リセット形電圧一周波数変換器の直線性改善の一方 式
著者 谷口 慶治, 酒井 孝則
雑誌名 福井大学工学部研究報告
巻 23
号 2
ページ 327‑332
発行年 1975‑09
URL http://hdl.handle.net/10098/4632
福井大学 工 学 部 研 究 報 告
第23巻 第2号 昭和50年9月
リセット形電圧一周波数変換器の直線性 改善の一方式
谷 口 慶 治 ・ 酒 井 孝 則
A
Method for Irnproving the Linearity of Reset‑Type‑Voltage‑to
・
FrequencyConverters.Keiji T ANIGUCHI
,
Takanori SAKAI(Received Apr. 10, 1975)
The present paper describes techniques for improving the Hnearity between the input voltage and the frequency of osci11ation
,
and for stabi 1 i
zing the drift in frequency due to the variation of temperature of the reset‑type‑voltage‑to‑ frequency converter.The linearity can be improved by either one of the following two methods:
(1) A small resistor R is connected in series with the capacitor C of the integ‑ rator and the condition necessary for obtaining excellent linearity is given by T=CR, where T is the f
1
ybaGk time of the ramp waveform.(2) A control circuit which cbanges the threshold voltage in the comparator according to the input vo1tage is added to a conventional reset‑type‑voltage‑to‑ frequency converter and the linearity is improved by adjusting the variable resistor of the control circuit.
The stabi1ization of the drift can be accomplished by employing a bridge amplifier.
From experimental resu1ts, it was found that the linearity of these conver‑
ters were about 0.16 percent at a frequency of 500 KHz.
1. ま え が き
電庄一周波数変換器(以下V‑F変換器と略記する〉
は,計算機の入力部などに使用されており,重要な変 換器の一つである。 V‑F変換器に要求される条件と しては, (a)回路の構成が簡単でト. (b)入力信号のダイナ ミックレンジが広く, (c)入力信号と発振周波数との問 帯電子工学科
の直線性が良好で, (d)発振周波数が高く,(e)温度変化に 対する安定度が良好なことなどがあるO 変換器の回路 方式には, リセット形,パノレス帰還形,オノレタネート 形があり1う これらの回路図,発振周波数の上限値,
直線性などを表lに示しているoこのうちでリセット 形は,他の方法に比べて回路が簡単であるが,発振周 波数が高くなるほど T2の影響が無視できなくなるの
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各種V‑F変換器の比較
を利用して,①スイープ電圧の谷の値を入力信号によ り上昇させる,①比較器の基準電圧を入力信号により 制御させる,方法により T2の影響を除去できるよう にしており,前述の条件のうち(a).(b), (c), (e)につい ては,ほぼ満足しており, (d)についても,演算増幅器 表
1
で直線性が悪くなる。リセット時間 T2骨は, 使用す る演算増幅器 A1の周波数特性が良好であれば,図1 に示すように発振周波数に無関係にほぼ一定値とな
り,周囲温度に対してもほとんど変化しなL、。ここに 述べる 2種類のリセット形V‑F変換器は,この性質
と比較器の周波数特性が良好であれば満たすことがで きるものと考える。
本文はリセット形V‑F変換器の直線性の改善方法 と温度補償法を文献(3),性)をもとにしてまとめたもの である
T2 lOOnS
90nS 80nS
70nS
一 一
40nS
500Hz :LKHz 10KHz 100KHz : LMHz lOMHz F
図1
c
pをパラメータとしたときの F‑T2の 関係2. 回 路 方 式
2.1 スイープ電圧の谷の値を入力信号により上昇 させる文法め
図2は,この方法によるV‑F変換器の回路図であ るD 図で,Al> Cl> Rh R4が積分器, ん が 比 較 器 TrはC1の電荷を放電するためのトランジスタであ るo図で Trが導通したときのコレクターエミッタ 間電圧をVceとすれば,積分器の出力電庄町は,つ ぎの式で表わされるO
R凋 Vi
Vo=‑
。 ‑
R1n = ‑
Vi+ • ~ I Vce+• ce I一 一
C1一 一
R1一
t ‑・・・・・・・・(1) 積分器の出力電圧 Voは,基準電圧 E1と比較器A2で 比較され,VOがE1を越えると A2はO[V]にスイッチ するo したがって.A2の出力電圧Vdは, つぎのように表わされるO
Vd=G(E1‑VO) …・…・・白) ここで, Gはんの利得で、ある。 (1)式および白)式よれ
( V 4 R 4 ¥
E1‑EEt‑‑ 瓦
Vi‑Vり
t=Tl=o .
