コンピュータと民族学 : コンピュータとアボリジ ニ ―情報民族学の試み―
著者 久保 正敏
雑誌名 国立民族学博物館研究報告別冊
巻 015
ページ 277‑306
発行年 1991‑12‑13
その他のタイトル Computers and Anthropology : Anthropology and Information: Computers in Maningrida
URL http://doi.org/10.15021/00003606
コ ン ピ ュ ー タ と ア ボ リ ジ ニ 一 情報民族学 の試み
久 保 正 敏*
I.は じめ に
Ⅱ
.マ ニ ン グ リダの 組 織 と機 能
Ⅲ
.ア ボ リジ ナ ル ・デ ー タ ベ ー ス ・プ ロ ジ ェク トの意 義
1. コンピュータ 民 族 学 的 視 点 2.応 用 人類 学 的 視 点 3.民 族 学 情報 収 集 方 法 論 4.文 化 変 容 の分 析 5.情 報 民 族学 的視 点
Ⅳ
.ア ボ リジ ナ ル ・デ ー タ ベ ース ・シ ス テ ムの 概 要
1.開 発 経 過 2.デ ー タ の 内 容 分 析 V,ア ボ リ ジ ニ の 情 報 観 1.人 の 情 報 処 理 モ デ ル
2.マ ニ ン グ リ ダ に お け る メ デ ィ ア 略 史 3.ア ボ リ ジ ニ の 学 習 態 度
4.ア ボ リ ジ ニ の 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 5.パ ー ソ ナ リテ ィ の 規 範
6.狩 猟 採 集 社 会 の 情 報 観 7.近 代 化 と の 相 克
VI.お わ りに
I.は じ め に
1988年7月 か ら,筆 者 は オ ー ス トラ リ ア共 同 研 究 会 に 参 加 し,ア ボ リ ジ ナ ル ・デ ー タ ベ ー ス を 作 成 す る と い う プ ロ ジ ェ ク トを 進 め る 事 に な り,現 在 ま で に,1988年7月
〜8月 ,1989年1月 〜2月,7月 〜8月,1990年8月,の 計4回,ア ー ネ ムランド の マ ニ ン グ リ ダ に お い て,コンピュータ ・プ ロ グ ラ ム の 作 成 と,現 地 で の 操 作 指 導 を 行 っ て きた 。 そ の 契 機 は 次 の よ うな 事 情 に よ る 。
ア ボ リジ ニ 領 内 で は,過 去 の 植 民 地 政 策 へ の 反 省 か ら,ア ボ リ ジ ニ の 生 活 全 般 を 支 援 す る 様 々 な 機 構 や 組 織 が オ ー ス トラ リア 連 邦 政 府 の 援 助 の も とに 設 置 さ れ て き た 。
マニングリダ は,連 邦 政 府 直 轄 の 生 活 支 援 拠 点 と して1958年 に い ち は や く設 置 さ れ た
コ ミ ュ ニ テ ィの ひ と つ で あ る 。
マニングリダ に は,政 府 の 出 先 機 関,飛 行 場,警 察,病 院,学 校,マ ー ケ ッ トな ど の 様 々 な 施 設 が 置 か れ,生 活 支 援 活 動 が 進 め られ て い る。 ア ボ リジ ニ の 人 た ち は,現
*京 都 大 学 大 型 計 算 機センター
国立民族学博物館研究報告別 冊 15号
在 で も 野 外 キ ャ ン プ 地 に で か け,狩 猟 採 集 を し ば しぼ 行 うが,そ の ス タ イ ル は 随 分 と 近 代 化 さ れ た も の で あ る 。 か つ て の 槍 に 代 え て 手 に は 銃 を 持 ち,ブ ッ シ ュ の 中 を 四 輪 駆 動 車 で 疾 走 し,無 線 電 話 で グ ル ー プ 間 の 連 絡 を と りな が ら,狩 りを 行 う。 銃,四 輪 駆 動 車,無 線 電 話 は,い わ ぽ 現 代 狩 猟 採 集 民 の 三 種 の 神 器 で あ る が,ブ ッ シ ュで の 酷 使 に 耐 え か ね て し ば しば 故 障 す る 。マニングリダ に は,こ れ ら の 修 理 工 場 が 設 置 さ れ て お り,彼 等 の 伝 統 的 狩 猟 採 集 文 化 を 支 援 す る 意 味 で 非 常 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る と言 え よ う。
こ の 修 理 工 場 は,Bawinanga Aboriginal Corporation(略 称BAC)と い う法 人 組 織 で あ る が,そ の 白 人 責 任 者B氏 と民 博 の オ ー ス トラ リ ア ・グ ル ー プ は10年 来 の 深 い 関 係 が あ り,フ ィ ー ル ド ・ワ ー ク を 進 め る う え で 彼 に 大 変 世 話 に な っ て き た 。BAC で は,修 理 依 頼 の 受 付 け,修 理 明 細 の 帳 簿 付 け,そ れ に 基 づ く請 求 書 発 行,入 金 の 受 付 け,な ど の 業 務 の 正 確 ・迅 速 な 処 理 を ね ら っ て,こ れ らを 電 算 化 す る こ と を 計 画 し, 民 博 グ ル ー プ に 相 談 を 持 ち か け た 。1987年 夏,別 件 で 民 博 を 訪 れ たB氏 が グ ル ー プ
・ リ ー ダ ー の 小 山 修 三 氏 と打 合 せ を 行 い ,そ の結 果,翌1988年 か ら筆 者 が 研 究 グ ル ー プ に 加 わ り フ ィ ー ル ド ・ワ ー ク を 行 う こ と に な っ た の で あ る 。
こ れ ら の 業 務 を 処 理 す る ソ フ トウ ェ ア ・シ ス テ ム は,現 地 で の 修 理 業 務 を 支 援 す る と 同 時 に,ア ボ リ ジ ニ の 人 た ち の 狩 猟 採 集 活 動 の 記 録 を 間 接 的 に デ ー タ ベ ー ス 化 す る 機 能 も 合 わ せ 持 つ こ とに な る 。 そ の デ ー タ は,我 々民 博 グ ル ー プ に と っ て,ア ボ リ ジ ニ の 狩 猟 活 動 を 解 析 す る の に 貴 重 な 資 料 と な る。
BACは,修 理 業 務 だ け で は な く,社 会 保 障 費 の 給 付,ア ボ リ ジ ニ の 芸 術 作 品 の 買 上 げ,販 売 も行 っ て い る 。 こ れ ら の うち,社 会 保 障 費 の 給 付 事 務 を 電 算 化 す れ ぽ,ア ボ リジ ニ の 複 雑 な 親 族 組 織 を 解 明 す る の に 役 立 つ デ ー タ が 集 ま る で あ ろ う。 た だ し, 個 人 の プ ラ イ バ シ ー に 充 分 な 注 意 を 払 わ ね ぽ な ら な い の は 当 然 で あ る が 。 さ ら に,芸 術 作 品 の 買 上 げ,販 売 業 務 を 電 算 化 し,作 品 の テ ー マ,素 材 な ど を デ ー タ ベ ー ス 化 で
き れ ば,ア ボ リ ジ ニ芸 術 の 変 容 を 追 跡 す る こ と も 可 能 と な ろ う。 こ の よ うに し て 構 築 さ れ た 「ア ボ リ ジ ナ ル ・デ ー タ ベ ー ス 」 は,ア ボ リ ジ ニ文 化 の 研 究 素 材 と な る と と も に,現 地 コ ミ ュ ニ テ ィ 自 身 の 意 志 決 定 に 役 立 つ 。
こ の よ う に,ア ボ リジ ナ ル ・デ ー タ ベ ー ス ・プ ロ ジ ェ ク トの 直 接 的 な 目 的 は,ア ボ リ ジ ニ文 化 に 関 す る デ ー タ 収 集 で あ っ た が,そ の 他 に,筆 者 が 期 待 し て い た の は,ア ボ リジ ニ の 人 た ち へ の コ ン ピ ュ ー タ 操 作 指 導 を 通 じて,彼 ら の 教 育 ・学 習 シ ス テ ム の 特 徴 を つ か み,そ こ か ら,ア ボ リジ ニ 文 化 に お け る 情 報 伝 達 や 知 識 体 系 の 形 成 方 法 な ど を 明 ら か に す る こ と で あ っ た 。 す な わ ち,ア ボ リ ジ ニ 文 化 に お け る 情 報 の 体 系 の 特
