アクションの動向
著者 吉田 仁美
雑誌名 同志社アメリカ研究
号 38
ページ 87‑102
発行年 2002‑03‑20
権利 同志社大学アメリカ研究所
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000001428
はじめに
アメリカにおけるアファーマティブ・アクションに対 する風当たりは、近年、非常に厳しい。1995年の アダランド対ペナ判決1は、人種を理由にしたアフ ァーマティブ・アクションの合憲性審査基準として、
他の人種差別事件と同様、厳格審査を適用する という判断を示した。厳格審査をパスするのは非 常に難しいと考えられるため、この判決によって 人種を理由としたアファーマティブ・アクションは事 実上許されなくなったのではないかという観測が されている。しかし、それでも、行政がアファーマ ティブ・アクションをアダランド判決に合うように修 正したり、人種中立的な方法を採るなど、なんら かの方策を講じてアファーマティブ・アクションを実 施している場合がある。
このような状況下で、女性に対するアファーマ ティブ・アクションの合憲性については、人種を理 由としたアファーマティブ・アクションに比べて、話 題にのぼること自体が少ない。連邦控訴裁判所 の判決はあるが、最高裁判決はまだ一件もない。
ところが、われわれ日本人がより関心を持つの は、むしろ、女性に対するアファーマティブ・アクシ ョンの方であると思う。1999年に改正された男女 雇用機会均等法の第9条には、女性管理職を増や すための教育、研修など、ポジティブ・アクションを 行った場合、国の援助が受けられる旨の規定が置 かれた。第9条は、「雇用の分野における男女の均 等な機会および待遇の確保の支障となっている事 情を改善する措置」をポジティブ・アクションとして、
違法ではないとしている。この、日本の雇用機会均 等法のポジティブ・アクションは、アメリカでアファー マティブ・アクション、ヨーロッパでポジティブ・アクシ ョンと呼ばれる優遇措置制度を雛形とした。2
ポジティブ・アクションの具体的なプログラムの合 法性について、厚生労働省雇用均等・児童家庭 局は、強制的割当制(quota、以下、単に割当制と 表記する)などの措置をとって機械的に一定割合 の女性を管理職につけるなどの方策をとらない限 り、逆差別ではない、という見解をとっている。3実 際に現在行われているポジティブ・アクションは、
業種によって取り組み状況に大きな差がある。4具 体的な実施例を見ると、女性労働者の職域の拡 大や、管理職への登用、能力開発の支援、女性ド ライバーが妊娠した際に他の職種への配転を認 めて勤続年数の伸張をはかること、幹部職員の意 識改革や、セクハラの防止、育児支援などによる 職場環境の整備などが挙げられている。5 女性の 登用に、数値目標をおいている企業もみられる。6
こうした優遇措置について逆差別の訴えがあ れば、男女雇用機会均等法9条や行政の見解に もかかわらず、最高法規である憲法14条の平等 権の規定のもとでその合憲性か問われる場面が ありうる。その際には、アメリカのアファーマティ ブ・アクション、ヨーロッパのポジティブ・アクション に関する法理を参考にすることができる。
田 仁 美
1.Adarand Constructors v. Pena, 515 U. S. 200 (1995).
アダランド判決とその影響について、拙稿「アファーマティ ブ・アクションの退潮」『同志社アメリカ研究』36 (2000) 71。
2.厚生労働省雇用均等・児童家庭局編『女性労働白書−
働く女性の実状−』(財団法人21世紀職業財団、2000)
78。
3.Ibid.
4.Ibid.,79-83.
5. Ibid.,84-93.
6.Ibid.,85.
ヨーロッパでは、アメリカでは違憲であるという 見解が定着し7、わが国の厚生労働省も違法とみ なしている割当制(quota)を用い、ある割合の女 性を入学させる、あるいは採用するという手法も 認められており、一般に、より広く優遇措置が許 容されている。8しかし、ヨーロッパでも、すでに、
このようなプログラムの妥当性を問う2つの事件 が起こっている。9
アメリカでは、アファーマティブ・アクションに対し ては、逆差別であるという意見が強く、より激しい 論争が行われてきた。しかし、先述したように、主
に焦点となってきたのは人種を理由としたアファ ーマティブ・アクションであった。本稿では、アメリ カで女性に対してどのようなアファーマティブ・アク ションが行われているのか、アメリカ憲法の平等保 護10との関係でどういう争点があるのかについ て、若干の研究を試みたいと思う。Iでは、まず、
どのような類型のアファーマティブ・アクションが女 性に対して行われ、そのどのような点が合憲性を 争う上で問題になっているのかに焦点を当てて、
連邦控訴裁判所の判決を紹介する。IIでは、どの ような基準で、性別に基づくアファーマティブ・アク ションが憲法上許容されるかどうかが判断される のか、という点に話をすすめてゆく。
I. 女性に対するアファーマティブ・アクショ ンの類型
アメリカでは、女性に対するアファーマティブ・ア クションの合憲性に関する最高裁判決はまだ1件 もない。ここでは、主に連邦控訴裁判所の判決を、
どのようなアファーマティブ・アクション・プログラム が実施され、どのような点が問題になったのかを 中心に紹介する。紙幅の制約のため、様々な批 判に配慮して作られた、より最近のプログラムを 選んだ。
性別を理由としたアファーマティブ・アクションの 合憲性の分析については、控訴裁判所は、厳格 審 査 を 適 用 する場 合と、い わ ゆる中 間 審 査 (intermediate scrutiny)を適用する場合があり、
長らく合憲性審査基準が一定しない状況だった。
ひとつには、女性に対するアファーマティブ・アク ション・プログラムの合憲性が問題になった連邦 控訴裁判所の判決を見る限り、女性のみをターゲ ットにしているプログラムは見あたらないことが関 連している。多くのプログラムは、人種的マイノリ 7. Bakk v. University of California, 438 U.S. 265
(1977).
8. Louice Ackers, "The Development of Affirmative Action in European Commission Policy-Making:
Assessing The Risks," Journal of Social Welfare and Family Law 22 (2000): 347.
9. Kalanke v. Freie Hansestadt Bremen (C-450/93 [1995] ECR I-I-3051; [1996] ICR 314(ECJ)), Marschall v. Land Nordrhein Westfalen (C- 409/95 [1997] AII ER (EC) 865; [1998] IRLR 39 (ECJ)). Kalanke事件について、“Kalanke v.
Freie Hansestadt Bremen:The Significance of Kalanke Decision on Future Positive Action Programs in the European Union,” 30 V. and J.
