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支配権の争いと第三者割当増資と株主の不利益 利用統計を見る

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支配権の争いと第三者割当増資と株主の不利益

著者名(日)

楠元 純一郎

雑誌名

東洋法学

53

1

ページ

41-65

発行年

2009-07-01

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000694/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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︽論  説︾

支配権の争いと第三者割当増資と株主の不利益

はじめに

楠 元 純 一

 募集株式発行・募集新株予約権発行が、①法令または定款に違反する場合︵二一〇条一号、二四七条一号︶、② 著しく不公正な方法により行われる場合︵二一〇条二号、二四七条二号︶において、株主が不利益を受けるおそれ があるときは、株主は、株式会社に対し、当該株式の発行の差止めを請求することができる。  各条二号の差止要件は、募集株式・募集新株予約権の発行であることはもちろんであるが、著しく不公正な方法 による発行であること︵不公正発行要件︶と株主が不利益を受けるおそれがあること︵株主不利益要件︶、そして それらの因果関係である。これらの要件を満たして初めて発行の差止が認められるので、そのいずれかを満たさな い場合には認められないということになる。  さて、第三者割当増資による募集株式・募集新株予約権の発行が不公正であるかどうかについては、従来、いわ 41

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ゆる﹁主要目的ルール﹂が裁判例および学説で確立してきている。しかも最近では、本ルールの運用の仕方は従来       ︵1︶ のものと様相が異なり、かなり慎重な検討がなされているようになっている。  主要目的ルールは、新株発行が既存の株主の持株比率を低下させることによる現経営者の支配権維持目的と資金 調達目的に着目し、どちらが優越しているかを判断した上で、支配権維持目的が優越していたと認定される場合に        ︵2︶ 不公正発行に当たるとする基準である。  会社法上、公開会社で譲渡制限株式以外の株式であれば、授権資本制度の枠内で︵三七条、一二二条︶、かつ、 有利発行でないならば、機動的な資金調達を確保するため、取締役会が第三者割当増資をすることは経営判断上の 権限である︵二〇一条一項︶。しかし、支配権が争われているような場合、そもそも取締役の選任権限は株主総会 にあり、現経営陣が株主間の支配権争奪戦に介入することは機関権限分配秩序に反するともいえ、ここに権限と権 限が拮抗するという悩ましい問題があり、この問題を処理する基準として主要目的ルールが使われてきているとも いえるのである。  しかしながら、資金調達目的と支配権維持目的が並存する場合、主要目的ルールは、どちらの目的が優越してい るかを判断する上で、それ以上の具体的価値基準、すなわち、支配権が争われているにもかかわらず、現経営陣が        ︵3︶ あえてそれに介入すべき場合があるのか、あるとすればいかなる場合かについてなんら提示するものではなく、結 局は、個別具体的事案において裁判官の心証を形成させるに足る要件事実を精査しつつ、今後の裁判例の集積を待 つほかない。  ただ、最近、主要目的ルールは一般に、具体的な資金調達目的があれば、支配権維持目的があっても不公正発行       ︵4V とはならないと解釈してきた従来の裁判例、たとえば、ベルシステムニ四事件決定︵東京高決平成一六年八月四 42

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日、金判一二〇一号四頁︶に対して、クオンツ事件決定︵東京地決平成二〇年六月≡二日、金判一二九六号一〇 頁︶が、会社の支配権につき争いがある一定の状況下では、﹁他にこれを合理化できる特段の事情がない限り、本 件新株発行は、既存の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたもの       ︵5︶ であると推認できる旨を示した点で、その実務に与えるインパクトは大きいといわれている。さらに本裁判所は、 持株比率の低下が比較的軽微であっても株主不利益要件に該当する場合があることを示していることから、要件緩       ︵6︶ 和への新展開と見る向きもある。  このように第三者割当増資における不公正発行基準は、裁判例の集積とともに変化しつつあるといえるが、本稿 では、とりわけ、実務に与えるインパクトが大きく、﹁要件緩和への新展開﹂といわれているクオンツ事件決定に       ︵7︶ ついて、それが主要目的ルールに修正を加えるものなのか否か、検討を要すると思われるし、不公正発行基準の今 後の行方を探る上でもそれが必要であると考える。とりわけ、主要目的ルールの運用上、キーワードとなっている ﹁支配権に争いがある場合﹂および﹁株主が不利益を受ける場合﹂とはどういう場合なのか、クオンツ事件決定理 由の疑問点を含めて若干の検討を加えたい。 ︵1︶清水俊彦﹁不公正発行を理由とする第三者割当て増資の差止めをめぐる判例理論の展開︵上︶﹂、金判二二〇九号、二〇〇九 年、四頁。 ︵2︶もっとも、このルールは俗にいわれているように、資金調達目的と支配権維持目的を比較するという単純なものではなく、﹁不 公正発行か否か﹂は、要件事実論にいう規範的要件に当たり、その判断は支配権維持目的を推認させる各種の事実︵評価根拠事 実︶と資金調達その他の正当な目的を推認させる各種の事実︵評価障害事実︶の総合判断であるとの考えもある。野村・中東編  ﹃M&A判例の分析と展開﹄、経済法令研究会、二〇〇七年、五四頁︵大杉謙一︶。 43

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二 裁判例の変遷  不公正発行を理由とする第三者割当増資の差止に関する裁判例は、ほぼ一貫して主要目的ルールを適用してきて いるわけであるが、その運用のあり方は変化してきており、その変化をとらえる上で重要と思われる事例がある。       ︵8︶ ベルシステムニ四事件決定、日本精密事件決定とそれを踏襲したとされるクオンツ事件決定がそれである。  以下では、時系列の事件タイトルごとに、①主文、②支配権争いの有無、③原告主張の不当目的、④会社側主張 の資金調達目的、⑤希釈化度合い、⑥株主が受ける不利益、⑦裁判所の判断枠組みについて簡単に整理する。  ︵1︶ユタカ商会事件判決︵東京地判昭和二七年九月一〇日、判タニ三号三一二頁︶、①却下、②本件債権者である 株主が、取締役の報酬が定款に定められた額を超えて支出されていること、無配当の会社の株式を保有し、その額 面額申請外会社の資本金額を超えることおよび定款所定の営業をせずして貸室を営業としていることにつき取締役 に説明を求めたところ、帳簿書類の呈示も、具体的説明もすることなく直ちに株主総会において採決に入ったが、 結局この議案が否決されたため、債権者側と会社側とが相対立するに至ったことが認定されている。また、債権者 の当初持株比率は四一・六六%であるが、支配権が争われているとまではいえないし、裁判所もその点につきなん ら言及していない、③不当な決算書承認案の通過を容易ならしめる目的での同調者への第三者割当て、④事業再開 の調査準備資金と、会社唯一の財源である建物の価値を増大するための屋根等の修理のため、⑤四一・六六%から 三マニ五%へ、⑥裁判所は、本件新株発行が、株主たる債権者に重大な損害を与える結果となることは自明であ る旨述べているが、具体的な不利益がなんであるかについては言及していない、⑦裁判所は、﹁次期総会において は新株発行をなさずとも決算書類が容易に承認せられることが疎明されるから決算書類の承認を強行するために債 44

