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「労働者派遣法における派遣解禁効果に関する実証分析 -建設業務への適用が建設労働市場に与える影響について-」

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労働者派遣法における派遣解禁効果に関する実証分析

-建設業務への適用が建設労働市場に与える影響について-

要旨 労働者派遣法において適用除外業務とされている建設業務に着目し,建設業務への労働者派遣 法適用が建設労働市場に与える影響の分析を行った.建設業務への派遣が解禁された場合の建設 労働市場は,取引費用の低減により就業者数が増加し社会的余剰も増大することが推測される. 本稿では,建設業と製造業を対象に,2004 年に製造業務への派遣が解禁された製造業における 派遣解禁効果の推計を通じて,建設業務への派遣が解禁された場合の建設業への効果を明らかに した.実証分析の結果,派遣解禁により就業者数が増加し,賃金は管理部門を担う高学歴の労働 者の賃金が上昇するとともに,派遣労働者に代替されやすい低学歴の労働者の賃金が低下したこ となどが示された.これは,派遣解禁により市場の歪みが改善されたことを意味していると考え られる. キーワード:建設業務,建設労働市場,労働者派遣法,派遣解禁,製造業務

2013 年(平成 25 年)2 月

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム

MJU12624 湯川大介

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目 次 1.はじめに 2.現状分析 2.1 建設産業の現状 2.2 建設労働市場の現状 2.3 労働者派遣法の変遷 2.4 労働者派遣法における適用除外 3.建設業務における派遣解禁効果の理論分析 3.1 建設労働市場に関する政府の介入 3.2 派遣が解禁された場合の建設労働市場 4.先行研究 4.1 派遣解禁のメリットとデメリット 4.2 製造業務における派遣解禁の効果に関する分析 5.建設業と製造業について 6.製造業務における派遣解禁効果の実証分析 6.1 派遣解禁と就業者数 6.1.1 分析方法と実証モデル 6.1.2 使用するデータ 6.1.3 推定結果 6.2 派遣解禁と賃金 6.2.1 分析方法と実証モデル 6.2.2 使用するデータ 6.2.3 推定結果 6.3 派遣解禁と労働災害発生率 6.3.1 分析方法と実証モデル 6.3.2 使用するデータ 6.3.3 推定結果 7.建設労働災害と雇用形態に関する実証分析 7.1 分析方法と実証モデル 7.2 使用するデータ 7.3 推定結果 8.まとめ 8.1 分析結果のまとめと考察 8.2 政策提言 8.3 分析の限界と今後の課題 参考文献 1 2 2 4 6 7 8 8 9 10 10 11 12 13 15 15 15 16 17 17 17 18 21 21 21 22 23 23 23 24 25 25 25 26 27

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- 1 - 1.はじめに 我が国の建設産業は,近年の建設投資の急激かつ大幅な減少により過剰供給構造となっている. また,競争の激化や昨今の経済情勢等により,建設産業を取り巻く経営環境は大変厳しい状況に ある.特に地方部においては,地域社会を支えてきた建設企業が疲弊し,これまで担ってきた災 害対応等の機能の維持が困難となり,災害対応空白地帯が発生する等の問題が指摘されている. さらには,労働環境の悪化等により,若年入職者の減少と高齢化が著しく進行しており,重層下 請構造における不透明な契約関係の問題が指摘されている1 一方で,1985 年に制定された「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件 の整備等に関する法律」(昭和 60 年法律第 88 号,以下「労働者派遣法」という.)において、建 設業務2は適用除外業務とされているが,建設労働市場には建設企業と労働者の間に,情報の非対 称性に対する資格制度(土木施工管理技士,技術士等)など,政府が介入すべき問題はあるが, それを雇用形態に関する介入という形で対処するのは望ましくないと考えられる.また,建設業 務への派遣が解禁された場合の建設労働市場は,取引費用の低減により就業者数が増加し,社会 的余剰も増大することが推測される.これらのことから,労働者派遣法における建設業務の適用 除外は,今後も維持すべきかどうか検討する必要がある. 本稿は,建設業と製造業を対象に,2004 年に製造業務3への派遣が解禁された製造業における派 遣解禁効果の推計を通じて,建設業務への派遣が解禁された場合の建設業への効果を,DID 分析4 により明らかにすることを目的とする. 2004 年に派遣が解禁された製造業務に関する先行研究は,藤井 (2004),出井 (2010),森岡 (2010), 礒 (2011) などが挙げられる.藤井の研究は製造業務における派遣労働の有効な活用方法について, 出井の著書は労働者派遣法改正をめぐる業界の動きについてのものであり,製造業務への派遣解 禁効果を実証分析したものではない.また,森岡の研究は製造業務への派遣解禁が労働災害事故 の多発を招いていると主張しているが,死傷者数だけに着目している.さらに,磯の研究は製造 業務への派遣解禁が雇用増に与えた影響について実証分析しているが,総務省『事業所・企業統 計調査』の 2001 年と 2006 年のデータを用いた DID 分析であり,法改正の過渡期を越えた分析を したものではない.本稿はより長期的なデータを用いて,就業者数,賃金及び労働災害発生率に 関する派遣解禁の効果を実証分析により明らかにした. 分析の結果,派遣解禁により就業者数が増加し,賃金は管理部門を担う高学歴の労働者の賃金 が上昇するとともに,派遣労働者に代替されやすい低学歴の労働者の賃金が低下したことなどが 示された.さらに,労働災害発生率が有意に上昇しないことなども示された. † 本稿は,建設業務における労働者派遣法適用除外に関する個人的な見解を示したものであり,筆者の所属機関の 見解を示したものではありません.本稿にある誤りは全て筆者の責任です. 1 2010 年 12 月より開催された建設産業戦略会議において,「建設産業の再生と発展のための方策 2011」が取りま とめられた. 2 労働者派遣法第 4 条第 1 項第二号「土木,建築その他工作物の建設,改造,保存,修理,変更,破壊若しくは解 体の作業又はこれらの作業の準備の作業に係る業務をいう.」とされており,本稿ではそれ以外の業務を担う労 働者を含んでいる場合は「建設業」として使い分けている. 3 労働者派遣法附則第 4 項「物の溶融,鋳造,加工,組立て,洗浄,塗装,運搬等物を製造する工程における作業 に係る業務をいう.」とされており,本稿ではそれ以外の業務を担う労働者を含んでいる場合は「製造業」とし て使い分けている. 4

