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水運用の全体最適化に貢献する水環境シミュレーション

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Academic year: 2021

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24 2009.08 「水の世紀」の安全・安心に貢献する日立グループのソリューション Vol.91 No.08 634-635 1 はじめに 水運用とは,過不足なく安定した水供給を行うために, 水源から配水までの複数設備が円滑に稼動するように管理 することである。昨今,水道事業体にとって喫緊の課題と なっているのは,環境負荷の低減を最大化しつつ安定供給 を実現することであり,そのために水運用の全体最適化が 求められている。 水運用は,水量配分を行う運用計画立案と,水圧制御を 行う配水コントロールの二つの機能に大別して考えること ができる。また,低減を図る環境負荷としては,送配水に 要するエネルギーと水質維持に用いる薬品類,および浄水 処理から発生する汚泥が主な対象となる(図1参照)。 ここでは,水運用における環境負荷低減に焦点を絞り, 電力量削減,薬品注入量・発生汚泥量の低減技術と実績, および水運用の全体最適化に貢献する技術について述べる。 2 送配水エネルギーを最適化するシミュレーション技術 水道事業での電力量消費は,国内全体の

0.8

%を占める。 そのうち約

8

割がポンプで消費されており,送配水での省 エネルギー化が重要である。運用計画と配水コントロール の側面から,ポンプ運転の省エネルギー化を実現した事例 とそれを可能にした技術について以下に述べる。 2.1 QRS法によるポンプ運転効率化 山形市上下水道部は,三つの配水区域をもち,そのうち の一つは取水・配水ともにポンプ圧送方式となっている。 そのため,他の二つの配水区域からの融通により,この区 域の浄水場からの配水を最小化し,かつポンプの運転効率 を上げる運用が要求された。総合水運用管理システムの導 入により,同市では需要予測と融通量計算に基づいた取水 計画が策定されるようになり,電力量の削減を実現した。 ここで適用した

QRS

Quasi-optimal Routing System

)法 は,流量計算をグラフ上の領域内に折れ線を描く問題に変 換したもので,配水池貯水を活用して,ポンプ運転を平準 化し,かつ最大効率点での吐出し流量となるように計画で きる簡便で有効な手法である。これまで,数多くの水運用 システムに適用されて実績を上げている(図2参照)。 2.2 管網シミュレーションによる配水圧の最小化 柏市水道部は市内を五つの配水ブロックに分け,各ブ ロックに設置した

6

か所の配水施設で給水している(

1

ブ ロックのみ

2

か所の配水施設)。配水施設はすべてポンプ 圧送によるもので,多くの電力を必要とする。 そのため,これら配水施設の電力負荷低減と各配水区域 の圧力分布を適正化する配水コントロールシステムを平成

8

年度に導入し,今日に至るまで運用実績を積んでいる。 このシステムにおいて,地理情報システムの管路データを 活用した管網シミュレーションによる配水コントロール手 法を適用した(図3参照)。 この制御方式では,地理情報システムから実管網を忠実 に再現するネットワークモデルを得て,オンラインで入手 する流量・圧力の計測値から,リアルタイムで管網シミュ レーションを実施する。これを基に,最適な圧力分布を実 現するポンプ吐出し圧を算出し,制御設定値として自動制

水運用の全体最適化に貢献する

水環境シミュレーション

Water Environment Simulations for Total Optimization of Water Management

栗栖

宏充

Hiromitsu Kurisu

福島

Manabu Fukushima

今井

美希

Miki Imai

足立

進吾

Shingo Adachi

feature article 水運用は,過不足なく日々安定した水供給を実現するための,水道事業者にとって不可欠な中核業務である。 近年の環境保全意識の高まりとともに,安定供給に加えて,環境への配慮も強く求められるようになってきた。 それは,送配水に要するエネルギーの最小化,凝集剤・塩素剤をはじめとする薬品注入量の最適化, 浄水処理から発生する汚泥量の削減など多岐にわたる。 日立グループは,それぞれのプロセスで環境負荷低減に向けた取り組みを行うとともに, 安定給水とのバランスをとり,水運用の全体最適を実現するシミュレーション技術を提供している。

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25 featur e ar ticle 御システムへ送信する。 管路の増設や配水ブロックの変更といった管網構成の変 化に対しても追従して,最適な設定値を算出することが可 能であり,水圧制御を常に適正に保つ。 このシステムの老朽化に伴い,平成

