• 検索結果がありません。

C6204 0457 安川電機とファナックにおける経営戦略の比較 利用統計を見る

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2018

シェア "C6204 0457 安川電機とファナックにおける経営戦略の比較 利用統計を見る"

Copied!
27
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

は じ め に

本稿は,主に,自動車生産工場や電機・電子生産工場の現場で,その生産 性向上や品質安定・向上,さらには,労働環境改善などを目的とした産業用 ロボットを製造しているロボットメーカー2社(安川電機とファナック)に 関する研究である1)。

事例企業2社が産業用ロボット産業(以下,ロボット産業と記す)に参入 したのは1970年代後半である。以来,日本のロボット産業は,その出荷台数 及び稼働台数ともに世界一の座を保持してきた。しかし今,中国にその座を 明け渡している。さらに,今日まで,ロボット産業を顧客として支えてきた 自動車や電機・電子産業からの脱却も叫ばれており,輸出構造も大きく変

1) 安川電機は,設立1915年,業種・電気機器,業種内容・産業用ロボット,メカ トロニクス機器の製造,資本金278億円の東証1部上場企業である。2016年度(第 101期)は,連結売上高3,949億円,経常利益319億円(経常利益率8.1%),自己 資本比率51.2%,株価4,065円(2017/11/02終値)の優良企業である。ファナック は, 設立1972年, 業種・電気機器, 事業内容・工作機械用NC装置, 多関節ロボッ トの製造,資本金690億円の東証1部上場企業(TOPIX銘柄)である。2016年度 (第48期)は,連結売上高5,369億円,経常利益1,688億円(経常利益率31.4%), 自己資本比率87.2%,株価26,970円(同日終値)の超優良企業である。

経営分析からみた2大産業用ロボット

メーカーの企業特性

―― 安川電機とファナックにおける経営戦略の比較 ――

久 木 田

(2)

わってきた。特に,リーマンショック後におけるロボット業界を取り巻く市 場構造の変化は,まさに,不可逆的とも呼べる地殻変動と考えたい。

本稿の目的は,近年の日本のロボット産業を取り巻く環境の変化を検証し, 事例企業2社の経営分析を通して,企業特性を明らかにし,経営戦略を探る ことである。

今回,安川電機及びファナックの2社を事例企業に選んだ理由は,その出 荷台数,出荷金額ともに当該業界のトップクラス(世界トップ5)であり, 両社による国内シェアが6割以上(2012年シェアが約66.5%)を占めている からである2)。さらに,両社とも,当該産業の草創期(1970年代)からロ ボット産業に参入し,以来,今日まで業界をリードしてきている。

本稿では,①当該産業における地殻変動とは何か,②事例企業2社につい ての経営分析を通して,企業特性の違いを確認し,経営戦略を探ること, ③日本の産業用ロボットメーカーの課題を探り,近未来を展望すること,の 3点について論述する。

なお,本稿における日本の産業用ロボットの定義は,JIS B 01343)にあり, ISOの定義(ISO 8373)に準じている。日本のデータについては,主に,日

本ロボット工業会の統計表(「ロボット産業需給動向」)や工業統計表などを 使用した。なお,世界のデータについては,国際ロボット連盟(IFR :

Inter-national Federation of Robotics)のデータを使用した。

また,日本ロボット工業会のデータには,所謂,電子部品実装機(マウン

2) 2012年度の有価証券報告書上のロボット部門売上高は,ファナックが1,191億円, 安川電機が1,105億円となっている。なお,同年の日本の産業用ロボット出荷額を 工業統計表(品目編)で確認してみると,3,857億円(数値制御ロボット1,975億 円,その他のロボット1,878億円)となっている(なお,外数値で同年のロボット, 同装置の部分品などの出荷額は1,110億円となっている)。

3) 産業用ロボット(JIS B0134)とは,「自動制御され,再プログラム可能で,多目 的なマニピュレータであり,3軸以上でプログラム可能で,1か所に固定して又は 移動機能をもって,産業自動化の用途に用いられるロボット。なお,経済産業省の 定義は,補遺(p.26)に記す。

(3)

タやボンディング)なども含まれており,その出荷統計から電子部品実装機 及びボンディング装置のデータを除外した値を産業用ロボットのデータとし た。工業統計表(品目編)では,①数値制御ロボット,②その他のロボット, ③ロボット,同装置の部分品・取付具・附属品の3つに分類し,集計されて いるが,本稿では,①+②を産業用ロボットとした。

次に,産業用ロボットの日本及び世界の出荷状況(市場)を概観してみよ う。日本ロボット工業会によると,2015年の国内向けの出荷台数は35,374台, 出荷金額は,1,637億円(平均単価:約460万円)となっている。一方,輸出 台数は,104,853台,輸出金額は,3,112億円(平均単価:約297万円)とな り, 総出荷合計台数は, 140,227台, 出荷合計金額は, 4,750億円(平均単価: 約338万円),その輸出比率は,金額ベースで65.5%となっており,既に,日 本のロボット産業は,2003年以来,輸出主導型(輸出>国内)となってい る4)。

また,2015年の世界市場をIFRの統計で見ると,その総出荷台数は253,748 台,総出荷金額は,US$13.1 billion(約1兆4,800億円),となり,平均単価 は,約580万円となっている5)。

1.先 行 研 究

安川電機に関する先行研究は,1983年の伊丹敬之の経営史研究『安川電機 製作所』がある6)。また,生産財マーケティングの視点でとらえた,渋谷義 行・恩蔵直人の研究もある。渋谷・恩蔵は顧客適応戦略と標準化戦略の2つ に分けて分析し,安川電機は顧客適応戦略であり,ファナックは標準化戦略

4) 日本ロボット工業会[2016]。 5) IFR Executive Summary[2017]。 6) 伊丹敬之[1983]。

(4)

であるとしている7)。経営者の意思決定に関する経験知研究としては,安川 寛の自伝2 ,関連1 がある8)。

次に,ファナックに関しては,米倉誠一郎のファナックの経営史研究があ る9)。組織誕生時に「組織外部化戦略(多角化事業を独立事業体として外部 に組織化すること)」があったと指摘する。アルフレッド・チャンドラーの 「組織内部化戦略(多角化事業を組織内部に事業部制として組織化するこ と)」に対するアンチ・テーゼである。ファナックの技術の転換期における 意思決定のあり方について研究したのが柴田友厚・児玉文雄である10)。新・ 旧技術の意思決定プロセスにおいて,二者択一の対立軸での選択ではなく, 両者並存の第三の道を選択したとして評価している。また,岡本久吉には, 古河グループ(ファナックは,グループ企業,富士通より昭和47年に分離, 独立を果たす)の生成・発展に関する研究がある11)。岡本の研究は,米倉の 研究にも通ずる,「親会社からの独立組織」がテーマであった。ファナック の経営史研究では,稲葉清右衛門と貫井健の研究がある12)。

