実施権者の差止請求権
著者
盛岡 一夫
著者別名
K. Morioka
雑誌名
東洋法学
巻
20
号
1
ページ
p79-123
発行年
1977-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00006065/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja実施権者の差止請求権
盛 岡
一
夫
四 む す び ︵ 4 ー 通常実施権者の差止請求権 ︵ 3 ー 尊用実施権者の差止請求権 ︵ 2 ー 実施権者の損害賠償請求権 工 ︵ ー 学 説 三 実施権者の差止請求権 く ー 通常実施権 く ー 専用実施権 ー 学 説 エ モ 二 特許実施契約およびノウ・ハウ契約の法的性質 一 はしがき はしがき 技術を開発した者は、これを自分で実施する場合と、 実施権者の差止講求権 また他人に譲渡する場合と、 さらに他人に実施させる場合と 七九東洋 法学 八○ がある。本稿では、他人に実施させる場合、すなわち特許実施契約およびノゥ・ハゥ契約について考察する。特許実 施契約およびノウ・ハウ契約は、当事者の一方である実施許諾者が相手方である実施権者に契約で定めた範囲内にお いて、特許発明またはノウ・ハゥの実施を行なわせることを約する契約である。この契約で、実施許諾者が実施権者 に独占的に実施させることを約する場合と.複数の実施権者に実施させることを約する場合とがある。前者の場合に は、実施権者は設定行為で定めた範囲内において業として実施許諾者の特許発明を独占的に実施する権利を有する ︵専用実施権︶が、笹者の務合には、独占的には実施する権利を有しない︵通常実施権︶、 実施権者は、契約の対臆、である特許発明またはノゥ・ハウを権限のない第三者が実施する場合に、損害賠償請求権 および差止請求権を行使することができるのであろうか. 専用実施権は物権的性質を有するから.尊用実施権者は自己固有の権利として損害賠償請求権および差止請求権を 行使することができると解されているが、通常実施権は債権的性質を有するとの理由で、通常実施権者にこれらの請 求権を否定する見解と、肯定する見解とが対立している。しかし、その根拠を明確に論じている見解は少ない。 通常実施権は、債権的性質を有し、特に独占的通常実施権者の地位は.対抗力を具備しない占有取得前の賃借人の地 位に類似している。そこで、本稿では債権︵賃借権︶にもとづく妨害排除請求権に関する判例・学説を参考にして通 常実施権者に差止請求権を認めるか否かという点について考察する。
二 特許実施契約およびノウ・ハウ契約の法的性質
ω 学 説 実施契約︵瓢8甕く段霞品︸。臼嘗磐留浮Φ鷺ρ浮窪器謎お①響①翼︶は、当事者の合意により成立するものであり、 ︵玉︶ 特定の書面による必要はないが、專用実施権の設定は、登録しなければその効力を生じないものであり︵蟄鋒︶、通 常実施権も登録すると第三者に対してその効力を主張することができる︵弍馳条︶ものであり、また後日に契約の効力な ︵2︶ どについて問題が生じることがあるから書面による場合が多い。 特許実施契約またはノウ・ハウ契約は、当事者の一方である実施許諾者︵ぽ窪8﹃︶が、相手方である実施権者 ︵浮①霧8︶に、契約で定めた範囲内において特許発明またはノウ・ハウの実施を行なわせることを約する契約で ︵3︶ ︵4︶ あり、これは債権契約でありかつ有償双務契約であると解されている。 特許権者は、業として特許発明を独占的に実施する権利を有するものであり︵鮎八︶、これを他人に譲渡することも、 また利用する権利を付与することもできる。特許実施契約の本質は、実施許諾者が実施権者に対して、特許権にもと ︵5︶ ︵6︶ づく排他権を放棄することにつきるものではなく、積極的に利用権を付与するものである。 またノゥ・ハゥの保持者も自己の保持する技術的知識および経験を他人に譲渡することも、利用する権利を付与す ることもできる。ノウ・ハウ︵図3乏−寓・妻︶という用語は、営業秘密︵企業秘密ギ毬①留RΦ邑と区別されないで ︵7︶ ︵8︶ 混同して用いられており、きわめて不明確である。わが国の学説を大別すると、ω工業目的に役だつものとする説、 実施権者の差止請求権 八一東洋法学 八二 ︵9︶ ︵憩︶ @より広く産業目的に役だつものとする説、の社会的または経済的目的に役だつものとする説、⇔最も広く技術的な ︵叢︶ もののほかに商業的なものまでも含める説などがあるが、ノウ・ハウとは、産業上の利用において、実際に適用する のに必要な技術的知識および経験であり.秘密とされているものであると定義して本稿を進めていきたいとおもう。 実施契約は.実施許諾者が実施権者に.特許発明またはノウ・ハウを利用する権利を付与するものであるが.その 性質は、民法のどの契約に類似するのであろうか、学説をみることにしよう。 ドイツにおいて古くは.特許実施契約を賃貸借または賃貸借類似の契約侮総ぼ轟階瞬饗蔓警熱魯戴く巽騨轟︶で ︵羅 ︵轡 あると解されていたが.今鷺では.これに反対の立場をとっている。またわが国においてもドイッと同様に解きれて ︵腿﹀ いる、すなわち、契約の対象が.賃貸借契約においては有体物であり、実施契約においては無什物であるから、賃貸 借契約においては同一目的物につき同時に複数の賃貸借をなすことはできないが.実施契約においては通常実施権を 付与する場合に、同時に多数の契約をすることができること.また実施契約は多くの経済的機能をはたすものである が.賃貸借はこのような機能が少ないことなどを理由としている。 これに対し、特許実施契約は.特許権という準物権の賃貸借であり、それは賃貸借契約に類似の契約であるところ ︵娼︶ の通常実施権と物権契約的な専用実施権であると解される見解もある。 不動産は有体物であるから、複数の者と賃貸借契約をし、同一の不動産を同時に利用することは事実上不可能であ るが、特許発明およびノウ・ハウは無体財産であるから、同時に複数の者と実施契約を締結し、複数の者が同時に同 一の特許発明またはノゥ・ハゥを利用することが可能である点などにハいては相違する。しかし、賃貸借とは、当事
者の一方が相手方にある物の使用収益をなさしめることを約し、相手方がこれにその賃金を払うことを約する契約で ︵絡︶ あり︵眠融鰍︶、実施契約は、実施許諾者が実施権者に対し、自己の特許発明またはノウ・ハウを使用収益する権利を付 与し、実施権者が実施料を払うことを約する契約であるから、賃貸借と実施契約とは比較的類似していると解する。 ︵π︶ 専用実施権は地上権に、通常実施権は賃借権に類似しており、特に、独占的通常実施権者の地位は、対抗力を具備し ない占有取得前の不動産の賃借人の地位に類似している。したがって、通常実施権者に損害賠償請求権または差止請 ︵娼︶ 求権を認めるか否かという問題は、不動産の賃借権との比較において検討することを要する。 また実施契約は売買類似の契約︵訂鼠欝嘗魯段く段嘗謎︶であると解されていたこともある。しかし、売買契約は 一時的債権関係を生ずる契約であるのに対し、実施契約は当事者間に継続的債権関係を生ぜしめる契約であるとし ︵欝︶ ︵20︶ て、今日ではドイツにおいても否定され、またわが国においても否定されている。 ノゥ・ハウ契約の場合に、契約終了後、実施権者はノゥ・ハウを返還しなければならないが、いったん覚えた技術 的知識および経験を返還する︵忘れる︶ということは不可能であるから、ノゥ・ハゥ契約と、ノウ・ハウの売買とは ︵雛︶ 区別することが困難な場合がある。 ︵22︶ さらに実施契約は組合契約︵Q窃亀ω3臥鍍毒鋒品︶に類似していると解されている。組合は、契約当事者が対立し たままで双方が互に給付することを約するのではなく、二人以上があつまって一種の団体をつくり共同事業をするこ ︵23︶ ︵盟︶ とを目的とするものであるから、典型的な実施契約とは類似しない。しかし次のような相互協力的な特約をすること ︵25︶ により、組合的性格が認められることになる。すなわち、e D当事者が共通の計算︵α登ゆ導①ぎ器導o罐魯讐轟︶ におい 実施権者の差止請求権 八三
