博 士 ( 医 学 ) 神 島 雄 一 郎
学 位 論 文 題 名
Helicobacter pylori 感染病態における血清抗 Helicobacter pylori カタラーゼ抗体の存在意義
学位論文内容の要旨
(背景・目 的)
ヒト胃粘 膜からゎをIicobacter pylor(以下 〃・´ヅ´Dr′)が発見,同定されて以来,本菌の持続感染が慢性胃炎,
胃 潰 瘍 , 十 二 指 腸 潰 瘍 , 胃 癌 お よ び 胃MAL汀 リ ン バ 腫 な ど 様 々 な 胃 十 二 指 腸 疾 患 の 発 症 に 関 わ る 主 要 因で あ る こ と が 明 ら か に な っ て き た . 近 年 〃 . ガ ´D打 全 ゲ ノ ム が明 ら かに され 様 々な 病原 関 連遺 伝子 が 同定 され て い る が 疾 患 の 多 様 性 を 菌 側 因 子 の み か ら 説 明 す る こ と は 困 難 で 菌 ・ 感 染 宿 主 の 相 互 作 用 の 解 析 が 重 要 と 考 え られ てい る .ヒ ト胃 粘 膜に は微 生 物に 対し 酸 ,免 疫系 な どの 生体 防 御系 が備 わっている が〃.砂´D′′は胃粘 膜 局所 で持 続 感染 ,増 殖 し, 様々 な 病態 を引 き 起こ す, 一 方,HP〆0′´ 側 も酸 に対するウレアー ゼ活性,多形核 白 血 球 の 殺 菌 作 用 に 対 す る カ タ ラ ー ゼ 活 性 な ど 宿 主 の 防 御 反 応 に 対 す る 回 避 機 構 が 備 わ っ て い る . 本 研 究 の 目 的 は 菌 . 感 染 宿 主 の 相 互 作 用 を 〃 .pリo汀 の カ タ ラ ー ゼ を 標 的 と し 細 菌 の 機造 解 析お よび 宿 主要 因と し て の〃 .〃 ′oガ カ タラ ーゼ 抗 体産 生を 中 心に 解析 し ,血 清中の抗〃. ガ′0′′ 力夕ラーゼ抗体の 臨床的意義を明 らかにしよ うとした.
(材料)
1996年 か ら1999年 ま で に 当 科 を 受 診し た 〃, ′リo汀陽 性 の120症例 を対 象 とし た. 内 訳は 胃潰 瘍54例 ,十 二 指 腸 潰 瘍35例 , 胃 十 二 指 腸 潰 瘍4例 , 慢 性 胃 炎18例 , 胃 癌5例, 胃MAIJリン バ腫4例で 男 性83例, 女 性37例で あ り平均年令 はそれぞれ49.1,47.1歳であった ,
(方法)
1.血清中の抗〃.p〆D′´抗体の測定
血 清 中 の 抗 〃 ・ ´ ザ ′ o′ ´ 抗 体 はHM‐CAPキ ッ ト ( 協 和 メ デ ィ ッ ク ス ) を 用 い て 測 定 し た , 2.血清中の抗Hp〆oガカタラ ーゼ抗体の測定
血清 中の 抗 〃. ガ′D汀カ タ ラー ゼ抗 体 の測 定は 自 作の 抗原 を 用い て行 っ た, 〃. 彫 ´o打 カタ ラー ゼ構造遺伝 予 を 蛋 白 発 現 プ ラ ス ミ ド ベ ク タ ーpkk223う に 組 込 み , 大 腸 菌 に 導 入 , 増 殖 さ せ ,リ コ ンビ ナン ト カタ ラー ゼ 蛋 白 を 発 現 さ せ , 分 取 型 プ レ ッ プ セ ル モ デ ル491を 用 い て り コ ン ビ ナ ン ト カ タ ラ ー ゼ 蛋 白 を 分 取 精 製 した . 精 製 蛋 白 を96穴 プレ ート に 固相 化し , 患者 血清 はPBSで100倍 に希 釈し 抗 体を 測定 し た. 抗〃 . ´び ′D打 抗体 陰 性 の 健 常 乳 児15(名 のif吐 清を 用い て ,そ の吸 光 度の 平均 値 十2SDを求 め, カ ット オフ 値 を設 定し , 陽陰 性を 決 定した.