徴 を 明 ら か に す る こ と で あ り,「 情 報 」 と い う切 り 口 か ら,ア ボ リ ジ ニ文 化 を 理 解 す る 手 が か りを 得 る こ と で あ る 。 こ う し た 手 法 に よ る 民 族 学 研 究 は,「 情 報 民 族 学 」 と 呼 ぶ こ とが で き る で あ ろ う。
さ い わ い,こ れ ま で4回 の フ ィ ー ル ド ・ ワ ー ク の 結 果,ア ボ リジ ニ文 化 に お け る 学 習 や 情 報 伝 達 手 法 の 特 徴 を い くつ か 見 い だ す こ とが で き た 。 本 稿 で は,デ ー タ ベ ー ス と し て 蓄 積 さ れ た デ ー タ の 分 析 と と も に,ア ボ リジ ニ の 情 報 観 の 特 徴 に つ い て も議 論 を 行 い た い 。
.マニングリダ の組 織 と機 能
図1に 示 す よ う に,マ ニ ン グ リダ は,ノ ー ザ ソ ・テ リ ト リ(北 部 特 別 州)の 州 都 ダ ー ウ ィ ソ の 東 方,約300km,東 経134度14分,南 緯12度03分 に 位 置 す る 。 熱 帯 性 気 候 に 属 し,11月 か ら4月 ま で の 雨 季,5月 か ら10月 ま で の 乾 季 に 分 か れ る 。 年 間 降 雨 量 の 平 均 値 は1641mmで,降 雨 は1月 か ら3月 に 集 中 し,こ の 間 は 日 最 高 気 温 は32。C 前 後,日 最 低 気 温 は25。C前 後,日 中 湿 度 は70〜82%に 達 し,非 常 に 過 ご し に く い 。 乾 季 は 日最 高 気 温 が30。C前 後,日 最 低 気 温 が17〜18。Cで,6月 〜9月 は ま っ た く雨 を 見 ず,快 適 な 季 節 で あ る 。
1930年 代 以 降,ア ー ネ ム ラ ン ドの 海 岸 に は い くつ か の 小セツルメント やミッション が 作 られ,そ の 中 で 最 も大 き な 町 に 発 展 した マ ニ ン グ リ ダ は,1958年 に 政 府 セ ツ ル メ ン トと し て 確 立 した 。 現 在 マ ニ ン グ リ ダが 支 援 して い る ア ウ トス テ ー シ ョ ンは,図2 に 示 す よ う に35ヵ 所 に の ぼ る 。1985年 現 在,マニングリダ の 人 口は,ア ボ リジ ニ約 660名,白 人 も含 む ア ボ リジ ニ 以 外 の 人 た ち が 約50名,ア ウ トス テ ー シ ョ ン人 口 は 約 630名 で あ る。
マ ニ ン グ リ ダ の 地 図 を 図3に 示 す 。 こ こ に 置 か れ て い る 公 的 な 組 織 は,町 議 会
図1 ナ ー ス トラ リア 北 半
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1 Angababirriyi C3 2 Barnamarrakkakanora C2 3 Barrihdjowkeng B3
4 Berraja C2
5 Birriba C5
6 Borlkdjam C3
7 Buluhkaduru C3
8 Dam Dam D2
9 Djebbenna C2
10 Djimalawa D2
11 Gamardi D3
12 Gamarrguyrra E2 13 Gochan Jiny-jirra C2 14 Gorrong Gorrong C2
15 Gu-mugumuk E2
16 Gupanga D2
17 Ji-balbal D3
18 Ji-marda D2
19 Kabababuldi B3 20 Korlobirranda C4 21 Kubumi (Yikarrakal) B3 22 Malamayjarra D2 23 Marrkolidban B2
24 Mewirnbi E2
25 Mumeka B3
26 Nadjilmuk C1
27 Nakalaberrberr A2 28 Nakalarramba B2
29 Nanark C2
30 Ndjudda B1
31 Ngankorlord C4
32 Wurdeje D2
33 Yayminyi C5
34 Yilan D2
35 Yinangarnduwa E1
図2 マ ニ ン グ リ ダ 周 辺
図3 マ ニ ン グ リ ダ
(Town Counci1),学 校, MPA(Maningrida Progress Association), BAC (Bawinanga Aboriginal Corporation),診 療 所,警 察 な ど で あ る 。 表1に,そ れ ぞ れ の 機 能 を ま と め て 示 す 。
町 議 会 は マ ニ ン グ リ ダ定 住 者 の 生 活 支i援に か か わ る様 々 な 意 志 決 定 を 行 い,そ れ を 実 行 す る 機 関 で あ っ て,上 下 水 道,道 路,住 宅 の 建 設 ・管 理,発 電 所 の 管 理 な ど,お
も にマニングリダ の イ ソ フ ラ ス トラ ク チ ャ に 責 任 を 持 つ 。 町 議 会 事 務 所 に は 銀 行,郵 便 局,簡 易 テ レ ビ局 が 併 設 さ れ て い る 。 こ れ に 対 し,BACは ア ウ トステーション 住 民 の 生 活 支 援 を 目的 と す る組 織 で あ る 。
MPAは,町 民 や ア ウ トス テ ー シ ョ ン住 民 の 消 費 財 の 販 売 を 担 当 す る 。 マ ニ ソ グ リ ダ の マ ー ヶ ッ トの 経 営,タ ッ カ ー(Tucker:食 物 を 意 味 す る オ ー ス ト ラ リア 英 語)
・ラン と 呼 ば れ る 四 輪 駆 動 車 に よ る食 料 品 移 動 販 売(2週 間 を1サ イ クル と す る) , レ ン タ ル ・ビ デ オ ・シ ョ ッ プ や ガ ソ リン ・ス タ ン ドの 経 営 を 行 っ て い る 。 消 費 財 は2 週 間 に 一 度,ダ ー ウ ィ ンか ら 貨 物 船(Barge)で 届 げ られ る 。
国立民族学博物館研究報告別冊 15号 表1 マニングリダ の組織 と機能
Town Council 町 民 の 生 活 支 援
上 下 水 道 ・住 宅 ・道 路 の 建 設 ・管 理,発 電 所,社 会 保 障 費 給 付 MPA(Maningrida Progress Association)
町 民 ・ア ウ トス テ ー シ ョ ン住 民 の 生 活 物 資 マ ー ケ ッ ト経 営
移 動 食 料 販 売
BAC(Bawinanga Aboriginal Corporation) ア ウ トステーション 住 民 の 生 活 支 援
Mechanical Workshop三 種 の 神 器(4WD‑Car,銃 無 線 ラ ジ オ)や ボ ー トの 修 理 Social Security 社 会 保 障 費 給 付
Resource Centre 諸 設 備(井 戸,住 宅,道 路,太 陽 電 池)の 設 置 ・修 復 Art and Craft Centre 美 術 工 芸 品 の 買 上 げ,制 作 指 導,販 売
Health Clinic
町 民 ・ア ウ トステーション 住 民 の 健 康 管 理 School
3歳 児 〜12歳 生 徒 の 教 育 そ れ 以 上 の た め の 成 人 教 育
診 療 所 に 医 師 は い な い が,看 護 婦(白 人3名,ア ボ リジ ニ3名)が 町 民 と ア ウ トス テ ー シ ョ ソ住 民 の 健 康 管 理 を 行 い,必 要 に 応 じてダーウィン の 総 合 病 院 と連 絡 を と り な が ら 治 療 を 行 う。 ま た,2週 間 を1サ イ ク ル と して,ホ ス ピ タ ル ・ラ ソ と呼 ぼ れ る 移 動 診 療 も 行 っ て い る 。 白 人,ア ボ リジ ニ の 出 生 ・死 亡 は す べ て 診 療 所 で 把 握 さ れ る た め,町 民,ア ウ トステーション 住 民 の か な りの部 分 の 健 康 記 録 が こ こ に 保 存 さ れ て い る と 聞 く。
