著者
東洋大学経営力創成研究センター年報編集委員会
雑誌名
経営力創成研究
号
7
ページ
192-223
発行年
2011-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00003626/
2. 平成 22 年度シンポジウム開催報告
2.1. 第 4 回シンポジウム
「『新・日本流』経営者・管理者教育の展開」
日時:2010 年 7 月 3 日(土) 会場:東洋大学白山キャンパス2 号館 16 階スカイホール 【センター長挨拶】 小椋康宏氏(センター長、東洋大学教授) 【研究報告Ⅰ】 論題:「技術者間の知識移転とマネジメントの方法」 報告者:中内基博氏(研究員、東洋大学准教授) 司会者:中村公一氏(客員研究員、駒澤大学准教授) 【研究報告Ⅱ】 論題:「アーキテクチャ論で考える日韓台競争力逆転のメカニズム ―液晶パネル産業の事例―」 報告者:富田純一氏(研究員、東洋大学准教授) 司会者:關智一氏(研究員、東洋大学准教授) 【特別研究報告】 論題:「『新日本流経営』のリーダー、マネジャーの発掘と育成 ―コーポレートユニバーシティとビジネス・スクールは有効か―」 報告者:小林勝氏(ハリウッド大学院大学教授) 司会者:中村久人氏(研究員、東洋大学教授) 【特別講演】 論題:「勝ち残る企業創りとリーダーの条件」講演者:新将命氏(株式会社国際ビジネスブレイン 代表取締役社長) 司会者:幸田浩文氏(プロジェクト・サブリーダー、東洋大学教授) 研究報告Ⅰ「技術者間の知識移転とマネジメントの方法」 報告者:中内基博氏(研究員、東洋大学准教授) 本報告の目的は、知識移転に関する先行研究を整理し、技術パフォーマ ンスを高めるような知識移転の要件を、コミュニケーション・パターンと 技術者特性から考察することにある。 研究開発組織に関する研究は、ゲートキーパー(Allen, 1977、原田, 1999)、人事異動(青島, 2005)、NIH 症候群(Katz and Allen, 1982)、 重量級プロジェクトマネジャー(Clark and Fujimoto,1991)、ネットワー ク構造(Burt, 1992)など、その範囲は多岐にわたるが、共通しているの は、個人が有する知識や情報の移転という視点である。研究開発組織にお けるダイアド間の知識移転に関する研究が主に注目しているのは、ネット ワーク構造としての強い紐帯(Ghoshal et al.,1994; Granovetter,1973; Krackhardt,1992)、関係性としての信頼(Zand, 9172; Zaheer et al., 1998; Mayer et al., 1995)、知識の種類としての暗黙知/形式知(Nonaka, 1994;
Ploanyi, 1966; Kogut and Zander,1995)である。これらのファクターは 互いに影響を与える関係性にあるにもかかわらず、それぞれ独立して検証 が行われる傾向があった。近年、これらのファクターを統合的に考え始め た研究が少数ながら出現してきた。たとえばHansen(1999)や Reagans and McEvily(2003)は、紐帯の強弱と形式知/暗黙知の相互作用と効率 的な知識共有プロセスについて検証を行っている。また強い紐帯と信頼性 の関係についてはTsai and Ghoshal(1998)が、信頼と暗黙知の関係性 についてはSzulanski(1996)がそれぞれ分析を試みている。これら 3 つ のファクターを統合的に勘案したモデルの構築に努めたのは、Levin and Cross(2004)である。彼らの研究の独創性は、従属変数として知識の有 用度(知識を受け取った人がその知識がどの程度有用であったかを測定し た指標)を用いている点である。彼らによると、紐帯の強さは信頼性を高 め、次にその高い信頼性が、情報を受け取った側の有用性の認知へとつな がるという。さらに、信頼性は、能力ベースの信頼(相手の能力の高さ) と好意ベースの信頼(自分に好意を抱いてくれている程度)に区分される が、能力ベースの信頼性は、暗黙知の移転に有用であることを明らかにし ている。こうした統合的なモデルの開発はいまだ発展途上であり、知識移 転の研究のさらなる展開が望まれるところである。 さらに、上記3 つのファクターだけでは研究開発組織内部の知識移転や パフォーマンスを捉えるには十分ではないであろう。近年、Obstfeld(2005) は、情報を握って漁夫の利を得るのではなく、組織のために見知らぬ二人 を引き合わせることを選択する姿勢がイノベーションにプラスの影響を 与えることを見出している。こうした個人の特性(パーソナリティ)は比 較的無視されてきた。また、ゲートキーパーやトランスフォーマーなど外 部知識を取り込むプロセスについての研究がある一方で、こうした外部知 識を取り込むプロセスと上述した知識移転との関係性については検証さ れていない。 今後の調査の方向性としては、知識移転の 3 つのファクターを主軸に、 外部知識をいかに移転して内部に取り込むのか、また、その際に個人の特 性がそれらの関係性をどのようにモデレートするのかについて、統合的な
モデルの開発を試みたい。こうしたモデルの開発は、より効率的な知識移 転を促進するという意味で、研究開発組織のマネジメントに有用な情報を 提供すると考えている。 研究報告Ⅱ「アーキテクチャ論で考える日韓台競争力逆転のメカニズム ―液晶パネル産業の事例―」 報告者:富田純一氏(研究員、東洋大学准教授) 本報告では、アーキテクチャ論を用いて、液晶産業を題材に日本・韓国・ 台湾の間での国際競争力逆転のメカニズムを明らかにする。本報告は、東 京大学新宅純二郎教授、早稲田大学朴英元准教授、立命館大学善本哲夫准 教授、兵庫県立大学立本博文准教授との共同研究成果の一部である。この 報告は、本シンポジウムのテーマである経営者・管理者教育には直接関連 はないが、液晶産業の事例分析を通じて、日本の経営者・管理者が直面す る企業戦略・事業戦略に対するインプリケーションを導出したい。 AQUOS と言えば、今や誰もが認める国内トップブランド、シャープの 液晶TV であるが、欧州、とりわけフランス、ドイツの家電量販店ではほ とんど見かけない。事実、シャープの海外シェアは10%弱(2008 年)、第 5 位である。その理由として、シャープの海外販売・流通・ブランド戦略
