平成24年度 学位論文
発達障害児の保護者のペアレント・トレーニング における認知の変容過程
兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 学校教育学専攻 臨床心理学コース
M10071G 宇和川 美保
目次
第1章 序論
1.
23456789
10.
発達障害を取り巻く環境 発達障害とは
特別支援教育と発達障害
特別支援教育にみられる保護者との連携 発達障害の保護者支援
保護者支援としてのペアレント・トレーニング ペアレント・トレーニング
ペアレント・トレーニングに見られる母親の認知の変容 原因帰属と育児
問題と目的
第2章 研究1
2−1.目的 2−2.方法
1.
234
1)
2)
3)
4)
2−3.結果
1) 子どもの行動変容
2) PSI育児支援アンケート
3) 認知(原因帰属)に関するアンケート 4) 認知の変容過程
対象者
実施時期・実施場所 介入デザインおよび手続き 指標
子どもの行動変容 PSI育児支援アンケート
認知(原因帰属)の変容過程アンケート 認知の変容過程
2−4.考察
第3章 研究II
3−L
3−2.
1.
2.
3.
4.
5.
3−3.
1.
2.
的法 目方
対象者
実施時期・実施場所 調査手続き
指標
1) 子どもの行動変容 2) PSI育児支援アンケート
3) 認知(原因帰属)の変容過程アンケート 4) 認知の変容過程
結果の分析
1) 比較2) ペアレント・トレーニングの効果 結果
︶ ︶至19臼
︶︶︶︶ 1234
先行群と後行群待機時との比較 PSI育児支援アンケート
認知(原因帰属)に関するアンケート ペアレント・トレーニングの効果 子どもの行動変容
PSI育児支援アンケート
認知(原因帰属)に関するアンケート 認知の変容過程
3−4.考察
第4章 議論
1 ペアレント・トレーニングが担う発達障害児と保護者への支援
2.
3.
4.
5.
補足資料 引用文献 添付資料
ペアレント・トレーニングと原因帰属の関係 ペアレント・トレーニングにおける認知の変容過程 認知の変容要因
本研究の問題と今後の課題
第1章 序論
1. 発達障害を取り巻く環境
2002年に閣議決定された「障害者基本計画法」において「学習障害、注意欠 陥/多動性障害、自閉症などについて教育的支援を行うなど教育・療育に特別 のニーズのある子どもについて適切に対応する」ことが盛り込まれた。さらに、
2003年に提言された文部科学省の「今後の特別支援教育の在り方(最終報告)」、
2005年4月より施行された「発達障害者支援法」等に伴い発達障害児の早期発 見や療育の為の社会体制が整いつつある。教育、特に小中学校では、特別支援 教育として、校内委員会、コーディネーターを配置し、保護者との連携を取り ながら一人一人のニーズに合わせた教育を行っている。また、自治体によって は特別支援教育支援員を配置している学校もある。学校外でも、スクールカウ ンセラーの配置や教育センターなどでの専門員による相談、適応教室(学習支 援教室)の設置、メンタルフレンド派遣事業など、特別支援センターが地域の 発達支援センターとして行う教育相談や巡回相談が行われている。福祉では、
自治体の行う早期発見、早期療育をはじめ、発達支援事業所における就学前療 育、就学後の放課後支援事業等の地域の様々な支援事業も始まっている。発達 障害者支援センターも、就学前から義務教育終了後までの途切れない支援を始 めている。マスコミでも発達障害が多く取り上げられるようになっており、社 会の発達障害に対する認知も広がってきている。このように、発達障害を取り 巻く環境は、20年半前に「LD」として、初めてマスコミに登場した頃から大き
く変化している。
2. 発達障害とは
2005年4,月より施行された「発達障害者支援法」で「発達障害」の定義につ いては、法第2条第1項において「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎 性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害 であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの をいう」とされている。この「発達障害者支援法」の施行により、「障害者自立 支援法」にも従来の3障害に加えて、発達障害が明記された。さらには、この
「障害者自立支援法」も2013年4月より改正され、「障害者総合支援法」とな る。合わせて、児童福祉法等の改正も行われている。
文部科学省では、2007年4月から「特別支援教育」を学校教育法に位置付け た。その中で、学齢期にある学習障害(:LD)、 ADHD、高機能自閉症等の発達 障害の児童生徒を「特別な教育的支援を必要とする」として従来の特殊教育に 加え、特別支援教育の対象とした。特別支援学級だけでなく、通常学級でも、
一人一人のニーズに合わせた教育を行う必要があると明言している。
3. 特別支援教育と発達障害
2003年に文部科学省が「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」
において報告した知的発達に遅れはないものの、学習面や行動面で著しい困難 を持っていると担任教師が回答した児童生徒の割合は、6.3%であった。9年後 の2012年に行われた再調査「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特 別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」の報告では、
2012年2月〜3月にかけて実施された調査で、推定で6.5%の児童生徒が学習 俳聖は行動面で著しい困難を示すとされた。この6.5%の児童生徒のうち58%
は現在もしくは過去にいずれかの支援がなされている。しかしながら42%の児 童生徒はいずれの支援もなされていない(文部科学省HPより)。特別な支援が 必要とされながら約半数の児童生徒が何も支援されず、そのまま困難な状態に 置かれていることになる。
特別支援教育が本格的に始まり5年が経過したが、発達障害児の支援・教育 が十分に進んでいるとは言い難い現状がある。また、文部科学省が報告した数 値の内訳を見てみると、小学1年では9.8%であった児童生徒の割合が成長に伴
い少なくなっており、小学4年で7.8%、中学1年で4.8%、中学3年で3.2%
とあたかも発達障害が改善されたかのような数値になっている。さらに、行動 面(対人関係やこだわり等)、行動面(不注意、多動性一衝動性)、学習面の順 に、その傾向が顕著になる。特に、学年が上がるにつれて著しい困難を示すと された児童生徒の割合が少なくなる傾向が学習面において最も顕著である。こ のことについて文部科学省では「使用している調査項目が学習面の困難につい ての本質的な困難を調べることを主眼とし、小学校3、4年忌までに表面化す る困難を強く意識して作成されたため、学年が上がるにつれ、該当する行動が
