2 0 0 1 年9 月 1 1 日 ‑ W T C はな ぜ倒壊し た の か ? ‑
川口 淳 (工学 部 建 築 学 科)
1 . は じ めに
ア メリ カ合 衆国 ニ ュ ー ヨ ー ク市の マ ンハ ッ
タン島 南端にあっ た世 界貿 易セ ンタ ー ビ ル (以 下W T C と略 称) は我々 人類の 20 世 紀の文 明 社 会の象徴であ り, 世 界 中の建 築技 術 者の夢の 結 晶と も言 える建 築 物であっ た. その W T C が 去る2 0 0 1 年9 月1 1 日朝 ( 現地時 間) テ ロリス トに ハ イ ジャ ッ クさ れ た2 機の旅客 機の衝 突に よっ て倒 壊し た. こ の未 曾 有の惨 劇は. 我々 に
テロ リス トに対する強い怒り を覚 えさせたのと 同 時に, 現 代の テ ク ノロ ジ ー の脆さ を も感じ さ せ た. こ の災 害は, 人為 的なジェ ッ ト旅 客 機の 衝 突という 建 築物の設計 時に は通 常 想 定し ない 原因に よっ て起こ っ たもの で はあるが, 我が国 を含む多数の モニ ュ メ ンタ ルな 超 高 層 建 築を有 する国々 の人々に大きな不 安を与 えたことは間 違いない.
は た して建 築 物は こ の よう な事故に対し
て安 全に設 計 され る べきか という 議 論は さて おき, 我々技 術 者は その技 術の安 全 性に つ い
て十 分理解して いな けれ ばならず, さ らに所 有 者や利用者に対して安 全 性に関 する説 明 責 任 があ る. こ の 講 演 で は, F E M A (F ede r al
E m e rge n cy M a n age m e nt A ge n cy : 米 国 連 邦 緊急事態 管 理 庁) お よ びS E I / A S C E (Str u ctu r al
E ngin e e ring ln stitute of A m e ric a n So ciet y of Civil Engin e e r s : 米 国土木 学 会 構 造 部 会) が
2 00 2 年5 月 に ま とめ た 報 告 書1) を引 用 し,
w T C 崩 壊の メ カ ニ ズムを解 説 する. な おこ の
事放で は. 超 高 層 建 築の ハ ー ドウ ェ ア と して の安 全 性の みならず, 「 防災 ・ 非 難 ・ 危 機 管理」 とい っ たソ フトウ ェ ア安 全 性の問題 も提 起さ れ
てい るが, 本 講 演は前 者に主眼を おき. 技 術 者 と して, 技 術の安 全 性に関する理解を深め. 説 明 責 任を 果 たす姿 勢を喚 起しようとするもの で
ある.
2 . 概 要
2 .1 W T C 概 要
w TC は ニ ュ ー ヨ ー ク市 南 部の西寄 り ( ハ ド ソ ン川より) に位 置し, 敷 地 面積は約1 6 エ ー
カ ー (6 4,00 0 m2) . ・約5 エ ー カ ー (2,000 m2) の 中 庭を囲ん で, 合 計7 棟の ビ ル群か ら構 成さ れてい る. (図1) こ のうち, W TCl とW TC2 が高 層の タ ワ ー で, 今回航 空 機が1 機 ずつ 衝 突
し た建 物である. その他, W TC3 ‑ W TC7 ま
で の中 層か ら低 層の建 物 も すべ て. W TCl お よ び W T C2 か ら航 空 機の衝 突 時 あるい は倒 壊 時に飛散してきた破 片 等の 間 接 的 な 被 害を受 け, 最 終 的に倒 壊 する という 被 害を受 けた. ま た, W TC 西 側の ワ ー ル ドフィナンシ ャル セ ン タ ー (W FC) や南側の B u nke r s T r u st ビ ルも 甚 大な被 害を受 けた. 2 棟の高 層タ ワ ー 以外は 間接 的な原 因によ る倒 壊である た め, 詳 細は省 略 する.
