災害・復興に関する情報の伝播に関する一考察
―2016年熊本地震を題材に―
村上 純一 * 宮田 浩二 **
A Study on Communication of Information Concerning Disasters and Recovery:
A Case of 2016 Kumamoto Earthquake Junichi MURAKAMI, Koji MIYATA
From the viewpoint of disasters, Japan is one of the most dangerous countries in the world. From the viewpoint of daily life of people living in Japan, however, disasters seldom occur.
Information on disaster-stricken areas is usually obtained from the media. This paper discusses the characteristics of and issues with media information about disasters and recovery based on the case of the Kumamoto Earthquake that occurred in 2016.
* むらかみ じゅんいち 文教大学人間科学部人間科学科
** みやた こうじ 文教大学人間科学部人間科学科
Key words: Disaster, Recovery, Kumamoto Earthquake, Mass Media, Communication 災害、復興、熊本地震、マスメディア、情報伝播
Ⅰ はじめに
言うまでもないことであるが、日本は世界でも 有数の「災害大国」である。その災害の種類も多 岐にわたり、地震、津波、火山の噴火、豪雨、台 風、雪害・・・と、日本では発生することを想定 する必要のない災害を探す方が困難なくらいであ る。日本ほど様々な自然災害の危険と隣り合わせ の生活を強いられる地域は世界でもそう多くはな いであろう。
ここ数年の間に日本を襲った自然災害を想起し てみても、その種類には様々なものがある。多く の人が大災害としてまず思い浮かべるのは2011 年3月に発生した東日本大震災であろうが、甚大 な被害を及ぼした地震としては他にも2016年4月 に発生した熊本地震や2018年7月に発生し、「ブ
ラックアウト」すなわち広域での大停電も引き起 こした北海道胆振東部地震などがある。直近の数 年間をふりかえるだけでも、2017年夏には九州 北部豪雨、2018年夏には西日本豪雨、2019年夏 にも佐賀・長崎・福岡の北九州各県に大きな被害 をもたらした豪雨と、毎年初夏から夏にかけて大 規模な豪雨災害が発生している。夏から秋口にか けて台風が列島を直撃するのも毎年のことであ る。さらに、冬場の豪雪被害や、2014年の御嶽 山噴火をはじめとする数々の火山活動も見逃すこ とはできない。日本が自然災害と無縁な時間を1 年間の中で見つけ出すことは非常に困難といえる ほど自然災害は日本のそこかしこで頻繁に発生し ているのである。
こうした自然災害について、多くの場合、人々 はその情報をメディアを通じて受け取ることにな る。全国で見ればどこかの地域で何かしらの災害
が毎日のように発生している状況があっても、一 人ひとりの日常の生活圏に限ってみれば、新たな 災害が毎日のように発生している地域はほとんど ないと言ってよい。もちろん、日常の生活圏で一 度でも大きな自然災害が起これば数か月間や数年 間、場合によっては数十年間にわたってその後の 生活に影響を及ぼすものであり、毎日新たな災害 が発生するわけではないからといってその影響を 軽んじることは出来るものではないものの、物理 的な発生件数に限って考えてみれば、多くの災害 は自分の生活圏からは外れた場所で発生している ことになる。そして、そうした災害の情報は直接 というよりは間接的に、メディアによる報道を通 じて得ることになる場合がほとんどであろう。
そのことを考えたとき、人々が得られる災害 に関する情報については、メディアによるフィ ルタを通じて受け取ることになるということ が指摘できる。もちろん、SNSすなわちSocial Networking Serviceが高度に発達し、以前に比べ れば社会に流通する情報は格段に多様かつ多量に なっているが、それでも、情報を受け取る側は発 信の段階で一定程度の取捨選択がなされた後の情 報を受け取っていることには変わりがない。