観察されなくなってきたと考えられる。学年進行とともに学習面の困難自体が 解消していくことを示してはいないことに留意する必要がある。」としている。
また、調査協力研究者からは、周囲の教員や児童生徒の理解が深まり、そのこ とが適切な対応につながり、当該児童生徒が落ち着く可能性がある。学年が上 がるにつれ、学校においての生活経験を積む、友人関係ができる、あるいは、
部活動にやりがいを見いだすなどにより、当該児童生徒が学校に適応できるよ うになる可能性がある。低学年では、学習面や行動面の問題は見えやすいが、
高学年になるにつれて様々な問題が錯綜し見えにくくなる可能性がある。との 意見が述べられている。これらのことからも、実際に困難を抱え支援を必要と する児童生徒は、この調査で示された数値よりも多く存在すると考えた方が適 切であろう。ということであるならば、さらに多くの児童生徒が何も支援され ず困難な状態のまま学校生活を送っていると考えられる。憂慮すべき事態だと
思われる。
4. 特別支援教育にみられる保護者との連携
上述のように、発達障害児に対して何らかの支援を進める際必要なのが発達 障害児の保護者との連携である。文部科学省は「小・中学校における:LD(学習 障害)、ADHD(注意欠陥/多動性障害)、高機能自閉症の児童生徒への教育支i援 体制整備のためのガイドライン(試案)」(2004)において保護者への理解の推進
を図るとともに、保護者と協力して支援する学校体制づくりを求めた。
しかしながら、実際は、教師と保護者の両者の視点には相違が広がってきて いることを示す研究もある。馬場・田中・船橋・冨田・藤尾(2007)は年度が 進むにつれて保護者と担任の課題意識の相違が大きくなっていることを報告し ている。また、木村・芳川(2006)は、学級担任が保護者に比べて不注意型の ADHDの困難を見過ごしやすいことを報告している。両者ともに、発達障害が 社会的に認知されたことにより、保護者、教師ともに発達障害の状態を捉える 情報が増え、発達障害の理解が進んだと言える。が、一方では保護者の得る情 報が多くなり、保護者にしてみれば、「先生は十分に私の子どものことを理解し てくれない。」と感じてしまいがちになっている状況も見かけるようになってき た。教師と保護者の連携を困難にしている一つの要因であるとも思われる。
保護者と教師の些細な言葉のかけ違いからなかなか連携に結びつかない事例
も見られる。保護者との連携、保護者と協力して支援する学校づくりと言われ てはいるが、実際には、簡単に連携できるものではないようである。
5. 発達障害の保護者支援
発達障害者支援法では、児童の発達障害の早期発見、早期の発達支援、保育 への配慮、就労支援、地域での生活支援、権利擁i速筆多くの支援が求められて おり、加えて第13条では、発達障害者の家族に対する支援についても定められ ている。発達障害者の支援に際しては、家族も重要な支援者であることを期待
されている。
また、文部科学省でも「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告))
では、「家庭において、教育はもちろん生活全般で障害のある子どもに幅広くか かわる保護者は、重要な支援者の一人である、保護者が家庭等において子ども
と接し、教育や療育とのかかわりの中で適切な役割を担うことは重要なことで あり、そのためには障害や子どもの成長についての知識を深めていくことが必 要となる。」と記述されている。
確かに、保護者は、子どもの最も身近な存在であり、子どもの生活の基盤を 整え、生活のスタイルを作り上げていくのは紛れもない事実である。しかしな がら、本来、保護者は、養育者として「育児」を基本とした役割を担っている 者である。その保護者に支援者の一人として役割を担うということは相当の負 担を強いるのも事実である。さらに、発達障害児の保護者は常に高いストレス にさらされている(植村・新美,1982)。伊藤;(2006)は、稲浪ら(1994)や他の文 献から障害児の保護者のストレスには、一般的な子育てのストレスに加えて、
障害の受け入れ、周囲からの理解の得られなさ、特別な支援を受けることの難 しさ等多くの背景があるとしている。このように、多くのストレスを持ちなが らも、なおかつ、支援者の一人として子どもを支援せざるおえない状況になっ ている保護者であるからこそ、保護者の支援は必要不可欠であると言える。
柘植(2010)は、発達障害のある子どものアセスメントや指導等に比べると 少ないが、近年になって、親支援、ペアレント・トレーニング、カウンセリン
グ等に関する興味深い研究が見られるようになってきた。と報告している。
このように、ペアレント・トレーニングは、保護者が支援者の一人として子 どもの療育にかかわるという意味でも、保護者を直接支援するという意味でも、
今後さらに重要な保護者に対する支援の一つとなると思われる。
6. 保護者支援としてのペアレント・トレーニング
従来、保護者に対する支援として、個別面接によるカウンセリングとグルー プでの支援が行われてきた。後者のグループでの支援は、大きく二つに分けら れる。一つは親の会等に代表される自助グループ的なものであり、もう一つに は保護者の心理教育的な側面を持つペアレント・トレーニングがあげられる。
自助グループ的なものは同じ立場の親としての悩みや葛藤の共有、情報提供等 が行われており、この活動により、親自身の内面的な変化が起こっている(肥
田・大久保、2006:内藤i・蔦森・松岡,2008)と多く報告されている。
ペアレント・トレーニングは、応用行動分析による発達障害児の指導に精通 した指導者のもと、養育スキルの向上や親子関係の改善を目的として行われて おり、子どもの行動の変容と同時に保護者のストレスの減少・養育スキルの向 上が多く報告されている(岩坂・清水・飯田,2002、大隈・免田・伊藤;,2002)。
現在では、医療機関、市町村の保健センターや相談機関はもちろん親の会やNPO 団体でも広く実施されるようになってきている。特に、親の会などの自助グル ープが開催するペアレント・トレーニングは、従来の養育スキルの向上や親子 関係の改善に加え、同じ立場の親同士が悩みや葛藤の共有をする場にもなって おり、ピア・サポートとしての働きをも担ってきている。
7. ペアレント・トレーニング
ペアレント・トレーニングとは、大隈ら(2005)によれば、「親は自分の子ど もに対して最良の治療者になることができるという考えに基づいて、子どもに 対してではなく、親に対しておこなわれる訓練」である。このペアレント・ト
レーニングは1960年代にアメリカを中心に始まった。行動理論に基づき、子ど もの行動変容に正式に保護者が治療者として参加した研究を報告したのが、
Wahler,Winkel,Peterson&Morrison (1965) ;Hawkins,Peterson,Schweid
&Bijou(1966)である(Nicholas:Long,Mark C. Edwards,Jayne Bellando,
200g).
