欠く回答が行われる可能性があ るということである。

また,少数の企業の従業員や管理職を対象とした調査の場合には,経営トップなどの 権威ある人からの調査への「お墨付き」も回収率増加の手段である。しかし,「お墨付 き」が新たなバイアスをもたらす可能性もある。すなわち,経営トップの意向に沿わな い回答が困難になり,トップの意向を推察した回答が行われる可能性である。

回収率を増加させるための手段はさまざまであるが,複数の手段の組み合わせ(郵送 質問票を送付した後に,メール,電話などで督促を行うなど)も有効な方法である。

しかし,回収率の増加は,あくまでも調査の信頼性を向上させるための

1

つの要素で しかなく,回収率の向上だけが信頼性確保の十分条件ではな

13

い。

濳無回答バイアス

無回答によるバイアスは,大量サンプル調査においては常に問題となる。ほとんどの アンケート調査は,時間的,また資金的な制約により,面接方式ではなく,一方的に質 問票を送付して,返送されてくるのを待つというスタイルだからである。無回答バイア スは,調査の方法と同様に回答者の属性により変わってくる。

会社等の組織を対象とした調査では,無回答は以下の

3

点で議論される。権限,知 識,動機付けである。回答の権限があっても知識がない場合もあり,その逆もある。ま た,調査がどのような事項について質問しているかによって,回答者が回答したいとい う意欲も変わる。このように無回答によるバイアスを除去するのは,きわめて困難であ る。

したがって,一般に行われているバイアスの有無の確認は,前述したような回答時期 によるバイアスが存在するのかどうかの確認である。具体的には,回収期限内と回収期 限後の回答の間に,統計的な有意な差が存在するかどうかを確認することであ

14

る。

潭独立変数の測定

多くの管理会計研究の場合には,独立変数の主観的な評価(自己評価)が多くなって いる。例えば,5ポイントや

7

ポイントのリッカートスケールで,「まったく違ってい る〜まったくそのとおりである」や「まったく重要ではない〜非常に重要である」など

────────────

13 Ibid , p. 672.

14 Ibid , pp. 673−675.

外国雑誌における実証的な管理会計研究の検討(中川) (261)111

(9)

のどれに相当するかを回答者の主観的評価により,選択する形式である。しかしなが ら,このような主観的評価と客観的評価は一致しないことが多く,両者は,必ずしも互 換的ではない。

もちろん,主観的な評価だから信頼性が低いとは言えない場合もある。むしろ主観の ほうがより実態を表している場合もある。特に管理会計に関しては多くの場合,第三者 が客観的なデータを入手することは困難である。このため,回答者の主観的な評価・判 断に依存せざるをえない。したがって,より信頼性を高めるためには,複数の回答を求 めることも必要であ

15

る。

澂公開と報告

論文においては,調査方法,内容についてはできるだけ詳細に開示することが求めら れている。ただし,雑誌論文では枚数制限などの紙幅の関係により開示できる情報に制 約がある場合が多い。このため,重要な情報である質問票の内容についても削除されて いる場合もある。また,質問票調査の場合には,特に個別の回答については機密性が要 求されるが,それらに抵触しない範囲でのデータに関する開示は行われる必要があ

16

る。

潼時系列的な変化

さて,Van der Stede et al.(2005)においては,上述した観点のうち,1)平均回収 率,2)平均サンプルサイズ,3)督促を実施した論文数および比率,4)無回答バイア スに関する分析を行った論文数および比率の

4

つの観点から,上記の分析対象の論文を 時系列(前半

10

年と後半

10

年)に分けて整理を行っている。その結果は,第

2

表のと おりである。

2

表の結果からは,回収率に関しては,調査対象のいずれの雑誌においても前半よ りも後半の方が,回収率が低下しており,明らかな回収率の低下傾向がみられる。ま た,平均サンプルサイズについては,TAR誌を除いて,増加している。

また,方法論上の問題では,まず事前調査(パイロット・テスト)の実施に関して は,合計数による分析では,前半の

18.2% から後半の 25.6% に向上しているが,雑誌

ごとに見てみると低下していたり,全く実施していないものもある。もちろん,実施し ているか否かは,各論文の記述に依存しているので,論文において言及されていない場 合には,「実施せず」と判断されていると思われる。事前調査の実施を記述するかどう かは,著者の判断であるが,Van der Stedeらの主張は,先ほども述べたように,研究 の方法論等については可能な限り開示すべきであるというものであるので,研究上の手

────────────

15 Ibid , pp. 675−676.

16 Ibid , p. 676.

同志社商学 第59巻 第3・4号(2007年12月)

112(262

(10)

続きはすべて明らかにしているという前提に立っているのかもしれない。

また,第

2

表で示されている督促(フォローアップ)の実施と,無回答バイアスに関 する分析の実施状況についても,同様の傾向が見られる。すなわち,全体の合計数で は,後半の方が実施率は高くなっているが,個別のジャーナルごとに見てみると,必ず しもそのようになっていない。