マニングリダ の 学 校 は,3,4歳 の 子 供 の た め のpre‑school,5〜12歳 児 の た め の primary‑school,そ れ よ り年 長 者 の た め のpost primary‑schoo1の3つ か ら成 り,そ れ ぞ れ の 専 任 教 師 を あ わ せ る と,白 人 約15名,ア ボ リ ジ ニ の ア シ ス タ ン ト教 師 約10名 に な る が,そ の 他 に ア ウ トステーション 専 任 の 白 人 教 師 が 数 人 い る 。 ス タ ッ フ の 数 か
ら 見 て も,学 校 がマニングリダ に お け る 最 大 組 織 で あ る。
筆 者 は こ れ ま で の フ ィ ー ル ド ・ ワ ー ク の 過 程 で まずBAC,次 い で 学 校 と接 触 を 持 つ 事 が で き た が,町 議 会,MPA,診 療 所 とは 接 触 を 持 つ に は 至 っ て い な い 。 BACは,ア ウ トステーション 住 民 の 生 活 支 援 を 目的 と し て1978年 に 設 立 さ れ た ORA(Outstation Resource Association)を1979年 セこ法 人 化 し 改 名 した も の で あ る 。 BACは,機 械 工 場(Mechanical Workshop),大 型 設 備 セ ン タ ー(Resource Centre), 社 会 保 障 費 給 付 部 門(Social Security),美 術 工 芸センター(Art and Craft Centre)
の4部 門 に 大 き く分 け られ る。
機 械 工場 で は,ア ボ リジ ニの人 た ち の狩 猟 採 集 に 必須 の移 動 手 段 で あ る 四輪 駆 動 車 や ボ ー ト,銃,そ れ に,ア ウ トス テ ー シ ョ ン同 士 の 連絡 に必 須 な無 線 電 話 な ど,耐 久 消費 財 の修 理 を行 う。 大 型 設 備センター は大 型 トラ ックや トラ クタ ー,ク レー ン車 な どを 保 有 し,各 ア ウ トス テ ー シ ョンに,風 車 を 動 力 とす る井 戸,学 校 や 住 宅,太 陽 電 池 発 電 装 置 とい った大 型 設 備 を設 置 ・修 復 す る業 務 を 行 って い る。 機 械 工 場 と大 型 設 備センター は 一 体 とな って業 務 を 行 って い るが,前 者 が 個 人 向 け サ ー ビスで あ るの に 対 し,後 老 は 公 的 資 金 に 基 づ く業 務 で あ るか ら,両 老 は 別 会 計 で運 用 され て い る。
アボ リジ ニの人 た ち の 現 金収 入 の大 きな部 分 を 占め る のが 社 会保 障 費 で あ るが,町 に定 住 す るア ボ リジ ニの 人 た ち に対 す る給 付業 務 は 町議 会 事 務 所 が行 うの に対 し,ア
ウ トス テ ー シ ョンに籍 を 持 つ 約630名 の 住 民 に 対 す る給 付 を 行 うの がBACの 社 会 保 障 費 給 付 部 門 で あ る。 こ こでは,週tle‑・ 度 BACあ てに 送 られ て き た小 切 手 の配 布 を 行 う。 町 議 会 事務 所 に 同居 して い る銀行 で小 切 手 が 現 金化 され るが,銀 行 の営 業 時 間 が短 い こ とも あ って,住 民 はBACを 訪 れ て現 金 化 を依 頼 した り現 金 を借 りた りす る こ とが 多 く,そ の 会 計 は 機 械工 場 部 門 の 会 計 に 組 み 入 れ られ て い る。BACが 手 近 な 銀 行 かわ りに利 用 され て い るわ け で あ る。 こ こに は,ア ウ トステーション 住 民 ほ ぼ 全 員 に つ い て の,氏 名,家 族,本 拠 ア ウ トステーション 名,出 身語 族 な どの,い わ ば 戸 籍 簿 が,小 型 カ ー ドの 形 態 で保 存 され て い る。 しか し,そ の更新 は充 分 に は 行 わ れ て
いな い 様 子 で あ る。
美 術 工芸センター は,木 皮 画,木 の 内皮 の 繊 維 で 編 ん だ袋,パ ソダ ナ スで編 ん だ籠, 木 彫,槍,貝 殻 を 糸 で連 ね た腕 飾 りや 首 飾 りな ど,ア ボ リジ ニの 伝統 的 工 芸 品 を 制 作 者 か ら買 い 上 げ,そ れ らの展 示 即売 を行 う と ともに,制 作指 導 や 各地 で行 わ れ る展 示 会 ・展 示 即 売 会 へ の 出展 も行 って い て,オ ー ス トラ リア 各地 の美 術 館 や博 物 館 とも深 い 関係 を 持 って い る。 ここ には,作 品 の制 作 者,作 品 の テ ー マ,買 い 上 げ価 格 な どの 記 録 が保 存 され て い る。給 与 所 得 を 得 て い な い ア ボ リジ ニの 人 た ちに と って は,社 会 保 障費 と と もに美 術 工 芸 品 の売 り上 げ も,現 金 収 入 の大 きな ル ー トであ る。
Ⅲ.ア ボ リ ジ ナ ル ・デ ー タ ベ ー ス ・ プ ロ ジ ェ ク トの 意 義
筆 者 た ち が 進 め て い る ア ボ リジ ナ ル ・デ ー タ ベ ー ス ・プ ロ ジ ェ ク トは,開 始 して か ら2年 余 しか 経 過 し て お らず,ま だ そ の 途 上 に あ る が,そ の 意 義 は,1)コ ソ ピ ュ ー タ 民 族 学 的 視 点,2)応 用 人 類 学 的 視 点,3)民 族 学 情 報 収 集 方 法 論,4)文 化 変 容 の
国立民族学博物 館研究報告別冊 15号 分 析,5)情 報 民 族 学 的 視 点,の5点 か ら考 え る こ とが で き よ う。
1.コ ン ピ ュ ー タ 民 族 学 的 視 点
民博 の創 設 時 に,従 来 の 民 族 学 に は な か った新 しい 研 究部 門 と して,「 コ ソ ピ ュー タ 民族 学 」部 門 が設 置 され た 。この 部 門 が 果 たす べ き課題 は,杉 田繁 治教 授 に よって, 次 の3点 に ま とめ られ てい る [SuGITA 1987】。 す なわ ち,コ ン ピ ュー タ と民 族学 との 関 係 を,1)民 族学 の道 具 と して の コ ン ピ ュー タ,2)民 族 学 の方 法 論 と して の コ ソ ピ ュー タ,3)民 族学 の対 象 と して の コ ン ピ ュー タ,と い う3点 で と らえ,そ れ に対 応 す る研 究課 題 を設 定 す る もの で あ る。
第1の 課 題 は,情 報 処 理 の分 野 で従 来 か ら開発 され て きた様 々な技 術,す な わ ち, 統 計 処理,言 語 ・文字 処 理,画 像 ・音 声 処理,デ ー タベ ース と情 報 検 索 技 術 な どを, 研 究 の 「道 具 」 と して民 族 学 に適 用 す る もの で あ る。 第2の 課題 は,情 報 処 理 に おけ
る数 量 化 や モ デ リングの 手法 を民 族 学 研 究 に導 入 し よ うとす る もの で あ る。 民 族学 研 究 には,生 の情 報 か ら仮 説 や理 論 を組 み 立 て るボ トム ・ア ップ的 な過 程 と,そ の 理論 を 再 び 生 の情 報 に 当て は め て 検証 す る トップ ・ダ ウ ン的 過 程 とが 必要 で あ るが 【久保 1986】,従 来 と もす れ ば 軽 視 され が ち で あ った 後 者 の過 程 を,コンピュータ 可 読 な モ デ ル形 成 とそ のシミュレーション とい う方 法 に よ って支 援 し よ うとす る もので あ る。
第3の 課 題 は,コンピュータ を代 表 とす る機 械文 明装 置 を 切 り口 と して,文 化 比較 を 行 お うとす る もの であ る。 あ る文 明装 置 が 導 入 され よ うとす る時,そ の文 化 が そ れ を そ の ま ま受 け 入れ るか,あ るい は,従 来 文 化 と融 合 させ るか,あ るい は,全 く拒絶 す るか,と い った対 応 の違 い に よ って,そ の文 化 の特 質 を 明 らか に す る手 が か りを 得 よ