Transnational Law,1087.この判決は、女性に、雇 用において、絶対的な、あるいは無条件の優遇を与える ドイツ州法が、ヨーロッパ平等取り扱い指令、Council Directive 76/207/Eec, 1976 O. J. (L39) 40、に反 するとした。
また、従来、女性に対する優遇措置の男女の平等に対 する効果は、その正当性について、また、手続的平等と 実質的平等の関係について、理論的抽象的なレベルで 議論されてきたが、最近では、特定の統計や政策の問題 と関連して、哲学的法的議論を深めて行くことが有用だと いう考え方がされていることが指摘されている。Ackers,
"The Development of Affirmative Action," 347.
割当制に対しても、様々な角度から検討が加えられてい るようだ。女性差別だけでなく、ライフ・コースや労働市場、
雇用構造、(女性に対する)期待、国全体の経済の動向 や社会福祉など、外の様々の要因を考慮に入れ、より狭 い範囲の、適切な政策で対応すべきだ、社会的現実や 個人の能力といった外の要因を無視した単純な数的結 果を採用せず、もっと適切な程度の介入を検討すべきだ、
能力本意の評価をすべきだ、哲学的道徳的見地から、逆 差別に反対だ、優遇措置は女性に烙印を押す、個人を 優遇するのでなく、意思決定機関に女性を平等に参加 させることで、手続き的正義を確保すべきだ、などといっ た、様々な意見が指摘されている。Ackers, "The Development of Affirmative Action" 全般を参照。
10.連邦に対しては修正5条のデュー・プロセス条項、州と その機関である地方公共団体に対しては、修正14条 が平等保護を定める。現在では、判例によって、どちら の条項によるかによって合憲性審査基準等に差はな いとされている。
ティーや、障害者、地域性などに基づくカテゴリー のひとつとして女性を対象に加えている。そのた め、裁判所によっては、プログラムの合憲性を、対 象をひとくくりにして厳格審査で判断しているもの もあり、個別に対象を分けて違う審査基準を適用 しているものもある。
逆差別の訴えがあった場合、当該アファーマテ ィブ・アクション・プログラムがどのような目的で実 施され、その目的を達成するためにどのような手 段がとられたのかが問題になる。その際、どのよ うな合憲性審査基準が適用されるのかは、プログ ラムの合憲性に関する裁判所の判断を大きく左 右する。合憲性審査基準のうち、厳格審査は、政 府行為が非常に重要な政府利益(compelling governmental interest)に仕え、とられた手段が 充分に狭く限られていること(narrowly tailored) を要求し、これをパスして合憲の判断を得るのは 非常に難しい。一方、中間審査は、重要な政府 目的(important governmental interest)に仕え、
とられた手段が目的と実質的に関連していること
(substantially related)を要求し、厳格審査よりは 緩やかな基準である。どの基準が適用されるか は、目的や手段が適用される基準を満たすという ことを証明する際に要求される挙証の程度にも 影響する。
合憲性審査基準が一貫性を欠いているため、
一連の控訴審判決から、性別を理由にしたアファ ーマティブ・アクション・プログラムの合憲性がどの ように審査されるか、また、どのようなプログラムが 合憲または違憲とされるかについて、統一的な説 明を見いだすことは難しい。
1.公共事業におけるアファーマティブ・ア クション
もっとも多いタイプのプログラムは、公共事業に 参入する事業者について、なんらかの優遇措置 を講じるものである。このようなアファーマティブ・
アクション・プログラムを実施する主体は、連邦の プログラムの実施を州が引き受けている場合や、
州が主体の場合、市や郡(county)が独自にプロ グラムを運営する場合など、様々である。プログラ ムの形態も多岐にわたるが、ここでは、2つ紹介し ておく。11
東ペンシルバニア土木建築事業者協会対フィラ デルフィア市事件(1993)12では、市の条例によっ て創出された、公共事業への参入について、人 種的、民族的マイノリティー、女性、障害者に所有 された事業者を優遇するアファーマティブ・アクシ ョン・プログラムが、修正14条のもとで文言上違憲 であると、9つの土木建築事業者協会が争った。
このプログラムは、「不利益を負った事業者
(disadvantaged business enterprises)」の公共事 業への参入の目標を設定していたが、「不利益を 負った事業者」は、社会的経済的に不利益を負 った個人に、51%以上所有されている事業者と 定義されている。社会的経済的に不利益を負っ た個人とは、「特定のグループに所属するために、
人種、性別、民族的偏見に苦しんだ個人、あるい は、障害のために、個人的能力にかかわらず、異 なった扱いを受けた個人で、資本や信用の不足 のために、同じ業種で社会的な不利益を負って いない者よりも、自由競争制度の中で競争力が 阻害された者」13と定義されている。このプログ ラムでは、人種的マイノリティーや女性は社会的経 済的に不利益を負った個人と推定されるが、反 証があれば覆すことが出来る。市の公共事業で 5百万ドル以上の収入を得ている者は、プログラ ムの対象から外される。
11.ここに挙げたものの他、同タイプのプログラムとして、
Association of General Contractors of Califor- nia v. City and County of San Francisco, 813 F. 2d. 922 (1987)、Milwaukee County Pavers Association v. Filder, 922 F. 2d. 419 (1991)、
Concrete Workers of Colorado v. City of Den- ver, 36 F. 3d. 1513 (1994) 5、Coral Construc- tion Company v. King County, 941 F. 2d. 910 (1991)がある。
12. Contractors Association of Eastern Pennsylva- nia, INC. v. City of Philadelphia, 6 F. 3d. 990 (1993).
13.Ibid.,994.
