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一般社団・財団法人の公益認定基準の意味

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<論 説>

一般社団・財団法人の公益認定基準の意味

―公益性判断基準と収支相償基準を中心として―

岡 村 勝 義

Ⅰ.はじめに−問題の所在−

2006(平成18)年に成立した公益法人制度改革関連三法は,2008(平成20)年12月1日より 施行されすでに5年を超え,当該関連三法に基づく新公益法人制度は定着しつつある。ここに公 益法人制度改革関連三法とは,「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」(以下「一般法人 法」という。また一般社団法人および一般財団法人を総称して「一般法人」という),「公益社団 法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下「公益認定法」という)および「一般社団 法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の 施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(以下「整備法」という)を指している。

整備法によれば,旧公益法人が一般法人または新公益法人に移行できる期間が5年間と定めら れ,当該期間中の旧公益法人は「特例民法法人」と称された(整備法40,42,44,45条)。当該 移行期間に特例民法法人が一般法人または新公益法人に移行しない場合には,特例民法法人は原 則として移行期間満了日に解散したものとみなされる(整備法46条)。2013(平成25)年11月 30日が5年間の移行期間満了日であったが,関連三法施行時の旧公益法人24,317法人のうち約 4割に相当する9,054法人が新公益法人となった。この割合は,旧公益法人のうち公益事業を総 支出の50% 以上で実施していた法人数にほぼ匹敵している。また,新公益法人は同時に寄附優 遇税制を受ける「特定公益増進法人」(以下「特増法人」と略称する)となるので,その数は制 度改革前(862法人)に較べ10倍以上増加し,寄附金収入のある新公益法人の1法人当たりの 寄附金収入平均額(2012(平成24)年度実績)は関連三法施行時と較べ2.4倍(約3,900万円)

となっている(内閣府[2014]4―5,8頁)。

ここでは旧公益法人制度における公益法人と区別するために,新公益法人制度における公益法 人を「新公益法人」と呼んできた。新公益法人制度では,特例民法法人の移行期間が終了したの で,今後は,公益認定法に基づいて,公益認定基準に適合し公益認定を受けた一般社団法人およ び一般財団法人が公益社団法人および公益財団法人となる。またこれらの公益社団法人および公 益財団法人が「公益法人」と総称されることになった(公益認定法2条3号)。このため以下で は,新公益法人制度において公益認定を得た法人を単に「公益法人」(または必要に応じて「公

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益認定法人」)と呼び,それに対して,旧公益法人制度における公益法人を必要に応じて「旧公 益法人」と呼ぶこととする。

一般法人の公益認定のためには,次のような手続がとられる。一般法人のうち,主に公益目的 事業を行う法人は行政庁(内閣総理大臣または都道府県知事)に公益認定を申請し,申請を受け た行政庁は第三者機関(内閣府の公益認定等委員会または都道府県に設置された合議制の機関)

に公益認定基準に適合するかどうかについて諮問し,当該機関の答申に基づいて,行政庁が当該 一般法人を公益法人として認定する(公益認定法5,43,51条)(1)

ここに公益認定基準は,言うまでもなく,一般法人が公益法人として認定することができるか 否かを判断するための基準である。したがって,申請した一般法人が公益認定基準に適合してい ると第三者機関によって判断されるならば,行政庁によって当該一般法人は公益法人として認定 されることになる。しかし注意すべきは,公益認定基準は公益法人として認定できるか否かを判 断する基準であって,その基準のすべてが法人の公益性そのものを直接判断する基準では必ずし もないということである。したがってまず,この点を明らかにするための準備として,公益認定 法の定める公益認定基準の内容と構成を整理することにする。

このような公益認定基準の整理に基づいて,ここでは公益認定基準のうち1号基準と6号基準 の2つを当面取り上げて,その内容を検討することとする。というのは,その検討は,公益性を 判断するための基準とそれに直接係わらない基準というように,質の異なるものが公益認定基準 に混在していることを明らかにすることを目的にしているからである。このため,その検討のた めに公益法人制度と税制上の優遇措置の関係を考える。また公益認定法において定められている 公益認定基準は旧公益法人制度で作り上げられてきた設立・指導監督基準等の考え方を承継して いるので,1号基準および6号基準の検討においてはそのような考え方の承継と展開に留意しつ つ,それらの基準の内容を検討することとする。これらの検討を経て,1号基準は公益性を判断 するための基準であるものの,それに対して,6号基準は税優遇適合基準としての性格を強く持 つ基準であることが明らかにされる。

Ⅱ.公益認定基準の内容と分類

公益認定基準は,公益認定法第5条各号に定められた全18項目の総称である。公益認定を受 けるためには,これら18項目から成る基準のすべてを充足しなければならない。公益認定基準 を構成する基準各号を整理して簡略に示すならば,【図表1】のようになる(新公益法人制度研 究会[2006]199―200頁。以下において各号の公益認定基準を示すときは,例えば1号基準,2 号基準のように表記することとする)。これらの公益 認 定 基 準 の う ち,6号 基 準 は「収 支 相 償」,8号基準は「公益目的事業比率」および9号基準は「遊休財産保有制限」といわれ,これ らの3つの基準は総称して「財務基準」または「財務三基準」と呼ばれる。

