日本管理会計学会誌 管理会計 学 第 1 巻第 1 号
1992 年 秋 季 号
論 文
原 価企 画 に お ける原 価 目標の 設定 と細 分化
田 中 雅 康*
〈論文 要 旨〉
本 論 文で は,原価企画を次の ように 理解 するこ とにし た.ずな わ ち,原 価企画と は開発 設 計してい る新 製品の仕 様が技 術 性と経 済 性か らみ て,目的にか なっ た原 価で, 設 計,製 造,販 売,使 用 ・廃棄 さ れ るように
,開 発 設計に着手 す る前に原 価 目 標 を 設定 し,その 範 囲 内 で 設 計 させ ,その 結 果 を原価 見積 することに よって 評価し,原 価 目標 が未 達成 な らば原 価 改善さ せ る一連の 管理 思 想 と管理 活動のこ と で あ る,
この原価企 画で管理 対象とする原価 は理想的 にはライフサ イ クル ・コ ス ト(LGC )の す
べ てであり,これ らの 原 価 を性 能 目標や 開発日程目標と同 等の ウェ ートを持っ た 目 標 (す な わち原 価 目標)として位 置づ け, これを開発設計 者 等に与 え,彼らの 自己統 制 指針 や 評 価尺度とするの である.
原 価 目標 は 開発設 計段階に お け る製品 仕様の 決 定過 程 で達成すべ き 目標 とな る原価で あ り, すべ て の LCC に対 して設定すべ きで あ る.これ が あ るべ き姿の 原 価企画で あ る.
と はい え,現実にわが国の多くの企業が管理指 標と して設定してい るの は製 造 原価 目標が 主で ある.そこ で本 論 文では製 造 原 価 目標に限 定して述べ た.
原 価目標 を必達目標 と し て位置づ け,その 達成管理 を 効 果 的に行 なうた め には,幾つ かの 整備 すべ き事項 が ある,そ れ をこ こでは一般的 整備 事項 と個 別的 修正事項 に分 けて
論述し た.この よう な整 備 を完了 し た後で, 製造原価 目 標を設定 する代表的 な 方法 を詳 述 し た.そ れ は控除 法, 加算法,統合 法 であ り,こ れ らの 方 法 は さ らに幾つ かの方 法に細
分 類さ れる.
さ らに,製 造 原 価目標は達 成 しやす くする ため細分化 するの が一般 的である.この 代 表 的 な方 法は機 能 別, 構 造 別,機 能 別 ・構 造 別
,原 価 要 素 別の各細分 割 付 法 と設計 者別 細 分 割 付 法で ある.これ らの 方法 と特 徴につ い て も詳 述 した.
〈キーワー ド〉
原 価目 標, コス トレ ベ ル , ライフ サ イクル ・コ ス ト, 原 価 有 効性,原価 目 標の 細 分 割 付 1992 年7 月受 イ寸
1992 年 10月 受理
*東京理 科大学教授 (理 工 学 部 経営工学 科)
管理会 計 学 第 ユ巻 第 1 号
1. は じ め に
原価企 画 とい う用 語がわが国で使用 さ れ始め て 30年近 くにな り, 実務 を中心に ほ ぼ定着 し
て きた.当初の 原価 企 画は VE (value engineering )技法 等の採 用に よる開発設計 段 階に おけ る 製品製造 原価の低減活 動で あっ た,なか んずく,開 発設計の 中期 ・後期にお ける試作品 を対象
と し た VE の採 用に よ る そ れで あっ た.その成果の 大 きさ か ら,こ の 原価低 減成 果 を よ り高
め る た め開発設計段階 に おける総合 的な原価低 滅シ ス テムの構 築が要 請さ れ た.この ような 背景で生 ま れ たの が原価企画である.そのル ーツは自動 車メーカーで あ るが
,電気機 器業 界等
で も類似の活 動 が な さ れて い た.こ れ らの 活動成 果 の大 きさ が知 ら れ るにつ れ,同 業 種 だ け でなく他業種へ も普及 し, わが 国独 自の技法 と し て定着 し発展 して きた.