わが国では、ここ20年ほどの問に主に発達障害児の保護者に対して実施され
てきている。その内容は、大きく2つの方式に分かれる。一つは、精研方式と 呼ばれるものであり、もう一つは肥前式と呼ばれるものである。
精研方式は、1974年にアメリカ・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)
神経精神医学研究所で開始されたプログラムが導入されたものである。日本で は、国立精神・神経センター/精神保健研究所の上林・岩坂(2004)が紹介し ている。肥前方式は、独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センターの大隈 ら(2005)が紹介している。この二つの方式は、行動理論を基礎としている点 では共通しているが、精研方式では、子どもの問題行動を減らすことや親の誤 った養i育態度を修正する具体的な技術を学習させることに重点を置いている。
それに対して、肥前方式では知的障害や自閉症児のペアレント・トレーニング の実践を基礎としているため、子どもの未学習や誤学習を解決する点を重視す
るとともに親子関係の改善も重視している(中田,2010)。
これらのトレーニングは、子どもの行動変容を目的として行われているが、
岩坂ら(2002)は、参加した母親の自信度が高くなっていたことをあげ、大隈 ら(2002)も、参加した母親が子どもの養育に自信を持ち自責感が減少すると 述べている。このことは、先に述べた保護者の支援としても十分に具体的な方 法として効果があることが言えるであろう。
嶋崎・加藤・宇和川(2006)は、ABAを基にしたプログラムを隔週5回で実 施する短期のペアレント・トレーニングを報告しており、子どもへの働き掛け
を工夫することで子どもの行動変容と同時に、保護者のストレス低減の効果が みられている。現在も多くのペアレント・トレーニングに関する研究がおこな われており、子どもの行動変容はもちろんのことながら、特に母親のストレス の軽減、鞭うつ感の減少が注目しうる有用性である(伊藤・柳原、2007:佐藤・
植田・小川、2010)とするものが多い。
8. ペアレント・トレーニングに見られる母親の認知の変容
前述のように、ペアレント・トレーニングにおける研究では、子どもの行動 変容及び保護者のストレスに関するトレーニング効果を報告しているものが多
くみられる。岩坂ら(2002)は、ADHD児の保護者11名にトレーニングを実
施した。その結果、保護者の自信度は11名全員が高い自信を持てるようになっ たのに対し、GHQ精神健康調査票による保護者のストレスは、子どもの行動改善群5名中1名が悪化、行動不変悪化群6名品4名が悪化したことを報告して
いる。伊藤(2011)は、6セッションで構成された短期のペアレント・トレー ニングにおいて、保護者のストレスが3名中1名は増加し、1名はあまり大きな 変化は見られなかったとしている。この様にトレーニングにおける参加者のストレスにあまり変化が見られない とする多くの研究の中で、参加者の認知の変容が報告されている。その多くは、
考察の中に参加者の感想を引用している。その中には「親の言動ひとつで、子 どもに変化があると気づけた」との引用が記述されている。阿部、深澤(2011)
は、トレーニング中の途中面接やアンケートの自由記述に、「子どもの行動を観 察してみると、それほど叱ることもないことに気づいた」、「子どもの行動を言 い方や方法でいくらでも改善できる」等、子どもの見方の変化に関する報告を
している。福島・日上・佐田久(2012)も、「こちらがしたほうが早いので、つ いついやってしまっていたことも本人に任せればきちんとできるようになるん だともいました。」と報告している。宇和川・嶋崎(2012)は、子どもの行動変 容に後続して保護者の言語行動の変容が起こっていると報告している。その中 にも、「どうずれば子どもが治るのか。から、私はどう考えれば子どもを理解で きるのか。と考えられるようになった。」と参加者の感想を引用している。これ らの保護者は、ペアレント・トレーニングを受講することによって、子どもの 見方に変化が起こっている。言い換えれば、保護者の子どもの問題行動に対す
る認知が変容していったと思われる。特に、自分の言動で子どもの行動が変わ るという感想は、保護者が子どもの問題行動の原因を自分に帰属させた言語行 動ともいえるのである。
9. 原因帰属と育児
我々は、身の回りで起きた出来事に対して、その原因が何であるのかを探そ うとすることがある。出来事の原因を探りそれを何かに求めることを原因帰属
という(桜井,2008)
保護者についての原因帰属の研究の多くは、子どもの行動(望ましい行動や 問題行動)についての解釈と、養育方法や子どもに対する態度、子どもの適応 との関連や、養育態度と保護者のストレス、保護者の心理状態に関するものが 多く見られる。その中で、田中(2011)は、ADHD児を持つ親の原因帰属につ
いてJohnston&Ohan(2005)他の研究をまとめ、親の帰属が子どもの行動と 親の反応の間の媒介となる。つまり、親の帰属は子どもに対する親の情動的行 動的反応を導くものであるとしている。ADHD児に限らず発達障害児の保護者 は特に子どもに問題のない保護者に比べて、子どもの問題行動を子どもの内的 な特性として帰属する傾向がある。それは、発達障害の見た目にはわかりにく い特性によるものであろう。発達障害児の保護者、特に母親は家族からも理解 を得難く、時として 母親の両親等から「あなたの躾のせい。あなたが甘やか しているから。障害なんかじゃない育て方のせい。」等と言われることも多い(山 根、2010)。そのために、保護者は子どもの問題行動を子どもの側に帰属させる 傾向にある。子どもが間違った行動、もしくは保護者にとって困った行動をし、
その行動について保護者が意図的であると判断したり、統制可能であると帰属 した場合には、保護者は子どもに対してネガティブな感情を持って対応する。
