博士(水産学) マハモドモハメドアブドイルモネイム
学 位 論 文 題 名
AN ECONOMIC STUDY OF FISHERIES MANAGEMENT THROUGH FISHERIES COOPERATIVE ASSOCIATIONS IN JAPAN : A CASE STUDY OF SALMON FISHERIES IN NORTHERN JAPAN
( 日 本に おける 漁業協同 組合によ る漁業管理 に関する 経済学的 研究)
― 北日 本に おけ るサ ケ 漁業 の事 例研 究―
学位論文内容の要旨
日本は世界の中で,漁業生産だけでなく,水産物消費,貿易等でも重要な位置を占めている。
特に,サケ,マス,マグ口そしてエビといった高級魚等でそうである。さらに,日本は水産資源 の養殖や人工増殖事業の分野でも先進的な位置にあり,世界の沿岸国に対しても重要な役割を果 たしている。日本の漁業協同組合は(以下,漁協),水産資源の管理において大きな役割を担つ ている。本研究は,増殖(ふ化放流)事業に大きく依存している北日本のサケ漁業における資源 管理にっいて分析したもので,その目的はサケ漁業における増殖事業の経済的効果にっいて検討 することである。
第一章では,1980一1989年における日本漁業の現況にっいて考察し,日本漁業の生産構造,漁 業管 理 ,さ らに は水 産物 の加工,流通,消費,そして 国際貿易などにっいて検討 した。
この期における日本漁業の総漁獲量は,全体的傾向としては大きく増大している。しかし部門 別に見ると,遠洋漁業や沿岸漁業は停滞的に推移しているが,他方,沖合漁業と海面養殖業は増 大傾向にある。日本国内では,需給ギャップが大きくなった結果,水産物の輸入が増大し,逆に 輸出が減少している。
第二章では,漁業協同組合と漁業管理における漁協の役割にっいて検討した。とりわけ,その 組織構造と主たる活動内容にっいてである。水産業協同組合法と漁業法の下で,漁業権の多くは 漁協に集約されている。そめため,漁協は資源管理において重要な役割を果たしている。たとえ ば,もし漁業者が漁協の組合員でなければ,漁業者は漁場に設定されている共同漁業権を利用す ることができない。このため,日本の沿岸漁業者はすべて,様々な漁協に組織化されている。
漁業協同組合で最も重要なタイプは,沿海地区漁協である。これらの漁協は日本沿岸すべてに 設立されており,漁業権を保有し管理することで資源管理に重要な役割を果たしている。それゆ え,増殖事業や漁場開発事業等の水産資源に関わる事業に携わることが多い。また,組合員の福 利厚生への援助を目的とした経済的事業や非経済的事業においても大きな役割を果たしている。
第三章では,1968―1988年におけるサケ漁業の経済的重要性にっいて検討した。日本のサケ類 の消費量は,世界のサケ類生産量の約3分の1以上にのぼっている。サケ漁業は,北海道や岩手 県の沿岸漁業者のみでなく,日本の国民経済全体においても重要である。1977年に200カイリ漁 業専管水域が宣言され,サケ漁業に対して国際的漁業規制が行われるようになり,遠洋水域で操 業するサケ漁業の生産は大きな影響を受けた。その結果,遠洋水域でのサケ漁業の地位は相対的 に低下し,サケの輸入が急増することとなった。一方,沿岸漁業でのサケ漁業は,増殖事業の進 展によって漁獲量が増大し,その重要性が大きくなった。これは,放流される稚魚数と回帰して くる親魚尾数との間には強い相関関係があることが知られており,増殖事業の進展によって放流 稚魚数の増大と回帰する親魚尾数が増大したことによるものである。なお,放流効果にっいてみ ると,回帰尾数に対する放流尾数の寄与率は,86%と極めて高い。
第四章と第五章では,シ口サケの人工増殖事業を行いながらサケを漁獲している主要地域であ る北海道と岩手県を調査し,その資料に基づき検討した。
北海道ではサケの増殖事業のほとんどが公共機関によって行われ,本州ではすべて民間機関に よって行われている。調査した岩手県では,増殖事業も漁獲も地区の漁協が行っている。なお,
増殖事業からの収入によって費用のすべてをカバーするには不充分なので,回帰してきたサケを 漁獲する沿岸漁業の利益の一部をサケ増殖事業の基金に充当している。こうした岩手県での運営 システムは,合理的でありまた効率的である。これが,本州で行われるサケ増殖事業の典型的な 運営方法である。
日本政府は,サケ増殖事業の予算を年々増やしてきているが,政府や地方自治体の補助金は,