…・・・・(3) したがって,ClRl(E1 ‑Vce) ‑C1R4 Vi
T1= ‑,‑‑,,‑, Vi ・・……・ (4) この回路の発振周波数Fは,図 1より
F‑‑1一一一一 Vi
‑T1十T2‑ C1R1(E1 ‑Vce)+(T2 ‑C1R4)Vi
・・・・・・・・・(5) 式(5)で,T2=C1R4になるように回路定数を選べば,
F = ‑,C1R1(E1 Vt ‑V ce) …・…・・(6) となり,入力信号電圧 Viに比例した発振周波数Fを 得ることができるo
C2 (50pF)
t
図2 V‑F変換器の回路図
2.2 比較器の基準電圧を入力惜号により制御させ る方法4)
図3は,この方法によるV‑F変換器の回路図であ れ図中で点線により固まれた部分が直線性を改善す るために付加した回路で、ある。 図で,積分器はAt. Ch Rt.から構成されており, 入力信号電圧を‑Vi (Vi>O),時間をt. Trが導通したときのコレクター エミッタ間電庄をVceとし,積分器を理想的なものと 仮定すれば,積分器の出力電庄町は, つぎの式で表 わされるo
V
o 一一空
‑ C~ t+ V ce1R1 ‑・・・・・・・・(7)
積分器の出力電圧Voが, 基 準 電 庄 れ を 越 え る と 比 較 器 ん の 出 力 電 圧 は,Vp[V]にスイッチするoした がって,比較器出力電圧Vdは,つぎのように表わさ れるO
Vd=Vp=G(Vr‑Vo) ・H ・.(8) ここで, Gは比較器の利得で, G>1000, V p::::5[V]程
普 T2は.A1の周波数帯域幅 (ft), A2 • Trのスイッチ時間 (ton. toff)に依存するので ftが大きく,
ton, toffの小さいものを使用することが必要であるo
330 度であるから,
( v V4‑v)
r‑C1ーR1ι .ce)t=T1ーしたがって,
T, ‑CIRIC~:-V ce)
1 ‑ Vi
この回路の発振周波数は,
‑・・・・(9)
‑・・・・(10)
v z
F =
王子百 =
C1R1CVγ‑ Vω
十T2Vi…・・…・凶 式。1)から明らかなように,Viと F は比例しなし、D こ れを改善するために,基準電圧Vrを入力信号電圧に より制御する。すなわち,R7CVS十R9)TT
Vγ=VR‑~.;-;...o: V
T 瓦 Rs(R6+ R7) . Tこだし,V R= (R9/R8)VであるO
式側,式問より
‑・・・・・・・・0司
F =一一一一 Vi
J,... R7CRS+R9) '"' T > 1 C1R1(VR
一
Vce)十t
T2‑? i
刈: + i ?
