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上司の非言語的スキル習得が部下のストレスへ及ぼす 効果の検討

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Academic year: 2021

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(1)

上司の非言語的スキル習得が部下のストレスへ及ぼす 効果の検討

和 田 朋 美

(神奈川大学大学院 人間科学研究科 人間科学専攻 臨床心理学研究領域)

Effects of nonverbal skills acquisition by workplace leaders

on the stress level of their subordinates.

【問題と目的】

 職場のメンタルヘルスにおいて,管理監督者は「ラインケア」・「ストレス緩衝要因」とし て重要な役割を担っている。しかし,管理監督者に対しての教育研修・情報提供は 33.7%

(厚生労働省,2018)と充分とはいえない。また,教育の内容として,積極的傾聴法が広く 推奨されいるが(池上・田川・真船・廣・永田,2008),管理監督者のプレイング・マネジ ャー化(労務行政研究所,2010)により,上司は積極的に部下とコミュニケーションをとる 時間的余裕が減少していることが考えられる。そこで,本研究では,職場での短いやりとり の時間に,上司が部下に親しみやすさや話しかけやすい相手であることを伝える適切な非言 語的スキルを上司に習得させ,その結果,部下のストレスにどのような効果を及ぼすかを検 討する。その仮説は,以下の通りである。仮説 1)プログラムを実施した群は,プログラム 実施後に上司の適切な非言語的スキルの生起頻度が増加する。仮説 2)上司の適切な非言語 的スキルの生起頻度が増加すると,部下のストレス評価値が改善する。したがって,研究 1 で適切な非言語的スキルの生起頻度に関する評価尺度を作成し,研究 2 において比較試験に よる検討を行うこととした。

1 研究

【目的】

 適切な非言語的スキルの生起頻度を測定するための評価尺度を作成する。

【方法】

 調査対象者:都内 A 事業所(一般建設業)において就業する従業員(営業職,技術職,

事務職/非管理職)91 名のうち回答に欠損のない 52 名(男性 26 名,女性 26 名,平均年齢 30.27 歳,SD=8.86)を分析対象とした。

 手続き:稲森(2009)が示している非言語メッセージのうち,職場で操作可能且つ上司と

(2)

部下が接する短時間に用いることが想定される視線,表情,姿勢,動作の 4 チャネル 15 項 目を暫定項目とし,「よくしていた(5 点)」から「まったくしていない(1 点)」の 5 件法で 調査対象者に上司について評価するよう求めた。なお,倫理的配慮として,同封の書面でそ の説明を行い,同意を得たデータのみ分析対象としている。

【結果と考察】

 因子分析の結果,「肯定的態度」(7 項目)と「拒絶的態度」(7 項目)の 2 因子の因子構造 が認められ,それぞれの尺度は内的整合性を有していた〔それぞれ,α=.86, α=.82〕。これ により,本研究では「適切な非言語的スキル」を「肯定的態度」と定義する。一方で,両尺 度を総合的な評定として用いるには充分でないため,それぞれ独立した尺度として解釈す る。なお,本研究のデータ分析には,すべて統計ソフト SPSS 23.0 J for Windows(IBM 社)を用いた。

2 研究

【目的】

 適切な非言語的スキルを習得するプログラムを作成し,その効果を比較試験により検討す る。

【方法】

 調査対象者と分析対象者:第 1 研究で対象とした 91 名および,それを直接管理する者

(以下,上司)12 名の合計 103 名を対象とした。その内,5 組(上司 5 名,部下 36 名)を介 入群,7 組(上司 7 名,部下 55 名)を Waiting-list 群(以下,WL 群)とした。この全対象 者のうち,条件・データに不備・欠損のない介入群 18 名(上司:男性 3 名,女性 1 名,合 計 4 名 / 部 下:男 性 7 名,女 性 7 名,合 計 14 名),WL 群 9 名(上 司:男 性 2 名,女 性 1 名,合計 3 名/部下:男性 2 名,女性 4 名,合計 6 名)の合計 27 名(上司:平均年齢 37.57 歳,SD=5.90 /部下:平均年齢 32.60 歳,SD=7.61)を最終的な分析対象者とした。