増殖事業にかかる総費用の約40%を賄うにすぎない。したがって,民間機関は増殖事業に必要な 費用をニっの方法で調達している。まず,一っは河川で捕獲したサケの販売によるものであり,
も う ー っ は 定 置 網 ごと に協 力金 とし て 水揚 げ額 の3.5―5% を徴 収 する もの であ る。
漁獲尾数や放流稚魚数を増大させてきたので,サケの水揚げ高が増大し,同時に増殖事業にお ける漁協の役割が強まるにっれて,漁協によるサケ定置網漁業の経営が増加してきている。こう することで ,漁協はサケ定置網漁業か らの利益をすべての組合員に 平等に配分している。
宮古漁協における収入に占める費用の割合は,およそ50%であった。しかし,この割合の収入
が 変 わ る に 従 っ て 変 化 す る 。 費 用 の 中 で 最 も 大 き な 割 合 を 占 め る の は , 賃 金 で あ る 。 以 上の 検 討 か ら サ ケ増 殖 事業 の経済 的効 果は, (1)サケ 資源 が増大 したこ とであ り, そして そ の 回帰 率は 放流さ れる稚 魚数に 関係 してい る。(2) 沿岸に 回帰す るサケ の資 源量の 増大に 応 じ て , サ ケ漁 業 に 従 事 する 漁 業 者 が 増加 し た こ と 。(3)回遊す るサ ケ資源 量の安 定化に より,
合 理 的な 漁場 利用と ,(4)計 画的な 漁業経 営が 実現し ,漁業 者の生 計が安 定し たこと である 。 こ のよう な増殖 事業 におい て,漁 協は積 極的 な役割 を果た してい るが, 岩手 県では漁協が漁獲 と 増殖事 業の主 体とな って いる。 このシ ステム によれ ぱ, サケ増 殖事業 への投 資が,サケの水揚 げ という 形での 回収を 実現 してい る。
サ ケ増殖 事業に おけ る現在 の課題 は,回 帰率 を向上 させる ために 放流椎 魚を 質の良いものある い は大き なサイ ズにす るこ とにあ る。サ ケ増殖 事業の 先進 地域で ある岩 手県で は,漁業者が現在 必 要とし ている 設備に 国や 県が補 助金を 出すこ とで援 助し ている 。漁協 はサケ 増殖事業の運営に 直 接責任 を持っ ている ので ,増殖 事業の 運営と 漁獲を 統一 的に行 うこと ができ ,増殖事業のため の 成熟し た親魚 確保を 容易 にして いる。
サ ケの漁 獲は漁 協の 管理の 下に行 われて おり ,また 組合員 間の平 等原理 を実 現しているので,
漁 業者は こうし た管理 シス テムに 満足し ている 。それ は, 捕獲, 採卵, 稚魚育 成そして放流など を 統亠的 に行う ことの 有利 性が, 漁業者 に理解 されて いる し,そ れだか らこそ 実行されているの で あろう 。近年 ,漁獲 する 組織と 増殖事 業を行 う組織 との 統一化 が北日 本の各 地で計画されてい る 。これ は,サ ケ増殖 事業 の発展 が,何 よりも 最優先 に考 えられ なけれ ばなら ないと漁業者が認 識 し始め たーっ の動き と言 えよう 。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査
教授 教授 助教授
鈴 木 中 尾 増 田
旭 繁 洋
この 論文は ,孵化 放流事 業に よって 著しい 成長を とげた ,北 日本の サケ漁業における資源管理 を 分析 し た も の で, サ ケ漁 業にお ける孵 化放流 事業 の経済 効果に っいて 考察 したも のであ る。
論文 では, 第1章では ,近年 の日本 漁業 の生産 構造の 特徴を 明らか にし ている 。すな わち, 日
本 漁 業の 総漁獲 量は ,200カイリ 水域制 度移行 後も 増加し ていた が,1985年以後 は1200万 トン台 で停 滞し ており ,部門 別では ,遠 洋漁業 が200カイ|J水 域の影 響によ り, 生産を大幅に減少させ て い るが ,沖合 漁業 はそれ を補う 形で増 加し ている こと。 沿岸漁 業では ,「 捕る漁 業」が200万 トン 前後 で殆ど 変化し ていな いが ,沿岸 漁業に おいて は,「 捕る 漁業」 から「 作る漁業」への転 換が 顕著 に進ん でいる ことを 指摘 してい る。