の問題もあると思われるが、本当にそれだけであろうか。コスト競争力の 問題もあるのではないだろうか。シャープに限らず、ソニー、パナソニッ ク、東芝など日本企業のTV は競合と同じサイズでも、海外では高機能・ 高価格帯にフォーカスしているように思われる。これに対して、フランス のある家電量販店で、かなりのスペースを占有するサムソン、LG、フィ リップスなどは、低価格帯の普及モデルも数多く扱っており、販売店員の 反応を聞いてもコスト・パフォーマンスが良いとの返答である。 液晶TV のコスト構造をみると、その 6 割を液晶パネルが占めている。 従って、液晶パネルはコスト・パフォーマンスに大きく寄与していると推 察される。液晶パネルの生産シェアの推移をみると、1990 年代初頭は日 本シェア100%あったにもかかわらず、2001 年に韓国、2002 年に逆転を 許している。世界のパネル生産量およそ4 億 4 千万枚のうち、韓国・台湾 がそれぞれ1 億 9 千万枚程度、日本はわずか 3 千万枚弱にとどまる(2008 年)。では、なぜわずか10 年ばかりの間にこのような大逆転現象が起きた のだろうか。この疑問を解く3つの鍵は、技術移転、アーキテクチャ、投 資優遇制度である。 技術移転の観点から言えば、日本は1990 年代に韓国に第 2・3 世代、台 湾に第3・3.5 世代の液晶パネルに関して技術提携を結んでいる。二世代 分の工場立ち上げ経験により、彼らが基本生産工程を学習した可能性が高 い。しかしその後、韓国は独自に次世代ガラス基板の工場立ち上げを行い、 台湾も日本企業が投資しなかった第5 世代工場を急速に大量に立ち上げた。 第5 世代の工場は急にガラス基板のサイズが大きくなり、ガラス基板のハ ンドリングが難しくなったり、液晶注入工程においても技術的なブレーク スルーが必要とされたりするなど、新たな工程開発が必要とされるように なったにもかかわらず、である。 こうした工程開発を先導したのは日本の装置・材料メーカーであり、彼 らと共同開発した韓国パネルメーカーである。彼らは新たな工程開発を行 い、工場立ち上げ時に試行錯誤して、歩留まりを上げるよう装置・材料を あわせ込んでいった。そして、彼らは液晶パネルの世界への普及を大義名 分として、工程のオープン化・プラットフォーム化を進めたようである。
その結果、完成度の高い装置・材料がそのまま台湾パネルメーカーに導入 された。これにより、台湾で第5 世代液晶パネル工場が立ち上がり、日本 パネルメーカーが多数撤退していったのである。 これは、アーキテクチャ論で言えば、生産工程のオープン・モジュラー 化を意味する。確かに成膜工程やフォトリソ工程など下位レイヤーでの生 産工程はすりあわせ(インテグラル化)を必要とするが、その問題解決を 図り、ソリューションを提供するのは専ら日本の装置・材料メーカーであ り、その結果、上位レイヤーでの生産工程はオープン・モジュラー化して いるように見えるのである。このような状況下で、資本力のある台湾企業 が完成度の高いインライン装置を導入し、初めての第5 世代工場でもスム ーズに工場立ち上げを実現したものと推察される。 投資の面でも韓国、特に台湾には優遇制度がある。経済特区は5 年間法 人税無税に加え、加速度減価償却(3 年で償却)が認められている。これ に対して、日本は法人税4 割、減価償却 10 年である。台湾企業がフリー キャッシュフローの面で圧倒的に有利な立場にあったことは想像に難く ない。これは、生産工程のオープン・モジュラー化(技術障壁の低下)に、 投資優遇制度(資本障壁の低下)が加わると、あっという間に後発国の競 争力のキャッチアップ・逆転が起こりうることを示唆している。 以上の事例分析から得られる教訓は、アーキテクチャ戦略および国家戦 略の重要性である。前者に関して言えば、液晶パネルのような一見先端技 術の塊であっても、広い意味でのアーキテクチャがオープン・モジュラー 化すれば、市場参入が増え、短期間でのキャッチアップが起こりうるとい う点である。仮に日本のパネルメーカーが技術を囲い込み、ブラックボッ クス化を図ったとしても、日本の装置・材料メーカーや韓国のパネルメー カー経由で台湾に技術移転が起こる可能性がある。技術移転の経路は多様 なのである。従って、日本企業は技術優位性だけでなく、アーキテクチャ の現状認識を踏まえた上での戦略構築を図っていく必要がある。場合によ っては、韓国・台湾企業との分業・協業関係を競争の早い段階から築いて いく必要もある。その際、組織能力との相性からみてアーキテクチャの比 較優位がどの国・地域にあるかを見極め、連携を図っていくことが肝要で
ある。 後者に関しても、台湾やアジアの経済特区、投資優遇制度などは大いに 見習うべきである。すでに類似の現象が1990 年代の半導体産業、携帯電 話産業、光ディスク産業、太陽光発電産業などでも観察されている。日本 の製造業が生き残りを図るには、こうした国家戦略とアーキテクチャ戦略 とを一体で考慮する必要があろう。 特別研究報告「『新日本流経営』のリーダー、マネジャーの発掘と育成 ―コーポレートユニバーシティとビジネス・スクールは有 効か―」 報告者:小林勝氏(ハリウッド大学院大学教授) 経営者・管理者研修に関する先行研究を参照すると、特に『新・日本流』 の経営を考えていく上で、次のようなものが参考になる。古くは山城章教 授の「KAE 経営道」にはじまり、経営家族主義、経済同友会「新・日本 流経営の創造」、アベグレン「新・日本の経営」、老舗長寿企業研究などで ある。これらの諸研究は、日本の経営を考えていく上で極めて重要になる。 本報告では「日本型」経営および「日本流」経営について考察するため に、二つの視座について検討された。まず「日本型」とは、言い換えれば 「マウント富士型」であり日本企業から創成した日本発のビジネス戦略で
