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Title 都市部の独居高齢者における危機管理としての近隣との交流 [全文の要約]
Author(s) 工藤, 禎子
Citation 北海道大学. 博士(看護学) 甲第11435号
Issue Date 2014-03-25
Doc URL http://hdl.handle.net/2115/58032
Type theses (doctoral - abstract of entire text)
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Note(URL) https://www.lib.hokudai.ac.jp/dissertations/copy-guides/
File Information Yoshiko̲Kudo̲summary.pdf
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
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平成25年度 北海道大学大学院保健科学院 博士後期課程学位論文 要約
工藤禎子 Yoshiko KUDO 保健科学専攻 看護学コース
論文題目 都市部の独居高齢者における危機管理としての近隣との交流
Ⅰ.緒言
独居高齢者の課題への対策には社会関係の活用が鍵になるといわれている。そこで、緒言では、
わが国における独居高齢者の社会的課題、独居高齢者の社会的関係に関する研究動向、独居高齢者 における危機の概念と研究動向等について論述した。
1.わが国における独居高齢者の社会的課題
わが国では65歳以上人口のうち、独居者は男性の11%、女性の20%であり、今後も増加が見込まれ ている。都市部の無縁社会化により独居高齢者の10人に1人は交流がない孤立状態にあり、また孤立 死に関しては年間1万人以上と推計されている。
また、独居高齢者の6割以上が、大地震などの災害や、自分の病気に不安を持っており、家族と同 居の高齢者に比べて高い割合となっている。近年の我が国では、地震や台風などの自然災害が多発 し、高齢者は被害に遭いやすく、なかでも独居高齢者は災害弱者と位置づけられ、地域における支 援が課題である。
2.独居高齢者の社会的関係に関する研究動向
独居高齢者とソーシャル・サポート及び近隣をキーワードとした検索と文献検討を行った。主な 知見は、独居高齢者は、ソーシャル・ネットワーク、ソーシャル・サポートが少ないこと、特に都 市の居住者、男性は、人との交流が少ないことなどであった。また、独居高齢者の社会的孤立は、
人との交流や近隣への参加で緩和され、ネットワークが少ない場合に、低いQOL、うつ状態のリスク が高いこと、さらに独居高齢者は地域の悪影響を受けやすいことが明らかであった。
3.独居高齢者における危機の概念と研究動向
危機管理については、保健医療、社会学、心理学、工学などの多様な領域で扱われており、危機 の定義は多様である。これらをふまえ、生命や生活の破綻や死を「ダメージ」、破綻の危険が極め て高まった状態を「クライシス」、生命や生活の破綻の危険が高まる可能性を「リスク」ととらえ、
クライシスとリスクの原因を「ハザ-ド」とした。リスクは主観的なものであり、同じ事象であって もリスクであるか否かは人や状況により異なるため、リスクの定義が困難だといわれてきた。
危機が広義な概念であることから、本研究では予防的な視点を重視しリスクに焦点を当てた。
また、本研究では危機管理の定義を、「危機の各段階で、危機を防止、または極小化すること、
また一旦危機が発生した時にそこから生じるダメージを最小限にするための、諸手段を総合的かつ システム的に行うマネジメント手法」とした。管理は、総合的かつシステム的であり、段階で区切 るものではないため、本研究では、リスク管理という用語ではなく、危機管理という用語を用いた。
報告者はこれまでの研究から、独居高齢者は、家族と同居の高齢者とは異なり、有事に備えて、
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近隣と意図的に関係を構築することを明らかにしてきたが、独居高齢者にとっての有事の内容、ま た近隣との関係をどのように構築するかについては研究課題となっていた。
Ⅱ.目的
本研究では、独居高齢者の安全・安心な生活をめざした支援のあり方の検討のために、独居高齢 者の生活上のリスクと、近隣との危機管理としての関係構築の方法を明らかにすることを目的とし た。本研究の具体目標は、1.都市部の独居高齢者における生活上のリスクとは何かを明らかにす ること、2.危機管理としての近隣との交流の方法を明らかにすることである。
