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神奈川県秦野盆地における地下水の水質形成プロセスについて―造岩鉱物の風化反応と溶存無機炭素の供給プロセスに着目して―

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全文

(1)

地下水→扇端湧水という一連の水の動きとして捉えられ る。扇状地内ではこのような水の動きを比較的容易に捉 えることが可能なため,扇状地を対象とした水文科学的 研究はこれまで数多くが行われている。例えば,水谷ほ か (2001) は富山県黒部川扇状地を対象として,酸素お よび水素安定同位体を指標として河川水と湧水・地下水 との交流についてモデルによる検討を行っている。ほか にも斉藤・山中 (2011) は荒川扇状地を対象に地下水流 動にともなう硝酸態窒素濃度が増加する要因について検 討を行い,土地利用との関係から畑地における施肥がそ の要因であると結論づけている。 しかしながら,扇状地における水文科学的研究におい て,水質形成プロセスを定量的に評価した研究は必ずし 1.はじめに 山岳地帯が広く分布する我が国では,河川によって侵 食・運搬された砕屑物が平野部との境界で堆積し,しば しば扇状地を形成する。このような扇状地形成は平野部 のみならず,時に盆地内にも形成される。扇状地に堆積 した砕屑物は,ほとんどの場合に粒径が大きい礫や砂に よって構成される。このため,扇状地上を流れる河川は 伏流することとなり,扇頂・扇央部は乏水域となる。扇 頂・扇央部で浸透した降水・河川水は,扇状地内を流動 した後に扇端部で湧水となって地表にあらわれ,その結 果,扇端部ではしばしば湧水群が形成される。扇状地で 認められるこれらの現象は,降水・河川水→扇頂・扇央

小川 莉奈

・山中 勝

**

We investigated hydrogeochemical processes in river water and groundwater in the Hadano Basin (HB), located in central part of Kanagawa Prefecture and mainly composed of alluvial deposits, by using chemical compositions and car-bon stable isotope (δ13

C) as tracers. Groundwater in the HB is dominated by Ca-HCO3 type and increases the

concentra-tions of Ca2+

, Mg2+

and HCO3

along the flowpaths with keeping almost constant (Ca+Mg)/HCO3 molar ratio. Such the

ratio in the groundwater can be explained well by weathering reactions of anorthite and olivine, which partially compose the sediment in the HB, associating with higher partial pressure of CO2 than that in atmosphere. In addition to the

chemi-cal compositions, the δ13

CDIC data of river water and groundwater reveal that dissolved inorganic carbon (DIC) in river

water is originated from both atmospheric and decompositional CO2 which derives from C3 organic material containing in

the sediments through a microorganism respiration. A model calculation illustrates that the ratio of the decompositional CO2 in the river water DIC is approximately 50%, and those in the groundwater DIC increase up to 90% along the

flow-paths. This indicates that the groundwater in the HB originates partially from river water (up to 50%) and chemical com-positions of the groundwater are controlled mainly by weathering process of anorthite and olivine associated with addi-tional CO2 through a microorganism respiration in the sediments along the flowpaths.

Keywords: Dissolved inorganic carbon, carbon isotope, weathering reaction

神奈川県秦野盆地における地下水の水質形成プロセスについて

―造岩鉱物の風化反応と溶存無機炭素の供給プロセスに着目して―

Hydrogeochemical Controlling on Groundwater in the Hadano Basin, Kanagawa Prefecture:

Processes of Mineral Weathering and Dissolved Inorganic Carbon Supply

Rina OGAWA

and Masaru YAMANAKA

** (Accepted November 30, 2017)

Graduate School of Integrated Basic Sciences, Nihon University: 3-25-40

Sakurajosui Setagaya-ku, Tokyo, 156-8850 Japan

** Department of Earth and Environmental Sciences, College of Humanities

and Sciences, Nihon University : 3-25-40 Sakurajosui Setagaya-ku, Tokyo, 156-8850 Japan

日本大学大学院総合基礎科学研究科:

〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40

** 日本大学文理学部地球科学科:

(2)

