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小学校社会科におけるコンピュータの利用

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(1)

小学校社会科におけるコンピュータの利用

一利用類型化モデルの構築−

福田正弘*

はじめに

昭和62年(1987年)の教育課程審議会「答申」(「幼稚園,小学校,中学校及び高等学校の教育課 程の基準の改善について(答申)」)において,「社会の情報化に主体的に対応できる基礎的な資質 を養う観点から,情報の理解,選択,処理,創造などに必要な能力並びにコンピュータ等の情報手段 を活用する能力と態度の育成が図られるよう配慮する。・」として,学校教育における情報化への対応 の必要性が明記された。そして,この「答申」を受けて改訂された平成元年版「小学校学習指導要領」

(文部省,1989a)では,第1章総則で「視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図 る」(p.4)と述べられ,さらにこれを具体化した同年版「小学校指導書教育課程一般編」(文部省,

1989b)では,「コンピュータについては,小学校ではそれに慣れ親しませることを基本としており,

教科の指導において指導の効果を高める観点から利用したり,クラブ活動で利用したりすることが考 えられる。」(p.70)という具合に,小学校におけるコンピュータの利用が説かれている。

このように情幸田ヒへの対応は,今回の教育課程改訂の基底の一つをなしており,その中核にコンピュー タの利用が据えられていると考えられる。当然,小学校社会科もこの流れの中にあり,情報化への取 り組みを図っている。例えば,「小学校学習指導要領」や「小学校指導書社会編」(文部省,1989C)

では,「放送,新聞,電信電話」の所謂情報産業の単元を付加したり,観察・調査や表現といった主 体的な情報処理活動を重視したりしている。しかし,このような取り組みは,情報化に対する一般的 な対応に過ぎず,その中核部分たるコンピュータの利用については,一言も触れられていない。この 傾向は,平成5年に出された「小学校社会指導資料 新しい学力観に立つ社会科の学習指導の創造」

(文部省,1993)において,「なお,近年,コンピュータなどの教育機器の利用が増えており,社会 科の学習指導においても,子供の学習意欲を高め,指導の効果をあげる観点から,利用の場面や方法 についての実践を充実する必要がある。」(p.63)として,コンピュータ利用の必要性を説くに至っ て幾分変わってきたものの,具体的な使用例の記述はなく,一般的な啓蒙に留っている。

勿論,社会科における情報化への対応は,コンピュータの利用に限定される訳ではない。しかし,

学校にコンピュータが加速度的に普及しており,社会科もコンピュータ利用から無縁でいられなくな る状況にある。こうした状況において,社会科におけるコンピュータの利用を時代の強制として受動 的に受け入れるのではなく,むしろ逆に社会科教育の立場から積極的に捉えて,その有効利用を考え ていくべきであろう。そうでないと,社会科を理解しない人達によってコンピュータが導入され,社 会科にとって無意味な,或いは有害な利用がまかり通ることにもなりかねないからだ。社会科授業に コンピュータを導入するのは,エンジニアでも一部のコンピュータ狂でもない。それは,日々授業を

* 長崎大学教育学部社会科教育教室

(2)

行っている社会科教師自身であるo 本稿は,こうした立場から,コンピュータの専門家でない社会科 教師が,社会科教育にとって意味のあるコンピュータ利用とは何かについて考察する際の判断指標を 提供しようとするものであるo そのために,社会科におけるコンビュータの利用法を類型化しようと するこれまでの研究を挙げ,それらを批判的に検討した上で,筆者の類型化モデルを提案するo

1 目的と機能による類型化

コンピュータの利用法を類型化する場合,コンピュータ利用の目的を説き,その達成を可能にする コンピュータの様々な機能によって類型化するのが一般的である。特に,情報化への対応の一手段と してコンピュータ利用を考える場合は,こういった種類の類型化が顕著であるoつまり,この種の類 型化では,将来の人間に必要な能力をメニューとして示し,そのメニューに従ってコンピュータの機 能を位置付けるのであるD では,社会科ではこのような類型化はどのようになされるであろうか。