 手続き:介入群上司以外の全対象者に調査回答書および質問紙等一式を配布したうえで,

介入群の上司に対して自作の非言語的スキル・トレーニングプログラムを実施した。プログ ラムはソーシャルスキル・トレーニング(以下,SST)をベースにし,トレーニングを段階 分け(4 チャネルを 3 回で実施)し,ひとつのセッションは,教示,モデリング,ロールプ レイ,フィードバック,ホームワーク(以下,HW)から構成した。2018 年 4 月 13 日に介 入前調査と導入およびセッション 1 回目,4 月 20 日にセッション 2 回目,4 月 27 日にセッ ション 3 回目,5 月 11 日に介入直後調査,5 月 25 日に介入後 4 週間の調査を実施した(休 暇期間を除く)。WL 群には,この期間中,介入せず,質問紙調査のみを実施した(Figure 1)。

(3)

介入前測定

調査票配布

介入前測定 導入

スキル①視線

スキル②表情

スキル③ 姿勢・動作

介入直後測定 介入直後測定

介入後4W測定 介入後4W測定 4

週 間

1 週 間

1 週 間 1

HW①実施

HW②実施

HW③実施

3 週 間 休 暇 期 間 除 く 同

日 実 施

Figure 1.介入スケジュール

測度:

 ①個人属性(年齢,性別,職種,勤続年数)

 ②ストレス評価尺度〔『職業性ストレス簡易調査票(下光他,2000)』,3 因子 57 項目,4 件法。〕

 ③非言語的スキル評定尺度(第 1 研究で作成した尺度,2 因子 14 項目,5 件法)

【結果】

 プログラム実施前における介入群と統制群の特徴を比較するために,各群の部下が回答し た各指標の介入前得点について t 検定を実施した。分析の結果,部下のストレス評価の「技 能の活用度」のみ,両群に有意差が認められた〔t(18)=2.48, p<.05〕。また,各群の上司が 回答した「非言語的スキル自己評定」については,Mann-Whitney の U 検定を実施した。

その結果,「拒絶的態度」の下位項目である「額や眉間にしわを寄せる」のみ,有意傾向が 認められた(Z=0.00,p<.10)。また,A 事業所の職場のストレス要因,ストレス反応,修 飾要因について特徴を把握するために,各尺度について,相関分析を行った。分析対象者

(4)

は,前述同様 91 名の対象者うち,介入前調査のストレス評価尺度に欠損のない 61 名(男性 33 名,女性 28 名,平均年齢 31.28 歳,SD=8.47)である。

 プログラム実施による効果を検討するために,「部下のストレス評価」および部下が評価 する「上司の非言語的スキル評定」の得点について,介入直後から介入後,介入後 4W から 介入直後,介入後 4W から介入前をそれぞれマイナスし(それぞれ,「介入直後 - 介入前」

「介入後 4W - 介入直後」「介入後 4W - 介入前」と表記),これらの変化量について,t 検定 によって群間比較した。上司が自己を評価する「非言語的スキル自己評定」については,同 様に時期ごとの得点の差について U 検定によって群間比較した。分析の結果から,「上司の 非言語的スキル評定」では,介入直後 - 介入前に,WL 群と比較して,介入群で「話を聴く 時に落ち着いてゆったりする」の増加を認めたが〔t(13.00)=2.22, p<.05〕,「ストレス評価」

については差が認められなかった。したがって,仮説 1)は,プログラム実施により「肯定 的態度」の下位項目の一部得点が増加したといえるが,仮説 2)は検証に至らなかった。一 方で,本研究では,サンプルサイズが小さいことから,個人差が大きく影響していることが 考えられる。このため,個人差として,(a)プログラム実施時に統制していない部分で,且 つ(b)数値化可能である変数として,HW の実施状況を変数とし検証することとした。