も多くない。このような水質形成を論じる上では造岩鉱 物の風化反応が大きな役割を果たし,さらにこの反応と 密接に関わるCO2がどの様に供給されているかを理解す ることが極めて重要となる。近年の水文科学的研究で は,炭素同位体組成 (δ13C) をトレーサーとして用いるこ とで,この水体へのCO2の供給プロセスが徐々に明らか になりつつある。Yamanaka (2012) は主に琉球石灰岩か らなる宮古島の地下水を対象とした研究を行い,δ13C値 を指標とすることで地下水中の溶存無機炭素の起源につ いてC3・C4両植物 (有機物) に由来するものと炭酸塩溶 解に由来するものとを定量的に識別している。山中・坂 本 (2016) は群馬県大間々扇状地の地下水を対象とした 研究を行い,脱CO2ガスプロセスが地下水のδ13C値に与 える影響について定量的評価を行っている。また,山中 (2017) は夏季停滞期における群馬県榛名湖を対象に, δ13C値を指標として光合成が水質組成に与える影響を定 量的に評価している。このように水体における炭素の挙 動および供給源を理解する上で,また,水体に対して造 岩鉱物の風化反応が与える影響を理解する上でも炭素同 位体組成は有効なトレーサーになるといえる。 本研究の対象地域とする秦野盆地内には扇状地が形成 されているため,その内部における水の動きを一連のも のとして捉えることが可能であり,水文科学的研究を行 う上で理想的環境といえる。同盆地ではこれまで幾つか の水文科学的研究が行われている。例えば横山ほか (1972) は秦野盆地内に存在する浅層地下水について, その水位変動および流動系を明らかにしている。また, 星野・鹿園 (2007) は盆地内の湧水を対象として,その 水質組成に河川水・土壌水が与える影響を混合モデルに よって定量的に評価している。盆地内において混合プロ セスの影響評価は行われているものの,これ以外のプロ セスが地下水の水質組成に与える影響について定量的な 評価を与えた研究は行われていない。そこで本研究では 秦野盆地内を流れる地下水を対象に炭素同位体組成を指 標として,その水質形成プロセスについて主に地質との 関係から明らかにすることを目的として行った。 2.対象地域の概要 本調査対象地域である神奈川県の秦野盆地は丹沢山地 の南東にあり,北側の三方を山地にかこまれ,南縁は東 西方向で北落ちの渋沢断層 (大塚,1930) で大磯丘陵と 接する東西8kmほどの小盆地である (菊池,1986)。盆 地内には丹沢山地から流れる水無川,葛葉川,金目川な どによる扇状地礫層が堆積することで,複合扇状地が形 成されている (大木ほか,1971)。盆地内の地形面は,こ の扇状地により大まかに北西から南東方向へと傾斜して いる (図 1)。 図1 に秦野盆地の表層地質図を示す (神奈川県教育委 員会,1980)。盆地をかこむ丹沢山地はいわゆるグリー ンタフ地域に属し,約2200~700万年前に形成された非 アルカリ苦鉄質火山岩類 (丹沢層群) からなる。盆地内 部は約7 万年~ 1 万8000年前に丹沢山地から運搬され, 堆積した砕屑物で覆われている。図2 に秦野盆地におけ る南北方向の地質断面図を示す (秦野市環境産業部環境 保全課,2012)。丹沢層群を基盤として下位から順に, 二宮層,多摩ローム層,G5礫層,吉沢ローム層,G4礫 層,武蔵野ローム層,G3礫層,立川ローム層下部,G2 礫層,立川ローム層中部,G1礫層,立川ローム層上 部,沖積層が堆積している。このうち,最上部の沖積層 はローム層と礫層の互層となっている。なお,図2では 多摩ローム層以深は未区分層として,各礫層を分ける吉 沢層以浅のローム層は単にローム層として示した。これ ら堆積層において地下水は10-3~10-1 cm/secオーダー の高い透水性を示すG5~G1礫層を帯水層として流れて いる。これらの礫層のうちG1・G2礫層を流れる地下水 は不圧状態であるのに対し,上部にローム層が存在して いるG3~G5礫層は被圧状態にあると考えられる。横山 ほか(1972)によれば,これら礫層中を流動する地下水 は地形面に沿う形で,大まかに北西から南東方向に流動 している (図 1)。 3.調査方法 3.1. 現地調査 現地調査は2016年8月および9月において実施し た。現地において気温,水温,pH,RpH,EC (電気伝 導度) を測定した。気温と水温の測定はアルコール 1 ℃ 目盛棒状温度計を使用した。pH,RpH,ECの測定には pH/CONDメーター (HORIBA社製) を使用した。地下 水および河川水試料は250 mLポリエチレン瓶を用いて 現地にて採取した。地下水試料は盆地内に形成された扇 状地の地下水を中心として以下のような試料を採取し た。HGS-1~HGS-3の 山 麓 湧 水,HGU-4~HGU-8の 扇 頂部地下水,HGM-9~HGM-14の扇央部地下水,HGL-15~HGL-23の扇端部地下水,HGO-24およびHGO-25の 扇状地外地下水からなる計25本を採取した。これとと もに扇状地よりも上流で盆地内を流れる水無川および葛 葉川において河川水試料HR-1およびHR-2を採取した。 9月には河川水 2 地点 (HR-1およびHR-2),扇頂部地 下水2 地点 (HGU-5および HGU-7),扇央部地下水 1 地 点 (HGM-9) 扇端部地下水 2 地点

(3)