東洋法学 八四 て特許発明を利用すること、@実施権者が実施許諾者の特許権の効力を争わないことの義務、の実施許諾者が実施権 者の帳簿︵Φ①ω魯簿ω窪魯R︶ を閲覧する権利を有すること、ω実施権者が特許権の効力を争わないこと、㈲当事者 が将来の特許発明について実施を傑諾すべき義務を負うこと、0当事者がたがいに改良発明.ノゥ・ハゥなどを交換 する義務を負うこと.㊦当事者がたがいに秘密義務︵欝訂ぼ罫即騒ぴ犠。 ・篤8ぼ︶を負うこと、㈱当事者がたがいにその 特許権.商標権︵㌶講瓢欝羅⇔即藤︶が侵害されたμ合に報告する義警厄負うこレ㍍、麟・の侵害に対してたがいに協力して ハ2$︶ 防疫する義嘉を負うこと.鋤当事者が特許権の維持などについて共同で費用を負推することなどである. ︵蓋︶ ︵2︶ ︵3︶ ︵4︶ ︵5︶ 揮鱒欝窯麓聯悟曲籍藏紳欝欝鷺Φ鷲圃簿伽陣監蕊鍔欝欝曾 ぎお総寝畷鷲曽 染野義信﹁特許実施契約﹂契約法大系W㈱三七七頁.豊崎光衛・工業所有権法︹新版︺㎜“二〇二頁.播磨良承・工業所有 癬描法五二六圏で員Q 技術援助契約︵898圃轟ざ駄霧。 蔭蘇欝蓉⑦8簿轟簿︶には、特許発明.ノウ・ハウまたはその双方が契約の対象となっ ている。技術の急激な進歩によって.技術が複雑高度になると特許の明細書だけでは.実際にその実施の過程において 技術の操作などの詳細はわからないから、特許発萌とともにノウ・ハウを導入している。 特許実施契約の対象が特許権にあるか.発明にあるか見解がわかれている。この点については.大隅健一郎﹁特許実 施契約およびノウ・ハウ契約について﹂法学論叢七八巻三・瞬号一八八頁、野購良光﹁特許実施契約﹂原増司判事退官 記念・工業所有権法の基本的課題下一〇一六頁以下参照。 大隅﹁特許実施契約における実施許諾者の責任﹂法学論叢七八巻丁二号一五︸頁、渋谷達紀﹁特許実施契約における 実施権者の実施義務と契約の法律的性質﹂法学協会雑誌八五巻二号一八九頁。 永田大二郎﹁実施契約序説﹂ジュリストニ五七号六〇頁は、特許実施契約は実施許諾者が実施権者に対し、排他権の不
︵6︶ ︵7︶ ︵8︶ 行使という不作為の義務を負うものであり、実施権者の取得する権利もこれに対応する消極的な権利であると解され る。これに対して、大隅﹁特許実施契約およびノゥ・ハウ契約について﹂前掲一九五頁は、この見解によるならば、実 施権者は発明の利用にっいては契約上何らの権利を有することなく、たとえば特許書類が発明の実施について不完全で あるとしても、契約に別段の定めがないかぎり、実施許諾者に対して必要な補充または教示を求めることはできない し、また実施許諾者の発明自体に関する担保責任にっいても何らの解答を引き出すこともできないと批判される。 幻象玄9・や。搾譜8い大隅﹁特許実施契約およびノウ・ハウ契約について﹂前掲一九四頁以下は、特許実施契約は 実施許諾者が実施権者に対して特許権の経済的内容をなす発明にっいての積極的な利用権を付与し、実施権者をして契 約期間申その権利の享受をなさしめる義務を負うものと解するのが至当であるとされ、そして実施許諾者が実施権者に 対して排他権を行使できないのは、むしろ実施権者に右のような積極的な利用権を付与することの当然の結果であり、 それはあたかも賃貸借契約が単なる所有物の返還請求権の放棄でないのと同様であると解される。 >導盆諭8鉱旨璽 ↓冨騨≦9↓錨富ω8胤簿ωお紹や一餐は、営業秘密保護の対象として、工程︵榎08霧霧︶、 機械︵寒碧窯器ω︶、アイディア︵麓窪ω︶、 秘密清報︵ω。R9一溝a琶簿一9︶、費用、時問または労力をつかった利益 ︵瀬器埣ω9団嵩窪象ε冨9累弩。ざ↓巨①寂≦○築︶とともにノウ・ハウをとりあげている。またアメリカの不 法行為法リステイトメントの第七五七条の定義によると、営業秘密とは、事業に用いるあらゆるフォーミュラ、パター ン、考案または情報の集合よりなるものであり、その使用者に、それを知らずまたはそれを用いない競業者よりも優位 な地位を占めることができるものである。それは化合物のフォーミュラ、物の製造、処理もしくは保存の工程、機械も しくはその他の考案のパターン、または顧客のリストなどであるとする。このように、ノウ・ハウは営業秘密の対象物 の一つであるところの技術的なものに限定し、営業秘密は技術上の知識、経験のほかに商業上の知識、顧客リストなど をも含んだ広い意昧に解すべきであろう。 松居祥二﹁特許関係契約﹂特許管理二九八頁は、ノウ・ハウとは工業目的に使用される技術を単独であるいは他の技術 と結合して現実に工業上使用する場合あるいは応用する場合に有益な、あるいは必要な秘密の技術的知識あるいは秘匿 実施権者の差止請求権 八五
東 ︵9︶ ︵憩︶ ︵U︶ ︵鷲︶ ︵B︶ 洋法学 八六 された経験上の知見である。そして、それを加えて技術を工業化することによって、技術的効果の向上すなわち製品の 晶質向上、収得率の向上、生産コストの低減などの効果および作業の簡易化、設備の耐用年数の増加、生産管理の簡易 化などの効果をもたらすものであるとされる。また大隅﹁ノウ・ハウの現物出資﹂商法の諸問題八一八頁.同﹁ノウ・ ハウとその譲渡し小町谷先生古稀記念・商法学論集四頁は.工業の生巌過程にとって必要または有益な技術上の知識お よび経験であって、外部に対して秘密とされているものをいうとされる。 滝野文三・最新工業所有権法 三七二頁は.ノウー−ハウとは産業の生産過程において実際に適駕するのに必要な技術的 知識および経験であ勢.秘密とされているものとされ.また播麟・前掲九三頁は.謄業上の生蔭過程にとって必要また は有益な・蓑毒上の知議および経験であって外部に対して秘濤と虚れているものと寒れ、さらに齋、パ 鱒・特許法概説 ︹第三版︶四一四頁は.産業上利用することができる技術思想の認作︵意匠を含む︶またはこれを実現するに必要な具 体的な技術的謂繭・資料・経験であって.これを創作・闘発・作駄まねは体得した者︵げ、の者から伝授を受けた者を禽 む︶が現に秘密にしているものと定義される。 長井亜歴霞・野隣良光・改訂増補技術援助契約の実際八七頁は.ノウ・ハウとは一定の社会的麟的の達成︵塵芥焼却方 法、汚物処理方法.医療方礁など︶または経済的漏的達成︵植物の栽培方法など︶に役だつギ術的方法.方式またはそ れを実際に適胴するに必要かつ有益な技術的知識のうち秘密状態にあるものと解される。 紋谷暢男・特許・意匠・商標の実務相談 ・紋谷編︶五灘頁・同﹁麟き譲出9でおよびその保護﹂ジ諏リスト五〇 〇号五七二頁は.工業的ノウ・ハウは商業的・金融的ノウ・ハウと合してはじめてその最大の緬値を実現しうるので. 広く企業秘密一般と定義づける方が望ましいといわれ.また永澱﹁特許﹂特許等管理︵経蛍法学全集7︶二四頁以下は. ノウ・ハウには技術的ノウ・ハウと商業的ノウ・ハウとがあると解される。 瀬○鷺①び麟蓉警離9鳥窃留蓉。 ウ9窪頃霧窪窪g簿。 ・︸お8G o塵誘G 。欝譲鶉ダ賦き象瓢畠瓢霧留馨G 。9簿畷簿窪窪g簿幹 お8ψ溝9 切①箋一感&賞ピΦξぴ蓉囲漣留ω審無ω畠窪勺露⑱簿器畠諾︸9︾鼠ぎ5蕊G o’お貸鰻瓜簿錨噂Φ無器誠甑℃ご霧ω魯≦色器マ