あるいは有害でさえある訓練、無理やりな躾を子どもに対して行うことがある。
このことから親の帰属スタイルは支援する際の直接的なタ・・一・一Lデットにもなりう
る。ペアレント・トレーニングに親の帰属に関する観点を導入することも有効 であると考えられる(田中、2011)。すなわち、子どもの行動を改善しようとし たとき、その親の帰属スタイルをいかに変容させるかという点も介入のポイン
トとなり得るであろう。このことは前述のペアレント・トレーニング参加者の 感想である「親の言動ひとつで、子どもに変化があると気づけた」とも等しい
と思われる。
この保護者の原因帰属の研究の多くは、Johnstonら(2005)が、 ADHD児 の保護者を対象にした子どもの行動に対する原因帰属の研究で行ったような、
研究者側が用意した質問に答える形式のもがほとんどである。その1例の質問 様式を以下に示す。「ADHD児の行動のシナリオとして以下の文章を親に提示す
る。『あなたが床を掃き、ごみをまとめて山にして、掃き終えようとしたまさに その時、子どもが台所に入ってきました、子どもはあなたが掃き終わるのを待 たず、冷蔵庫に向かって真っすぐに台所を横切り、床に集めていたごみを散ら かしてしまいました。』シナリオを読んだ後、親は行動の原因がどの程度推定さ れるかを聞く。『あなたの子どもの行動の原因は、一度きりの行動の原因なのか、
それともまた繰り返される可能性のある行動の原因なのか?』」。ただ、この研 究では、架空のシナリオを読んでの保護者の言語報告にのみ基づいて行われて
おり、より妥当性の高い方法として、実際の生活の場面での自然な親子の会話 の中で見られる子どもの行動に関して帰属を分類する方法なども今後検討して いくべきであろう。
さらに、教師の子どもの行動に関する原因帰属の研究では、謝敷・谷口(2009)
が、気がかりな子どもの保護者と教師とのやり取りの分析の中で、教師の中に は,子どもの行動を見て,自分のせいではないかと考える者もいた。が、教師 は全員,母親に子どもの問題行動について報告したとし、その目的は「家庭で の指導を促すため」であった。その背景には,躾の有り様が,子どもの問題行 動を左右するという考えがあると考えられる。としている。
この報告の中で興味深いのは保護者の帰属の傾向である。それは、担任の対 応が,気がかりな子どもの行動を落ち着かせ,他児も子どもを捉える姿勢が肯 定的に変わったことを体験した母親は,担任の接し方によって子どもがいかよ うにも変わることを感じていた。従って,何かトラブルがあったときも,指導 のせいと考える傾向になりやすい。支援員がついた子どもの場合,支援員と子
どもの関係がよく,支援員がいることによって,子どもも安定してきたという 経緯があった。これも母親は,子どもに合った対応をしてくれれば子どもは落
ち着くと考え,問題行動を教師の指導の問題だと原因帰属しやすくなった。教 師,母親は,子どもの問題を指導・躾の問題と考えやすいことがわかったとし ている。必ずしも子どもの行動に担任の理解が無いと感じている保護者だけが、
問題行動の原因を教師のかかわりのせいだと考えるのではないことがうかがわ れた。つまり、子どもの問題を教師は家庭に、保護者は学校に帰属させる傾向
にあると言える(Medway,1979、速水,1981、東山,1993)。
以上のことから、発達障害児の問題行動に対して、原因帰属は、①保護者、
②学校(教師)、③本人にあると理解されることが多く、問題行動の原因は、誰 か?と悪者捜しをしているようなところが見受けられるのではないだろうか。
10.問題と目的
前述のように、「発達障害児の支援のために保護者との連携を」、「支援者の一 人としての保護者の支援を」が重要であると法律などの文言に盛り込まれなが
らも、実際には、保護者と教員との間の子どもの理解に対するズレが生じてお り、さらには、双方に原因を帰属させる傾向にあることがうかがわれる。文部
科学省の調査結果からは、支援を必要とされながらも約半数の児童生徒がなん ら支援を受けられない状況にあることも推察される。発達障害への理解が広が ったとはいえ、未だに十分な支援が行われているとはいえない現状がある。そ れは、保護者の支援に関しても言えることであり、特に子どもが幼く、発達障 害の診断が出てあまり時間を経過していないもしくは育てにくく発達障害かも しれないと疑いながらもまだ診断を受けに行く勇気が持てない段階の保護者に とっては、一刻も早い支援の充実は求められている。保護者支援の為にも、子 どもの支援の為にもペアレント・トレーニングは有効な手段であることは、す でに多くの研究でも証明されている。我が国においても、保護者にあまり負担 をかけない短期間のプログラムで実施される場面を多く見かけるようになって きた。短期間のペアレント・トレーニングによって、保護者の認知にどのよう な変容が起こっているのかを明らかにすることによって、ペアレント・トレー ニングを実施する際、保護者に対して気を付けないといけない事項などを確認 できるのではないかと考えている。
また、どうしても困った行動をする子ども=子どもが悪い、学校が悪い、家 の躾が悪い、と悪者捜しをしてしまいがちな現状も憂うべきものである。ABA の手法を用いることにより、子どもの行動が改善し、さらにはその改善と、ABA の講義の心理教育により保護者の原因帰属が変容することを明らかにしていく。
そこで、本研究では、発達障害児の保護者に対する支援の一つとして重要な 手段とされるペアレント・トレーニングを行い、保護者の子どもの問題行動に 対する原因帰属の変容が可能であるかどうかの検証を行うと同時に原因帰属が 変容していく過程を明らかにする。併せて、ペアレント・トレーニング中の参 加者の認知の変容過程も明らかにしていくことを目的とする。
第2章 研究1
2−1.目的
研究1では、ペアレント・トレーニングを実施した際の参加者の認知がど のように変化していくのか、認知の変容過程を明らかにすることを目的とする