これらの先行研究は,ロボット産業を代表する企業についての経営史,技 術史,経営組織,経営戦略について部分的テーマとして研究されており,経 営学(含む会計学)や経済学からの視点で,総合的に研究された論文ではな い。しかし,これらは,経営史及び経営学的観点からいくつかの論点を明ら かにしており,今後の研究に当たっての有意な視点を提供してくれた。

本稿は,このような先行研究の意義をふまえて,前述した2社の経営活動 全般を俯瞰しながら,これらの企業の経営分析を通して,企業特性(収益性 モデル)の違いを明らかにし,企業戦略の違いを探ることにした。したがっ て,事例企業2社の収益性の良否を問うものではない。

7) 渋谷義行・恩蔵直人[2011]。

8) 安川寛[1987],島村史孝[1988],池田暁彦[1980]。 9) 米倉誠一郎[1991]。

10) 柴田友厚・児玉文雄[2004]。 11) 岡本久吉[2010]。

12) 稲葉清右衛門[1982],貫井健[1982]。

(5)

2.ロボット業界における3つの地殻変動

2-1.世界市場における地殻変動

世界市場における地殻変動を確認するために,産業用ロボットの世界の出 荷台数について,IFR13)のデータをもとに,主要国の出荷台数推移をグラフ 化したのが,図1である。この図によると,2008年のリーマンショックを受 けて,1980年代以来,出荷台数で,世界一の座を保持してきた日本は,既に, 2013年を境に,その座を中国に明け渡している。しかも,2020年の出荷台数 では,中国が21万台,日本が4.8万台と予想され,その差は拡大している。 今後,中国は,産業用ロボットという生産財マーケットにおいても,台頭著 しいものがある。中国が「世界の工場」と呼ばれる所以でもあり,後述する 中国企業によるドイツロボット企業への資本参加などは,当該業界における 国境を越えた再編の予兆と考えたい。

また,IMFは,2017年の中国のGDPを,12.36兆US$と予想している。 日本の予想値5.11兆US$を凌ぎ,米国の19.3兆US$に次いで,世界第2 位の産業力国となるものと予想している14)。

ここで,ロボット業界における変化を特記しておきたい。それは,中国 家電メーカー美的集団(ミデアグループ:Midea Group)による産業用ロ ボットメーカーKUKA15)の買収である(2016)。これによって,美的集団は,

KUKAの株式の76%を取得し,実質的傘下に治めたことになる16)。世界ロボッ ト市場における供給側の地殻変動である。

既に,2013年の出荷台数においては,世界一の座は,日本(25,110台)か

13) IFRとは,International Federation of Robotics(国際ロボット連盟)の略。 14) 「World Economic Outlook Database」

15) KUKAは創業100年(1898創業)を超えるドイツの産業用ロボットメーカーで, 2016年のロボット部門売上高は,993.5 million(1 を133円として1,321億円), グループ売上高は,2,948.9 million(同,3,922億円)の企業。

16) ROBOTEER 2016.07.18号(https : //roboteer-tokyo.com/archives/5091,2017/11/10)。

(6)

数︵

︶ 50 40 30 20 10 0 北アメリカ 中国

韓国 日本 チェコ ドイツ スペイン

2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020

数︵

︶ 25 20 15 10 5 0

ら中国(36,560台)へと移っており,2016年には,中国が世界の出荷台数29.4 万台のうち,8.7万台(世界シェア29.6%)を出荷している17)。「中国は,も はや安価な労働市場ではない」と言われているように,人件費高騰を抑える 手段として産業用ロボットに目をつけていることの証左でもあろう。

一方,稼働台数の推移(グラフは省略)を見ると,1985年の日本は,9.3 万台(世界シェア67.3%)であったが,2013年には30.4万台(世界シェア 22.8%)となり,台数ベースでは伸びているものの,その世界シェアは,低 下している。今,中国工場では産業用ロボットの設置が急速に進められてい る。中国における2013年末の稼働台数は,13.2万台(日本は30万台)であっ

17) IFR [2014]∼[2017], Executive Summary [2014], p.20,[2017], p.20。

図1 産業用中国がロボット主要国と世界の出荷台数の推移(実績と予測**)

出所:IFR, World robotics Industrial Robots 2011, pp.22-23, 2013, pp.46-47, World robotics Industrial

Robots 2014 Executive Summary, p.18 (www.worldrobotics.org/,2015/01/10),EXecutive Summary World Robotics [2004], [2017]。2016までは実績値,2017∼2020は予測値。

:主要国とは,中国,日本,韓国,ドイツ,チェコ,台湾,スペイン,イタリア,フランスの

9カ国と北アメリカ(USA,カナダ,メキシコ)のことである。

**:2017∼2020年のデータはIFRの予測値である。

(7)

たが,IFRは,2018年の中国を61.4万台(日本に29.2万台)と予測している。 その時の世界の稼働台数は,232.7万台(中国の26.4%)となっている18)。

ここで,1985年から2013年までの27年間における稼働台数の変化を見てみ る。日本の伸びは,約3倍(9.3万台から30.4万台へ),世界の伸びは,約10 倍(13.8万台から133.2万台へ)となり,産業用ロボットの世界の設置台数 は伸びているが,日本は,下降局面へと向かっていることが分かる。やはり, 出荷台数,稼働台数ともに中国の台頭は,大きな地殻変動となっている。

2-2.需要構造や輸出構造の変化

産業用ロボットの需要構造の変化を,日本ロボット工業会の業種別出荷状 況(国内出荷)から,2005年と2015年のデータを対比させて探ってみよう。 まず,自動車産業関連の2005年は,942億円だったが2015年になると,521 億円(約45%減)となり,電機・電子産業関連の2005年は,612億円だった が,2015年になると,453億円(約26%減)となった。いずれの産業も減少 しているが,自動車産業関連への出荷額の落ち込みが大きいことが分かる。 一方,食品・飲料関連産業の市場については,絶対額では小さいが,30億 円(2005)から66億円(2015)へと2倍以上に拡大している。業界を挙げて の三品産業や中小企業などへの新規需要開拓が功を奏してきているものと考 えられる。これは,従来の溶接や組み立てロボットというハイテクでハード なイメージの産業の顧客に加えて,新しく,食料品,医薬品の調合,そして 化粧品・日用品などのピッキングやハンドリング作業というソフトなイメー ジの産業の顧客が加わってきたことの証左でもある。