あると位置づけられた。例えばトヨタ自動車の「ジャストインタイム」や 「QC サークル」が挙げられる。また「日本流」とは、言い換えれば「ア ジサイ流」であり、日本固有の植物であるアジサイが移植先の土壌や文化 によって改善されるように、経営においても現地に適応していくプロセス こそが「日本流」として戦略になると位置づけられた。 また、日本の経営スタイルが確立された背景として、日米遺伝要素の違 い(米国人は「新規探索傾向」、日本人は「損害回避傾向」)やコンセプチュ アル・フレームワークとして特に日本の経営は「参加型共同体理念」につ いて述べられ、日本的労使関係、積極的な研修投資、全員参加経営、協同 体的性格、社内取締役、サプライヤー長期的関係等を紹介された。 このような背景の中で日本(国家)としての競争優位を獲得するためには、 個々の企業の競争優位について検討しなければならず、そのためには経営 者教育、管理者研修が必要になる。これに対してコーポレートユニバーシ ティやビジネススクールがどのように貢献ができるかについて問題提起 された。 まず経営者教育、管理者研修の位置づけについて検討された。経営者教 育とはトップ、すなわちリーダー、エグゼクティブに対するものであり、 管理者研修とは、マネジャーやミドルスタッフに対するものである。企業 は戦略に基づいて行動しなければならないが、経営者はこの戦略を発掘で きる人材を育成しなければならないため、ビジョン、ミッション、バリュ ー、リーダーシップに関する教育を行っていかなければならない。これら は自己啓発・開発を主としたものによって習得される。管理者は戦略にお ける執行能力の向上を目指さなければならない。経営成果の90%はオペレ ーションによるものであるため、管理者の教育は経営を考えるうえで極め て重要なものになる。 では、今後「日本流」の経営者・管理者教育のあり方を検討するうえで どのようなことに取り組まなければならないか。経済同友会が実施した 「新・日本流経営の創造」に関するアンケート調査によると、経営上の重 要な問題として「人材育成、人材の確保」を上げている企業が81.6%あり、 特にこれまでの育成策では「OJT」に力を入れている企業が多く(77.9%)、
今後は「次世代経営者育成」に力を入れていきたい(65.4%)と考えている ようである。日本の経営者・管理者教育において「強み」になるものは、 経営者の高い倫理観・道徳心、長期的視野に立った経営、コンセンサス経 営とチームワーク、サプライヤー、協力企業との連携が挙げられ、「弱み」 になるものは、グローバルに適用するビジョン、理念が不明確、クリティ カルシンキング不足、モノカルチャーでダイバーシティ欠如であった。 (文責:小椋康宏) 特別講演「勝ち残る企業創りとリーダーの条件」 講演者:新将命氏(株式会社国際ビジネスブレイン代表取締役社長) 経営者にとって、企業の sustinability(維持性)が最重要課題であり、自 らの企業をgood company にすることが社長の使命である。うまくいって いる企業は、うまくいくように経営しており、うまくいっていない企業は、 うまくいかないように経営している。 「勝ち残る」企業を創りには流れがある。まず第1は「株主」に「満足」 してもらう「業績」を上げる必要がある。そのためには株価と配当を高め る必要がある。業績向上には、「顧客」と「社会」に満足してもらえるよ
うな「品質」の高い「商品・サービス」を提供しなければならない。こう した商品とサービスを提供するためには、「品質」の高い「社員」がいな ければならず、社員が満足いく良い仕事をするためには「品質」の高い「経 営者」がいなければならない。品質の高い経営者とは、マネジメント力、 リーダーシップ、倫理観のすべてを備えている者である。言い換えれば、 勝ち残る企業を創るための原点は、経営者の品質を高めることである。「魚 は頭から腐る」という諺にあるように、社長が腐っていると、社員・企業 が腐っていく。 人ザイ(社員)を、「マインド」(他人から信頼・尊敬され、自ら仕事に意 欲をもつ者の人間力)と「スキル」(仕事が良くできること)の尺度で測ると 4つのタイプに分けられる。第1のタイプは、高いマインドとスキルをも つ者、つまりリーダー(leader)である。彼らは、企業にとっての財産であ る「人財」であり、社内に5~10%ほどいる。次は、社内の 80%を占める、 スキルは高いがマインドが低い、リーダーの追従者(follower)の「人在」、 第3は、マインドは高いがスキルが低い beginer の「人材」、最後は、社 内に 2~3%いるマインドもスキルも低い、組織の足を引っ張る敗者 (looser)としての「人罪」である。 リーダー(人財)には、スキルとして①機能的・専門的能力、②普遍的ビ ジネス能力、③リーダーシップ能力の3つが不可欠である。最近の日本企 業の部課長は、疲労感・疲弊感・閉塞感に起因する心の病に罹っているよ うに見受けられる。それは、上司が彼らをノルマといった目先の到達目標 に駆り立てるだけで、方向性を示していないことが原因である。つまり、 リーダーが目標を達成するための戦術にこだわるあまりに、上記の③のリ ーダーシップ能力の1つである、理念・目標・戦略に基づいて部下に方向 性を示していないからである。そのため、部下には強制動機つまりやらさ れ感があり、内燃動機つまりやりたい感がそがれているのである。 リーダーには、マインドとして①情熱、②2 責、③3 識、④4K が必要で ある。①の情熱には、自ら火を点け燃える「自燃型」、他人からの火で燃 える「他燃型」、自他の火でも燃えない「不燃型」、人の火を消す「消火型」、 人に火を点ける「点火型」がある。自らばかりでなく、他人にも火をつけ
る自燃型・点火型の情熱をもつ者が社長である。②の2 責とは、他責と自 責のことである。社長が責任を人のせいにするのではなく、自らの責任と して行動することで、社内に自責の風が吹き、それが社風、組織文化とな る。③の3 識とは、知識、見識(知識+自分の考え)、胆識(見識+決断力+ 実行力)であり、④の 4K とは、肯定、謙虚、感性、向上心・向学心のこと である。 最後に、マインド(人間力)は後天的に身に付けることができる。かのゲ ーテがいうように、「人は、結局は思った人になる」のである。3週間同 じ行動を続けると第2の性格(second nature)ができあがる。経営力は、座 学が2 割、修羅場が 8 割で身に付けることができるが、30 代終わりから 遅くとも40 代の初めまで学習・体験する必要がある。 (文責:幸田浩文)
2.2. 第 5 回シンポジウム
「経営者・管理者の育成と経営力創成」
日時:2010 年 12 月 11 日(土) 会場:東洋大学白山キャンパス2 号館 16 階スカイホール 【センター長挨拶】 小椋康宏氏(センター長、東洋大学経営学部教授) 【研究報告】 論題 :「製品市場における技術間競争と企業間競争」 報告者:山口裕之氏(研究員、東洋大学経営学部専任講師) 司会者:吉村孝司氏 (客員研究員、明治大学専門職大学院会計専門職研究科教授) 【特別講演】 論題 :「経営者カウンセリングサポート」講演者:土井隆司氏(コカ・コーラカスタマーマーケティング株式会社 前代表取締役会長) 司会者:石井晴夫氏(研究員、東洋大学経営学部教授) 【パネルディスカッション】 論題 :「経営者・管理者の育成と経営力創成」 パネリスト:中村久人氏(研究員、東洋大学経営学部教授) パネリスト:幸田浩文氏 (プロジェクト・サブリーダー、東洋大学経営学部教授) パネリスト:河野大機氏 (プロジェクト・サブリーダー、東洋大学経営学部教授) コーディネーター:小椋康宏氏(センター長、東洋大学経営学部教授) 研究報告「製品市場における技術間競争と企業間競争」 報告者:山口裕之(研究員、東洋大学経営学部専任講師)