条例は、人種的、民族的マイノリティーに所有さ れた事業者の参入目標を事業総額の15%、女性 所有の事業者については10%、障害者所有の事 業者については2%と設定している。参入目標は、
販売、土木建設事業、人的サービスの3つのタイ プの市の事業の全てに適用され、事業のタイプと 市の部局ごとに計算される。
条例は、マイノリティー事業者委員会(Minority Business Enterprise Council)を設置し、この委 員会が、元請け業者と下請け業者の参入目標を 達成するため、プログラムに関する規則を決定す ることになっていた。14 委員会によって制定され た規則は、事業者が参入目標を達成しようとする 努力を入札の際に要素として考慮することを定 め、それぞれの事業者が(参入目標を達成するよ うな)参加スケジュールを提出するか、事業者が誠 実な努力の結果、目標に達することが出来ない場 合には免除を願い出ることを要求していた。条例 はまた、プログラムの運営のため、以下のような措 置を委員会に求めていた。詐欺行為や濫用を防 止するような不利益を負った事業者の認定手続 を設けること。適度の競争や入札価格に対する 期待を確保するため、充分な数の不利益を負っ た事業者が存在しない場合に、個人やあるクラス の事業者をプログラムから免除すること。委員会 の決定によって、誠実な努力の結果、目標を達成 できない業者に免除を認めること。不利益を負っ た事業者に対するプログラムに適合することが、
市との契約の重要な要件であることを定める契約 の文言を勧告すること。事業者がプログラムに従 うことができなかった場合などの対応措置を発展 させ、勧告すること。15
第3巡回区控訴裁判所は、人種的マイノリティー には厳格審査、女性にはいわゆる中間審査を適 用した。人種的マイノリティーに所有されている事 業者については、プログラムの目的とされた過去 の差別の影響からの救済について、そのような差 別が存在したという数的状況的証拠は充分挙げ られており16、目的を達成する手段が狭く限られ ているかについても、選定された参入目標のパー センテージは不当ではなく、免除その他の個別的 取り扱いが認められていること、条例の適用され る地理的範囲のマイノリティー所有の事業者に対 象が限られていることなどから17、厳格審査をパ スするとされた。しかし、女性が経済的差別に晒 されているのか、10パーセントの参入目標が妥当 なのかについては、市が女性が経済的に差別さ れているという点について、中間審査を満たすに 充分な挙証を行っていないとされた。18障害者に は、合憲性審査基準のうちでは最も緩やかな合 理性の基準を適用し、プログラムを合憲とした。19
技術土木建築協会対メトロポリタン・デード郡事 件(1998)20では、デード郡に所在する、一人また は複数の黒人、ヒスパニック、女性に所有され、
連邦法を基準に、一定以下の規模の事業者とさ れるものに対する優遇措置を実施していたことが 問題になった。このプログラムには、一定規模以 上の事業者でも、まだ差別の影響を被っているこ とを証明した場合には、承認を受けて参加するこ とができた。
プログラムはビル建設、ビル建築以外の重土木 建築、特別設備建築の3つのカテゴリーの土木建 築業に事業参加目標を定めた。黒人所有の事業 者の参加目標は15%、ヒスパニックには19%、女性 には11%であった。これらの目標は、2万5千ドル 14.条例は、委員会に、規則の制定にあたって、勧誘リスト
に載っている不利益を負った事業者を含め、不利益を 負った事業者が参入できる可能性のある場合には常 に勧誘を受けることを保障すること、契約の要件を不 利益を負った事業者の最大限の参加を可能にするよ うに構成すること、契約が留保され、不利益を負った 事業者だけが入札できることになった保護された市場 過程を調査し、勧告をすることなどを考慮に入れるよう、
特に指示していた。
15.Ibid.,993-994.
16.Ibid.,1101-1008.
17.Ibid.,1008-1009.
18.Ibid.,1009-1011.
19.Ibid.,1011-1012.
20. Engineering Contractors Association v. Metro- politan Dade County, 122 F. 3d. 895 (1997).
を越える、郡が一部または全部を出資する事業 に適用された。
郡は5つの手段を使い、数値目標を達成する 努力をすることになっていた。第1に、3つ以上の マイノリティーまたは女性に所有された事業者があ る場合には、入札をそれらの事業者のみの間で 行うよう留保することができた。また、2つ以上の こうした事業者があり、いずれも過去2年の間に 同じ様な事業を得ていない場合には、価格の適 正を分析したあとで、一般の入札を免除すること もできた。第2に、元請け業者が、あるパーセンテ ージのマイノリティーや女性に所有された下請け 業者と契約することを要求する方法があった。パ ーセンテージはケース・バイ・ケースで決められた。
もし、適正な価格で仕事ができるマイノリティーや 女性が所有する事業者がないことが証明された 場合には、この要求の免除を受けることができた。
21 第3に事業別目標という方法があった。郡がマ イノリティーや女性が所有する下請け事業者をプ ールし、郡との契約に基づく特定の事業に関して、
その中から事業者を選んだ。第4の方法は、入札 における優遇である。最低入札額を決定する際 に、最高10パーセントまで、マイノリティーや女性 所有の事業者の入札額を減らす。この減額は、
実際に郡が支払う額には影響しない。第5の方 法は、入札額以外の要因を選定に反映させる方 法である。マイノリティーや女性所有の事業者は、
入札の評価手続が諸要因を考慮することを定め ている場合には、(最低入札額の決定の際に)最 高10%までの優遇を受けることができた。
事業が参加目標の適用対象になると判断され ると、審査委員会がこれらの手法の適用を検討し、
郡議会が最終決定を下す。決定に不服な場合、
郡長官に上訴することが出来る。郡議会が再審 査を決めない限りは、郡長官の決定が最終決定 であった。これらのプログラムは年次毎に効果が 見直され、審査部が報告を出し、郡議会がプログ
ラムを継続するかどうかを決定することになってい た。22
第11巡回控訴区裁判所は、人種や民族に対す るアファーマティブ・アクションには、厳格審査を 適用し23、性別には、いわゆる中間審査を適用し た。24アファーマティブ・アクションが人種差別や性 差別からの救済を目的として実施されたと主張す る場合には、過去に差別が存在したかどうかを 証明しなければならないが、証明の程度は、性 別を理由とするアファーマティブ・アクションの場 合、人種の場合ほど強い証拠を要しないとされ た。25ただし、性別の場合でも、差別の存在の挙 証は、確実性が高い( probable)という程度では 足りず、充分(sufficient)でなくてはならないとさ れた。26しかし、郡が差別の存在を証明する基礎 とした統計は、人種的マイノリティーや女性が所 有している事業者が得る郡の事業の総額のパー センテージを根拠に含めていた。そのため、この 統計結果は小さい事業者が小さい事業を得やす い傾向のせいであるという反論にあって、結局、
いずれについても差別が存在したという挙証が 不充分であるとされた。27手段の面では、人種を 理由にしたアファーマティブ・アクションは、人種 中立的な代替手段が他にあるかどうかの検討を 怠ったことから、手段が充分に狭く限られていな いと判断され、修正14条違反とされた。28 性別 については、プログラムは手段として問題ないと されたが、目的の面での挙証不充分のため、違 憲判決が下された。29
2.地方公共団体の雇用におけるアファー マティブ・アクション
22.Ibid.,900-901.
23.Ibid.,906-907.
24.Ibid.,907-908.
25.Ibid.,909.
26.Ibid.,910.
27.Ibid.,911-924.
28.Ibid.,928-929.
29.Ibid.,929.