このような類型化の例として, Glenn & Ratwitsch  (1984)の研究を挙げることが出来るO 彼ら は,プログラミング教育が最高のコンピュータ利用教育と考えられていた1970年代を反省して,社会 科にコンピュータを導入すべき根拠として次の3点を挙げている (p.7)。

1) 情報化社会への準備

社会科は生徒の社会参加を準備すべきであるD コンピュータは現在及び将来の社会を大きく変 革するもので,コンピュータに関する知識・技能は社会参加の必須の条件である。

2)コンピュータを利用した新しい社会探求法の獲得

社会科は社会科学の事実・概念・法則とその研究方法に基づいているo最近の社会科学はコン ピュータを利用した新しい研究方法を確立しており,社会科でもコンピュータを用いた社会探求 法を教授すべきである。

3)教師の日常業務の援助

コンピュータは教師の日常業務の遂行を援助する有効なツールであり,教師の日常業務の効率 化と軽減化が図れるo

すなわち, 1) は情報化による社会変化に対応した社会科の目標の改善からコンピュータの導入を 根拠付けるもの, 2)は社会科のパックグラウンドとしての社会科学の変容から,社会科の内容と方 法の改善を求めるもの, 3)は教師がコンピュータ導入に踏み切る実際的根拠,と言える。このよう に社会科へのコンピュータの導入を根拠付けた後,彼らは,コンピュータの機能に着目して,次のよ うな5つの利用法を提示している (pp.8‑14) 

①内容伝達の手段

情報伝達メディアとしてコンピュータを利用するもの

②情報の引き出しゃ分析のツール

情報検索や情報加工といった情報処理機としてコンピュータを利用するもの

③社会における技術使用の例

情報社会の中核としてコンピュータ自身を教材として使用するもの

④思考技能の発達のためのツール

(3)

意思決定能力を育成するためコンピュータシミュレーションを利用するもの

⑤教室運営の補助

ワードプロセッシングやテスト作成,得点処理の道具としてコンビュータを利用するもの このうち③の利用法は,純然たるコンピュータの機能とは呼べないが,この5つの利用法を見ると,

①②④は授業過程においてコンピュータを教具として使用する方法,③は情報化社会そのものを教え る教材としてコンピュータを利用する方法,⑤は教師が日常業務を遂行する補助具としてコンピュー タを使用する方法と言えるロそして,教具としての使用は上記の根拠の1)と2),教材としての使用 は1),補助具としての使用は3)にそれぞれ対応していると思われる。このように,彼らの類型化モ デルは,コンビュータの機能から技術的に抽出された利用可能性を列挙するというものではなく,情 報化への対応という社会科の課題を達成する手段としてのコンピュータの利用法を捉えている点で,

意義深いo

しかし,この類型化モデルは,具体的な学習過程についての考察を欠いており,社会科におけるコ ンピュータの利用法の形式的整理に過ぎないと言わざるをえない。具体的な授業場面における利用法 が考えられなければ,類型化の意味も小さい。社会科の課題とコンピュータの機能に加えて,どのよ うな授業がなされるのかが重要な問題となってくる。彼らも言うように,

r

コンピュータを用いても 貧弱な授業は,やはり貧弱な授業

J

(p. 22)でしかないのである。

2 社会科観による類型化

一般的に社会科の目標は「社会認識を通じて公民的資質を育成する

J

ことにあるとされている。戦 後我が国に社会科が誕生して以来,幾度か「学習指導要領jの改訂がなされてきたが,この目標構造 は変わっていない。しかし,その捉え方によって様々な社会科論が展開されてきたこともまた事実で あるo つまり,目標の前段部分(社会認識)に力点を置くもの,後段部分(公民的資質)に力点を置 くもの,前後段両者の統合に力点を置くもの等々の社会科論であるo社会科の授業を行っている教師 は,多かれ少なかれこれらの社会科論に影響を受け,自身の社会科観を形成しているo教師の持つ社 会科観は,社会科授業を作る際の理論的基盤となっており,実際になされている社会科授業は,その 教師の社会科観を反映したものと言えるD 今,コンピュータという教具があり,それをどう使うかと 関われた場合,教師iは自分の日々の授業を思い出し,その中で使用法を考えるであろうD このように,