本報告の目的は、製品市場において支配性を巡って展開される技術間競 争に関して、そのパターンに注目する必要性を指摘したうえで、①技術間 競争に直面する企業に求められる対応がそのパターンに依存する点と、② そのパターンが企業行動の影響を少なからず受ける点を明らかにするこ とにある。 製品市場における支配的な技術の変化は、企業間競争の構造に重大な変 化をしばしばもたらす。そのため、技術間競争と企業間競争の関係、より 具体的には技術変化への企業の対応については、競争戦略論やイノベーシ ョン・マネジメントの領域において古くから議論が展開されてきた。そこ では、有望な新規技術への事業基盤の移行をいかに迅速に果たすべきかが 中心的に議論されてきた。 本報告では、こうした既存の議論の問題点として、その前提に関する 2 つの問題を指摘・検討することで、前述した①と②を明らかにする。 既存研究の第1 の問題は、在来技術が新規技術に代替されるという前提 に関するものである。Foster(1986)の S 字曲線の議論や、Anderson and Tushman(1991)のサイクルモデルの議論に代表されるように、既存の議論 では、新規技術の潜在的優位性が想定されており、在来技術は新規技術に 早晩代替されるという前提が置かれている。しかし、こうした前提を疑問 視 す る 近 年 の 議 論 (Cooper and Schendel, 1976; Henderson, 1995; Rosenberg, 1995; Nair and Ahlstrom, 2003; 大沼, 2009)にあるように、 新規技術と在来技術との技術間競争は、既存の議論で想定されているよう な迅速な代替というパターンで必ずしも進展するわけでない。各技術の性 能進歩の方向性(進歩トラジェクトリー)が異なるか否かや、技術を評価・ 選択する顧客の性能選好が多様であるかあるか否かによって、各技術が製 品市場において棲み分けることもありうる(Danneels,2002; Adner,2002)。 こうした製品市場の分割や棲み分けが発生する場合、新規技術への事業基 盤の迅速な移行という対応は、有効であるどころか、破壊的な結果を企業 にもたらしかねない(山口, 2007)。企業には、①技術間競争のパターンに 応じた対応策が望まれるのである。 第2 の問題は、製品市場で展開される技術間競争(技術変化)は企業に
とって外生的に与えられる事象であるという暗黙の前提に関するもので ある。第1 の問題で検討したように、技術間競争は、各技術の進歩トラジ ェクトリーと製品市場における性能選好に影響を受ける。この2 つ要因は、 既存の議論で想定されているように個別企業の行動から独立しているわ けではなく、個別企業を含む多様な行為主体によって社会的に構成される (Pinch and Bijker, 1987; Green, 1991; Garud and Rappa, 1994; Tushman and Rosenkopf, 1992; Klein and Kleinman, 2002)。この意味に おいて、②技術変化のパターンは企業行動の影響を少なからず受けるので ある。 新規技術に直面した企業は、新規技術への事業基盤の移行を迅速に進め れば良いわけではなく、①製品市場における技術間競争のパターンに応じ た対応を行なう必要がある。更に、その対応を検討する際には、②技術間 競争に及ぼしうる自社や他の行為者の影響にまで遡り展開される技術間 競争のパターンを「読む」ことが求められるのである。 【注】 (1)より具体的には、問題の検討を通じて、技術間競争と企業間競争の関係に対する分 析枠組を構築し、この枠組みに基づき二次電池産業の事例分析を行なうことで①と② を指摘するが、その詳細については、紙幅の都合上、本要旨では省略する。
特別講演:「経営者カウンセリングサポート」 報告者:土井隆司氏(コカ・コーラカスタマーマーケティング株式会社 前代表取締役社長) 土井氏の特別講演は「経営者カウンセリングサポート」という演題で土 井氏が日本のコカ・コーラカスタマーマーケティング株式会社の代表取締 役会長(CEO)として経営活動した経験に基づき行われた。 土井氏によれば、経営者とは会社の最終意思決定の任に当たるもので、 社内・社外に対する経営の決断をすることが経営者の仕事である。また講 演の主題として経営者の資質について述べている。ドナルド.R.キーオ の「ビジネスで失敗する人の10の法則」などを引用しながら経営者とし ての問題意識などを明らかにしていた。特に「仕事への熱意」が必要であ ることを指摘しており、自身のライフキャリア転職シートを使い、経営者 として熱意をもって取り組んだことを講演された。長年のキャリアからス タッフ、中間管理職、経営幹部でどのようなスキルが求められるかの違い がある。スタッフであれば日常業務における業務処理能力が必要であり、 中間管理職であれば、事情聴取力、人間観察力などが必要である。一方で、 経営者となると変革・革新力、創造力、など新しいものを創造するための 能力が必要である。これは筆者の考えにも近いものであり、管理者(中間
管理職)は、部下の管理などには部下の主張などを良く聞き、観察し評価 する能力が必要であることを示している。また経営者に必要とされる能力 は、新しいものを「創造」することを示している。しかしながら日本企業 の経営者の中には、土井氏が指摘するような官僚制に基づく経営を行って いる企業も多くあり、それが日本企業の低迷につながっている。 土井氏は、経営者が失敗しないためには、経営者が孤立しないことであ ることを指摘した。そのためには、3 つのことが必要である。1 つは顧客 目線の充実を図ることである。顧客の目線を経営に活かすような取り込む 経営になれば、必然的に経営者は孤立しないのである。2 つめとしては、 カッツ3スキルのバランスをとることである。土井氏は、経営者に必要な スキルとして、コンセプチュアルスキル、ヒューマンスキル、テクニカル スキルの3 つをバランスよく構築する必要がある。3 つめとしては、テク ニカルスキルが必要である。最後にMind Diversification を実現すること であることを指摘した。 このたびの土井氏の講演は、ご自身の経営実践の経験から、経営者に必 要とされるスキルを明らかされた。当センターの研究テーマである経営力 を明らかにするうえで、大変意義のある貴重なご講演であった。 (文責:小椋康宏) 【パネルディスカッション】 テーマ「「経営者・管理者の育成と経営力創成」 パネリスト:中村久人氏(研究員、東洋大学経営学部教授) パネリスト:幸田浩文氏 (プロジェクト・サブリーダー、東洋大学経営学部教授) パネリスト:河野大機氏 (プロジェクト・サブリーダー、東洋大学経営学部教授) コーディネーター:小椋康宏氏(センター長、東洋大学経営学部教授)