:')C1R1JVi式l13)で回路定数を,
R7CRS+R9) T一一一一一一←一一一‑ RsCRo十R7)C1R に選べば,
F ‑ Vt
‑ C1R1(VR‑Vce) と な わ れ と Fは比例する。
C2(50pF)
・・・・仰)
‑
・・(14)
‑・・・・・・・・a5)
図3 基準電圧を制御するV‑F変換器の回路図
3. 発蟻周波数の上限値
V‑F変換器の発振周波数の上限は,主に,積分用
演算増幅器A1のスルーレート (SlewRate)により きまるoここで,スルーレートをQとすれば, 積分器 の出力電圧V。が比較器の基準電圧Vrまで立上る時 間は,つぎのようになるo
T..= s‑‑ ‑ ‑
~r
Q ‑・・・・任問 式(10)のスイープ時間T1は.T8より大きくなければならなし、から,
TsくT1 ・・H・H・.(r司 式的. (16), (17)より,発振周波数の上限の値Fmaxは, つぎのようになるO
Fmax
く 長
.......加)4. 温度補償回路の構成
Alのオフセット電圧,TrのV的 C1およびR1の 値は,周囲温度の影響をうけて変化するoこの変化を つぎのように近似するo
C1の温度変化 :C1=C{1 +k1(T‑To)} 1
R1の温度変化 :R1= R{1+k2CT‑To)} I
A1のオフセット電圧の温度ドリフト
Voff=Voffo+ん(T‑To)I
TrのVceの温度変化
V ce= V ces十k4CT‑To) . . "U9l 式伺,式
ω
よ れ 発 振 周 波 数Fは,つぎのようになるo
F~ E:i+ VOff‑ka(T ‑To) ‑ViC九十k2‑k4
つ
CTーTo)CR(V R ‑V ces)
・・・・・・・・・(20J ここで.kh k2 • k3および hは Toにおける温度 係数 k'4=
ム
/CVRーVces)で あ れ オフセット電圧 および各種の温度変化分は小さしその相乗効果は無 視するものとする。この式から明らかなように温度変化にもとずく発振 周波数の変動を小さくするには,素子の温度係数が,
たがし、に,相殺するようにすればよい(たとえば,ん の異ったコンデンサを並列に接続して使用する等)。
しかし,この方法では部品にパラツキがある場合,改 善度に限界が生ずる。ここでのベる方法は,銅線の電 気抵抗に温度変化を利用して,式倒の分子の2. 3.
4項目を相殺するものである。このため,図4の回 路の出力電圧Vfを図2または図3の抵抗R10で分圧
し. Alのオフセット電源として用いるo 図4で,.VfはつぎのようになるD
RfR. I RfR. ¥
Vf=
豆京子
(T‑To)V汁〔玉石
αnV3+r) F (T‑To)十2 7 v z ω
ここで, αおよびγは,それぞれ銅線抵抗Rsおよび A3の出力側のToにおける温度係数である。式倒,倒 よれ回路定数をつぎのような関係に選べば,温度ド リフトの影響を少なくし,かつオフセット電圧の影響 を打消すことができる口
V o f i f v z N l
I RfR. ¥ l
3 ={一一¥ Rι色R6
ー
αt.Lu r nV:i汁S I r}NI ).J..'1RfRR
‑'‑'Jー 主αN=k
,
十k2‑k'J RiRsここで,Nは抵抗R10の分圧比である。
Vl
R6
図4 V‑F変換器の温度補償問路
5. 実 験 結 果
5.1 図2の方式のVi‑F特性と直線性
...~
図5および図6は,図2の回路(カッコ内の定数〉
について,入力信号電圧Vi一発振周波数Fの特性と,
発振周波数F一直線性誤差Eの特性の実験結果を描 いたものである口図6から明らかなように,この変換 器の直線性は,発振周波数が500KHzまで0.16%以 下 で あ れ 温度ドリフトは, 無補償のときで約486 ppm
; o
Cであった。5.2 図3の方式のVi‑F特性と直線性
図7および図8は,図3の回路(カッコ内の定数) について, 入力信号電圧Vi一発振周波数Fの特性 と発振周波数F一直線性誤差 Eの特性の実験結果を描 いたものである。この回路の直線性は,図 8から明ら かなように,発振周波数が500KHzまで0.16%以下 であり,温度ドリフトは,無補償のときで約498ppm /OCであった口