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- 2 - 本稿の構成は次のとおりである.第 2 章は建設産業と建設労働市場の現状,労働者派遣法につ いて整理し,第 3 章は建設業務における派遣解禁効果を理論分析する.第 4 章は先行研究を整理 し,第 5 章は建設業と製造業について整理する.第 6 章は製造業務における派遣解禁効果を実証 分析し,第 7 章は建設労働災害と雇用形態に関する実証分析を行い,第 8 章は分析結果のまとめ と考察,政策提言及び今後の課題について示す. 2.現状分析 建設業務への派遣解禁に関する研究を行うに至った現状について,「建設産業の現状」と「建設 労働市場の現状」,「労働者派遣法の変遷」,「労働者派遣法における適用除外」について整理する. 2.1 建設産業の現状 2011 年 3 月に発生した東日本大震災においては,地震の発生直後から,被災者でもある地元の 建設企業が道路の啓開などの応急復旧活動だけでなく,人命救助にも活躍している様子が日々報 道された5.その後の現在に至るまでの復旧・復興事業においても,道路や橋梁,河川の復旧や, がれき処理,除染などに対して,中心的な担い手としてその力を遺憾なく発揮してきたところで あり,震災を契機として建設産業の果たす重要な役割が再認識されている. これまでも建設産業は,震災や台風災害時だけでなく,2010 年に発生した口蹄疫6の防疫対策な ど,国民生活の安全・安心に密接に関わる重要な役割を果たしてきた.また,震災以降も,2011 年に発生した紀伊半島大水害7や,2012 年に発生した九州北部地方大水害8など,全国各地で災害 が発生しており,災害に強い国土づくりが求められている. このような状況の中,建設産業が過剰供給構造にあることを具体的に明らかにするために,建 設投資額と建設業許可業者数,建設企業の利益率に着目した. まず,建設投資額についてであるが,政府が発注者となる公共工事(政府建設投資)の比重は, 概ね 40%前後で推移している.2011 年度見込みの政府建設投資額は約 17 兆円で,建設投資額ピ ーク時(1992 年度)と比較すると,約 47%減少していることがわかる.【図 1】 次に,建設業許可業者数についてであるが,2012 年 3 月末(2011 年度末)現在の建設業許可業 者数は 483,639 業者で,建設業許可業者数が最も多かった 2000 年 3 月末時点(1999 年度末)と 比較すると,約 19%の減少にとどまっている.【図 2】 次に,建設企業の利益率についてであるが,1991 年度をピークに,建設投資の減少と同様に大 きく下落してきており,1995 年度以降は全産業平均を下回り,現在も低迷が続いている.【図 3】 以上のように,近年の建設投資の大幅な減少等により需給バランスが崩れ,競争が激しい状態 が続いており,建設産業は過剰供給構造にあると考えられる. 5 米田雅子・地方建設記者の会 (2012)『大震災からの復旧―知られざる地域建設業の闘い』ぎょうせい を参照の こと. 6 社団法人宮崎県建設業協会は,2010 年 4 月 20 日から 8 月 27 日の終息宣言までの間,殺処分された家畜の埋却 作業や感染拡大・蔓延防止のための消毒作業など,過酷な現場作業における中心的な役割を果たした. 建設マネジメント技術 (2011.9)『口蹄疫への対応』を参照のこと. 7 2011 年 8 月 29 日から 9 月 7 日にかけての台風 12 号とこれから変わった温帯低気圧による甚大な被害のこと. 8 2012 年 6 月 8 日から 7 月 23 日にかけて一連の気象現象としての梅雨前線及び台風 4 号による甚大な被害のこと.

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- 3 - 32 17 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90(兆円) (年度) 民間建設投資額 政府建設投資額 政府投資額 1992年度 → 2011年度 32兆円から17兆円に47%減 600,980 483,639 0 10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000 80,000 0 100,000 200,000 300,000 400,000 500,000 600,000 新規(廃業等) 業者数 許可業者数 (年度) 許可業者数 新規業者数 廃業等業者数 許可業者数 1999年度 → 2011年度 約60万業者から約48万業者に約19%減 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5(%) (年度) 建設業(営業利益率) 建設業(経常利益率) 全産業(営業利益率) 全産業(経常利益率) 図 1 建設投資額の推移9 図 2 許可業者数・新規及び廃業等業者の推移10 図 3 建設企業の利益率の推移11 9 出所:国土交通省『建設投資見通し』のデータを基に筆者が作成した.2009 年度まで実績,2010 年度・2011 年 度は見込み,2012 年度は見通しである. 10 出所:国土交通省『建設業許可業者数調査』のデータを基に筆者が作成した. 11 出所:財務省『法人企業統計調査』のデータを基に筆者が作成した.なお,全産業とは,金融業,保険業を除 く全業種を表しており,営業利益率とは,売上高営業利益率(当期末),経常利益率とは,売上高経常利益率(当 期末)を表している.

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- 4 - 6,557 6,257 685 498 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000(万人) (年) 全産業 建設業 1997年 → 2010年 全産業の就業者数 6,557万人から6,257万人に(約4.6%減) 建設業の就業者数 685万人から498万人に(約27%減) 0.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% 25.0% 30.0% 35.0% (%) (年) 建設業(55歳以上) 全産業(55歳以上) 全産業(29歳以下) 建設業(29歳以下) 1992年の建設業 55歳以上 22.3% 29歳以下 18.4% 2010年の建設業 55歳以上 33.1% 29歳以下 11.6% 2.2 建設労働市場の現状 建設産業が過剰供給構造にある中で,建設労働市場がどのような現状にあるのかを把握するた め,就業者数と就業者の年齢構成,賃金(給与所得),入職状況に着目した. まず,就業者数の推移についてであるが,建設業の就業者数(2010 年推計)は 498 万人で,ピ ーク時(1997 年)から約 27%減少している.なお,この建設業就業者数には,専門的・技術的職 業従事者や建設作業者だけでなく,管理的職業や事務・販売従事者等も含まれている.【図 4】 図 4 就業者数の推移12 次に,就業者の年齢構成の推移についてであるが,建設投資のピーク時(1992 年)には,55 歳 以上が 22.3%,29 歳以下が 18.4%であったところ,2010 年には 55 歳以上が 33.1%,29 歳以下が 11.6%と高齢化が進行しており,他産業との差も年々広がる傾向にある.【図 5】 図 5 就業者の年齢構成の推移13 12 出所:総務省『労働力調査』のデータを基に筆者が作成した.2010 年まで実績,2011 年は推計値である. 13 出所:総務省『労働力調査』のデータを基に筆者が作成した.2010 年まで実績,2011 年は推計値である.

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- 5 - 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000 4,500 (千円) (年) 建設業 全産業 38.4% 20.1% 0% 5% 10% 15% 20% 25% 30% 35% 40% 45% 50% (年) 製造業(24歳以下) 建設業(24歳以下) 建設業の24歳以下の入職者数割合 1992年 → 2011年 38.4%から20.1%に減 次に,賃金(給与所得)についてであるが,建設業の年間賃金は 1995 年以降,継続的に減少傾 向にある.【図 6】 図 6 賃金(給与所得)の推移14 次に,建設業への入職状況についてであるが,若年入職者数の推移を見てみると,24 歳以下の 若年入職者数の割合は,1992 年には 38.4%であったが,2010 年には 20.1%に減少するなど,近年, 製造業と比較して低い傾向にある.【図 7】 図 7 若年入職者数の割合の推移15 以上のように,労働環境の悪化等により,若年入職者の減少や高齢化が著しく進行しており, 建設生産を支える技能・技術の承継が困難となっていることから,建設業務労働者の確保及び雇 用の安定を図ることが喫緊の課題となってきている. 14 出所:国税庁『民間給与実態統計調査』のデータを基に筆者が作成した. 15 出所:厚生労働省『雇用動向調査』のデータを基に筆者が作成した.1992 年と 1997 年のデータは,同調査を 基に国土交通省が作成した資料を参考にした.

