招待論文
QAM-OFDM 変調ディジタル無線通信における多層・複合材料の電磁 波遮蔽の評価
知念 幸勇
†a)石原 杏奈
†知名紗也加
†金城伊智子
††b)Evaluation on Electromagnetic Wave Shielding by Various Multilayer and Composite Materials in QAM-OFDM Digital Wireless Communications
Koyu CHINEN
†a), Anna ISHIHARA
†, Sayaka CHINA
†, and Ichiko KINJO
††b)あらまし 256-QAM-OFDM変調信号の送受信において,送受信アンテナ間に置いた18種類の多層構造・複合 材料による受信電力(Pwr),変調精度(EVM)への影響を評価し,その測定結果をシステム・シミュレーション と比較した.PwrとEVMの関係において,受信信号の復調ができないレベルとなるEVMしきい値電力を観測 した.EVMしきい値電力は,電磁波遮蔽率,受信器のデータ識別・再生の最小受信電力及び送信信号の変調方式
(シンボル数,符号化率,帯域幅など)により決まり,送受信電力,雑音伝達式による数値計算で求めることがで きた.ディジタル無線通信においては,多層構造,複合材料による送信信号の伝搬損失だけでなく,送受信信号 様式,送受信機の雑音指数がEVMしきい値電力を含む誤り率などの通信品質を決定する.
キーワード 256-QAM-OFDM,EVM,EVMしきい値電力,電磁波遮蔽体,多層・複合材料,ディジタル無線 通信
1.
ま え が きWi-Fi
(Wireless Fidelity
),LTE
(Long Term Evo- lution
),WiMAX
(WorldWide Interoperability for Mi- crowave Access
),地上波ディジタルTV
放送,5G-NR
(
5th Generation New Radio
)などのディジタル無線通信 ではQAM
(直角位相振幅変調:Quadrature Amplitude Modulation
)とOFDM
(直交周波数分割変調:Orthog- onal Frequency Division Multiplexing
)変調方式が使わ れている.このQAM-OFDM
変調信号の伝搬におい て周囲環境の様々な材料や構造物が及ぼす影響を調べ ることは,ディジタル無線通信における品質・セキュ リティの確保にとって重要な課題といえる[1]
〜[5]
.周囲環境にある様々な材料は異材質の多層構造,異
†GLEX,横浜市
GLEX, 1–24 Kagahara, Tsuzuki-ku, Yokohama-shi, 224–0055 Japan
††国立沖縄工業高等専門学校,名護市
National Institute of Technology, Okinawa College, 905 Henoko, Nago-shi, 905–
2196 Japan
a) E-mail: [email protected] b) E-mail: [email protected]
DOI:10.14923/transcomj.2020PEI0001
成分の複合材料が多いが,層厚や組成比はある程度定 まっている製品が多い.本研究では身の回りにある
18
種類の材料を選び,これらの材料によるQAM-OFDM
ディジタル無線信号の電磁波遮蔽と電送品質への影 響を受信電力とエラー測定により評価し,シミュレー ション結果と比較・検討することにより,ディジタル 無線通信における多層・複合材料による電磁波遮蔽と 通信品質の関係を明らかにする.2. 256-QAM-OFDM
変調信号2. 1 QAM
変調とOFDM
変調本研究ではディジタル無線通信として
IEEE802.11ac
に使用される256-QAM-OFDM
変調信号を用いた.多 値QAM
変調ではデータのビット列をI
(同相成分:In-phase
)とQ
(直交成分:Quadrature-phase
)の直交 座標軸にマッピングしてシンボルに振り分ける.例え ば図1
に示すように,64QAM
の場合,ビット列を6
ビットずつグレイコードで配置した64
個のシンボル に振り分ける.IQ
座標面上のシンボル全体の星座を コンスタレーションと称する.マッピング後,それぞれのシンボルはビット列の速
図1 QAM変調とEVMの概念図 Fig. 1 Feature of QAM modulation and EVM.
度に対応した速度(シンボルレート)で送信される.
データ速度を大きくするにはシンボル数を増やし,更 にシンボルレートを速くする.受信側でシンボルを復 調する際,シンボルの基準信号(
V
S)に対する振幅・位相揺らぎ(
∆V
n)を表す変調精度EVM
(Error Vector Magnitude
,20log
(∆V
n/V
S))を信号の誤り率(品質)を評価する指標として使用する.