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権者側の反対の者に新株を割当てたとは認められず、不当な目的はない﹂旨判示している。株主の不利益要件は満 たされているが、不公正発行要件としての不当目的がない、または、不当目的該当不能である点から、請求を棄却 し、特に資金調達目的の有無の判断、またはそれとの優劣比較をすることなく、不当目的がないことをもって判断 した模様である。  ︵2︶東洋精糖事件決定︵東京地決昭和三三年四月二八日、商事一七五号三六頁︶、①認容、②本件は買収絡み で、かつ、累積投票請求権による取締役選任の問題はあるが、買収者の持株比率からして、現時点において支配権 が争われているケースとはいえないし、裁判所もその点に関して言及してない。しかし、裁判所は、公募増資によ り、公募株を会社が親引け︵発行会社が希望する割当先に優先的に新株を取得させること︶して、株主総会を制御 する絶対多数︵四分の三以上︶の株数を確保し、申請人等の崇高なる意図を挫折せしめて永劫に自己の保身を図ろ うとするものと指摘しているところから、将来の支配権争いの可能性の芽を摘んだ点を問題にはしているようであ る、③横井英樹が東急グループとともに株式を大量に取得したことに対する買占め対策目的︵横井氏の持株比率低 下目的︶、④本社ビル建設、設備改善、営業倉庫の建設計画のため、⑤公募増資により、申請人の持株比率は 二五%をはるかに超える保有率から二五%以下に、そして、株主総会を制御する絶対多数︵四分の三以上︶の出 現、⑥取締役選任についての累積投票請求権の喪失および公募株式を申込む機会の剥奪で、申請人の蒙る不利益は 深刻甚大、⑦本件は第三者割当増資ではなく、公募増資の事案であるが、申請人が公募株式を申込む機会を剥奪し たケースであるがゆえ、事実上、第三者割当増資のケースに準じて捉えることはできよう。裁判所は、会社に差し 迫った資金需要がないこと、および、本件公募増資の目的が買収阻止︵支配権維持︶であること、申請人の受ける 不利益の存在から、請求を認容した。 45

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 ︵3︶吉田工業事件決定︵東京地決昭和三四年八月二四日、商事一五四号二四頁︶、①認容、②支配権の争いな し、③株主割当てでもよいにもかかわらず、申請人らを除外する目的、④資金調達目的の存在については会社側も 主張していない、⑤株主に割り当てる株数の五倍もの数量を第三者︵役員および従業員︶に割当て、⑥株主の新株 引受権の排除、⑦裁判所は、申請人の受ける不利益が具体的になんであるかについて言及してはないが、第三者割 当株数が非常に多いことを重視したものと思われる。また、資金調達目的がないこと、株主割当でもよいにもかか わらず、あえて第三者割当てを選択したその合理性も問題にしているようである。  ︵4︶小林百貨店事件判決︵新潟地判昭和四二年二月壬二日、判時四九三号五三頁、商事四〇七号一三頁︶、①却 下、②支配権の争いなし、③株主による累積投票請求等による適法な少数支配を封ずる目的、④百貨店における冷 暖房設備完備費用調達目的、⑤取締役の累積投票に必要な発行済株式総数の四分の一以上からそれ以下へ、⑥累積 投票権の剥奪、⑦裁判所は、﹁真に資金調達の必要がある以上、その調達の方法は取締役の裁量に委ねられている ものと解するのが相当であるから、本件新株発行が他の資金調達の方法に比して著しく不利であるとか、新株発行 後短期間内に債務者会社が引受先から買戻す計画があるとか、或いは新株割当てが形式に過ぎず引受先に対し債務 者会社が払込金について資金的援助を与えるとかというようなその合理性を疑わしめる特段の事由が認められない 限り、少数支配に対する排斥の意図とは一応無関係になされたものと認めるのが相当﹂と判示した。本件は、資金 調達目的さえ認定されれば、不公正発行には当たらないとするのではなく、第三者割当方式を選択した合理性にも 着目している点で注目される。  ︵5︶第一紡績事件決定︵大阪地決昭和四八年一月三一日、金判三五五号一〇頁︶、①却下、②支配権の争いな し、③申請人株主の少数株主権を排斥する目的、④工場移転等の資金の調達目的、⑤二・五%から八・六%へ、 46

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⑥帳簿閲覧請求権をはじめとする少数株主権の剥奪、⑦裁判所は、﹁資金調達という合理的な理由が存したと認め られる以上、株主の少数株主権を排斥する企図が多少なりと存したとしても、不公正な方法によるものということ ができない﹂旨判示した。  ︵6︶恵美寿織物事件判決︵大阪地堺支判昭和四八年二月二九日、判時七三一号八五頁、判タ三〇四号二四九 頁︶、①却下、②支配権の争いあり、③支配権剥奪目的、④新製品開発その他の設備の必要性、更正計画達成への 感謝のため従業員・取引先に株式を所有させるための公募増資、⑤五丁二三%から二七%へ、⑥支配権喪失、⑦ 裁判所は、﹁不当な目的を達成するため新株を発行する場合と言うためには、少なくとも、取締役会が新株発行を 行うに至った種々の動機のうち、不当な目的を達成する動機が、他の動機より優越し、それが主要な主観的要素で あると認められる場合をいうものであり、差止請求においては、その程度の疎明がなされることが必要かつ十分で ある﹂と判示した。本件から、正当目的と不当目的の優越を比較検討する主要目的ルールの枠組が明確に示される ようになったのであるが、この段階では、支配権の争いのあるケースであるにもかかわらず、目的の優越につき債 権者側に疎明・立証貢任を課しており、また、そのような疎明・立証は事実上不可能に近いことから、債権者に とって厳しすぎる判断となっているようである。  ︵7︶弥栄工業事件決定︵東京地決昭和五二年八月三〇日、金判五三三号二二頁︶、①却下、②支配権の争いあ り、③支配権剥奪目的、④自動車機械産業界の不況の影響を受け、新商品の開拓を迫られて大口債権者および取引 先へ第三者割当て、⑤創業者とその支持者を含めて五一・七%からその半分に低下︵発行済株式総数一〇〇万株、 新株一〇〇万株︶、⑥支配権剥奪、累積投票請求権剥奪、⑦裁判所は、﹁本件新株発行が債権者らの債務会社に対す る経営参画を排除し、他派による会社支配を確立することを唯一のあるいは主たる目的としてなされたと推認する 47