このように需要構造の変化は,①自動車産業の溶接工程(アーク溶接やス ポット溶接)への出荷額が下がっている(2006年:441万円!2015年:209

18) IFR [2014]∼[2017],Executive Summary [2017]。

(8)

万円)が,②塗装工程は増加している(2006年:47.6億円!2015年:53.5

億円)。③大企業中心の自動車産業や電機・電子産業の二大産業に続く需要 業種として,中小企業や病院,研究機関などへの進出が進められている。具 体的には,プラスティック製品,金属製品,一般機械産業,そして,三品産 業19)などへの進出である20)。

③で述べたような二大産業は景気変動に大きく左右されるが,食料品,医 薬品,そして化粧品・日用品などは,景気変動の影響を受けにくいという特 徴を持っており,生産財産業として,工作機械産業に続いて1兆円産業へ成 長するためにも,特に,中小企業や三品産業などへの市場開拓などが期待さ れる所以である。

次に,日本の輸出構造の変化について,分析してみよう。まず,2005年の 状況は,国内向け出荷台数47,088台,出荷金額2,149億円(平均単価:456万 円)となり,輸出台数47,535台,輸出金額1,964億円(平均単価:413万円) となっている。その結果,総出荷合計台数(国内+輸出)では,94,623台, その金額は,4,114億円(平均単価:435万円)となった。

これが,2015年になると,国内向け出荷台数は,35,374台,出荷金額は, 1,637億円(平均単価:462万円)となり,輸出台数は,104,853台,輸出金 額は,3,113億円(平均単価:297万円),総出荷合計台数は,104,227台,そ の金額は,4,749億円(平均単価:456万円)となっている。

したがって,この10年間で,日本の国内向け出荷金額は,約24%減となっ ているが,逆に,輸出金額は,約59%増となった。その結果,国内向け平均 単価は,456万円から462万円へと,ほぼ,横ばいとなったが,日本からの輸 出平均単価は,413万円から297万円へと,約28%も低下している。

19) 3品産業とは,薬品,化粧品,食品の3業種を意味し,今後の取組み課題と言わ れている。

20) 日本ロボット工業会[2016],pp.3-20。

(9)

このように,平均単価の低下した輸出が増えたことによって,総出荷合計 での平均単価は,435万円(2005)から339万円(2015)へと,この10年間で 約22%も下落していることが分かる。

平均単価が低くなった背景には,①輸出比率が上がったこと,②従来,主 な需要先だった自動車産業や電機・電子産業の出荷構成比が下がり(2006 年:79.6%!2015年:66.6%),その他製造業(食料品,医薬品,そして化

粧品・日用品などの三品産業)の構成比が上がってきた(2006年:7.5%!

2015年:12.2%),などがあげられる。

これらの需要構造,輸出構造への変化対応によって,結果的に,産業用ロ ボットが専用機械から汎用機械21)への進化が促進され,産業としても自立化 へ向かうものと考えられる。一般的には,大規模な大量生産品の生産工場か ら,多品種少量生産の工場へと,その適用範囲が広がることによって,一挙 に,市場拡大が見込まれる。

次に,輸出の状況を国内出荷との関係で分析してみよう。国内市場(国内 出荷)では,2,150億円(2005)から,1,637億円(2015)へと,24%の減少 となっている一方で,輸出金額は,1,965億円(2005)から,2015年には, 3,113億円(約1.6倍)と増大している。その結果,輸出比率(輸出金額/総 出荷合計金額)が,2005年の47.8%(1,965億円/4,114億円)が,2015年の, 65.6%(3,113億/4,750億円)へと拡大している22)。

また,近年の通関統計でも,この10年間の出荷台数比で4倍(2011/2002), 金額比で2.5倍(同)となり,国別出荷では,米国1.4倍(同),ドイツ3.2倍

21) 汎用機とは,専用機に対する用語であり,コンピューター業界で使われた。工作 機械の場合も,特殊な工作物の加工や特殊加工を行うために設計・製作された専用 の工作機械(マシニングセンタ)のこと。産業用ロボットの場合も,一定の場所に 固定(たとえば,自動車工場のスポット溶接工程)され,専用のロボットとしての 役割りではなく,一台のロボットが可動式になり,工場内でいろいろな用途で使わ れるロボットのことを汎用ロボットという。

22) 日本ロボット工業会[2012],pp.5-6,[2016],pp.19-20。

(10)

(同),中国19.1倍(同)となっている。その結果,2011年の産業用ロボット の輸出金額(全国)は1,217億9,200万円(2002年比で約2.5倍)となってい る23)。

今日,ロボット業界では,明らかに自動車産業依存からの脱却を目指して おり,経済産業省も「成長戦略」の柱の一つに,「ロボットによる産業革命」 を打ち出している。したがって,日本のロボット産業は,従来からの自動車 や電機・電子産業の大企業志向から,中小企業や三品産業(医薬品,化粧品, 食品)への進出,さらには,国内需要から海外需要(特に,中国)を狙った 輸出主導の産業構造へと大きく転換しようとしていることが分かる24)。

このように,当該産業の需要構造,輸出構造ともに大きく変化しているこ とによって,マーケット環境への変化対応も急務となった。これによって, 今後,業界再編成(M&A,業務提携など)や新規参入なども進むものと考 えられる。

2-3.進む企業の大規模化,上位集中化

次に,ロボットメーカーの経営規模の変遷について分析してみよう(産業 用ロボットメーカー数と出荷台数及び出荷金額の推移グラフは省略)。1991 年には約266社のロボットメーカーで,6,003億円(含む,電子部品実装機出 荷金額+ボンディング装置出荷金額)を生産しており,1社当たり約22.6億 円であった。しかし,2012年になると,約85社で5,280億円を生産し,1社 当たり生産額は,約62億円となり,さらに,2015年にはメーカー数は約70社, 生産金額6,806億円,1社当たり生産額は,約97億円となっている。国内の ロボットメーカーの生産額は,総額で6,000億円台を,なかなか越えられな

23) 門司税関[2012]。なお,門司税関のデータはHSコード(Harmonized Commodity Description and Coding System:輸出入統計品目番号)「8479.50-000産業用ロボット (他の号に該当するものを除く)」を計上する。

24) 経済産業省[2014],瀬川友史[2014]。

(11)