3.組織学的検索
内 規 鏡 検 査 時 に 胃 前 庭 部 , 胃 休 部 か ら 生 検 し 検 鏡 し た . 多 形 核 白 血 球 単 核 球 の 浸 潤 程 度 は 改 訂 シ ド ニ ー システムに 従って0〜3の4段階で評価し た,
4.POlymeraSeChainreadion(PCR)
カ タ ラ ー ゼ 構 造 遺 伝 子1747bpの う ち5t末 端 よ り411bpか ら895bpま で の 領 域 の485bpを 増 幅 で き る プ ラ イ
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マ ーを合 成しPCR反 応を行 った.
5.サ ザンブ 口ット 法
PCR法 で カ タ ラ ー ゼ 構 造 遺 伝 予 が 増 幅 で き な か っ た10菌 株 と 増 幅 で き た10菌 株 , 陽 性 対 照 と し て 標 準菌 株ATCC4 3504に っ き , サ ザ ン ブ 口 ッ ト を 行 っ た , 前 述 の プ ラ イ マ ー を 用 い て 増 幅 し た カ タ ラ ー ゼ 遺 伝 子 PCR産 物 を ジ ゴ キ シ ゲ ニ ン 標 識 し , サ ザ ン ブ 口 ッ 卜 プ 口 ー ブ を 作 成 し た , 菌 株DNAをEcoRI, あ る い はHind IIIで消 化しハ イブ リダイ ゼーシ ョンを 行っ た,
6.ウ エスタ ンブ口 ット 法
酸 グ リ シ ン 法 で 各 菌 体 よ り 蛋 白 を 抽 出 後 , 抗H. pyl orカ タ ラ ー ゼ モ ノク ロ ー ナ ル 抗体 を 用 い た ウェ ス タ ン ブロッ トを 行いカ タラー ゼ蛋白 の有無 を確 認した .
( 結果)
1.血 清中の 抗〃・ 〃´0r′カタ ラーゼ 抗体
対 象 ど し た 120例 中69例 (58% ) の み 抗 〃 ・ ´ び ′0r′ カ タ ラ ー ゼ 抗 体 が 陽 性 を 示 し た , 2.|n清 抗〃, ´リ´0汀 力夕ラ ーゼ抗 体と 胃粘膜 組織炎 症細胞 浸潤の 関連
抗 ′fガ ′or′ カ タ ラ ー ゼ 抗 体 陽 性 例 に お い て 胃 前 庭 部 で は 単 核 球 浸 潤 程 度 が 強 度 で あ っ た . 一 方 , 抗 ル 卩y′ 。 汀 カ タ ラ ー ゼ 抗 休 陰 性 例 に お い て 胃 前 庭 部 胃 体 部 で は 多 形 核 白 血 球 浸 潤 が 強 度 で あ っ た . 抗 ル グ ′Dr´ カ タ ラ ー ゼ 抗 体 価 と 胃 前 庭 部 の 単 核 球 浸 潤 程 度 は 有 意 に 正 の 関 連 が 認 め ら れ た , 3.カ タラー ゼ構造 遺伝 予の検 討
PCR法 で 〃 . ガ ′ 〇 ′ ´ 力 夕 ラ ー ゼ 構 造 遺 伝 子 が 増 幅 で き な か っ た10菌 株 と 増幅 で き た10菌 株 及 び 標 準株 A丁CC43504につ い て 〃 . ガ′0′ ´ 力 夕ラ ー ゼ 遺 伝 予 の有 無 , 周 辺 の構 造 の変 異をサ ザンブ 口ット 法を 用いて 検 討 した. 抗〃 ,P〆0r´カ タラー ゼ抗体の有無と〃.′り′´0′´力夕ラーゼ構造遺伝子あるいは周辺遺伝子の塩基の 変 異には 直接 的な関 連は認 められ なかっ た,
4.ウ ェスタ ンブ口 ット 法
120菌 株 中6菌 株(5% ) に け〃´o打 力夕ラ ーゼ蛋 白欠損 株が認 めら れた, 〃.〃 ´o打カタ ラーゼ 蛋白 の欠損 レ た 症 例 で は 血清 抗 〃 , ´ リ′o汀カタ ラーゼ 抗体は すべ て陰性 であっ た.一 方, 力夕ラ ーゼ蛋 白が産 生され てい る に も か か わ ら ず 抗 〃 , ガ ´0汀 力 夕 ラ ー ゼ 抗 体 陰 性 の 患 者 か らの 菌 体 に お いて も カ タ ラ ーゼ 構 造 遺 伝 子あ る い は周辺 の遺 伝子に 特徴的 な変異 は見い 出せ なかっ た,
5.抗Hガ ′o打 カタ ラーゼ 抗体陽 性者と 陰性 者の出 現頻度 と菌株 の関連