(HGL-16およびHGL-神奈川県 地下水 扇頂部 扇央部 扇端部 河川水 山麓湧水 扇状地外 金目川 四十八瀬川 水無川 葛葉川 室川 100 600 500 400 300 200 800m 700 300 200 100 600 500 400 300 200 900m 800 700 渋 沢 断 層 HGS-2 HGL-16 HGS-1 HGS-3 HGU-4 HGU-5 HGU-6 HGU-7 HGU-8 HGM-9 HGM-10 HGM-11 HGM-13 HGM-12 HGL-15 HGL-17 HGL-18 HGL-19 HGL-20 HGL-21 HGL-22 HGM-14 HGL-23 HGO-24 HGO-25 1 km 0 沖積層 ローム(後期更新統) 安山岩軽石流(更新統) 大山亜層群 (非アルカリ苦鉄質岩類,前期中新統) 塔ヶ岳亜層群 (非アルカリ苦鉄質岩類, 後期漸新統~前期中新統) 丹沢層群 HR-2 HR-1 図1 400 500 推定 地下水流動 Na++K+ Ca2+ Mg2+ Cl HCO3 SO42+NO3 meq/L 2 1 0 1 2

A

A

BB

全幅 図1  榛名盆地における表層地質図 (神奈川県教育委員会,1980) と地下水・河川水の採水地点およびその水質組成

四十八瀬川

基 盤 岩

基 盤 岩

基 盤 岩

基 盤 岩

(新鮮部)

(新鮮部)

(弱風化部)

(弱風化部)

未区分層 (二宮層ほか)

未区分層 (二宮層ほか)

G5 礫層

G5 礫層

沖積層

A

B

A

B

1 km

50 m

金目川

水無川

葛葉川

G4 礫層

G3 礫層 G2 礫層

G1 礫層

ローム層

図2  榛名盆地の地質断面図 (図 1 におけるA-B断面;秦野市環境産業部環境保全課,2012を一部改変)

(4)

KH=[H2CO3*] / PCO2 (5) K1=[H+][HCO3-] / [H2CO3*] (6) K2=[H +][CO 32-] / [HCO3 -] (7) また,平衡定数KH,K1およびK2は水温T (℃) との間に

以下の式の関係が成り立つ (Clark and Fritz, 1997)。 pKH=-7×10-5 T2+0.016T+1.11 (8) pK1=1.1×10 -4 T20.012T+6.58 (9) pK2=9×10-5 T2-0.0137T+10.62 (10) これらの関係から25℃において HCO3 -のDICに占める 割合が最も高くなるのはpH=8.3のときであり,これ以 下の領域ではH2CO3* およびHCO3 -が,これ以上の領域 ではHCO3 - およびCO32-がDICのほとんどを占める形 となる。本研究における地下水および河川水のpHは後 述するように7.12~8.28の範囲にあることから,DIC種 はそのほとんどがHCO3-であり,H2CO3* およびCO32- をわずかに含んでいるといえる。 pH4.8アルカリ度法で求められたアルカリ度 (Alk) が, DICに全て由来すると考えた場合,次式が成立する。 [Alk]=[HCO3 -] + 2[CO 32-] (11) この関係のもとAlk,pH,水温を (5) ~ (11) 式にあては めることで各DIC種 (H2CO3*,HCO3 -およびCO 32-) の 濃度が求めれる。これをもとにアルカリ度から求められ たCO32-濃度がDIC濃度に占める割合は全ての試料で 1 %未満 (最大0.77%) と小さいものであった。このた め,アルカリ度はHCO3 - として表記するものとする。 さらに,以下の式から地下水および河川水のDIC濃度 がそれぞれ求められる。

[DIC]=[H2CO3*]+[HCO3-]+[CO32-] (12)

これとともに,求められたH2CO3* 濃度から (5) 式を用 いて水試料に対する二酸化炭素の平衡分圧 (PCO2) を求め ることが可能である。これら方法によって調査・採水を 行った地下水および河川水試料についてDIC,H2CO3*, HCO3-,CO32-濃度とともにPCO2の算出を行った。 3.4. 溶存無機炭素と同位体平衡にあるCO2の炭素同位 体組成 (δ13C Equil-CO2 (g)) 水中へのCO2の溶解はH +を付加する反応であるため ((2) および (3) 式),この CO2の起源を知ることは水体 におけるDICの起源を知ることのみならず,造岩鉱物 の風化反応を理解する上でも重要である。水体のDIC に対して同位体平衡にあるCO2 (g) が持つ炭素同位体組成 (以下δ13C Equil-CO(g)2 と表記) を求めることは,このCO2の 起源を知る上で重要な手がかりを与えてくれる可能性が ある。そこで地下水および河川水に対する以下の方法に より算出した。 19) の計7地点において,炭素安定同位体組成 (δ13C DIC) の分析を行うため,試料中の溶存無機炭素(DIC)を現 地にて以下のように炭酸塩として固定した。採水した水 試料250 mLに対してNaOH溶液 (10N) を数mL加えアル カリ性にした後,7 %のBaCl2溶液を約4mL加え,水試 料中のDICをBaCO3試料として沈殿させた。このBaCO3 試料は実験室に持ち帰った後に速やかに濾過し,乾燥・ 回収した。なお,これらNaOHおよびBaCl2溶液は十分 に脱ガスした超純水を用いて,窒素充填下におけるグ ローブボックス内で作成した。 3.2. 室内分析 8月に採取した水試料におけるpH4.8アルカリ度の算 出は,N/50のH2SO4を用いた滴定により行った。これ を除く陰イオン (Cl-,SO 42-,NO3-) および陽イオン (Ca2+, Mg2+, Na, K 濃度測定は 0.20 µmフィルター で濾過を行った後,イオンクロマトグラフィー (島津製 作所CLASS-10) により濃度の測定を行った。アルカリ 度を含む無機イオンについての電荷バランスは,ほとん どの水試料で±5 %以内であった。なお,DIC濃度およ びCO2平衡分圧 (PCO2) の算出方法については後述するこ ととする。 回収したBaCO3試料約30 mgは,十分な減圧環境下 (<10 Pa) でP2O5を加えて脱水したH3PO4 5 mLと反応さ せた。これにより発生したCO2ガスは十分に精製した 後,質量分析装置 (Micromass 社製IsoPrime) により, 溶存無機炭素(DIC)の炭素同位体組成 (δ13C DIC) を測定 した。本分析プロセスでは1 試料につき 7 回の繰り返し 分析を行い,このときの分析装置の精度は±0.1‰で あった。なお,δ13C DICについては国際標準試料 (V-PBD) からの千分率偏差 (‰) を,以下の式を用いて求めた。  δ13C DIC={(13C/12C)sample/ (13C/12C)V-PDB-1}×103 (‰) (1) 3.3. 溶存無機炭素 (DIC) 濃度および二酸化炭素の平衡 分圧 (PCO2) の算出 溶存無機炭素(DIC)は,pHに応じて炭素の形態が H2CO3* (CO2 (aq) 及 びH2CO3),HCO3