2. 2 QAM-OFDM
送受信システム構成基本的な
QAM-OFDM
変調送信ブロックを図2
に 示す.ビット列をS/P
(Serial to Parallel conversion
)変 換後,シンボルをIQ
座標にマッピングし,各シンボ ルを異なる周波数のサブキャリアに振り分ける.シン ボルレートが速くなるとサブキャリアが占有する全体 の周波数帯域幅(BW
:Band Width
)が広くなる.サ ブキャリアは逆高速フーリエ変換(IFFT
:Inverse Fast Fourier Transform
)により,時間軸のベースバンド信号 に変換される.簡単な理解のために図では各変調信号 を三角関数表示で示した.IQ
成分を有するベースバン ド信号はP/S
変換,D/A
(Digital to Analog conversion
) 変換後,搬送波周波数に周波数変換(アップコンバー ジョン)する際,IQ
変調(位相変調)が行われ,IQ
信号の加算後,電力増幅器を経て送信アンテナに送ら れる.図
3
に示すQAM-OFDM
変調受信ブロックでは,受 信アンテナで受信したQAM-OFDM
信号は周波数変 換(ダウンコンバージョン)後,IQ
信号に分離され ベースバンド信号となる.時間軸のベースバンド信号 はA/D
変換,S/P
変換,高速フーリエ変換(FFT
)を 経て,周波数軸のサブキャリアに分離され,IQ
座標軸 上でシンボルにデマッピングされる.復調されたシン ボルのEVM
,コンスタレーションなどを測定するこ とで,送受信経路におけるデータ通信品質を評価する ことができる.図2 QAM-OFDM変調送信ブロック構成
Fig. 2 QAM-OFDM transmission system.
図3 QAM-OFDM変調受信ブロック構成
Fig. 3 QAM-OFDM receiving system.
データ伝送速度・品質を向上させるには無線伝搬区 間で生じる反射波・遅延波によるマルチパス干渉対 策,シンボル間干渉対策,複数アンテナによる複数伝 搬経路(ストリーム)の確保などが行われるため,実 際には図
2
,3
の送受信システムのデータ処理ブロッ ク以外に,ガードインターバルにおけるCP
(Cyclic Prefix Insertion
)挿入,FEC
(前方誤り訂正:Forward Error Correction
)挿入,MIMO
(Multiple Input Multiple Output
,2
〜8
ストリーム)などの処理ブロックを含 むため,一般にQAM-OFDM
変調回路は複雑なDSP
(
Digital Signal Processor
)LSI
で構成される[6], [7]
.3.
受信電力(P
wr),EVM
測定実験3. 1 256-QAM-OFDM
送受信実験システム 実験で使用した256-QAM-OFDM
送受信システムの 構成を図4
に示す.256-QAM-OFDM
信号の生成にはVSG
(Vector Signal Generator
,E8276D
,Agilient
)を 用いた.キャリア周波数は2.53 GHz
(BW
:80 MHz
)図4 256-QAM-OFDM送受信実験システム Fig. 4 Experimental set-up of 256-QAM-OFDM transmission.
と
5 GHz
(BW
:40 MHz
)である.5 GHz
帯における 測定システムの構成部品による信号損失が相対的に大 きいため,BW
を40 MHz
と1/2
に狭めることで,5 GHz
帯の受信感度を高くした.送信アンテナにはホーンアンテナ(
BBHA9120B 511
, 開口面18.2 cm
×12.4 cm
,利得:12.7 dBi
(2.53 GHz
),15.7 dBi
(5 GHz
))を用いた.送信アンテナとVSG
の 接続には同軸ケーブル(損失:8 dB
(2.5 GHz
))を用 いた.ここで,dBi
は完全無指向アンテナ(isotropic antenna
)を基準とした利得の単位を表す.受信アンテ ナは2.5 GHz
帯パッチアンテナ(PA2413A
,1 dB
減衰 角:± 10
度,利得:13.4 dBi
)と5 GHz
帯パッチアン テナ(PA0509S
,1 dB
減衰角:±15
度,利得:10 dBi
) を用いた.受信アンテナには低雑音増幅器(
LNA
:Low Noise Amplifier
,利得:33.5 dB
(2.5 GHz
),27.5 dB
(5 GHz
),NF
:4 dB
)を接続し,VSA
(Vector Signal Analyzer
,M9392A PXI
,Agilent
)で受信電力(P
wr),EVM
,コ ンスタレーション,スペクトルを測定した.送受信ア ンテナ間距離は4.5 m
で,受信アンテナの前0.7 m
の 位置に電磁波遮蔽材を置いた.3. 2
測定した電磁波遮蔽材の特徴測定した電磁波遮蔽材は身の回りにある導体,誘電 体の多層・複合材料で構成される市販の製品から
18
種類の材料を選んだ.電磁波遮蔽特性に影響する電磁 波遮蔽材に含まれる主な導電体材料・厚さ・含有量を 表1
に示す.典型的な電磁波遮蔽材について層構造,複合組成の概要を図
5
に示す.電磁波遮蔽材を構成する導電体,磁性体の膜厚,分 布,粒形などは一様ではないが,市販の材料には,業 界の製品仕様の統一規格があり,測定結果の汎用性,
共通性が期待できる.