21.しかし、マイノリティーや 女 性 所 有 の 事 業 者 が 保 証 (bonding)を受けることが出来ないことは、免除理由に はならなかった。
第2のタイプのプログラムは、雇用30に関する ものである。日本の憲法は、いわゆる私人間効力 を有するというのが通説的見解だが、アメリカでは、
憲法の適用対象は、連邦あるいは州とその機関 たる地方公共団体による、ステイト・アクションに限 られる。純然たる私企業は、憲法の適用対象に はならない。私企業での雇用の機会均等は、1964 年公民権法の第7編31が規制している。そのため、
雇用に関するアファーマティブ・アクションの合憲 性が直接争われるのは、政府機関か、政府機関 と何らかの関係を有する団体の場合に限られる。
ここに挙げる2例のアファーマティブ・アクションは、
警察と消防の事例である。32
ロング対サギノー市事件(1990)33では、1974年 に、ミシガン州サギノー市が人事委員会の勧告に 従って設けた、警察を含む市職員採用における アファーマティブ・アクション・プログラムの合憲性 が問題になった。市は、アファーマティブ・アクショ ンによって雇用される職員というポジションを設置 し、警察には、80%のマイノリティー雇用目標を置 いた。その後、市の各部局の数値目標は修正さ れたが、そのとき、警察が新規雇用をしていなか ったという理由で、警察における数値目標は据え
置かれた。ところが、警察は1979年に、マイノリテ ィーと女性の警官をターゲットに、再び雇用を始 めた。このプランは、1982年まで続けられた。19 80年に、市と労働組合は、非差別、レイオフ、召 還、先任制、退職に関する労働協約(bargaining agreement)を結んだ。警察は経済的事情のため、
1975年から雇用をしていなかったが、1980年に は、原告となった元警官らを一時帰休(furlough) させた。労働協約の文言は、新しい雇用をする 前に、一時帰休させた警官らを全て呼び戻すこと になっていた。ところが、1983年に、一時帰休し た警官のリコールに関する労働協約が変更され、
先任制に従って、ひとりの賜暇された警官を呼び 戻すごとに、ひとりのマイノリティーを新規雇用す ることになった。そのため、原告らが、修正14条と 連邦法違反、および、組合の不当代表(unfair representation)、組合での投票権拒否を理由に 訴訟を提起した。
第6巡回区控訴裁判所は、アファーマティブ・ア クション・プログラムが人種的マイノリティーに対す るものか、女性に対するものかを区別せず、厳格 審査を適用した。34裁判所は、市の行政サービス 部長(Director of Administrative Service)の証言 を根拠として、過去に差別があったという信ずべ き証明を欠くことを指摘した。35手段の点でも、ア ファーマティブ・アクションの根拠として提示された 数的証拠が信用がおけないことから、手段が充分 狭く限られたものだという証明になっていないとし た。3629%のマイノリティーの雇用が可能であると 推定されるところ、7.7%が実際に雇用されている だけだという数的データを示したのみで、なにが 雇用可能な労働者の定義なのかを示さなかった こと、市の最近の人口の減少による、マイノリティ ーの割合の増加を計算に入れなかったこと、市 が29%の算定の基礎とした商務省の統計が、伝統 的な警官のサービスの他に、プロテクティブ・サー ビスという、キャンプの守衛やスクール・バスのモ 30.女性の雇用についての諸問題に関する1980年代の論
文として、Deborah L. Rhode, "Perspective on Professional Women," Stanford Law Review 40 (1988): 1163.
31. 42 U. S. C. §§2000e et seq. (1982). 使用者、労 働組合、職業紹介機関による、人種、皮膚の色、宗教、
性別、出身国や民族を理由とする差別を禁止する。文 脈は外れるが、教育の分野での性差別禁止を定めた 立法に、Title IX of the Education Amendments
§901-905, 20 U. S. C.§1681 (1972)。この立法 に基づくアファーマティブ・アクションの必要性を示唆す るものに、Grace-Marie Mowery, "Creating Equl Oppotunity for Female Coaches: Affirmative Action Under Title IX," University of Cincin- nati Law Review66 (1997): 283.
32.同タイプの事件として、Ensely Branch, N. A. A. C.
P. v. Seibles, 31 F3d. 1548 (1994)、Dallas Fire Fighters v. City of Dallas, 150 F. 3d. 438 (1998), 526 U. S. 1046 (cert.denied 1999)がある。
33. Long v. Saginaw, 911 F. 2d. 1192 (1990).
34.Ibid.,at 1195.
35.Ibid.,at 1197-1198.
36.Ibid.,at 1202.
ニターなどを含む、広範な職種を対象に入れてい ることが理由とされた。女性捜査員の提起した訴 訟や、マイノリティーの住民に対する警察の暴行、
死亡事件に関する訴訟が証拠として提起された が、これも、雇用とは直接関係ないとして採られ なかった。37
ボーゲル対シンシナティ市事件(1992)38では、
シンシナティー市が、アフリカ系市民と女性に対し て雇用差別を行っているとして、1964年公民権法 第7編のもとで、司法省に訴えを提起された事件 の解決である同意判決(consent decree)が問題 になった。同意判決の目的は、過去の差別による 黒人と、女性の負担を解消し、全ての者に雇用 の機会均等を与えることである。同意判決は、シ ンシナティ市の労働人口の女性と黒人の割合に 等しい割合の、女性と黒人の警察官を雇用する ことを長期的な目標にしていた。長期目標を達成 するために、1980年に雇用の候補とされたクラス の中の、黒人34%、女性23%という割合以上の雇 用を中期目標とした。このパーセンテージは、市の 努力の結果だったが、同意判決は、特に、この同 意判決が、より能力のある人をさしおいて、能力 の劣る人を雇用、配転、昇進させることを要求す るものではないことを規定している。同意判決は、
また、長期目標を達成したことが示されたときには 失効することを規定していた。市は、同意判決を 執行するために新しい手続きを採用したが、健康 診断、心理評価、身体能力、筆記試験などで有 資格者を選び、リストに掲載したあと、もし可能な ら中間目標を達成するため、有資格者の中の黒 人と女性の候補者を優遇するという方法をとっ た。原告のボーゲルは、有資格者リストに載りな がら採用されなかったため、市が本質的に割当 制(quota)を採用していること、同意判決の規定 にも拘わらず、筆記試験の成績の低い者を採用 する結果になっていること、同意判決自体が修正
14条違反であることを主張し、訴訟を起こした。39 第6巡回区控訴裁判所は、人種的マイノリティー に対するアファーマティブ・アクションと、女性に対 するアファーマティブ・アクションの両方を区別せ ず、厳格審査を適用した。厳格審査のもとで、ア ファーマティブ・アクション・プログラムが過去の人 種的差別の影響からの救済という非常に重大な 政府目的を達成しようとしていることを証明するた めには、救済が必要であったという強い根拠が必 要である。40女性に関しては、過去に、シンシナ ティ市警は、女性採用者には男性以上の教育を 要求し、ポリス・スペシャリストというポジション以上 の昇進を阻み、全ての女性警官を少年部に配置 していた。1980年には、女性警官の割合は、女性 の応募者が全体の22.8%であったのに対し、3.4%
に過ぎなかった。そのため、裁判所は、女性に対 して市の採ったアファーマティブ・アクション政策 は、明らかに正当化される、とした。41黒人に関し ては、1972年から1979年の間には、37%の応募 者が黒人だったにもかかわらず、20.4%のみが採 用されただけだった。1980年には、市の労働力 の24%が黒人だったにもかかわらず、警官の9.9%
だけが黒人だった。市は、期待される数値と実際 の数の偏差が、変動を計算に入れて、標準偏差 から2から3以上かけ離れていると、市の介入を正 当化するとみられているところ、期待される黒人 の採用候補者数と実際の採用候補者数の標準 偏差が4.7、期待される黒人の警官数と実際の警 官数の標準偏差は12.5だという分析も、証拠とし て提示している。42ボーゲルの主張は、有資格の 女性や黒人の数を問題にした統計ではないの で、この統計は根拠にならないというものだった。
しかし、裁判所は、最高裁の先例であるクロソン 対判リッチモンド市判決(1989)43では、建設業界 一般における差別の存在の立証を試みて、救済
37.Ibid.,at 1199-1202.