第2章 では, 日本 におけ る漁業 管理の 基本法 とす る漁業 法と水 産資源 保護 法に基 づき, 日本の 資源 ・漁 業管理 の構造 を分析 し, 漁業協 同組合 が,沿 岸の漁 業管 理にお いて極 めて重要な役割を 果た して いるこ と。ま た,漁 業脇 同組合 は,組 合員の ための 経済 事業の ほか, 増殖事業や漁場開 発事 業等 の水産 資源の 増大に かか わる事 業にお いて事 業主体 とし ての役 割を担 っていることを述 べ , 漁 業管 理 と 孵 化 事 業を 統 一的に 実施す る日本 の漁 業協同 組合の 特質を 明らか にし ている 。 第3章 で は ,200カ イ リ 水域 設定 後の日 本国内 におけ るサ ケマス の需給 動向を 述ベ, 従来 日本 国内 へ供 給され るサケ マスの 大部 分を占 めてい た北洋 サケマ ス漁 業の漁 獲が,1977年以後,国際 的規 制に よって 大幅に 滅少し ,こ れに代 わって 日本沿 岸のサ ケの 漁獲量 が増加 していること,そ して 日本 沿岸に おける サケの 漁獲 量の増 大は, 孵化放 流事業 の拡 大によ ること を述べ,放流事業 の効 果に っいて ,親魚 の回帰 尾数 に対する放流尾数の寄与率が,86%と極めて高いこと,さらに,
サケ マス の国内 市場に おいて は,80年代に 入り, 輸入 量と繰 越在庫 が増加 して供給過剰の状態に あり ,こ のこと が,沿 岸にお ける サケ漁 業の生 産拡大 の阻害 要因 になり つっあ ることを指摘して いる 。
第4章 と 第5章 では , 日 本 の主要 なサ ケ漁業 地帯で ある岩 手県と 北海 道の事 例によ り,サ ケの 資源 管理 と孵化 放流事 業にお ける 国と地 方自治 体など の公共 機関 と漁協 の役割 ,及び孵化事業と サ ケ 漁 業 の 収 支 分 析 に よ り , 孵 化 放 流 事 業 の 経 済 効 果 に っ い て 検 討 し て い る 。 ま ず北海 道と本 州にお ける 孵化事 業の事 業主体 を比 較して ,両地 帯とも に国の管理統制下にお かれ てい るが, 北海道 の場合 ,事 業主体 は国の 孵化場 で,こ れを 補完す る形で 道や漁業脇同組合 が実 施し ている こと, これに 対し て,本 州でtま, 一部に 県営の孵化場もあり,県の指導と助成を 受け てい るが, 実際に は,漁 協な どの民 間団体 が主体 であり ,事 業費も 北海道 では,国費に大き く依 存し ている のに対 して, 本州 では, 事業費 の大部 分を受 益者 となる 漁業者 が負担しているこ とを 明ら かにし ている 。
次 に,孵 化放流 事業の 推移 を事業 費と放 流尾数 にっ いて検 討して いるが ,事業費は,1975年以 後大 幅に 伸び,1980年に は35億8500万円に 達した がそ の後は 伸び悩 みの状 態に あること,放流尾 数は ,1970年 から 急増し て1983年 には20億3000万尾 に達し たが ,その 後は20億 万尾の水準で横這
い の傾向 にあ ること を指摘 して, 北日 本にお けるサ ケの孵 化放流 事業 が,ほば,限界に達してい る ことを 推定 してい る。
孵化放 流事業 の拡大 に伴い ,漁 獲量も 増大し たが, 孵化 放流事 業にお ける漁業協同組合の役割 が 強まる のに 応じて ,サケ 定置漁 業の 経営に おいて も漁協 が主導 的役 割を果たすようになり,組 合 員には ,自 営定置 への就 業機会 を提 供する と同時 に,サ ケ定置 によ る利益を広く組合員に配分 す るよう にな ってい ること を述べ てい る。
最後に 以上の 考察を 総括し ,サ ケ孵化 放流事 業の経 済効 果とし て,サ ケ資源の増大により,水 揚 量が大 幅に 増加し たこと によっ て,漁民二ニ組合員の就業機会が拡大し,組合員は広く自営定置 の 利益配 当を 受ける など, サケ漁 業の 恩恵を 受ける 漁業者 が増加 した こと,漁穫量が安定したこ と によっ て, 合理的 ナょ漁 場利用 と計画的な漁業経営が実現し,漁業者の生活が安定したことなど を あげて いる 。
以上, この論 文は, 近年北 日本 の沿岸 漁業に おいて ,著 しい発 展を遂 げたサケ漁業の孵化放流 事 業と漁 業管 理にっ いて分 析した もの である が,孵 化放流 事業と 漁場 利用を統一的に管理する漁 業 協同組 合の 漁業管 理の特 質を実 証的 に解明 し,か っサケ の漁業 管理 にっいて,幾っかの新知見 を 提示し たこ とが認 められ る。こ れら の点を 評価し て,審 査員一 同は ,申請者が博士(水産学)
の 学位を 受け る資格 を有す るもの と認 定した 。