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- 6 - 2.3 労働者派遣法の変遷 労働者派遣とは,「自己の雇用する労働者を,当該雇用関係の下に,かつ,他人の指揮命令を受 けて,当該他人のために労働に従事させることをいい,当該他人に対し当該労働者を当該他人に 雇用させることを約してするものを含まないものとする.」(労働者派遣法第 2 条第 1 号)と定義 されている. 労働者派遣法に関する歴史的経緯については岡村 (2009) が詳しい.岡村の研究によると,第 2 次世界大戦後の職業安定法(1947 年(昭和 22 年)法律第 141 号)制定時に,労働者供給事業は 封建的な雇用慣習の名残であり,労働の民主化を図ろうとする日本国憲法の精神に反するものと され,それまで広く行われてきた労働者供給事業が原則禁止された.労働者派遣業は労働者供給 事業にあたり禁止されていたが,1966 年(昭和 41 年)にアメリカの人材派遣会社の子会社がわ が国に設立され,外部の事務処理業の利用がわが国でも広まってきたことからその是非を検討せ ざるを得なくなり,労働者派遣法を制定し,同時に職業安定法を改正することで,労働者派遣業 を合法化することになったという経緯がある. 当初は,日本的雇用慣行16を保護するための方途として,専門業務等あらかじめ定められた業務 に限り労働者派遣を認めるものであり,13 業務に限定(ポジティブリスト)して労働者派遣を行 うことが可能であったが,すぐに 3 業務が追加され 16 業務になり,さらに 10 業務が追加され 26 業務となった.その後,1999 年の改正で,特定の禁止業務(ネガティブリスト)以外は労働者派 遣が可能となり,さらに,2004 年の改正では製造業務への派遣が可能となった17【表 1】 労働者派遣法における適用除外に関する先行研究としては佐野 (2009) があり,適用対象となっ た業務での派遣の状況に関する内容は興味深い. 表 1 ポジティブリスト時の適用対象業務18 26 業務(号は,1996 改正時) (1986 施行時) 1 号 ソフトウェア開発 5 号 事務用機器操作 6 号 通訳、翻訳、速記 7 号 秘書 8 号 ファイリング 9 号 調査 10 号 財務処理 11 号 貿易取引文書作成 12 号 デモンストレーション 13 号 添乗 14 号 建築物清掃 15 号 建築設備運転、点検、整備 16 号 案内・受付、駐車場管理等 (1986 改正時に追加) 2 号 機械設計 3 号 放送機器等操作 4 号 放送番組等演出 (1996 改正時に追加) 17 号 研究開発 18 号 事業の実施体制の企画、立案 19 号 書籍等の製作・編集 20 号 広告デザイン 21 号 インテリアコーディネーター 22 号 アナウンサー 23 号 OAインストラクション 24 号 テレマーケティングの営業 25 号 セールスエンジニアの営業、 金融商品の営業関係 26 号 放送番組等における大道具・小道具 16 岡村 (2009) によると,「新規学卒者を常用雇用として雇い入れ,企業内でキャリア形成を図りつつ,昇進,昇 格させるというわが国の雇用慣行」とされている. 17 1999 年の改正時は,製造業務は適用除外業務だった.附則第 4 項「何人も,物の製造の業務であつて,その業 務に従事する労働者の就業の実情並びに当該業務に係る派遣労働者の就業条件の確保及び労働力の需給の適正 な調整に与える影響を勘案して労働省令で定めるものについては,当分の間,労働者派遣事業を行つてはならな い.(以下略)」 18 出所:「労働者派遣法」を基に筆者が作成した.

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- 7 - 2.4 労働者派遣法における適用除外 労働者派遣法における適用除外業務には,港湾運送業務,建設業務,警備業務,「その業務の実 施の適正を確保するためには業として行う労働者派遣により派遣労働者に従事させることが適当 でないと認められる業務」として政令で定める業務19がある. 建設業務が適用除外業務とされている理由は,「現実に,重層的な下請関係のもとで業務処理が 行われているなかで,建設労働者の雇用の改善等に関する法律により,請負形態として,雇用関 係の明確化,雇用管理の近代化等の雇用改善を図るための措置が講じられており,労働者派遣事 業という新たなシステムを導入することは,雇用改善を図るうえでかえって悪影響を及ぼすこと となり適当ではない」20こととされており,1985 年の労働者派遣法制定時から適用除外業務とさ れている. 一方で,2002 年の公正取引委員会「政府規制等と競争政策に関する研究会報告書」は,建設業 務においても機械化や近代化が進んでおり,機械操作等に従事する専門スタッフの派遣を求める ニーズが高まっていることや,建設労働の分野における重層的な下請慣行を前提とした雇用関係 を今度とも維持しなければならない必然性はないという理由で,労働者派遣事業を建設業務につ いても解禁することを検討する必要があると主張している21 さらに,重層下請構造は,間接経費の増加による生産性の低下・労務費へのしわ寄せ,施工責 任の不明確化・品質の低下,安全指示の不徹底等による安全性低下といった問題を生じさせ,結 果として経済的に不合理との指摘がある.重層下請構造が進んだ要因としては,建設生産の内容 の高度化等による専門化・分業化の進展だけでなく,受注産業の特性としての業務量の増減及び 繁閑の発生への対応,外注によるコスト削減への対応が挙げられる22【図 8】 図 8 建設工事の施工形態のイメージ23 19 政令により適用除外業務とされている業務としては,医療関係業務がある. 20 労働省職業安定局長 (1987)『人材派遣法の実務解説』労務行政研究所 p.51~52 を参照のこと. 21 公正取引委員会 (2002)「政府規制等と競争政策に関する研究会報告書」資料 4 p.48 を参照のこと. 22 国土交通省建設産業戦略会議 (2011)『建設産業の再生と発展のための方策 2011』p.7 を参照のこと. 23 出所:『建設産業の再生と発展のための方策 2011』を参考に筆者が作成した. 総合工事業者(ゼネコン) A 社 A3a A3b A2a A2b B 社 B3a B3b B2a B2b C 社 C3a C3b C2a C2b D 社 D3a D3b D2a D2b 2 次 下請 3 次 下請 1 次 下請 専門工事業(基礎) 専門工事業(躯体) 専門工事業(仕上) 専門工事業(設備)

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- 8 - 3.建設業務における派遣解禁効果の理論分析 前章では,建設産業と建設労働市場の現状について整理し,労働者派遣法の変遷と建設業務が 労働者派遣法において適用除外業務とされている理由について確認した.本章では,「建設労働市 場に関する政府の介入」と,「派遣が解禁された場合の建設労働市場」という観点から理論分析を 行う. 3.1 建設労働市場に関する政府の介入 福井 (2007) によると,政府の法などによる市場介入が正当化されるのは,いわゆる「市場の失 敗」がある場合に限られることから,建設業務を労働者派遣法の適用除外業務としていることに ついて,「市場の失敗」の 5 つの観点から整理することとする. 第 1 は「公共財」であるが,「公共財」とは,他人を排除することが不可能でかつ競合的でない 財・サービスのことである.建設労働市場(サービス)は,ある建設企業がある労働者を雇用す ると他の建設企業は受益者になることができず,排除することができる.また,ある労働者が雇 用されると他の労働者の雇用先が減少することから競合的である.したがって,建設労働市場(サ ービス)は私的財であって,公共財ではない. 第 2 は「外部性」であるが,「外部性」とは,市場取引を通じないで他者にもたらす利益又は不 利益のことである.建設労働市場(サービス)は,現場での事故の発生など危険が伴う労働環境 にあることから,自由な競争の下では安全衛生上の不利益(重大事故の増加等)がもたらされる のではないかという議論もあるが,労働安全衛生法(1972 年(昭和 47 年)法律第 57 号)による 規制等とともに,賃金により市場に反映されると考えられることから,雇用形態に関する介入と いう形で外部性を理由とした建設労働市場(サービス)への介入には理由がないと考えられる. 第 3 は「取引費用」であるが,「取引費用」とは,財やサービスの取引に際して要する時間・労 力・金銭などの負担のことである.建設労働市場(サービス)においては,雇用の際の採用事務 や人事管理等が考えられるが,一般的には,直接雇用や請負契約よりも派遣の方が取引費用は小 さいことから,交渉コストの削減のための特別な政府介入が必要だという論拠は成り立ちにくい と考えられる. 第 4 は「情報の非対称」であるが,「情報の非対称」とは,財やサービスについて,消費者と生 産者との間で知る情報に格差がある場合のことである.建設労働市場(サービス)においては, 現場の作業環境や作業内容等,労働者の技術力や経験等が考えられるが,消費者(建設企業)側 の対策としては,労働基準法(1947 年(昭和 22 年)法律第 49 号)における労働条件の明示24 生産者(労働者)側の対策としては,土木施工管理技士や技術士などの国家資格によるシグナリ ングや現場でのモニタリングなどがある.また,生産者(労働者)側が情報優位な場合には「逆 選択」と呼ばれる問題が起こることが知られているが,福井・大竹 (2006) によると,この問題も 解決できると考えられることから,雇用形態に関して「情報の非対称」対策として介入すること の合理性はないと考えられる. 24 労働基準法第 15 条 1 項「使用者は,労働契約の締結に際し,労働者に対して賃金,労働時間その他の労働条件 を明示しなければならない.この場合において,賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める 事項については,厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない.」とされている.