【図表2】に示したように,公益認定基準の分類にはいくつかのものがある。〔A〕の分類で

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は,公益認定基準は規定される順番に即して4つに分類されている。〔B〕の分類では,公益認 定基準は規定の順に係わりなく,内容的に関連するものをまとめて4つに分類されているので,

基準間の関連がある程度まで把握できる。これに対して,〔C〕の分類では,公益認定基準の内 容把握は〔B〕の分類とは異なり,多くの基準を適正な運営管理にまとめ,また財務三基準をひ とまとめにして3つに分類している。このように,公益認定基準の分類にみる整理の仕方は論者 によって異なっている。このことは,基準間の関連についての理解に定まったものがあるわけで はないことを示している。後に2つの公益認定基準を取り上げて検討するので,その検討に関係 させて新たにもう1つの分類を示し,公益認定基準の全体の関連付けについてのここでの理解を 示すこととする。

公益認定基準を各基準の内容的関係に着目して分類すれば,大きく2つに分けることができる ようである。その1つは,公益目的事業に係る1号基準を核にして,それを補完ないし補足する 関係を持つ基準の集合である。それをまとめていえば,「公益目的事業の実施の確保」というこ とができる。もう1つは,公益目的事業法人の組織特性に関係する基準の集合であり,これを

【図表 1】 公益認定基準の内容 1号

2号 3・4号 5号 6号 7号 8号 9号 0・11号 2号 3号 4号 5号 6号 7号 8号

公益目的事業を行うことを主たる目的とすること。

公益目的事業に必要な経理的基礎および技術的能力があること。

当該法人の関係者等または営利事業を営む者等に特別の利益を与えないこと。

公益法人の社会的信用を維持する上で相応しくない事業等を行わないこと。

公益目的事業の収入がその実施に要する適正な費用を償う額を超えないと見込まれること(収支相償) 収益事業等が公益目的事業の実施に支障を及ぼすおそれがないこと。

公益目的事業比率が百分の五十以上となると見込まれること(公益目的事業比率) 遊休財産額が一定額を超えないと見込まれること(遊休財産保有制限)

同一親族等および他の同一団体の関係者がそれぞれ理事または監事の三分の一を超えないこと。

収益,費用および損失その他の勘定の額がいずれも一定の規準に達しない場合を除き会計監査人を設置してい ること。

理事,監事および評議員に対する報酬等について支給基準を定めていること。

社員に対し不当に差別的な取扱いをせず,理事会を設置していること。

他の団体の意思決定に関与することができる株式等を保有していないこと。

公益目的事業に不可欠な特定財産について,その処分制限等必要な事項を定款で定めていること。

公益認定取消し等の場合に公益目的取得財産残額に相当する財産を類似の事業を目的とする公益法人等に贈与 する旨の定款の定めがあること。

清算の場合に残余財産を類似の事業を目的とする公益法人等に帰属させる旨の定款の定めがあること。

【図表 2】 公益認定基準の分類(1)

〔A〕 〔B〕 〔C〕

(1)法人の目的お よ び 事 業 の 性 質,内容に関するもの 1・2・3・4・5・6・7 号

(2)法人の財務に関するもの 8・9 号

(3)法人の機関に関するもの 0・11・12・13・14号

(4)法人の財産に関するもの 5・16・17・18号

(a)公益目的事業関連 1・2・4・6・7・8・15号

(5・9 号)

(b)経理・情報開示関連 2・12号

(c)自己統制関連 3・10・11・13・14号

(d)その他(清算時等)

6・17・18号

(i)事業の公益性の確保 1・2・5・7 号

(ii)適正な運営管理

3・4・10・11・12・13・14・1 6・17・18号

(iii)財務に関する基準 6・8・9 号

A:新公益法人制度研究会[26]19―20頁。B:齊藤[29]43頁。C:江田[22]14―15頁。

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「公益目的事業法人の組織特性」ということにする。

公益目的事業の実施の確保のための中心的な基準は1号基準である。1号基準は,公益目的事 業を行うこと,そして当該事業が法人の主たる目的でなければならないことを定める。公益目的 事業を行うとする場合,行う事業が公益性を有しているかどうかを判断する必要があるから,1 号基準は事業の公益性を判断する基準となる。また公益性があると判断された公益目的事業が法 人の主たる目的であるためには,当該事業は法人の事業の過半を占めるべきであるから,それを 公益目的事業の側面から具体的に定める8号基準(公益目的事業比率)は1号基準の補完基準と いえる。

法人の事業として公益目的事業のほかに収益事業等を行っている場合,収益事業等が公益目的 事業の実施に支障を及ぼすべきでなく(7号),また他の団体の意思決定に関与できる株式等を 保有し,それを通じて収益事業等の割合を実質的に高める(15号)ことは公益目的事業比率の 潜脱になろう。したがって,収益事業等を公益目的事業よりも大きくさせないよう制限をかける 7号および15号基準は1号基準の補完基準となる(8号基準を補足する基準とみることもでき