Ⅲ.研究の方法 1.研究デザイン
本研究は、エスノグラフィーによる質的記述的研究である。エスノグラフィーは、特定の集団に おける固有の文脈の中で問いを絞って文化を記述する方法である。本研究では、都市部の独居高齢 者という集団における生活様式と価値観、特に近隣の人々との交流という文脈の中で、独居高齢者 にとっての主観的な生活上のリスクと、危機管理方法を明らかにするエスノグラフィーである。
公衆衛生看護実践においては、人々の健康を、環境との関係からとらえ、その地域の人々に共通 する価値観や行動様式などの文化を尊重した支援をめざしており、その方法として、エスノグラフ ィーが有効である。今回の研究では、都市の独居高齢者と近隣との関係をテーマとすること、リス クという主観的な概念を独居高齢者の世界から描くことなどから、エスノグラフィーを採用した。
2.研究のフィールド
大都市に隣接した人口2.8万人で、40年前から開発された地域で、集合住宅と戸建て住宅が密集し ている住宅街である。
3.情報提供者
独居高齢者26人と、高齢者の支援関係者33人である。高齢者は支援者からの紹介、及び高齢者の サロンで依頼し、調査協力を得られた人である。年齢は60歳代から90歳代であり、男性9人、女性17 人であった。介護認定なしの人が多いが、要支援、要介護の人も含まれていた。
支援関係者の内訳は、自治体職員、地域包括支援センター職員などである。支援関係者のデータは高 齢者の語りの背景や意味の補足、解釈に活用した。
4.調査方法
エスノグラフィック・インタビューと、フィールドワーク、既存資料の収集である。インタビュ ーではインタビュー・ガイドを使用し、独居高齢者の「生活上で『何かあった場合』と聞いて思い 浮かべること」等を質問した。了解を得て録音し、逐語録を作成した。
フィールドワークは、高齢者のサロン、支援関係者の会議への参加、地区踏査として、町並や掲 示板の観察、防災と安全管理に関する情報を収集し、内容を記述した。
既存資料は、要覧、保健福祉計画などから、高齢者向けサービス、行政からの啓発内容などを把 握した。
- 3 - 5.分析方法
逐語記録とフィールドノートから、リスクと危機管理の側面について、個人別のエピソードの一 覧表を作成した。エピソードの要点をコード化し、次に類似するコードの内容についてサブカテゴ リー化を行い、同様にカテゴリー化を行った。リスクのカテゴリー化、危機管理のカテゴリー化の 後に、事例に戻って、リスク別の危機管理方法のマトリクスを作成した。さらに、各事例の危機管 理として用いている方法のパタンについて類似する組み合わせの並べ替えにより危機管理方法の類 型化を行った。
研究の全プロセスを記述して信用可能性を確保し、確認可能性の確保のために、情報提供者及び 質的研究を行っている研究者等の確認を受けた。
6.倫理的配慮
北海道大学大学院保健科学研究院の倫理委員会の承認を得た(平成23年5月31日,承認番号11-11)。
情報提供者には、研究の目的、個人情報の保護について文書と口頭で説明し、書面で同意を得た。
Ⅵ.結果
1.都市部の独居高齢者のリスク
身体面のリスクとして、サブカテゴリー、急な意識障害の可能性などから【緊急時に自分で対処 できない可能性】と【身体機能の低下による生活障害の可能性】というカテゴリーが抽出された。
また、【自立を侵害される可能性】【認知機能の低下による生活障害の可能性】【孤立の可能性】
といったリスクが抽出された。
2.都市部の独居高齢者における危機管理としての近隣との交流の方法
【健康づくり活動を活用した健康管理】【共助に備えた平常時の近隣との関係構築】【ライフサ イクルの中で築いた互酬】【危機後の近隣者からの支援の受け入れ】【安否確認の体制づくり】【災 害時の共助に関する近隣との合意】の6カテゴリーが抽出された。
3.都市部の独居高齢者のおける生活上のリスクと危機管理
作成したマトリクスにおいて、エピソードの該当箇所を塗りつぶしし、リスク内容別に、近隣と の交流による危機管理のどのような方法を用いていたかについて関連を分析した。
身体面、精神面のリスクに対しては、共助に備えた平常時の近隣との関係構築と、ライフサイク ルの中で築いた互酬、安否確認の体制づくりが対応していた。生活基盤の住居や経済面のリスクに 対しては、共助に備えた平常時の近隣との関係構築が、部分的に対応していた。アクシデントや自 然災害の被害を受ける可能性については、平常時の近隣との関係に加えて、《災害時の共助に関す る近隣との合意》がみられた。
4.都市部の独居高齢者における危機管理の方法からみた類型
情報提供者の個人のエピソードから、個人の危機管理方法は、近隣との交流、自己管理、別居子・