とともに、改訂をくわえた原因帰属に関するアンケートが原因帰属を把握する のに十分であるかを確認することを目的とした(ペアレント・トレーニングの
目的は、子どもの未学習の行動・問題行動の改善と、親子関係の改善とした。)。
2−2.方法
1. 対象者
育児サークルAのメンバーであり、過去にペアレント・トレーニングに参加 したことのない母親6名である。対象者の選択基準は、発達障害の診断に関係 なく育てにくいと感じている母親の中から、①母親がプログラムの説明を受け、
かつトレーニングを希望した者で、②対象児が年中幼児〜小学校2年生、③プ ログラムへの参加が毎回可能なものとした。母親については、精神病理的に特 記すべき事項はなかった。参加希望者6名のうち1名は年少幼児であったため 結果の分析からは除外した。なお、本研究に協力していただいた参加者へは、
研究の目的及び倫理的配慮について書面にて説明し、同意書へ署名をしていた だいている。対象者の概要をTable 1に示す。
2. 実施時期・実施場所
育児サークルAが定期的に集まっている福祉施設内の学習室で、2012年2月
から4月の期間に、隔週1回2時問を5セッション実施した。筆者を含む大学
院生4名がスタソフとして参加した。評定対象者の5名には、半年後の2012年10月にフォm一アップを行った。
Table 1対象者の概要
事例Nα 母の年齢
性別
子どもの
w年 S−M(SQ) 兄弟
診断の
L無 相談機関等
事例1 35 男児 年中 75 Si 14才 有 1テ育センター、支援
@教室に通園中 事例2 37 女児 小1 82 Br 4才 無 母親はLDを疑う
事例3 37 男児 小1 74 Si 2才 無
フオ・一アップの前に幽
チ配の話が出た 事例4 43 男児 小2 65 無 有 過去に療育センター
@ に通園
事例5 44 男児 年長 84 双子男女1才 有
通級教室・支援教室
@ に通園中
3. 介入デザインおよび手続き
介入に用いたペアレント・トレーニングは、ベースライン期と介入期とを比 較するABデザインを用いた。プログラムは、嶋崎ら(2006)が報告した5回 のセッションによるペア・トレーニングを基に構成した。プログラムの構成を
Table 2に示した。
Table 2プログラムの構成
回数 参加者の演習内容 講義内容 参加者の記録(宿題)内容
#1 ターゲット行動の選定 概要説明
ABAの基礎(講義)
ベースライン把握(親子の行
動)
#2 ベースラインの確認「褒める」ロールプレイ 介入1一ほめる 「ほめる」を実践(親子の行
動)
#3 介入1の結果確認 ABC分析
ABC分析 介入1「ほめる」を実践(親子 介入1一効果的なほめ方 の行動)
#4 介入1の結果確認 上手なフェードアウト行動の機能 介入H:皿に効果的に「ほめ る」を実践(親子の行動)
#5 介入の結果確認 修了式
使用した用具は、フェイスシート、S−M社会生活能力検査、プログラム、
講義資料、課題設定シート、ABC機能分析シート、スモールステップシート、
会話記録シート(ホームワーク)、PSI育児支援アンケートであった。
認知の変容過程の調査には、アンケートと半構造化インタビューを行い、I Cレコーダーを用いて音声を録音した。
4. 指標
1) 子どもの行動変容
ペアレント・トレーニングにおける子どもの行動変容は、参加者の記録をも とに点数化した。なお、子どもの行動の観察基準は、あらかじめトレーナーと ともに決められており、参加者の記録は、◎○△等で記されたものを点数化した。
問題行動の変化を視覚的に捉えやすくするために問題行動を高い得点とした。
例として、事例5の標的行動『朝、脱いだパジャマをたたむ。』についての点数 化をTable 3に示した。他の事例については補足資料1に示した。点数化したデ ータをもとに ベースライン2週間のうち2週目の平均得点と最終週の平均得 点でクロス表を作成し、対応のあるt検定を行った。
Table 3標的行動の点数化
記号 得点 子どもの行動
◎○ 0 両方をきれいにたたむ
1 両方をくちゃぐちゃでもたためた
△ 2 片方だけたためた
× 3 できなかった
ペアレント・トレーニングにおける各事例の標的行動をTable 4に示した。
Table 4各事例の標的行動
事例 ターゲット行動
事例1 事例2 事例3 事例4 事例5
外に人がいるときにカーテンを開けて窓をドンドンたたいて声をかける。
宿題をするときに、わからないと泣いてしまう。
食事の時にダラダラ他のことをする。ふざけて母に怒られる。
トイレ(小)に行った後に、母に拭いてもらう。
朝、着替えたパジャマが置きっぱなしになっている。
2) PSI育児支援アンケート
Abiden(1983)により開発され、兼松ら(1999)により日本語版PSI育児支援 アンケートが再開発された。この検査対象者はおおむね12歳までの子どもの保 護者の育児支援のための指針としてストレスをはかる質問紙である。検査は78 項目の質問で構成されており、各項目について「まったく違う」から「まった くその通り」の5段階で答える形式になっている。それぞれの項目を1点から
5点として得点化し、合計得点が高いほどストレスが大きいことになる。得点 をパーセンタイル表を用い、パーセンテージに変換して用いる。『85パーセント 以上の項目については注意が必要である。』としている。78項目は、38項目か
らなるく子どもの側面〉と40項目からなるく親の側面〉の2つの側面から構成 される。さらに、〈子どもの側面〉は「C1親を喜ばせる反応が少ない」「C2.
子どもの機嫌の悪さ」「C3.子どもが期待通りにいかない」「C4.子どもの気が散 りやす/多動」「C5.親につきまとう/人に慣れにくい」「C6.子どもに問題を感 じる」「C7.刺激に敏感に反応する/ものに慣れにくい」の7つの下位項目から、
〈親の側面〉は「P1親役割によって生じる規制」「P2.社会的孤立」rP3.夫との 関係」「P4.親としての有能さ」「P5.耳うつ・罪悪感」「P6。退院後の気持ち」「P7.