 介入群内の対象者を HW 実施高群(上司 2 名,部下 5 名,以下高群)と HW 実施低群

(上司 2 名,部下 9 名,以下低群)に分け,先述の群間比較同様の分析を実施した。その結 果,高群と低群の比較において(a)部下のストレス評価で,高群では,介入直後 - 介入前 に「自覚的な身体負担度」の減少傾向〔t(12)=2.08, p<.10〕,および「上司からのサポート」

と「仕 事 や 生 活 の 満 足 度」の 増 加 傾 向 が 認 め ら れ〔t(12)=2.02, p<.10;t(12)=1.98, p<.10〕,介入後 4W - 介入直後に「不安感」の減少傾向が認められた〔t(12)=2.05, p<.10〕

こと,(b)上司の非言語的スキル評定で,高群では,介入直後 - 介入前に低群に比べて

「肯定的態度」の増加傾向が認められたこと〔t(4.49)=2.15, p<.10〕,(c)下位項目ごとで は,高群で,介入直後 - 介入前および介入後 4W - 介入前に 「視線を合わせる」の上昇傾向 が認められ〔t(12)=1.97, p<.10; t(12)=2.16, p<.10〕,介入直後 - 介入前に「話を聴く時に落 ち着いてゆったりする」「話を聴くときに相手の顔をまっすぐ見る」が増加し〔t(12)=3.25, p<.01;t(12)=2.23, p<.05〕 「視線を逸らす」「相手をにらむ」の増加傾向が認められ〔t(12)

=2.11, p<.10; t(12)=2.05, p<.10〕,介入後 4W - 介入直後に「話を聴く時にうなずく」が低 下したこと〔t(12)=2.70, p<.05〕の 3 点が明らかになった。(Table1)

【全体的考察】

 第 1 研究の結果,プログラムの効果を測定するための一定の信頼性・妥当性を有する尺度 を作成したことで,本研究における「適切な非言語的スキルの生起頻度が高い状態」とは,

「『肯定的態度』の得点が高い状態」であるという定義が可能となった。

 第 2 研究の結果,プログラム実施による効果として,上司の肯定的態度は下位項目の一部 上昇が認められたものの,部下のストレス低減効果は認められなかった。これには,稲森

(2010)で複数の非言語的スキルを用いた条件のなかで,話し手が話しやすさを感じたこと

(5)

をみれば,適切な非言語的スキルは総合的に向上してこそ効果があるものと考えられる。ま た,「肯定的態度」の増加が認められなかったことは,個人差の影響が大きかったことや,

対象者にとって,「肯定的態度」を用いることの方が,「拒絶的態度」を抑えることよりも難 易度が高かったことが考えられる。HW 実施数によって効果に差があったことは,SST を 実施するうえで HW の設定や記録を重要視している佐藤(2008)や渡辺(1996)を支持し ている。そのため,HW をより実行した高群では,上司の「肯定的態度」を部下が認識 し,その結果,「上司からのサポート」が増加したと考えられる。また,「上司からのサポー ト」とやや強い正の相関(r=.619)があった「仕事や生活の満足度」も併せて向上したも のと思われる。さらに,「不安感」が介入後 4 週間経過時に低下したことは,職業性ストレ スモデル(Hurrell & McLaney, 1988)の通り,上司からのサポートが緩衝要因として働 き,その結果として,ストレス反応のひとつである「不安感」が減少したことが考えられ る。したがって,仮説 2)が支持されたといえる。これにより,上司が日常的に適切な非言 語的スキルを多く用いることで部下のストレス低減につながることが示唆された。

 本研究では,一般企業を対象としていることから,業務への支障を最低限に抑えるよう配 慮した。そのため,質問紙調査を必要最低限に抑え,群の割り付けを拠点ごとにするなど条 件を充分に統制できなかった。また,業務中に回答を求めているため,サンプル数は想定以 下となり,検定力低下の問題にもつながった。また,人員の流動性を考慮し,3 か月の期間 にすべての介入を実施したため,効果は短期限定のものとなった。今後は,対象者の状況を ふまえ,手続きをより工夫することや,サンプル数を充分に確保すること,併せて,長期的 な効果についての検討が望まれる。

字数制限により引用文献は省略。

(6)

高群 5 -.60 (0.55) 2.08 † .40 (0.55) 1.90a)n.s. -.20 (0.45) .42 n.s.