うとす る もの で あ る。
これ らの 観 点 か ら見 る と,筆 者 た ち の ア ボ リジナ ル ・デ ー タベ ース ・プ ロジ ェク ト は,デ ー タ収 集 とそ の コ ン ピ ュー タに よる解 析 を ね ら う点 で,第1の 課題 に沿 った 意 義 を持 つ 。 しか し,こ う した コン ピ ュ ータ との 関 わ りとい う観 点 だ け で は な く,こ の
の
プ ロ ジ ェ ク トは,ア ボ リ ジ ニ 文 化 を 対 象 とす る こ と に よ っ て,以 下 に 述 べ る よ うな4 点 の 意 義 も 合 わ せ 持 つ と考 え る 。
2.応 用 人 類 学 的 視 点
民族 学 研 究 に よ って得 られ た 知 見 を,植 民 地 支 配 とキ リス ト教 の布 教 活 動 に 「応 用 」 して きた 事 実 は,民 族 学 が そ の学 問 の 発 展 当初 か ら実 用 の側 面 を 伴 って きた ことを物 語 って い る。 植 民地 政 策 が 転 換 され た 第2次 大 戦 後 も,経 済 的 戦 略 に 応 用 され る こ と
が 少 な くなか った 。 こ うした支 配 す る側 の 民族 学 は,し ば しば,現 地 の 伝 統 的 な文 化 や 社 会 構造 を破 壊 して きた と言 わ れ て い る。
これ に 代 わ る新 た な 「応 用 人 類 学 」は,現 地 の 人 た ち の立 場 に で き るだ け近 づ い て, そ の利 益 に な る もの を指 向 しな けれ ぽ な らな い。 す なわ ち,民 族学 情 報 の 収 集 とい う 民 族 学 者 に と って の利 益 が 現地 に とって の 利益 と して還 元 され る とい う 「互 恵性 」 が 得 られ る よ うな研 究 プ ロジ ェ ク トが望 ま しい 。
筆者 た ちの アボ リジ ナ ル ・デ ー タベ ー ス ・プ ロジ ェ ク トは,現 地 で の 日常 業 務 支 援 用 の ソ フ トウェ ア ・シス テ ムを まず 開発 す る と ころ か ら出発 す るか ら,間 接 的 で は あ るが,ア ボ リジ ニ生 活支 援 とい う側 面 を持 つ 。 さ らに,集 積 され た デ ータ は,筆 者 た ち研 究者 に とって 研 究材 料 で あ る と同時 に,コ ン ピュ ータ ・シス テ ム 自体 が現 地 に 置 か れ た もので あ るか ら,必 要 に応 じて デ ータを 加 工 ・出 力 で き る よ うに ソ フ トウ ェア を 組 め ば,そ れ は 現 地 に お け る様 々 な意 志決 定 に も容 易 に 利用 され 得 るの で あ る。 こ の よ うに,優 れ て 互 恵 性 を持 った研 究 プ ロジ ェ ク トで あ り,新 しい形 態 の応 用 人 類 学 プ ロジ ェ ク トと言 うこ とが で き よ う。
3.民 族学情報収集方法論
さ きに 述べ た よ うに,マ ニ ン グ リダの 公 的組 織 は,ア ボ リジ ニの人 た ち に 関す る い くつか の デ ー タを それ ぞ れ に 保 持 して い る。町 議 会 は,町 民 に 対す る社 会 保 障費 給 付 業 務 の 必要 上,戸 籍 簿 に 相 当す る記 録 を保 持 して い るは ず で あ るが,BACが 保 持 し て い る ア ウ トステーション 住 民 に 関 す る 同様 の記 録,さ らに,診 療 所 の保 持 す る出 生
・死亡 記 録 とを 合体 すれ ぽ ,マニングリダ 周辺の1300名 近 くの親族組織や人 口動 態を 解 明 す る のに 役 立 つ もの とな るで あ ろ う。
社 会 保 障 費給 付 記 録 は また,給 与 所 得 以 外 の 現 金 収 入 を 示 す もの で あ る。MPA, 町 議 会,BACそ れ ぞれ に,従 業 員 に対 して 給 与 を 支 給 して い るが,こ れ ら のデ ー タ と社 会 保障 費,さ らにBACの 美 術工 芸 セ ン ター に おけ る買 い 取 り記 録 を合 わ せ れ ぽ,
マニングリダ 周 辺 の アボ リジ ニ全 員 の現 金収 入 ル ー トと額 が 明 らか に な る可能 性 が あ
る。 一 方,MPAで の 消 費 財 売 り上 げ 記 録, BACで の耐 久 消 費財 売 り上 げ,修 理 記 録 は,主 た る現 金 支 出を示 す もので あ る。 これ ら の現 金 収 入 と支 出の 記 録 を 突 き合 わ せ れ ば,伝 統 的 な狩 猟 採 集社 会 に持 ち込 まれた 貨 幣 経 済 の 実態 を把 握 す る手 が か りが 得 られ るで あ ろ う。
また,BACの 機 械 工 場 が 修 理 す る耐 久 消 費 財 は 主 に 狩 猟採 集 活動 に利 用 され る も の で あ るか ら,そ の記 録 を通 して,間 接 的 に で は あ る が そ の活 動 を把 握 す る こ とが で
国立民族学博物館研究報告別冊 15号 き よ う。
こ う した記 録類 は これ まで すべ て カ ー ドな どの形 でそ れ ぞ れ の組 織 ・担 当 者 が保 持 してお り,そ れ らの横 断 的利 用 が試 み られ た こ とは ない 。 各 部 門 で これ ら の業 務 を支 援 す る シ ステ ムを 開発 す れ ぽ,こ れ らの デ ー タが電 子 化 で き,組 織 的 な収 集 と解 析 が 容 易 に な るで あ ろ う。 この方 法 に よるデ ー タ収集 は,こ とあ らた め て記 録 を 収 集 す る の では な く,日 常 業 務 の過程 で デ ー タが 自動 的 に蓄 積 され る もの で あ る。 そ の意 味 で は,民 族 学 研 究 に おけ る新 しい情 報 収 集 方 法 で あ る と言 え る。
しか しな が ら,こ の方 法 論 に は2つ の 大 きな 問題 点 が あ る。 まず,収 集 され た デ ー タは,ア ボ リジ ニ個 々 の具 体 的活 動 を 抽 象 化 した,い うな らば 二 次情 報 で あ るか ら, 個 々 の活 動 や 事 象 を平 均 化 し,特 異 点 や 特 徴 を 隠 して しま う恐 れ が あ る。 個 々 の生 活 現 場 か ら デ ー タを収 集 す る,従 来 の民 族 学 方 法論 を ボ トム ・ア ップ的 な情 報 収 集 とす れ ぽ,デ ー タベ ース に よ る この方 法 は トップ ・ダ ウ ソ的 な方 法 と言 え るが,マ ク ロ ・
レベ ルで の 情報 化 で あ る後 者 の方 法 は,組 織 的 で あ る とい う利 点 の一 方 で,前 者 の 方 法 に よれ ば 見 い だ され る発 見 を見 逃 して しま う欠 点 が あ る。 従 って,両 者 の方 法 論 を うま く組 み 合 わ せ るこ とが 必要 とな る。 第 二 の 問題 点 は,極 め て 個 人 の プ ライバ シ ー に関 わ る デ ー タを,組 織 的 ・大規 模 に収 集 して し ま う危 険 性 であ る。 プ ライバ シー保 護 と情 報 公 開 とい う,「 情 報 化 社 会 」 と同 じ問 題 が 関 わ って くるの で,人 権 に 対 す る 充 分 な配 慮 が な い 限 り,安 易 に と るべ き方 法 論 で は な い。 当 事 者 との合 意 が 得 られ, か つ,こ う した 方 法論 に よ る研 究成 果 が 現 地 に と って利 益 と な る よ うな還 元 の方 法 を
明 らか に して 行 うべ きであ ろ う。
4.文 化 変 容 の 分 析
も しこ う した 配慮 の も とで,組 織 的 な デ ー タ収 集 が可 能 で あ れ ば,そ の デ ー タは, 現 代 狩 猟 採 集 文 化 が ど の よ うな変 容 を示 しつ つ あ るか を解 明 す る大 きな手 が か りとな