る)。

公益目的事業を継続的に実施していくためには,実施可能な技術や専門的な人材・設備等が確 保され,また財政基盤を明確にし財産管理や会計記録等が適正でなければならず(2号),さら に公益目的事業に不可欠な特定財産も維持されなければならない(16号)。また将来の公益目的 事業を円滑に継続させていくためには,一定の範囲の財産の内部留保が必要である(9号:遊休 財産保有制限)。2号,9号および16号基準は公益目的事業を継続させそれを実効あるものにす るために必要となるから,これらの基準も1号基準の補完基準となる。

他方において,行うべき公益目的事業を実質的に骨抜きにしてしまうような事業や行為等を禁 止する規定がある。公益目的事業を実施する上で,社会的信用を失墜させるような投機的な取引 を行う事業等は行うべきでなく(5号),当該法人の関係者等または営利事業を営む者等に対し て特別な利益や優遇を供与すべきではない(3・4号)。また,同一親族等および他の団体の関係 者が理事または監事の3分の1を超え,その結果,特定の者の利益を実質的に代表させることに なってはならず(10・11号),ましてや役員の報酬を不当に高く支給することによって,実質的 な財産分配を行うことは非営利性の潜脱となる(13号)。公益目的事業は収入余剰の獲得が目的 ではなく,したがって実費弁償で行われるべき事業であることからすれば,収支相償が求められ る(6号)。これらの基準,すなわち3号,4号,5号,6号,10号,11号および13号基準も1 号基準の補完基準ということができる。

公益目的事業法人の組織特性に関する基準には,次のようなものがある。一般社団法人の社員 の資格得喪や議決権について不当な扱いをしてはならず(14号),また情報開示の適正性を担保 するために会計監査人が設置されなければならない(12号)。さらに公益認定取消し等の場合,

公益目的取得財産残額を類似公益法人等に贈与する定款規定(17号)や,清算の場合における

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残余財産を類似公益法人等に帰属させる定款規定を置くことが求められる(18号)。これらの基 準,すなわち12号,14号,17号および18号基準は,公益目的事業法人としての組織そのもの の特性によって要求されるものである。

公益目的事業の実施の確保という形でまとめられる多くの基準は,さらに内容に応じて細分す ることが可能である。しかし,そのような分類論を展開することが本論文の目的ではないので,

ここでは2つの分類にとどめることとする。それを整理して示せば,【図表3】のようになる。

公益認定基準の検討にあたっては,基準のすべてを俎上に載せて総合的に検討することが必要 であるものの,しかし,その中で特に重要と考えられる基準のいくつかを取り上げ検討すること によって公益認定基準の特徴を明らかにすることも可能であると考えられる。このためここで は,公益目的事業の実施の確保として分類される公益認定基準のうち,その中核といえる1号基 準と収支相償を定める6号基準を取り上げて,とりわけ6号基準が持っている意味を検討するこ ととする。この検討に直ちに入る前に,その検討の準備として公益法人制度と税制上の優遇措置 との関連を明らかにすることとする。

Ⅲ.公益法人制度と税制上の優遇措置

旧公益法人制度における民法(2006(平成18)年改正前;以下「旧民法」という)第34条 は,「営利法人」と「公益法人」とに法人を分類し法人格を付与した。このために,非営利・非 公益目的の団体(例えば,学会,同窓会,町内会等)は法人格のない「権利能力なき社団」(権 利能力なき財団も存在した)となり,これが法人制度上の欠陥をなしていた(谷口[1951]74―

75頁,森泉[1977]6―8頁)。このような欠陥は,一般法人法が「営利法人」と「非営利法人」

とに法人を分類し法人格を付与することになったため是正され,権利能力なき社団(および権利 能力なき財団)に対しても法人化の道が開かれた。すなわち,一般法人法が新たに成立したこと によって,法人格の取得が公益性の判断と分離され,非営利団体は準則主義によって法人格の取 得ができるようになった。

旧民法上,公益法人として法人格を得るためには主務官庁の許可を要し,当該許可を得て成立 した公益法人は収益事業について課税されるものの,公益事業は非課税という税制上の優遇措置 を受けることができた。旧公益法人制度においては,法人格の取得と公益性の判断とが一体化し ていたために,主務官庁による公益性の判断により許可を得て法人格を取得した公益法人は,同

【図表 3】 公益認定基準の分類(2)

本論文での分類

(1)公益目的事業の実施の確保

1・2・3・4・5・6・7・8・9・10・

1・13・15・16号

(2)公益目的事業法人の組織特性 2・14・17・18号

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時に税制上の優遇措置を受けることができた。したがって,旧公益法人制度においては,公益法 人としての法人格の取得と税制上の優遇措置を受けることとは連動していた(ただし,「特増法 人」としての認定取得は除く)(2)

主務官庁の設立許可に関する判断のために,後述するように1972(昭和47)年以降,設立許 可審査基準(設立後の公益法人については指導監督基準)の整備が主務官庁間で徐々に図られて きた。このような設立許可審査基準(後には「設立許可基準」と呼ばれる)は,曖昧であるが故 に主務官庁の裁量が入り込む余地があるものの,許可権限を有する主務官庁における公益法人認 定基準という性格を持っていた。このために,公益性の曖昧な団体が公益法人として設立許可を 受けているなど,公益性の判断が主務官庁の裁量に委ねられ不明確であるという批判や,主務官 庁と公益法人との癒着が生じやすいという批判が行われていた(森泉[1977]3―5頁,大内