いが,1社当たりの生産額は,ほぼ,100億円となり,大規模化の方向であ る25)。

また,大手メーカーへの集中化も進んでいる。2012年のロボット国内出荷 額は3,857億円(工業統計表 品目編),そのうち,ファナックのロボット部 門出荷は1,191億円,安川電機は1,105億円,川崎重工業は267億円であり26), 上位3社による売上高合計は,約2,563億円(国内シェア=2,563億円/3,857 億円×100=約66.5%)となっている。なお,事例企業2社の合計での出荷 金額シェアは,2010年度は42.2%(2社売上高 計1,627億 円/総 出 荷 金 額 3,857億円×100=42.2%)から,2012年度は59.5%(同,2,296億円/3,857 億円×100=59.5%)へと急増している。日本の産業用ロボットメーカーの 出荷額にみる勢力分布は,上位企業に集中しており,産業用ロボットメー カーの大規模化,上位集中化が進んでいることが分かる。

3.安川電機とファナックの経営分析

3-1.事例企業2社の収益性分析

事例企業2社の収益性について,デュポン・チャート27)に従って分析した。 まず,2013年度(単独)における総資本利益率から確認すると,安川電機は 8.70%,ファナックは12.24%となっており,いずれも高収益企業である。 次に,売上高利益率は安川電機が9.27%,ファナックが41.12%(安川電機 の4倍強の高さ)となっている。資本回転率については,安川電機が約1回

25) 日本ロボット工業会[2012],pp.65-66,[2015],pp.65-66,なお,日本ロボット 工業会のデータは当会への加盟会員および非会員に関するマニュピュレータ,ロ ボットのデータである。したがって,ここでは電子部品実装機などを含んでいる。 26) Barclay Global BIZ 2013,「川崎重工が中国国内でロボット工場設立の動き」の記 事のデータより筆者が推定した(http://barclay-global.biz/china/?p=65, 2015/01/15)。 27) デュポン・チャートとは,デュポン社が1921年に事業部制の財務コントロール

手段として取り入れた企業の財務管理方式(渋谷武夫[2001],p.74)。

(12)

0.939回

0.298回転

2013年度(単独) 総資本利益率(%) 売上高利益率(%) 総資本回転率(回)

安川電機 8.70 9.27 0.939

ファナック 12.24 41.12 0.298

9.27% 41.12% 売上高利益率

ファナック型(高利回り,低回転) 安川電機型(低利回り,高回転)

転,ファナックが約0.3回転となっており,安川電機の高回転に対し,ファ ナックは低回転となっている。その結果,安川電機は「低利回り,高回転」, ファナックは「高利回り,低回転」のビジネスモデルとなっており,この概 念図を図2に示した。

この図2から分かるように,2013年度の有価証券報告書(単独決算)より, 事例企業2社の,総資本利益率,売上高利益率,総資本回転率を計算すると, 安川電機は,総資本利益率が8.70%,売上高利益率が9.27%,総資本回転率 が0.939回転となり,ファナックの計算値は,それぞれ,12.24%,41.12%, 0.298回転となっている。その結果,2社の各指標を比較すると,総資本利 益率については,ファナック>安川電機,売上高利益率については,ファ

図2 企業特性から見た収益性モデルの概念図

出所:渋谷武夫[2001],p.74を参考にして筆者作成。

総資本利益率=(売上高利益率)×(総資本回転率)

=(当期経常利益/当期売上高)×(当期売上高/平均総資本)

安 川 電 機 型;低利回り(売上高利益率が低利回り),高回転(総資本回転率が高回転型) ファナック型:高利回り(売上高利益率が高利回り),低回転(総資本回転率が低回転型)

(13)

利 益

率︵

50.0 45.0 40.0 35.0 30.0 25.0 20.0 15.0 10.0 5.0 0.0

安川電機 23.32%

ファナック 45.55(%)

5.67% 37.66%

9.27% 41.12%

売上総利益 営業利益

損益計算書科目

経常利益

ナック>安川電機,総資本回転率については,安川電機>ファナックとなっ ている。したがって,低利回り・高回転の安川電機型,高利回り・低回転の ファナック型に分類されることが分かる。

次に,事例企業2社の損益計算書上における各段階での利益率の違いを, 図3に示した。経常利益率の差,31.85%の源流は,売上総利益率の差にあ る。(ファナック:41.12%,安川電機:9.27%)は,各段階でのコスト構造 の違いが,集積された結果である。売上総利益率の差は,売上原価率の違い であり,当期製造原価に占める労務費と外注加工費対売上高比率の違い (ファナックの原価率<安川電機の原価率)である。明らかに売上原価率の 差(ファナックが54.45%,安川電機が76.7%),すなわち,両社の製造コス トの違いであることが分かる。具体的には,安川電機の場合は,2004年度を 境にして,外注加工費が増加しており,ファナックとは対称的に,外注加工 体制へと戦略転換していることが推察される。以下,営業利益率,経常利益

図3 安川電機とファナックの利益率の各段階での比較(2013年度単独)

出所:各社有価証券報告書より筆者作成。

:連結での製造原価報告書は公表されていないために,報告会社の単独決算値によって各指標を

算出した。したがって,前述の各指標は連結値によるものであり,単独決算値とは異なる。

(14)

率の違いは,それぞれ販売費及び一般管理費率の差(安川電機は22.7%, ファナックは13.2%)であり,営業外収益・費用の違いである。

(次回研究にて,限界費用曲線による経済学的分析をする)

3-2.事例企業2社の生産性分析

2013年度における事例企業2社の生産性分析のために,日銀方式によって 付加価値を計算し28),その結果を日銀指標値(平成6年度調査の産業用機械 製造業の指標)と比較した。その結果,安川電機の付加価値は496億1,400万 円に比し,ファナックが2,324億1,100万円(安川電機の約4.7倍)である。

次に,従業員一人当たりの付加価値額(労働生産性)は,安川電機が約 1,615万円,ファナックが約7,023万円,日銀指標値が約1,075万円となって おり,ファナックの生産性の高さが際立っている。資本集約度は,安川電機 が約6,250万円,ファナックが約3億2,949万円(安川電機の約5.3倍)であ る。日銀指標値は約5,920万円となっている。

一方,設備投資効率では,安川電機が242%,ファナックが98%,日銀指 標値では97%となっており,安川電機は,標準値より,かなり良いが,ファ ナックは,標準値以下の投資効率となっている29)。ファナックの投資効率は 低いが,その分,圧倒的な資本を投入して生産性を上げていることが分かる。 安川電機は,低付加価値率(27.54%)のなかでの高い労働分配率(47.03%) となっており,ファナックは高付加価値率(71.63%)のなかでの低い労働 分配率(15.23%)となっている。結果的に,ファナックは,高い資本集約 度を保持しながら極めて高い労働生産性を発揮するビジネスモデルとなって いる。