る。 西 欧 流 の 貨 幣 経済 は,ア ボ リジニ文 化 の 変容 に影 響 を 与 え る大 きな要 素 の一 つ で あ る こ とは 言 うまで もな い。 それ は,経 済 的 側面 だけ では な く,数 量 化 とい う点 か ら 見 れ ぽ ア ボ リジ ニ文 化 の 知 識 体 系 ・情 報 観 に も影 響 を 及 ぼ して い る こ とが 予 想 され る。 従 って,先 述 した 現 金 収 入 ・支 出に 関 す るデ ー タ を長 期 間 集積 し,通 時 的 に 分 析 す れ ぽ,文 化 変 容 の研 究 に 役 立 つ で あ ろ う。 また,美 術 工 芸センター にお い て,作 品 の テ ー マや 素 材,制 作 技 法 な どを デ ー タ化 し,そ の時 間 的 変 化 を追 跡 して ゆ け ば,ア ボ リジ ニ文 化 に お け る芸 術 活動 が,経 済 的 要 因 や西 欧 技 術,西 欧 流芸 術 との関 わ りで どの よ うに 変 容 して い るか を 解 明す る手 が か りが得 られ るで あ ろ う。 これ は また,民
族芸 術学,あ るい は 民族 技 術 学 的研 究 に と って も興 味 あ る材料 を提 供 す るの で は な か ろ うか。
さ らに,こ う したコンピュータ ・シス テ ムを ア ボ リジ ニの 人 た ち が業 務 と して操 作 す る こ とが 日常 的 に なれ ば,タ イ プ ライ タに さえ あ ま り馴 染 み の なか った 彼 らが それ を どの よ うに 受 け 入れ るか,例 えぽ,ソ フ トウ ェア の操 作 に お け る分 析 的 ・階層 的 問 題 解 決 や あい まい さを排 除 した 計算 の正 確 さな どの,彼 らの伝 統 的 思 考 とは 異質 で あ る と考 え られ る観念 が ど の よ うに受 け 入 れ られ る か,と い った,コンピュータ 民 族 学 の第3の 課 題 に 近 い 問題 と と もに,そ の 受 容 に よる彼 らの文 化 が変 容 す るか ど うか ,
とい う新 た な 興 味 あ る問 題 も生 まれ て くる。
5.情 報 民 族 学 的 視 点
あ る個 人 の 持 って い る空 間認 識,時 間 観 念,計 数 観 念 経 済 観 念,さ らに シス テ ム を ど う認 識 す るか とい うシ ステ ム観,な どは,彼 が属 す る文 化 や 社 会 構 造,経 済 構 造 に大 き く規 定 され る。 これ らの観 念 は,外 界 か ら与 え られ た情 報 を個 人 の頭 脳 が ど う 処 理 し,そ の 結果 どの よ うな意 志 決 定 や 行動 選 択 を行 うか を規 定 す るか ら,彼 の行 動 が文 化 の 文 脈 か ら逸 脱 しな い もの に な るの で あ る。 この よ うに して規 定 され た意 志 や 行 動 は,同 じ文 化 の他 の成 員 に対 す る情 報 とな って伝 達 され,コ ミュニ ケー シ ョソが 成 立 す るの で あ るか ら,情 報 伝 達 の方 法 ・様 態 もや は り文 化 に 規 定 され た もの とな る。
従 って,情 報伝 達 メ デ ィアの利 用 に も,そ の文 化 の特 徴 が現 れ て くるで あ ろ う。
世 界 観,計 数 観 念 な どを 扱 う従 来 の 認 識 人類 学 的 視 点,教 育 や 学 習 を扱 う教 育 人 類 学 的 視 点,コ ミュ ニ ケー シ ョン論 的視 点 は,と もに人 間 の情 報 処 理 の体 系,す な わ ち, 情 報 の伝 達 ・咀嚼 ・蓄 積 の 問題 と して 統 合 的 に捉 え うる。 で あ る な らぽ,上 述 した よ うに,あ る人 間 の情 報 の 体 系 は文 化 に 規 定 され るか ら,文 化 にお け る情報 の体 系 を論 じる こ とに よ って,逆 に そ の文 化 の 特 質 を 明 らか にす る とい う民 族 学 方 法論 が成 り立 ち得 るで あ ろ う。 こ うした方 法 論 を 「情報 民族 学 」 と呼 ぶ こ とは,充 分 に妥 当性 が あ
る と筆 者 は 考 え て い る。
こ う した 視点 が 生 まれ て きた のは,筆 者 が 開発 して い る ソフ トウェア ・シ ス テ ム の 操 作 法 をBACの ア ボ リジ ニ ・ス タ ッフた ち に講 習 し,彼 らが そ れ を学 習 す るの を 観 察 す る過 程 で,そ の学 習方 法が ア ボ リジ ニ文 化 に規 定 され た 特 徴 を 示 す こ とを見 い 出 した か らで あ る。また,筆 者 が 伝統 的 な学 習 方 法 や 質 問 ・応 答 の方 法 を知 るに つ れ て , それ らを 勘 案 した 操 作 性 が ソ フ トウ ェア ・シス テ ムの側 に必 要 で あ る こ とも 明 らか に な って きた 。す なわ ち,ア ボ リジ ニ向 きの コ ン ピ ュー タ ・シス テ ムを 作成 す るた め に
国立民族学博物館研究報告別冊 15号
。も,彼 らの情 報 の体 系 を 知 る必要 を感 じる よ うに な った ので あ る。
この よ うな契 機 か ら,情 報 民族 学 を構 想 す るに 至 った ので あ るが,も と よ り,乏 し い フ ィール ドワー クの経 験 か ら情 報 の体 系 全 体 を論 じる こ との危 険 性 を 認 識 しつ つ, 知 己 を 得 た学 校 の 白人 教 師 た ち か ら得 た 知 見 も合 わせ て,第V章 で情 報 民 族 学 的 議 論
を行 い た い。
Ⅳ.ア ボ リ ジ ナ ル ・ デ ー タ ベ ー ス ・ シ ス テ ム の 概 要
1.開 発 経 過
前 述 した とお り,BACの 業 務 は 機 械工 場,大 型設 備センター,社 会 保 障 費 給 付 部 門,美 術 工 芸センター の4部 門 に分 か れ てい るが,筆 者 は,ま ず機 械 工 場 の修 理 業 務 支 援 ソフ トウ ェア ・シ ス テ ムの 開発 を1988年8月 か ら始 め,次 い で1989年8月 か ら社 会 保 障 費 給 付 業務 用 の シ ス テ ム開 発 を始 め た 。
1)機 械 工 場 修 理 業 務 支 援 ソ フ ト ウ ェ ア ・シ ス テ ム
こ の 業 務 の 流 れ は,顧 客 か ら の 修 理 依 頼 が ジ ョ ブ カ ー ド と呼 ぽ れ る カ ー ドに 記 述 さ れ,そ れ が 機 械 工 に 手 渡 さ れ,修 理 明 細(必 要 と した 部 品,単 価,個 数 の 他 に,部 品 を ダ ー ウ ィ ンか ら取 り寄 せ た 場 合 は そ の 運 送 費,労 働 時 間 も 含 む)が 書 き込 ま れ,そ の 合 計 金 額 を も と に 各 顧 客 へ の 請 求 書 が 作 られ る と 同 時 に 各 顧 客 毎 の 貸 借 簿 に 記 録 さ れ,顧 客 か ら の 支 払 が あ れ ば 貸 借 簿 が 更 新 さ れ る,と い う,一 般 的 な も の で あ る 。 筆 者 は,1988年8月 の 最 初 の フ ィ ー ル ド ワ ー ク に お い て,筆 者 の 訪 問 直 前 にBAC が 購 入 したIBM‑PC/XT互 換 の 韓 国 製 パ ソ コ ソ(MS‑DOS)の 上 に,市 販 の デ ー タ ベ ー ス ・ ソ フ ト ウ ェ アdBASE皿 を イ ソ ス トー ル し,そ の プ ロ グ ラ ミ ン グ 言 語 を 用 い て,上 記 の 業 務 全 体 を 支 援 す る ソ フ ト ウ ェ ア ・シ ス テ ム を 開 発 し た 。 こ れ は,顧 客 管 理,ジ ョ ブ カ ー ドを 作 成 す る ジ ョ ブ管 理,課 金 ・入 金 を 記 録 す る金 銭 管 理,貸 借 簿 か ら顧 客 毎 ・期 間 毎 の 貸 借 レ ポ ー トを 出 力 す る 貸 借 管 理,'の4つ の サ ブ ・ シ ス テ ム に 分 か れ,そ れ ぞ れ が さ ら に サ ブ ・シ ス テ ム に 分 か れ た,階 層 構 造 で 実 現 さ れ て い る。