[2010])。しかし,このような批判等にみられる設立許可等を行う主務官庁制の問題は,新たに つくられた公益認定法によって,非営利法人が「一般法人」と「公益法人(公益認定法人)」と に分類され,また公益認定における公益性の判断が主務官庁ではなく第三者機関に委ねられるこ とになったため,解消されることになった。

公益認定法によって公益認定された公益法人は,その行う収益事業について課税されるもの の,公益目的事業について非課税であるという税制上の優遇措置を受けることができるので,こ の点では,旧公益法人の場合と変わらない。公益法人になれば税制上の優遇措置を受けることが できるということは,公益認定基準に適合して公益認定を受けることと税制上の優遇措置とは連 動していることを示している(ただし,個人からの寄附金に対する税額控除制度の適用は除く。

この制度については初谷[2014]12―23頁を参照)。

収益事業が法人税法施行令に掲げる34種に該当する事業であっても,当該収益事業が公益目 的事業に該当すると第三者機関によって判断されれば非課税扱いとなる。このことと,みなし寄 附金制度や特増法人としての寄附金優遇措置の適用を勘案すれば,公益認定と税制上の優遇措置 との連動性は,旧公益法人制度の場合に較べて強化されているように考えられる(塩野[2009]

33頁,原[2011]43―51頁)。これからすれば,公益認定基準は税制上の優遇措置のすべてでは ないとしても,主要な税優遇措置を受けるための基準でもあるという性格を持つことになる(江 田[2012]13―19頁)。

公益法人となるための公益認定基準と税優遇措置との,このような連動関係は,公益性がある とする判断が行われた結果,税優遇措置が受けられるという因果関係,すなわち「順基準」関係 に基づいていると考えることが自然のようである(図式的には,「公益性判断(公益認定基準)

→税優遇適合基準→税優遇措置」)。しかし,公益認定基準の中に税優遇措置を受けるに必要な基 準(税優遇適合基準)が,公益認定基準という名の下に,公益性の判断基準とは別に組み込まれ ている可能性がある。すなわち,税優遇適合基準が組み込まれた公益認定基準を充足しなけれ ば,税優遇措置は受けられないという「逆基準」関係が公益認定基準に存在している可能性があ

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る(図式的には,「税優遇措置→税優遇適合基準→公益認定基準」)。より直截には,公益認定基 準には,公益性を判断する基準とは別に,それと性質の異なる税優遇適合基準が公益認定基準の 名の下に存在している可能性があるということである。

このような問題意識に基づいて,公益目的事業を主たる目的とすることを求め,公益性を判断 するための基準という役割を持つ1号基準と,収支相償を求める6号基準の2つの基準を当面取 り上げ検討することがここでの狙いである。さらに迂回することになるが,この検討に直ちに入 る前に,その準備として公益認定基準と旧公益法人制度上の設立許可・指導監督基準との関係を 明らかにすることとする。

Ⅳ.公益認定基準と「設立・指導監督基準等」

旧公益法人制度における公益法人の設立許可について,主務官庁間で審査基準を統一化する試 みが行われ,徐々に審査基準の明確性は高まった。またそれ続いて,設立許可後の公益法人の運 営に関する指導監督のための基準も整備されていった。このような基準の整備は,公益法人の不 祥事件が起こるたびに行政監察を行い,その勧告を受けて行われてきたので,新公益法人制度に おける公益認定基準の理解を深めるために,この経過を辿ることにする(岡村[2000]1―3頁)。

公益法人の不祥事件を契機に行われた1971(昭和46)年の行政監察において,公益法人の目 的,事業内容等の基本的事項について各府省庁に共通する統一的な基準を定め,これによって公 正厳格な審査を行う必要があると勧告された。この勧告を受けて1972(昭和47)年に初めて

「公益法人設立許可審査基準等に関する申合せ」が行われた。そこでは,公益法人の目的,事 業,名称,資産・会計および機関の5項目について基準が設定された。

その後に生じた公益法人の不祥事件によって業務運営上の問題が顕在化したので,1983(昭和 58)年から公益法人の指導監督等に関する行政監察が行われ,1985(昭和60)年に行政監察に 基づく勧告がなされた。そこでは,1972年の設立許可審査基準の趣旨に沿うように,公益法人 に関する具体的にして統一的な指導監督の基準を作成することが求められ,翌1986(昭和61)

年にその勧告に応えるために「公益法人の運営に関する指導監督基準について」が公表された。

そこでは,事業,機関および財務・会計に関する事項の3項目にわたる基準が設定された。

行政監察の勧告に対応するように,主務官庁は設立許可審査や適正な運営管理を求める指導監 督を行ってきたが,依然として不適切な事業運営を行っている公益法人が存在し,指導監督が不 十分な状況があったために,1991(平成3)年から公益法人の指導監督に関する行政監察が実施 された。翌1992(平成4)年に勧告が行われ,その中で,1972年の設立許可審査基準と1986年 の指導監督基準の判断基準等について抽象的になっている事項に関して,可能な限り具体化・明 確化した運用マニュアルを作成することが求められた。この勧告を受けて,1993(平成5)年に