,CO 32-と 三 つ の 形態をとる。これらの溶存炭素種がpHに応じて変化す る式を以下のように表すことができる。 CO2 (g) + H2O ⇄ H2CO3* (2) H2CO3* ⇄ H ++HCO 3 - (3) HCO3 - ⇄ H+CO 32- (4) 三つの反応式の平衡定数KH,K1およびK2は以下のよう に表せる。

(5)

本研究対象地域における地下水の水質組成を図1 に示 す。本域では山麓湧水,扇状地における位置によらず地 下水の水質組成は全てCa-HCO3型を示した。これと同 様 に 河 川 水 も 全 てCa-HCO3型 で あ っ た。 小 川 (2017) は,秦野盆地内の地下水において季節および取水する帯 水層による水質組成の変化は小さいことを指摘してい る。このため,Ca-HCO3型を示した水質組成結果は, 季節および採水深度によるものではない。 陽イオンの主要溶存成分となったCa2+の平均濃度は 山麓湧水,河川水,扇頂部地下水,扇央部地下水,扇端 部地下水の順に9.9,14.6,18.1,25.5,24.4 mg/Lと先の 流動にともなって増加する傾向を示した。陰イオンの主 要溶存成分であるHCO3 -の平均濃度についても同様に 45.1,64.5,71.0,112.4,101.6 mg/Lと流動にともなう増 加が認められた。地下水および河川水における両イオン の当量濃度 (meq/L) の関係を図3aに示す。両イオン濃 度の間には非常に良い直線性が認められ,このような関 係はCa2+HCO 3 -が同時に水中に供給されていること を示唆している。 秦野盆地内は丹沢山地から運ばれた未固結の扇状地堆 積物によって構成されている。この堆積物は丹沢山地と 同様に非アルカリ苦鉄質火山岩類(玄武岩類)から主に 構成される。十分なCO2の存在する環境下において玄武 岩の構成鉱物の一つである灰長石 (CaAl2Si2O8) が風化 する場合,以下のような反応式を考えることができる。 CaAl2Si2O8+2CO2+3H2O   →Ca2++2HCO 3 -Al 2Si2O5 (OH)4 (17) このとき,粘土鉱物であるカオリナイト (Al2Si2O5 (OH)4) が二次鉱物として残る。上記反応式から灰長石の風化反 応が生じた場合,水中にはCa2+:HCO 3 - =1:2のモル 比で,電荷を加味した当量比ではCa2+:HCO 3 -1:1 で供給されることとなる。図3aに反応 (17) により灰長 石が風化したときに供給される場合のCa2+およびHCO 3- 濃度の関係を表す理論線を描いた。地下水および河川水 試料のCa/HCO3比は理論線の比とは必ずしも一致して おらず,地下水・河川水試料はこの理論線よりも相対的 にHCO3 -濃度が多い領域にプロットされている。すな わち,地下水・河川水試料はこの理論値よりもCa2+ 度に対して相対的に高いHCO3 -濃度を持っており,灰 長石の風化反応のみからはこれを十分に説明することが できていない。 山麓湧水・河川水から地下水への水の動きにともなっ てCa2+およびHCO 3 - 濃度画が増加する傾向が認められ たが,これとともにMg 2+の平均濃度も山麓湧水,河川 水,扇頂部地下水,扇央部地下水,扇端部地下水の順に 水体のDICが溶解するCO2 (g) と平衡状態にある場合, DIC種ごとに炭素の同位体組成は異なる値を持つ。前述 の よ う に 本 域 の 地 下 水 ・ 河 川 水 のDIC種 はH2CO3*, HCO3 -,CO 32-の何れもが存在する。したがって,地下 水 ・ 河川水のDICの炭素同位体組成 (δ13C DIC) は,各DIC 種の炭素同位体組成 (δ13C H2CO3*,δ 13C HCO3,δ 13C CO3) をもと に次式により表すことができる。 δ13C