低群 9 .00 (0.50) -.11 (0.33) -.11 (0.33)

高群 5 1.60 (1.82) 1.71 n.s. -1.00 (1.41) 2.05 † .60 (1.82) .21 n.s.

低群 9 -.56 (2.46) .89 (1.76) .33 (2.50)

高群 5 1.20 (2.17) 2.02 † -1.00 (1.73) 1.72 n.s. .20 (0.45) 1.33 n.s.

低群 9 -.67 (1.32) .22 (0.97) -.44 (1.01)

高群 5 .40 (0.89) 1.98 † .00 (0.00) .73a)n.s. .40 (0.89) 1.36 n.s.

低群 9 -.67 (1.00) .33 (1.00) -.33 (1.00)

高群 5 4.80 (5.85) 2.15a) -2.80 (3.56) 1.82a)n.s. 2.00 (4.85) 1.19a)n.s.

低群 9 -1.00 (1.94) .33 (1.94) -.67 (1.73)

高群 5 .80 (1.30) 1.97 † -.20 (0.84) .23 n.s. .60 (0.89) 2.16 †

低群 9 -.22 (0.67) -.11 (0.60) -.33 (0.71)

高群 5 .40 (0.89) 1.17 n.s. -.80 (0.45) 2.70 * -.40 (1.34) .64a)n.s.

低群 9 -.33 (1.22) .33 (0.87) .00 (0.50)

高群 5 1.60 (1.14) 3.25 ** -.80 (1.30) 1.32a)n.s. .80 (1.10) 1.37a)n.s.

低群 9 .11 (0.60) .00 (0.50) .11 (0.33)

高群 5 1.00 (1.41) 2.23 * -.20 (0.84) 1.31 n.s. .80 (1.79) .71a)n.s.

低群 9 -.44 (1.01) .67 (1.32) .22 (0.44)

高群 5 3.20 (2.95) 1.75 n.s. -3.40 (10.57) .68a)n.s. -.20 (8.14) .12 n.s.

低群 9 -.44 (4.07) -.11 (3.22) -.56 (3.13)

高群 5 .60 (0.89) 2.11 † -.60 (1.95) .99 n.s. .00 (1.22) .55 n.s.

低群 9 -.44 (0.88) .11 (0.78) -.33 (1.00)

高群 5 1.00 (0.71) 2.05 † -.80 (1.92) 1.03a)n.s. .20 (1.48) .22 n.s.

低群 9 .22 (0.67) .11 (0.60) .33 (0.87)

高群 5 -.60 (0.55) 1.91 † .20 (0.84) .05 n.s. -.40 (0.89) 1.51 n.s.

低群 9 .33 (1.00) .22 (0.67) .56 (1.24)

**p<.01,*p<.05, †p<.10 a)Welchのt検定 ※主要尺度および有意・有意傾向が認められた尺度のみ表記。

不安感

自覚的な身体的負担度

Mean(SD) t値

介入直後-介入前 介入後4W-介入直後 介入後4W-介入前

Mean(SD) t値 Mean(SD) t値

仕事や生活の満足度 上司からのサポート

肯定的態度

 話を聴く時にうなずく

 話を聴く時に落ち着いてゆったりす

 話を聴くときに相手の顔をまっすぐ  視線を合わせる

 話を聴く時に腕組みをする  視線を逸らす

 相手をにらむ 拒絶的態度

和田朋美

参照

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