しかし,異なる導電率,誘電率,透磁率を有する混 合物が均一に分布する材料の場合は混合物の体積比率 で実効誘電率・透磁率を表せるが,不均一に分布する 場合,あるいは水分・イオンなどが環境変化に伴い吸 収された場合は体積比率では算出できない
[8]
.表1 電磁波遮蔽材の概要 Table 1 Electromagnetic shielding materials.
材料名 寸法(cm) 主な導電体材料・厚さ・
含有量,体積抵抗率など アルミ蒸着発泡 ポ
リエチレン
60×47×0.3 Al:10µm
ホワイトボード 60×45×1 Fe:500µm,紙基材
鉄板 30×45×0.125 Fe:1250µm
アルミホイル 60×45×0.0011 Al:11µm アルミシート 33×55×0.007 Al:70µm アルミ板 30×40×0.3 Al:300µm 空洞コンクリート
ブロック
39×38×15
銅板 50×50×0.07 Cu:70µm
静電マット 60×60×0.2 カ ー ボ ン (103〜105 Ω cm),高分子基材 導電フォーム 60×60×5 カーボン,107Ωcm, 発
泡ウレタン 電磁波吸収体 60×53×3 カーボン,ウレタン CNT含有プラスチ
ック
40×40×0.3 CNT≥10 %,プラスチッ ク
ガラエポ銅張積層 基板
30×40×0.16 Cu:18µm,両面銅張,ガ ラエポ
ガラス板 50×70×0.3
アルミ箔テープ 32×42 Al:80µm
パラボラアンテナ 90×60×21 Al,2.5-GHz帯反射板(30-
mm格子)
人体 30×60×30 水,イオン(N a+,K+)
図5 実験に使用した多層・複合材料の構成例 Fig. 5 Multilayer and composite materials.
4. EVM
測定結果4. 1
受信電力P
wrとEVM
の測定結果電磁波遮蔽材ごとの受信電力(
P
wr)とEVM
,及 びコンスタレーションの測定結果を図6
,7
に示す.EVM
は受信信号の信号対雑音比(SNR
:Signal to Noise
Ratio
)に関連しており,受信電力(P
wr)の減少とと もにEVM
が大きくなっている.キャリア周波数2.53
GHz
においてはP
wr= -23 dBm
以下で,キャリア周 波数5 GHz
ではP
wr= -35 dBm
以下でEVM
が急激 に大きくなり,コンスタレーションも大きく乱れ受 信信号は復調できなかった.ここで,dBm
はP
wrを10logP
wr(mW)
の式で算出した値の単位である.4. 2
電磁波遮蔽材の伝搬損失測定した材料による
256-QAM-OFDM
変調信号の電 磁波遮蔽率α(dB)
とその考察について,表2
(f
c:2.53
図6 受信電力(Pwr)とEVM(fc:2.54 GHz)
Fig. 6 Measurement ofPwrand EVM(fc:2.54 GHz).
図7 受信電力(Pwr)とEVM(fc:5 GHz)
Fig. 7 Measurement ofPwrand EVM(fc:5 GHz).
表2 電磁波遮蔽材による伝搬損失(fc:2.53 GHz)
Table 2 Features of electromagnetic shielding materials(fc:2.53 GHz).
電磁波遮蔽率 材料名 考察
α(dB) (製品名)
0〜5 ガラス,静電マット,
導電マット,発泡ポ リエチレン,アルミ 板,水,銅板アルミ シート
・ガラス:絶縁体のため電磁 波吸収率が小さい.・導体板:
吸収−再放射のため電磁波吸 収が小さい.