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- 9 - 賃金(円) 就業者数(人) P0 Q0 取引費用を 差し引いた 労働需要 取引費用 の低減 名目上の賃金は 上昇するかどうか わからないが、 実質の賃金は 上昇する 派遣解禁 前 派遣解禁 後 第 5 は「独占・寡占・独占的競争」であるが,「独占」とは,ある生産者がその製品の唯一の生 産者であって,製品の密接な代替財がない場合のことをいう.「寡占」とは,少数の売り手が,類 似又は同一製品を提供する市場であり,「独占的競争」とは,多くの企業が,類似しているが同質 でない製品を提供する市場のことである.建設労働市場(サービス)では,建設企業も労働者も 多数存在し,かなり競争的であることから,政府による介入を合理化することは困難である. 以上の「市場の失敗」の論拠から見ると,建設労働市場(サービス)には,情報の非対称性に 対する資格制度(土木施工管理技士、技術士等)など,政府が介入すべき問題はあるが,それを 雇用形態に関する介入という形で対処するのは望ましくないと考えられる. 3.2 派遣が解禁された場合の建設労働市場 建設業における現在の労働力の調達方法は,大きく分けると直接雇用と間接雇用の2つに分類 される.直接雇用は,正社員,契約社員,アルバイトなどが該当し,間接雇用は,下請負による 労働力の調達が該当する.前章のような状況にある場合,建設企業は長期の経営計画を立てるこ とが困難な状況にあることから,建設工事を多く受注できたときとそうでなかったときで必要な 雇用量の中間のような労働者数をあらかじめ選択しておき,その上で追加の建設工事を受注でき た後に必要ならば一定のコストを支払うことで微調整を行うといった企業行動が予想される25 建設企業が雇用量の一時的な微調整を行う場合には,正社員として新たに直接雇用することは 考えにくいことから,短期間で臨時的に直接雇用するか,他企業と下請負契約するかのいずれか を選択することとなる.下請負の場合,元請の建設企業は下請建設企業の労働者に対して直接指 揮命令することができず,下請建設企業は主任技術者を配置する必要があることなどから,必要 な雇用量に対する労務費だけでなく,管理費等の取引費用が元請建設企業の現場管理費として新 たに発生することとなる.短期間で臨時的に直接雇用する際も,採用活動や賃金支払いを含む労 務管理の費用が取引費用として必要となり,労務管理費用の増加の一部は労働者の賃金低下によ って吸収される可能性もある26.もし,建設業務において派遣が解禁された場合には,これらの取 引費用が低減できるものと考えられる. ここで,建設業務に派遣が解禁された場合の 建設労働市場について考えてみると,派遣解禁 は,取引費用の低減により,賃金が少し安くて も働きたいという人が現れるという効果と,取 引費用の低減で賃金が少し高くても雇いたいと いう企業が現れるという効果がある.図 9 のよ うに,供給曲線と需要曲線が右にシフトすると 考えられることから,就業者数は増加すると考 えられ,社会的余剰(網掛部)も増大すること が期待できる. 図 9 派遣解禁のイメージ 25 福井・大竹 (2006):『格差社会と雇用法制』p.122 を参照のこと. 26 安藤 (2008):日本労働研究雑誌 (No.579/October 2008) p.11~12 を参照のこと.

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- 10 - 4.先行研究 前章では,建設業務に派遣が解禁された場合に,就業者数が増加し社会的余剰も増大すること が期待できるとしたが,2004 年に製造業務への派遣が解禁された製造業においては,派遣労働の 有効な活用方法に関する研究以外に,「就業者数増に至る程の効果がなかった」という研究や,賃 金の低下,労働災害事故の多発等を主張する研究が見られることから,本章では,「派遣解禁のメ リットとデメリット」と,「製造業務における派遣解禁の効果に関する分析」という観点で先行研 究について整理する. 4.1 派遣解禁のメリットとデメリット 派遣解禁のメリットとデメリットに関する研究としては島貫 (2010) があり,メリットとして労 働者自身が仕事や職場を選べる自由度の高さや,勤務時間や勤務地の柔軟性の高さを挙げており, デメリットとしては派遣会社との雇用契約が短期的であるために雇用を安定化しにくく,仕事内 容から見て相対的に賃金が低く,能力や技能を向上させるための学習機会にも乏しいことを挙げ ている27 岡村 (2009) は,派遣労働に限らず間接雇用は労使の関係が複雑となり,労働法上の雇用者とし ての責任があいまいになりがちになることが大きな問題であるとして,間接雇用が重用されるの は,募集・採用等の手間やコストが省けることのほか,直接雇用の場合に生じる雇用者責任が回 避でき,この面でも手間やコストが省けることが大きな要因になっていることは否めないとした 上で,派遣労働者の保護としては,安全衛生の確保,均等・均衡待遇,マージン規制等の主張が あることを示している28 安藤 (2009) は,派遣労働と非正規労働の問題について,真に問題なのは,長期に安定した雇用 を望む労働者がそのような仕事を見つけられないために仕方なく非正規で働くこと,つまり「望 まない非正規労働」であるとしている.そして,経済学における契約理論の考え方を用いて,企 業が労働者を正社員として雇用する理由を考えた上で,非正規雇用が増えている理由について検 討している.また,長期雇用を実現するためには労働条件の変更ルールをより企業側に有利にす る必要があること,そして労働者の多様化に対応して契約類型の多様化が必要であるとしている29 大竹・李 (2011) は,派遣労働に関する経済学者の議論として,派遣はマッチングの専門家が仲 介するため仕事に対する需要と供給を素早く調整するので,求職側にとっては職探しの期間を, 求人側にとっては空きポストの期間を短くすることができるとしている.これは,派遣解禁によ り円滑な雇用調整(取引費用の低減)が期待できることを示していると考えられる.その上で, 派遣労働者の時間割引率の特性に着目した分析により,正社員という安定的な仕事への「踏み石」 として効果がある労働者もいれば,派遣労働に止まる労働者もいることを明らかにしている30 27 島貫 (2010):日本労働研究雑誌 (No.597/April 2010) p.58~59 を参照のこと. 28 岡村 (2009):レファレンス (2009.10) p.132~136 を参照のこと. 29 安藤 (2009):経済セミナー (2009.5) p.2,9 を参照のこと. 30