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ことは困難であり、資金調達の必要が特にないこと、および株式引受人が議決権の行使を現経営陣に白紙委任する のが通常の形態であることについてはいずれもこれを認めるに足りる疎明資料はない﹂旨判示し、本件も支配権に 争いがある事例であるにもかかわらず、資金調達目的が認定されるだけで、不公正発行には当たらないとされてい る点で、債権者にとって厳しすぎる判断枠組みとなっている。  ︵8︶タクマ事件決定︵大阪地決昭和六二年一一月一八日、判時一二九〇号一四四頁、判タ六七八号一七八頁︶、 ①却下、②本件は買占めのケースであり、現経営陣を支持する株主は五〇・四六%にすぎなかったことから、支配 権の争いがあるといえる、③持株比率低下目的、④投資計画の存在と低い自己資本比率を引き上げる目的で、増資 取扱内規・自主ルールの条件を満たさないことから公募増資ができず第三者割当てを行った、⑤三二%から 二九・九三%へ、⑥株主が受ける不利益についてはとくに言及なし、⑦裁判所は、﹁被申請人が申請人の株式保有 を嫌って本件新株を発行したのではないかとの疑いを全く否定できないにせよ、それがもっぱら持株比率を低下さ せる意図でなされたとものとはいえず、その意図が多少なりとも存していたとしても、本件新株発行につき合理的 理由の存する以上、著しく不公正な方法とはいえない﹂旨判示し、資金調達目的の存在が認定されれば、そのまま 発行を正当化しているようである。  ︵9︶宮入バルブ第一事件決定︵東京地決昭和六三年一二月二日、金判八二二号一五頁、判時一三〇二号一四六 頁︶、①却下、②支配権の争いあり、③持株比率低下目的、④設備投資および金融機関に対する債務の弁済に必要 な資金を調達するため、債務者と人間関係を有している会社か、債務者の取引先への第三者割当て、⑤過半数以上 から過半数以下へ、⑥議決権低下による支配権奪取、⑦裁判所は、﹁資金調達の必要性があるから、債権者らの持 株式数が発行済株式総数の過半数に達しないこととなったとしても、本件新株の発行が著しく不公正とはいえな 48

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い﹂旨判示し、ここでも資金調達目的の存在が認定されれば、そのまま発行を正当化していゐようである。  ︵10︶忠実屋・いなげや事件決定︵東京地決平成元年七月二五日、金判八二六号二頁、判時一一三七号二八 頁、判タ七〇四号八四頁、金法一≡二〇号三〇頁、商事一一九〇号九三頁︶、①認容、②支配権の争いあり、③特 定株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持する目的、④業務・資本提携、株式相互持合いのためといっ た広義の資金調達目的であり、いわゆる狭義の資金調達目的ではない、⑤Y1とY2が相互に一九・五%を発行し 株式を持ち合うことにより、申請人の持株比率は三三・三四%から二六・八一%へ、⑥議決権低下、⑦裁判所は、 ﹁支配権につき争いがある場合に、従来の株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株が発行され、それ が第三者に割り当てられる場合、その新株発行が特定の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持するこ とを主要な目的としてされたものであるときは、その新株発行は不公正発行にあたり、また、新株発行の主要な目 的が右のところにあるとはいえない場合であっても、その新株発行により特定の株主の持株比率が著しく低下され ることを認識しつつ新株発行がされた場合は、その新株発行を正当化させるだけの合理的な理由がない限り、その 新株発行もまた不公正発行にあたる﹂旨判示した。本決定は、後段部分で、新株発行を正当化させる合理的理由の 疎明貢任を発行会社に求めているとも受け取れる点で、従来の裁判例とは異なっており、画期的であると思われる が、その後の一連の裁判例においては踏襲されてはいない。  ︵11︶宮入バルブ第二事件決定︵東京地決平成元年九月五日、金判八二八号二二頁、判時二一三三号四八頁、判 タ七一一号二五六頁、商事二九三号四一頁︶、①却下、②支配権の争いなし、③持株比率の低下、④買収や設備 投資のため、無配のため公募増資ができず、金利払いが不要であることから第三者割当、⑤四七%から四〇%へ、 ⑥持株比率低下、⑦裁判所は、﹁本件新株発行の主要な目的が申請人らの持株比率を低下させ現経営者の支配権を 49

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維持することにあるとまでは断定できず、むしろ、本件新株発行の主要目的は、資金調達のためのものといわざる を得ないし、第三者割当の方法についてもそれが著しく合理性を欠くとすることはできない﹂旨判示した。本決定 は、資金調達目的が認定されれば、そのまま新株発行を正当化してきた従来型の判断枠組みに逆戻りしているが、 第三者割当の方法に合理性があるかどうかの点に着目している点は目新しい。  ︵12︶ゼネラル第二事件決定︵大阪地決平成二年七月一二日、金判八五一号四四頁、判時一三六四号一〇〇頁、 金法二一六五号二八頁︶、①却下、②支配権の争いなし、③持株比率の低下目的、④本社工場の移転等の事業計画 および資本提携のため、⑤X1︵約二六%から二一・九%へ︶、X2︵約四%から三・四三八%へ︶、⑥持株比率低 下、⑦裁判所は、﹁本件新株の発行は、被申請人の具体的な資金調達の必要に基づくものであり、その決定過程も 特に不自然、不合理ではない。ただ、業務提携の具体的な内容、その将来性、それに対する経営判断等について は、不明の部分もあるが、これらは発行価額が公正なものである以上、原則として被申請人の取締役会の判断に委 ねられている﹂旨判示した。本決定も、資金調達目的が認定されれば、そのまま新株発行を正当化してきた従来型 の判断枠組みと同様である。  ︵13︶明星自動車事件判決︵京都地判平成四年八月五日、判時一四四〇号一二九頁︶、①取締役の責任追及の事案 で損害賠償請求認容、②支配権の争いがあった事実が認定されている、③支配株主の取締役たる地位に基づく会社 支配権確立目的、④自己資本の拡充、財務体質の改善、業務提携目的、⑤発行済株式一〇万株に対し二万株の第三 者割当て、⑥持株比率の低下と会社支配力の低下、⑦裁判所は、﹁株主の間で支配権争奪がある場合に、取締役は 厳に中立を守り、これに介入すべきではない。支配権争奪への介入を主要な目的とする新株発行は、不公正な方法 によって新株を発行するものである﹂と判示した。本判決は、発行差止めの事案ではないが、株主問で支配権の争 50