38. Vogel v. City of Cincinnati, 959 F. 2d. 594 (1992) 39.Ibid.,596-597.
40.Ibid.,at 599.
41.Ibid.,at 600.
42.Ibid.,
43. City of Richmond v. Croson, 488 U. S. 469 (1989).
を要する過去の差別の存在が認められなかった のに対し、市のアファーマティブ・アクション・プロ グラムは、特にその市警において雇用差別を行 っていたという統計を基礎として実施されたもの だと認めた。市は、シンシナティー市の労働力との 比較を行ったのではなく、警官の構成比率を市 警への応募者のプールと比較している。しかも、
市は、1980年に、努力の結果、有資格の黒人が 34%、女性が24%だったという事実を考慮に入れ ている、とした。44裁判所は、市は、救済が必要 だという強い根拠を有していると判断した。また、
市が同意判決に従って採用した雇用政策は、市 の雇用における過去の差別を根絶することに仕 え、目的を達成するために狭く限られていて、厳 格審査を満たすと判示した。45
II. 女性に対するアファーマティブ・
アクションの合憲性審査基準46
アファーマティブ・アクションは、しばしば、優遇 措置を受けられなかった者から逆差別の訴えが 上がり、平等権違反かどうかが争われる。そのよ うな場合、アファーマティブ・アクションが許容され るのかどうかをどのような基準で判断するのかが、
大きな問題になる。47
アメリカ最高裁は、人種、(祖先の)国籍などの、
いわゆる、疑わしい区分を用いた差別について は、最も厳しい基準である厳格審査、その他の場 合には、緩やかな基準である合理性の基準を用 いてきた。厳格審査は、政府行為が、非常に重
要 な 政 府 利 益( compelling governmental interest)に仕え、とられた手段が、充分に狭く限 られていること(narrowly tailored)が要求される。
一般に、この基準が適用されると、政府行為が合 憲とされることはまずない、という認識がある。合 理性の基準は、政府のとった行為に、一応の合 理的な理由があればよく、手段と目的の間にも、
一応の関連性があればよい、というものである。
これに加え、1970年代後半からは、性差別や非 嫡出子に対する差別などの事件には、重要な政 府目的(important governmental interest)に仕 え、とられた手段が目的と実質的に関連している こと(substantially related)を要求する、いわゆる 中間審査が適用されるようになった。
女性に対するアファーマティブ・アクションに適 用される合憲性審査基準については、先例とな る最高裁判決がまだない。ここでは、まず、アメリ カ最高裁が、人種を理由としたアファーマティブ・
アクションに、人種差別と同様に厳格審査を適用 すると宣言したアダランド対ペナ判決48が、女性に 対するアファーマティブ・アクションの合憲性審査 基準に与える示唆について解説する。第2に、女 性に対するアファーマティブ・アクションの合憲性 審査基準に密接に関連する、性差別に対する合 憲性審査基準に関する最高裁判例を検討する。
第3には、性差別の現在のリーディング・ケースで ある合衆国対バージニア事件(1996)49が、女性 に対するアファーマティブ・アクションの合憲性審 査基準に与える影響を検討する。
1. アダランド判決(1995)50と性別に基づ くアファーマティブ・アクションの合憲性 審査基準
性別に基づくアファーマティブ・アクションの合憲 性審査基準を検討するにあたって、まず取り上げ なくてはならないのは、人種を理由としたアファー 44. Vogel , 959 F. 2d. 594, 600.
45.Ibid.,at 601.
46.君塚正臣「性差別の審査基準の根拠について」『阪大 法学』42、no.1 (1992)、125. 松井茂記「厳格な合理性 の基準について」『阪大法学』42、no. 2. 3 (1992) 629.
47.アメリカ憲法では、州による平等権侵害には、修正14 条の平等条項、連邦よるものには修正5条のデュー・プ ロセス条項の平等の要素が保護を与えているとされ る。初期には、どちらの条文のもとで、事件が争われる かによって、政府の行為が合憲かどうかの基準が違う とされたが、現在では、2つの条文のもとでは、同一の 合憲性判断基準が適用されると考えられている。