28) 日銀方式とは,日本銀行の付加価値の定義とし,産業用機械製造業部門の調査値 と比較した(日本銀行調査統計局[1995],pp.87-88)。

29) 設備投資効率の標準値は171.9%(渋谷武夫[2001],p.132)。

(15)

3-3.事例企業2社の安全性分析

安全性分析には,比率分析(流動比率や固定比率など)と実数分析(キャッ シュ・フロー計算書による分析など)がある。

比率分析には,短期的債務支払能力をみる流動性分析(流動比率や当座比 率)と長期的視点から債務支払能力を見る財務健全性分析(固定比率や固定 長期適合率)がある30)。

まず,2013年度の有価証券報告書から各指標を計算する。安川電機の流動 比 率 は,176.3%,当 座 比 率 は98.0%と な り,フ ァ ナ ッ ク の 流 動 比 率 が 1,033.5%,当座比率が920.4%となっている。

次に,安川電機の固定比率は,74.0%,固定長期適合率が50.2%となり, ファナックの固定比率が26.3%,固定長期適合率が25.4%となっている。日 銀指標値では,流動比率が150.36%,当座比率が111.69%となり,固定比率 が96.10%,固定長期適合率が61.55%となっている31)。

以上,安川電機については,短期債務,長期債務の支払能力ともに日銀指 標値を上回る値であり,やや安全と言える。ファナックの場合は,異次元の 高さを持った安全性の高い企業であることが分かる。例えば,ファナックの 現金及び預金の8,236億円(2013年度連結)は,安川電機の231億円(同)と 比較しても,特異な財務構造を持っており,ファナックの安全性の高さが際 立っている32)。

次に,キャッシュ・フロー分析(以下,CF分析と記す)によって両社の 安全性を見てみよう。キャッシュ・フロー分析とは,企業のキャッシュの流 れと,将来のキャッシュ・フローの創出能力の有無を確認することであった。 そのために,両社の2009年度から2013年度までの5年間のキャッシュ・フ

30) 渋谷武夫[2001],p.113。

31) 日本銀行調査統計局[1995],pp.87-88。

32) 他社の流動比率(連結),キヤノン269%(2013/12),キーエンス1,124%(2014/ 03)。

(16)

ロー計算書からキャッシュの流れを概観してみよう。

まず,営業活動キャッシュ・フロー(以下,営業CFと記す)を見てみる。 両社とも年度による振幅の巾はあるものの,毎期プラスとなっており,設備 投資ができ,借入金の返済ができることを意味している。

投資活動キャッシュ・フロー(以下,投資CF)については,両社とも, 毎期,主に,有形固定資産の取得のためにも支出されており,健全である。 財務活動キャッシュ・フロー(以下,財務CF)については,安川電機の 場合,長期,短期の返済や借入れや社債発行などがあり,期によってプラス, マイナスとなっている。一方,ファナックは,無借金経営であり,自己株式 の取得か配当金の支払いとなっており,その金額は,毎期,マイナスとなっ ている。

次に,フリー・キャッシュ・フロー(以下,FCF)をみると,安川電機の 2012,2013年度はプラス,2009,2010,2011年度の3期は,マイナスとなっ ていた。一方,ファナックは,毎期,プラス(424億円から1,155億円)となっ ており,投資後も余りある収益力のあることを示している。FCFは,経営 者の裁量の資金とも呼ばれ,その使途には経営姿勢が問われる。2013年度の FCFは,安川電機が70億円を,ファナックが1,090億円を稼ぎ出している。 特に,ファナックにおける将来のキャッシュの創出能力は,大きく,企業の 存続可能性は極めて高いことが分かる。

なお,CF分析から見た収益力の物差しである営業CFマージン(営業CF/ 売上高×100)を算出してみると,安川電機が6.59%(2013年度連結),ファ ナックが27.84%(同)となっており,ファナックの収益力の高さが際立っ ている33)。

以上,キャッシュ・フロー分析の結果,安川電機の安全性の総合評価は, 普通よりやや良い企業,ファナックは極めて高い企業と判断された。

33) 他社の営業CFマージンは,キヤノンが10.29%(2013/12),キーエンスが35.15 %(2014/03)である。

(17)

4.事例企業2社の損益分岐点(BEP)分析

損益分岐点(break-even point : BEP)とは,費用と収益が等しくなる売上 高,つまり,損益がゼロになる売上高のことである。この損益分岐点の概念 を用いて,費用,収益,損益の3要素の関係性を明らかにするための道具が, 損益分岐図表(break-even chart)である。

損益分岐図表は,横軸には売上高を,縦軸には収益及び費用をとる。この 図に原点0を通って45度線を引き,売上高線とする。次に,縦軸上に固定費 を切片として,傾きθ(変動費率)の直線を引き,総費用線とする。この売 上高線と総費用線との交点が損益分岐点であり,この概念を使って目標利益 達成点や固定費の改善,変動費率の改善などの計画策定に役立たせる分析技 術を損益分岐点分析(以下,BEP分析と記す)という34)。なお,ある売上高 (s),固定費(f),変動費(v)とした場合の損益分岐点公式は,

損益分岐点売上高 = 固定費(f) 1− 変動費(売上高(v)

s)

となり,この時の分母を限界利益率(貢献利益率)という。

限界利益率=1− 変動費(売上高(v) s)

本稿においては,この分析技術を初歩的戦略会計として位置づけし,企業 の「将来性分析」や「意思決定」の分析技術と考えた。既に,経営分析とし て収益性の分析やCF分析をしており,残された課題が,意思決定のための

34) 青木茂男[2008],pp.203-204。

(18)

戦略会計,BEP分析である35)。

BEP分析の第1歩は,費用を固定費と変動費に分ける固・変分解である。 したがって,まず,事例企業2社についての総費用を固・変分解し,固定費, 変動費,変動費率(変動費率=変動費/売上高)を確定し,損益分岐図表を 作成する。

本稿における費用の固・変分解は,有価証券報告書に基づく分解作業であ り,平成23年度から25年度に至る3年間のデータ(連結の四半期費用を1単 位として計12のデータ)を基にして,回帰分析によって,固定費,変動費率 を推計した。