W T C 1 ‑No ( Eh l…( Y V I C 2‑So しI h lt 川y er W T C 3‑N 8rr L olI トbtd
V T C l‑・So し†h P lt mlf l・Jiirl b19
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W F C 3‑Am●†kJa r)E 岬(O S S 5 tl W F C 4‑Tow e(D
図1 W T C 周辺地 図
‑ 2 ‑
2.2 手 放 概 要
2 00 1 年9 月1 1 日朝, 2 機の ハ イ ジ ャ ッ ク さ れ た民 間 航 空 機が W TC の 2 棟に衝 突し た. 最 初の機はア メリ カ ン航 空1 1 便, ボス ト ン
ロ ー ガ ン国 際 空 港 午 前7:5 9 発 ( 米 国 東 部 夏 時 間) で, マ ンハ ッ タ ン島中 心 部か ら南 部に向 け 飛 行し. W TCl ( 北 棟) の北面に午 前8:1 4 に 衝 突し た. 一 方2 機目は. ユ ナ イテ ッ ド航 空
1 7 5 便, 同 じく ボス トン 8:1 4 発で, マ ン ハ ッ
タ ン 島 南 部よ り 飛 行 し, 午 前9:0 3 分 W T C 2
( 南 棟) の南 面に衝 突し た. 両 機ともボ ー イン
グ7 6 7̲2 0 0 E R 型で, ロ ス ア ン ゼ ル ス 行で あっ た た め, ア メリ カ大 陸 横 断に十 分 な 燃 料を積 載してい た. 事故 発 生 時の正確 な 時 間の流 れ
は, 事故 現 場より北に 3 4 k m 離れ た場 所に設 置さ れ たコ ロ ン ビ ア大L a m o nt‑Dohe rt y E a r血 o bs e rvato ry の地震 観 測記 録より 知る こと がで きる. ( 表1)
表1 事故 時の主 要 な 出 来事の時 刻歴
開始 時刻 E D T ●
継 続 時 間 規 模 (マグニチュ ー ド) (R ich te rScale)
出 来事
8:4 6i2 6 1 2 s e c. 0.9 W T C 1 に A A 1 1 便が衝 突
9:0 2:5 4 6s e c. 0.7 w TC2 に口A1 7 5便が 衝突
9:59 カ4 2.1se c. 2 ユ WTC 2 倒 壊 開始
1 0 2 8:3 1 8s e c.. 2.3 w TC 1 倒 壊 開 始
17:2 0:3 3 1 8s e c. 0.6 W T C 7倒 壊 開 始
●E D T:Ea ste r n Dayligllt‑S a vings T im e
2 .3 設 計
米 国におけ る建 築 物の設 計は. 設 計 規 準に準 拠して行 なわ れている. 規準で は, 耐 力の他に
耐 火性 能や避 難時間な ど 人命の安 全に関わる規 定を定めている. 設 計 規 準にお ける想 定 外 力に は通 常1) 重 九 2)風 力お よ び3) 地震 力が想 定 さ れてい る の み で, 戦 争やテ ロ リ ズム による衝 撃荷 重は考慮さ れてい ない . というの は通常の 場 合. ほとんどの建 物に は これ ら を考慮 する必 要はないため である. し かしな が ら, オ ー ナ ー
によ っては, その建 物の重 要 度に応じて より 高
い レベ ル の外 力を想 定する ケ ー スもある. (例 えば, 大使 館, 銀 行, 軍関係 施 設な ど)
w TCl,2 は軍 関 係 施 設を除いて世 界で最 初に
その設 計 外 力に ジ ェ ッ ト旅 客 機 ( ボ ー イン グ
707) の衝 撃荷 重 を 考 慮し た建 物である. 194 5 年7 月2 8 日,同じニ ュ ー ヨ ー ク の エ ン パイ ヤ ‑
ステ ー トビ ル デ ィ ングに B ‑2 5 が視 界 不 良のた め衝 突し た事故の教 訓をふ まえ, 航 空 機が霧 な どの視 界 不 良で近 隣の 空 港を探して いる状 況を想 定し, 着 陸 速 度 (180 mp h ‑ 2 6 0 km / h)
で かつ 搭 載 燃 料の少ない ジ ェ ッ ト機 ( 総 重量
263,00 01b ‑ 1 2 0to n) の衝 突 荷 重と して設 計に 考 慮さ れ た もの である. し か しなが ら, 今回 w T C l,2 に衝 突し たB 7 6 7‑2 00E R は推 定衝 突 速 度4 7 0 ‑ 5 9 0m ph (7 5 0 ‑ 95 0 k m/ h) で, 総 重 量2 7 4,00 01 b (1 2 5to n) で あ っ た. 航 空 機の衝 突 荷 重を設 計に考 慮 する に は. 衝 突 速 度. 重 量, 衝 突角 度および高さなどの諸 条 件が 必要に なる. つ まり 航 空 機の衝 突で建 物が倒 壊し ない 可 能性は. 航 空 機のサ イ ズ が大 き く 速 度が速い
ほ ど小さく なる. ちな みに, 2 00 6 年に就 航 予 定の A irb u s 社の A3 80 は, 今回の B 767‑200E R
と 比較しておよそ3 倍の重 量である. 航 空機の 衝 突を建物の設計に考慮 するには, 現在の建物
の設 計規準を大き く 考 え 直 さね ばならない こと は明 白である. 加 えて, 設 計の信 頼性を 上げる た めに は, 現在 就 航している最 大の航 空 機を想 定 する必要があるが, これは将 来を考 えた とき. ほ とん ど無 意 味である.