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いがある場合に取締役はそれに介入してはならないことを明確に示している点では画期的である。  ︵14︶ニッポン放送第一事件決定︵東京地決平成六年三月二八日、判時一四九六号一二三頁、判タ八七二号 二七六頁、資料版商事一二二号一三四頁︶、①却下、②支配権の争いなし、③債権者の持株比率と発言力を低下さ せる目的、④スタジオ移転に伴う資金不足の調達、⑤一三・一%から一〇・九%へ、⑥持株比率の低下、だが、支 配権が移動することはなく、依然として債権者が筆頭株主である状態にも変わりがなく、また、少数株主権行使の ための持株要件を欠くに至るものでもない、⑦裁判所は、﹁本件新株発行は資金調達の必要性が認められ、また、 債権者の受ける不利益は単なる持株比率の低下にとどまるから著しく不公正ではない﹂と判示した。本件も資金調 達目的が認定されれば、そのまま新株発行を正当化してきた従来型の判断枠組みと同様であるが、持株比率の単な る低下については株主の不利益要件事実ではないとした点は目新しい。  ︵15︶ネミック・ラムダ事件決定︵東京地決平成一〇年六月二日、資料版商事一七三号一九二頁︶、①認容、② 支配権の争いあり、③債権者らの支配権を低下させる目的、支配権獲得目的、④新規事業計画遂行のための資金調 達、⑤五〇・六二%から三八・四%へ、⑥支配権喪失、⑦裁判所は、﹁新株発行の必要性を裏付けるはずの新規事 業計画は、支配権争奪という真の発行目的を隠蔽するためにのみ作られた欺購的かつ矛盾した事業計画であるか ら、著しく不公正である﹂と判示した。本件は、資金調達に具体性および現実性が認められないとして、資金調達 の必要性がないにもかかわらず、支配権剥奪目的があると認定したもの。資金調達目的と支配権剥奪目的を比較検 討している。  ︵16Vイチヤ事件決定︵高知地決平成一六年六月一日、資料版商事二五一号二一六頁、高知地決平成一六年七月 八日、資料版商事二五一号二二〇頁、高松高決平成一六年八月≡二日、資料版商事二五一号二二六頁︶、①却下、 51

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②支配権の争いあり、③債権者の債務者に対する経営支配力を低減させ、新経営体制による経営支配力を維持・獲 得する目的、④債務者の事業資金および運転資金の各調達を図り、財務体質の改善を図ることを目的、⑤二%から 一%以下へ、⑥支配株主の地位の剥奪、⑦本件地裁は、﹁本件発行手続の主たる目的が、債権者の債務者に対する 経営支配力を低減させ、新経営体制による経営支配力を維持、獲得することにあり、本件発行手続が著しく不公正 な方法によるものであることを一応認めるに足りる疎明はある﹂と判示し、請求を認容した。ところが、保全異議 審において地裁は、﹁債務者およびその関係者を一団として捉えると債務者の有力な株主層であること、資金調達 の方法として新株予約権の発行によっており、新株発行という直裁的な資金調達方法を採用していないことから、 債権者の排除ないし支配力減殺を主要な目的として、本件新株予約権の発行に及んだという見方も強ち否定できな いとしながらも、経営状態の悪化や具体的な資金調達の需要が認められる本件においては、目的が資金調達にある 以上、特段の事情がない限り、新株予約権の発行という手法を捉えて不公正な方法と推認するのは妥当ではなく、 この点は取締役会の経営判断を尊重すべきである﹂旨判示し、申請を却下し、高裁も抗告を棄却している。  ︵17︶ベルシステムニ四事件決定︵東京地決平成一六年七月三〇日、金判一二〇一号九頁、判時一八七四号 一四三頁、資料版商事二四五号一三〇頁、東京高決平成一六年八月四日、金判一二〇一号四頁、金法一七三三号 九二頁、資料版商事二四五号一三七頁︶、①却下、②債権者と債務者経営陣の一部との間で債務者の経営方針や役 員構成を巡っての確執があったことは認定されており、支配権の争いがあったといえる、③持株比率を低下させ、

自らの支配権を維持する意図、④事業計画︵第三者企業グループとの業務提携︶による資金調達目的、⑤

三九・二%から一九・O%へ、⑥筆頭株主の地位喪失、⑦本件地裁は、﹁﹁著しく不公正なる方法﹂による新株発行 とは、不当な目的を達成する手段として新株発行が利用される場合をいうと解されるところ、株式会社においてそ 52

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の支配権につき争いがあり、従来の株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株が発行され、それが第三 者に割り当てられる場合に、その新株発行が特定の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを 主要な目的としてされたものであるときは、不当な目的を達成する手段として新株発行が利用される場合にあたる というべきである﹂と判示し、本件高裁は、﹁本事業計画のために本件新株発行による資金調達の必要性があり、 本件事業計画にも合理性が認められる本件においては、持株比率を低下させて、もって自らの支配権を維持する意 図を有していたとしても、その意図するところが会社の発展や業績向上という正当な意図に優越するものであった とまで認めることは難しく、著しく不公正とはいえない﹂旨判示した。本件は、経営陣の支配維持目的が資金調達 の必要などの他の目的に比べて優越して存在する場合にのみ著しく不公正とし、支配権維持目的が優越しているこ との疎明・立証貢任を債権者に課している点で債権者に厳しい判断枠組みとなっている。  ︵18︶ダイソー事件決定︵大阪地決平成一六年九月二七日、金判一二〇四号六頁︶、①却下、②支配権の争いな し、③債権者の持株比率の低下と現経営者の支配権確保目的、④高付加価値事業の拡大強化等への積極的な設備投 資とともに財務体質の改善を実現するための資金調達、⑤一〇・六%から八・八%ないし八・九%へ、⑥株主の不 利益はとくに認められていない、⑦裁判所は、﹁債権者は筆頭株主の地位を失うことはなく、各種の少数株主権の うち解散判決請求権を除く少数株主権を行使しうる地位を失うこともないのであり、他方、債務者は資金調達が必 要であることを現に判断した上で本件新株発行を決定しており、本件新株発行の結果、債務者を支持する株主グ ループが構成されて債務者の経営陣の支配権が確保されることもないのであるから、債務者が不当な目的達成する 手段として本件新株発行を利用したとは認められない﹂と判示した。本件は、資金調達目的が認定されればそのま ま新株発行を正当化する従来どおりの判断枠組みであるといえる。 53