DIC=(δ13CH2CO3*[H2CO3*]+δ13CHCO3[HCO3 -]  + δ13C CO3[CO3 2-]) /[DIC] (13) ま た, 各DIC種 とCO2 (g) と の 間 の 同 位 体 分 別 係 数 (δ13C

H2CO3*-CO2 (g),δ13CHCO3-CO2 (g)),δ13CCO3-CO2 (g)) は, 温 度 T

(K) との間に以下のような関係式をもつ (Vogel et al., 1970; Mook et al., 1974; Denies et al., 1974)。

103lnα13C H2CO3*-CO2 (g) =-0.373 (10 3 T-1)+0.19 (14) 103lnα13C HCO3-CO2 (g) =9.552 (10 3 T-1 -24.10 (15) 103lnα13C CO3-CO2 (g) =0.87 (106 T-2) -3.4 (16) 本域の地下水・河川水の水温をもとに算出した結果, 103lnα13C

H2CO3*-CO2 (g),103lnα13CHCO3-CO2 (g),103lnα13CCO3 -CO2 (g) はそれぞれ- 1.10~-1.06,7.83~8.82,6.59~8.03 ‰と求められた。CO2 (g) によって DICが供給され,これ と 平 衡 状 態 に あ る と 仮 定 し た 場 合, こ れ ら の 値 は δ13C Equil-CO2 (g) と 比 較 し た と き のδ 13C H2CO3*,δ 13C HCO3, δ13C CO3とのおおよその値の差を表すものである。 実際にDICと平衡状態にあるCO2の炭素同位体組成 (δ13C Equil-CO2 (g)) を求める上では,(13) 式の関係を用いて 求められる。このとき,左辺のδ13C DICについてはDIC の炭素同位体測定値を,H2CO3*,HCO3 -,CO 32-濃度 については (5) ~ (11) 式をもとに求めた値をそれぞれ与 え る こ と が で き る。 ま た, 各DIC種 の 同 位 体 組 成 (δ13C H2CO3*,δ13CHCO3,δ 13C CO3) は,δ 13C Equil-CO2 (g) 値 を 仮 に 与えることで同位体分別係数 (α,(14) ~ (16) 式) から 求められる。以上の関係から,δ13C DIC値および各DIC種 の濃度を与えた上で,(13) 式において左辺の測定値 (δ13C DIC) と右辺の算出値が一致するδ13CEquil-CO2 (g) 値を求 めた。 4.結果および考察 4.1. 造岩鉱物の風化が水質組成に与える影響 横山ほか (1972) によれば,本域の地下水は北東方向 から南西方向に流動している。このような指摘から,本 域における水の動きを北東部の山麓湧水または山麓部の 河川水を起点として扇頂部地下水,扇央部地下水,扇端 部地下水の順で捉えることが可能といえる。そこでこの ような河川水から地下水への流動をもとに,水質形成プ ロセスについて検討を行う。

(6)

に示す。 Mg2SiO4+4CO2+4H2O →2Mg2+4HCO 3 - +H 4SiO4 (18)

CaAl2Si2O8+Mg2SiO4+6CO2+7H2O

  →Ca2++2Mg2++6HCO 3

  +Al2Si2O5 (OH)4+H4SiO4 (17+18)

(17+18) 式の風化反応が生じた場合には (Ca2++Mg2+ :HCO3 -=1:1 の当量比で供給されることとなる。こ のときの理論線の式を図3bに示す。地下水・河川水試 料のCa+Mg/HCO3の当量比は理論線の比と比較して 若干高いものの,試料の回帰直線の傾きは1.014と理論 線の傾き (= 1) とほぼ一致する結果となった。このよ うな結果は,秦野盆地内の河川水から扇状地地下水への 流下にともなう水質形成プロセスにおいて,灰長石およ びカンラン石の風化が強い影響を与えていることを強く 示唆している。なお,(17+18) 式では灰長石とカンラ ン石のモル比を1:1 としたが,仮にこの比を 2:1 とし た場合でも以下のようになり,水中に供給される (Ca2+ +Mg 2+):HCO 3 -1:1 という当量比には影響を与え ないことを付記しておく。