︵員︶ ( ( ( ( 18 17 i6 i5 ) ) ) ) ︵B︶ ︵20︶ ︵飢︶ ( ( (
242322
) ) ) 協ω魯①評諮纂冨o︸ρ堂ごo貸頃お器ψωき. 渋谷﹁前掲﹂一九五頁、永田﹁実施契約序説﹂前掲六一頁、大隅﹁特許実施契約およびノウ・ハウ契約について﹂前掲 一九七頁。 播磨・前掲二六三頁、原増灘・出願・審査・審判・訴訟︵特許法セミナー⑧︶七九二頁。 星野英一・借地・借家法一六五頁以下、来栖三郎・契約法二九一頁以下参照。 特許庁編・工業所有権法逐条解説一九四頁。光石士郎・新訂特許法詳説二七三頁以下。 申山信弘﹁通常実施権の侵害﹂故申松潤之助先生追悼論文集・国際工業所有権法の諸問題四九二頁は、独占的通常実施 権者に、民法第四壬二条の援用を認める否かは、独占的通常実施権者の地位を、不動産の債権的利用権者の地位との比 較において検討することが有益であるといわれる。 じo ①讐富騰黛鉾9 。●ρ噂ω。お鰹ω一弩F頴鋒p 。§ぴ㌍鉾斜○唇︶ω。o 。母牢 渋谷・前掲一九五頁、播磨・前掲二六三頁、永田﹁実施契約序説﹂前掲六一頁。 大隅﹁技術提携﹂企業提携︵経営法学全集n︶四六頁は、ノウ・ハウの実施契約またはその譲渡契約のいずれにあって も、技術上の知識および経験としてのノウ・ハウの伝授がなされ、しかもいったん伝授されたノウ・ハウの返還という ことはもはやありえない。ただ、実施契約の場合には、契約上提供された有形の技術資料は依然として実施許諾者の所 有に属し、契約終了後はこれをその者に返還することを要するものとされ、また契約終了後も一定の期間を限り、ノウ ・ハウの利用をなしえない旨の定めがなされるのに反して、ノウ・ハウの譲渡の場合には、このような定めがない点に 両者の相違点が求められるのみであるとされる。 菊o魯冨びoP鼠鉾譜c 。曾切ξ3F頴魯震篤巳︸僧鉾○ξ9認ω● 来栖・前掲六二七頁以下参照。 切露霧F評母器蕊員ρ9 。Dρ︾o o蕊濫は、当事者が共同事業をなすことを目的とし、その共同目的を実現するために 当事者双方が義務を負っているときに特許実施契約は組合契約に類似するという。 実施権者の差止講求権 八七東 ︵器︶ ︵2 6︶ 洋 法学 八八 渋谷・前掲二〇九頁は、実施権者が実施許諾された特許発明を実施する義務を負うときに、特許実施契約における当事 者の利益結合および相互信頼の関係は、組合契約における当事者間のそれ︵特許発明を実施して収益を得るという共通 鐵的のもとに、それぞれ結付を結合し、これによってその目的を達成するという関係︶に類似するようになるとされる。 鰻慮羅鐸評無器繊鼠矯鋳鉾ρ矯も っ“ω濫評 永田﹁実施契約序説し前鈎六一頁、大隅﹁特許実施契約およびノウ・ハウ 契約について﹂前掲一九九頁。
②専用実施権
専用実施権とは、設定行為で定めた範囲内において、業として.その特許発明を独占排他的に実施することができ る権利である︵誌馳鍛︶。專用実施権の設定は、登録することによひて効力が生じる︵働譲遜︶.特許発明を実施すると は、物の発明にあっては.その物を生産し、使用し、謬渡し、賃し渡し.譲渡もしくは貸渡のために展示し.または ︵風︶ 輸入する行為をいい.方法の発明にあっては.その発関を使用する行為をいい、物を生産する方法の発明にあって は、その物を使用する行為のほか、その方法により生産した物を使用し.譲渡し、賃し渡し.穫、疲もしくは貸渡のた ︵2︶ めに展示し、または輸入する行為をいう︵︷姦︶。 専用実施権は、設定行為で定めた範囲内において、業として独占的に実施することができるものであり、その範囲 ︵3︶ は実施許諾者の特許発明の全範囲にわたることもあり、また一定の地域・期間・内容に限定することもある。 ﹁業として﹂の解釈については、特許発明の実施を事業目的としての意昧に解すべきであるとされ、ここに事業と は、営利、非営利のすべての事業活動を指し、一定の目的の下に継続してなされる有機的な社会的活動をいうものであり、この活動のあらわれとして特許発明が実施されるものである以上、その実施行為が一回的な行為であると、多 ︵4︶ 回的な継続反覆的行為であるとを問わないとする説、また業としては必ずしも営利を目的として行為する場合に限ら ないし、単に生産行為の場合のみならず、生産を伴なわない使用行為の場合も該当するとし、直接または間接に不特 ︵5︶ 定多数の者の需要または便宜に供する目的をもってする意味に解する説、さらに業としては個人的または家庭的な実 ︵6︶ 施を除いた不特定多数人の需要供給をみたす営利、非営利的な反復実施可能な状態をさすとする説などがある。 特許権の効力は個人的または家庭的目的で行なう実施にはおよばない旨規定しているフランス特許法第二九条三項 ︵7︶ と同じように、業としてとは、個人的または家庭的な実施以外の場合と解してよいであろう。したがって、他人が正 当な理由なく、設定行為で定めた範囲内の特許発明を個入的・家庭的以外に実施するときは、専用実施権を侵害する ことになるから、専用実施権者は、その実施の差止を請求することができる。 この場合に、設定行為で定められた範囲内においては、実施許諾者である特許権者も実施することができないので あろうか。特許権者は、業として特許発明を独占的に実施をする権利を有するのである︵獄郊条︶が、特許権者が、その 特許権について専用実施権を設定したときは、設定行為で定められた範囲内において、特許権者は、その特許発明を 実施することを制限されることになる︵歓翻条﹀。すなわち、専用実施権者は、設定行為で定めた範囲内において、業と ︵8︶ してその特許発明を独占的に実施する権利を有するから、特許権者は、その範囲内では実施をすることができない。 特許権者は、専用実施権設定後に、これと同一期間、同︸地域、同一内容の専用実施権を重復して設定し、または 通常実施権を重複して許諾することができなくなる。なお、専用実施権設定前に許諾された通常実施権は、その登録 実施権者の差止請求権 八九
東 洋 法 学 九〇 をしたときは、その専用実施権者に対しても効力を有する︵誌猟条︶。 このように專用実施権は、設定行為で定めた範囲内において、業として当該特許発明を独占排他的に実施する権利 であり、用益物権に類似する性質を有する。特許権と専用実施権との関係は、不動雇所有権と地上権の関係に類似し ていると解する。したがって、専用実施権者は、専用実施権が侵害された夢合には損害賠償請求権と差止講求権とを 行使することができる。 なお.ノ窃・ハ爵契約においザ楡も、’施許諾者が実施権者に対し、その者にのみ狸約の対象たるノウ・ハウのー麺 ︵嚢︶ をなす権利を付与し、実施許諾毛も当該ノウ・ハウを実施しないことを約することにより専用実施権が懲められる。 しかし.ノウ・ハウは特許権のような排他性がないから.善添で実施する第三者に対しては独占を主張することがで きない。したがって.ノゥ・ハウの専用実施権は必ずしも独占的に実施する権利ではない。 ︵i︶ ((