抗 ル ル′o汀 カ タ ラー ゼ 抗 体陽 性者は 〃・ ガ′Dr´ 感染者 の58% を占め ており ,標 準株に 比してH´ ザ′Dガカ タ ラ ー ゼ 構 造 遺伝 子 あ る い は周 辺 遺 伝 子 の塩 基 に 変 異 を 認め て も 全 例 ,〃 .pル0′´ カ タ ラ ー ゼ蛋 白は産 生され て い た . 抗H剛 。 ′ ´ カ タラ ー ゼ 抗 体 陰性 者 に は 〃 .ガ ´D打 力 夕ラ ー ゼ 蛋 白 を 産生 す る 群 と しな い群が 認めら れ た .Hガ ′Dr´ 力 夕ラ ー ゼ 蛋白 を産生 する 群は抗 〃,刪D汀 力夕ラ ーゼ抗 体陽性 例と 同様に 〃.´ リ′Dガカ タラ ー ゼ 構 造 遺 伝 子 あ る い は 周 辺 遺 伝 子 の 塩 基 に 変 異 を 認 め な い 菌 株 お よ び 変 異 を 認 め る 菌 株 が 存 在 し た .Hル ′D『 ´ カ タ ラ ーゼ 蛋 白 を 産 生し な い 菌 株 は対 象 検 体 の5% に 認 め られ, これら は全例 ,標 準株に 比して ル 〃 /Dr´ カ タ ラ ー ゼ 榊 造 遺 伝 子 あ る い は 周辺 遺 伝 子 の 塩基 に 変 異 を 認め た が , そ の 変異 バ タ ー ン はカ タ ラ ー ゼ 蛋 白 を 産 生 す る 菌 株 に も 認 め ら れ , 変 異 パ タ ー ン か ら カ タ ラ ー ゼ 蛋 白 非 産 生 株 を 推定 す る こ と はで き な かった .
( 考案 )
〃 ・ガ ′D汀 感染 者120例中69例 (58% )が抗 〃・ガ ′D汀力夕 ラー ゼ抗体 陽性を 示し, 組織学 的に胃前庭部の著し い !杜核 球浸 潤を示 した,51例(42%)が 抗Hガ′D汀力 夕ラー ゼ抗体 陰性 者であり,45例(37%)はHガ′0汀力夕ラ ー ゼ 蛋 白 産 生株 感 染 で あ り, 胃前 庭部の 著し い多形 核白血 球浸潤 を示 したが ,6例(5卿は 〃.ガ ′o′′力 夕ラー ゼ 蛋 白 欠 損 株感 染 で あ り 胃前 庭 部 の 強 い単 核 球 浸 潤を 示した .以上 より, 〃. 刪。′ ´感染 胃粘膜 にみら れる 単 核 球 浸 潤 お よ び 多 形 核 白 血 球 浸 潤 に はHガ ′o打 力 夕 ラ ー ゼ お よ び 宿 主 の 抗 〃 . 刪Dガ カ タ ラ ー ゼ 抗 体 が 関
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与し ており ,H pylori感染胃粘膜病態の 解明にはHpyl oriの菌株の 病原性に関わる特定分子の解 析とそれ に対する宿主の免疫反応 についての検討が必要であり,このようなアプ口ーチから,H pyl ori感染による多 彩な病態が初めて明らか にされる,
(結論)
H py´ ori感染胃粘膜 病態の解明には〃.´ザDガの菌株の病原性に関わる特定分子の解析とそれに対する 宿主の免疫反応について の検討が必要である,
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Helicobacter pylori 感染病態における血清抗 Helicobacter pylori カタラーゼ抗体の存在意義
ヒ ト胃粘膜には微生物に対し酸,免疫系などの生体防御系が備わっているが
Helicobacter pylor´(以下Hpyl or ′)は胃粘膜局所で持続感染,増殖し,様々な病態をちI き起こす.本研究で は菌・感染宿主の相互作用をH pylor ´のカタラ―ゼを標的とし細菌の構造解析および福主要因と してのH.pylor ′カタラ―ゼ抗体産生を中心に解析し,血清中の抗Hpyl or ′カタラーゼ抗体の臨床 的意義を明らかにしようとした.H pyl or ′陽性の
120症例を対象とし血清中の抗
Hpylor/カタ ラーゼ抗体を測定し,併せて組織学的検索を行った,また,得られた菌株をウエスタンブロット 法,サザンブ口ット法を用いてカタラ―ゼ蛋白,カタラーゼ構造遺伝子及びその周囲の遺伝子の 変異をあわせて検討した,その結果,H.pylor ′感染者120 例中69 例(58 %)が抗Hpyl or /カタラ ーゼ抗体陽性を示し,組織学的に胃前庭部の著しい単核球浸潤を示した.