「経営者・管理者のリーダーシップ開発」
パネリスト:中村久人氏(研究員、東洋大学経営学部教授)
マネジメントにおいて最も重要なことは、リーダーとしての経営者が適 切なリーダーシップをとって組織目標を効果的に達成することである。報
告ではまずこれまでのリーダーシップ論の展開を概観し、初期のリーダー シップ論から現代のリーダーシップ論までにどのような理論的展開と進 歩があったのかについて検討された。 具体的には、まずリーダーシップを「組織目標を達成するように方向づ けたり動機づけたりする影響力あるいは影響プロセスのこと」と定義され た。リーダーシップ論には従来より「資質論」と「行動論」に大別され、 研究者の多くは「行動論」の立場から展開してきたといえる。行動理論は 「リーダーシップはリーダーがどのように行動するかによって決まる」と いうものであり、オハイオ州立大学やミシガン大学で発表されたリーダー シップ理論はこの考え方に準拠する。 その後は「資質論」であるか、「行動論」であるか、といった二律背反 的な議論ではなく、「条件適合論」に基づいた「状況的リーダーシップ論(SL 理論)」が注目される。 近年では新しいリーダーシップ論として「LMX 理論」、「VDL 理論」、「経 路目標理論」等についても紹介した。 さらに新しいリーダー育成法として「リーダーシップ開発論」の観点か ら、「リーダーは生まれつきではなく、育成できる」(McCall, 1988)との考 え方に立脚して、リーダーシップ「発生・発現」の中核にある要素、リー ダーシップコア(能力、人間性、一貫性から成る)の重要性について述べ た。 結論的には、リーダーである経営者の育成は、リーダーシップコアを有 すると思われる人材を選抜し、適切なタイミングで意図的に「一皮むける 経験」を積ませることにより開発されることになる。その意味では、経営 者になるためのリーダーシップ論としてはリーダーシップに関する「資質 論」と「行動論」の双方の研究が必要である。 (文責:小椋康宏)
「戦後わが国企業における人材育成管理の史的展開」 パネリスト:幸田浩文氏 (プロジェクト・サブリーダー、東洋大学経営学部教授) 1.個人の能力と能力開発 企業において従業員に求められる能力とは、企業目標の達成に貢献する 職務遂行能力である。 この能力は、体力・適性・知識・経験・性格・意 欲の積で表すことができる。 個人の能力の質と量は、個人の努力や職場 の環境によって変化する。 したがって、企業は、従業員の職務遂行能力 を十分に発揮させるため、各人の士気を鼓舞し、努力を促し、作業環境を 整備しなければならない。換言すれば、企業は、従業員の能力を開発・育 成し、能力を発揮できる場を提供し、能力を適正に評価する必要がある。 職務遂行能力を構成する要素はかならずしも目に見えるものとは限らな い。例えば、体力、知識あるいは経験などは職務遂行上、業績として現れ やすいかもしれないが、適性、性格あるいは意欲などは、従業員の内面的 なものであるため、それらが業績とどのような形で結びついているかを判 断することは難しい。 結局は、それぞれの要素が影響し合い、業績とし て顕在化したものを職務遂行能力として評価するしかない。
2.わが国の教育訓練との史的展開 われわれは、第二次世界大戦後から現在までの期間を、6つの時代(① 第二次大戦の後復興期、②高度経済成長期、③経済安定期・バブル経済期、 ④バブル崩壊・平成不況期、⑤景気回復期、⑥リーマンショック後の不況 期)に区分して、当時の教育訓練・能力開発といった人材育成管理が、各 時代を象徴する人事管理パラダイム(①生活主義、②年功主義、③能力主 義、④成果主義、⑤ポスト成果主義、⑥新しいパラダイムの模索)からど のような影響を受けてきたかを考察した。 そこから明らかになったことは、人材育成方針・施策が経済環境(景気) に左右されることであった。すなわち、①層別教育視点あるいは個別育成 視点、②指名参加研修方式あるいは選択的な研修参加方式、③短期人材育 成あるいは長期人材育成のいずれかへのシフトがみられた。たとえば、低 成長経済になると、企業が提供する教育機会を減らし、個人主体の学習機 会に期待するといった具合である。 バブル崩壊後には、①労働費用に占める教育訓練費の削減、②全員参加 型から選択型研修へのシフト、③自己啓発の促進(その一方で自己啓発支 援(援助)費用の削減)がみられた。2003 年よりの景気回復期には、経営 者からは①企業ならびに管理者の人材育成責任、②個々の成長に合わせた 育成管理の必要性、③長期的視点での人材育成などが標榜された。多くの 企業では、これまでのようにOJT と Off-JT と自己啓発支援(援助)を中心 に、新たな人材育成手法・技法を取り入れて従業員の能力向上に努めてい るのが現状である。問題なのは、人材育成の責任を自己に置き、企業を当 てにしない傾向がみられてきたことである。 3.多様化する人材像と労働市場 いわゆるバブル経済崩壊後の平成不況期に猛威を振るったリストラの 嵐により、その結果、正規労働者本来の職務・仕事が急激に非正規労働者 に取って替わられた。年功主義や能力主義に替わって、個人的にも組織的 にも顕在・発揮能力といった実績を評価する成果主義が主流となっていっ た。コスト面から教育訓練費を削減した結果、企業における教育訓練・能