32
〉) 物の発明と方法の発萌との判断基準について.東京高判昭和三二年五月二一環行裁例集八巻八号一照六三頁は、方法の 発明とは﹁一定の目的に向けられた系列的に関連のある数個の行為または現象によって成立するもので、必然的に経時 的な要素を包含するもの﹂と定義した。すなわち.物の発萌と方法の発明との区別の規準を.発萌が時の要素を必須要 件とするものであるときは方法の発明とすべきであり、時の要素を必要としないときは物の発明であるとする。 ζ畷 の讐冨睡簿鳩9 。“押Oこ毒 り。はOo塗 期間的限定とは、たとえば昭和五二年一月一〇欝から五年問と限定することであり.地域的限定とは、九州一円とか関 東一円というように一定の地域を限定とすることであり、内容的限定とは、特許権がA・Bの二発萌よりなる場合にそ のうちのA発明のみに限定するとか、生産し使用することのみに限定することである。豊崎・前掲三〇二頁以下、大隅︵4︶ ((
65
)) ︵7︶ ︵8︶ ︵9︶ ﹁技術提携﹂前掲七五頁以下参照。 兼子一・染野義信・工業所有権法改訂版一八八頁。なお、紋谷・無体財産権法概論一〇一頁は、業としてとは営利を目 的とする場合にかぎらず、ひろく事業として反復継続的に行なうことであるとされる。また滝野・前掲七一頁は、業と してとは営業としてということであり、必ずしも営利の目的があることを必要とせず、継続的意思をもってする経済活 動であれば業としてに該当し、反復実施可能な状況におかれてあれば︸回の行為であっても業としての実施になると解 される。 織田秀明・石川義雄・増訂新特許法詳解二七一頁。 播磨・前掲二五六頁。なお、豊崎・前掲二〇八頁は、旧法では業としてという限定がなかったので特許権の効力は家庭 用の使用にまでおよぶと解されていたとされ、現行法では、業としてとは個人的または家庭的な実施以外の場合と解さ れる。また薯優美・改正工業所有権法解説二二四頁は、業としてとは個人または家庭の用に供するための実施以外の一 切の実施を包含し、社会的需要のため実施される以上その実施について営利の目的はこれを問わないとされ、また実施 行為が反復継続して行なわれることも必要としないと解される。 ドイツにおいても単なる個人的または家庭的使用 ︵需参α鼠9窪aRぴ飲霧膏び窪の害蚕誤鼠︶は特許権を侵害しない と解されている︵国①導富巳酔矯斜鉾○こψ一自︶。 兼子・染野・前掲一八八頁、特許庁編・前掲一八三貝、光石・前掲二七六頁、吉藤・前掲三三二頁、織田・石川・前掲 三三二頁、薯・前掲二二六頁、渋谷・前掲一九二頁、三宅正雄・改訂版特許法雑感二八二頁。これに対し、大隅﹁特許 実施契約およびノウ・ハウ契約について﹂前掲二〇八頁は、特許法第六八条の規定は専用実施権設定の通常の場合につ いて定めているのみで、契約で特許権者が自己の利用権を留保することまでも排除する趣旨ではないと解され、また、 豊崎・前掲二九七頁註目、本間崇・特許・商標・著作権︵中川・兼子監修・実務法律大系10︶四三六頁も、通説の解釈 には疑問があるとされる。 大隅﹁技術提携﹂前掲六四頁以下参照。 実施権者の差止請求権 九一東洋 法学 九二
③通常実施権
通常実施権は、設定行為で定めた範囲内において、業としてその特許発明を実施する権利である︵藷豚条︶。前述の專 用実施権は、実施する権利を専有するのであるが、通常実施権は、独占的に実施する権利ではない。したがって、実 施許諾者は、通常実施権を許諾した後でも、これと同一範囲において自ら実施することもできるし、また同一範囲の 通常実施権を他の者に対して許諾することも.さらに専用実施権を設定することもできる。通常実施権は、同一範囲 の特許発明またはノウ・ハゥを擬紋の者が同時に利用することかできるものであ聯。 実施権の性質について判例は、 ﹁元来実施権というものは、実用新案権者に対し、実施権者が実用新案の内容であ る考案を使用して物品を製作することを認容させることを権利の翼体とするものであって.その性質より云えば、実 用新案権者に対する債権的性質を有する権利であると観念できるのであり、排他性︵他人がその実用新案の実施権者 となることを妨げること︶はなく.いわゆる専用実施権者についても、その専用を主張しうるのは実用新案権者に対 する関係において債権者に主張しうるにすぎないのが本来の性質と思われるのであるが、借地権のような純然たる債 権でも、登記その他の対抗要件を具備すれば、その権利を第三者に対抗させても、取引の安全を害しないで.権利者 を保護することは可能である。唯、間題は、債権又は準債権と目すべき権利については、債務者以外の第三者が如何 なる場合にこの権利を侵害したと認められるか、という点であり、これは第三者による債権侵害の理論に帰着するわ けである。権利に不可侵性があるからと云って抽象的に権利に不利な影響を及ぼす、第三者の行為をすべて権利侵害 と云えないと同時に債権であっても、債務者以外の第三者に対抗ができ、しかも具体的に債権を害されたと認め得る場合においては第三者による債権侵害が認められないわけはない。たとえば、借地権が第三者に対抗できる要件を具 備しているときその借地権の対象となっている土地を第三者が使用すれば、これにより借地権者を害されたと考えて よいであろうが、これは借地権は債権にすぎなくとも、土地が特定のものである関係上、第三者により事実上、権利 を行使できない状態を作為されているからである。実用新案の実施権についても専用実施権であれば、たとえ権利の 実体は実用新案権者に対する債権的のものであっても、第三者が右実用新案の考案を使用することは事実上専用実施 権者の権利の実現を侵害するものと云い得るわけである。現行実用新案法第二十七条乃至二十九条の規定はこの趣旨 を明にしたものである。通常実施権については、他人が同一の実用新案を使用したというだけでは、侵害されたとは 云えない。自己の実施権の行使を妨げられたような場合にのみ、その権利の侵害があると解するのが相当である。﹂ ︵1︶ としている。 通常実施権について判例は、 ﹁通常実施権は、実施契約で定められた範囲内で成立するものであって、許諾者は、 通常実施権を設定するに当りこれに内容的、場所的、時間的制約を付することができることはもとより、同時に同内 容の通常実施権を複数人に与えることもでき、また、実施契約に特段の定めが存じないかぎり、実施権を設定した後 も自ら当該特許発明を実施することができるのである。これを実施権者側からみれば、許諾による通常実施権の設定 を受けた者は、実施契約によって定められた範囲内で当該特許発明を実施することができるが、その実施権を専有す る訳ではなく、単に特許権者に対し右の実施を容認すべきことを請求する権利を有するにすぎないということができ ︵2︶ る﹂としている。 実施権者の差止請求権 九三