子どもに愛着を感じにくい」「P8健康状態」の8つの下位項目から構成される。
〈子どもの側面〉での高いスコアは、親役割を果たすことを困難にさせるよう な子どもの特性と関連している。障害児の親においては、高くなり、最も高く なるのは多動症や行動障害の子どものようなケースの場合、通常、5〜6のく子
どもの側面〉の下位尺度が90%を超える値となる(兼松,2006)。
このPSI育児支援アンケートを、初回トレーニング開始前と、最終回トレー ニング終了時に記入した。初回と最終回のパーセンテージで、クロス表を作成
し、対応のあるt検定を行った。
3) 認知(原因帰属)の変容過程アンケート
アンケートの質問内容は、主に子どもの行動の原因帰属傾向についてであ った。アンケートは3種類を使用した。アンケート①は、#1で標的行動を選定 した直後に、アンケート②は、#2、#3、#4では、トレーニング開始前に、ア ンケート③は、#5のトレーニング開始時に使用した。
それぞれのアンケート作成に当たっては、青柳・細田(1994)が、大学生対 象に実験を行った際に使用した帰属スタイル質問紙に改訂をくわえた。
青柳(1994)の質問項目は5項目であり、項目1は自由記述であり、項目2
〜5は7件法で回答するようになっていた。帰属スタイル質問紙の内容をTable 5に示した。
ただし、この項目は、先行課題が解決不可能であった時、後続課題の類似性 が後続課題の遂行に影響を及ぼすのかどうかの学習性の原因帰属ついて研究さ
れたものであった。これは、保護者が日常感じているであろう子どもの問題行 動に対する原因帰属とは異なる部分があったため以下の改定を行った。
Table 5青柳ら(1994)の帰属スタイル質問紙
項目 内 容
1 最大の原因はなんでしょうか。(1つだけ記入してください)
2 上記の原因は、何か自分の内部に起因することがらですか、それともほ ゥの人や周囲の事情に起因する事柄ですか。
3 将来またこのような課題を解くときに、この原因が再び関係してくると vいますか。
4 この原因はこのような課題の場合にだけ関係するものですか、それとも
?ネたの生活の他の場面にも関係するようなものですか。
5 この原因はあなたにとってコントロール可能なものでしょうか。
・アンケート①(#1の標的行動選定直後に実施)
項目1は、そのまま最大の原因はなんでしょうかとし、記述するものとした。
項目2に変わるものとして、原因は設定した15の選択肢うちどれにあてはまる かを選択するものとし、一番の原因には、◎をつけるものとした。項目は、筆 者を含む大学院生が話し合って起因する事柄を子ども、自分(母親)、その他の 要因のそれぞれの側面に5個を設定した。子どもの原因項目は、性格や癖、障害 特性、ストレス、かかわり方、不安とした。自分(母親)の項目は、性格や癖、愛 情不足、ストレス、かかわり方、不安とした。その他の要因は、父、兄弟、祖 父母、友達、先生とした。
項目3は、将来のことまで質問に入れると煩雑になるため今回は使用しなかっ
た。
項目4については一部文章の表現に改訂をくわえ、親子間の問題に沿うように
「あなたとお子さんの他の場面にも関係するものですか。」と改定した。
項目5は、そのままコントロール可能かどうかを問うものとした。
使用したアンケートをTable 6に示した。
・アンケート②(#2、#3、#4のトレーニング開始前に実施)
アンケート②は、トレーニング中の保護者の様子と子どもの標的行動の変化
Table 6アンケート①
記入日 月 日 氏名( )
以下の質問にお答えください。
1.設定したターゲットは何ですか?
2.その最大の原因はなんでしょうか?(1っだけ記入してください)
3.上記の原因は、次のどれに当てはまりますか?
(○をしてください。一番の原因だと思うものには、◎をつけてください)
子どもの ( 性格や癖 障害特性 ストレス かかわり方 不安 ) 自 分の ( 性格や癖 愛情不足 ストレス かかわり方 不安 )
その他( 父
兄弟 祖父母友達 先生
︶3.この原因はターゲットの場面にだけ関係するものですか、それともあなたとお子さんとの 他の場面にも関係するようなものですか。
この場面に どちらとも 他の場面に だけ いえない も 1 2 3 4 5 6 7
5.この原因はあなたにとってコントロール可能なものでしょうか。
コントn一 ルできる
1 2 3
どちらとも いえない
4 5 6
コントロー ルできない 7
Table 7アンケート②
記入日 月 日
以下の質問にお答えください。
1.この2週間はどうでしたか
とても
変わらない 楽になった
1 2 3 4
氏名(
5 6
︶
とても しんどかった
7
2.ターゲット行動は、この2週間に変わりましたか?
とても 良くなった 1
変わらない
2 3 4 5 6
とても 悪くなった 7
3.その変化の理由はなんだと思いますか?
4.上記の理由は、次のどれに当てはまりますか?
(Oをしてください。一番の原因だと思うものには、◎をつけてください)
子どもの ( 性格や癖 障害特性 ストレス かかわり方 自 分の ( 性格や癖 愛情不足 ストレス かかわり方 そ の 他( 父 兄弟 祖父母 友達 先生 )
5. そう思われたきっかけになるようなことがあれば記入ください。
不安 ) 不安 )
Table 8アンケート③
1.
2.
記入日 月 日 氏名( ) 以ドの質問にお答えください。
この2週間はどうでしたか とても
とても 変わらない
楽になった
しんどかった 1 2 3 4 5 6 7
ターゲット行動は、この2週間に変わりましたか?
とても とても
変わらない 良くなった
悪くなった
1 2 3 4 5 6 7
3.その最大の原因はなんでしょうか?(1つだけ記入してください)
4.上記の理由は、次のどれに当てはまりますか?