このことに鑑みると、ある地域で発生した自然 災害の状況、被災の実態を広い地域に伝えていく 上でのメディアの役割の大きさが改めて確認され る。そして、災害発生からの時間の経過ととも に、そこには「風化を防ぐ」という役割もまた加 味されていくことになる。被災の事実と記憶を伝 承し、被災の記憶の風化を防ぎ、そして災害から の復興のあゆみを広く知らせていく上で、メディ アの担う役割には今日においてもなお非常に大き なものがある。
こうした期待される役割を果たす上で、では有 益な情報とはどのようなものなのであろうか。ま た、そうした広く伝わっていく情報と、「知られ ざる被災地の実態」となってしまうものにはそれ ぞれどのようなものがあり、そうした差異が生じ ることによる課題には何が考えられるのであろう か。本稿ではこうした「災害に関する情報」に焦 点を当て、それぞれの情報に備わる特徴やそこか ら導かれる意義や課題等に着目して、「災害大国
ニッポン」における災害との向き合い方、情報の 受け止め方等について考察する。より多くの人が より長い時間にわたって、必ずしも自分の日常で 発生したわけではない災害の「リアリティ」を持 ち続けるための要点を本稿では考えていくことに したい。
Ⅱ 先行研究と事例の選定
(1) 関連する先行研究等
ここで、本稿に関連する先行研究等を概観する ことにしたい。
大規模災害が発生すると、被災の状況を記録し た書籍がその直後から刊行されることは珍しくな い。たとえば東日本大震災の発生直後には、朝日 新聞・朝日新聞出版(2011)や河北新報社編(2011)
など、各地方紙、全国紙が報道写真をまとめた書 籍を多数刊行しており、発生数か月から数年の間 には、天笠・牛渡・北神・小松編(2013)など震 災直後の学校等の対応をまとめた書籍や、国立教 育政策研究所監修(2013)など被災し避難所となっ た学校の教員による手記をまとめたもの、清水・
堀・松田編(2013)など現地での支援ボランティ ア活動等に基づく被災地の復興過程の記録となる ものなどが多数出版された。このように災害発生 から一定の期間はその災害に関する研究や文献が 多数発表・公刊されるが、しかし発生からの時間 の経過とともに、その数が徐々に少なくなってい くこともまた珍しくないことである。そして、そ うした先行研究の減少と軌を一にして、その災害 に対する人々の意識の中での風化が進んでしまう と言っても強ち間違いではない。
こうした人々の意識の中での「風化」を防ぐた めにも、発生から一定の期間が過ぎても災害を題 材にした研究や書籍の出版・発表が続けられるこ とがある。引き続き東日本大震災を事例にそうし た例を挙げると、福島県南相馬市を主な対象地域 とした寺島英弥の一連の著作など特定の被災自治 体の復興の歩みを毎年「定点観測」のように記録 し続けているもの1)、熊谷達也の作品や彩瀬まる の作品など実際に起こった災害を基にしたフィク ションである小説2)等を挙げることができる。
しかし、それが「定点観測」的なルポルタージュ であれ、「実際に発生した災害を基にしたフィク ション」である小説であれ、そして災害/復興に 関するその他様々な形の書籍であれ、出版物の内 容が他者に知られるためには、それを読者となる 他者の手に取ってもらうというプロセスが必要と なる。その意味では、被災地が必ずしも日常の生 活圏にはない人々に対して被災や復興のリアリ ティを伝えていく上で、書籍として出版されたも のには越えなければいけない大きなハードルが存 在していることになる。
これに対して、必ずしも自ら進んでそれを読も うとした人が多くなくても、多くの人々が読者と なってその記載内容に多少なりとも目を通すこと になる媒体として新聞がある。新聞記事を通じて 遠隔地の、それもその記事を目にするまでは興味 関心のあまり向いていなかった事柄を知ることに なる機会は多くの人が日常生活の中で得ている経 験であるといえよう。こうした特徴に鑑み、本稿 では分析の対象として新聞の記事に注目する。
(2) 着目する事例
本稿では事例として、2016年4月に発生した熊 本地震に着目する。熊本地震に着目する理由とし ては、大きく以下の2点が挙げられる。すなわち、
まず数ある自然災害のうちでも、地震はその最初 の現象が局地的かつ一時的であり、発生した時間 や場所を狭い範囲に限定しやすいことがある。こ れに対して、たとえば豪雨災害であると、災害発 生の原因となる事象が長時間にわたり、発生場所 もある地点に特定することは難しい。「ある時間 にある場所で発生した災害の情報が、その場所が 日常の生活圏ではない場所に広がっていく」とい うことを考える上で、地震は他の自然災害に比べ てその発生場所や時間の特定が容易に行える性質 を有した災害であることがいえる。また、激甚被 災地がその後も生活の場となる人が多数に上るこ とも、たとえば火山噴火と比較した際の地震の特 徴的な点である。これが本稿が事例として2016 年の熊本地震に着目することの理由の1つであ る。