東 洋 法 学 九四 判例は、特許権者に対し実施を容認すべきことを請求する権利にすぎないというが、実施契約の旨的は、特許発明 またはノウ・ハウを業としての実施にあるから、実施許諾者は消極的な忍容義務を負うのはもちろん、実施権者が実 ︵3︶ 施契約にしたがって容易に実施することができるように積極的に協力する義務を負い、実施権者は、実施契約で定め ︵4︶ たとおり実施させるように請求する権利を有すると解する。特にノウ・ハウが契約の対象である場合には、実施許諾 ︵5︶ 者はノゥ・ハウを伝授し実施権者が当該ノゥ・ハウを利用で蓉るようにする義務があると解する. 賃借権においては、同一の不動産瀦餐数の者が同時に利用する鵯とは、.夫上不可能であるが、通常実施権において は.同一の特許発明またはノゥ・ハウを複数の者が同時に利用することが事実上可能である点などにおいては相違す る、しかし.賃貸借は.賃貸人が賃借人に賃貸物の使用収益をなしうるようにする義務を負い.賃借人が貨貸人に借 ︵6︶ 賃支払の義務を負うのであり.実施契約は.実施許諾者が実施権者に特許発明またはノウ・ハゥの使用収益をなしう ︵7︶ ︵8︶ るようにする義務を負い、実施権者が実施許諾者に実施料を支払う義務を負うものであるから、両者は類似してい るα 独占的通常実施権は、実施許諾者が当該特許発明またはノウ・ハウについて.実施権者以外の他の者と実施契約を しないことを約し実施権者に独占的な実施権を与えているのであるから、独占的通常実施権者は、対抗力を具備しな ︵9︶ い占有取得前の不動産の賃借人に類似している。しかし、不動産の賃借人は第三者が利用すると、当該不動産を利用 することが不可能になるが.独占的通常実施権者は、第三者が利用しても当該特許発明またはノウ・ハゥを同時に利 ︵鎗︶ 用することが可能である点は相違する。
((
21
))
︵3︶ ︵4︶ ︵5︶((
76
))
︵8︶ ︵9︶ 東京地判昭和三六年一一月二〇日下級民集二一巻二号二八○八頁。 最判昭和四八年四月二〇日民集二七巻三号五八○頁、本判決の批評としては、播磨・民商法雑誌六九巻六号二五頁、 豊崎・法学協会雑誌九一巻一〇号一五三七頁、佐藤義彦・法律時報四六巻一号一〇七頁、田倉整・判例タイムズ三〇一 号七〇頁などがある。 豊崎・法学協会雑誌九一巻一〇号一五四二頁、紋谷・商事判例研究昭和三六年度四五二頁、これに対して、中山・前掲 四八八頁は、通常実施権とは﹁特許法上は、当該特許発明を業として実施することにより、特許権者等から妨害排除又 は損害賠償請求を受けることがない権原、換言するならば、特許権者等に対し、上の二つの請求権を行使させない、と いう不作為請求権である﹂といわれる。 大阪地判昭和三九年一二月二六日下級民集一五巻一五号三一二一頁。小島庸和﹁工業所有権と差止請求権﹂法律時報四 七巻四号四五頁。 竜田節﹁ノウ・ハウをめぐる諸問題﹂会社訴訟・特許訴訟︵実務民事訴訟講座5︶三一五頁、大隅﹁技術提携﹂前掲一 〇九頁以下。 賃貸人および賃借人の義務については、来栖・前掲三〇四頁以下・三二七頁以下参照。 実施許諾者の義務については、豊崎・工業所有権法︹新版︺三〇八頁以下、染野︵義︶﹁特許実施契約﹂前掲三八一頁、 播磨・工業所有権法−二六五頁、大隅﹁技術提携﹂前掲八九頁以下、野鶴﹁特許実施契約﹂前掲一〇ご二頁以下参照。 実施権者の義務については、播磨・工業所有権法−二七四頁以下、渋谷・前掲一九七頁以下、豊崎・工業所有権法︹新 版︺三一二頁以下、染野︵義︶ ﹁特許実施契約﹂前掲三八一頁、野口﹁特許実施契約﹂前掲一〇三一頁以下、大隅﹁技 術提携﹂前掲二一〇頁以下参照。 中山・前掲四九二頁は、特許権者などは独占的通常実施権者に独占的な実施権を与えているのであるから、この点にお いて実施権者は対抗力なき不動産の債権的利用権者に類似していると解される。また特許庁編・前掲一九四頁な、専用 実施権および通常実施権と特許権との関係はあたかも土地の所有権に対する地上権および賃借権になぞらえることがで 実施権者の差止請求権 九五東 ︵憩︶ 洋 法 学 九六 きるとする。すなわち、特許権は、所有権と同じように絶対的支齪権であり、專用実施権は、地上権と同じように用益 物権であり︵物権的な権利であるから排排性を有する︶.通常実施権は、賃借権と同じように債権であるとする。さら に光石・前掲二七三頁以下は、特許権と専用実施権との関係は、あたかも土地所有権とその上に存在する地上権の関係 に類似し、特許権と通常実施権との関係は.あたかも土地所有権とその占有をともなわない賃借権の関係に類似すると 解される。 紋谷・無体財産権法概論一二頁は.所有権の客体たる動産.不動産は.観念的のみならず物理的にも存在し、したがっ て一人がこれを利矯する時は.同時に他入が瞬様の利用をなすことが事実上不可熊となる.これに対して無体財産権の 客体は.物理的には存在せず単に観念的なものであるので.所有権とは異なって事実上の占蕎が不可能である、したが って.一人がこれを利用すると同時に.他人もまた同様の利用を完全になすことが事実上は可能であるといわれる。
三 実施権者の差止請求権
ω 学 説 実施権者は、実施契約の対象である特許発明を、権限のない第三者が実施する場合に、損害賠償講求権および差止 ︵i︶ 請求権を行使することができるのであろうか。まず各国の見解を紹介し、次にわが国の学説を紹介してみよう。 独占的実施権︵窪ω零窪霧も ◎ぎ竃鑓器醤︶は準物権的︵2鉱−黛轟浮げ︶性質を有し、非独占的実施権︵①欝鍵島①鑓寧 ①醤︶は債権的性質を有すると解するドイッでは、独占的実施権者には、自己固有の権利として差止請求権︵O箕撃 冨も 。蓉鴨鱗霧℃讐畠︶と損害賠償請求権︵ω09号器鶏。っ暮鑓湧℃讐畠︶とを認めているが、非独占的実施権者には、いず︵2︶ れも認めていない。 フランスでは、独占的実施権︵ぎ曾8震巳誘オ①︶も非独占的実施権︵浮露8ωぎ豆①︶も債権であると解し、いず ︵3︶ れの実施権者も侵害訴訟適格を有しないと解され、実施権者は特許権者に損害賠償の請求をすることができるのみで ︵4︶ あると解されていた。しかし、新特許法は、第五三条において、独占的実施権者は特許権者に侵害訴訟を提起するよ うに催告しても、特許権者が訴を提起しないときに、訴を提起することができる旨規定して、独占的実施権者に訴権 を認めている。 アメリカにおいては、実施権者自身で訴を提起することができないのであり、実施契約において訴の提起をするこ ︵5︶ とについて特別の定めをするのが慣例であると解されており、普通、独占的実施権︵。蓉富才①ぽ窪器︶ については 実施権者が責任を負い、通常実施権︵嵩8あ蓉寄才①ぎ臼器︶については特許権者が起訴の責任を負うと解きれてい ︵6︶ る。イギリスにおいては、特許法第六三条一項に、特許にもとづく独占的実施権の保有者は実施許諾の臼以後になさ れたその特許権の侵害に関し、特許権者と同様に訴訟を提起する権利を有する旨規定きれているが、非独占的実施権 については否定されている。 わが国において、専用実施権者が損害賠償請求権および差止請求権を有することについては聞題がない。闘題にな るのは通常実施権者がこれらの請求権を有するか否かという点である。学説が分かれているので次に紹介してみよ う。 ︵7︶ ↑ D通常実施権に損害賠償請求権も差止請求権も認めない説。 実施権者の差止請求権 九七