「公益法人の設立及び指導監督基準の運用について」が申合わされた。これは,「公益法人設立許 可審査基準等に関する申合せ解説」と「公益法人の運営に関する指導監督基準解説及び取扱指

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針」を内容とする運用マニュアルであった。

このように,公益法人に対する指導監督体制は充実強化されてきたものの,公益法人の不祥事 件は後を絶たず,このために主務官庁の指導監督等のあり方に多くの批判が寄せられた。このよ うな状況を背景に,1996(平成8)年に与党行革プロジェクトチームが立ち上げられ,関係省庁 のヒアリング等を実施し「公益法人の運営等に関する提言」が取りまとめられ政府に提出され た。この提言を受けて,公益法人に対する指導監督等の一層の適正化を図るために,提言内容を 含めた「公益法人の設立許可及び指導監督基準」が同年の1996年に閣議決定された。この基準 は,プロジェクトチームの提言を新たに追加し,1972年の設立許可審査基準,1986年の指導監 督基準および1993年の運用マニュアルを統合したものであるので,新しい基準の閣議決定後に は,それまで適用されてきた旧基準は廃止されることになった。プロジェクトチームの提言によ り追加されたものとしては,理事の構成,過大な内部留保の禁止,株式保有の原則禁止および情 報公開の推進等がある。

1996年の「設立許可及び指導監督基準」の実施には,具体的かつ統一的な指針が必要である ことから,1996年末に「公益法人の設立許可及び指導監督基準の運用指針」が申合わされた。

また1997(平成9)年末に,設立許可及び指導監督基準とその運用指針が改正され,内部留保の 具体的な定義,一定以上の株式保有についての事業報告書での記載および情報公開の具体的な対 象資料が盛り込まれた。その後,設立許可及び指導監督基準とその運用指針は何回か改正され,

最終改正は2006(平成18)年に行われている(以下では,「公益法人の設立許可及び指導監督基 準」とその運用指針を総称して「設立・指導監督基準等」と呼ぶこととする。また基準等からの 引用は2006年最終改正のものから行う)。

このように,1970年代の初頭から始まった,公益法人に対する設立許可審査および適正な運 営管理のための指導監督の基準等の整備は,1990年代末に一応の完成をみる。2006(平成18)

年には公益法人制度関連三法が成立することになるが,これら関連三法施行前では,設立・指導 監督基準等が主務官庁にとって依拠すべき基準であった(移行前の特例民法法人に対しては,設 立・指導監督基準等が継続して適用された)。

2000(平成12)年に入ってから公益法人制度の抜本的改革の動きが急速に進捗した。2003

(平成15)年に「公益法人制度の抜本的改革に関する基本方針」が閣議決定され,翌2004(平成 16)年に公益法人制度改革に関する有識者会議報告書が公表され,それを受けて同年の2004年 に「今後の行政改革の方針」が閣議決定された。この閣議決定では,公益性を有する非営利法人 を判断する要件について,設立・指導監督基準等「を踏まえつつ,法人の目的,事業及び規律の 面から,できる限り裁量の余地の少ない明確なものとする」とされた(閣議決定[2004]7,別 紙3,3(2)。同様のことが「有識者会議報告書」で述べられている(14頁))。

この閣議決定に従って公益認定法上の公益認定基準が策定されているはずであるから,公益認 定基準は設立・指導監督基準等の考え方を承継していることになる。このことは事実,旧公益法

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人制度からの移行期間が終了した時点での内閣府の,次のような記述でも明示されている。すな わち,「公益認定の基準は,従来の指導監督基準(閣議決定)等を基に…規定され…透明性が確 保されており,内容面でも厳しくなったわけでは」ない(内閣府[2014]7頁)。

設立・指導監督基準等の考え方が公益認定法上の公益認定基準に継承されているとするとき,

検討対象としての1号基準(公益目的事業が主たる目的であること)と6号基準(収支相償)に ついて,設立・指導監督基準等の考え方がどのように継承されているか(場合によっては,どの ように修正されているか)を含めて,その内容を検討することが必要になる。というのは,この 検討によって公益認定基準の内容をより良く理解することができると考えられるからである。

Ⅴ.公益認定基準における1号基準

公益認定基準としての1号基準は,「公益目的事業を行うことを主たる目的とするものである こと」(5条1号)と定められ,公益目的事業の実施を主たる目的としなければならないとす る。1号基準については,当該基準に定める公益目的事業とは何かを明らかにすることが必要と なる。というのは,法人の行う事業が公益目的事業に当たるかどうかは,当該事業について公益 性があるか否かを判断することに他ならないからである。1号基準に定める公益目的事業とは,

「学術,技芸,慈善その他の公益に関する別表各号に掲げる種類の事業」(以下「別表列挙事業」

という)であって,かつ「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与する」事業(以下「不特定多 数条項」という)である(認定法2条4号)。

公益認定法の別表には,「学術及び科学技術の振興を目的とする事業」(1号)や「障害者若し くは生活困窮者又は事故,災害若しくは犯罪による被害者の支援を目的とする事業」(3号)等 の公益に関する23事業が掲げられている(別表23号は「政令で定めるもの」であり,現時点で は政令は制定されていないので,実質的には22事業である)。これに対して,設立・指導監督基 準等では,「公益法人の行う公益活動は,教育,芸術,環境保護,福祉,国際関係など極めて多 岐にわたっている」(2事業,指針(1))と例示しているのみで,それらを特定化して別表列挙し ているわけではない。これからすれば,公益認定基準では,設立・指導監督基準等上の公益事業 の例示を継承しつつも,公益目的事業の定義を介して公益事業そのものが特定化され明確にされ ていることになる。