もう1つは、近年発生した巨大地震を考えたと
き、特に東日本大震災はその被災したエリアの巨 大さゆえ、被災していない「日常の生活圏」を探 すことが困難であることが挙げられる。東日本大 震災の直接の影響がなかった地域を日本国内で探 すことは難しいと言っても過言ではなく、本稿が 目的とする「情報の広がり」の範囲を考える上で は熊本地震が妥当性の高い事象であるということ である。
なお、以上はあくまで本稿の分析対象として熊 本地震を取り上げることの理由を述べたものであ り、比較の過程で触れた諸々の災害を軽視する意 図は全くないことを本節の最後に付言しておきた い。
Ⅲ 事例ごとの考察
本節では、まず事例として着目する2016年熊 本地震の概要をまとめたのち、「熊本城」、「仮設住 宅」、「宇土市役所」の3つをキーワードとして、新 聞記事及び実地調査から関連情報の伝わり方と 実態について考察を行っていく。この3つのキー ワードを取り上げる理由については地震概要の記 載の後に詳述する。
(1) 2016 年熊本地震の概要3)
熊本地震は、2016年の4月に発生した熊本県を 震源とする大地震である。4月14日夜にM6.5、最 大震度7の地震が発生し、4月16日未明にM7.3、
最大震度7の地震が再び発生した。夜間に大地震 が連続して発生、死者は50名を超え、1800名以 上の人が負傷した。建物の被害は全壊家屋だけで も約8300棟に上り、阿蘇大橋の崩落やJR豊肥本 線の長期にわたる運休など、公共交通にも大きな 被害が生じた。
特に被害の目立った自治体は、4月14日夜の「前 震」、4月16日深夜の「本震」双方で震度7を記録 した熊本県益城町である。また、同県西原村や南 阿蘇村など県内各市町村のほか、大分県など県外 にも被害は及んだ。地震発生から約3年半が経過 した2019年9月末においても、7000名を超える 被災者が仮設住宅での生活を強いられている。
(2) 事例の考察
ここからは「熊本城」、「仮設住宅」、「宇土市役所」
の3つをキーワードとして、報道での取り上げら れ方、及び実態について考察を行っていく。これ ら3つを取り上げる理由であるが、「熊本城」は街 のシンボルであり被害の大きかった観光スポット であること、「仮設住宅」は被災者の日々の生活の 拠点となる場所であること、「宇土市役所」は庁舎 が全壊し公共施設の中でも特に被害の大きな箇所 であることが理由である。以下、この3つをキー ワードとして具体的な考察を進めていく。
ⅰ)熊本城
熊本城は2016年4月の地震で最も大きな被害を 受けた施設のひとつである。石垣は広範囲にわ たって崩れ、13棟ある重要文化財建造物全てが 被害を受けた4)。全壊した櫓も複数あり、元通り に復旧されるまでには20年以上の歳月が必要と されるともいわれている。
この熊本城を題材とした記事について、読売/
朝日/毎日の主要全国紙3紙について「熊本城」を キーワードに熊本地震が発生した2016年4月以降 2019年9月までの記事件数を検索すると、その月 毎の件数は<表1>に示すとおりとなる。
<表1>からは、地震発生からの約3年半、熊 本城がコンスタントに新聞記事に取り上げられて きたことが確認できる。もちろん、地震発生直後 は特に記事件数が多数に上っていたり、「発生か ら丸○年」のタイミングとなる毎年4月には他の 月に比べて記事件数が特に多くなっていたりとい う差異はみられるものの、毎月一定数の記事が掲 載されていることは「熊本城」をキーワードとし て見た場合の特徴的な点として挙げられるところ である。細かくその内容を見てみると必ずしも地 震と直結するわけではないものもみられる5)が、
全国の人々が熊本地震とその復興のプロセスに実 感を持って接するためのツールとして、熊本城を 題材とした記事は大きな役割を果たし続けている ことが窺える結果となっている。
<表1>
年 月 読売 朝日 毎日
2016
4 83 64 69
5 77 76 81
6 93 91 77
7 35 30 34
8 30 33 30
9 47 41 31
10 30 52 32
11 35 35 40
12 31 30 34
2017
1 30 28 16
2 36 19 28
3 30 25 14
4 80 51 58