19

年度から

3

か年 継続事業でシステム更新を行い,現在,試運転調整を進め ているところである。さらなる精度向上によって,過剰圧 力に起因する余分な電力消費や漏水量の低減に,より大き く貢献できると考える。 3 水質維持にかかわる環境負荷を低減するシミュレーション技術 浄水処理に使用する薬品や,処理後に発生する汚泥の環 境負荷低減に向けた取り組みを以下に述べる。 配水管網 需要家 圧力 圧力 P 吐出し圧力 設定値 吐出し圧力制御 オンライン管網 シミュレーション 実端末圧力制御 図3 GISと管網シミュレーションによる配水コントロール GISの管路データとオンライン流量・圧力計測値から,管網解析によって配水圧力分布 をリアルタイムでシミュレートできる。算出した最適な吐出し圧力と流量を設定値とし て自動制御する。 取水ポンプ 運転計画 松原浄水場 需要予測 制約条件 : 運用水位, 朝方満水 配水池 配水量(積算値) 初期貯水量 QRS法 運用 貯水幅 需要予測累積+ 運用貯水幅 ポンプ取水量累積曲線 取水量 需要量 融通量 運用 水位幅 時間 時間 時間 融通量計画 (自然流下) (自然流下) (ポンプ圧送) P (融通) (融通) 松原系配水区域 見崎系配水区域 南山形系配水区域 南山形配水場 山形市水系施設配置図 総合水運用管理システム 需要予測累計曲線 見崎浄水場 最上川取水場 P 図2 QRS法を適用した,山形市上下水道部の総合水運用管理システム 融通量および取水ポンプ運転の適切な管理により,電力料金で約45万円/月の削減 (2005年8月と2006年8月の比較)を実現した。 運用計画立案(水量配分) 配水コントロール(水圧制御) 水源 取水場 導水管 送水管 配水池 配水管 P P P 送配水 QRS法 (ポンプ運転計画法) (水運用計画法)多目的最適化法 管網シミュレーションGIS/ 水質維持 配水管網 塩素注入 浄水場 高効率ポンプ運転(電力量の低減) 高濁度回避取水(汚泥量 ・ 薬品量の低減) 配水圧最適化(電力量 ・ 漏水量の低減) 塩素濃度モニタリング(薬品量の低減) 図1 水運用の全体像と環境負荷低減策,そのための要素技術 水運用は,水量配分のための運用計画立案と水圧制御のための配水コントロールに大別できる。これらについて,環境負荷低減を考慮する観点から,送配水エネルギーの最小化, および水質維持のための薬品量の低減が考えられる。

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26 2009.08 「水の世紀」の安全・安心に貢献する日立グループのソリューション Vol.91 No.08 636-637 3.1 高濁度での取水を回避する水運用計画 河川などの表流水を原水とする水源は,降雨の影響を受 けると大きく濁度が上昇するため,浄水処理での凝集剤注 入量も増加させなければならない。高濁時に取水量を抑制 できれば,薬品注入量や浄水汚泥の削減が見込まれ,環境 負荷低減やコスト削減が期待できる。 しかし一方で,濁度変動に関係なく需要はあるため,そ れを満足させたうえで,高濁時の取水を必要最小限にしな ければならない。基本的な対処は,次の二つを組み合わせ た運用と考えられる。一つは,高濁時間帯の前後に多めの 取水を実施する時間差取水,もう一つは,複数系統で補完 する水源間融通である(図4参照)。 時間差取水の流量策定には,前述した

QRS

法を応用す ることで,配水池貯水を活用し,かつ浄水処理への影響を 与えないよう変動量を抑えた計画を立案することができる。 水源間融通も含めた運用には,局所的な調整ではなく全 体最適の考え方が必要となる。融通に要する電力量との兼 ね合いや,供給の安定性が崩れていないかといった複数の 観点を同時に考慮しなければならない。こうした複雑な要 求を満足させる運用立案を可能にする手法については後述 する。 3.2 塩素注入を最小化する残留塩素シミュレーション 塩素消毒は浄水処理の必須プロセスであるが,これに用 いられる塩素剤は,水道における大きな環境負荷項目の一 つである。塩素注入は浄水場内で一括して行われることが 多い。これに対して,配水管網の途中地点でも追加注入す る多点注入方式によって,塩素濃度の平準化と塩素注入量 の低減を図ろうとする考え方がある。 塩素は,管路やポンプといった送配水施設との接触や水 中の有機物との反応によって消費されるため,時間ととも に濃度が低下していく。したがって,浄水場から最も塩素 が届きにくい地点を目標に,塩素注入量を管理する方式が 一般的であり,そのため,浄水場に近い地域では残留塩素 濃度が高めになる。多点注入方式は,浄水場内での初期注 入量を減らして,近い地域の残留塩素濃度を抑え,配水管 網の途中地点で追加塩素を注入して遠い地域の濃度を保持 するものである。ただし,適正な塩素注入量の設定が難し いという問題があった。 残留塩素シミュレーションは,配水管網全体の塩素濃度 分布を推定して可視化するものである(図5参照)。管網 解析から得た流量分布に基づいて算出した到達時間と,塩 素濃度減少モデル式から,各地点の残留塩素濃度を推定す る。安全側に見積もられがちである注入量も,塩素濃度の 正確なモニタリングにより,改善できる可能性は大きい。 4 全体最適を実現する多目的最適化技術 これまでに述べた,ポンプ運転の効率化による省エネル ギー,高濁時の取水抑制による薬品注入量・発生汚泥量の 低減の手法は,それ単独で考えればまちがいなく環境負荷 低減に貢献するものである。 しかし,水運用全体で考えた場合,これらを個別に追求 すればよいということでは必ずしもない。例えば,高濁時 を回避する水融通が電力消費の増加になったり,環境負荷 低減量を最大化すると水源依存率や設備稼動率に大きな偏 りができて給水安定性が低下したりする可能性が出てく る。水運用の大方針を策定する際など,高次の意思決定に おいては必ずこうしたトレードオフを解消する必要性が生 じる。 多目的最適化手法は,こうした課題に応えるために,計 画策定者が対話的にシミュレーションを繰り返しながら, 時間 時間 濁度 / 取水量 濁度 / 取水量 図4 時間差取水と水源間融通による高濁時の取水回避 配水池を活用して,水源濁度が高い時間帯の取水を抑制しつつ需要に応えるとともに, 別水源からの融通によって不足量を補う。 P 残留塩素濃度 残留塩素濃度 塩素注入 (浄水処理) 塩素注入(追加) 残留塩素モニタリング 残留塩素シミュレーション 図5 管網解析を応用した残留塩素シミュレーション 管網解析から得た流量分布と塩素濃度減少モデルから管網全体の濃度分布を推定 する。