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 ︵19︶ニッポン放送第二事件決定︵東京地決平成一七年三月一一日、金判一二一三号二頁、判タ一一七三号 一四三頁、商事一七二六号四七頁、東京地決平成一七年三月一六日、金判一二一三号二一頁、判タ一一七三号 一四〇頁、東京高決平成一七年三月二三日、金判一二一四号六頁、判時一八九九号五六頁、判タ一一七三号一二五 頁、商事一七二八号四一頁︶、①認容、②支配権の争いあり、③特定株主の持株比率を低下させ、現経営陣の経営 支配権を維持する目的、④債務者が賛同を表明したフジテレビによる債務者の子会社化という目的を達成する手段 として、払込金は臨海副都心スタジオプロジェクトヘの整備資金に充当するための資金調達目的、⑤約四二%から 約一七%へ、⑥持株比率の低下、⑦本件高裁は、﹁現に経営支配権争いが生じている場面において、経営支配権の 維持・確保を目的とした新株予約権の発行がされた場合には、原則として、不公正な発行として差止請求が認めら れるべきであるが、株主全体の利益保護の観点から当該新株予約権発行を正当化する特段の事情があること、具体 的には、敵対的買収者が真摯に合理的な経営を目指すものではなく、敵対的買収者による支配権取得が会社に回復 し難い損害をもたらす事情があることを会社が疎明、立証した場合には、会社の経営支配権の帰属に影響を及ぼす ような新株予約権の発行を差し止めることはできない﹂と判示した。本件は、支配権維持目的が認定されれば原則 不公正であるとしつつ、例外的に特段の事情がある場合には新株発行が正当化されることを示した点で目新しい。  ︵20︶名村造船所事件決定︵大阪地決平成一八年二一月一三日、金判一二五九号四〇頁、判時一九六七号二二九 頁、判タニ⋮四号一七一頁︶、①却下、②支配権の争いなし、③持株比率の低下、④橋梁製造のための鉄構工場 を船体ブロック製造用工場へ転用するための設備投資計画のための資金調達、⑤約二二.一二%から約二〇. 五六%へ、⑥株主の不利益はとくに認められていない、⑦裁判所は、﹁本件新株発行によって、確かに債権者の持 株比率は低下するものの、その低下率︵マ六五%︶が、債務者の現経営陣にとってあえて低下を意図させるほど 54

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有意なものであることをうかがわせる事情は特段なく、また、債権者が筆頭株主であり、依然二〇%を超す持株比 率を有し続けることに変わりはない。本件新株発行による資金調達の必要性や、現経営陣による経営権維持目的の 存否及びその程度に照らすと、本件新株発行が現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたもので あるとは認められない﹂と判示した。  ︵21︶テーデーエフ事件決定︵仙台地決平成一九年六月一日、金判一二七〇号六三頁︶、①却下、②支配権の争い なし、③第三者割当て引受先の持株比率は⋮二%を超えることになるので公開買付けの手続きを踏むべきところ、 持株比率の低下目的、④生産能力の増強に必要な設備投資、⑤発行済株式総数一三〇五万七九二八株に対し、第三 者である筆頭株主︵保有株式三〇七万二三三二株︶に二八二万八○○○株を割当て、⑥持株比率の低下、⑦裁判所 は、﹁著しく不公正な方法により行われる場合とは、資金調達の必要性がないにもかかわらず、会社支配権の維持 又は争奪を目的として新株発行が行われる場合や、資金調達の必要性はあるが、会社支配権の維持または争奪を主 要な目的として新株発行が行われる場合などがこれに該当する。債務者に本件設備投資に係る資金調達の必要性が あることは明らかであるが、債務者が調達を必要としている資金の額、債務者の自己資本比率の状況、債務者株式 の出来高の状況、資金調達を必要とするに至った経緯、債務者と割当先の第三者の関係等を考慮すると、債務者が 当該資金調達を本件新株発行により行うことは相応の理由がある﹂と判示した。  ︵22︶自動車部品工業事件決定︵横浜地決平成一九年六月四日、金判一二七〇号六七頁︶、①却下、②支配権の争 いなし、③本件新株発行が資金調達を主要な目的とするものでないこと、④産業用エンジンの増産需要に対応した 生産能力増強のための急激な設備投資の必要と財務体質の強化、さらには販売先とのパートナーシップの強化目 的、⑤不明、⑥不明、⑦裁判所は、﹁本件新株発行の目的が主として設備投資のための資金調達を目的とするもの 55