6〜10 カーボンナノチュー ブ含有体,空洞コン クリートブロック,
電磁波吸吸収体,両 面ガラエポ基板,鉄 板
・カーボンナノチューブ含有 体,空洞コンクリートブロッ ク,電磁波吸収体:電子ドリ フト振動及びイオン振動によ る誘電損失が大きい.・鉄板:
磁性吸収が大きいが,吸収−
再放射がある.
11〜20 ホワイトボード,ア ルミ蒸着発泡ポリエ チレン,人体,パラ ボラアンテナ
・ホワイトボード:鉄板によ る磁性損失が大きく,吸収−
再放射が小さい.・アルミ蒸 着発泡ポリエチレン:アルミ 粒子内の電子ドリフトによる 抵抗損失が大きい.・人体:
イオン振動による誘電損失が 大きい.・パラボラアンテナ:
2.5-GHz用のグリッド反射板
のため電磁波反射が大きい.
GHz
)に示す.キャリア周波数2.53 GHz
の場合は,人 体,アルミ蒸着発泡ポリエチレン,ホワイトボード,鉄板などが大きな電磁波遮蔽率を示した.キャリア周
波数
5 GHz
の場合は人体,鉄板,空洞コンクリートブロック,ホワイトボードなどが大きな電磁波遮蔽率を 示した.
5. QAM-OFDM
シミュレーション256-QAM-OFDM
送受信測定結果を考察するために,システム・シミュレーションを行った.シミュレータ は
AWR-VSS
を使用した[9]
.図8
に256-QAM-OFDM
シミュレーションのシステムモデルを示す.電磁波 遮蔽材は送信アンテナと受信アンテナの間に接続し た.トータルシステム雑音はAWGN
(Additive White Gaussian Noise
:加算性白色雑音源)で表した.キャ リア周波数2.53 GHz
におけるEVM
,コンスタレー ションのシミュレーション結果を図9
に示す.比較の ために,測定データも示した.シミュレーションではP
wr= -23 dBm
以下での急激なEVM
の上昇は見られ なかった.EVM = -23 dBm
以上におけるEVM
とコン スタレーションは測定値とシミュレーション結果がほ ぼ一致した.図8 256-QAM-OFDMシミュレーションシステム
Fig. 8 QAM-OFDM system for simulation.
図9 256-QAM-OFDMシミュレーション結果
Fig. 9 Result of 256-QAM-OFDM system-simulation.
6. 256-QAM-OFDM EVM
数値計算6. 1 P
wrとEVM
の数値計算モデル図
9
のシミュレーションではEVM
が急激に変化す る受信電力P
wr(EVM
しきい値電力)を表すことがで きなかった.AWR-VSS
シミュレータには受信システ ム(VSA
)の最小受信感度が組み込まれていない.受信 電力(P
wr)をフリスの伝達公式より,雑音電力をシス テム構成部品の雑音指数より求め,EVM
を算出した.図
10
に計算で使用した送受信システム構成を示す.図
10
の送受信システム構成において,受信電力(
P
wr)を次式で表す.P
wr= P
inΓ
C1G
TXΓ
LΓ
SG
RXG
LNAΓ
C2(1) VSA
における受信雑音電力(N
o)を次式で表す.N
o≃ N
iΓ
C1G
TXΓ
LG
RXG
LNAΓ
C2+kTB{
F
LNAG
LNAΓ
C2+(F
C2−1)Γ
C2}+N
r(2)
ここで,自由空間伝搬損失(Γ
L)は以下の式で求まる.Γ
L= ( λ
4 π L )
2(3)
EVM
を受信器における分解周波数帯幅(RBW
:Res- olution Band Width
)におけるSNR
で表す.EVM = 10log( N
oS
o) @ RBW = 25 kHz (4)
式(1)
〜(4)
で用いた記号の内容と2.53 GHz
のキャリ ア周波数における数値計算に用いたパラメータの数値 を表3
に示す.6. 2 VSG
とVSA
の雑音指数測定系の雑音指数を調べるため,
VSG
とVSA
を 直結しP
wrとEVM
を測定した.図11
に示すようにEVM
は変調入力電力P
inの低い領域と高い領域で急 激に増加した.受信電力P
wrはほぼ線形に変化してい図10 受信電力Pwr,EVM計算システム構成 Fig. 10 Configuration forPwrand EVM calculation.