力開発施策・システムは、効果的・有効的に機能しなくなってしまった。 2002 年、経済産業省は、国際競争力が低下したわが国の製造企業の復 活を目的に、技術経営(Management Of Technology;MOT)人材の育成を 促進するようになる。その背景には、企業内に分散・偏在している知識を 結びつけて新たな価値を創造するマネジメント人材と、特定分野の専門家 として新たな価値を創造するプロフェッショナル人材をそれぞれ育成す るとともに、2つの特性をあわせ持つ技術経営(MOT)人材を育成すること が産業界のみならず、国にとっても喫緊の課題となったからである。 また2007 年には、『中小企業白書』において、新しい人材ポートフォリ オという考え方が示された。これは、企業が事業戦略を遂行する際の職務 に適した人材の最適な組み合わせを、4つの人材のタイプ(①プロデュー サー型人材、②スペシャリスト型人材、③熟練スタッフ型人材、④スタッ フ型人材) に分けて図示したものである。 4.景気変動と教育訓練の関係 2007年の『国民生活白書』から1986年から2004年までの「職業教育訓 練の実施率の推移」をみてみると、Off-JT または計画的OJT、Off-JT 、 OJTの順で実施率が高く、景気変動に対応して実施率が増減している。ま た、1983年から2006年までの「労働費用計に占める教育訓練費の割合」 は、バブル経済期、平成不況、ITバブル崩壊、サブプライムローン・リー マンショックを契機として、増減を繰り返している。つまり、教育訓練費 は好況時には増大し、不況時には減少するということである。 また2009年の厚生労働省「能力開発基本調査」によれば、Off-JTは、2007 年、2008年とそれぞれ1人当たり2.2万円、2.5万円と微増したが、2009 年には1.3万円とほぼ半減した。同様に、自己啓発支援も同じく0.7万円、 0.8万円と微増したが、0.4万円と半減した。また、上述したように、日経 連が標榜し重視されてきた選抜重視の人材育成が、ここへきて労働者全体 を重視する傾向に変化した。 とくに注目すべきは、自己啓発やOff-JT の実施率もともに低下し、有 効な能力開発手段としてOJTな重視されていることである。「これまで」
ならびに「今後」の「能力開発の主体は『企業か個人か』」という問いに 対しては、2000年と2004年を比較してみると、それぞれ企業の責任が6、 7割、個人の責任が3、2割と企業の責任の割合が多いが、年度ともに、個 人の責任の割合が増えている。 5.主要企業の人材開発体系 最近の大企業の企業の事例を概観すると、たとえば、スキル選択型研修、 チューター制度、社内ブログ、社内 SNS、シミュレーション研修、ケース・ フォーラム、メンター制度、社内資格認定など、新しい人材育成方法を模 索しながらも、OJT と Off-JT (集合研修)、自己啓発支援(援助)を中心に、 人事制度、人材育成体系ならびに現場のOJT の一貫性・整合性の構築に 腐心していることが分かる。 バブル崩壊後には、①労働費用に占める教育訓練費の削減、②全員参加 型から選択型研修へのシフト、③自己啓発の促進(その一方で自己啓発支 援(援助)費用の削減)がみられた。2003年よりの景気回復期には、経営者 からは①企業ならびに管理者の人材育成責任、②個々の成長に合わせた育 成管理の必要性、③長期的視点での人材育成などが標榜された。多くの企 業では、これまでのようにOJT とOff-JTと自己啓発支援(援助)を中心に、 新たな人材育成手法・技法を取り入れて従業員の能力向上に努めているの が現状である。 問題なのは、人材育成の責任を自己に置き、企業を当てにしない傾向が みられてきたことである。労働者の半数が、自らの職業能力開発の方法と して、「自発的な能力向上のための取組を行うことが必要」と答えている が、「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」、「費用がかかりすぎる」と 答えている点が課題である。その点から、労働者はこれまでの経験から、 次第に企業での人材育成をあてにしなくなってきていることが窺える。 6.新しい人事部門の役割と方向性 新しい人材育成管理は、MOT 人材をはじめとするマネジメント人材や プロエッショナル人材あるいはプロデューサー人材や専門スタッフ人材
といった新しい価値を創出する人材を育成しなければならない責務を負 っている。個人の能力は、顕在(発揮)能力と潜在(保有)能力からなる職務 遂行能力であり、その潜在能力を向上させ、組織能力を増強するためには、 基本的に次の3つの方法しかない。 第1は 、職 場の上 司な どによ る職 場内教 育訓 練を通 じて 行われ る face-to-face といった人間系のコミュニケーションを通じての支援である。 第2は、集合教育などの職場外教育訓練を中心とした組織やシステムを 通じての支援である。 第3は、自己啓発を通じての個人学習による自らのエンプロイアビリテ ィ(employability)の向上である。そして何にもまして重要なことは、求 める人材像・組織像の基盤となる経営方針・ビジョンや経営哲学・理念が、 経済環境に容易に揺らぐことなく首尾一貫していることである。 新しい人事部門では、これまでのような組織の視点ばかりでなく、いま まで以上に人の視点に立つ役割、換言すればルール重視の管理からサービ ス提供の役割が重視されると考えられる。つまり、①ビジョンと戦略策定 への関与を高め,それに連動した人事ビジョンと人事戦略の創出・推進、 ②経営理念の浸透と共有化の促進と組織全体への理念の浸透、そして③ラ イン管理職との連携による社員個別の適性やニーズへのきめ細かい対応、 が必要となる。
「「経営力」の内容項目 ――ドラッカーの「経営体存続目標」〔企業三 重制度〕「最高経営」「富創出能力」に関連させて――」 パネリスト:河野大機氏 (プロジェクト・サブリーダー、東洋大学経営学部教授) はじめに 「経営力創成」を考察していくためには、経営体全体としての存在・存 続にかかわる項目をまず明らかにする必要があると考えられる。これにか かわるものとして、われわれはドラッカーの「経営体存続(the survival of the business) 目標(objectives)」をあげ、さらに〔企業三重制度〕[the three-fold function of the enterprise; the triple personality of the enterprise = economic,governmental,and social institution]「最高経営 (top management)」(狭義と広義)「富創出能力(the wealth-producing capacity)」(広義)に関連させて考察する。 1.経営体存続目標における全八項目(’74 年著・’54 年著) どの経営体でもその存続がかかっている要因は同じであり、存続目標が 必要になる分野の種類も同じであるが、それぞれの目標分野内にある到達 目標地点すなわち特定の標的の中身は、個々の経営体のそれぞれの時点に おける戦略いかんに依存しているので、各経営体に特定的なものであり、