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で、会社支配権の維持や少数株主権の剥奪等にあるとはいえず、第三者割当先の企業についても不合理な選定とも いえない﹂と判示した。  ︵23︶日本精密事件決定︵さいたま地決平成一九年六月二二日、金判一二七〇号五五頁︶、①認容、②債務者の大 株主と債権者との間で、債務者の取締役の選任等の支配権に関して争いがあり、また、債権者と債務者の現在の経 営陣との問でも買収等に関して確執があった、③持株比率の低下とグループで有する支配権の剥奪目的、④新商品 の開発、人材の育成、借入金の返済等の資金調達目的、⑤発行済株式総数の五〇%に相当する新株の第三者割当て により、一七・七〇%から一一・六四%へ、⑥持株比率の低下、⑦裁判所は、﹁支配権に関して争いがある場合、 本件新株発行は、特段の資金調達の必要性が認められない限り、現在の経営陣が自らの支配権を確保することを主 要な目的として発行するものというべきである。本件新株発行による資金調達の必要性自体直ちに信用しがたい 上、他に必要性が明らかでないことに多額の資金を使用していることからすれば、債務者の主張および立証をもっ て、本件新株発行による資金調達の必要性があり、それが本件新株発行の主要な目的と認めることはできない﹂旨 判示した。本件は、支配権に争いがある場合の第三者割当てを原則として不公正であるとし、それを覆すための特 段の資金調達の必要性については、会社側に疎明・立証責任があることを示している点で画期的である。  ︵24︶オートバックス事件決定︵東京地決平成一九年一一月一二日、金判=天一号五二頁︶、①却下、②支配権 に争いなし、③持株比率の低下目的、④M&A事業のための資金調達目的、⑤Xの持株比率は二・四%、割当後、 第三者の持株比率は三六・四三%へ、⑥新株予約権者がすべて権利行使をした場合、発行済株式総数の三六・ 四三%を保有することになるため、既存株主の持株比率は相当程度低下すること、⑦裁判所は、﹁資金調達の必要 性が認められるのでX主張には理由がない﹂旨判示した。本件は新株予約権付社債発行に関する事件である。 56

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東洋法学第53巻第1号(2009年7月)  ︵25︶クオンツ事件決定︵東京地決平成二〇年六月≡二日、金判一二九六号一〇頁︶、①認容、②支配権の争いあ り、③持株比率の低下と支配権維持目的、④社債償還のための資金調達目的、⑤丁七一%から一・四三%へ、事 実上の多数派の出現︵二〇・二一%︶、⑥看過できない持株比率の低下、⑦裁判所は、﹁これまで、社債償還計画に 沿って保有資産を売却したり、一部弁済したりしたこともなく、具体的な償還計画もない。債務者の償還計画上、 本件社債のうち三〇億円の繰上償還日は平成二〇年七月二八日であるにもかかわらず、なぜ本件総会の二日前であ る同年六月二五日を本件新株発行の払込期日とし、かつ、割当先に対して本件総会における議決権を付与するのか について、合理的な理由を説明し得ていない。会社の支配権につき争いがある状況下で、既存株主の持株比率に重 大な影響を及ぼすような数の新株が発行され、それが第三者に割り当てられる場合であって、かつ、それが、成否 の見通しが必ずしもつかない反対派取締役の解任が議案となっている株主総会の直前に行われ、しかも、あらかじ め反対派取締役を解任する旨の会社提案に賛成することを表明している割当先に議決権を付与することは、他にこ れを合理化できる特段の事情のない限り、既存の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主 要な目的としてされたものであると推認できる﹂旨判示した。本件は、日本精密事件決定を踏襲したものである。  ︵26︶昭和ゴム事件決定︵千葉地松戸支決平成二〇年六月二六日、金判二一九八号六四頁︶、①却下、②支配権 の争いなし、③持株比率の低下目的、④投資事業等への進出のための資金調達目的、⑤約八・三四%から約 五・三五%へ、⑥特になし、⑦裁判所は、﹁株式会社においてその支配権につき争いがあり、従来の株主の持株比 率に重大な影響を及ぼすような株の新株が発行され、それが第三者に割り当てられる場合に、その新株発行が特定 の株主の持株比率を低下させ、現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであるときは、不 当な目的を達成する手段として新株発行が利用される場合に当たるというべきである。本件新株発行による資金調 57

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達の必要性が高いのに対して、株主構成を変更し、現経営陣による経営を維持する目的があったとは認められない のであるから、本件新株発行が現経営陣の支配権を維持することを主要な目的としてなされたものであるとは認め られない﹂旨判示した。本件は従来の主要目的ルールに沿って判断している。  ︵27︶オープンループ第二事件決定︵札幌地決平成二〇年二月二日、金判一三〇七号四四頁︶、①却下、②支 配権の争いあり、③持株比率を低下させ、現経営者が支配権を維持する目的、④中国事業計画を実施するための資 金および新規支店を開設するための資金を調達目的、⑤X1︵二三・二五%から一四%へ︶、X2︵一一・一四 %から六・七一%へ︶、結局、Xらの持株比率は、三四・三九%から二〇・七一%へ、割当先の持株比率は 三九・七七%の筆頭株主に、⑥持株比率の低下、⑦裁判所は、﹁債務者において、本件新株等の発行の約六か月前 から事業計画を検討するようになり、発行の約四か月前は、廃業先の従業員を受け入れて、その事業を承継するた めに新規支店および部門を開設する旨決定したこと、これらの事業のために前回、第一次新株発行を決定したが、 これによる資金調達ができなかったために本件新株等の発行を決定したことが認められることから、本件新株の発 行が債務者の現経営者の支配権を維持することを主要な目的とするものであったことまでは認めることはできな い﹂と判示した。  ︵28︶丸八証券事件決定︵名古屋地決平成二〇年一一月一九日、金判一三〇九号二〇頁︶、①却下、②支配権の争 いなし、③持株比率の低下目的、④自己資本増強のため、割当先との業務提携を進める上での資金調達目的、⑤ 一〇・九一%から七・二八%へ、⑥持株比率の低下、⑦﹁資金調達の必要性が認められるので支配権維持が主な目 的ではなかった。﹂ 58