授業においてコンピュータをどのように利用するかという問題は,どのような社会科授業をおこなう かという問題に依存しており,結局のところ教師の社会科観に依存していると言えるoでは,教師の 社会科観によって,コンビュータの利用法にはどのような違いが生ずるのだろうか。

この課題に答えてくれるのが,アメリカの Budin,Taylor & Kendall (1987)の研究である。彼 らは,社会科授業においてよく利用されるソフトウェアの型を列挙し,その各々を教師の社会科観に 大きな影響を与えている社会科教育の伝統の中に位置付けているo

彼らが採り上げたソフトウェアの型は, ドリルアンドプラクテイス,シミュレーション,データベー ス検索の3タイプである。それらは各々次のような特徴を持つと解説されているo まず, ドリルアン ドプラクテイスとは,

r

授業がなされているのと同じ方法で,つまりコースの内容を生徒に伝達する

(4)

ことによって,通常の授業を補完するもの

J

(p. 8)で,最も普及している型であるロ具体的には,

テキスト文やグラフィックスによって情報が提示され,質問(多くの場合多肢選択問題)によって子 どもの理解度がチェックされるという形式のものであるoシミュレーションとは,

r

生徒に代行的経

験を与えることを目指し,それを通じて他の時代や背景についてのより深い理解を与えるもの

J

(p.  8)であるo具体的には,コンピュータ上に設定された具体的な意思決定場面において,子どもが自

らの判断内容の入力,その結果のフィードパック,再入力の過程を反復することによって,シミュレー ションを制御している変数間の関係を把握すると同時に,一定の制約条件下での意思決定の訓練の場 を提供するものであるロデータベース検索とは,文字通り必要なデータをコンピュータで検索するも のである。ただ,データベース検索のソフトウェアは,ワードプロッセシングや表計算,グラフ作成 機能と一体化して用いることによって,単なるデータ検索に留らず,

r

情報を組織し,仮説をテスト し,推論をなし,関係を分析し,順序立ててデータを再組織し,そしてトレンドを読む

J

(p.  8)  と いう高度な情報操作を可能にするものであるD

一方,彼らは社会科教育に見られる支配的伝統として,社会科学の伝統,反省的探求の伝統,市民 的資質の伝達の3つを挙げている (p.9) 。社会科学の伝統は,知識の探求と検証に方向付けられた 社会科学の方法の育成を目標とする社会科観であり,社会科学科として社会科を構想する立場である。

反省的探求の伝統は,子どもが生活上の問題を確認し,探求を通じてその問題の答えを発見すること を第一義に考える社会科観で,問題解決科として社会科を構想する立場であるo最後に,市民的資質 の伝達は,教科書,講義, ドリル等に依存して市民的常識としての概念や価値の伝達を目指す社会科 観で,市民的常識科として社会科を構想する立場であるo彼らによると,実際の社会科実践で最も多 く見られるのは,市民的資質の伝達に属する授業で,教科書依存の暗記型授業が圧倒的であるとして いる (p.9) 

このように,彼らは,社会科によく見られる 3タイプのソフトウェアと,教師の社会科観に影響を 及ぼしている 3つの社会科教育の伝統を明らかにした。そして次に,彼らはソフトウェアのタイプと 社会科教育の伝統を,次のように関係付けている。すなわち, ドリルアンドプラクテイスは市民的資 質の伝達,シミュレーションは反省的探求の伝統,データベース検索は社会科学の伝統にそれぞれ起 源を持つとするのである。と言うのは, ドリルアンドプラクテイスと市民的資質の伝達には「伝達に よる知識の形成

J

,シミュレーションと反省的探求の伝統には「意思決定による問題解決能力の育成

J

, データベース検索と社会科学の伝統には「コンピュータによる新しい社会探求方法j といった共通的 性格が見て取れるからであるo

社会科授業における様々なコンピュータの利用法には,それぞれ伝統的な社会科観が背景として控 えており,教師の持つ社会科観によってコンピュータの利用方法も異なってくるのであるo従って,