48. Adarand Constructors v. Pena, 515 U. S. 200.
49. United States v. Virginia, 518 U. S. 515 (1996).
50. Adarand Constructors v. Pena, 515 U. S. 200.
マティブ・アクションの合憲性審査基準を厳格審査 であると宣言した、アダランド判決である。アダラン ド事件では、連邦の公共事業における、人種的 少数者所有の事業者に対する優遇が問題になっ ていた。
アファーマティブ・アクションの合憲性審査基準 は、人種の分野でも、長らく一定しなかった。人 種を理由とした差別事件には、厳格審査が適用 され、殆どの場合違憲の判決が下される。ところ が、人種を理由としたアファーマティブ・アクション には、目的が過去の差別の影響からの救済であ るなどの理由で、例えば、中間審査を適用し、合 憲の判決を下すことが行われた。但し、合憲性 基準は事件毎に一定しなかったり、意見が割れ て、どの合憲性基準が適用されたのかが特定し がたい状況が長らく続いていた。こうした取り扱 いには、同じ理由での差別には、アファーマティ ブ・アクションであると否とにかかわらず、同じ基 準を適用して判断すべきだ、という批判がなされ てきた。最高裁は、アダランド判決でこれに答え、
人種事件には一律に、厳格審査を適用すると宣 言したのである。
アダランド事件は、女性に対するアファーマティ ブ・アクションの合憲性審査基準にも、大きな影響 力をもった。
アダランド事件以前の、性別を理由とするアフ ァーマティブ・アクションの事例でも、審査基準は 一定していなかった。合憲性審査基準として合理 性の基準を採用したものはないが、人種や国籍 を理由とした差別に適用される厳格審査を採用 するか、いわゆる中間審査を適用するかであり、
巡回区や州ごとに採用される基準が違った。
基準が統一されなかった一つの原因は、性別 に基づくアファーマティブ・アクションに中間審査を 採用すると、厳格審査が適用される人種に対す るアファーマティブ・アクションは、性別に対するア ファーマティブ・アクションよりも厳しい基準に服す ることになるということであった。その結果、より 深刻だととらえられてきた人種差別を救済しようと するアファーマティブ・アクションのほうが、より違憲
無効とされる可能性が高くなることが問題視され た。51
この矛盾と、Iでみた、女性に対するアファーマ ティブ・アクション、その他の事由によるアファーマ ティブ・アクションが、人種によるアファーマティブ・
アクションと並んでプログラムの対象とされている という事情は、競合して、審査基準の混乱を招い ていたと思われる。プログラム全体の合憲性が問 われた際、どのような区別を用いたアファーマティ ブ・アクションであるかによって、きめ細かく分けて 分析する裁判所ばかりではない。もっとも基準が 厳しく、合憲性の疑わしい人種を理由とするアフ ァーマティブ・アクションに焦点を当て、他の事由 については特に分析を行っていないものもある。
ある論者は、第6巡回区控訴裁判所やジョージア 州最高裁は、性差別には中間審査を適用するが、
性別に基づくアファーマティブ・アクションには厳格 審査を適用していたと分析する。これに対して、
第3、第9、第10、第11巡回区裁判所は、アファー マティブ・アクションを含む全ての性差別に中間審 査を採用していたとされている。第7巡回区は中 間審査を採用する意図を示したが、残りの巡回区 は立場がはっきりしなかったとされる。52しかし、
第6巡回区のホーゲル事件53やサギノー市事件54 を見れば、第6巡回区は、一つのプログラムの中 の性別を理由とするアファーマティブ・アクション を、特に特定して厳格審査を適用しているわけで はない。また、性別に基づくアファーマティブ・アク ションにどちらの基準を適用するかはっきりしなか った巡回区についても、アダランド事件、あるいは、
事例によっては、アダランド事件の前に、州が実 施したアファーマティブ・アクションに厳格審査を適
51. Jason M. Skaggs, "Justifying Gender-Based Affirmative Action under Umited States v.
Virginia's 'Exceedingly Persuasive Justifica- tion' Standard," 86 Calibornia Law Review86 (1998): 1175.
52. Skaggs, "Justifying Gender-Based Affirmative Action," 1174-1175.
53. Vogel, 959 F. 2d. 594.
54. Saginaw, 911 F.2d. 1192.
用するとしたクロソン事件55の以前には、人種に 基づくアファーマティブ・アクションに対して適用さ れる基準さえ全く一定しなかったという事情から すれば、どんな理由で行われたアファーマティブ・
アクションに、どのような審査基準が用いられたか を個別に判別するのは難しい。
しかし、アダランド判決は、性別に基づくアファ ーマティブ・アクションにどのような合憲性審査基 準を適用すべきかという点についても、明確な示 唆を与えることになった。アダランド判決は、差別 を受けているとされるのがどの人種であるかにか かわらず、一律に、アファーマティブ・アクションに も厳格審査を適用するとした。同様の論理からす れば、性別に基づくアファーマティブ・アクションに は、性差別に対していわゆる中間審査が適用さ れるのと同様に、中間審査が適用されると考えら れる。
2.性差別の合憲性審査基準
では、性差別に適用される、いわゆる中間審査 とは、どんなものだろうか。当初、中間審査といわ れる合憲性審査基準は存在せず、最高裁は性差 別にも合理性の基準や厳格審査を用いた。その 後、中間審査と呼ばれる新しい合憲性審査基準 のカテゴリーが生じた。近年のアメリカ最高裁の 判例では、性差別に対する合憲性審査基準は 徐々に厳しくなり、厳格審査に近づいていってい るといわれる。
最高裁は、性差別を違憲とした最初の判決、リ ード対リード事件(1971)56では、合理性の基準を 採用した。57この事件では、養子の死後、すでに 離婚していた両親が、それぞれ、遺産の管理人 になることを申請した。ところが、アイダホ州法が 父親に絶対的優先権を与えていたため、母親が 平等権違反を主張して争った。58最高裁は単に、
誰を遺産の管理人にすべきかを判断するための
ヒヤリングを省けるという理由だけでは59合理性 の基準を満たさず、州法は修正14条の平等権違 反である、と判示した。60
ところが、フロンティエロ対リチャードソン事件(19 73)61では、4人の裁判官が同調した法廷意見が、
性差別に厳格審査を適用した。62この事件では、
男性の軍人には、特段の証明なしに扶養されてい る配偶者に対する軍属手当てや医科歯科治療の 保障などの利益の請求を許すのに、女性の軍人 が申請する場合には、配偶者が扶養されていると いうことに対する種々の証明を要すること、配偶者 を扶養している男性がそうした利益を受けている のに、同じ状況の女性が利益を受けられないこと について、修正5条のもとで、連邦法の合憲性が 争われた。63法廷意見は、例えば修正19条の採 択まで投票権が認められなかったように、女性に 対する過去の差別が19世紀の制定法に反映して いたことや、現在でも女性が様々な場面で差別に 直面していること、性別が生まれながらの変更でき ない特徴であること、議会が性差別に対して敏感 になっており、1964年公民権法第7編などが制定 されたことなどを理由に64、性差別は、人種や祖 先の国籍に基づく差別と同じく厳格審査に服する とした。65政府は、この被扶養者利益に関する手 法は、男性の軍務に証明を求めないことによって 行政の費用と人力を大幅に省くと主張していた。66 しかし法廷意見は、この手法は単なる行政上の便 宜のためであり、女性に対して課されている審査を
55. Croson, 488 U.S. 469.
56. Reed v. Reed, 404 U. S. 71 (1971).
57.Ibid.,76.