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東洋法学第53巻第1号(2009年7月) ︵3︶裁判所は支配権争いに関して、裁判例の外に参照できる何らかの価値判断がない場合に自ら価値判断を示してこなかったとさ れる。松中学﹁主要目的ルールの検討︵二・完︶1主要目的ルールとは何か、そしてなぜ裁判所はそれを採用したのかー﹂阪大法 学五八巻一号、二〇〇八年、一四六頁。 ︵4︶その傾向を指摘するものとして、江頭憲治郎﹃株式会社法︵第二版︶﹄有斐閣、二〇〇八年、六九一頁。なお、﹁実務界には  ︵中略︶﹁敵対的買収の対象となっても、事業計画・資金使途さえ整えて第三者割当てを行えば、比較的容易に防衛を図ることがで きる﹂と論じる向きもある﹂とされる。野村・中東編﹃M&A判例の分析と展開﹄、経済法令研究会、二〇〇七年、五五頁︵大杉 謙一︶。 ︵5︶大塚和成﹁買収防衛策としての第三者割当て増資﹂、金判一二九六号、二〇〇八年、一頁。 ︵6︶清水・前掲注︵1︶、四頁。同﹁判批﹂銀行法務二一、六九一号、二〇〇八年、六六頁。 ︵7︶黒沼悦郎﹁商法判例の動き﹂ジュリ一三七六号、二〇〇九年、一〇一頁。 ︵8︶ベルシステムニ四事件決定は、資金調達の必要性が認定されれば、支配権維持目的があったとしても不公正発行とはならない と判示したのに対し、日本精密事件決定は、会社支配権に争いがあるにもかかわらず、総会基準日後に新株発行を行い、当該新株  について議決権行使の付与を認めた場合には、他にこれを合理化できる特段の事情がない限り、原則として不公正発行となると判 断し、クオンツ事件決定はこの決定を踏襲したものと考えられている。渡邉弘志﹁問われる第三者割当増資の合理性 修正された 主要目的ルール﹂ビジネス法務九巻一号、二〇〇九年、二〇頁。結局、支配権の争いがある場合に第三者割当増資をすれば原則不 公正となり、それを覆すには、会社側が﹁他にこれを合理化できる特段の事情﹂についての疎明・立証しなければならないことに なったのである。もっとも、このような立証責任の転換論は従来、学説でも展開されていたところである。すなわち、﹁公開会社  であっても実態は閉鎖型のタイプの会社において、とりわけ多数派株主の過半数支配を失わせるような募集株式の発行等が行われ  る場合には、不当目的達成動機が強く推定されるべき﹂とするものとして、洲崎博史﹁不公正な新株発行とその規制︵二・完︶民 商九四巻六号、一九八六年、七二九頁。なお、﹁会社の権限分配上、取締役は会社支配の所在に関し決定権限を有しないから、支 配の帰属をめぐる争いのある時期に第三者割当てによる募集株式の発行等を行うことは、原則として著しく不公正な方法に当た 59

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る﹂とするものとして、川浜昇﹁株式会社の支配争奪と取締役の行動の規制︵三・完︶﹂民商九五巻四号、一九八七年、四九六 頁。その他、森本滋﹁第三者割当と支配権の変更﹂商事一一九一号、一九八九年、一七頁。ところで、ベルシステムニ四事件決定 とクオンツ事件決定のこのような結論の差について、前者は、業務提携に基づく事業計画に実態があり、その事業計画に合理性が あると認定されているのに対し、後者は、本件新株発行が決議された時点で、社債の具体的な償還計画があったというには程遠い 状況であったと認定されていることを理由に、請求株主の立証負担に起因したものか疑わしいとする意見もある。仮屋広郷﹁判 批﹂ジュリ一三七六号、二〇〇九年、一一三頁。 三 クオンツ事件決定  ︵1︶不公正発行要件における﹁支配権の争い﹂  クオンツ事件決定において、裁判所は、﹁会社の支配権につき争いがある状況下で、既存の株主の持株比率に重 大な影響を及ぼすような数の新株が発行され、それが第三者に割り当てられる場合であって、かつ、それが、成否 の見通しが必ずしもつかない反対派取締役の解任が議案となっている株主総会の直前に行われ、しかも、予め反対 派取締役を解任する旨の会社提案に賛成することを表明している割当先に会社法一二四条四項に基づき議決権を付 与することを予定しているというのであるから、他にこれを合理化できる特段の事情がない限り、本件新株発行 は、既存の株主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであると推 認できるというべきである﹂と述べている。  本裁判所は、会社の支配権につき争いがあるときに、従来示されていなかった支配権確保を疑わせる事情を明確       ︵9︶ に判示した点が重要であるとされている日本精密事件決定の判断枠組みを採用したものと思われる。しかしなが 60

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ら、そもそも日本精密事件における支配権の争いは株主間の争いであり、一連の裁判例を見ても、支配権の争い は、①株主間の争いか、②株主と現経営者との争いであって、そこには必ず株主が絡んでおり、取締役間の争いに つき支配権の争いがあるとした事例はこれまで一つも存在しない。本件は会社経営をめぐって取締役間で対立が続 いている中で、反対派取締役を解任する旨の会社提案に賛成することを表明している第三者に新株の割当がなされ た事例であるところ、この場合にも、会社の支配権につき争いがあることが認定されているのである。  この点、本裁判所は、取締役の対立を、主要目的ルールを使って株主間の争いにすり替えているとはいえないだ ろうか。本件のように取締役間のコップの中の嵐を、支配権に争いのあるケースであるといってよいのか疑問であ る。そもそも、主要目的ルールは、支配権が争われているような場合、現経営陣が株主との、または株主間の支配 権争奪戦に介入することが機関権限分配秩序に反するのではないかという問題を処理する基準として使われてきて いるはずである。しかも、本件は株主構成からして、支配権を既に確保しているか、あるいは近い将来それを獲得 できそうな大株主は存在せず、筆頭株主でも持株比率は三・七八パーセントにすぎず、本件債権者にいたっては、 その持株比率はもともとわずか一・七一パーセントである。よって、疎明・立証貢任の転換要因ともなりうる﹁支 配権の争い﹂があったとする本裁判所の事実認定には誤りがあったといえるのではなかろうか。  もっとも、裁判所は、本件新株発行により、持株比率二〇・二一パーセントの事実上の多数派が出現することを 重視しているのかもしれない。このこととの整合性を図るには、主要目的ルールに﹁支配権維持目的﹂があるが、 この解釈に、﹁事実上の多数派の出現﹂を取り込めばよいだけのことなのかもしれない。過去の裁判例でも、東洋 製糖事件決定のように、買収者の持株比率からして支配権に争いがなかったとはいえ、公募増資によって公募株を 会社が親引けして、四分の三以上の持株比率を確保し、絶対多数が出現した場合に差止請求を認容したケースがあ 61