その結果,四半期単位での安川電機は,固定費128億円,変動費率0.7862, 決定係数0.987と,なり,損益分岐点は,599億円となった(図4)。また, ファナックは,固定費275億円,変動費率0.3804,決定係数0.681と,なって いる(図5)。これによって,この間の安川電機の限界利益率は,21.4%, 四半期単位での固定費は,128億円,損益分岐点は,599億円となっている。 一方,ファナックの限界利益率は62.0%,四半期単位での固定費は,275億 円,損益分岐点は,444億円となっている。

この結果から,ファナックは,固定費の高い,所謂,固定費型経営となっ ている。固定費の高さを限界利益率の高さ(変動費率の低さ)でカバーしな がら,結果的に,損益分岐点の低いビジネスモデルとなっている。その為に は,固定費を吸収する操業度(売上高)が必須条件となり,損益分岐点以上 の操業度を確保することが至上命題となる。

損益分岐点を挟んでの利益・損失の弾性値は,ファナックが大きく,安川 電機は比較的に小さいと言える。その結果,損益分岐点操業度を超えると,

35) 高田直芳[2002],pp.24-27,高田直芳[2007],pp.31-32。高田は戦略会計を超 ミクロ経済学として位置づけして,管理会計を越えてM&A戦略にも適応できる意 思決定会計と位置づけている。

(19)

1,400 1,300 1,200 1,100 1,000 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0

用︵

億 円

/

四 半

0 100 200 300 400 500 600 700 800

900 1,000 1,100 1,200 1,300 1,400

BEP :599億円 y=0.7862x+128

R2 = 0.987

売上高線

経常利益 86億円

変動費: 786億円

固定費: 128億円 変動費線

固定費線

売上高(億円/四半期)

ファナックの場合は急速に利益が出るが,安川電機の場合は,その操業度が, 変動費に吸収されるため,徐々にしか利益が出ない経営体質となっている。 また,安川電機は,固定費は低く,変動費率の高い,所謂,変動費型経営と 言える。固定費が比較的低いことによって,不景気になって操業度が下がっ ても,大きな損失を被ることにはならない。つまり,通常の景気変動に対し ては,比較的,強い経営体質を持っているものとも考えられる。しかし,変 動費率が高いことによって損益分岐点以上の操業度(売上高)が確保されて も,利益が出にくい経営体質であることが分かる。したがって,安川電機に とっては,限界利益率21.4%を向上させる対策が重要課題となる。

図4 安川電機の四半期の損益分岐図表(連結の四半期単位)

出所:平成23∼25年度の3年間の有価証券報告書(四半期実績値)より筆者作成。

(20)

1,400 1,300 1,200 1,100 1,000 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0

用︵

億 円

/

四 半

0 100 200 300 400 500 600 700 800

900 1,000 1,100 1,200 1,300 1,400

BEP :444億円 y=0.3804x+275

R2 = 0.681

売上高線

経常利益 345億円

変動費: 380億円

固定費: 275億円 変動費線

固定費線

売上高(億円/四半期)

今後の研究課題の項でも記すが,従来のように,制度会計として売上高線 や総コスト線を固定して,事業付加価値の大きさを比較する「静態分析」で はなく,戦略会計として,売上高線や総コスト線を変化させることによって, 経営戦略の良し悪しを評価する,言わば,「動態分析」が重要となる。所謂, 固定費の変動費化,限界利益率の向上策である36)。本稿の目的は,先行研究 の項でも記したように,事例企業2社の収益性の良否判定ではなく,ビジネ スモデルの如何を問わず,損益分岐点を下げ,事業体として収益性を高めら

36) 高田直芳[2007],pp.208-220。

図5 ファナックの四半期の損益分岐図表(連結の四半期単位)

出所:(同上)

(21)

れる経営戦略を探すことにある。

例えば,安川電機は,2004年頃より,労務費を下げる一方で,外注加工費 を上げる政策をとっている。逆に,ファナックは内製化の方針を徹底して進 めているように見える。これは,製造部門における経営戦略の違いでもある。 製造原価に占める労務費と外注加工費の長期的,戦略的な低減対策は,内製 化,外注化に拘らず限界利益率向上のための時間的・空間的重要課題となる。

約半世紀にわたってメカトロニクスを標榜し,AI(artificial intelligence: 人口知能)時代を先取りしてきた両社にとって,今,戦略会計の視点での事 業体構築,IoT技術を駆使した新しいビジネスモデル作り(創り)が重要と なる。

なお,損益分岐点図表には,一般的には4タイプがある。A型(固定費大, 変動費大),B型(固定費大,変動費小),C型(固定費小,変動費大),D 型(固定費小,変動費小)の4類型である。この分類では,安川電機はC 型,ファナックはB型となる。従って,両社ともに,基本的には,D型を 目指しての取り組みが理想とされる。

この損益分岐図表は,四半期単位となっており,これらを年換算すると, 安川電機の損益分岐点が約2,396億円,固定費は,512億円,限界利益率21.4 %となり,ファナックの損益分岐点は1,776億円,固定費は1,100億円,限界 利益率62.0%となっている(図6)。また,平成26年3月期の安川電機の連 結売上高は3,635億円,経常利益270億円,ファナックの連結売上高は4,509 億円,経常利益は1,743億となっており37),安全余裕率(大きい方が良い)は, 安川電機が34.1%(健全),ファナックが60.6%(優秀)となっている38)。

37) 平成25年度の売上高実績値をCVP分析の損益分岐点公式に代入し,経常利益を 算出してみると,安川電機が265億円,ファナックが1,693億円となり,ほぼ,回 帰式が検証された。

38) 安全余裕率とは,経営のゆとり度を表す指標で,(売上高−損益分岐点売上高)/ 売上高×100の式で表され,大きくなるほど優秀な経営と判断される。標準は23.1 %)とされている(渋谷武夫[2001],p.159)。

(22)

また,損益分岐点対売上高比率(小さい方が良い)は,安川電機が66.91 %,ファナックが39.38%となっており,いずれも,日銀指標値(産業用機 械製造業)である93.64%を大きく下回っている。特に,ファナックの値は 低く,平成29年3月期の連結売上高は5,369億円,経常利益高1,688億円,経 常利益率31.44%は,驚異的である(図7)。

これらの損益分岐点分析の結果から,事例企業2社について,西式損益分 岐点比率(固定費/(固定費+経常利益)×100)ランキングによって,企業の 優良度を測定し分類した39)。その結果,安川電機は65.4%でAランクの優良 企業(60%∼79%),ファナックは,38.7%でSランクの超優良企業(∼59 %)に分類された。