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- 11 - 4.2 製造業務における派遣解禁の効果に関する分析 製造業務における派遣解禁に関する研究としては,まず藤井 (2004) があり,派遣解禁直後に, 「製造業務における派遣労働解禁が生産現場の就業構成にどのような変化を起こすのか」と「製 造業務における派遣労働の有効な活用方法」について考察している.その中で,製造業務におけ る派遣解禁のメリットとして,人員調整の容易化,直接指揮命令による業務の効率化,デメリッ トとして,技能レベルの低下,技能教育の困難化を挙げている31 また,製造業務での派遣労働活用については,派遣解禁後には多くの生産現場で派遣労働が活 用されるが,請負労働が完全に派遣労働に置き換わっていくということではなく,請負労働と派 遣労働とが併用され,非熟練業務が派遣労働の主な活用分野となり,派遣労働解禁後も非熟練業 務の労働力は依然,請負労働が中心であり,派遣労働は業務の繁閑に併せた「人員調整機能」と して活用されると考察している32 出井 (2010) の著書は,主に労働者派遣法改正をめぐる業界の動きについて記述されたものであ る.製造業務への派遣解禁は 2004 年であったが,派遣業の許可を取得すると労働局の管轄となり, そのチェック体制下に置かれるため,請負として事業を継続していくのが得策と当時は考えられ ていた.2006 年 7 月に製造業における偽装請負が新聞報道されて以降,業界内では請負から派遣 への契約変更が加速した.さらに,派遣期間が 3 年を超えると,派遣先は派遣労働者に直接雇用 を申し出る義務が生じるが,2006 年に製造業の多くの現場で一気に派遣契約に移行したため,2009 年にはそのほとんどが「派遣抵触日」を迎え,同じ職場で派遣労働者を受け入れることができな くなる「2009 年問題」が発生し,そこにリーマン・ショック33が起こり,いわゆる「派遣切り」 と言われる社会問題が発生したとされている34 森岡 (2010) は,派遣労働者が置かれた状態の劣悪さが労働災害事故の多発に表れているとし, その根拠として厚生労働省が発表した派遣労働者の労働災害による死傷者数の人数の推移のみに 着目して,製造業務への派遣解禁が労働災害事故の多発を招いていると主張している35 礒 (2011) は,製造業務への派遣解禁が製造業の雇用増に与えた影響について実証分析し,製造 業務への派遣解禁は雇用増(就業者数増)に至る程の効果はなかったとしているが,実証分析は 総務省『事業所・企業統計調査』の 2001 年と 2006 年のデータを用いた DID 分析であり,前述し た出井 (2010) にあるような 2006 年と 2009 年の問題がコントロールされていない.また,DID 分析におけるコントロールグループに農林漁業や金融・保険業,不動産業なども含めており,コ ントロールグループの選定については再考の余地があると考えられる. 以上により,本稿における就業者数に関する実証分析にあたっては,より長期的なデータを用 いるために総務省『国勢調査』のデータを用いることとし,DID 分析におけるコントロールグル ープは建設業のみとした. 31 藤井 (2004) の研究は,製造業務に関わる事業所や工場に対して 2003 年の 2 月に実施したアンケート調査の結 果によるものである. 32 藤井 (2004):オイコノミカ (第 41 巻第 2 号) pp.6~7 を参照のこと. 33 2008 年に,アメリカ合衆国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズが破綻した出来事を,これが世界的金融危 機の大きな引き金となったことに照らして呼ぶ表現のこと. 34 出井 (2010):日経 BP コンサルティング(2010)『派遣鳴動』p.38~54 を参照のこと. 35 森岡 (2010):成瀬龍夫博士退職記念論文集 (第 382 号) p.27,44 を参照のこと.

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- 12 - 5.建設業と製造業について 本稿は,建設業務における労働者派遣法適用が建設労働市場に与える影響を分析するものであ るが,建設業務への派遣が解禁されたことがないことから,直接的に建設業務への派遣解禁の効 果を分析することはできない.そこで,派遣解禁の政策効果を分析するにあたって,建設業と製 造業が他産業と比較して類似していることから,2004 年に製造業務への派遣が解禁された製造業 における派遣解禁の効果を通じて,建設業務への派遣が解禁された場合の効果を推計することと した. 建設業と製造業が類似しているとした理由は3つある.第 1 に金本 (1999) によると,政府(国、 都道府県、市町村)が発注者となることが多い(つまり「公共工事」の比重が高い)という一点 を除けば,建設産業は特殊な存在ではないとされている36.さらに,建設業の産業特性とされてい る,①発注者第一の請負業であること,②単品受注産業であること,③現地野外で行われる「天 気産業」であること,④総合加工産業であり,工程ごとの分業生産として行われること,⑤労働 集約型産業であること,の 5 つの特性については,製造業にも同様に言えると考えられる. 第 2 に日本標準産業分類(2007 年 11 月改定)の大分類によると,農業・林業から医療・福祉, サービス業まで 20 に分類されているが,建設材料,その他の製品を生産又は販売する事業所が, 自己の生産品又は販売品を用いる建設工事(機械装置のすえ付け,解体,移設工事を除く)を併 せ営む場合には,主な業務により製造業,卸売業又は建設業に分類される37ことから,他産業と比 べれば建設業と製造業は類似産業であると考えられる. 表 2 日本標準産業分類(2007 年 11 月改定) 大分類 A 農業,林業 B 漁業 C 鉱業,採石業,砂利採取業 D 建設業 E 製造業 F 電気・ガス・熱供給・水道業 G 情報通信業 H 運輸業,郵便業 I 卸売業,小売業 J 金融業,保険業 K 不動産業,物品賃貸業 L 学術研究,専門・技術サービス業 M 宿泊業,飲食サービス業 N 生活関連サービス業,娯楽業 O 教育,学習支援業 P 医療,福祉 Q 複合サービス事業 R サービス業(他に分類されないもの) S 公務(他に分類されるものを除く) T 分類不能の産業 第 3 に総務省『事業所・企業統計調査』によると,2006 年の就業者数38に対する他からの派遣・ 下請従業者数の割合は,全産業平均で 5.0%,製造業平均で 9.6%となっている.また,中小企業 庁『中小企業実態基本調査』によると,2010 年の下請企業数39の割合は,建設業を除く全産業平 均で 8.9%,製造業平均で 18.6%となっている.これらのことから,他産業と比べて製造業は下請 依存率が高いと考えられ建設業と類似していると考えられる. 36 金本 (1999):『日本の建設産業』日本経済新聞社 p.15,28~30 を参照のこと. 37 日本標準産業分類(2007 年 11 月改定)大分類D-建設業 総説「建設業と他産業との関係」参照のこと. 38 総務省『事業所・企業統計調査』における「従業者数」から「他への派遣・下請従業者数」を差し引いて「他 からの派遣・下請従業者数」を足して算出した. 39 親事業者からの下請があった企業数.下請代金支払遅延等防止法において対象とする取引の内容により,親事 業者の資本金区分が異なる.必ずしも資本関係のある親会社ではない.

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- 13 - 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600(万人) 万 (年) 製造業 就業者数 建設業 就業者数 6.製造業務における派遣解禁効果の実証分析 本章では,2004 年に製造業務への派遣が解禁された製造業における派遣解禁の効果を実証分析 するにあたり,以下のとおり仮説を3つ設定した. 仮説① 派遣解禁により,就業者数が増加したのではないか 仮説② 派遣解禁により,賃金(直接雇用)が上昇したのではないか 仮説③ 派遣解禁により,労働災害発生率が上昇したのか 実証分析する前に,製造業と建設業について,就業者数と賃金,労働災害死傷者数の状況を概 観する. まず,就業者数についてであるが,製造業の就業者数は 1990 年以降減少傾向にある.【図 10】 これは,90 年代前半期からの国際競争の激化と為替相場の変動や,2008 年のリーマン・ショック を契機とした世界不況の影響を受けているものと考えられる.建設業の就業者数は,建設投資額 の推移と同じような傾向を示している.2010 年の就業者数は,製造業が約 950 万人,建設業が約 450 万人となっており,製造業のうち 2010 年に製造業務に従事した派遣労働者数は約 24 万人40と 発表されていることから,製造業全体に占める製造業務の派遣労働者の割合は,約 2.5%というこ とになる. 図 10 就業者数の推移41 次に,賃金についてであるが,賃金に関する調査である厚生労働省『賃金構造基本統計調査』 は,賃金を労働者に直接支払っている事業所に対して調査が行われることから,製造業のデータ には製造業務への派遣労働者の賃金データは含まれておらず,他産業への派遣労働者と一括して サービス業に分類されている.また,製造業務への派遣労働者の賃金は,厚生労働省『派遣労働 者実態調査』において平均賃金が公表されているが,ここでは,派遣解禁が賃金にどのような影 響を与えたのかを分析するため,厚生労働省『賃金構造基本統計調査』における一般労働者(製 造業務への派遣労働者は含まれていない)の賃金のデータで分析することとする. 40 厚生労働省「労働者派遣事業の平成 22 年 6 月 1 日現在の状況」を参照のこと. 41 出所:総務省『国勢調査』のデータを基に筆者が作成した. 製造業務 派遣解禁