るため,
VSG
とVSA
の雑音電力N
iとN
rの急激な変 化が影響している.N
iとN
rは変調帯域幅とシンボル 数とともに上昇する.P
wrとEVM
の測定値と計算値 はほぼ一致した.図10
の伝送システムの場合は,信号 損失・増幅,空間伝送などを経て位相雑音などが重畳 されるため,N
rが急激に変化する受信電力P
wrは-45 dBm
〜-25 dBm
の範囲にある.6. 3 VSG
とVSA
の雑音電力とEVM
の計算 キャリア周波数2.53 GHz
における受信電力(P
wr),EVM
,伝搬損失の計算結果を図12
に示す.比較のた めにEVM
の測定値も示した.EVM
に関してはEVM
しきい値電力を含め,測定値と数値計算がほぼ一致し た.ここで,伝搬損失(dB)
はP
o(遮蔽材がない場合 のP
wr)−P
wrのdB
の計算式で算出した値で,電磁 波遮蔽率α(dB)
と同義である.数値計算法では,ベクトル信号発生器とベクトル信
表3 数値計算で用いたパラメータ(fc:2.53 GHz)
Table 3 Parameters for calculation(fc:2.53 GHz).
Symbol Content Value Unit
Pin Output power at VSG 1×10-1 mW
Ni Noise by VSG 5×10-9 mW
Nr Noise by VSA <2×10-7 mW
ΓC1 Loss in COAX(1) 1.58×10-1
FC1 NF of COAX(1) 6.33
GTX Gain of Transmit Antenna 1.86×101 ΓL Space Propagation Loss 4.51×10-6
L Propagation Distance 4.5 m
ΓS Loss at Measured Sample 0.04 to 1 GRX Gain of Receiving Antenna 2.19×101
GLNA Gain of LNA 2.24×103
FLNA NF of LNA 2.5
ΓC2 Loss in COAX(2) 0.56
FC2 NF of COAX(2) 1.78
fc Carrier Frequency 2.53 GHz
k Boltzman Constant 1.38×10-23 J/K
T Ambient Temperature 298 K
B Resolution Band-width 2.5×101 kHz
図11 VSGとVSAを直結した場合のPwrとEVM Fig. 11 Pwrand EVM measurement on directly
connected VSG and VSA.
号解析器における変調信号電力により変化する雑音 電力を測定し,数値計算に組み込むことでシミュレ―
ションでは表せなかった
EVM
しきい値電力を表すこ とができた.受信側では
A/D
変換,FFT
,タイミング同期,デー タ識別・再生に必要とされる最小受信電力があり,そ の受信信号電力以下ではシンボル再生における揺らぎ が大きく,EVM
が測定不能になる-10 dB
以上に急上 昇する.この急激な変化を示す受信電力P
wrがEVM
しきい値電力であり,このしきい値を数値計算では表 すことができた.キャリア周波数
5 GHz
においても,図13
に示すよ うに測定値と数値計算値はほぼ同じ結果が得られた.しかし,数値計算ではコンスタレーション,スペクト ルなどを表すことが容易ではないため,ディジタル無 線通信の送受信特性の正確な評価のためにはシステム シミュレータを併用する必要がある.
7.
ディジタル無線通信と電磁波遮蔽材7. 1
ディジタル無線通信のEVM
最小受信感度 ディジタル無線通信では送信側においてS/P
変換,図12 受信電力PwrとEVMの計算値(fc:2.53 GHz)
Fig. 12 Calculation ofPwrand EVM(fc:2.53 GHz).
図13 受信電力PwrとEVMの計算値(fc:5 GHz)
Fig. 13 Calculation ofPwrand EVM(fc:5 GHz).