初期の 原価企画は開発 設計 する新 製品 の 製造 原価を低減する こ とに よっ て , 当該 製品 に期 待さ れ た目標 利益を実現させ る もので あっ た。い い か え れ ば, 原価企画は開発設計する新 製品
の 原価低減が主目的で あ り, その成 果が結果 的に 当該 製 品の 目標 利 益 を実現 さ せ る, とい う思 考で あっ た.
とこ ろ が, 今 日 で は 利 益 追求思考の 強い原 価 企 画が多 くなっ て き た.そこ で は製品 (群)別
目標利益 の実 現 が主 目 的で あ り, そ れ を達成する 手段の 1 つ と して 原価 目標 の達成 を位置づ け るの で あ る.こ の 思考は 初 期 の原 価 企 画 概念の拡 大 と質 的 変 化で あ り, 原価 企 画 とい う よ り む し ろ利益 企 画 (prefit engineering )とで も呼ぶ べ き もので あ る.
本 論 文は この よ う な 多 様 な 内 容で展 開 さ れて い る原 価 企 画につ い て, その 中心 を なす原 価 目標 (cost target)に焦 点 を 当て, これを必達 目標 と し意義づ け, その達成管理 を効果 的に行 う
た めに必要 と な る整 備事 項を 明 らか に し た,従 来 よ りこの ような研 究はなく, 必達 目標 とは い え実質的 な 必達 目標にな り得 ず,原価 目標が厳 しすぎる等の欠 点が あっ た,本論 文は こ の点 を 理論的に補充 し た.次 い で製 造原価目 標の 設 定 方 法 と 細 分 割 付 法 につ い て,従 来発 表 して き た もの を 発 展 させ て述べ るこ と に す る,
2. 原価企 画 の意 義 と概 要
前述 し た ように, 原価企 画は多様 な内容 を もっ た実務展 開が なされて きた が, これと並行す る ように多様な原価企画論が発 表 さ れ る ようになっ た.この こ とは原価企画の発 展で あろ う が, 反 面,本質を 誤解 させ かね ない 状 況 をつ く り 出 し た.そこで ,現 実 を直視 し なが ら原 価企 画の 本 質 を明ら か に し, その 主要 な活動 内容 を明 らか にして お くこ と にする,以 下, 今 日 まで の研 究結果 を踏 ま え,原価企 画の定義 を示 し, その概 要 を明 らか に し て お こ う.
厂原価企画と は,開発 設計 し ようと して い る新 製品 の仕様が技術性 と経済性か らみ て, 目的
原 価企画における原緬 目標の 設定と細 分 化
に かなっ た 原価で, 設計,製造,販売, 使 用 ・廃棄さ れ る よ うに, 開発設計に着 手 する前に原価 目標 を 設定 し, その範囲 内で 設 計 させ , その結 果 を原価見 積するこ と に よっ て評 価 し, 原価 目 標が未達 成 な ら ば 原 価改善させ る一連 の管理 思 想 と管理 活動の こ とであ る」 .
こ の 定義は かな り狭 義の もの であ るが , こ こ に原 価企画の 本質が見い 出さ れる.すな わ ち,
原価企 画の 中心 は原価目標 の 設定 とその達成 管理 活動で あり, こ こ に科 学 的 ・工 学 的 ア プロ ー チ を導入 する点に特微が 存 する.そ の管理対 象 部門 は主 と し て開発 設計 と製 造準 備の部門で
あり, その活 動 内容を一般化して示 すと図 1の ようにな ろ う,
↑
ー
ー
構 想 設 計
11
−1
壷
个 ー ー1
ー
基 本 設 計
II11i
十
製 品企 画 決定 原価目 標の 設定 上位機 能 分 野の 決定 原 価 目標の上位機 能分野別割付等
『
情 懣護訐 ・具体花
.