こ の 構 造 自体 は,一 般 的 な トラ ソザ ク シ ョ ソ処 理 と 同 じで あ る が,金 銭 管 理 の サ ブ ・ シ ス テ ム に は,BACを 銀 行 代 わ りに 利 用 す る 者 へ の 金 銭 貸 与,同 一 親 族 内 の 顧 客 間 で の 勘 定 の 移 動,な ど,現 地 の 事 情 を 勘 案 した ル ー チ ン も組 み 込 ん で あ る 。
四 輪 駆 動 車,ボ ー ト,無 線 電 話,銃 な ど,ア ボ リ ジ ニ の 各 顧 客 が 持 っ て い る 耐 久 消
費財 が受 け た 修理 内容 か らそ れ らの使 用 状 況 を 把 握 す る ことが 筆 者 た ち の関 心事 で あ るか ら,ジ ョブ管理 部 分 に 修 理 明細 を詳 し く記 述 で き る よ うに プ ログ ラムを 組 ん だ 。 特 に,四 輪 駆動 車 の修 理 に つ い て は,修 理 部 分 を,ボ デ ィ,シ ャ ー シ,ブ レーキ,エ
ソジ ン,電 気 系 統 そ の他,に 分 類 し,メ ニ ューに よ って それ を 選択 す る よ うに 仕 組 ん で あ る。 しか し,BACが 電 算 化 を 必 要 と した 主 な理 由は,筆 算 に よ る計 算 間違 い の た め に顧 客 毎 の 金銭 貸 借 関 係 が ず さん であ った 点 を 改 善す る こ とで あ った か ら,そ の後 蓄 積 され た デ ータ 内容 を見 る と,操 作 者 が 面倒 が って修 理 部分 をす べ て 「そ の他 」 に分 類 して あ るな ど,修 理状 況 は筆 者 た ち が 期待 す る程 には 詳 し く記 述 され て い な い。
2)社 会 保 障 費給 付 業 務 支 援 ソフ トウ ェア ・シ ステ ム
この業 務 は,週 に一 度郵 便 で届 け られ る小 切 手 の 費 目と受 給 者 名 を記 録 し,そ れ ら を 受給 者 に手 渡 した こ とを記 録 して,手 渡 しの誤 り ・漏 れ が な いか を確 認 す る もの で あ る。 小切 手 が 届 く都 度 ノ ー トに受給 者 リス トを 書 き,手 渡 した受 給者 の サ イ ンを も ら うとい う,従 来 の 煩 雑 な 方 法 を 電 算化 に よ って 改 善 す る こ とが,BAC側 の ね らい で あ る。
開 発 した ソフ トウ ェア ・シス テ ムは,受 給 者 登 録,受 給者 毎 の費 目登 録,小 切 手 の 受 け取 り,手 渡 し,そ れ ぞれ の業 務 用 サ ブ ・シス テ ムか ら成 って い る。 受給 者 は,各 人 の種 々の属 性 デ ー タ も合 わ せ て登 録 され る。 ここ で属 性 と して取 り上 げ た のは,本 人 の 氏 名,生 年 月 日,所 属 す る言 語 グル ー プ名,出 身 の ア ウ トステーション 名,そ し
て,そ の人 の配 偶 者,両 親,子 供 そ れ ぞ れ に つ い て の 同様 の 属性 で あ る。 言語 グル ー プは,B氏 の示 唆 に よ って,表2に 示 した も のの うち,大 分 類11項 目の 中 か ら選 択 す る こ とに した。受 給 者 の社 会 保 障 費 目は,表3に 示 した うちか ら選 択 して登 録 され る。
この ソフ トウ ェアに よ って蓄 積 され るで あ ろ うデ ー タは,民 族学 研 究 に と って次 の 意 義 を 持 つ。 登 録 され た個 人 属 性 に よ って,少 な く と もBACが 関 係 して い る ア ボ リ
ジ ニ の人 た ち ほ ぼ全 員 の 親 族 関 係 が把 握 で き る。 表3の 内容 を 見 れ ばわ か る よ うに, あ る人 が 受給 で きる費 目は 変化 す るか ら,受 給 費 目の履 歴 に よ って,そ の人 の家 族 史 が推 測 で き る。 さ らに,小 切手 の手 渡 し記録 か ら,各 受 給 者 の 現 金収 入 を 把握 で きる こ とに な る。しか し,繰 り返 し述 べ る よ うに,こ うした デ ータは,個 人 の プ ライバ シー に直 接 触 れ る もの で あ るか ら,取 扱 いに は細 心 の 注意 が求 め られ る。
機 械 工 場 の修 理 に関 す るデ ー タの蓄 積 は,1988年9月 か ら一 応 始 め られ た が,残 念 な が ら次 に 列 挙 す る よ うな トラ ブル に よって,現 在 まで の継 続 的 な デ ー タは 得 られ て い な い。
国立民族学博物館研究報告別 冊 15号 表2 マ ニ ン グ リダ周 辺 の 言 語 グル ー プ
Alawa Burarra
Burada, Burarra Anbara, Burarra Gunard, Burarra Madai, Burarra Maringa, ) Gulula Burarra, Burarra Mukali Gungorogone), Gunardba
Gunavidji
Ngalia, Walang Gungorogone Gunwinggu Jinang
Ganalbwingu, Gupabwingu, Jambarbwingu, Ritarrnga, Wubulgapa, Wulaki Rembaranga
Dangbon, Maiali Ngalkbun
Nakara Wagaman Yanangu Maringa
表3社 会 保 障 費 目
Pension, Age-Pension, Widow-Pension, Widower-Pension, Invalid-Pension, Famiy-Allowance-Supplement, Child-Endowment, Child-Disability-Allowance, Sup- porting-Mother, Sickness-Benefit, Unemployment-Benefit, Special-Benefit
a)1988年11月,デ ー タ 入 力 中 に 停 電 し,デ ー タ フ ァ イ ル と そ の 検 索 の た め の 索 引 フ ァイ ル と の 整 合 が 狂 い,シ ス テ ム が 動 作 不 能 と な っ た 。ソ フ トウ ェ ア ・シ ス テ ム の ベ ー ス と な っ て い るdBASE皿 を 知 っ て い な け れ ば 修 復 で き な い 事 態 で あ る 。 マ ニ ソ グ リ ダ の 電 力 を 供 給 し て い る 重 油 発 電 所 は,そ の 管 理 責 任 者 の 怠 慢 か ら,10日 に 一 度 は 予 告 な しに 運 転 を 停 止 す る。 停 電 対 策 と し て,停 電 後 数 分 間 は 内 蔵 しだ バ ッテ リー か ら 電 力 を 供 給 で き る 「無 停 電 電 源 装 置 」 の 購 入 をB氏 に 依 頼 し,そ の 導 入 ま で,コ ン ピ ュ ー タ作 業 を 中 断 した 。 環 境 条 件 と 保 守 体 制 が と も に 不 十 分 で あ る マ ニ ン グ リダ な れ ば こ そ の トラ ブ ル で あ る 。
b) 1989年1月,筆 者 が 現 地 を 訪 問 し,無 停 電 電 源 装 置 を 接 続 し て,ソ フ トウ ェ ア
・シ ス テ ム を 復 旧 す る と と も に,シ ス テ ム の 使 い 勝 手 を 左 右 す る 人 間 と の 対 話 処 理 部 (マ ン ・マ シ ン ・イ ン タ フ ェ ー ス)の 改 善 を,B氏 の 示 唆 に よ り行 っ た 。 改 善 の 内 容 は ア ボ リジ ニ の 伝 統 的 な 教 育 ・学 習 態 度 に 関 わ る も の で,第V章 で 詳 し く 述 べ る 。 コ
ン ピ ュ ー タ に よ る 業 務 を2月 か ら 再 開 し た 。
c)1989年5月,主 に シ ス テ ム を 操 作 し て い た 白 人 ス タ ッ フA氏 が,市 販 ソ フ トウ ェ