2CaAl2Si2O8+Mg2SiO4+8CO2+10H2O

→2Ca2++2Mg2+8HCO 3 - +Al2Si2O5 (OH)4+H4SiO4 (17+18)ʼ 4.2. 溶存無機炭素の供給プロセス 反応式 (17) および (18) に示す造岩鉱物の風化反応で は,二酸化炭素 (CO2) が水中へ溶解することによりH + が供給され,これが造岩鉱物の風化を引き起こしてい る。また,これにより水中には両反応でHCO3 -として 表記される溶存無機炭素 (DIC) が供給されており,こ れら反応はDICの供給プロセスとして捉えられる。し たがって,このDICがどの様な起源を持つCO2によっ てもたらされているのかを理解することは,DICの供給 プロセスの理解のみならず,造岩鉱物の風化反応を理解 する上でも重要である。 そこで,上述した方法により,地下水・河川水に対す るCO2分圧 (logPCO2) およびHCO3

を含むDIC濃度を算 出した。その結果,logPCO2の平均値は山麓湧水,河川 水,扇頂部地下水,扇央部地下水,扇端部地下水の順に -3.58,-3.49,-2.71,-2.78,-2.93となった。すな わち,水体におけるCO2分圧は,山麓湧水・河川水にお いて大気中の分圧 (logPCO2=-3.4) とほぼ同様であった ものが,扇状地地下水となった後に上昇したと捉えられ る。また,DICの平均濃度は順に 0.75,1.07,1.27,1.91, 1.72 mmol/Lとなり,水の動きにともなって上昇する傾 4.1,5.8,7.6,10.4,8.6 mg/Lと増加している。そこで, 図3aにおいてCa2+Mg 2+を加えた場合のHCO 3 -との 当量濃度による関係を図3bに示す。図 3aと同様に非常 に良い直線性を示す結果となり,これらのイオンが同様 のプロセスによって供給されていることが示唆される。 非アルカリ苦鉄質の玄武岩はカンラン石 (Mg2SiO4) の 構成鉱物であり,秦野盆地内では灰長石とともにこの鉱 物が堆積物として存在する。そこでこの鉱物の風化反応 について以下に検討を行う。十分なCO2の存在する環境 下におけるカンラン石の風化は,カオリナイトの生成と ともに以下のような (18) の反応で生じる。さらに,灰 長石とカンラン石が1:1 のモル比で (17) とともにこの 風化反応が生じた場合の反応式を (17+18) として以下

Ca

2+ (meq/L) 0 1 2 3 地下水 扇頂部 扇央部 扇端部 河川水 山麓湧水 扇状地外

Ca

2+

+Mg

2+ (meq/L) 0 1 2 3 地下水 扇頂部 扇央部 扇端部 河川水 山麓湧水 扇状地外

a)

b)

HCO

3- (meq/L) 0 1 2 3 Ca2+ = 0.628 HCO3- + 0.125 (R2 = 0.77) Ca2++Mg2+ = 1.014 HCO3- + 0.238 (R2 = 0.78) 図3 地下水・河川水におけるa) Ca2+濃度とHCO 3-濃度と の関係 (単位はmeq/L) およびその回帰直線 (Ca2+= 0.628 HCO3-+0.125).実線は灰長石が風化した場合 の理論線を表す.b) Ca2+Mg2+濃度とHCO 3-濃度と の関係 (単位はmeq/L) およびその回帰直線 (Ca2+ Mg2+1.014 HCO 3-+0.238).実線は灰長石・カンラ ン石が風化した場合の理論線を表す.

(7)

では有機物分解によってC3植物由来のCO2が,河川水 と比較してより強い影響を与えている可能性がある。そ こで以下のようなモデル計算を行い,実測値との比較す ることでこの可能性について検討を行った。 河川水のlogPCO2およびδ 13C Equil-CO2 (g) を説明するため, 土壌微生物の呼吸,すなわち有機物分解により供給され るCO2のδ13C値を- 28‰とした。これは上述したC3植物 のδ13C報告値と整合する値である。この CO 2が大気CO2 と同様の分圧で1:1 の割合で混合したとすれば,図 4 に示されるように河川水のlogPCO2およびδ 13C Equil-CO2 (g) を 十分に説明することができる。このときの有機物分解由 来のCO2が占める割合は50%と表現できる。このとき のCO2分圧としては,logPCO2=-3.40であり,大気CO2, 有機物由来CO2ともに0.40 mbarずつの等しい分圧とな る。ここで大気CO2を0.40 mbarで一定としたとき,有機 物由来CO2が0.60,0.93,1.60,3.60 mbarとなれば,混合 CO2内に占める後者の割合はそれぞれ60%,70%,80%, 90%となる。このような CO2の混合を考えた場合,混合 CO2に占める有機物由来CO2の割合fC3-CO2と混合CO2の 分圧,PCO2-Mixとの関係は以下の式で表される。

PCO2-Mix={0.40+0.40 fC3-CO2/ (1-fC3-CO2)}/2 (19)

また,混合CO2が持つ炭素同位体組成,δ13CCO2-Mixは以

下の式で求められる。  δ13C

CO2-Mix=-7.0 (1-fC3-CO2) -28.0 fC3-CO2 (20)