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り参考になろう。  本件事実にあるように債務者の前回の定時株主総会においても、出席株主は、委任状提出株主を含めても議決権 べースで四一パーセント程度であったというのであるから、この事実上の多数派の出現は、決議の行方を左右する 可能性は高いといえ、仮に本件において疎明・立証責任を転換させる﹁支配権の争い﹂がないとしても、株主の疎 明・立証責任において、不公正発行要件が満たされる可能性はあろう。  ︵2︶株主不利益要件  クオンツ事件決定は、株主不利益要件についても、﹁既存の株主の持分比率が低下しても、それによって直ちに 株主が不利益を受けるということはできない﹂が、﹁会社の支配権につき争いがあり、既存の株主の持株比率に重 大な影響を及ぼすような数の新株が発行され、それが第三者に割り当てられる場合に、その新株の発行が既存の株 主の持株比率を低下させ現経営者の支配権を維持することを主要な目的としてされたものと認められ、従前の株主 構成と比較して、既存の株主に看過できない持分比率の低下があると認められるとき﹂を株主不利益要件とした上 で、﹁従前、第五順位であった債権者の持株比率が一・七一パーセントから一・四三パーセントに低下する﹂場 合、﹁債務者の従前の株主構成と異なり、事実上多数派を構成する株主が出現することから、既存の株主である債 権者にとって、従前の株主構成と比較して、看過できない持分比率の低下があるといえ﹂、株主不利益要件に該当 すると判示している。  前述のように、発行の差止めが認容されるには、不公正発行要件と株主不利益要件の両方を満たさなければなら ないことはいうまでもないが、過去一連の裁判例を見ると、不公正発行要件を満たさない場合には株主不利益要件 には触れないものがある中︵タクマ事件、宮入バルブ第二事件、ゼネラル第二事件︶、減少率の小ささからか、株 62

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東洋法学第53巻第1号(2009年7月) 主が受ける不利益はないと判示されたものもある︵ニッポン放送第一事件の二二・一パーセントから一〇・九パー セントヘ、ダイソー事件の一〇・六パーセントから八・八パーセントヘ、名村造船所事件の二二・二一パーセント から二〇・五六パーセントヘ︶。  一方、差止認容事例において持株比率の一定の低下が不利益であるとされたものとして、東洋精糖事件︵二五 パーセント以上からそれ以下へ︶、忠実屋・いなげや事件︵三三・三四パーセントから二六・八一パーセントヘ︶、 ネミック・ラムダ事件︵五〇・六ニパーセントから三八・四パーセントヘ︶、ニッポン放送第二事件︵四ニパーセ ントから一七パーセントヘ︶、日本精密事件︵一七・七〇パーセントから二・六四パーセントヘ︶があるが、そ れらが過半数︵ネミック・ラムダ事件︶または特別決議阻止権︵ニッポン放送第二事件︶または少数株主権︵日本 精密事件︶の攻防ラインにあるに比べて、同じく認容事例であるクオンツ事件の場合、一・七一パーセントから 一・四三パーセントヘと、その低下の度合は僅少である。  この点、公開会社において本件のように株式保有が広く分散している場合には、実質的地位の変化の可能性があ        ︵10︶ る株主に対して広く差し止めを許容すべきであるとしてクオンツ事件決定に賛成する意見がある。たしかに、もし 不公正発行要件が満たされるような場合には、持株比率の単なるわずかな低下であるからとして、差止めが認容さ れないというのでは不合理である場合もあろうし、もともとの持株比率およびその低下率に拘るべきではないと思 われる。しかし、そうするとあらゆる第三者割当増資は既存株主の持株比率の低下を伴うものであるから、その発 行差止のための株主不利益要件が有名無実化してしまう。        ︵11︶  株主不利益要件は株主の原告適格の問題でもあるから、慎重に判断しなければならない面もある。たとえば、本 件の場合、裁判所も述べているように、反対派取締役の解任が議題となっている株主総会についてはその成否の見 63

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通しが必ずしもついていなかったので、当該株主の持株比率の低下または多数派株主の出現がその成否に影響を与       ︵12V えたかどうかの因果関係についての検証は必要であろう。 64 ︵9︶王子田誠﹁判批﹂金判=三二号、二〇〇九年、二五頁。 ︵10︶王子田・前掲注︵9︶、二八頁。 ︵n︶大寄久日藁谷恵美﹁新株発行差止めの訴え﹂判タ一一七二号、二〇〇五年、六〇、六一頁。 ︵12︶大小の株主が存在する状況において、仮に第三者割当て増資が不公正発行に該当し、筆頭株主など経営陣に敵対的な大株主  ︵例えば持株比率二〇%︶が差止めを求めたとすれば、それらのものについて株主として不利益を受けるおそれがあると認められ  る場合であっても、それらの者が敵対的な姿勢を示してはいるものの増資に積極的に反対していないなら、別行動の小株主︵例え ば持株比率二%︶が差止めを求めても、その持株比率の低下について株主として不利益を受けるおそれがあるとは認めがたいので  はないか、との指摘もある。清水俊彦﹁不公正発行を理由とする第三者割当て増資の差止めをめぐる判例理論の展開︵下︶﹂、金判  一三一〇号、二〇〇九年、一二頁。 四 おわりに  本稿では、クオンツ事件のように、もともと大株主が存在せず、小株主が広く分散しているような会社におい て、取締役間でのみ支配権に争いがある場合は、従来の裁判例が意図してきたいわゆる﹁支配権の争い﹂とは意味 が異なっているのではないかという疑問を呈した。  このような事実状況においては、支配権の争いがある場合に第三者割当増資がなされた場合、原則として不公正 発行に当たるとし、会社側に﹁他に合理化できる特段の事情﹂について疎明・立証させる枠組みを示した日本精密

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事件をそのまま踏襲したものと評価できない可能性がある。  かといって、一定の状況のもとで、絶対多数が出現するほどの第三者割当増資を行ったケースにおいては、債権 者た惹株主に、現経営者の不当目的の疎明・立証責任を負担させるのは厳しすぎるのではないかとも思われるの で、疎明・立証責任を転換させる要件事実に、このような事実も加えるよう解釈すべきではないかと思われる、少 なくとも、クオンツ事件決定において裁判所は、取締役問の争いについても﹁支配権に争いがある状況﹂と捉える ことにより、同様の効果を狙ったものであろうし、その点では評価してよいのではなかろうか。  また、株主不利益要件については、小株主にとってその僅少な持株比率の低下が、取締役選任総会決議の成否に 影響を与えたかどうかについて、因果関係等を含めた検証も必要ではあろうが、一般論としては、クオンツ事件の ように小株主が広く分散している会社において、絶対多数を出現させるような第三者割当増資が行われることによ       ︵B︶ り、実質的地位に変化が生ずる可能性がある株主に対しては、広く差止めを許容すべきであるとする意見もあり、 その要件緩和論に基本的には賛成であるが、原告適格との関係で問題もないわけではないので、やはりさらなる検 討が必要であろう。 ︵13︶王子田・前掲注︵9︶、二八頁。 1くすもと じゅんいちろう・法学部教授ー 65

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