また、各経営体における複数の標的群は各時点の必要性を満たすために、 特定の均衡をとることを要求されているというのが ドラッカーの考え方 である。 ①マーケティング=事業の最終成果たる顧客の観点から見た事業全体、② イノヴェイション=新しくしその成果が市場に受容される事業・経営全体 という一次元、以上は起業家的。③人的組織・④財務資源・⑤物的資源= 生産の三要因、⑥生産性、以上は管理者的(起業家的もありうると解釈)。 ⑦(社会的存在としての)社会的責任。⑧利潤〔性〕(必要条件)。 2.経営体存続目標と経営体三重[四重]制度との関連づけによる一つの 追加項目 ’50 年著には経済的・統治的・社会的な三重統合的な企業論と労働組合 論がある。これについてその後ドラッカーは言及することが無くなったが、 経営体全体について捉える必要があるとしてわれわれは重視する。これら と経営体存続目標を関連づけ⑨統治を追加する。 統治についての七問題のドラッカーの研究には 最高経営(狭・広義)が含ま れると解釈する。 3.近年必要になった最高経営職能における一つの追加項目 狭義の最高経営職能に⑩経営データ処理と会計の情報システム統合が 含まれる(’95 年著)。 4.以上10 項目による「経営力」の意味 以上が経営体存続能力と’54 年著・’95 年著の富(財・仕事も)創出能力 としての経営力。 おわりに 経営体存続能力および富創出能力としての経営力についての 10 項目を 経営力創成研究センターの調査項目とした。なお 項目の中身はドラッカ ーのものとは必ずしも同じではない。
2.3. 第 6 回シンポジウム
「日本の経営者・管理者の育成と経営力創成」
日時:2011 年 1 月 22 日(土) 会場:東洋大学白山キャンパス6302 教室 【センター長挨拶】 小椋康宏氏(センター長、東洋大学経営学部教授) 【研究報告】 論題 :「経営戦略論における外部成長戦略 −M&Aの形成とマネジメント− 」 報告者 :中村公一氏(客員研究員、駒澤大学経営学部准教授) 司会者 :加藤茂夫氏(客員研究員、専修大学経営学部教授) 【パネルディスカッション】 論題 :「日本の経営者・管理者の育成と経営力創成」 パネリスト:河野大機氏 (プロジェクト・サブリーダー、東洋大学経営学部教授) パネリスト:中村久人氏 (研究員、東洋大学経営学部教授) パネリスト:幸田浩文氏 (プロジェクト・サブリーダー、東洋大学経営学部教授) コーディネーター:小椋康宏氏(センター長、東洋大学経営学部教授) 【特別講演】 論題 :「NTTグループの経営課題と人材育成――NTTドコモの経験―」 講演者:平田正之氏(前NTT ドコモ代表取締役副社長、 株式会社情報通信総合研究所代表取締役社長) 司会者:石井晴夫氏(研究員、東洋大学経営学部教授)研究報告:「経営戦略論における外部成長戦略 −M&Aの形成とマネジメント− 」 報告者:中村公一氏(客員研究員、駒澤大学経営学部准教授) 本報告は、経営戦略論の中で外部成長戦略がどのように扱われてきたの か、特に代表的な形態である M&A(合併買収)に着目し、その現状と理 論的な展開を整理し、今後の展望を考察している。まず、実際の面に関し ては、経済同友会『第16 回企業白書』(2009 年 7 月)において、日本企 業の繁栄維持のためにはグローバル化の推進を課題とし、M&A を梃子に した成長戦略の重要性を指摘している。そして、M&A 件数自体も増加し ており、その戦略的選択肢としての重要度も向上しているのが現状である。 特に、欧米企業では経営戦略論の創成期からM&A は大きなテーマとし て扱われてきた。まず、M&A の形成動機に関する理論として以下のもの が議論されてきた。①多角化研究-多角化の手段として M&A を考える。 ②資源依存パースペクティブ-組織間の相互依存関係は取引の不確実性 をもたらすために、その依存関係を吸収する手段として M&A を考える。 ③RBV(資源ベースビュー)-内部技術開発の代替的手段として、知識や スキルを獲得するためにM&A を考える。 そして、議論はM&A の形成段階だけではなく、組織統合段階も含めた
M&A マネジメントの研究へと展開していく。これは大きく 3 つに分類で きる。①適合パースペクティブ-どのような関係を持つ企業を買収すれば 優れた成果が得られるのか、ということをテーマにした従来の形成動機に おける研究や、組織統合という企業間の適合を課題とする研究である。し かし、自社のニーズに適合しやすい企業を分析によって事前に把握してお り、M&A の価値創造の潜在性や実行困難性を示しているに過ぎず、意思 決定者の個人的判断に左右される場合があるという問題点がある。②プロ セス・パースペクティブ-M&A の価値創造に対してプレ M&A からポス トM&A の一連のプロセスを考察しており、組織間適合だけでなく組織間 協働も課題とする。組織間学習やM&A の実行能力である M&A コンピタ ンスの概念がテーマとされる。③「実践としてのM&A」-先の 2 つの研 究では、最適な相手企業の選択や最適なM&A プロセスの実行を暗黙の前 提として議論が展開されている。しかし、戦略は実践の中から形成されて いくという「実践としての戦略(Strategy as Practice)」では、意図せざ る結果の探求も課題であり、状況に応じて課題は変化すると考える。「実 践としてのM&A」は、こうした視点から M&A における事業の再構成、 事業間の抵抗、事業の革新も捉える必要があるという研究である。この視 点は、今後のM&A マネジメント研究の方向性を示しているが、まだ研究 途上であるために具体的な実例を今後分析していくことが課題である。
【パネルディスカッション】 論題 :「日本の経営者・管理者の育成と経営力創成」 パネリスト:河野大機氏 (プロジェクト・サブリーダー、東洋大学経営学部教授) パネリスト:中村久人氏 (研究員、東洋大学経営学部教授) パネリスト:幸田浩文氏 (プロジェクト・サブリーダー、東洋大学経営学部教授) コーディネーター:小椋康宏氏(センター長、東洋大学経営学部教授) 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業たる東洋大学経営力創成研究セ ンターによる「日本の経営者・管理者の教育と経営力創成」のためのアン ケート調査(昨年夏に実施:金融業を除く東証 1 部上場企業 3,255 社)の結 果(回収 210 社余り)について、経営力創成・経営者研究・管理者教育の研究 3 グループと全体から河野・中村・幸田・小椋の 4 氏が中間報告した。各テー マについて数項目ごとの細目に関する5 段階評価の数値(平均値と偏差値) とそれらのグラフとそれらの意味を発表した。