2 .4 耐 火
w T C の様に. 主構 造の素 材がste el である
限り, 耐 火 性 能は非 常に重 要 な 設 計項目 と なる. 米 国における設 計 規 準においても, 部 材の耐 火 性 能の確 認は. A S T M (A m e ric a n So ciet y fo r
T e sting a nd M ate rials : 米 国 材 料 ・ 試 験 協 会) が定め る標 準 試 験によっ て確 認 する ことになっ
て い る. し か しな が ら, W T C の設 計 時に適用 さ れ た A S T M E l 1 9 の規 定に よ る耐 火 試 験で
は, 部 材は実 際の構 造 物の中と 同条 件の荷 重 や その他の拘 束 力を受 けている わけで は ないの で, 現 実に は実験の ような耐 火 力, および耐 荷 力を発揮できるか どうかは疑 問である. その後
の 3 0 年に わ たる米 国およ び世 界 的 な 建 物 火 災
の研 究で は こ の点を重 視し, 火 災が建 物に与え る影 響と して, 1) 温 度の時間 変 化 2) 換 気 状 況,
3) 火災の区 画, 4) 壁, 床お よ び 天井 等の熱に対 する性 能. 5) 燃 料に よ る燃 焼 特 性の遠い等につ
いて研 究が進み, より 現 実 的な建 物の火 災時挙 動の予測が 可能になっ てきてい る. し か し残 念 なが ら, 19(;0 年 代の設 計の W T C で は これ ら の成 果は盛り込ま れて い ない. W T C の場 合は さ らに, 航 空機の激 突に よ る建物の損 傷が発生 し た後に火 災が 生 じて い る こと か ら. 設 計 時 点
で想 定し た火 災に対 する抵 抗 力は ほとん ど無 意 味であっ た といえる.
3 . W T C l とW TC2 3.1 建物 概 要
3 .1 .1 概 要
W T C l,2 の建物 概 要は以 下の通りである.
建 築 主: T he Port Autl1 0rit y of New Yo rk and New
Je r s ey (■ニ
ュ ー ヨ ー ク ・ ニ ュ ー ジャ ー ジ ー 州 港 湾 局) 設 計: M 血) ru Y a ma s aki & As s(コCiate s,Enl e ry Rotll &
So n s
構 造 設 計:S killing, H elle.C hristia n s e n.Robe rts on
機械 設 計:Ja r o s,Ba u m & B()lles
電 気 設 計:Jo s eph W .Lo 血g & As s o ciates
階 数: 地上 10 0 階. 地下 7 階 (W T C l & 2) 高さ:
W T C l:1.36 8ft.(4 17m) + 電 波 塔36O ft.(1 10m)
W T C 2 :1.36 2ft.(415 m)
各 階 床 形状:20 7ft.2in.(6 3.14 m)x2 0 7ft.2in.. 四隅に6ft. 11ill.(2.11111) の面 取
各 階 床 面積:1 a cr e(3.97 8.3 m2)
コア部 形状:87ft.(26.5n l) Ⅹ137 氏.(4 1.8n l) 基 準 階 高:12ft.(3.6 6m)
構 造 種 別: 鉄骨 造
竣工: W T Cl 19 70.12, W T C 2 1 97 2.1 3 .1 .2 構 造 概 要
w T C l,2 は酷 似し た形 状を しているが. 完 全
に同 じ もの で はな い. その違い は. W T C l は
w T C2 よ り6 ft. 高く. さ らに屋 上に 360ft. の電 波 塔を持っ ていること, 長 方形の平 面形の サ ー
ビス コ ア ( エ レ ベ ー タ シ ャ フ ト, パイ プシ ャ
フ ト等の設 備や避 難 階段 等が収め ら れてい る区 画) が W TCl で は東 西 方 向に, W TC2 で は南 北方 向に配置さ れて い る ことなどである. これ らの違いによ って, そ れ ぞ れの タ ワ ー の風圧力
に対 する抵 抗 機構も異な り, そ れ ぞ れの タ ワ ー
で異なる横 方向 力に対 する設 計が行わ れ た. (1) 構 造 計 画
基本 的な 平 面 形 状は, 図2 に示 す 通り 正方形
で, サ.‑ ビス コ ア部 分は長 方 形である. 主な 水 平 方 向 荷 重は風 荷 重で. 外 周 部に約1 m 間隔で 配置さ れ たボ ッ クス柱 約2 4 0 本と鋼 板製のス パ
ンドレル梁でチュ ー ブ架 橋を形 成しt 水 平 力に
抵 抗 する. 一 方サ ー ビス コ ア部 分は, 低 層 階で
は. 扇 平な ボッ クス形. 上層 階で は H 形の断 面 形 状の柱4 7 本で, 鉛 直 荷 重の み を支 持 する 設 計と なっ てい る. ま た, 床ス ラブは,鋼 製デ ッ キ プレ ー トに. 軽 量コ ンクリ ー ト を打 設し. 外 周 柱 及びサ ー ビス コ ア部 分 をピン接 合さ れ た鉄 骨トラス梁で支 持してい る.
(2) 外 周 架 構
外 周 架橋は鋼 板4 枚で構 成 され た ボ ックス柱
で,全 層に渡 り外 形 寸 法は同 一 である. 鋼 材は.
日本か ら輸 入さ れ た W el te n 鋼である. 以 下に
構 成 部 材の諸元 を示 す.
r'qI・rI:Ill1 flL・Pr (5r J血: 州.I(IG O (JJ/iJ'1( ba s t,'dOJIIlo? (I)J.I nkI(9 J Lhc ILd 9JFt h fJtIO' .T WIW T CIJ 図2 基 準 階 平 面 図 (W T C1 9 4 階)
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