概算原価見積
NO 、価目標≧原 価 見 貝 YES
中位機能分野の 決 定 原価 目標の割 付再検討 原価目標の 中位機能分 野 別割付等
概算原 価 見積
NO
・、価 目標≧原価 見積
YES
下位 機 能分野の決 定 原価 目標の割 付再検 討 原価目標の 丁位 機能分 野 別割付 等
詳轍 訐7購 花三
詳細原価 見積 、、価目標≧原価見積
NO
YES 製品予件(製造仕 様)の 決定
工程 設計 等製 造準備
.緬 酌襲造在様み変更’’’”、『...、
詳細 原価 見積 小 価目標≧原価見 積
NO
YES
製造 与件の 決 定 原 価標 準の 決定
(注 )i/ :}は 原価企 画活動で は ない が、全体の流れ が理解し やすい ため 表示 した、
図 1 原 価 企 画 活 動の概 要
↑
ーll
詳 細 設 計
11
↓
个11 ー
製 造 準 備
上
原価企画で管理対 象とな る 原価は理想 的にはラ イフ サ イ クル ・コ ス ト(life cycle cost :LCC )
の すべ て で あり, メ ーカー側で発生する原価の み ならず, ユ ー
ザー側で発生する原価 を も含ん
で い る,すな わ ち, 原価企 画で は従 来の 原 価管理の 管理 対象外 と して い た 原価に対 して も,主
管理会 計 学 第1巻 第 1 号
と して開 発設計 と製造準 備の 段階で コ ン トロ ール し ようとするの で あ る.
ま た, こ の ような原価を性 能や 日程 と同等の ウェ ー ト を持っ た 必達 目標 と して位 置づ け, こ
れ を 開 発 設 計 者 に与え,彼 らの 自 己統制指針 や 評 価 尺度 と す るので あ る.従来の開 発 設計者 は 性能 や 日程の 目標遵守につ い て は関心が 高 く,必 然 的に これ らの 目標達成度は高かっ た.これ に対 して原価 目標 につ い て は, 目 標 その もの が 明 確 で なか っ たこ と も あっ て彼 らの 関 心 は 高い とはい えず,達 成さ れない こ と が多か っ た .
今 日 に お い て も,性 能 目標, 日程 目標, 原価目標の 三者につ い て開 発 設計 段 階で どの程 度重 視するか を 調べ てみ ると表 1の よ うで あっ た(1).な お, こ こ で は 現 時 点での 重 視 割 合 と理 想 と
する重視割 合につ い て対 比 し て 示 した.
表 1 開 発 設 計 段 階に おける原 価 ・日程 ・性 能の重視 割 合
(1987 年 調 査)
現 状の重 視 割 合 理想の 重視割合
原価 目標 (
%)
28.4 (36.1 %)
日程 目標 29.0 26.6
性能目標 42.6 37.3
合 計 100.0 100.0
この結 果 を 見 れ ば,現 状で は 性 能 目標 に対 す る ウェ ー トが 非 常に 高い が
,理 想 とす る ウェ ー ト で は性能目標 と原 価目標が ほ ぼ同 じ になっ てい る.こ の ように, 原価目標 は 理想 とする ウ ェ ー
トを指向し て い か な けれ ば ならない .さ も な くば ,開 発 設 計 す る 製 品 が 過 剰 品質に な る等に よ り資源の有 効活用, ひい て は,原価の 有 効活用が で きない .原価 企画は この点に注 目 して, 開 発設計 活 動を中心 に当該 新 製品 の 原価有 効 性 (cost effectiveness )を高め , 当該 企業の コ ス ト
レベ ル を高揚 させ ,原価 体質を強化さ せ ようとする もの で ある.
3. 原 価 目標 の意 義
(1) 多様な 原価目標概念
従来 よ り知 的 ・精 神 的 活動の達成 目標の 1つ と して原価 目標が設定さ れ るこ とが 多 く,同一
の用語が幾つ か の分野で 用い られて い る.そこ で , これらの 原価目 標 概念 と原 価 企 画で い う 原
〔1)こ紀 は筆 者が 昭和62 年 (1987)に 電気 機罫 ・輸送機器 ・機 械 ・精 密機器 ・その他製造 業の主要企業を対 象と し た アン ケート調
査の結 果 で あV,有 効 回答数 は298 事 業所であ る.ま た,同 様 な調査 を1983 年にも行なっ たが,その結 果 もこれと ほ ぼ同様で
あっ た.