経営全体についての5 細目間での重要度平均値の 1 位を示しておく。1. 経営理念:事業理念、2.経営構想:事業構想、3.意思決定主体:取締役 会、4.意思決定内容:事業に関して、5.ステークホルダー:顧客。これ らから、事業重視の姿勢が窺える。 経営力の5 細目間での重要度平均値の 1 位を示しておく。1.マーケテ ィング力:顧客価値への対応。2.イノベーション力:製品あるいはサー ビスのイノベーション。3.プロダクティビティ力:労働生産性(→日本的 人間重視)。4.財務力:内部留保の活用による資金調達力(偏差は大→こ れを活用の日本企業もかなり多い)。5.物的資源力:物的資源の活用力。 5 細目間に差は少ない。6.最高経営層のリーダーシップ力:最高経営者(社 長)。7.ガバナンス力:①最高経営者(社長)の意思決定力。8.収益力:総 売上高利益率。第3 位は将来キャッシュフローの現在価値(実践面でも相当 重視)。9.情報システム力:ERP 情報システムの導入・運用。以下は 3.4 と3.3 段階で差は殆どない(→日本企業の課題されうる)。10.企業の社会 的責任力(CSR 力):コンプライアンス。経営者教育の 5~10 細目間での 重要度平均値の上位を示しておく。1.経営なグローバル化:情報や価値 の共有化、柔軟性のある仕事法(=日本型経営) (以上 4 前後)。2.企業とし てグローバル化:長期的経営、生産性・効率性の追求(=日本型経営) (以上 4 前半)。3.経営者としてグローバル化:グローバル人材の確保、コーポ レート・ガバナンス(以上 4 弱)。4.トップの資質:胆力(実践・理論両面 で重視)、近接の人間性、頭脳明晰(後 2 者は 4 前半)。5.トップの卓越行 動:意思決定力、実行力(以上後半)、コミュニケーション力、現場重視、 一貫性、率先垂範(以上 4 前半)。6.トップになるための教育:大プロジェ クトの責任の経験、複数部門長の経験(以上 4 前後)。トップ教育:OJT、 自己啓発(以上 3 後半)。8.経営理念・ビジョン:企業の存在意義、事業を 通じた社会貢献、経営者の事業への取り組み、利益獲得、コーポレート・ ガバナンス(以上 4 前半)。9.M&A:営業(資産)譲受(3.7 弱)、10.地球環 境への取り組み:廃棄物処理(4)、以下 6 項目も重要度 3 後半で差は殆どな い。以上から、8・10 が現在の経営者の課題だと重視されている。 管理者教育の 5~10 細目間での重要度平均値の上位を示しておく。1.
後継者:前職者〔部下〕〔関連・非関連〕と同格者(以上は殆ど重要度 3 前 半)。2.育成法:上司による指示・指導、自己啓発(以上 4 前後)。3.評価 法:人事考課(4.5 弱)、上司推薦(4 弱)、4.必要能力:リーダーシップ、責 任感、熱意・チャレンジ精神(以上 4.5 超)、コミュニケーション能力、部 下育成能力、政策形成力(以上 4 前半)。5.必要資質:人柄・人望・人間的 魅力、胆力(以上 4 前半)、頭脳明晰、体力(少し超 4)。6.必要行動:有言 実行・率先垂範(4.37)、一貫性、部下との人間関係構築(以上 4 前後)。7. 人事部の役割:次世代経営幹部の育成・配置等、人事情報管理、組織再編 用人材調達(以上 4 前後)。8.部門管理者重要度:営業(4.48)、財務、会計、 人事(少し超 4)。9.人材育成:次世代経営者育成、階層別能力向上 OJT、 職種毎専門性向上OJT、専門能力強化(少し 4 前後)。10.人事処遇:MBO、 職務や役割による人事(以上 4 前後)、職能資格制、成果賃金(共に 3.54)。 特別講演:「NTTグループの経営課題と人材育成 ―NTTドコモの経験―」 講演者:平田正之氏(前NTT ドコモ代表取締役副社長、 株式会社情報通信総合研究所代表取締役社長)
ドコモは、1991 年 NTT から分社化された。我が国の情報通信(ICT)産 業は、国際的な定義によれば、現在53 兆円規模である。 この市場のパラダイム大転換で、新サービス提供構造が出現した。①イ ンターネットとブロードバンド(固定、携帯)の普及、②これにより、タテ 割に加えてヨコのレイヤのサービス提供構造の出現、③その過程での、通 信と放送・音楽の融合化の進行、である。こうしたなかでNTT グループ は、中期経営戦略「サービス創造グループを目指して」を2008 年 5 月に 発表した。ユーザー志向で、フル IP ネットワークの基盤を活用したブロ ードバンド・ユビキタスサービスを目指し、2012 年には IP 系およびソリ ューション・新分野等が連結売り上げの3/4 を占める事業構造に転換する ことにした。事業展開方針は、収益の柱の1 つをグローバル事業(国内外の ビジネスユーザーへのICT ソリューション、ネットワークサービス、アプ リケーションサービスの面)にし、事業の 2 本柱を法人向けソリューショ ン・ビジネスとコンシューマー(特に海外)向けモバイル事業にしようと展 開している。2007 年実績と比較して 2012 年の目標は、売上高 2 倍、収益 5 倍としている(2009 年度の売上高事業規模は世界 7 位)。これらは、変革 (お客様満足度 No.1 を目指す)とチャレンジ(パケット ARPU の向上、増大 するパケットトラヒックへの対応、新収入源の創出)により新成長を目指し ており、その実行フェーズ段階に入っている。 主要な海外出資先はアジア中心になっている。また、アジア最大級の携 帯業者アライアンスをドコモの提唱で2006 年 4 月に設立して、発展させ ている。 2010 年には、スマートイノベーションへの挑戦として 2020 年ビジョン HEART を発表した。Harmonize(国・地域・世代を超えた豊かな社会への 貢献)、Evolve(サービスネットワークの進化)、Advance(サービス融合によ る産業の発展)、Relate(つながりにいる喜びの創出)、Trust(安心・安全の 心地よい暮らしの支援)である。これに応じ研修体系も、新入社員・中堅社 員には専門性に基づくロジカルシンキング、主査にはチームワークを可能 にする説得力・交渉力、課長には課題遂行のためのリーダーシップ、部長・
支店長・マネジメントには課題探求する管理者のための戦略思考、が求め られ様になった。 このたびの特別講演は、経営実践家として経営実践の第一線で活躍され ている平田様の現状認識、経営課題、経営課題克服への取り組みを知りう る大変貴重な講演となった。今後の当センターの研究活動に是非活かせる ように努力していきたい。 (文責:河野大機)