5 31 24 37
6 23 23 23
7 7 10 10
8 14 16 16
9 16 18 9
10 12 16 8
11 18 15 17
12 17 21 10
2018
1 20 16 14
2 25 18 12
3 26 18 8
4 40 40 28
5 15 16 9
6 18 10 6
7 11 7 7
8 11 16 10
9 10 20 6
10 18 15 9
11 18 23 8
12 13 15 4
2019
1 9 24 8
2 14 17 7
3 15 11 9
4 24 20 7
5 7 17 7
6 14 14 6
7 7 5 2
8 10 7 4
9 15 20 7
この熊本城について、実際に現地を訪問し「定 点観測」を行った結果が以下に示す<写真1><
写真2><写真3>(いずれも現地訪問時に村上 撮影)である6)。
<写真 1 >
<写真2>
<写真3>
これらからは、熊本城の再建が着々と進行して いることが看て取れる。もちろんその因果関係を 軽々に判断することはできないが、コンスタント に記事にし続けることのできる素材であるために は、継続的に再建が進んでいくことも必要条件の ひとつとして挙げられる点であるといえる。「特 段の状況変化は見られない」ということを毎月記 事にし続けるのは至難の業と言ってよいものであ ろう。ある特定のスポットに関するコンスタント な情報発信がなされているということは、再建に 向けた変化がコンスタントに生じ続けていること のひとつの証左ともいえるのである。
ⅱ)仮設住宅
次に、仮設住宅について考察する。大規模な災 害が発生し、家屋を失った被災者が多数発生した 場合、そうした人々の一時的な住まいとして仮設 住宅の建設が行われることになる。ここで「熊本」
と「仮設住宅」の2語をキーワードとして「熊本城」
の場合と同様に記事数を検索してみると、その結 果は<表2>に示すとおりとなる。
<表2>
年 月 読売 朝日 毎日
2016
4 63 44 55
5 127 133 131
6 72 70 70
7 31 45 40
8 32 29 47
9 38 45 36
10 47 62 56
11 29 33 35
12 32 30 21
2017
1 28 48 43
2 21 28 16
3 33 32 24
4 106 59 83
5 19 17 11
6 18 43 25
7 18 14 10
8 17 20 8
9 12 19 20
10 29 25 31
11 11 25 14
12 10 21 25
2018
1 20 20 20
2 11 20 16
3 16 22 19
4 41 56 41
5 13 7 7
6 9 7 8
7 12 7 12
8 7 14 9
9 13 9 8
10 17 19 12
11 22 22 13
12 17 8 13
2019
1 9 14 9
2 7 18 10
3 19 14 17
4 37 33 38
5 6 4 3
6 10 11 12
7 14 2 8
8 4 3 4
9 9 9 7
この結果からは、熊本城関連記事ほどの数では ないものの、仮設住宅に関する記事も毎月コンス タントに掲載されていることが分かるが、月日の 経過とともに記事数が減少傾向にあることもまた 読み取れるところである。さらに、国政選挙や統 一地方選挙など規模の大きい選挙が行われる直前 には仮設住宅に言及した記事が一時的に増加する 傾向にあるのも特徴的な点といえる。
この仮設住宅に関して、2018年3月と2019年3 月に現地(熊本県益城町)を訪問しその様子を記 録したものが<写真4>および<写真5>であ る7)。
<写真4>
<写真5>
観光名所熊本城に比べ、復興の進捗を実感しづ らい様子が見て取れることになる。こうした、復 興が「必ずしも十分には進んでいない」側面はメ ディアを通じてでは比較的伝わりにくく、現地を 訪れることで初めて把握できる部分も少なくない ものといえる。
ⅲ)「宇土市役所」
キーワードの3つ目として、「宇土市役所」を取 り上げる。宇土市役所は地震によって5階建て庁 舎の4階部分が完全に押し潰され、解体 → 再 建を余儀なくされるほどの大きな被害が出た公共 施設である。
前記2つと同様、「宇土市役所」をキーワードと して記事数を検索した結果は<表3>に示すとお りである。
<表3>
年 月 読売 朝日 毎日
2016
4 14 10 9
5 8 5 4
6 2 1 1
7 3 1 0
8 3 3 1
9 1 1 6
10 1 3 0
11 1 2 0
12 0 0 1
2017
1 1 0 0
2 0 1 0