東洋法学 九八 ︵8︶ @通常実施権に損害賠償請求権のみ認める説。 ︵9︶ の通常実施権者に損害賠償請求権と実施許諾者の差止請求権を代位行使することができるとする説。 ⇔独占的通常実施権者にかぎり、損害賠償請求権と実施許諾者の差止請求権を代位行使することができるとする ︵憩﹀ 説。すなわち﹁通常実施権とは、単に当該特許発明を実施する権原に過ぎず、たとえ無権原の第三者が当該特許発明 を実施しても.通常実施権者はそれに関して法的な利害関係をもたず.何らの請求も生じない。これに対して.独占 的通常実施権者は、無権原の実施者に対し.不法行為に基づく損害賠償.蛭本をなしう導し、又.特許権者等の有する 妨害排除請求権及び損害賠償講求権を代位行使しうる﹂とする。 ③通常実施権者は損害賠償請求権と実施午諾者の差止講求権を代位行使し.拡占的遷常実施静者は差止請求権を有 ︵蟹︶ するとする説。 ︵捻︶ 0通常実施権について損害賠償請求権を認め.登録した独占的通常実施権に差止請求権を認める説。 ︵お︶ ㊦登録した独占的通常実施権に損害賠償請求権と差止請求権とを認める説。 このように学説は分かれているが、その根拠を明らかにすることなく結論のみを述べている。そこで.まずはじめ に実施権者に損害賠償請求権を認めるか否か、次に尊用実施権者︵ノウ・ハウ契約における専用実施権者︶に差止請 求権を認めるか否か、最後に通常実施権者に差止請求権を認めるか否か、という点について.債権︵賃借権︶にもと づく差止請求権に関連する判例・学説との対比において考察してみよう。
︵1︶ ︵2︶ ︵3︶ ︵4︶ ︵5︶ ︵6︶ ︵7︶ ︵8︶ ︵9︶ ︵鉛︶ 石黒淳平﹁主要特許制度下における通常実施許諾について﹂故申松潤之助先生追悼論文集・国際工業所有権法の諸問題 二一七頁以下、佐藤義彦﹁ドイツにおける実施権の性質論争と実施権者の差止め・損害賠償請求権の有無﹂故申松潤之 助先生追悼論文集・国際工業所有権法の諸問題二四一頁以下、大隅﹁特許実施契約およびノウ・ハウ契約について﹂前 掲二〇五頁、染野義信・啓子﹁特許権侵害訴訟における実施権者の訴訟適格﹂企業法研究創刊十周年記念論文集二〇九 頁以下参照。なお渋谷・前掲一九三頁は、外国には尊用実施権制度がなく、したがって舞9霧ぞo一一88ρ弩ω。 ワoぞ 蔚ωω膏ぎば器震﹂ざ①鷺①震2蕊誘は、わが国における独占的通常実施権に対応するとされる。 国①導冨益詳斜鉾ρ博q o6おO卑 力雲ぴ一①び8巴o霊男拶ま9霧唄. 幻Oqぴ一①ぴ8。鎌鉾℃●まo o。 露①暮Φ践o年弓簿①馨い9 9ヨおお。噂一ミ, じご φ艶①律ωや鏡凶器αoO餌窮導ぎく窪ぼo霧”評富纂ω矯弩α夢①寄窯弩蝉αq①拳①纂し㊤9勺ω零, 染野︵義︶・︵啓︶﹁特許権侵害訴訟における実施権者の訴訟適格﹂前掲一二五頁以下、染野︵啓︶ ﹁特許権侵害に対する 実施権者の損害賠償請求権﹂特許判例百選一六三頁は、通常実施権が債権的性格をもつ以上、特許権の侵害は実施権の 侵害ではなく、かりに侵害によって損害が生じても、それは実施権の侵害によるものではないと解される。 渋谷・前掲一九三頁。 小島﹁工業所有権と差止請求権﹂前掲四四頁、同・特許・意匠・商標の実務相談︵吉藤・紋谷編︶四七七頁以下。 中山・前掲四九四頁、なお、本間・前掲四四三頁は、債権も権利としての不可侵性を有するがゆえに、通常実施権が侵 害されたときには不法行為の成立を認め、損害賠償の行使を容認することが必要であるが、通常実施権は債権であり複 数個の併存を本来容認するものであるから、物権的性格の強い独占的通常実施権にしてはじめて許諾なき実施が行なわ れることによって損害が発生することになるとされる。また三宅・前掲三〇九頁以下は、実施許諾者に対する関係にお いて実施許諾の契約により独占的に実施しうる権利を取得した者がある場合に、第三者がほしいままに実施するときは 実施権者の差止請求権 九九
東 ︵U︶ ︵鴛︶ ︵B﹀ 洋 法学 一〇〇 その債権侵害になるとされ、しかも実施権者は実施許諾者に対し独占的に実施できる権利を有し、実施許諾者は実施権 者をして、その特許発明を独占的に実施させる義務を負うから、実施権者は実施許諾者に対するこの債権の保全のため ということで許諾者の有する権利を代位行使できるとされる。 光石・前掲二八三頁以下。 豊崎・工業所有権法︹新版︺二九九頁。 吉藤・前掲三三五頁.織田・石川・前掲三繭二頁以下。 ㈲ 実施権者の損害賠償請求権 専用実施権者は、特許権癒およびノウ・ハウの実施許議者と同じ効力を有する期㌧専用実施権の侵害に対しては 損害賠償請求権が肯定きれている。 これに対して、通常実施権の侵害に対しては.前述のように損害賠償請求権を肯定する説と否定する説とが対立し ているから、この点について考察してみよう。旧法時における実施権と現行法における実施権とは異なっている︵旧 法時における独占的通常実施権は現行法の專用実施権に類似している︶にもかかわらず、現行法においても旧法時代 ︵i︶ の判例を参考にして、この間題を論じている見解もあるが誤りである。 債権侵害が不法行為になるという理論を借用して.通常実施権者は、不法行為にもとづく損害賠償請求権を有する との見解がある。肯定説のいうように、第三者による債権侵害が不法行為になることは、学説、判例の認めるところ であるが、すべての侵害行為が常に不法行為になるわけではない。いかなる侵害行為に違法性を認めるべきか問題で
あり、違法性は、被侵害利益と侵害行為のそれぞれの態様を相関的に考察して決定されるべき価値判断であると解さ ︵2︶ れている。 この場合の債権侵害の態様としては、↑ り債権の帰属自体の侵害、@債権の目的たる給付の侵害、の債務不履行への ︵3︶ 加担があげられている。そこで、実施契約の対象である特許発明またはノウ・ハゥを権限のない第三者が実施する場 合に、この三っの態様に該当するか否かという点について考えてみよう。ω権限のない第三者が実施契約の対象であ る特許発明またはノウ・ハウを実施しても、通常実施権者は当該特許発明またはノウ・ハウを実施することができる から、債権の帰属の侵害とはならない。また@特許発明およびノウ・ハウは無体財産であるから、目的たる給付の侵 害はありえないし、さらにの通常実施権は、実施する権利を専有する権利ではなく、同一範囲において複数の実施権 が存在するものであるから、第三者が権限なしに実施しても、債務不履行に加担したとはいえない。このように権限 のない第三者が当該特許発明およびノウ・ハウを実施しても、債権侵害のいずれの態様にも該当しないから、通常実 ︵4︶ 施権者︵非独占的通常実施権者︶は、不法行為にもとづく損害賠償請求をなすことができない。 これに対して、独占的通常実施権の場合には、不法行為になると解する。独占的通常実施権は、実施許諾者が実施 権者に対して当該特許発明またはノゥ・ハゥの利用を他の者に許諾しないことを約する実施権であるから、独占的通 常実施権者は独占的に実施できる権利を有する︵ただし、実施許諾者は実施することができる︶。したがって、権限 ︵5︶ のない第三者が実施することは、実施権者の独占性を害するから、形式的には目的たる給付の侵害があるといえる。 独占的通常実施権の侵害行為に違法性を認めるべきか否かは、被侵害利益と侵害行為の態様とを相関的に考察して違 実施権者の差止請求権 一〇一
東洋法学