(0をしてください。一番の原因だと思うものには、◎をつけてください)
子どもの ( 性格や癖 障害特性 ストレス かかわり方 不安 自 分の ( 性格や癖 愛情不足 ストレス かかわり方 不安 そ の 他( 父 兄弟 祖父母 友達 先生 )
5。そう思われたきっかけになるようなことがあれば記入ください。
︶︶
6.この原因はターゲットの場面にだけ関係するものですか、それともあなたとお子さんとの他 の場面にも関係するようなものですか。
この場面に どちらとも
他の場面にも だけ いえない
1 2 3 4 5 6 7
7.この原因はあなたにとってコントロール可能なものでしょうか。
コントロー どちらとも コントロー ルできる いえない ルできない 1 2 3 4 5 6 7
の原因を問う内容として以下の設問を設けた。項目1,2は7件法、項目3,5 は自由記述、項目4は選択方式で答えるものとした。
項目1は、保護者が子どものことも含めた生活全般どのように感じたかを問 うものとして、「この2週間はどうでしたか?」との質問を設けた。
項目2は、保護者がとらえている子どもの標的行動の様子を問うものとし、「タ ーゲット行動はこの2週間の間に変わりましたか?」との質問を設けた。
項目3は、その変化の理由を自由に記述するものとした。
項目4は、アンケート①の項目2と同様に15の選択肢から選ぶようにした。
項目5は、変化の理由を項目3のように思ったきっかけを記述するものとし た。アンケート②をTable 7に示した。
・アンケート③(#5のトレーニング開始前に実施)
アンケート③は、アンケート①と②の項目を合わせて、トレーニング中の保 護者の様子と子どもの標的行動の原因を問う内容として以下の設問を設けた。
項目1は、「この2週間はどうでしたか?」との質問を設けた(アンケート②と
同様)。
項目2は、「ターゲット行動はこの2週間の間に変わりましたか?」との質問を 設けた(アンケート②と同様)。
項目3は、「その原因はなんだと思いますか?」と標的行動の理由を問うものと した(アンケート①と同様)。
項目4は、原因を15の選択肢から選ぶものとした(アンケート①と同様)。
項目5は、原因だと思ったきっかけを記述するものとした(アンケート②と同
様)。
項目6は、他の場面にも関係するものを問うものとした(アンケート①と同様)。
項目7は、コントロール可能かどうかを問うものとした(アンケート①と同様)。
アンケート③をTable 8に示した。
アンケート①とアンケート③の記述内容と選択項目で表を作成し、記述され た原因と選択した要因とが一致するかの検証を行った。
4) 認知の変容過程
インタビューで得た音声データについて、逐語記録を作成した。
発語数が最も多い事例1の母親の逐語記録を大学院生4名(筆者を含む)で、
KJ法を用い細かく分類し、カテゴリー分けを行った。その分類を基にコード
を作成した。分類とコードはTable 9に示した。コード表をもとに、大学院生2
Tab I e 9 KJ法による母親のインタビューの分類
コード ラベル 内容
MT
母親の感想(疑問や迷い)MT一 母親の感想 母親の感想(ネガティブ)
MT+ 母親の感想(ポジティブ)
MCs
母親が子供をほめるMCc
母親が子供に事実を確認するMC一 母親の対応 母親の子どもへの対応・声かけ(ネガティブ)
MC+ 母親の子どもへの対応・声かけ(ポジティブ)
ML
母親が観察 母親が子供を観察しているMAc
母親が観察して子どもの行動の変化のきっかけ・原因に気付いているMAm
母親が自分の変化に気づきMAr 母親が今までの対応への反省
BRc 子どもの行動(標的行動以外)の原因が子どもの側にあると思っている
BRm
子どもの行動(標的行動以外)の原因が自分の側にあると思っているBR
子どもの行動(標的行動以外)の原因が子どもと自分以外にあると思っているBRtc 子どもの標的行動の原因が子どもの側にあると思っている
BRtm 行動の原因 子どもの標的行動の原因が自分にあると思っている
BRt 子どもの標的行動の原因は、自分と子ども以外にあると思っている
BRcc 子どもの標的行動の変化の原因は子どもにあると思っている
BRcm
子どもの標的行動の変化の原因は自分にあると思っているBRc 子どもの標的行動の変化の原因は自分と子ども以外にあると思っている CB+ 母親の声かけに対する反応(ポジティブ)
CB± 母親の声かけに対する反応(?えっ?)
CB一 母親の声かけに対する反応(ネガティブ)
CBr+ 子どもの反応
子どもの母親に褒められた時の反応(ポジティブ)
CBr± 子どもの母親に褒められた時の反応(?え?)
CBr一 子どもの母親に褒められた時の反応(ネガティブ)
BT 子どもの標的行動の様子
BTp+ 子どもの標的行動の変化(良くなった)
BTp± 子どもの標的行動の変化(変わらない)
BTp一 子どもの標的行動の変化(悪くなった)
BTm+ 子どもの行動の 母親が介入したことによる子どもの標的行動の変化(良くなった)
BTm± 変化 母親が介入したことによる子どもの標的行動の変化(変わらない)
BTm一 母親が介入したことによる子どもの標的行動の変化(悪くなった)
BTe+ 子どもの標的行動以外の行動が変化(良くなった)
BTe± 子どもの標的行動以外の行動が変化(変わらない)
BTe一 子どもの標的行動以外の行動が変化(悪くなった)
名(筆者と他1名(a))により再度、事例1の母親の逐語記録をコード化し、
評定者間の一致率を算出した。その結果、事例1(筆者と評定者a)はK=0.88
と高い一致率であった。
そこで、他の参加者の逐語記録もTable 9をもとに大学院生2名(筆者と他1 名(b、c、 d))によりコード化を行った。
事例2(評定者。)はKニ0.87、事例3(評定者。)はK=O.78、事例4(評定 者b)はK=0.77、事例5(評定者d)はK=0.74と十分に高いものであった。
よって、筆者のコードを用い、全発語数に占める各コードの割合を算出した。
コード付けに用いたTable 9の項目を、大学院生2名でポジティブ・ニュート ラル・ネガティブの3段階に分類した。評定者間の一致率K=.9であり、十分 に一致していると判断された。その分類に基づき100%積み上げ麺棒グラフを作
成した。
2−2.結果
1) 子どもの行動変容
ベースライン2週目から最終回8週目にかけての子どもの標的行動平均得点 の変化をFigure 1にまとめた。
3
︻﹂ 2 ︻﹂ 41 ︻﹂2 1 0標的行動の週間平均得点 ︒ ◆ 、.
G、・.