3 0 0 0
4 2 1 0
2017
5 2 0 1
6 0 0 0
7 0 0 0
8 0 0 0
9 0 0 0
10 0 0 0
11 0 0 0
12 1 0 0
2018
1 0 0 0
2 0 0 0
3 0 0 0
4 0 0 0
5 1 0 0
6 0 1 0
7 0 0 1
8 0 0 0
9 0 0 0
10 0 0 0
11 0 1 0
12 0 0 0
2019
1 0 0 0
2 0 0 0
3 0 0 0
4 0 0 1
5 0 0 0
6 0 0 0
7 0 0 0
8 0 0 0
9 0 0 0
この結果からは、庁舎全壊当時はメディアの注 目度も高かったものの、その後は記事としては全 くと言ってよいほど言及されなくなったことが明 瞭に看て取れる。いわゆる観光名所ではない公共 施設の場合、震災遺構とならなければ地震発生直 後を除き注目度は非常に低くなってしまうことが 分かる結果となっている。
なお、以下の<写真6>は2018年3月に現地 を訪問した際に撮影した宇土市役所の様子であ る8)。本稿執筆時の2019年10月においてもなお庁 舎の再建はなされておらず、宇土市役所はこの仮 設庁舎が使用されている9)。
<写真6>
Ⅳ 結語
以上、本稿では2016年4月の熊本地震に関する 新聞記事の掲載数の推移を中心に、3つの「キー ワード」に着目してメディアによる災害関連情報 の発信のされ方が発生からの時間の経過によって どのように変化しているのかを考察してきた。最 後に、ここまで考察したことのまとめと今後への 課題を簡単に述べておくことにしたい。
(1) 考察のまとめ
本稿では「熊本城」、「仮設住宅」、「宇土市役所」
をキーワードとして考察を行ったが、「熊本城」と
「仮設住宅」に関する記事は地震発生以降コンス タントに掲載され続けているのに対し、「宇土市 役所」に関しては発生直後のみでその後はメディ アにおいては注目度が低いことが確認された。災 害や復興に関するメディア発の情報において、観 光名所や被災者の生活拠点は重要度が高く、行政 施設はたとえその被災の規模が大きくても取り上 げられる頻度は必ずしも多くないことが数値とし て表れている。
そして、「熊本城」及び「仮設住宅」の記事の内容 を見てみると、熊本城に関しては復興が「進んで いる」ことを、仮設住宅に関しては逆に復興が「進 んでいない」ことを象徴している傾向があること が分かる。観光名所は他地域の人々が復興の様子 を直に見るために訪れる機会も多く、そうした 人々へ復興の進捗をPRするという意味でも観光 名所の復興の進展は大きな意味があるといえる。
そもそも、災害の風化を防ぐという意味において、
多くの人が地名と連動して想起するような観光名 所は大いに意義のある存在といえるものである。
一方、復興が「進んでいない」ことの象徴ともなっ ている仮設住宅に関しては、それが選挙時の争点 の一つとして浮上していることもまた注目される ところである。
このように、被災地が必ずしも日常の生活圏に はない人々に対して災害・復興の情報をコンスタ ントに発信し続ける上では、被災された方々の生 活拠点の情報と高名な観光スポットの情報が大き な意味を持っていることが指摘できる。
(2) 今後への課題
本稿では3つのキーワードに着目して考察を 行ってきたが、この3つのキーワードで2016年 4月熊本地震に関する情報を網羅できたわけでは 勿論ない。さらに幅を広げて探索することで考察 もより深められると思われる。こうした考察キー ワードの拡大が今後へ向けた課題として挙げられ るところである。
また、本稿での考察から明らかになったことが 他の災害事例においてもそのまま適用できるもの であるのかも検証が必要である。2016年熊本地 震以外の災害に関して同様の分析を進めることも 求められるところといえよう。
本校を執筆している2019年10月も、東日本各 地で台風による甚大な被害が発生している。日本 で生活するにあたって、自然災害との戦いは避け て通れないものである。災害・復興への研究の接 点の持ち方について今後も様々な角度から追求を 続けていきたい。
注
1) 具体的な書籍名については参考文献一覧参 照。
2) 同上。
3) 本稿の記載にあたっては内閣府ホームページ
「防災情報のページ」を参照した。
( h t t p : / / w w w . b o u s a i . g o . j p / k o h o u / kouhoubousai/h28/83/special_01.html
(最終アクセス日2019年10月16日)
4) 熊本市ホームページよりhttps://www.city.