このような別表列挙の方式は,特定非営利活動促進法(NPO法:1998(平成10)年成立・施 行)における特定非営利活動に関する別表列挙と税法上の特定公益増進法人(特増法人)認定要 件としての37類型の業務の規定(旧法人税法施行令77条3号)が参考にされたと考えられる。

というのは,NPO法上の特定非営利活動は「不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与するこ とを目的とする」活動とされ,また公益法人は同時に「公益の増進に著しく寄与する」業務を行 う特増法人とされているからである。

公益目的事業であるためには,別表列挙事業でなければならないばかりでなく,不特定かつ多

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数の者の利益の増進に寄与する事業でなければならない。後者の不特定多数条項は,すでに NPO法上の特定非営利活動の定義において定められ,さらに設立・指導監督基準等において は,すでに「公益性の一応の定義として『不特定多数の者の利益』と規定」(基準1目的,指針

(1))されるとされている。したがって,公益認定基準において,公益目的事業の要件として規 定される不特定多数条項は,設立・指導監督基準等の考え方を継承しているということができ,

またかかる不特定多数条項は事業の公益性を実質的に判断するための要件(基準)をなしてい る。

設立・指導監督基準等では,「積極的に不特定多数の者の利益の実現を目的とする」ことが公 益性のメルクマールとされているのに対して,公益認定法では「不特定かつ多数の者の利益の増 進に寄与する」ことが公益性の判断基準をなしている。この2つの公益性のメルクマールの実質 は微妙に異なる。なぜなら,設立・指導監督基準等においては積極的に不特定多数者の利益を実 現することが求められるが,それに対して,公益認定法では結果的に不特定多数者の利益の増進 に寄与すればよいからである。すなわち,公益認定法上の不特定多数条項については,不特定多 数者の利益について因果関係が間接的になることが許容されると解釈しうる(入山[2009]9 頁)。ここにいわゆる「間接的公益」という問題が生じる(神奈川県公益認定等審議会[2012], 齊藤[2009]38―39頁;[2014]28―29頁)。

例えば,看護従事者が構成員である法人の主たる事業が看護研修・講習事業であり,それは看 護従事者の専門知識や技能等の向上・普及を目的としているとする。この事業の対象が構成員で ある看護従事者のみであれば,その事業は特定の者の利益となる共益事業であり,公益性を有す るとは認めがたい。しかし,研修・講習事業を受けることによって高い知識や技能を得て,一般 の患者に対して迅速かつ的確な看護ができれば,それを通じて結果的に不特定の者の利益の増進 に寄与できることになる。事業は共益的側面を持つものの,当該事業は間接的に公益的側面を有 することになるので,この種の事業は公益性があると判断すべきかという問題が生じる。これが 間接的公益の問題である。

設立・指導監督基準等の考え方との違いを強調すれば,公益認定法上の不特定多数条項は,こ のような間接的公益を容認し公益目的事業の範囲を拡大していると解釈することも可能であろ う。しかし,このような解釈を行うならば,共益的事業の多くが結果として公益目的事業として 認められてしまい,事業の公益性と共益性の境界がますます曖昧になる。このため,研修事業等 の目的が不特定多数の者の利益を意図していること,また事業に参加できる機会が一般に開かれ ていること等を間接的公益の判断基準として公益性を判断することもあるようである(神奈川県 公益認定等審議会[2012])。このような間接的公益についての判断基準は,設立・指導監督基準 等の考え方である「積極的に不特定多数の者の利益の実現を目的とする」ことを実質的に受け継 いでいるということができる。

(11)

Ⅵ.公益認定基準における6号基準

6号基準は「その行う公益目的事業について,当該公益目的事業に係る収入がその実施に要す る適正な費用を超えないと見込まれるものであること」(5条6号)と規定される。公益目的事 業は不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与すべきであり,このため,その事業の実施にあたっ て「動員可能な資源を最大限に活用し,無償または低廉な対価を設定することなどにより受益者 の範囲を可能な限り拡大することが求められる」ので,「当該公益目的事業の実施に要する適正 な費用を償う額を超える収入を得てはならない」とするものである(新公益法人制度研究会

[2006]204頁)。このように6号基準は「実費弁償」を求める。この基準は「収支相償」といわ れ,財務三基準の1つである。

6号基準における収支相償は2段階に分けて行われる。第1段階では,公益目的事業単位で特 に事業に関連づけられる収入(経常収益)と支出(経常費用)の比較を行い,収入余剰が生じる 場合には,当該余剰額は,当該事業に係る特定費用準備資金の積立額として整理される。すなわ ち,収入余剰相当額を特定費用準備資金として積み立てることによって,それを将来の公益目的 事業の費用に充てるならば,第1段階における収支相償は充たされる。