58.Ibid.,71-74.
59.Ibid.,76.
60.Ibid.,77.
61. Frontiero v. Richardson, 411 U. S. 677 (1973).
62.Ibid., 68.法廷意見はブレナン判事の執筆で、ダグラ
ス、ホワイト、マーシャルの各裁判官が加わった。ほか に、スチュワート裁判官が基準を特に定めず、違憲判 決に同意している。パウエル、バーガー、ブラックマン 判事は、リード判決にならって合理性の基準の下で判 断すべきだという見解を示して、違憲判決に同意して いる。レンキスト裁判官のみが反対意見を書いている。
63.Ibid.,679-681.
64.Ibid.,683-688.
65.Ibid.,688.
66.Ibid.,682.
男性の軍人にも課した場合、配偶者利益を受ける 資格がないとされる者が多数出ることを考えれば、
政府の財政上の負担が軽くなるという主張は疑わ しいとした。67そして、単に行政上の便宜のために 女性の軍人を男性の軍人と異なって扱い、配偶 者を扶養しているという証明を求めるのは、修正5 条違反であると判断した。68
最高裁は、クレッグ対ボーレン事件(1976)69か ら、中間審査を性差別に対して適用するようにな った。この事件では、オクラホマ州法が、3.2%の 低アルコール(nonintoxicate)・ビールの販売を、
女性は18歳以下に対して、男性は21歳以下に対 して禁止していることが問題になった。訴訟を提 起したのは、18才から21才の間に入る男性一人、
低アルコール・ビールの販売者1人で、宣言的判 決と差止(injunction)による救済を求めた。最高 裁は、政府行為が合憲とされるためには、性別に よる区別が、重要な政府目的に仕え、とられた手 段が目的と実質的に関連していることを要する、
とした。70そして、オクラホマ州が規制しようとした 飲酒運転と、性別の関連という点では、18才から 20才の間での飲酒運転での逮捕は、女性が0.18%、
男性が2%で、たった2%の差では、あまりに関連 が希薄だとした。71また、オクラホマ州自体が、他 のアルコール飲料と、低アルコール・ビールを区別 していることからも、規制の有効性が疑問視され た。72最高裁は、州の挙げた、あるグループの飲 酒傾向に関する数的な、目的と関連の薄い概括 的な挙証では、修正14条のもとで合憲とされない と結論した。73
政府の用いた区別が、重要な政府目的に仕え、
とられた手段が目的と実質的に関連していること
という基準は、一般に中間審査と呼ばれる。最高 裁が中間審査の名称を用いたことはないが、性 別には、いわゆる中間審査が適用される、という のが、ボーレン事件以降の一般的な理解であった。
しかし、中間審査は、ミシシッピ女子大学対ホ ーガン事件(1982)74以降、徐々に厳しくなってい る、といわれる。ミシシッピ女子大学対ホーガン事 件(1982)75は、看護学士の称号を得ることを希 望して、州立のミシシッピ女子大の看護学校に応 募し、入学を拒否された男性が起こした事件であ る。76最高裁はまず、男性の入学を認めない大学 の政策が性に基づく差別であり、平等権のもとで の審査に服するとし、女性に対してではなく、男 性に対する差別であることは、審査を免じたり基 準を緩和する理由にならない、としている。77最 高裁は、性別による区別が合憲とされるには、「き わめて説得的な正当化」を示す挙証責任を果た さなければならない、としている。78さらに、少な くとも、その区別が重要な政府の利益に仕え、採 用された差別的な手段が、目的の達成に実質的 に関連していることを示さねばならない、としてい る。79最高裁は、挙証の際に、目的それ自体が古 いステレオタイプな観念を反映していないかに注 意しなくてはならない、また、目的と手段の関連に ついても、「女性と男性の役割に関する伝統的な、
しばしば不正確な推定」を機械的に適用するの ではなく、理由を付した分析によって決定されな ければならない、と述べている。80 州は、ミシシッ ピ州立女子大の看護学校は、女性差別に対する 埋め合わせであり、教育におけるアファーマティ ブ・アクションだとしていた。81しかし、最高裁は、
67.Ibid.,688-690.
68.Ibid.,690-691.
69. Greag v. Boren, 429 U. S. 190 (1976).
70.Ibid.,197.
71.Ibid.,199-202.
72.Ibid.,202-203. 州は、州際通商の規制権限を連邦 議会に与えた修正1条の例外として、州にアルコール の規制権限を認めた修正21条を理由に、州法の合憲 性を主張したが容れられなかった。Ibid., 204-210.
73.Ibid.,208-210.
74. Mississippi University for Women v. Hogan, 458 U. S. 718 (1982).
75. Hogan, 458 U. S. 718.
76.Ibid.,719-721.
77.Ibid.,723.
78.Ibid.,724.
79.Ibid.,
80.Ibid.,724-726.
81.Ibid.,727.
州が、看護の分野で女性が訓練や昇進の機会を 奪われているという証明を行っていないとした。
看護学校が設立される前年の1970年には、ミシ シッピ州で看護学士号を持つ者の94%が女性で あり、全国的にはその割合は98.6%だった。また、
看護士として働いているものの98%が女性だっ た。82最高裁は、ミシシッピ大学が看護学校に男 性の入学を認めないのは、差別の埋め合わせを するよりも、看護が女性の職であるというステレオ タイプな見解を永続させる、とし、州は、真の目的 が差別の埋め合わせであるという証明に失敗し たと判断した。83目的と手段の関連についても、
性別に基づく区別が、実質的直接的に州の主張 した差別の埋め合わせという目的に関連している という証明がないとされた。州立女子大は、男性 の聴講を許しており、男性が参加しても女生徒の 学習に支障がなく、共学の看護学校でも、男子学 生がクラスを支配するわけではないことから、男 子学生の入学を認めないことは、なんらミシシッピ 州立女子大の教育目的に必要だとはいえない、
とした。84最高裁は、ミシシッピ州立女子大から男 性を排除する州の政策は、修正14条違反だと判 断した。85
J.E.B.対アラバマ事件(1993)86では、父子確認 と扶養を求める民事訴訟で、理由を申し述べな い忌避( peremptory challenges)によって、陪審 から男性が排除され、すべて女性の陪審員によ って判断が下されたことが問題になった。871986 年のバストン対ケンタッキー事件88は、人種を理由
とした理由を申し述べない忌避を違憲としたが、
最高裁は、人種と同じく、性別は、陪審員としての 能力や中立性を決するための理由としては、違憲 であると結論した。89 最高裁は、合衆国における 人種的マイノリティーに対する差別は、女性に対す る差別と同一ではなかったが、ある文脈ではそう した違いを越えるものがある、とする。90 そして、
女性は、アフリカ系アメリカ人と同じく、陪審員とし て裁判に参加することからは完全に排除されてき た、とした。91このような性差別の歴史が、すべて の性差別に対して適用される、より厳格な合憲性 審査基準の基礎になっているというのである。92 最高裁は、性差別に関する過去の判例のもとで は、性別に基づく区分が合憲とされるためには、
「きわめて説得的な正当化」が必要である、という。
そして、続けて、問題は、陪審を選ぶに当たって の性差別が公正中立な裁判を行うという州の利 益に実質的に仕えるかどうかである、と述べた。
93最高裁は、性別のステレオタイプに基づいた理 由を申し述べない忌避が、公正かつ中立の陪審 を得ることに実質的に資するのかという点を考察 すると述べ、陪審員選定において人種や性別に 基づく差別をすることは、訴訟当事者や共同体、
司法過程から排除される陪審員個人に害を為す、
と判断した。94 また、差別を受けているのが女性 でなく男性であるという点は、審査基準を緩和す る理由にはならないとしている。95
合衆国対バージニア事件(1996)96では、厳しい 軍事教練方式の教育内容をもつ、州立のバージニ ア・ミリタリー・インスティテュート(VMI)が、女性の入 82.Ibid.,729.