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- 14 - 0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000 300,000 350,000 400,000 (円) (年) 建設業 賃金 製造業 賃金 0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 40,000 45,000 50,000(人) (年) 製造業(派遣のみ) 製造業(派遣含む) 建設業 厚生労働省『賃金構造基本統計調査』における賃金とは,所定内給与額(調査年の 6 月分とし て支給された現金給与額から,超過労働給与を除いたもの)とされている.1995 年以降の傾向を 見ると,製造業,建設業ともに,大きな変動はないようである.【図 11】 図 11 賃金(直接雇用の一般労働者)の推移42 次に,労働災害発生についてであるが,厚生労働省『労働者死傷病報告』における休業4日以 上の死傷者数の推移を見ると,製造業,建設業ともに減少傾向にあることがわかる.また,『派遣 労働者の労働災害発生状況』より,製造業における 2010 年の派遣労働者の死傷者数割合は,約 6.1%となっていることがわかる.これは,就業者数における派遣労働者の割合の 2.5%より大き い数字となっているが,就業者数には営業や事務の社員も含まれていることから,単純に比較は できないものと考えられる.【図 12】 図 12 労働災害死傷者数の推移43 以降,それぞれの仮説に対して,分析の方法と推計式,使用するデータについて整理し,推定 結果について考察する. 42 出所:厚生労働省『賃金構造基本統計調査』のデータを基に筆者が作成した. 43 出所:厚生労働省『労働者死傷病報告』及び『派遣労働者の労働災害発生状況』のデータを基に筆者が作成し た. 製造業務 派遣解禁 製造業務 派遣解禁

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- 15 - 6.1 派遣解禁と就業者数 仮説①「派遣解禁により,就業者数が増加したのではないか」について実証分析する. 6.1.1 分析方法と実証モデル 2004 年に施行された製造業務への派遣解禁は,全国一律に一斉に施行されていることから,直 接的にその影響を実証分析することはできない.したがって,実証分析における推定モデルとし て DID 分析の手法を用いることとする. DID 分析は,政策変化があるグループ(トリートメントグループ)と政策変化がないグループ (コントロールグループ)がはっきりしているときに適しており,本稿では,製造業務と建設業 務において,元々は両方の業務が労働者派遣法の適用除外業務とされていたが,法改正により 2004 年 3 月から製造業務のみが適用対象業務となり,建設業務は現在も適用除外業務とされているこ とから DID 分析が適していると考えられる. 一方で,DID 分析は,トリートメントグループ(製造業)またはコントロールグループ(建設 業)だけが経験した,2004 年 3 月の派遣解禁以外の効果があり,それがコントロールされていな いと派遣解禁の効果に含まれて推計されてしまうため,それぞれのグループだけが影響を受けた 環境変化を把握し,それをコントロール変数として加える必要がある. 分析方法は,総務省『国勢調査』が実施された 1990 年,1995 年,2000 年,2010 年の 4 年分44 都道府県別産業別(製造業・建設業)パネルデータを作成した上で,就業者数を被説明変数とす る推計式(式 1)を構築し,OLS(最小二乗法)を用いた回帰分析を行う.解析ソフトは STATA を用いる.

ln(Employee)ijt= α+β1(Manufacturing)i+β2(Year)t+β3{(Manufacturing)i× (Policy)t}+β4(Prefecture)j

+β5ln(Population)jt+β6(Economy)it+β7{(Economy)it× (Manufacturing)i} + 𝜀ijt ・・・ 式 1

i:産業(製造業,建設業) j:都道府県 t:時間 6.1.2 使用するデータ 被説明変数 Employee は,就業者数(人)の対数値とし,総務省『国勢調査』の中にある『16 労働・賃金』の都道府県別産業別の就業者数を就業者数とした45 Manufacturing は製造業ダミーで,政策変化の影響を受けたグループ(製造業)なら 1,政策変 化の影響を受けていないグループ(建設業)なら 0 となるダミー変数である. Year は年ダミーで,国勢調査が実施された 1990 年,1995 年,2000 年,2010 年でそれぞれ該当 年を 1,それ以外を 0 とするダミー変数である. Policy は政策導入ダミーで,派遣解禁(2004 年)以降に 1,派遣解禁前(2003 年まで)に 0 と なるダミー変数である. Prefecture は都道府県ダミーで,47 都道府県について,それぞれ該当県を 1,それ以外を 0 とす るダミー変数である. 44 労働者派遣法に基づく派遣労働者は,2010 年調査から派遣先で実際に従事する産業を基に分類されることとな ったことから,2005 年調査のデータは採用しないこととした. 45 「就業者」とは,調査週間中,賃金,給料,諸手当,営業収益,手数料,内職収入など収入(現物収入を含む.) を伴う仕事を少しでもした人(休業者等も含める)とされている.

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- 16 - Population は生産年齢人口で,総務省『国勢調査』の中にある『第 5 表 年齢(3 区分)別人口』 の都道府県別の 15 歳から 64 歳までの人口を生産年齢人口とし,対数値とした. Economy は景況指数で,日本銀行『全国企業短期経済観測調査』の時系列統計データから,前 年 10 月から該当年 9 月までの,製造業・建設業の業況(DI)平均値を景況指数とした46 就業者数の分析に使用する変数の基本統計量は,表 3 に示してある. 表 3 主な変数の基本統計量

Variable Obs Mean Std. Dev. Min Max ln(Employee) 376 11.781 0.851 10.085 14.046 Manufacturing 376 0.500 0.500 0 1 Policy 376 0.250 0.433 0 1 Prefecture 376 0.021 0.144 0 1 ln(Population) 376 14.070 0.767 12.771 15.995 Economy 376 -1.218 31.127 -30.750 63.750 6.1.3 推定結果 推定結果は表 4 のとおりである.OLS による分析は,説明変数による影響を確認するため,景 況指数を投入するかどうかにより OLS①から OLS③までの 3 パターンとした.

分析の結果,OLS②と OLS③では,DID estimator である製造業ダミーと政策導入ダミーの交差 項は,有意にプラスの結果が得られた.OLS③では,派遣解禁により製造業の就業者数が約 13% 増加したことを示している.これは,派遣解禁には就業者数を増加させる効果があることを示し ているが,実際には就業者数が減少していることから,派遣解禁により減少幅を抑えることがで きたと考えることができる. 表 4 推定結果 ln(Employee)

OLS① OLS② OLS③

Coef. Std. Err. Coef. Std. Err. Coef. Std. Err.

Manufacturing 0.662 0.027 *** 0.577 0.035 *** 0.619 0.041 *** Year_1995 0.034 0.033 -0.373 0.113 *** -0.088 0.185 Year_2000 -0.022 0.033 -0.488 0.128 *** -0.179 0.204 Year_2010 -0.278 0.058 *** -0.862 0.165 *** -0.516 0.242 ** Manufacturing ×Policy -0.009 0.054 0.166 0.071 ** 0.127 0.073 * Prefecture (省略) (省略) (省略) ln(Population) 0.347 0.431 0.347 0.423 0.347 0.421 Economy -0.006 0.001 *** -0.003 0.002 Economy× Manufacturing 0.002 0.001 * _cons 5.683 5.901 6.060 5.785 5.819 5.762 Number of obs 376 376 376 Adj R-squared 0.927 0.930 0.930 注)***,**,*は,それぞれ 1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す. 46 業況(DI)とは,選択肢別社数構成比から算出するもので,回答時点での業況を,「1.良い」と判断した社数構 成比(%)から「3.悪い」と判断した社数構成比(%)を差し引いた数値とされている.