第2段階では,第1段階の収支と,特定の事業と関係づけられない公益目的事業の収入(その 他の経常収益)と支出(その他の経常費用)を合計して公益活動全体の収支の比較を行う。この とき収入余剰が生じる場合には,当該余剰額相当の公益資産取得資金(公益目的保有財産の取 得・改良に充てるために保有する資金)への繰入や当期の公益目的保有財産の取得に充てること が求められる。これについては,第1段階の収入余剰額の扱いと同じように,第2段階の収入余 剰額を公益資産取得資金に繰り入れたり,当期の公益目的保有財産の取得に充てるならば,収支 相償が充たされるとされる。しかし,このような状況にない場合には,翌年度に事業の拡大等に より当該余剰額と同額程度の損失になるようにすることが求められる(ガイドラインⅠ―5)。公 益目的事業のみの事業を行っている法人の場合には,このような段階を経て公益目的事業の収支 相償が判定される。

これに対して,収益事業等を兼業している場合には,収益事業等の利益の50% は公益目的事 業財産に必ず繰り入れなければならず,繰り入れた利益額は収支相償の第2段階における公益目 的事業の収入に含められる。収益事業の利益の繰入額を含む収入が支出を超過する場合には,収 入余剰額について上記のような公益資産取得資金への繰入や当期の公益目的保有財産の取得に充 てる処理が求められる。収益事業等の利益については,当該利益の50% を超えて公益目的事業 財産に繰り入れることも認められている。この場合には,収支相償の第2段階において公益資産 取得資金の積立・取崩や公益目的保有財産の当期取得支出・売却収入等の調整計算を行ったうえ で,支出超過額に相当する額が収益事業等の利益の50% を超えて100% を限度にして繰り入れ られる。

(12)

設立・指導監督基準等では,次のようなことが示されている。すなわち,公益活動は会費収入 や基本財産運用収入等によって賄われるべきであるが,社会経済情勢の変化等によりこれらの収 入のみでは公益事業を継続して行うことが困難な場合があるから,公益事業の受益者に対して事 業の費用の負担を求めることもやむを得ない。しかし,「受益者に対して対価を求める場合で あっても,その事業の収入,支出は均衡することが望まし」い。しかも,公益事業で利益が生じ ている場合には,「対価を引下げ,受益対象の拡大等を図ることにより,収入,支出の均衡を図 らねばならない」としている(基準2事業(5)指針(1)(2)(3))。これに明らかなように,設立・

指導監督基準等は,公益事業の収支均衡すなわち収支相償を図ることを求めているので,公益認 定基準における6号基準はそれを継承していることになる。

収益事業について,設立・指導監督基準等は次のように位置づける。すなわち,「法人の健全 な運営を維持し,十分な公益活動を行うための収入も確保する必要があ」り,「この収入を確保 する一つの方法として,収益事業を行うことが考えられる。」(基準2事業(6)指針(1))「収益事 業を行うことが認められるのは,あくまで公益目的を実現するための手段であるから」,「収益事 業からの利益は…公益事業のために積極的に用いる必要があり,公益事業のために使用する額は 可能な限り2分の1以上とする必要がある。」(基準2事業(6)指針(4)③)公益認定基準における 6号基準の収益事業等の利益の50% の繰入または50% 超の繰入は,設立・指導監督基準等の考

え方を継承し,それをより明確にしていることがわかる。

それでは,6号基準の収支相償は設立・指導監督基準等の収支均衡と同じものと考えてよいの であろうか。答えは否である。設立・指導監督基準等では,公益事業において収支の均衡を図る ことは望ましいものの,公益事業について「当該法人の健全な運営に必要な額」の利益(収入余 剰額)を保有することが認められる(基準2事業(5))。これに対して,6号基準は,公益目的事 業において収入余剰が生じる場合には,当該収入余剰額を,特定の目的のない,内部留保になり うるような曖昧な形の「健全な運営に必要な額」とせずに,将来の公益目的事業に対して確実に 使用(再投下)させるようにしている。すなわち,6号基準には,公益目的事業からは当該公益 目的事業に拘束されない自由選択性の資金を収入余剰額という形で創出させないという考え方が 明確に存在している。この点が6号基準の大きな特徴というべきである。

Ⅶ.結び―税優遇適合基準としての収支相償基準―

公益認定基準に対する多くの批判は,ここで取り上げてきた6号基準(収支相償)に向けられ ている。例えば,収支相償は官庁予算主義の考え方によって単年度をベースにしているとする批 判がある(入山[2009]10頁)。単年度ベースで収支相償を判定することについては,複数年度 の収支状況を対象に収支相償への適合性を判定することを求める要請もある(公益認定等委員会

[2014]4頁)。このような要請を求める意見は,主として小規模法人に対するものであるが,例 えば次のようなものがある。すなわち,「単年度では偶発的事象により収支相償を満たせない場

(13)

合」がある,「複数年度の実績で判定することが合理的である」,また「収支を相償させるために 無駄な支出を行うなどモラルハザードが生じる」等がある(公益認定等委員会・公益法人の会計 に関する委員会[2014]4(1))。