、 、\、
ロ へ
、、. \㌔
もへ
ぐ・、 ℃
㍉.、\、
㌔
2週目 8週目 期間
Figure 1 2週目と8週目の標的行動の変化
。←事例1
一■一事例2
一欄B。・事例3 一●・事例4
十事例5
事例1、2、3、4に顕著な行動変容が認められた。事例2に変化は見られなか った。この結果について対応のあるt検定を行ったところ、t(4)=2.99、p=.041、
p<.05で、有意であると判断された。各事例の子どもの行動変容については補 足資料2に示した。
2) PSI育児支援アンケート
保護者のストレスにおけるトレーニング前とトレーニング終了時の変化を Figure 2に示した。 PSI育児支援アンケートは総点、子どもの側面、親の側面 のそれぞれのパーセンテージで示した。
介入前後の比較において事例5画面トレスにはあまり変化がなく、事例1と 事例3は減少し、事例2、事例4は増加した。子どもの側面、親の側面のそれぞ れから見ると、子どもの側面はあまり変化がないが、親の側面の事例1、3、4 は減少した。事例2は、期間中に家庭状況の変化があり、保護者もそのことが
『気になって、イライラしている。』と、述べている。
oo 1
%
80
oo
40
20
契 / 鱒
!
一 遍バ
a賦▲︐
。●卿事例1 一■一事例2
… 会・・事例3
−0・事例4 一●囎事例5
o
プレ ポスト プレ ポスト ブレ ポスト
総点 子どもの側面 親の側面
Figure 2介入前後におけるPSI育児支援アンケートの比較
この結果についてそれぞれ対応のあるt検定を行ったところ、総点、子どもの 側面、親の側面のいずれも、有意な差は認められなかった。ストレスに関して
はペアレント・トレーニング以外の個々人の要因によることが大きいことが示
唆された。
3) 原因帰属に関するアンケート
セッション開始時に記入してもらったアンケートの結果をTable 10に示した。
なお、事例3は未記入の項目があったため分析からは除いている。
参加者には15個の選択肢の中から『1番原因だと思うものには◎を付けてく ださい。』と、注意書きをしていたが、事例2、事例4、事例5の介入前のみ◎
がつけられ、他はっけられなかった。
表の中に、記述した原因とほぼ等しいと思われる選択肢を網掛けで表示した。
例えば、事例1は、介入前(#1)に『子どもの性格や癖』を選択した。この項 目は記述している「人が好き。みんなと遊びたい。」と等しい。全員が等しい項 目を選択している。しかしながら、最終回(#5)での原因は子どもの行動が良 くなったことに対する原因を述べており、本来研究で求めたかった子どもの問 題行動の原因を把握することができていないのは明らかであった。
Table 10原因帰属に関するアンケートの結果
アンケート項目
@ 質問
①一項目2 ③一項目3 サの最大の原因はなんでしょうか
①一項目3 ③一項目4 上記の原因は、次のどれに当てはまりますか?
@ (Oをしてください。一番の原因だと思うものには、◎をつけてください)
事例 セッション 自由記述 子どもに原因 自分に原因 その他に原因
◎
O
◎O
◎ O#1 人が好きみんなと遊びたい 性格や癖 障害特性 かかわり方 愛情不足 事例1
#5 投薬をやめて2週間経ち、落ち着
@ きがなくなった。 障害特性 ストレス
#1 母に怒られるから 性格や癖 かかわり方 ストレス
事例2 s安
#5 2年生になる期待が高まってきて
「る 性格や癖 ストレス
事例3
#1 自分のしたいことをやめられない 性格や癖
@ .旨F7≠ .
ストレス 性格や癖
D幅『一一
ストレス
@ かか4rL1士
D一....り...^ ゴ蔓ゴーξ. 冑r 声ご・煙・
難羅蓬
、∵一. r…吾モヂr一・一一.一 一嚢蕪議麟懲 _ 。_.叢馨・
−・岬 O騰一 .再∴・き7㌃=轟宰肥 L』・瀞 ・i難舞灘盤薩鐘・轡∴−縛皿事例4
#1
私がするから
ニに帰ってからすぐに宿題をしな
「と外に遊びに行けないように決 ゚ていないから
障害特性 かかわり方 性格や癖
#5 意識せずにできるようになってい
性格や癖 かかわり方
#1 苦手でうまくいかず面倒くさいから 障害特性 かかわり
s安
事例5
#5 トークンでモチベーションが上が 閨A本人の意識が非常に変わった
性格や癖 ゥかわり方
性格や癖 Xトレス ゥかわり方
s安
父兄弟
[コは、自由記述・同じと思われ・項・
続いて、#2から#5までのアンケートの項目1「この2週間はどうでしたか」
の結果をFigure 3に、項目2「ターゲット行動は、この2週間の間に変わりま したか」の結果をFigure 4に示した。#2では、回答の数値をそのまま使用し、
#3以降は、4:変わらないは、「0」に、とてもしんどかった(とても悪くなった)
は、「+3」に、とても楽になった(とても良くなった)は、「・3」に置き換えて、積 算グラフとして示した。
事例2,3,4は、#2では、「少ししんどかった」「しんどかった」から始ま り徐々に楽になっている。事例1は、#2で「しんどかった」から始まり、#3 でさらに「しんどかった」後、「楽になった」方向に動きが変わっている。事例 5は「変わらない」から始まったものが、#4までどんどん「しんどかった」後
#5で「楽になった」方向に動いている。事例1は、#2、#3で、子どもと自 分の体調不良を、事例5は#4で「子どもがインフルエンザにかかって、それが 終わった途端自分がメニエールになった」と家庭内での状態の悪さを報告して いる。親子の体調不良も関係していると思われる。
1 ・
1 8とても楽になった7
6
らi 変わらない・
3 2
1とてもしんどくなった1
0
−1 ・2
#2 #3 、編レ #5
一〇一事例1
−0一事例2
ぬ ぴ ヨ
_事例ペ
ー一
竏
i
_」
Figure 3アンケート項目1「この2週間どうでしたか」の推移
とても悪くなった7
う
変わらない
3
とても良くなった1
.1
一3
ぬ
#2
「噛
、
# 3
#4 x
︽
、繁
+事例1
一(〉事例2 事例3
一事例4 一事例・
P
一s
Figure 4アンケート項目2「子どもの行動はこの2週間どうでしたか」の推移 保護者が感じている子どもの標的行動の変化はFigure 4に示されたように全