83.Ibid.,730.
84.Ibid.,730-731.
85.Ibid.,733.
86. J. E. B. v. Alabama, 511 U. S. 127 (1994). 釜田 泰介「性差別における目的手段審査の終焉-アメリカ最 高裁 J. E. B.判決がもたらすもの」『同志社アメリカ研究』
32 (1996) 1、紙谷雅子「J. E. B. v. Alabama ex rel. T. B., 114 S. Ct. 1419 (1994)─性別に基づく 陪審に対する絶対的忌避」『アメリカ法』1 (1995) 139。
87.Ibid., 129-130.
88. Baston v. Kentuckey, 476 U. S. 79 (1986).
89. J. E. B. v. Alabama, 511 U. S. 127, 129.
90.Ibid.,135.
91.Ibid.,136.
92.Ibid.,
93.Ibid.,136-137.
94.Ibid., 140.
95.Ibid., 141.
96. United States v. Virginia, 518 U. S. 515 (1996). 根本猛「男女別学の合憲性−VMI判決を 中心に−」『静岡大学法政研究』3 (1998) 21。
学を許可しないことが争われた。訴訟は1990年に、
VMIに入学を希望する女子高生の苦情が、司法長 官に出されたことを受けて合衆国がバージニア州 に対して起こした。地裁の認定したところによれば、
入学希望の女性からの問い合わせは訴訟の前の 2年間で347件あり、VMIはいずれにも返答しなか った。女性で学生数の10%を構成することも可能 だったとされている。97最高裁は、再び、性別によ る差別を合憲とするには、正当化事由が「きわめて 説得的」でなくてはならない98、とし、州は、性別に 基づく区分が、少なくとも重要な政府の目的に仕え、
手段が目的の達成に実質的に関連していることを 示さねばならない、としている。99最高裁は、男女の 生来的な差という議論がもはや正当化事由として 受け入れられないと述べ100、性別に基づく区別が、
女性がうけた特定の経済的不利益を治癒するた め、雇用の機会均等を保障するためなどの場合に は許容されると例を挙げている。101 最高裁は、州 が、女性をVMIの教育課程から排除する「非常に 説得的な理由」を示しておらず、女性の排除は修正 14条違反であると結論している。102 州は、一方の 性のみに対する教育は重要な教育的利益をもたら し、教育の多様性に貢献すると主張した。103しか し、最高裁は、バージニア州は、VMIが教育の多 様性のために設立されたという証拠を示していな いと判断した。104 州は、また、VMIの軍隊式の教 育内容が、その内容を変更することなしには女性に 提供することが出来ない教育的利益をもたらすもの だと主張した。105 しかし最高裁は、地裁で、VMI の活動に耐え、男性と同じ身体的基準に合う女性 がいるとされたこと、高裁でも、VMIの目的や方法
論が生来的に女性にふさわしくないものではない、
とされたことなどを挙げた。106その上で、女性の入 学がVMIの偉業を格下げする、軍事教練式の教育 内容を破壊するという判断を立証するのは難しい、
と判断した。107州は、州が後援して州内の私立大 学に設置した女性のための代替プログラムの存在 も主張した。108最高裁は、このプログラムが教育内 容や名声その他の点で、VMIと同等でないと判断 した。109また、この解決は50年前に、テキサス州が、
州立大学のロー・スクールにアフリカ系市民の入学 を認めず、代替的な大学を設置したのと同じ解決 法だと指摘している。110
ホーガン事件111は、性別に基づく区分が合憲 とされるためには、「きわめて説得的な正当化」が 必要で、州は、「少なくとも」、その区別が重要な政 府の利益に仕え、採用された差別的な手段が、
目的の達成に実質的に関連していることを示さね ばならない、とした。112 つまり、いわゆる中間審査 を最低ラインとして、クリアすべき基準の上限を押 し上げ、幅をもたせた。J.E.B.事件113は、陪審員 の忌避という場面で、人種と性別を同一のレベル に置かないまでも、常にパラレルにおいて進行し た。114 性別に適用される合憲性審査基準は、扱 われる問題が何であるかによって、人種や祖先の 国籍による差別に適用される厳格審査と、いわゆ る中間審査の幅の中のどこかに落ち着くことにな る。ホーガン事件とJ.E.B.事件の2つの脚注115が、
97.Ibid.,523.
98.Ibid.,522-533.
99.Ibid.,533.
100.Ibid., 101.Ibid., 102.Ibid., 534.
103.Ibid., 535.
104.Ibid., 535, 535-539.
105.Ibid., 540.
106.Ibid.,540-542.
107.Ibid.,542-543.
108.Ibid.,546.
109.Ibid., 547-553 110.Ibid.,
111. Hogan, 458 U. S. 718.
112.Ibid., 724.
113. J. E. B., 511 U . S. 127.
114.但し、人種が引き合いに出されることは一般的で、気 にすべきではない、という指摘について、君塚、「性 差別の審査基準について」、140.
115. Hogan, 458 U. S. 718, 724 n. 9, J. E. B., 511 U. S. 127, 137 n. 6.