(19) および (20) 式により,求められた混合 CO2のlog PCO2-Mixとδ13CCO2-Mixに関する理論曲線を図4 に描く。こ 向 が 認 め ら れ た。 ま た, 測 定 本 数 は 少 な いも の の, δ13C DICについて河川水,扇頂部地下水,扇央部地下水, 扇端部地下水の順に-10.2,-17.4,-18.5,-17.9‰と 流下にともなって値が低下する傾向が認められた。ま た,水中のDICと平衡状態にあるCO2の炭素同位体組 成 (δ13C Equil-CO2 (g)) の平均値は,-18.4,-24.9,-26.2, -25.8‰とδ13C DICと同様に低下する傾向が認められた。 地下水・河川水におけるlogPCO2およびδ 13C Equil-CO2 (g)の 関 係 を 図4 に 示 す。 河 川 水 のDIC供 給 源 と な るCO2 は,大気CO2とほぼ同様の分圧を持ち,さらに-18‰ 前後のδ13C値を持つものと判断される。このδ13C値を説 明できる適当な単一の起源物質は見当たらないことか ら,このCO2は二次的にできたものと判断される。例え ば二種類のCO2が混合した場合,これを満たす可能性が ある。サトウキビやトウモロコシなど一部の植物を除く ほとんどの植物はC3植物に分類され,-32~-20‰の 範囲 (平均値:-27‰) の相対的に軽いδ13C値を持つ (Boutton, 1991)。また,呼吸や有機物分解によって放出 されるCO2は,消費/分解される有機物とほぼ同様の δ13C値を持つ。大気CO 2のδ13C値が-7 ‰であることを 考え合わせると,C3植物に由来する- 30‰前後のδ13C 値をもつCO2が大気CO2にこれと同じ分圧で混合したと すれば,河川水に影響を与えるCO2を説明することが可 能である。一方で,図4 において扇状地地下水に影響を 与えるCO2は,河川水のものよりもその分圧が高く,よ り軽いδ13Cを持っている。このことから,扇状地地下水 河川水

log P

CO2 ‒4.0 ‒3.5 ‒3.0 ‒2.5 ‒2.0 大気CO2 地下水 扇頂部 扇央部 扇端部 河川水 ‒25 ‒5 ‒20

δ

13

C

Equil-CO2(g) (‰) ‒15 ‒10 ‒30 有機物由来CO2 (C3植物,理論値) 地下水 90% 80% 60% 70% 50%

図4 地下水・河川水の溶存無機炭素 (DIC) に対して平衡状態にあるCO2の分圧 (logPCO2) とその炭素同位体組成 (δ

13C

Equil-CO2(g))

の関係.モデルの理論線 (実践) では,CO2に占める有機物分解由来CO2の割合 fC3-CO2を%で示す.50%の理論値は,とも

に0.40 mbarの大気CO2と有機物分解由来CO2が50%:50%で混合した値を示す.なお,土壌微生物の呼吸,すなわち有

(8)