一〇二 法性を判断すべきであるから、権限のない第三者が実施することは、実施権者の独占的実施を侵害することになり不 ︵6︶ 法行為が成立すると解する。 したがって.実施契約の対象である特許発明またはノウ・ハウを無権限で実施する第三者に対して、非独占的通常 実施権者は、不法行為にもとづく損害賠償を請求することはできないが、独占的通常実施権者は、不法行為にもとづ く損害賠償を請求することができると解する。 ︵1︶ ︵2︶ ︵3︶ ︵4︶ ︵5︶ 染野︵義︶六啓︶﹁特許権優害訴訟における実施権者の訴訟適格﹂前掲二〇八頁および申山・前掲四八六頁はこの点につ いて指摘される。 我妻栄・新訂偵権総論七七頁。 加藤一郎・不法行為二八頁以下。於保不二雄・債権総論七六頁.松坂佐丁民法提要債権総論︵第三版︶一二頁.我 妻・前掲七七頁以下参照。 染野︵義Y︵啓︶﹁特許権侵害訴訟における実施権者の訴訟適格﹂前掲∼二五頁以下は、債権侵害の態様の一つとされて いる債権の帰属の侵害については.実施権の侵害がこれに該当しないことはいうまでもないとされ.給付の侵害にあた るか否かもはなはだ疑わしいとされる。なぜならば実施権の侵害すなわち特許権の侵害によっては、債権たる実施権は 消滅するはずはないし、また第三者たる侵害者が直接、特許発萌を実施させるという内容の特許権者の債務不履行を結 果させることはありえないからであるとされ、このようにみてくれば.特許権侵害にもとづく実施権の侵害は、債権侵 害が不法行為となりうる態様のいずれにも該当しないことになり、実施権の侵害が不法行為となりうる余地はほとんど ないと解される。 申由∵前掲四八九頁。︵6︶ 中山・前掲四八九頁以下は、独占的通常実施権が不法行為法上保護されうべきものか否かということは、窮極的には、 特許権者等、独占的通常実施権者、侵害者の三者の利益衡量によって決せらるべきであるとされ、たとえ不法行為の成 立を認めるとしても、侵害者としては請求権者が異なるものの本来請求さるべきものを請求されるにすぎず、特別な不 利益を与えられることにはならないとして、独占的通常実施権の侵害は、一般論としては不法行為を構成すると解され るQ ③ 専用実施権者の差止請求権 專用実施権者は、設定行為で定めた範囲内において、業として当該特許発明の実施をする権利を専有する︵鮎七︶。 したがって、尊用実施権の侵害に対して、専用実施権者は自己固有の権利として差止請求権を行使することができる ︵レ細︶から、特許実施契約においては問題がない。 問題となるのは、ノウ・ハウ契約の場合に、専用実施権者が差止請求権を有するか否かという点についてである。 そこでノウ・ハウ保護の必要性について述べてみよう。ノウ・ハウの保護を広く認めると、発明の公開を奨励する特 ︵1︶ 許制度の意義が失なわれることなどを理由にノウ・ハウの保護について批判的見解がある。 たしかに、発明を公開しないで秘密のまま保持することは、産業の発展、技術の進歩を阻害するものであり、特許 ︵2︶ 制度に反することになる。しかし、ノウ・ハウは経済的価値のある財産であり、企業間における競争上の優位を占め るためにも必要なものである。この価値を支えているのはその秘密性にあり、その秘密性の破壊行為は、ある場合に ︵3︶ は有体物の侵害行為にもまして、競業活動上および流通機構上致命的な結果を招来する。ノウ・ハウは、その技術が 実施権者の差止請求権 一〇三
東洋法学 一〇四 公開されるとその経済的価値は無になるものであるから、不正な手段による侵害から保護することが必要である。 そこで、国際商業会議所︵ぎ罵塁鳳o器圃Ω鋸導げ震無9密鷺角8︶のノウ・ハウ保護に関する決議︵菊①。 な・算εP 甲・δ鼠呂無滅蓼譲−類。嬢︶は、一般にノウ・ハウといわれるところの企業によって開発された技術的改良は、近年 特許およびその他の権利を補完する工業所有権として、非常に価値のある目的物となり、大きな経済的重要性をもつ ようになり、また企業間において重要な契約の鰻的物となっている。したがって、経済的および技術的進歩を促進す るための企業におけ ,,ウ・ハ脅⇔交流を促進するためには.国際的に保護する必、次があるとし、企業が.他の企業 の秘密ノゥ・ハゥ︵急 陰総腰驚跨零≦爵Φ壌︶を.・.、の企業の同慮をえないで使用すること.漏洩すること..爺疲すること ︵尋︶ は不法であるとして.この場合に差止命令もしくは穎害賠償命令またはその両方がで、るとしている、また知的財産 保護国際合同事務局︵騨韓難盤讐欝種蒙榊ぴ器轟捲騒欝欝環貯鷺o紺象欝階罫環8醜綜欝陣纂亀蓉讐凱笹︶が作成し た発明に関する発展途上国のための模範法︵駕&艶罫譲鴎溝O磐㊥ぴ凱轟9巨鼠霧欝ぽお馨ε鵠︶も、第三者によ ︵5︶ る不法な使用.開示︵瓢綻甑8霧⑲︶または伝逢︵9簿霞鉱臓o舞陣S︶から保疫されるとしている︵鷺驚鱗、︶。アメリカおよ びイギリスにおいては、財産理論と信頼関係理論によってノウ・ハウの侵害に対し、損害賠償請求権と差止請求権を ︵6︶ 認めている。 わが国においても、損害賠償論求権を認めることについては学説の認めるところであるが、差止請求権については ︵7︶ 否定する見解が多い。判例は、 ﹁ノゥ・ハウが法律上如何に理解さるべきかは兎もあれ、財産的価値の存することは 明であり、しかも未だ法律的には権利とは認められないものであると云わぎるを得ない。而してノウ・ハウ契約︵技
術援助契約︶により被援助者︵ノウ・ハウについて︶である締約当事者は右契約により知得したノウ・ハウを契約で 限定された範囲外に洩らしてはならない義務を負担することは当然であるが、右義務は契約上の債務であり、約旨に 反して、ノウ・ハウを他に洩らした債務者︵仮処分の債務者ではない、以下同断︶が、契約上の損害賠償等の責を負 うことも疑いないけれども、締約当事者以外の第三者が、債務者より教示され、又は偶然の事情等によりノゥ・ハウ を知得した場合、右ノゥ・ハゥを使用して製作をする場合、これが差止めをすることは、現行法上、特段の規定がな いので、できないものと解するを相当とする。けだし、ノウ・ハウは財産的価値のあるものではあるが、権利︵無体 財産権であるか、債権であるかを問わず︶的なものとして第三者にも強制的にこれを認めさせるだけの効力を法律が 許容しているとまでは現在のところ、解し得ないからである。ノウ・ハウの擁護はこれを保持する者が産業上の秘密 ︵8︶ として他に漏洩することを事実上防止する外はないと云わぎるを得ない﹂と判示して、ノウ・ハウの侵害に対する差 止請求権を否定している。 差止請求権を認めるか否かの問題は、後述のように被侵害利益の強固さの程度と、侵害行為の悪性の度合い、妨害 排除の実現を認めることによって生ずべき侵害者の犠牲の程度と妨害排除を否認することによって生ずべき被害者の ヨ︶ ︵−o︶ 不利益の程度なども相関的に考慮して、その存否を決定しようとする見解が、ノウ・ハゥの侵害の場合にも妥当する。 ノウ・ハウの侵害に対して、差止請求権を認めると次のような点が閥題となる。発明者は、特許和、取得するために 特許の出願をする場合と、発明の公開をきけ、ノウ・ハウとして秘密のまま利用して特許の出願をしない場合とがあ る。特許法は、特許の出願をしても、出願公告されるまで︵遡紅畷亀ハ︶は、出願人に差止請求権を認めていないから、ノ 実施権者の差止請求権 一〇五