親戚による支援の活用、契約とサービスの活用の組み合わせによって、『自己管理+近隣型』『近 隣+家族型』『要援護総合型』『予防的総合型』『契約型』の5類型が見出された。
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Ⅴ.考察
1.都市部の独居高齢者におけるリスク
従来の研究では、独居という生活形態がリスクとして扱われてきたが、本研究では都市部の独居 高齢者の生活上のリスク内容の11カテゴリーを明らかにすることができた。
健康問題などの一般的なリスクの中でも、緊急時に自分で対処できない可能性は、独居高齢者の 重大なリスクであり、専門職側からみた研究と一致していた。
2.危機管理としての近隣との交流が活用可能な範囲
危機管理としての近隣との交流が活用可能な範囲リスクの種類によって異なっていた。身体面、
精神・心理面、損害に関するリスクに対しては、共助に備えた平常時の近隣との円満な交流の活用 がみられ、挨拶程度の日常の交流も高齢者の情緒的、手段的サポート資源になりうるという従来の 報告と一致していた。
死や災害などの重度のリスクに関しては、ライフサイクルの中で築いた互酬関係を持つ高齢者は それを活用して、近隣との共助に関する合意を行っており、長年の互酬関係は、危機管理の範囲を 拡大すると考えられた。
生活基盤に関するリスクに対しては、近隣との交流は活用されず、財産や利害が絡むリスクにつ いては、家族や専門職による支援のニーズが潜在していると考えられた。
危機管理としての近隣との交流と他の方法による補完については、本研究の情報提供者において は、近隣との交流を、近隣以外の危機管理の方法、すなわち、自己管理、家族による支援の活用、
契約とサービスによる支援の活用を組み合わせて、危機管理の方法を開発しており、近隣は、その 中で、住居に近接し、日常的に得られる資源であるという特長を持ち、独居高齢者の、生活上のリ スクに対応していることが明らかとなった。
近年の危機管理対策においては、自助、互助、共助、公助の補完の重要性が唱われている。今回 の情報提供者の、都市部の独居高齢者においても、民生委員や近隣での防災訓練への期待がみられ、
それらの活動の基盤の整備には公的支援が必要と考えられた。
3.危機管理としての近隣との意味ある関係の構築方法
共助に備えた平常時の近隣との関係構築の方法は、近くの他人は大事な存在であるという意識に 基づき、平常時の円満な関係を目的とした、立ち入りすぎない「ほどよい」付き合いという方法が みられ、都市部に住民同士による特有の関係構築方法と考えられた。また、自分が独居高齢者であ ることの近隣者への開示、近隣の場への定期的な参加などの意図的行動にみられるように、独居高 齢者は主体的に、平常時の「見守られ」の関係を構築していた。
地縁に基づく平常時の相互扶助は、住民の対等な協力による生活継続の営みであるといわれてい る。今回の都市部の独居高齢者において、平常時の近隣との関係が、危機管理につながる資源であ り、意図的に関係を構築する方法が明らかになった。
コミュニティは、居場所かつ問題解決を目指した組織体であり問題解決の力を持つということを、
独居高齢者の側から明らかにしたことが今回の研究の特長といえる。
4.本研究の新規性と独自性と今後の課題
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本研究の新規性と独自性は、都市部の独居高齢者における生活上のリスクの内容を明確化し、近 隣との交流の意義と、危機管理を意図した関係構築方法を明らかに示したことである。
本研究の限界は、危機の中でもリスクに焦点を当てたため、危機を網羅した危機管理ではないこ とである。今後の課題として、独居高齢者の地域での安全な生活のための、リスクの把握と危機管 理の方法に関する検証を行うことと、支援と啓発への本研究結果を活用することである。
5.公衆衛生看護実践への示唆
第1に、都市部の独居高齢者における、立ち入りすぎない「ほどよい」関係構築など、彼らの価値 観と行動様式を尊重し、従来の専門職の価値とは異なる方法を参考にすることで、当事者の意向に 沿った有効な支援に役立つと考える。
第2に、都市部の独居高齢者の危機管理への本研究結果の活用であり、具体的には 1)個々の独居高齢者のリスクと安全(危機管理)に関するアセスメントへの活用、
2)独居高齢者の特性に沿った支援枠組としての危機管理類型の活用、
3)都市部の一般の高齢者への啓発への活用が考えられる。
最後に、互助、共助による危機管理を推進する行政の役割について、
1)高齢者主体の安否確認や危機管理の基盤整備 (民生委員の活動への支援、住民活動の指示)
2)地域主体の防災訓練の推進等に本研究結果を用いていくことが考えられた。
以上。