本来多様な利用可能性を持つコンピュータを,教師は自身の社会科観の範囲でしか受け入れず,結果 として一面的なコンピュータの使用に留ってしまうことになるのであるD そうならないためにも,教 師jの社会科観を相対化することが必要であり,それを可能にする類型化モデルを構築する必要があ る口

(5)

3 学習内容による類型化

次に,社会科の学習内容の視点から,コンピュータの利用法を類型化する研究を検討してみようo

上の2つの類型化は,情報化に対して社会科はコンピュータを用いて何をすべきか,教師がどのよう な社会科観を有しているか,という理念型による類型化であった。それに対し,学習内容からの類型 化は,実際に学習者は何を学習しているのかという学習結果からの類型化である口それゆえ,これは より現実的な類型化ということが出来,それだけ教師の日常の社会科授業の分析にも役立ち,教師の 社会科観を相対化しうるものと言えるO

ところで,社会科授業で,子どもが学習の成果として身に付けるものは多種多様であるD それは,

歴史上の人物名,地名,事件名といった事実を表わす知識であったり,価格変動を需給量の変化で説 明する概念や法則であったり,地図を読んだり描いたりする読図・描図の能力であったり,はたまた 友達と協力しようという社会的態度であったりもする口しかし,学習成果の厳密な評価ならいざ知ら ず,これらの学習成果の全てを指標として類型化モデルを作ることは,生産的でなく,また不可能で もあるD そこで,学習成果の一部に焦点化する必要が生じてくることになる。では,その場合,何に 焦点化して類型化指標を設定すればよいのだろうか。

この課題に答えてくれるのが,中村(1991)の研究である口彼は,社会科におけるコンピュータ利 用の問題は,利用される学習ソフトの問題であるとして,アメリカにおいて現存する社会科学習ソフ トを収集し,その学習理論的性格による類型化を試みているo そして,その学習理論的性格を決定す る指標として,①学習内容である知識の性格,②知識に対する学習者の学習的関与の2つを挙げてい る。中村は①の指標とそれによる類型結果について,次のように述べている。

「・・・社会科学習ソフトプログラムにおいて学習者が学習する知識の性格を検討すると,社会事 象についての認知方法 (HOWの記述)を表現した知識(以下,手続き的知識と称する。)と社会事 象についての認知内容 (WHATの記述)を表現した知識(以下,構造化知識と称する。)に類別さ れるoそして,各社会科学習ソフトプログラムにおいては,前者の手続き的知識の学習を主目的とす るもの・後者の構造化知識の学習を主目的とするもの・両知識の学習を目的とするものに分かれる。j (p.  5) 

このように,中村は指標①から,手続き的知識,構造化知識,その両者の知識という知識形成に焦 点を当てた3種類の類型を導き出しているO そして,次にこの類型に指標②を対応させて,類型化モ デルを完成しているD 続いて,彼はこう述べているo

「さらに,各知識についての学習者の学習的関与を検討すると次のようになっている。手続き的知 識の学習では,学習者がそれらの知識を反復的に利用しているo構造化知識の学習では,学習者がそ れらの知識を検索しているものとそれらの知識を習得しているものに区分されるD 両知識の学習では,

学習者が手続き的知識を利用し,構造化知識を習得・成長させて,両知識の活用をしているロ」匂.5)  つまり,知識への学習的関与という指標②は,指標①の知識の性格に従属するもので,相互に独立 したものとは考えられていない。それゆえ,中村の類型化モデルは,指標①×指標②の2次元モデル とはならず,指標①に指標②がくっついた1次元モデルと言える。その結果,性格の異なった知識に 特有の学習的関与の仕方が加わった4つの類型,

r

知識利用j,

r

知識検索j,

r

知識習得j,

r

知識活用

J

(6)