図6 事例企業2社の連結損益分岐点表

(H23年度∼H25年度,単位:億円)

事例企業名 損益分岐点 固定費 限界利益率 安川電機 2,396 512 0.214 ファナック 1,776 1,100 0.620

出所:有価証券報告より筆者作成

図7 事例企業2社の平成25年3月期∼29年3月期の経常利益高の検証(単位:億円)

決算期 H25年

3月期 H3月期26年 H3月期27年 H3月期28年 H3月期29年 5期平均値 実績売上高 3,103 3,635 4,001 4,112 3,949 3,760 実績経常利益高 156 140 270 339 358 253 安川電機 経常利益率(%) 5.03 3.85 6.75 8.24 9.07 6.72 試算経常利益高 152 266 344 368 333 293 差異(対実績値) −4 126 74 29 −25 40 実績売上高 4,984 4,509 7,297 6,234 5,369 5,679 実績経常利益高 1,912 1,743 3,119 2,293 1,688 2,151 ファナック 経常利益率(%) 38.36 38.66 42.74 36.78 31.44 37.88 試算経常利益高 1,990 1,696 3,424 2,765 2,229 2,421 差異(対実績値) 78 −47 305 472 541 270

出所:(同上)

(23)

次に,事例企業2社の利益図表より算出された試算経常利益高と実績経常 利益高との差異を分析する。両社の過去5年間(平成25年3月期∼平成29年 3月期)の実績値と,回帰式から導かれた本稿の損益分岐点公式で検証する と,安川電機の場合は,過去5年間の連結売上高の平均値は,3,760億円, 実績の経常利益高は,253億円(経常利益率は6.72%)となっているが,損 益分岐点公式からの予想経常利益高は293億円となっており,実績値との差 額は+40億円(差異率は15.8%)となった。

一方,ファナックの場合は,連結売上高の平均値は,5,679億円,実績の 経常利益高は,2,151億円(経常利益率は37.88%),となっているが,損益 分岐点公式からの予想経常利益高は,2,421億円となり,実績値との差異は +270億円(差異率12.5%)となった。いずれの企業の試算値と実績値は一 致しないが,未来に向けての意思決定用の分析資料としては,充分に実用に 耐えるものである。本来,経営分析は対外的に公表されている財務諸表を手 掛かりに,当該企業の業績を分析する作業である。しかし,本格的なM&A や業務提携などに当たっての意思決定のための会計においては,「情報の非 対称性」がある中での意思決定となる。そのためには,可能な限りの内部情 報を加味しての戦略会計でなければならない40)。

以上,損益分岐図表からみた両社の企業特性は,安川電機は変動費型ビジ ネスであり,ファナックは,やや固定費型ビジネスとなっていることが分かっ た。したがって,今後,損益分岐点引き下げ対策としては,限界利益率向上 と固定費の生産性アップである。変動費型は,変動費比率の引き下げを,固 定費型は,固定費の効率的運用のためのシステム造りが課題となる。現在,

39) 1987年に西順一郎が提唱した企業のランキング付けの分析手法で,損益分岐点 比率(固定費/(固定費+経常利益)×100)を算出し,その値で企業の優良度を,S ランクからDDランクまで6段階に区分する)によってランク分けする(西順一郎 [1987],p.88)。

40) 高田直芳[2007],pp.24-32。

(24)

安川電機はアウトソーシング(外注化)を進めており,固定費(社内労務費 の外注への転化)を下げようとしている。しかし,変動費率が高く(78.6 %),売上高が上がっても利益への貢献度が低くなっている。変動費率の引 下げと固定費の増減による利益最大の最適点の模索が今後の課題となる。一 方,ファナックは,操業度(売上高)の平準化と,更なる,有形固定資産の 生産性の向上のための仕組みづくり,固定費管理の視点での最適操業度の模 索(規模の経済への誘惑抑制)が重要となる。

お わ り に

本稿は,産業用ロボット業界を取り巻く環境の変化(3つ)を確認し,今 後の産業用ロボットメーカーとしての経営環境への変化対応について,経営 分析を通して考察してきた。その結果,安川電機とファナックのビジネスモ デルが対照的であることが分かった(図2)。次に,そのビジネスモデルの 違いのなかに,収益構造造りのための普遍的対策を発見することであった。 具体的な分析作業は,デュポン・チャートに従って進めた。まず,事例企 業の全体像を総資本経常利益率によって把握しながら,売上高利益率,総資 本回転率へと分析作業を進めた。その結果,収益性モデルとして,「低利回 り・高回転型」の安川電機・モデル,「高利回り・低回転型」のファナッ ク・モデルを発見した。これらの収益性分析に続き,安全性分析,損益分岐 点分析へと作業を進めて,事例企業2社の総合的な企業特性を明らかにした。

今後の研究課題としては,事例企業2社について,制度会計としての分析 領域を超え,ミクロ経済学を念頭に入れての,本来の戦略会計としての分析 を進めたいと考えている。損益分岐点分析によって表されたCVP図表 (Cost・Volume・Profit chart)上で,売上高線や総コスト線を変化させ,企業 が採用する経営戦略の特徴を把握することである。所謂,CVP図表による

(25)

動態分析であり,変動費型,固定費型の如何を問わず,事業付加価値増大の 模索である。

さらに,このような視角での研究を進めることによって,ロボット産業の 産業特性(特徴)を研究したいと考えている。単に,固定費型産業か変動費 型産業かではなく,経済学的視点でみた当該産業への新規参入障壁の高さを 計り,前述した美的集団によるドイツKUKAの買収問題にも敷衍し考察し たい。

将来,ロボット産業の寡占化,独占化が進むことによって,電力事業,鉄 道事業,航空事業などにも類似した,「費用逓減産業」とも呼べる産業形態 が生まれるのではないか,という仮説である。なぜなら,既に,高い固定費 を維持しながらも,高収益モデルを構築しているファナックの事例があるか らである。また,安川電機についても,ファナックの域には達していないが, 高収益を目指して,変動費型モデルに内在する変動費問題や固定費問題に対 峙し,新しい分析視点として,所謂,会計学的視点に経済学的視点を重ねて, 当該産業を「費用逓減産業」として構築することの可能性を探ることである。 メカトロニクス産業41)として,1970年代に生まれたロボット産業が,約半 世紀の時を経て,「費用逓減(的)産業である」とする仮説の検証は,画期 的な研究となる42)。そのためには,制度的会計としての財務諸表分析に加え て,事例企業2社へのヒヤリング調査(内部情報)も重ねて,経営情報の非 対称性を克服し,戦略会計として分析し,立証しなければならない。

41) メカトロニクス(mechatronics)とは,mechanism(機械装置)とelectronics(電 子工学)を合わせた和製英語であり,1969年に安川電機の技術者であった森徹郎 (安川電機常務取締役)が出願した。1972年に商標登録され,海外にも普及したこ とでメカトロニクスを冠する学術論文集も発行された。現在,安川電機は商標権を 放棄している。

42) 高田直芳[2007],pp.102-112.