シンボルマッピング,
IFFT
,P/S
変換,D/A
変換,IQ
変調などの演算を行い,受信側ではIQ
復調,A/D
変 換,S/P
変換,FFT
,シンボル・デマッピングの演算を 行うため,クロック信号のタイミング抽出,データ信 号の識別・再生が不十分だと,EVM
やBER
(Bit Error Rate
)が急激に上昇する[10]
.したがって,ディジタ ル無線通信では受信信号レベルが大きくても,データ 再生ができない場合がある.この最小受信感度(EVM
しきい値電力)は受信回路の性能に依存するため,身 近にある様々な電磁波遮蔽材は高速・多値変調のデー タ速度や誤り率に大きく影響する.本実験では,
256QAM
の変調信号のEVM
しきい値 電力は64QAM
に比べ約7 dB
上昇した.電磁波遮蔽 材によっては64QAM
変調信号に対しては受信特性に 影響がない場合でも256QAM
変調信号の電波に対し てはデータが復調できない遮断状態になるおそれが ある.本実験においては,キャリア周波数
5 GHz
では送 受信システムの構成部品による信号減衰が大きいためBW
を40 MHz
に設定した.そのため,キャリア周波 数5 GHz
におけるサブキャリア間隔が1/2
,シンボル レートも1/2
となり,VSA
の最小受信感度が良くなり5 GHz
帯のEVM
しきい値電力は2.5 GHz
帯に比べ約12 dB
低くなっている.7. 2
電磁波遮蔽材の電磁波吸収モデル図
14
に示すように,複合組成材料は抵抗,誘電体,磁性体の複合的な電磁波吸収メカニズムを有する.電 磁波遮蔽体の電磁波遮蔽材の中でも,人体,ホワイト ボード,アルミ蒸着発泡ポリエチレン,アルミホイルな どでは大きな電磁波遮蔽効果が見られた.人体はイオ ン振動吸収,ホワイトボードは鉄による磁性吸収,ア ルミ蒸着発泡ポリエチレンやアルミホイル(
t : 11 µ m
) は電子ドリフト振動による電気抵抗吸収が大きく,身図14 複合組成材料による電磁波遮蔽 Fig. 14 Electromagnetic shielding by composite
materials.
近にある電磁波遮蔽率の高い材料といえる.実際にス マートキーやスマートフォンなどをアルミホイルで
2
〜3
重に包むと全く機能しなくなる.また,人の多い オフィスやホワイトボードで囲まれたエリアではディ ジタル無線通信の品質確保には注意が必要である[11]
. ガラス,静電マット,導電マットによる電磁波遮蔽率 は非常に小さい.セキュリティ確保のためガラスやプ ラスチックに電磁波遮蔽効果をもたらすには導体・磁 性体の混合,金属メッシュ,透明導電体被膜などが有 効である[12]
〜[14]
.今回の実験では空洞コンクリートによる電磁波遮蔽 率が大きく出たが,海岸に近い建屋の屋上に数年置か れた試料を使用したため,雨水などの吸収によるイオ ン振動による影響が考えられる
[15], [16]
.7. 3
スペクトル変動とEVM
本実験において,
EVM
が非常に大きくなったとき のスペクトルでは図15
に示すように,不均一にひず む現象(ノッチ)が見られた.ディジタル無線通信に おいてはサブキャリアの振幅・位相の変化がデータ復 調におけるデータ識別・再生に大きな影響を及ぼすた図15 スペクトルに影響を及ぼす複合組成材料 Fig. 15 Change in spectrum at a composite material.
表4 ディジタル無線通信規格 Table 4 Digital wireless communication standards.
Wireless 4G IEEE 5G (NR) 5G (NR)
com. (LTE-A) 802.11ax DL (FR1) DL (FR2)
service DL (Wi-Fi6) (2020) (2021)
Terminal com.
0.1 to 1 ≤9.6 ≤10 ≤20
speed (Gb/s)
Carrier ≤5.9 2.4 to 5 3.7 to 4.5 24 to 52
frequency (GHz)
Frequency ≤20 ≤160 ≤100 ≤400
BW (MHz)
Modulation OFDM,OFDMA,CP-OFDM
method
QAM ≤2048
MIMO ≤8x8
め,スペクトルに影響を及ぼす不均一な組成を有する 複合材料の電磁波遮蔽材には注意が必要である.表
4
にディジタル無線通信規格の概要を示す.いずれの 規格もQAM-OFDM
変調をベースにしている.5G
はLTE
に比べて10
〜20
倍のデータ速度を目指しており,主に周波数帯域幅を
5
〜20
倍に拡大することで達成す る.しかし,スペクトル幅が5
〜20
倍に広がることは,電磁波遮蔽材によるスペクトル歪が起きやすくなるこ とでもあり,周囲環境における電磁波遮蔽材の特性の 把握と選択が重要になってくる.
8.