kumamoto.jp/common/UploadFileDsp.
a s p x ? c _ i d = 5 & i d = 1 7 2 3 6 & s u b _ i d = 7
&flid=128646
(最終アクセス日2019年10月16日)
5) たとえば、2019年7月25日の朝日新聞の記 事では翌年2月に開催される「熊本城マラソ ン」のことが記載されている。
6) <写真1>は2017年3月19日、<写真2>
は2018年3月24日、 < 写 真 3 > は2019年3 月3日に、それぞれ現地にて村上が撮影した ものである。
7) <写真4>は2018年3月23日、<写真5>
は2019年3月3日に村上が現地にて撮影した ものである。
8) 2018年3月23日の現地訪問時に村上撮影。
9) ただし、2019年9月下旬に新庁舎建設の基本 設計がまとまり、そのことに伴って2019年 10月に入ると宇土市役所関連の記事が全国 紙でも再びみられるようになっている。
参考文献
・ 朝日新聞・朝日新聞出版(2011)『東日本大震災
―報道写真全記録2011.3.11-4.11』朝日新聞出 版
・ 天笠茂・牛渡淳・北神正行・小松郁夫編(2013)『東 日本大震災と学校―その時どうしたか 次にど う備えるか』学事出版
・ 彩瀬まる(2019)『やがて海へと届く』講談社文 庫
・ 河北新報社編(2011)『3.11東日本大震災 1 ヶ 月の記録』竹書房
・ 熊谷達也(2012)『光降る丘』角川書店
・ 熊谷達也(2016)『リアスの子』光文社
・ 国立教育政策研究所監修(2013)『震災からの教 育復興―岩手県宮古市の記録』悠光堂
・ 清水睦美・堀健志・松田洋介編(2013)『「復興」
と学校―被災地のエスノグラフィー』岩波書店
・ 寺島英弥(2012)『悲から生をつむぐ―「河北新 報」編集委員の震災記録300日』講談社
・ 寺島英弥(2013)『東日本大震災 希望の種をま く人びと』明石書店
・ 寺島英弥(2014)『海よ里よ、いつの日に還る―
東日本大震災3年目の記録』明石書店
・ 寺島英弥(2015)『東日本大震災4年目の記録 風評の厚き壁を前に―降り積もる難題と被災地 の知られざる苦闘』明石書店
・ 寺島英弥(2016)『東日本大震災 何も終わらな い福島の5年―飯舘・南相馬から』明石書店
・ 寺島英弥(2018)『福島第1原発事故7年 避難 指示解除後を生きる』明石書店
【附記】
本稿は2017年度文教大学人間科学部共同研究
「大災害からの復旧・復興の地域間格差に関する 研究」および2018年度文教大学人間科学部共同研 究「大規模災害からの復旧・復興における『まち づくり』に関する調査研究」(どちらも研究代表者:
村上純一、共同研究者:宮田浩二)による成果の 一部です。
[抄録]
日本は世界でもトップクラスの災害大国であるが、そこに暮らす一人一人の日常の生活圏から考えれ ば、災害はそう頻繁に発生するわけではなく、多くの場合、日常の生活圏ではない場所で発生した災害 の情報をメディア等を通じて得ることになる。そうしたメディアが伝える災害や復興の情報の特徴や課 題等について、本稿では2016年4月に発生した熊本地震に関する地震発生から約3年半の間の新聞報道 を基に考察する。