ただし,AOS(Accounting, Organizations and Society)については,方法論上の

3

つの 観点(事前調査の実施,督促の実施,無回答バイアス分析の実施)のいずれについて も,後半

10

年の方が,実施率が高くなっている。

結びにかえて

ジャーナルによって掲載される論文の性質に特徴があるので,管理会計研究に占める 実証研究の比率は,必ずしもジャーナルの掲載論文の比率から判断できるものではな い。もちろん,Van der Stede et al.(2005)の論文の意図はそのようなものではなく,彼 らは最初に述べているように,大量サンプル調査による実証研究の質の向上を意図して

第2表 時系列的な分析

雑誌名 平均回収率(%) 平均サンプルサイズ

年代 1982−2001 1982−1991 1992−2001 1982−2001 1982−1991 1992−2001 AOS

BRIA CAR JAE JAR JMAR

MAR TAR

66 66 56 71 66 38 35 62

76 56 97 66 47 41 64

61 66 45 33 34 59

174 181 102 55 170 266 238 344

144 102 37 170 145 153 521

316 181 78 297 250 80 合計(平均) 55 67 48 239 184 261

雑誌名 督促を行った論文数と比率 バイアス分析を行った比率 年代 1982−2001 1982−1991 1992−2001 1982−2001 1982−1991 1992−2001 AOS

BRIA CAR JAE JAR JMAR

MAR TAR

15(25%)

0 0 0 0

6(28.6%)

10(40%)

1(16.7%)

5(20.8%)

0 0 0 2(50%)

1(33.3%)

0

10(27.8%)

0 0

4(23.5%)

9(40.9%)

1(50%)

34(23.3%)

1(12.5%)

1(33.3%)

1(50%)

1(20%)

6(28.6%)

12(48%)

0

0

1(33.3%)

0 1(20%)

2(50%)

1(33.3%)

0

14(38.9%)

1(12.5%)

1(50%)

4(23.5%)

11(50%)

0

合計(平均) 32(24.6%) 8(18.2%) 24(27.9%) 36(27.7%) 5(11.4%) 33(36.1%)

出所:Van der Stede et al.(2005), p. 677.

外国雑誌における実証的な管理会計研究の検討(中川) (263)113

(11)

いる。

それでもなお,8種類もの英文ジャーナルを対象とした分析を行っているのは,雑誌 ごとの編集方針の違いにより,掲載される論文の方法論上の違いが比較的明確であると 思われる。例えば,JAR : Journal of Accounting Researchでは,第

1,2

表からも明らか なように実証的な管理会計研究の論文のうち,本稿が課題としている大量サンプル調査 による研究の掲載数は,1992年以降はゼロである。これは明らかに編集方針により,

大量サンプル調査による研究論文を受理しないということが明確であると思われ

17

る。し たがって,雑誌により掲載されやすい論文の研究スタイルがあるのは,ある程度,研究 者の間での共通の理解となっている可能性が高い。したがって,雑誌による特徴を緩和 するために

8

種類のジャーナルを選択したと思われる。

これまでの検討により,より質の高い大量サンプル調査を行おうとすれば,すべてが 研究者の側でコントロールできる要因だけでもないことは明らかである。ここにこの種 の調査の困難性が存在する。

ジョンソン=キャプランのレレバンス・ロスト以降,実務に注目した管理会計研究が 増加した。その結果として大量サンプル調査も増加したが,その後は,単に大量サンプ ル調査を行っただけではなく,方法論的に精緻化しないと次第に雑誌に掲載されないよ うになってきたものと思われる。

また,方法論に関して,過去の研究を踏襲したものが増えているとも指摘されてい る。このことは大量サンプル調査研究がひとつの大きな壁に直面している証左とも言え ないだろうか。いずれにしても彼らが述べているように,方法論を可能な限り精緻化す ることによって,より質の高い大量サンプル調査が実施できることは明らかであろう。

参考文献

Johnson, T. and R. S. Kapian(1987), Relevance Lost ; The Rise and Fall of Management Accounting, Harvard Business School Press(鳥居宏史訳(1992)『レレバンス・ロスト:管理会計の盛衰』,白桃書房)。 谷 武幸編(2004)『成功する管理会計システム』,中央経済社。

上埜 進編(2007)『日本の多国籍企業の管理会計実務:郵便質問票からの知見』,税務経理協会。

Van der Stede, W. A., S. Mark Young and C. X. Chen(2005), Assessing the quality in empirical management accounting research : The case of survey studies, Accounting, Organizations and Society, Vo. 30, 655−

684.

(本稿は,平成19年度科学研究費補助金(基盤(A)課題番号18203027「管理会計システムと企業組織 の共進化に関する理論的・実証的研究」研究代表者:廣本敏郎)および,基盤(C)課題番号18530365

「工場における非財務情報の利用に関する比較研究」による成果の一部である。)

────────────

17 これは,かつて筆者が参加したアメリカ会計学会管理会計部会の年次大会で,管理会計関連のジャーナ ルの編集者による円卓討論が行われたが,JARの編集者は,分析的な論文でないと掲載しないという 趣旨の発言を行っていた。

同志社商学 第59巻 第3・4号(2007年12月)

114(264

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