む す びディジタル無線通信における通信品質について,身 近にある
18
種類の多層・複合材料の電磁波遮蔽の影響 を調べた.無線信号として256-QAM-OFDM
変調信号 を使用し.ホーンアンテナとパッチアンテナ間に置い た電磁波遮蔽材により変化する受信電力(P
wr)と変調 精度(EVM
)を測定した.電磁波遮蔽で変化する受信 電力がある程度以下になると,急激にEVM
が上昇す るEVM
しきい値電力を観測した.システム・シミュ レータ(AWR-VSS
)を用いて,受信電力Pwr
,EVM
, コンスタレーションをシミュレーションすることで,EVM
しきい値電力を除き,測定値とほぼ同じデータ が得られた.フリスの伝達公式を使用し,システム構成部品の雑 音指数,
VSG
,VSA
の雑音レベル(最小受信感度)を 組みこんだ無線送受信システムのSNR
を計算するこ とでEVM
しきい値電力を表すことができた.EVM
しきい値電力は受信回路のタイミング同期,データ識別・再生回路の性能に依存するため,変調信 号の
QAM
(シンボル数),符号化率,周波数帯域幅に 依存する.したがって,電磁波遮蔽材による無線通信 品質への影響は,多層・複合材料の電磁波遮蔽特性に 加え,送信信号の変調方式,受信器の回路性能に大き く依存する.シミュレーションと数値計算式に多層・複合材の電 磁波遮蔽率とシステム雑音を組み込むことで,ディジ タル無線通信における,
EVM
しきい値電力を含む通 信品質(P
wr,EVM
,コンスタレーション,スペクト ル,BER
)の設計・評価が可能であることを示した.文 献
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[2] 山口 良,豊見本和馬,宮下真行,芹澤弘一,吉野 仁,
沢田浩和,石津健太郎,児嶋史秀,“屋内閉空間における伝 搬損失特性,” 2019信学全大,BI-1-7, March 2019.
[3] 安藤由純,藤元美俊,“壁面材質と見物高を考慮した例と レーシングによる伝搬損失推定,” 2019信学全大,BS-1-5, March 2019.
[4] 久保賢治郎,伊藤優希,岩井誠人,笹岡秀一,“人体遮蔽特 性測定における壁面反射波の影響の低減,” 2019信学全大,
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[6] 斎藤洋一,“線形変調方式への流れ,”ディジタル無線通信の 変復調,pp.108–156,(社)電子情報通信学会,東京,1996.
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[8] 西村芳一,無線によるデータ変復調技術,CQ出版株式会 社,東京,2002.
[9] H. Johnson,須藤俊夫(監訳),複数の材料からなる混合物
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[10] “Visual System Simulator,” https://www.awrcorp.com/sites/
default/files/content/attachments/BR-VSS-JP-2018.04.03.pdf [11] 松浦一樹,太田喜元,藤井輝也,“5.6 GHz帯無線LANにお
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[16] 高井信一郎,藤原正祐,林 達郎,“炭素粉末を添加した モルタルの電磁波遮へい性に関する研究,”材料,日本材料 学会,vol.64, no.12, pp.1034–1040, Dec. 2015.
(2020年7月27日受付,12月2日再受付,
2021年2月9日早期公開)
知念 幸勇 (正員)
1981静岡大学大学院・電子科学研究科・
博士課程了.工学博士.同年(株)東芝(電 子技術研究所)入社.2005国立沖縄工業高 等専門学校・情報通信システム工学科教授.
2017国立沖縄工業高等専門学校名誉教授,
2018 GLEX代表,現在に至る.光無線通信
システム,高周波電子回路,生体エレクトロニクスに関する研 究に従事.
石原 杏奈
2018国立沖縄工業高等専門学校情報通信 システム工学科卒.同年富士通(株)入社.
2020 GLEX所属,現在に至る.
知名紗也加
2019国立沖縄工業高等専門学校情報通信 システム工学科卒.同年(株)富士通マーケ テング入社.2020 GLEX所属,現在に至る.
金城伊智子
2005北海道大学大学院・工学研究科・博 士後期課程システム情報学専攻了.工学博 士.2009国立沖縄工業高等専門学校・情報 通信システム工学科助教.2020国立沖縄工 業高等専門学校・情報通信システム工学科 教授,現在に至る.現在,OR,情報通信分 野の研究に従事.