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- 17 - 6.2 派遣解禁と賃金 仮説②「派遣解禁により,賃金(直接雇用)が上昇したのではないか」について実証分析する. 6.2.1 分析方法と実証モデル 6.1 の就業者数と同様に,実証分析における推定モデルとして DID 分析の手法を用いることと する. 分析方法は,厚生労働省『賃金構造基本統計調査』の 1995 年から 2010 年までの 16 年分の産業 別(製造業・建設業)分類別パネルデータを作成した上で,賃金を被説明変数とする推計式(式 2)を構築し,OLS(最小二乗法)を用いた回帰分析を行う. 但し,前述したように,ここでは派遣解禁が賃金にどのような影響を与えたのかを分析するた め,厚生労働省『賃金構造基本統計調査』における一般労働者(製造業務への派遣労働者は含ま れていない)の賃金のデータで分析することとする.

ln(Wage)ijt= α+β1(Manufacturing)i+β2(Year)t+β3{(Manufacturing)i× (Policy)t}

+β4(Corporate scale)j+β5(Sex)j+β6(Education)j+β7(Age)j

+β8(Economy)it+β9{(Economy)it× (Manufacturing)i} + 𝜀ijt ・・・ 式 2

i:産業(製造業,建設業) j:分類 t:時間 6.2.2 使用するデータ 被説明変数 Wage は,賃金(円)の対数値とし,厚生労働省『賃金構造基本統計調査』の中に ある『所定内給与額』の都道府県別産業別(製造業・建設業)の所定内給与額(一般労働者47)を 賃金とした. Year は年ダミーで,1995 年から 2010 年までの 16 年分でそれぞれ該当年を 1,それ以外を 0 と するダミー変数である. Corporate scale は企業規模ダミーで,従業員数による分類(10 人以上 99 人以下,100 人以上 999 人以下,1000 人以上)について,それぞれ該当分類を 1,それ以外を 0 とするダミー変数である. Sex は性別ダミーで,男性を 1,女性を 0 とするダミー変数である. Education は学歴ダミーで,学歴による分類(1 中学卒,2 高校卒,3 高専・短大卒,4 大学・大 学院卒)について,それぞれ該当分類を 1,それ以外を 0 とするダミー変数である. Age は年齢階級ダミーで,年齢階級による分類(17 歳以下,18 から 19 歳,20 から 24 歳,25 から 29 歳,30 から 34 歳,35 から 39 歳,40 から 44 歳,45 から 49 歳,50 から 54 歳,55 から 59 歳,60 から 64 歳,65 から 69 歳,70 歳以上)について,それぞれ該当分類を 1,それ以外を 0 とするダミー変数である. 47 一般労働者とは,短時間労働者以外の労働者をいう.短時間労働者とは,1日の所定労働時間が一般の労働者 よりも短い又は1日の所定労働時間が一般の労働者と同じでも1週の所定労働日数が一般の労働者よりも少な い労働者をいう.

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Economy は景況指数で,日本銀行『全国企業短期経済観測調査』の時系列統計データから,前 年度の各産業の業況(DI)平均値を景況指数とした48

賃金の分析に使用する変数の基本統計量は,表 5 に示してある.

表 5 主な変数の基本統計量

Variable Obs Mean Std. Dev. Min Max

ln(Wage) 8459 12.449 0.372 11.350 14.026 Manufacturing 9984 0.500 0.500 0 1 Year 9984 0.062 0.242 0 1 Policy 9984 0.437 0.496 0 1 Corporate scale 9984 0.333 0.471 0 1 Sex 9984 0.500 0.500 0 1 Education 9984 0.250 0.433 0 1 Age 9984 0.076 0.266 0 1 Economy 9984 -19.164 16.945 -50.750 14.000 6.2.3 推定結果

推定結果は表 6 のとおりである.OLS による分析は,就業者数の分析と同様に OLS①から OLS ③までの 3 パターンとした.

分析の結果,全てのパターンにおいて,DID estimator である製造業ダミーと政策導入ダミーの 交差項は,有意な結果が得られなかった.

表 6 推定結果

ln(Wage)

OLS① OLS② OLS③

Coef. Std. Err. Coef. Std. Err. Coef. Std. Err.

Manufacturing -0.063 0.005 *** -0.061 0.005 *** -0.073 0.008 *** Manufacturing ×Policy 0.003 0.008 -0.007 0.011 -0.005 0.011 Year (省略) (省略) (省略) Corporate scale (省略) (省略) (省略) Sex (省略) (省略) (省略) Education (省略) (省略) (省略) Age (省略) (省略) (省略) Economy 0.0004 0.0002 0.0007 0.0003 ** Economy× Manufacturing -0.0005 0.0003 * _cons 11.648 0.018 *** 11.652 0.018 *** 11.655 0.018 *** Number of obs 8459 8459 8459 Adj R-squared 0.758 0.758 0.760 注)***,**,*は,それぞれ 1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す. 48 厚生労働省『賃金構造基本統計調査』の『所定内給与額』とは,調査年の 6 月分として支給された現金給与額 から,超過労働給与を除いたものとされていることから,前年度データを採用した.

(21)

- 19 - そこで,派遣解禁の賃金への政策効果を詳細に分析するために,年齢階級に着目して分析した. 推定結果は表 7 のとおりである. 分析の結果,DID estimator である製造業ダミーと政策導入ダミーと年齢階級ダミーの交差項に 着目すると,65 から 69 歳の年齢階級では有意に賃金が低下したことが明らかとなったが,これ は,定年退職した労働者が再雇用された年齢階級であることから,派遣労働者と代替されやすい 労働者であると考えられる.それ以外の年齢階級では,ほとんど有意な結果が得られなかった. 表 7 推定結果 ln(Wage)

OLS① OLS② OLS③

Coef. Std. Err. Coef. Std. Err. Coef. Std. Err.

Manufacturing -0.063 0.005 *** -0.061 0.005 *** -0.073 0.008 *** Manufacturing ×Policy×Age-17 -0.030 0.058 -0.041 0.059 -0.040 0.059 Manufacturing ×Policy×Age18-19 0.051 0.032 0.040 0.033 0.041 0.033 Manufacturing ×Policy×Age20-24 0.033 0.021 0.022 0.022 0.024 0.022 Manufacturing ×Policy×Age25-29 0.009 0.020 -0.001 0.022 0.0004 0.022 Manufacturing ×Policy×Age30-34 0.005 0.020 -0.005 0.022 -0.004 0.022 Manufacturing ×Policy×Age35-39 0.009 0.020 -0.001 0.022 0.0006 0.022 Manufacturing ×Policy×Age40-44 -0.026 0.020 -0.037 0.022 * -0.035 0.022 Manufacturing ×Policy×Age45-49 -0.010 0.020 -0.020 0.022 -0.019 0.022 Manufacturing ×Policy×Age50-54 0.015 0.020 0.004 0.022 0.006 0.022 Manufacturing ×Policy×Age55-59 0.010 0.020 -0.00001 0.021 0.001 0.021 Manufacturing ×Policy×Age60-64 -0.027 0.021 -0.038 0.022 * -0.036 0.022 Manufacturing ×Policy×Age65-69 -0.047 0.022 ** -0.058 0.023 ** -0.056 0.023 ** Manufacturing ×Policy×Age70- 0.039 0.024 0.027 0.025 0.029 0.025 Policy×Age (省略) (省略) (省略) Year (省略) (省略) (省略) Corporate scale (省略) (省略) (省略) Sex (省略) (省略) (省略) Education (省略) (省略) (省略) Age (省略) (省略) (省略) Economy 0.0004 0.0002 0.0007 0.0003 ** Economy× Manufacturing -0.0005 0.0003 * _cons 11.605 0.022 *** 11.609 0.022 *** 11.612 0.022 *** Number of obs 8459 8459 8459 Adj R-squared 0.760 0.760 0.760 注)***,**,*は,それぞれ 1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す.