が,社会科学習ソフトプログラムの学習理論的性格による類型として提示されるのであるo

このように中村の類型化モデルは,学習成呆である知識の性格による類型化モデルと言えるo上述 のように学習成果は多種多様であるので,学習成果に着目した類型化モデルを構築するには,その一 部に焦点化しなければならなかった。その点で,知識の性格に焦点化した中村の類型化モデルは参考 になるo ただ中村の類型化モデルは,知識の中に手続き的知識 (knowing how) を含み入れ,通常 の知識類型と異なっており,理解しずらいものとなっている。つまり,手続き的知識は構造化知識の 獲得過程において同時的に習得されるとするのが一般的であり,両者を分けることに若干の疑問が残 るのである。やはり,知識は構造化知識に限定し,手続き的知識は知識として外在化させずに,学習 過程や学習方法として指標化した方が生産的ではなかろうか。この方が,日常の授業を見る目でコン

ピュータ利用を考えることが出来るし,教師の社会科観を明示化することも出来るからであるo

4 コンビュータ利用の類型化モデル

そこで,中村 (1991)の類型化モデルの着想を生かしつつ修正を加えて,知識の質と学習者の情報 との関係という 2つの指標を座標軸とする類型化モデルを提示してみるo

中村(1991)による知識の性格類型は,手続き的知識と構造化知識の2つであった。しかし,上で は触れなかったが,中村は構造化知識を更に事実的知識と概念的知識に分けているo これは,一般的 な知識類型に従ったものと言えるoすなわち,通常,社会認識は,社会において生じている或いは生 じた様々な事実について知っているという事実的認識(事実的知識) ,個別の社会事象を類型化し,

共通した事例として概括する概念的認識(概念的知識) ,それらの事象は他の事象が原因になって生 起しており,その関係が恒常的に続く社会システムがあるとする法則的認識(法則的認識)によって 構成されるとされ,中村は後の2者を概念的知識としたのであるO

しかも,この3つの知識の形成関係を見ると,事実的知識→概念的知識→法則的知識という順序に なっており,後者が前者を前提条件としていることが分かる。つまり,法則的認識が可能なためには 概念的認識が出来ていなければならず,概念的認識が可能なためには事実的認識がなければならない のである。いわば3つの知識は,事実的知識を基盤にした層構造をなしていると言えるD 従って,社 会科授業をその与えている知識のレベルで見る場合,この3つの知識類型は有効な指標となるo社会 科におけるコンピュータの利用法を考える場合も,同様であろう。それで,コンピュータの利用が,

事実的知識,概念的知識,法則的知識のうち,どのレベルの知識を形成していることになるのかとい う知識の質を,類型化指標のlつとして採用することが出来るo

次に,中村 (1991)のもう lつの類型化指標である知識に対する学習者の学習的関与は,結局は知 識の性格へ一元化されるものの,学習者の主体性に着目したものと言え,注目に値するo彼の提示し た4つの類型は全て,知識の利用,検索,習得,活用といった学習者の主体的な活動を含んでいる。

そこには,知識を与えられるもの,強制的に暗記させられるものといった静的で受動的な学習観は見 られない。知識の受容ではなく,知識の獲得,活用に力点を置いた学習観が展開されている。そこで,

コンピュータ利用の社会科授業において,どれだけ子どもの主体性が保障されているのか,つまり学 習者の主体性をもう lつの類型化の指標としたい。

(7)

ところが,学習者の主体性という指標には,主観的な要素が多く入り込み,客観的な類型化が出来 なくなる恐れがある。そこで,学習者の主体性を学習活動における学習者の情報との関わりとして考 えてみたい。と言うのは,学習者が学習に主体的に取り組んでいる時には,情報に対して積極的能動 的に関わっているのに対し,そうでない時はそのような関わり方は見られないからである。つまり,

学習者がどのように情報に関わっているかという客観的な指標によって,学習者の主体性を表わすこ とが出来るのであるo 学習者の情報への関わり方には,受容,探求,提示の3つがあると考えられる。

つまり,受容では,学習者は情報を受容すべき対象として見ており,受信者の立場に立っており,探 求では,情報を自己探求の対象と見ており,探求者の立場に立っている。また,提示では,情報その