ア の 海 賊 版 を 新 た に イ ソ ス トー ル した 際 に 誤 っ てDOSシ ス テ ム を 改 変 し,そ の 影 響 で 機 械 工 場 修 理 支 援 ソ フ トウ ェ ア が 誤 動 作 し始 め た 。 専 用 機 械 で は な く誰 で も ア ク セ ス で き る パ ソ コ ンに と っ て は,不 十 分 な 知 識 を 持 つ ユ ー ザ の 存 在 が 危 険 と な る 事 例 で あ る 。
d)1989年8月,筆 者 が 現 地 を 訪 れ て,DOSシ ス テ ム を 復 旧 し,あ わ せ て,社 会 保 障 費 給 付 業 務 用 ソ フ トウ ェ ア を 開 発 した 。コンピュータ に よ る 業 務 を9月 か ら再 開 。 e)1990年1月,あ るBACス タ ッ フ の 不 注 意 に よ っ て 電 源 コ ー ドが 抜 か れ, a)と
同 様 に デ ー タ の 不 整 合 が 生 じた 。 これ を 復 旧 し よ う と し たA氏 の 勘 違 い に よ っ て, ハ ー ドデ ィ ス ク上 の プ ロ グ ラ ム ,デ ー タが と もに消 去 され,動 作不 能 とな った。
f)1990年8月,4た び 訪 問 し た 筆 者 は,ベ ー ス と な る シ ス テ ム を 電 源 断 に 強 い dBASE]〉 に 置 き 換 え た 。 こ の 処 置 に よ っ て,以 後 は デ ー タ蓄 積 が 順 調 に 行 わ れ る も
の と思 わ れ る 。
2.デ ー タ の 内 容 分 析
上 述 の事 情 に よ り,継 続 的 な デ ー タ と して得 られ た のは,1988年7月 か ら1989年10 月 ま で の期 間 の機 械 工 場 の もの だ け で あ り,そ の 内 容 も筆 者 の 期 待 した レベ ルを 維 持
して い な い。 そ の た め,現 段 階 で 行 え る デ ー タ解 析 は,以 下 に 述 べ る よ うな簡 単 な も の に と どま る。
図4に,1989年2月 か ら10月 まで の 月毎 の修 理 金額 を修 理 部 分 別 に 集計 した グ ラ フ を 示 す。1989年3月 に,ボ デ ィ とシ ャー シ関係 の金 額 が 多 い のは,美 術工 芸センター の 四輪 駆 動 車 に大 きな修 理 が発 生 した た め で あ るが,こ れ を除 け ば,ア ウ トス テ ー シ
ョン活動 が盛 んに な る乾 季(5月 〜10月)の 中間 で あ る8月 に修 理 が 集 中 す る こ とが 示 され て い る。
図5は,1988年7月 か ら1989年10月 まで の期 間 にお け る,個 人 向け の修 理金 額 と, BAC,学 校,診 療 所, MPAな どの 公 的機 関 向け の修 理 金 額 を 月 毎 に 集 計 した もの で あ る。 個 人 用 四輪 駆 動 車 の修 理 は,明 らか に 活動 の盛 ん な乾 季 に集 中す るが,公 的機 関 のそ れ は どち らか と言 え ぽ 雨季 に片 寄 る傾 向 が見 え る。 この こ とは,雨 季 の 期 間 に お いて こそ,公 的 機 関 の 支援 活動 が盛 ん に な る こ とを 示 して い るのか も知 れ な い 。 し か し,こ れ らの デ ー タは 短 期 間 の集 計 であ り,し か も,偶 発 的 に発 生 した 修 理 事 象 が 統 計 全 体 に 影 響 を与 え る よ うな,規 模 の小 さな 母集 団 につ い て の もの で あ るか ら,こ
こでは これ 以 上 の解 釈 は 避 け,長 期 間 の継 続 的 デ ー タが 蓄 積 され た 時点 で,再 度 分 析 を試 み た い。 、
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図5 個人 向け修理金額 と公的機関向け修理金額
V.ア ボ リ ジ ニ の 情 報 観
1.人 の 情 報 処 理 モ デ ル
こ こで は,ア ボ リジ ニを対 象 と して,先 に 述 べ た よ うな情 報 民 族 学 的 考 察 を行 う。
情 報 の問 題 を議 論 す る際 に は,情 報,信 号,デ ータ,知 識,通 信,な どの 用 語 が必 ず 登 場 す るが,こ れ らの用 語 は,様 々 な文 脈 で様 々な意 味 あ い で使 わ れ,し ば しぼ,議 論 に混 乱 と誤 解 を招 く。 そ こで,ア ボ リジ ニの 情報 処 理 に 関す る議 論 を 始 め るに あ た
り,ま ず 用語 の整 理 を行 い た い。
情 報 とは 「物 質 ・エネ ル ギ ー のパターン 」や 「意 味 の あ る記 号 集 合」 で あ る とす る, 非 常 に 幅 広 く定 義 す る説 もあ る が,情 報 とは そ れ を受 け取 った頭 脳 が 評 価 して初 め て 価 値 が 決 ま る と考 え る筆 者 は,Adrian M. McDonoughの 示 した説,す な わ ち,「デ ー タ とは 未 だ評 価 され て いな い メ ッセ ー ジ,情 報 とは特 定 の 状 況 に おい て 価 値 評価 され た デ ー タ,知 識 と は 将 来 の 一 般 的 な 使 用 に お い て 評 価 され る デ ー タ で あ る 」
【McDoNouGH 1963】 を採 用 した い。 この説 は, Bertram C. Brooksの 示 した情 報 と 知 識 との 関 係 を表 現 す る式[BROOKS 1980]
K(S)十 ∠1=K(S十 ∠S)
に も整 合 す る 。 これ は,知 識 構 造K(S)は 情 報 ∠1に よ って 新 しい 構 造K(S+AS) に変 化 す る こ とを表 して い る。 ∠Sは 修 正 の 効 果 を表 す 。
この説 を考 慮 す れ ば,人 の頭 脳 に おけ る情報 処理 過 程 は,図6に 示 す よ うな モ デ ル で考 え る こ とが で きるで あ ろ う。 これ は,外 界 か ら与 え られ る どの よ うな 信 号 も,感 覚 器 官 を 経 て頭 脳 で処 理 され な い限 り,情 報 とは み な さな い立 場 で あ る。 また,認 知 心 理 学 分 野 で 主 流 で あ る,記 憶 を短 期,長 期 に 分 け る二 階 層説 を採 用 す れ ぽ,知 識 と は 長 期記 憶 の レベ ル まで 到達 した情 報 で あ る と言 え る。 図 で,情 報 と して評 価 され た 部 分 以 下 が主 観 的世 界 で あ り,そ の部 分 を 規 定 す る文 化 の 特質 を理 解 しよ うとす るの が,情 報 民族 学 の課 題 で あ ろ う。
一 方,Claud E. Shannonの 与 え た 「情 報 とは 不確 実 性 を減 らす 働 きを す る もの」
とい う定 義 は,図7に 示 す 通 信 モ デ ル にお い て,メ ッセ ー ジの発 信 者 か ら受 信 者 へ送 られ る符 号 が持 つ情 報 量 を定 量 化 す る こ とか ら導 出 され た もの で あ る。 この 図 で発 信 者(S)と 受 信 者(R)の 間 の通 信 路(C)は,通 信 工 学 や 情 報 工 学 の文 脈 に お い て は郵 便 ・電 話 ・放 送 な ど の 「通 信 メ デ ィア」,あ るい は,本 や レ コー ドな どの 「蓄 積
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図7通 信 モ デ ル
メ デ ィア」 と考 え られ る もの で あ る。 また,「 交 通 メデ ィア」 もメ ッセ ー ジを 伝 達 す る通 信路 と考 え る事 が で き る。 コ ミュ ニ ケー シ ョ ン論 は,こ の通 信 路 に 人 間 自身 を も 含 め,こ れ を 経 由 して噂 話 や 教 育 ・伝 承 が行 わ れ る際 の,通 信 路 の容 量,漏 れ,変 形 作 用 な どを問 題 に す る もの で あ る と言 うこ とが で き よ う。 そ の場 合,通 信路 も文 化 に 規 定 され て い る と考 え られ るか ら,そ の特 徴 を つ か む こ とも また 情 報 民族 学 の課 題 と