(22)

- 20 - さらに,派遣解禁の賃金への政策効果を詳細に分析するために,学歴に着目して分析した.推 定結果は表 8 のとおりである. 分析の結果,どのパターンにおいても低学歴(中学卒・高校卒)で,DID estimator である製造 業ダミーと政策導入ダミーと学歴ダミーの交差項は,有意にマイナスの結果が得られ,高学歴(大 学卒・大学院卒)で有意にプラスの結果が得られた.これを OLS③で考察すると,派遣解禁によ り,製造業の低学歴の賃金は約 5%低下し,製造業の高学歴の賃金が約 10%上昇したことが示さ れた. 表 8 推定結果 ln(Wage)

OLS① OLS② OLS③

Coef. Std. Err. Coef. Std. Err. Coef. Std. Err.

Manufacturing -0.063 0.005 *** -0.061 0.005 *** -0.072 0.008 *** Manufacturing ×Policy ×Education 1 -0.046 0.013 *** -0.058 0.015 *** -0.056 0.015 *** Manufacturing ×Policy ×Education 2 -0.037 0.012 *** -0.049 0.014 *** -0.047 0.014 *** Manufacturing ×Policy ×Education 3 -0.008 0.013 -0.019 0.015 -0.017 0.015 Manufacturing ×Policy ×Education 4 0.114 0.013 *** 0.103 0.015 *** 0.104 0.015 *** Policy×Age (省略) (省略) (省略) Year (省略) (省略) (省略) Corporate scale (省略) (省略) (省略) Sex (省略) (省略) (省略) Education (省略) (省略) (省略) Age (省略) (省略) (省略) Economy 0.0004 0.0002 0.0007 0.0003 ** Economy× Manufacturing -0.0005 0.0003 * _cons 11.642 0.018 *** 11.646 0.018 *** 11.649 0.018 *** Number of obs 8459 8459 8459 Adj R-squared 0.762 0.762 0.762 注)***,**,*は,それぞれ 1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す.

(23)

- 21 - 6.3 派遣解禁と労働災害発生率 仮説③「派遣解禁により,労働災害発生率が上昇したのか」について実証分析する. 6.3.1 分析方法と実証モデル 製造業務への派遣解禁が労働災害事故の多発を招いているのかどうかを分析するには,派遣労 働者の労働災害による死傷者数の人数の推移のみに着目しても論理的に分析はできない. そこで,「製造業全就業者数に占める派遣・下請従業者数の割合」に対して「製造業全就業者数 に占める労働災害死傷者数の割合」が有意な影響を受けているのかどうかについて分析すること とする. 分析の方法は,厚生労働省『労働災害原因要素の分析』49の 2001 年,2004 年,2007 年の 3 年分 の製造業中分類別事業場規模別データと総務省『事業所・企業統計調査』50の 2001 年,2004 年, 2006 年の 3 年分のデータから,「製造業全就業者数に占める派遣・下請従業者数の割合」と「製 造業全就業者数に占める労働災害死傷者数の割合」を算出し,労働災害死傷者数の割合を被説明 変数とする推計式(式 3)を構築し,OLS(最小二乗法)を用いた回帰分析を行う.

(Casualties rate)jt= α+β1(Dispatched and Subcontracted rate)jt

+β2{(Dispatched and Subcontracted rate)jt× (Policy)t}

+β3(Year)t+β4(Manufacturing group)j+β5(Office scale)j+ 𝜀jt ・・・ 式 3

j:分類 t:時間 6.3.2 使用するデータ 被説明変数 Casualties rate は,「製造業全就業者数に占める労働災害死傷者数の割合」(%)とし, 就業者数は,総務省『事業所・企業統計調査』の「従業者数」から,「他への派遣・下請従業者数」 を差し引いて「他からの派遣・下請従業者数」を加えた数とした.労働災害死傷者数は,厚生労 働省『労働災害原因要素の分析』の『第 23 表 事業の種類別・事業場の規模別死傷者数(休業 4 日以上)』の死傷者数(人)とした.

Dispatched and Subcontracted rate は「製造業全就業者数に占める派遣・下請従業者数の割合」で, 上記で算出した就業者数と総務省『事業所・企業統計調査』の「他からの派遣・下請従業者数」 から算出した. Year は年ダミーで,2001 年,2004 年,2007 年の 3 年でそれぞれ該当年を 1,それ以外を 0 とす るダミー変数である. 49 厚生労働省が毎年,特定の業種について休業 4 日以上の死傷者全般を一定の抽出率で抽出し,災害原因を中心 に分析・集計を実施している.業種は,製造業,建設業,陸上貨物運送業,港湾荷役業及び林業の 5 業種で,そ れぞれ 3 年ごとに分析・集計を実施している. 50 日本のすべての事業所及び企業を対象として,事業の種類や従業者数等,事業所及び企業の基本的事項を調査 している.1981 年以降は 5 年ごとに国や地方公共団体の事業所も含めた調査を,また,その中間年には民営事業 所を対象とした簡易な内容の調査を実施している.

(24)

- 22 - Manufacturing group は製造業における産業分類の中分類ダミーで,食料品製造業,繊維工業, 衣服その他の繊維製品製造業,木材・木製品製造業,家具・装備品製造業,パルプ・紙・紙加工 品製造業,印刷・製本業,化学工業,窯業・土石製品製造業,鉄鋼業,非鉄金属製造業,金属製 品製造業,一般機械器具製造業,電気機械器具製造業,輸送用機械器具製造業について,それぞ れ該当分類を 1,それ以外を 0 とするダミー変数である. Office scale は事業場規模ダミーで,従業員数による分類(9 人以下,10 人以上 29 人以下,30 人以上 49 人以下,50 人以上 99 人以下,100 人以上 299 人以下,300 人以上)について,それぞ れ該当分類を 1,それ以外を 0 とするダミー変数である. 労働災害発生率の分析に使用する変数の基本統計量は,表 9 に示してある. 表 9 主な変数の基本統計量

Variable Obs Mean Std. Dev. Min Max Casualties rate 270 0.479 0.427 0.028 2.688 Dispatched and Subcontracted rate 270 6.366 4.578 0.420 28.840 Year 270 0.333 0.472 0 1 Policy 270 0.666 0.472 0 1 Manufacturing group 270 0.066 0.249 0 1 Office scale 270 0.166 0.373 0 1 6.3.3 推定結果 推定結果は表 10 のとおりである.OLS による分析は,製造業中分類と事業場規模でコントロー ルするかどうかにより OLS①から OLS②での 2 パターンとした. 分析の結果,全てのパターンにおいて,着目すべき変数である「製造業全就業者数に占める派 遣・下請従業者数の割合」と政策導入ダミーの交差項は,有意な結果が得られなかった. 表 10 推定結果 Casualties rate OLS① OLS②

Coef. Std. Err. Coef. Std. Err.

Dispatched and

Subcontracted rate -0.023 0.009 *** 0.001 0.009 Dispatched and

Subcontracted rate ×Policy 0.001 0.008 0.009 0.007

Year (省略) Manufacturing group (省略) Office scale (省略) _cons 0.623 0.044 *** 1.065 0.073 *** Number of obs 270 270 Adj R-squared 0.050 0.691 注)***,**,*は,それぞれ 1%,5%,10%の水準で統計的に有意であることを示す.

表 6  推定結果
表 11  主な変数の基本統計量

参照

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