これらの批判や意見の基礎には,「事業遂行上収支の相償を要求されたのでは,どんな事業も 継続できない」(堀田[2011]34頁)ことになるから,公益目的事業による収支差額がプラスに なる場合,将来の公益目的事業のために特に使途を定めない資金としての保有が許容されてもよ いのではないかという考え方があるように思われる。というのは,例えば次のような要望がある からである。すなわち,「特に内容を限定せず公益目的事業費に充てる財産としての財政安定化 資金を設けることができれば,災害等の不測の事態の際の公益事業のニーズにも対応でき,また 剰余金の発生を抑制するための無駄な消費を防止する効果もある」(公益認定等委員会・公益法 人の会計に関する委員会[2014]4(1))。

すでに明らかにしたように6号基準は,もとより将来に向けた公益目的事業の継続や拡大を妨 げているわけではなく,したがって,収支差額がプラスになる場合を認めてはいる。しかし,そ の場合の収入余剰額は,将来の特定の事業費等に特別に支出するための積立額(特定費用準備資 金)や公益目的保有財産の取得・改良に充てるための保有資金額(公益資産取得資金)等の形態 で保有し,資金の使途を限定し計画的に将来の公益目的事業に投下することが求められている。

すなわち,いずれは将来の公益目的事業のために投下することになるとしても,資金使途を限定 しない自由選択性の資金の留保は認められていない。

収支相償に対して多くの要望や意見等があるにもかかわらず,そのような要請が取り入れられ ないのはなぜか。とりわけ公益目的事業による収入余剰額について,使途を限定しない自由選択 性の資金の形態で保有することを認めないのはなぜか。さらには収入余剰額を自由選択性の資金 として保有することは公益的な活動を妨げ,公益性の判断に支障をもたらすことになるのであろ うか。

「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与する」公益目的事業を継続的に実施し,また積極的 に当該事業を拡大できるように実施するためには,事業によって収入余剰額が発生する場合,そ れを将来の公益目的事業に向けて活用することが求められる。その活用としては,将来の公益目 的事業の特定の計画のもとに使途目的を制約して資金を効果的に使用することが考えられるし,

また災害等の不測の事態における公益事業のニーズ等に対応するために使途を限定しない任意の 資金留保(先に挙がった「財政安定化資金」という名目も考えられる)を図っておくことも考え られる。

これからすれば,公益目的事業による収入余剰額の一部を資金使途を限定しない自由選択性の 資金の形で留保することは,公益目的事業の継続的かつ拡大的な実施にとって,むしろ必要なこ とであり,そのような資金留保が過大にならない限り,事業の公益性の判断に何ら影響を及ぼす ものではないと考えられる。それにもかかわらず,公益目的事業による収入余剰額の一部を資金

(14)

使途を限定しない自由選択性の資金の形で留保することを認めない6号基準には,公益性の判断 とは別の論理が潜在的に作用しているのでないか。

それを考える手がかりは,公益認定基準と税制上の優遇措置との連動性にある。すでに明らか にしてきたように,収益事業が法人税法施行令に掲げる34種に該当する事業であっても,当該 収益事業が公益目的事業に該当すると第三者機関によって判断されれば,当該収益事業は非課税 扱いとなる。また公益法人にはみなし寄附金制度が適用され,さらに特増法人として寄附金優遇 措置が公益法人に適用される。これらの税制上の優遇措置が適用されるのは,収支相償基準に よって,公益目的事業について「収支差額が恒常的には生じ得ない収支構造が制度上確保されて いる」からである(原[2011]44頁)。

公益目的事業は本来,公益目的財産を最大限に活用し,無償または低廉な対価を設定すること によって受益者の範囲を可能な限り拡大し,不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与することが 求められる。したがって,そこでは公益目的事業によって恒常的に収入余剰額が生じることはな く,たとえ収入余剰額が生じたとしても,それは将来の公益目的事業の継続または拡大のために 確実かつ計画的に消費されることが予定されている。換言すれば,公益目的事業とは恒常的に収 入余剰を発生させることのない事業であるとする論理が収支相償基準によって担保されるので,

税制上の優遇措置が与えられることになる。このような論理が収支相償を求める6号基準に潜在 していると考えられるので,6号基準は公益性を判断するための基準というよりは,むしろ税優 遇適合基準としての性格を強く持っていると結論づけることができる。

公益認定基準の充足に基づく公益認定と税制上の優遇措置の認定は,制度上,必然的にリンク ないし連動していなければならないわけではない。公益目的事業による収入余剰額を自由選択性 の資金として留保することを認めよという主張を貫くのであれば,公益認定と税制上の優遇措置 の認定とを分離するという方向もあり得る(非営利法人研究学会東日本部会[2013]75―127 頁)。しかし,この場合には,公益認定制度の再設計が必要となろう。

(1)公益認定法5条では,次のように規定されている。「行政庁は,前条の認定(以下「公益認定」とい う。)の申請をした一般社団法人又は一般財団法人が次に掲げる基準に適合すると認めるときは,当該法 人について公益認定をするものとする。」

(2)旧公益法人制度における特定公益増進法人は「独立行政法人等のほか,旧民法第34条法人について は,個別に掲名されている法人と公益の増進に著しく寄与する業務(37類型)を主たる目的とするもの で,適正な運営がされていることにつき主務大臣の認定を受けた法人(認定の有効期間は,原則2年間)

をいう」(原[2011]50頁)。

参考文献

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(15)

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