な る。
そ こで,以 下 で は,図6,図7の モ デ ル で カバ ー され る事 象 を素 材 と して,ア ボ リ ジ ニ社会 の特 徴 を 考 え てみ た い。
2.マ ニ ン グ リ ダ に お け る メ デ ィ ア 略 史
BACのB氏 の話 や1968年 当 時 の民 族 誌 【HAMILToN 1981]を 参 考 に して ま とめ た
マニングリダ の交 通 メデ ィア に関 す る略 史 を表4に 示 す。 ダ ー ウ ィンか らの陸 上 交 通
手 段 が 現在 で も不 便 で あ る こ とが,マニングリダ 地 域 の伝 統 文 化 保 存 の一 端 を担 って い る。
表5に は,電 気 通 信 メデ ィア の略 史 を 示 す。1970年 の バ ッテ リー式 無 線 電話 の 導 入, 1975年 の太 陽発 電 装 置 の導 入 が,ち ょ うどそ の前 後 に起 こった ア ウ トス テ ー シ ョン運 動 を 促進 す るの に大 きな役 割 を 果 た した こ とは 間違 い な い。 ま1ヒ,1985年 の衛 星放 送 開 始 に よる テ レビ視 聴,お よび ほ ぼ 同時 に導 入 され た ビデ オの レソタ ル シ ステ ムは, アボ リジ ニの 娯楽 を変 化 させ る と同 時 に,映 像 を通 して 白人 文 化 を知 る機 会 を格 段 に 増 加 させた で あ ろ う。1968年 当 時 の民 族 誌 に よれ ぽ,マ ニ ング リダの学 校 で週 末 に 野 外 映 画会 が 開 か れ て い たか ら,映 像 に よる異文 化接 触 は既 に あ った が,日 常 的 な テ レ
ビや ビデ オ の視聴 が マ ニ ン グ リダの 町 で のみ な らず ア ウ トステーション で も可 能 とな った こ とは,ア ボ リジ ニ文 化 の変 容 に 大 きな影 響 を与 え るので は な い だ ろ うか 。 無 線 電話 は,一 対 一一の秘 話 通 話 が ほ ぼ不 可 能 で あ る うえに,使 用 す る 周波 数 が既 知 であ るか ら,ア ウ トステーション 間 の 通話 は他 の ア ウ トス テ ー シ ョンで も傍 受 可 能 で あ り,極 め て漏 れ の 大 きい通 信 路 で あ る と言 え る。 これ に対 し,1987年 に導 入 され た マイ ク ロ ウ ェー ブ電 話 は ,一 対一の秘話通話を前提 とす るメデ ィアである。 この普及 に よ って,ア ボ リジ ニ文 化 に おけ る プ ライバ シ ー観 念 が変 容 す るの か,ま た,後 述 す
表4 マニングリダ 交 通 メ デ ィ ア略史 1920年 代 ダー ウ ィ ン=オ ー エ ソペ リ間 道路 開通 ダー ウ ィ ン=マ ニ ング リダ間 帆船
1945年 ダー ウ ィン=マニングリダ 間 Bush Road開 通 1956年 航 空 便 開 始 DC‑3 週3便
1958年 マ ニ ング リダにGovernment Settlement l960年 オ ー エ ソペ リ=マ ニ ング リダ間 道 路 開通 1965〜66年 Barge System開 始 2ヵ 月 に1度
1968年 当 時 航 空 便 週4便 1975年 当 時 航空 便 週6便 Barge 1ヵ 月 に1度 1990年 現 在 航空 便 週10便 Barge 2週 間 に1度
表5 マ ニ ン グ リダ電 気通 信 メデ ィア略 史 1954年 ミッション が,ペ ダル 発電 式 無 線 電 話 導 入 1960年 電 信 用 無 線導 入,専 門 オ ペ レー タが 必 要
1970年 バ ッテ リー式 無線 電 話 導 入 1975年 太 陽 発 電 シス テ ム導 入
1985年 通 信 衛 星AUSSAT打 上 げ,衛 星TV開 始 1987年 マ イ ク ロウ ェー ブ電 話 線設 置
1990年 ア ウ トス テ ー シ ョンに もマ イ ク ロ ウ ェー ブ電 話設 置予 定
国立民族学博物館研究報告別冊 15号
る よ う に,伝 統 的 な ア ボ リジ ニ の 会 話 場 面 に お い て は メ ッ セ ー ジ 伝 達 機 能 が あ ま り大 き く な い よ うに 見 え る が,こ れ が 変 化 す る の か ど うか,な どは,今 後 の 興 味 あ る テ ー マ で あ る 。
3.ア ボ リ ジ ニ の 学 習 態 度
マニングリダ の 東 方75kmに あ る ミ リ ソギンビ に お い て, primary‑schoo1の 教 師 を し な が ら調 査 を 行 っ たStephen HarrisやMichael Christieに よれ ば,ア ー ネ ム
ランド の ア ボ リジ ニ の 伝 統 的 な 学 習 方 法 の 特 徴 は,次 の5点 に ま と め ら れ る と言 う
【HARRIS l984;HARRIs&HARNs 1988】。
1)言 語 に よ る 教 育 で は な く観 察 と模 倣 に よ る 学 習 2)個 人 の 試 行 錯 誤 に よ る学 習
3)仮 想 的 場 面 で の 練 習 で は な く実 際 の 場 面 に お け る 学 習 4)部 分 分 解 ・総 合 の 方 法 を と らず,全 体 を 通 し て 実 行 す る
5) ね ぽ り強 い 反 復 に よ る 問 題 解 決
1)は,音 声 言 語 に よ る 質 問 ・応 答 や 文 字 に よ る テ キ ス トな ど の 言 語 的 手 段 は 重 要 で は な く,も っ ぱ ら,学 習 者 が 観 察 と そ の 模 倣 に よ っ て 自 立 的 に 学 習 す る 態 度 を 指 す 。 こ れ は,狩 猟 技 術 や 儀 礼 に お け る 舞 踊 な ど伝 統 的 技 術 の 習 得 場 面 で 特 に よ く 見 ら れ る と 言 う。 伝 統 的 に 言 語 的 な 質 問 ・応 答 と い う方 法 は 用 い ら れ な い か ら,明 確 にyes, noを 求 め る 西 欧 流 の 質 問 に,学 校 の 子 供 た ち は 慣 れ に く い と さ れ る。
2)と 合 わ せ て 考 え る と,学 習 は 極 め て 個 人 的 に 行 わ れ,集 団 学 習 の 形 を と る こ と は 少 な い 。 筆 者 は,1)と2)の 態 度 の 背 景 に は,他 人 の 面 前 で の 朱 敗 を 恐 れ る こ と, す な わ ち,体 面 を 極 め て 重 視 す る ア ボ リジ ニ 文 化 の パ ー ソ ナ リ テ ィが 存 在 す る と考 え
る が,こ の 点 に つ い て は 後 述 す る 。
3)に つ い て,Harrisた ち は,儀 礼 の 舞 踊 練 習 が そ の ま ま 本 番 に 移 行 した り,フ ッ トボ ー ル の 練 習 に 見 え る も の が い つ の ま に か 実 際 の 試 合 に 移 行 し て し ま う例 を 挙 げ て い る 。 こ の 点 は,Harissが 指 摘 す る よ う な,ア ボ リ ジ ニ の 人 た ち は 仮 想 的 な 質 問 に 弱 い,と い う特 徴 と関 連 して い る 。 す な わ ち,親 族 関 係 な ど あ ら か じめ 全 て の 場 合 が 決 定 され て い る 状 況 に つ い て の 仮 説 的 質 問,例 え ぽ,AとBは 結 婚 で き る か ・ と い っ た 質 問 に は 適 切 な 答 が 返 っ て く る が,生 活 の 文 脈 に 密 着 した 場 面 で の 仮 想 的 質 問 ・ 例 え ぽ,ブ ッ シ ュ の 中 で ダ ソバ を 作 る場 面 に お い て,台 代 わ りに 使 っ て い る そ の 葉 が も し手 近 に 見 あ た ら な い 場 合 は ど うす る か,と い う質 問 に 対 し,般 い や,こ の 葉 を 使 う"と い う答 しか 返 っ て こ な い と,Harrisは 述 べ て い る。 ア ボ リ ジ ニ の 思 考 パ タ ー