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27 featur e ar ticle トレードオフを調整した全体最適を実現する水運用計画立 案を可能にするものである(図6参照)。 複数の目的をよりよくしたいと考えるとき,調整しよう としても,えてして不可能な目標を設定してしまうもので ある。開発したシステムは,入力された目標値からそれぞ れの目的の重視度合いを勘案し,現実的に可能なレベルに 調整して計画策定者に提示することができる。 5 おわりに ここでは,水運用における環境負荷低減に焦点を絞り, 電力量削減,薬品注入量・発生汚泥量の低減技術と実績, および水運用の全体最適化に貢献する技術について述べた。 日立グループは,これらの技術のブラッシュアップと適 用実績の積み重ねにより,水運用への貢献度を上げていく 考えである。さらに,水道と下水道,近隣事業体間の調整 が必要となる流域単位での最適化,環境負荷低減について も,長期的課題として取り組んでいきたいと考える。 1)厚生労働省健康局水道課:水道ビジョン, http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/vision2/index.html 2)厚生労働省健康局水道課:水道事業における環境対策の手引書, http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/jouhou/kankyou/index.html 3)堂上,外:省電力化のための多目的調整型水運用計画立案システム,第58回全 国水道研究発表会講演集(2007) 4)足立,外:環境負荷低減型水運用システム―高濁時のピークカット対策,第60回 全国水道研究発表会講演集(2009) 参考文献 執筆者紹介 栗栖宏充 1988年日立製作所入社,システム開発研究所第一部所属 現在,上下水道監視制御システムの研究開発に従事 博士(情報科学) 電気学会会員,計測自動制御学会会員,環境システム計測制御学 会(EICA)会員 福島学 1988年日立製作所入社,情報制御システム事業部社会制御シス テム設計部所属 現在,上下水道監視制御システムの設計・開発に従事 環境システム計測制御学会(EICA)会員 今井美希 2004年日立製作所入社,情報制御システム事業部社会制御シス テム設計部所属 現在,上下水道監視制御システムの設計・開発に従事 足立進吾 2008年日立製作所入社,システム開発研究所第一部所属 現在,上下水道監視制御システムの研究開発に従事 浄水●●●生量(t) ●●●●電力量(MWh) 変動幅制約 希求水準 希求水準 変動幅制約 取水路 取水路 取水路 融通路 大 11 ,000 最大 最小 10 ,500 取水量 ・ 融通 量( m 3/h ) 流量 ( m 3/h ) 取水量 ・ 融通量(m3/h) 小 大 環境負荷低減 消費電力削減 濁度回避 安定運用 運用計画値 トレードオフ 目標値 設定 改善方向 計画値 確認 計算 多目的最適化 設定された目標値 (計画者の意思) 運用可能な範囲 目的2 目的1 0 満足解の 集合 安定運用 環境負荷低減 小 00 : 100% 対 基 準 比 100% 対 基 準 比 大 大 目標値 設定 計画値 確認 小 小 100% 対 基 準 比 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 15 9 13 17 21 25 29 時間 33 37 41 45 0 2, 500 最大 最小 2, 500 12.0 5,000 25 20 15 10 5 0 100% 100% 4,000 3,000 2,000 1,000 0 6, 000 最大 最小 5, 500 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 1 6 7 11 8 P 9 10 2 3 5 4 0 基準値 基準値 要求値 基準 : 11,000 m3/h 融通管路 基準 : 2,500 m3/h 基準 : 6,000 m3/h 基準値 要求値 12 12 479.7 500 450 350 400 300 250 0 480 480 初期化計画立案 改 善 方 向 システムが自動調整 して提示する計画値 6 7 7 11 図6 多目的最適化手法を適用した水運用計画立案システム 画面で個々の目的に対する目標値を設定する。目標値に対してシステムが自動調整し て提示した計画値を確認し,満足できるまで繰り返す。

参照

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