lOMHz
5閥 均
ー‑‑‑:Theoretical value
園 田 園 田 :Measured value lMHz
500KHz
100KHz 50KHz
10KHz 5KHz
1KHz 500Hz
1mv 5mV lOmV 50mV lOOmv 500mV 1V 5V lOV 20V Vi
図5 入力信号電圧Viと発振周波数Fの関係
Theoretical value ‑Measured value Linearity e苫=-,,~.=c..-'---":"--::'-''=;;''='-'-''=:XIOO +5もキ ー品 Theoretical value
0%
‑5も
‑10も
500Hz 1KHz 10KHz 100KHz lMHZ 10MHz F
図8 発振周波数Fと直線性誤差Eの関係
10MHz 5MHz
ーーー Theoretical value
‑ ‑: Measured value 1MHz
500KHz
100KHz 50KHz
10KHz 5KHz
500Hzτ
lmV 耐 lOmV 50mV lOOmV 500mV lV 5V .10V 20V Vi
図7 入力信号電圧れと発振周波数Fの関係
332
+5も Theoretical value ‑Measured value
Linearity error‑ xlOO
Theoretica1 va1ue
0%
‑5%
‑10曹
500Hz 1Kz 10KHz 100KHz 1MHz ユOMHzF
図8 発振周波数Fの直線性誤差εの関係
5.3 温度補償回路の特性
式倒から,温度変化と発振周波数の変動の関係は,
つぎのように表わされる。
dF= F(T)‑F(To)ご
h3(T‑To)+ Vi(k1+k2 ‑k'4)(T‑To) CR(V R ‑V ces)
‑…倒 図9は,図3の回路〈補償回路なし〉で,Tをパラ メータにしたときの ViとTとLlFの間の関係は,式 舗で近似できることが明らかで、あるo
図4の温度補償回路を図2および図3の回路に付加 すると,温度ドリフトは,無補償の場合の約1/6に減 少した。
dF (Hz) 7000
0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0Vi(V)
図9 T‑ToをパラメータにしたときのVi‑dF の関係
6. む す び
ここでは, リセット形V‑F変換器の設計法につい てのベた。
入力信号と変換周波数との聞の直線性を改善するた めに,つぎのような方法が用いられた。
0) スイープ波形の谷の電圧が, 入力信号の増加と 共に上昇するような回路構成にするため,積分回路の コンデンサに直列に抵抗を接続し ,T2=C1Raの条件 を満足するように,回路定数を調整する。
(ii) 比較器の基準電圧が, 入力信号の増加と共に減 少するような制御回路を設け,
R7(Rs+ R9)
T~=C , R ,
‑ ‑ ‑ /
2 ‑ ""'lo Ul Rs(R6+ R7)
なる条件を満足するように,回路定数を調整する。
変換器が,温度変化に対して高安定性を要求される 場合には,銅線抵抗の温度変化を利用した温度補償回 路を付加できるようにした。
実験結果から,入力信号と変換周波数との間の直線 性は,発振周波数がOから500KHzで両国路とも0.16
%以下,温度ドリフトは,両回路とも 83ppm
; o
C以 下であった。本方式で,高性能の演算増幅器と比較器を用いれ ば,高い周波数まで良好な直線性を得ることが可能で ある。
参 考 文 献
1)今井聖 "AD
・
DA変換器におけるオペアンプ の利用"電子科学, p.55, 1973, 32) TELEDYNE PHILBRICK CATALOGUE 1974 3) 谷口,酒井:"V‑F変換器の直線性のー改善方
法グ信学論D. Vo ,l57‑D, No.11, 1974
4) 谷 口 , 酒 井 " 高 精 度V‑F変換器の回路方式(2)"
昭和49年度電気四学会北陸支部連合大会予稿 5) K. Taniguchi, T. Sakai :A new vo1t age
to frequency converter, IEEE Trans.
Computers,に採録。