わちH+が (17) および (18) 式で示される鉱物風化でよ り多く消費されていることが示唆される。一方で扇状地 地下水は,扇状地における位置によらずこの理論曲線付 近にプロットされており,このモデルにもとづけば fC3-CO2 が90%前後のときの理論値によって説明が可能である。 この値は先の起源CO2についてのlogPCO2とδ 13C Equil-CO2 (g) の関係 (図 4) で求められた値と非常に良い一致を示す ものである。 以上の結果から,DICの供給源となっている CO2は, 河川水においては大気CO2と土壌有機物が分解される際 に発生したCO2が50%ずつ混合したものであり,扇状 地地下水においては土壌有機物起源のCO2が90%程度 まで上昇したものと解釈された。また,このモデル計算 により,河川水から扇状地地下水への水の動きの中で認 められたPCO2およびDIC濃度の上昇と,δ 13C DIC値の低下 を整合的に説明することができた。また,このような DICの供給プロセスは,その進行により水中に付加され るH+量の増加をともなうものであり,扇状地堆積物中 における灰長石およびカンラン石の風化を促進している といえる (図 6)。 5.まとめ 本研究は秦野盆地内における山麓湧水,河川水および 扇状地地下水を対象としてその水質的特徴を明らかにす るとともに,水質組成お,よび炭素同位体組成を指標と して主に地質との関係から地下水の流下にともなう水質 形成プロセスを明らかにすることを目的として行った。 その結果は以下のようにまとめられる。 秦野盆地内における河川水および地下水は全てCa-HCO3型を示した。これらは山麓湧水・河川水を起点と して,扇頂部地下水,扇央部地下水,扇端部地下水とい う水の動きとともに,おおまかにCa2+,Mg2+,HCO 3 - 濃度が増加する傾向が認められた。さらに,この水の動 きとともに,溶存無機炭素 (DIC) 濃度,CO2分圧が上昇 する一方でδ13C DIC値は低下する傾向が認められた。Ca2+, Mg2+,HCO 3 -濃度についての水質組成変化は,扇状地 堆積物中に存在する灰長石とカンラン石の風化反応によ り整合的に説明することができた。また,DIC濃度, CO2分圧,δ13CDIC値の変化についてはモデル計算による 検討を行った結果,河川水では大気CO2と土壌有機物が 分解される際に発生したCO2がおよそ50%ずつ混合し たものがDICの供給源となっていると解釈された。一 方で扇状地地下水では大気CO2分圧は一定のもと,土壌 有機物起源のCO2が90%程度まで上昇したものがDIC の供給源であると解釈された。以上のことから,地下水 れにもとづけば,扇状地地下水におけるDIC供給源と なるCO2は90%程度 (85~95%) が土壌有機物分解に由 来し,残り10%程度 (5~15%) が大気CO2に由来すると 考えれば,logPCO2とδ 13C Equil-CO2 (g)の関係を整合的に説明 することができる。 このような形でCO2が水体に供給されているのであれ ば,地下水・河川水のDIC濃度およびδ13C値について もこのモデルにより説明可能となるはずである。そこで これらの関係についても以下の検討を行った。水体に影 響を与えるCO2についてfC3-CO2が変化すれば,(19) 式に よりそのCO2分圧が求められる。求まったCO2分圧を (5) ~ (10) 式および (12) 式にあてはめることで,DIC 濃度が求められる。さらに (13) ~ (16) 式を用いること で,そのδ13C DICが求められる。なお,これらを求める 上で必要となるpHおよび水温は,δ13C分析を行った五 つの地下水試料の平均値;pH=7.61,T=20.2℃を用い た。fC3-CO2を 変 化 さ せ た と き の 水 中 のDIC濃度および δ13C DIC値についての理論曲線を,地下水および河川水の 値と ともに図5 に示す。このモデルは概ね河川水の δ13C DIC値を説明できるが,河川水のDIC濃度がモデルの 値よりも比較的高い値となった。これはモデルで使用し たpHに起因するものであろう。DIC濃度は (2) ~ (4) 式 から分かるように,pHに大きく依存する。この場合に は河川水のpHがモデルで使用した値よりも高い,すな 図5 地下水・河川水の溶存無機炭素 (DIC) 濃度とその炭素 同位体組成 (δ13C DIC) の関係.モデルの理論線 (実践) では,CO2に占める有機物分解由来CO2の割合 fC3-CO2 を%で示す.50%の理論値は,ともに0.40 mbarの大 気CO2と有機物分解由来C2が50%:50%で混合した 値を示す.なお,土壌微生物の呼吸,すなわち有機物 分解により供給されるCO2のδ13C値を-28‰とした.

δ

13

C

DIC (‰) 河川水 90% 80% 60% 70% 50% 地下水 ‒20 ‒15 ‒10 1 2 2.5 0 0.5 1.5 地下水 扇頂部 扇央部 扇端部 河川水

DIC

(mmol/L)

(9)

謝辞 秦野市環境産業部環境保全課の谷芳生氏および堀野祐加氏 には,現地調査においてご協力とともに貴重な意見を頂い た。日本大学文理学部地球科学科(現 名古屋大学大学院) の佐野陽子氏には現地調査にご協力頂いた。また,駒澤大学 文学部の鈴木秀和准教授には本論文を執筆する上で貴重なご 助言を頂いた。ここに記して甚大なる謝意を表します。 ではCO2分圧とDIC濃度が上昇し,有機物由来の低い δ13C値を持つCO 2の割合が増えたため,地下水のδ13CDIC が低下したと解釈された。また,これにより地下水中に 供給されるH+量が増加したため,灰長石とカンラン石 の風化が促進されたものと考えられる。

Boutton, W. T. (1991) : Stable carbon isotope ratios of natural materials :II. Atmospheric,terrestrial,marine and fresh-water environments. In Carbon Isotope Techniques,edit-ed by Colenman, D.C. and Fry, B., Academic Press, New York, 173-185.

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大気

CO

2

有機物由来

CO

2

有機物由来

CO

2 Mg2+ HCO3 HCO3

50%

(

13

C = 7

‰)

50%

(

13

C = 28‰)

(

13

C = 28‰)

扇状地地下水

扇状地地下水

地下水流動 地下水流動 地下水流動 地下水流動

礫層

ローム層

沖積層

図6 Ca2+

10%

HCO3 HCO3

90%

カンラン石

灰長石

河川水

全幅 図6 地下水・河川水の水質形成プロセスに関する模式図.河川水における溶存無機炭素 (DIC) は大気 CO2および有機物分解由 来のCO2が50%:50%の割合で混合したものに由来する.扇状地地下水では有機物分解由来の CO2の割合が90%程度まで 上昇し,これにともなって水中に供給されるH+量が増加することで灰長石およびカンラン石の風化が促進されていると 考えられる.

(10)

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図 4    地下水・河川水の溶存無機炭素 (DIC) に対して平衡状態にあるCO 2 の分圧 (logP CO 2 )  とその炭素同位体組成 (δ 13 C Equil-CO 2 (g) )

参照

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