51例(42 %)が抗
H py/or′カタラ―ゼ抗体陰性者であり,そのうち45 例(37 %)はH.pylor ′カタラ―ゼ蛋白を産 生しており,胃前庭部の著しい多形核自血球浸潤を示したが,6 例(5 %)はH.pylor ′カタラーゼ 蛋白が欠損しており胃前庭部の強い単核球浸潤を示した.以上より,H.pylor ′感染胃粘膜にみら れる単核球浸潤および多形核自血球浸潤にはH pyl or ´カタラ―ゼおよび宿主の抗Hpylor /カタラ
―ゼ抗体が関与しており,
H pyl or′感染胃粘膜病態の解明にはHpylor ´の菌株の病原性に関わる 特定分子の解析とそれに対する宿主の免疫反応についての検討が必要であることが明らかとなっ た.
公開発表にあたって,副査の癌研細胞制御守内教授よりH.pyl or ′のカタラ―ゼとヒトのカタラ ー ゼの相同性に関する質問があった.申請者は、遺伝子のレベルでは
50から
60%の相同性を 持っていると答えた.次にH.pylor ′のカタラーゼは菌由来かヒト由来かについての質問があった,
申請者は、H.pylor /のカタラーゼはH.pylor ′由来であると答えた.次に,カタラーゼ非産生菌は 櫓主側の活性酸素等の攻撃因子からどのように対処するかについて質問があった.申請者はI
H.pylor/はカタラーゼ以外にもSOD などの攻撃因子をスカベンジするパスウェイが存在すると答 えた,続いて副査の小児科小林教授より,カタラ―ゼ蛋白陰性,抗体陰性とカタラーゼ蛋白陽性,
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博 彦
也
正 邦
哲
香 林
内
浅 小
守
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
抗体 陽性の組織像が同じであるということよ り,カタラーゼ抗体が中和抗体として働いている可 能性について質問があった,申請者は,試 験管レベルで実際に血清抗カタラーゼ抗体がH .pylor / のカ タラーゼ活性を抑えることを説明し,中 和抗体として作用している可能性があると答えた,
次に単核球浸潤と多形核自血球浸潤の違い について質問があった,申請者は,抗H.pylor /カタラ ーゼ抗体陽性者に単核球浸潤が多い理由と して血清抗H.pylor ′カタラ―ゼ抗体がH.pylor /カタラ ー ゼ 活 性 を 抑 制 し う る こ と を 試 験 管 レ ベ ル で 確 認 し て お り 一 方 , カ タ ラ― ゼ蛋 白非 産生
H.pylor/株に 感染した胃粘膜も同様に単核球浸潤を示す事よりカタラ ―ゼ活性を抑制する事が,
単核 球浸潤に関連するものと恩われる.その 間の詳細な機序に関しては不明であると答えた.ま た,抗H pyl or ´カタラ―ゼ抗体陰性者に多形核自血球浸潤が多い理由としてH.pylor ′の病原関連 遺 伝 子 群 で あ る
CagPAIの
CagE遺 伝 子 が 感 染 胃 粘 膜 上 皮 細 胞 か ら
IL・
8を 産 生 さ せ 多 形核 自血球浸潤に関わることが明らかにされ ており,その結果自血球浸潤が惹起されていると推 定されるが,その機能と血清抗H.pylor ′カタラ―ゼ抗体陰性との関連 は不明であり,おそらく血 清抗H.pylor ′ カタラ―ゼ抗体陰性は宿主の抗体産生能の異常と推測さ れると答えた.次に,胃体 部と 胃幽門部での違いはなぜ起こるのかとい う質問があった.申請者は,胃内の環境,特に酸の 分泌 を考えると,胃体部は胃幽門部に比べて 活発な酸分泌領域でありその影響のため,胃幽門部 は胃 体部に比し,細菌による炎症所見が現れ やすいと恩われると答えた.最後に主査の第三内科 浅香 教授より,今後臨床応用を考える際にど のような事を考えているかについて質問があった.
申請 者は,これまでの菌と病変を点で結ぶ考 え方から,その相互作用を視野にいれて観察したわ けで あり,これらの組織像と抗体価がどのよ うに変化していくかを経時的に観察しこの抗体の役 割をはっきりさせることが必要であると答 えた,
本研究ではH pyl or ′感染による病態解 析には細菌の病原因子に関連する特定分子の構造解析と それ に対する宿主の反応との相互作用の検討 が必要であることを示しており,審査員一同は こ れら の成果を高く評価し,大学院課程におけ る研鑽や取得単位なども併せ申請者が博士(医学)
の学位を受けるのに充分な資格を有するも のと判定した.
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