(26)

〈補遺〉

1.経済産業省は,2006年に「ロボット政策研究会報告書」の中で,ロボッ トを「センサ,駆動系,知能・制御系の3つの技術要素(ロボットテク ノロジー)を有する機械システム」と定義している。

2.損益分析図表作成の為に,事例企業の3年間(平成23年度から平成25年 度)を対象に,四半期を1単位としたデータ(12個)をもとにして回帰 分析し,それぞれの回帰式を得た。

安川電機の回帰式は,Y=0.7862X+128(億円/四半期),決定係数0.987 (良い)43)となった。一方,ファナックの回帰式はY=0.3804X+275,決定係 数は0.681(データにバラつきあり,まあまあ良い)となった。安川電機の 四半期単位での損益分岐点は599億円,固定費128億円,変動費比率78.62%, ファナックの損益分岐点は444億円,固定費は275億円,変動費比率38.04% となった。

〈参考文献・参考資料〉

・IFR 2014,World Robotics : Industrial Robots 2014,IFR

・IFR「Executive Summary World Robotics」[2012]∼[2017] ・青木茂男 2008, 要説 経営分析(三訂版)』森山書店

・池田暁彦 1980, 侍商法の系譜・安川・松本家の人々』朝日新聞社(安川寛聞書) ・稲葉清右衛門 1982, ロボット時代を拓く』PHP研究所

・伊丹敬之 1983, 安川電機製作所 野村マネジメント・スクール資料N11-183-016 ・岡本久吉 2010,「企業の分離・独立の研究」LEC会計大学院

・川崎重工業 2013, 有価証券報告書』(www.kabupro.jp/yuho/7012.htm, 2015/01/15) ・Barclay Global BIZ 2013,「川崎重工が中国国内でロボット工場設立の動き」

(http://barclay-global.biz/china/?p=65, 2015/01/15)

・楠田喜弘 2004,「産業用ロボット技術発展の系統化調査」 国立科学博物館 技術 の系統化調査報告第4集』国立科学博物館

・KUKA ANNUAL REPORT 2006-2017

・経済産業省 2014,「ロボットによる新たな産業革命について」経済産業省 (www.kantel.go.jp/jp/singi/robot/dai1/siryou3-1.pdf, 2015/01/15)

43) 回帰方程式の決定係数R2について,0.8R2の場合の回帰式の精度は“良い", 0.5≦R20.8の場合は,まあまあ良いとされている。

(27)

・合力知工 2004, 現代経営戦略の論理と展開』同友館

・柴田友厚・児玉文雄 2004,「技術選択のジレンマを超えて」 経済産業研究所 RIETI Discussion Paper Series 04-J-047 ,pp.1-23(http;//www.riet.go.jp/publications/dp/04j047.pdf, 2014/11/01)。

・渋谷武夫 2001, 経営分析の考え方・すすめ方(第2版)』中央経済社 ・渋谷義行・恩蔵直人 2011,「顧客適応のマーケティング」早稲田大学

(www.wasedajp/sanken/publication/working//wp/WP 2010-003.pdf, 2014/11/05) ・島村史孝 1988,「道草人生・安川寛」 西日本新聞』1988/02/26∼04/30,全64回 ・瀬川友史 2014,「ロボットによる産業革命の実現に向けて」三菱総合研究所

(www.mri.co.jp/opinion/column/tech/tech20140724.html, 2015/01/15) ・高嶋克義 1998, 生産財の取引戦略−顧客適応と標準化』千倉書房 ・高田直芳 2002, ほんとうにわかる経営分析』PHP研究所 ・高田直芳 2007, 戦略会計入門』日本実業出版社 ・中山眞 2006, ロボットが日本を救う』東洋経済新報社 ・西順一郎 1987, 戦略会計入門』ソーテック社

・日本ロボット工業会 2013∼2016,「ロボット産業需給動向」日本ロボット工業会 ・日本ロボット工業会 2010,「マニピュレータ,ロボットに関する企業実態調査報

告書」日本ロボット工業会

・日本銀行調査統計局 1995, 主要企業経営分析』日本銀行 ・貫井健 1982, 黄色いロボット』読売新聞社

・Barclay Global BIZ 2013,「川崎重工が中国国内でロボット工場設立の動き」 (http://barclay-global.biz/china/?p=65, 2015/01/15)

・古川栄一 1980, 経営分析(三訂版)』同文舘

・富士経済 2013,2013ワールドワイドロボット市場の現状と将来展望』富士経済 ・ファナック 2013-2017, 有価証券報告書』

(www.kabupro.jp/yuho/6954.htm, 2015/01/15) ・門司税関 2012,「産業用ロボットの輸出・税関」

(www.customs.go.jp/moji/moji_toukei/f24-02 robot.pdf, 2014/11/01) ・安川電機 2013-2017, 有価証券報告書』

(www.yasukawa.co.jp, 2015/01/15)

・安川電機40年史編集委員会 1956, 安川電機40年史』安川電機製作所 ・安川電機75年史編集委員会 1990, 安川電機75年史』安川電機製作所 ・安川寛 1987, ふるさとへ帰る』安川広報企画

・米倉誠一郎 1991,「企業革新と組織外部化戦略:富士電機・富士通・ファナック・ ファナック」 一橋論叢 ,106(5),pp.472-495)

(httm://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/12475/1/ronso1060500360.pdf, 2014/11/ 01)

参照

関連したドキュメント

藤野/赤沢訳・前掲注(5)93頁。ヘーゲルは、次

捜索救助)小委員会における e-navigation 戦略実施計画及びその他航海設備(GMDSS

充電器内のAC系統部と高電圧部を共通設計,車両とのイ

経済学研究科は、経済学の高等教育機関として研究者を

Abstract: Most of the building stones used in Japan are being imported nowadays and the occurrence of the domestic building stone quarries are scarcely known.. It is the aim of

モノづくり,特に機械を設計して製作するためには時

第2期および第3期の法規部時代lこ至って日米問の時間的・空間的な隔りIま

の急激な変化は,従来のような政府の規制から自由でなくなり,従来のレツ