磁小 洋 法 鰻ず 一〇六 ︵笠︶ ウ・ハウとの関係が問題となる。 ︵鴛︶ 特許を受ける権利は、発明の完成時において特許要件を具備しているという可能性・蓋然性があれば発生するもの ︵稔︶ であり、その発明を支配、利用する権利と、特許の付与を請求する権利とを有する。すなわち、特許を受ける権利 ︵M︶ は、発明を自由に使用、収益.処分する発明権と特許警、好求権とを含んでいる。したがって、ノウ・ハウは特許出願前 ︵蔦︶ の発明権と同じ性質であると解する。そこで特許を受ける権利︵醐鰯舩翻︶には差止請求権を認めていないが.ノウ・ハ 療に差止請求権壷道いめることとの権衡であ悉.この点については.次のように解する。出願公告きれるまで差止蒲求 権が認められていないのは.特許権として保護されるまでの一過程であり、暫定的な保護である。出願公皆きれると 差止請求権が認められるのであるから、必ずしも軽い保護であるとはいえない。なおノウ・ハクの侵害に対する差止 請求権は、被害者.侵害者の利益考慮によって認められるのであるが、特許権に対する差止請求権はこのような利益 ︵雄︶ 考慮の必要もなく認められるものである。以上の理由によリノウ・ハウの侵害に対して差止請求権を認めてもよいと 解する。ノウ・ハウが侵害された場合に、過去の損害に対しては不法行為による損害賠償を認めても.これはあくま でも事後の救済であり.損害の璽補であるにすぎない。ノウ・ハウは、公開されないで秘密のまま保持されることを 生命とし.公知公用となったときは経済的価値が無になり消滅するものであるから、侵害が現になされている侵害行 ︵鴛︶ 為を阻止することにより.ノウ・ハウの保護はより完全となる。このようにノウ・ハウの侵害に対して差止請求権を 認めることが必要であるし、また認めることができると解する。したがって、ノウ・ハウ契約における専用実施権者 も同様に差止請求権を有すると解する。
しかし、ノウ・ハウは特許権のように排他性がないから、ノウ・ハウの専用実施権者は、後から岡一内容のものを 独力で開発して実施する第三者に対しては差止請求権を行使することはできない。また、実施許諾者が契約に違反し て、当該ノウ・ハウを善意の第三者に教え、これを第三者が実施している場合にも、その実施の差止を請求すること はできない。したがって、ノウ・ハウ契約においては、その対象であるノウ・ハウと同一内容のノウ。ハウを多数の 者が同時に実施するということがありうる。 このように専用実施権者は自己固有の差止請求権を有するのであるが、この場合に実施許諾者も差止請求権を有す るのであろうか。 専用実施権を設定した特許権者に差止請求権を否定する見解は、専用実施権が設定されると、その範囲では特許権 は空権となり、侵害によっても損害を生ずることはありえないから、特許権者は侵害排除の訴を提起することはでき ず、その権能はもっぱら専用実施権者に委ねられることになる。両者共に訴を提起できるということは、相互に訴提 起の負担を負わないことになり、それによって生じた損害をいずれが負担するかという問題を生ずることになる。こ の場合において直接損害をこうむるのは専用実施権者であるが、專用実施権者は特許権者の訴提起を期待してそれが はたされなかったために受けた損害を理由に、実施料減免を特許権者に請求する可能性があり、この点の調整が間題 となるし、特許権者が訴を提起したとして、その訴訟費用を専用実施権者から償還できるかという聞題も生じよう。 こうした解決困難な問題の調整に悩むよりは、むしろ専用実施権の設定された範囲での侵害訴訟適格はすべて専用実 ︵娼︶ 施権者にあるものとして起訴の権能と負担を負わせることが最も合理的であるという。 実施権者の差止講求権 一〇七
東洋法学
一〇八 これに対して、判例は﹁原告が訴外会社に対し設定した実施権が、範囲無制限の專用実施権であるか否かは明らか でない。しかし、たとえそれが範囲無制限の専用実施であるとしてむ、原告が特許法一〇Q条に基く差止請求権を有 することに変りはないと解される。けだし同条及び同法七七条の明文上、特許権者が第三者に対し専用実施権を設定 することによって特許権に基く差止請求権を失うものとは解し難いのみならず、特許権者の專用実施権を設定する関 係は、恰かも所有者が所有物を第三者に使用収益せしめる場合の関係に等しく、あくまでも制限的権利の設定に他な らず.右の場合特昨転鳶が叢止講圭権を失なわないのは所有権者が物上請求権を失わないのと同様でのると解するか ︵欝︶ らである﹂と判示している。学説は.特許権者は専用実施権の範囲内において実施できなくなるときれているが、 ︵鰍.八︶それはあくまで実施に関し、当事者たる特許権者と専用実施権苦との関係であ肇て、惑、、、磁たる侵害者に対する ︵伽︶ 差止請求権を否定するものではないとする見解.特許法第一〇〇条はむしろ専用実施権者の差止請求権の有無に関す る疑間をきけるのが目的で特許権者が差止請求権を有することは当然としているようにみえるし、実質的に考えても 専用実施権を許諾した特許権者に差止請求権を否定すべき理由のないこと、ドイッ法をみても独占的実施権を許諾し たことによって特許権者の差止請求権が当然に否定されていないこと、これらの関係は.あたかも不動産所有者が賃 借権を設定した場合に、賃借権が純然たる偵権性格を脱し物権的な性格を取得していくのににている。賃借権は自ら の利用を仔害されたときに、 、、、除去の請求権をもつことが漸次近時の判例において認められてきてい るのであるが、これによって所有者自身の侵害禁止や除去の請求が否定されるという理論はなく、これとの対比にお ︵忽︶ いても特許権者の差止請求権を否定することはできないとする見解がある。このように見解が対立しており、否定説は、專用実施権が設定されるとその範囲内において特許権は空権になると いうが、これでは特許権の譲渡と同じことになる。専用実施権の設定契約は、実施許諾者の特許発明またはノウ・ハ ︵22V ウの使用・収益権を実施権者に付与するものであり、処分権は実施許諾者にあるから空権となるのではない。また特 許権者に損害がないというが、専用実施権者が第三者の侵害を放置していると、設定行為で定めた期間の経過後に特 ︵23︶ 許権者が実施しようとしたときに利益の損失をうけることがある。特許権者が実施できないのは、専用実施権者が当 該特許発明の実施を専有する範囲においてであり︵撚八︶、第三者の侵害に対しては差止請求を有するのである︵か細︶。判 例が、所有権者が物上請求権を失わないのと同様に特許権者も差止請求権を失わないと判示したのは正当である。し たがって、実施許諾者は、専用実施権の設定後においても差止請求権を有すると解する。 ︵1︶染野︵義︶﹁工業所有権法・不正競争防止法﹂ジュリスト三八八号一二六頁以下、染野︵義Y︵啓︶﹁情報社会における ノウ・ハウ規制の理論﹂ジュリスト四二八号四四頁以下。 ︵2︶ 拙稿﹁ノウ・ハウの現物出資﹂東洋法学一八巻二号七九頁以下参照。 ︵3︶ 紋谷﹁丙き名−餌o嶺およびその保護﹂前掲五七五頁参照。 ︵4︶ 第一条に、工業的ノウ・ハウ︵簿身ω鼠鉱ぎ・≦占o類︶とは、工業目的に役だつ技術を完成し、またはそれを実際に適 用するのに必要な応用技術知識︵毬冨&$9巳8一首o証銭鴨︶、方法および資料をいうと定義している。 ︵5︶第二部において技術的ノウ・ハウ︵臼Φ畠鉱8一ζ○≦占o零︶とは、生産工程︵露鴛焦霧窪は轟鷺08器霧︶または工業 技術の使用および適用に関する知識であると定義している。 ︵6︶ 拙稿﹁ノウ・ハウの法的性質口﹂東洋法学一八巻一号七七頁以下参照。 実施権者の差止請求権 一〇九