ものを組み替えの対象と見ており,提案者の立場に立っている。このように学習者の主体性という指 標は,学習者の情報との関係として具体的に表わせ,客観的な類型化指標として用いることが出来る。

それで,学習者の情報との関係を第2の類型化指標として採用する。

以上2つの類型化指標をクロスさせることによって,図1に見られるような合計9つの類型からな る類型化モデルが得られるo そこで,図1に示された9つの類型について若干の説明を加え,社会科 において現在見受けられるコンピュータ利用の諸形態を当てはめてみると,次のようになろうo

知 識 の 質

事実的知識 概念的知識 法則的知識

'

3乙.  n廿a 事実受容型 概念受容型 法則受容型 手

R

t

菜 求 事実探求型 概念探求型 法則探求型

の 関

係 提 事実提示型 概念提示型 法則提示型

図1 社会科におけるコンピュータ利用法の類型化モデル

事実受容型は,個別の社会事象に関する様々な事実的知識を,コンピュータによって与えられたり,

テストされたりするもので, ドリル型の

CAI

が典型的であるo

概念受容型は,個別の社会事象を概括する概念的知識を,コンピュータの説明文やグラフィックス を通じて与えられるもので,チュートリアルが典型的であるo

法則受容型は,社会事象聞の関係を示す法則的知識を,コンピュータの説明文やグラフィックスを 通じて与えられるもので,チュートリアルやデモンストレーシヨンが典型的である。

事実探求型は,事実的知識をコンピュータによって調べるもので,データベース検索が典型的であ るD

概念探求型は,事実的知識をコンピュータを使って整理し,概念的知識を獲得するもので,表計算 やグラフイツクソフトを用いたデータ加工が典型的であるo

法則探求型は,社会事象間の関係をコンピュータへの入出力を通じて発見していくもので,知識獲 得型のシミュレーションが典型的である。

(8)

事実提示型は,自身で調べた事実的知識をコンピュータに蓄積していくもので,自身でデータベー スを構築するデーターベース創造が典型的である。

概念提示型は,データの加工によって得られた概念的知識を,第3者に見やすい表示形式に表現す るもので,ワードプロッセンシングや図形ソフトを利用した表現活動が典型的である。

法則提示型は,法則的知識を活用して,現実の問題解決策をコンピュータ上で提示するもので,問 題解決型のシミュレーションが典型的であるo

おわりに

以上,社会科におけるコンピュータの効果的な利用法を考える際の指標として,これまでのコンビュー タ利用を類型化する研究を批判的に検討し 9つの類型からなる類型化モデルを提案してみた。この 類型化モデルは,社会科教師の日常の授業にも適用出来,日々の授業を反省する指標としても役に立 つと思われる。日々の授業を批判的に吟味しつつ,社会科教育の目的をより一層達成する授業を開発 し,その中で強力な助っ人としてコンピュータが位置付けられることが理想であるo しかし,本稿で 具体例を十分に示し得なかったように,社会科におけるコンピュータ利用は未開拓の研究分野である。

今後,今回提示した9つの利用類型を具体的な授業実践の形で提示できるように,実践的研究を展開 していきたい。

文 献

Budin, H., Taylor, R. & Kendall, D.  (1987).  Computers and Social Studies: Trends and Direc‑ tions.  The Social Studies, 78 (1), pp. 712.

Glenn, A. & Ratwitsch, D.  (1984).  Computing in  the  Social  Studies  Classroom.  International  Council for Computers in Education (ICEE). 

中 村 哲 (1991).社会科学習ソフトプログラムの理論的性格と活用課題ーアメリカ社会科学習ソフトプログラ ムを事例にして社会科教育研究, 64, pp.  120.

文部省 (1989a).小学校学習指導要領.大蔵省印刷局.

文部省 (1989b).小学校指導書教育課程一般編.ぎょうせい.

文部省 (1989c).小学校指導書社会編.学校図書.

文部省 (1993).小学校社会指導資料新しい学力観に立つ社会科の学習指導の創造.東洋館出版.

参照

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