二重大学教育学部研究紀要 第 58巻 人 文科学 (2007)29‑32頁
は じめ に
自閉症 や知 的障害 な どの発達 障害 のあ る子 ど もに対 す る音楽療法 は、活発 に展開 されてお り、実践報告 や 音楽 の使用方 法 に関す る報告 な ど非常 に多 い。 これ ま で心理学 的な内容 や音楽 の使 い方 の問題 などにつ いて 論 じられ る ことが多か ったが、今 回音楽学、特 に西洋 音楽史 や音楽 の基礎 的問題 と発達 臨床心理学 の視点 か ら、発達 障害児 にお ける音楽療法 のあ り方 を検討 す る ことも有意義 と考えて論 じた。特 に リズム、メロデ ィー、
音組織 な どの音楽 の基 本的理論 を踏 まえて、音楽 を展 開す る ことは、発達障害 のあ る子 ど もたちに対 す る音 楽療法 を よ り効果 的な ものにす ると思 われ る。
I 音 楽療法か らみた音楽史
音楽療 法 との関連 か ら音楽史 を まず考 え る場合、 そ の対象 は主 に西洋音楽史 とな る。 とい うの も、音楽療 法 で使用 されている音楽 は、西洋 の調性音楽 な どの音 組織 を その基盤 と して い るか らであ る。
古代 ギ リシャ音楽 (ムー シケー)は 、竪琴 や アウロ ス (2枚 リー ドの管楽器)に よ って伴奏 され た歌 や踊 りで あ り、 ギ リシ ャ悲劇 な どにおいて は、魂 を浄化 す るため音楽が非常 に重要 と考 え られていた 0。 特 に ア リス トテ レスによ って、音楽 の もつ カ タル シス効果 に つ いて強調 されて いる⇒。 旧約聖書 で は、 ユ ダヤ の王 サ ウルが,いの病 に苦 しむのを、羊飼 いの若者 ダ ビデが 竪琴 を弾 いて治 した逸話 が有名 である 。 。 当 時 の楽 譜 はギ リシャ語 の アル ファベ ッ トで示 されて いて、音楽 理論 は深 い洞察力 に裏付 け られ、 ムーシケーは音楽療 法 と も関 わ りの深 い もので あ った の 。
中世 で は、 グ レゴ リオ聖歌 に代表 され るよ うな、 旋 律主体 の音楽 が まず あ る。 グ レゴ リオ聖歌 は、 グ レゴ リウス I世 (在位 590‑604)が 編 纂 を始 め た こ とか
らその名前 がつ いて いるが、言葉 の もつ リズムによ り 歌 われ、祈 りの言葉 を伝 わ りやす くす る ことに主 な 目 的が置かれてお り、楽譜 も リズムの表記 されないネウ マ譜 で あ ったり。 グ レゴ リオ聖歌 につ いて は、 祈 りの 一 つの姿 として音楽鑑賞 による癒 しの効果が近年強調 されて い る。音楽 に多声性 が出現 し始めたこともあり、
リズムが譜面 に明記 され るよ うにな ったの は、 12〜13 世紀 か らで あ る。 その リズムにつ いて も、 当時 の記譜 法 (モーダル記譜法)で は限 られたパ ター ンしか表現 で きなか ったが、 14世 紀 に入 り、 近 代記 譜 法 の基 礎 が形作 られた B'2の 。
ル ネサ ンスにな ると状況 は一 変 す る。 15世 紀 の初 めか ら 16世 紀終 わ りまでの時代 に、 デュファイ、 ジョ スカ ン ・デ ・プ レ、パ レス トリーナ らの作曲家が活躍
し、 これ までの 8度 、5度 、4度 の重 な りの音程 だ け で な く、3度 音程 の体系が始 ま り、調性体系 へ の基礎 付 けが な され、感覚 的 に快 く響 く音楽 が多 くな って き たB)。当時、音楽が医者 によ って予 防的 に処 方 され て いた とす る報告 もあ ったつ。
続 くバ ロ ック時代 は、 これ まで使 用 されて きた教会 旋法 の中で イオニア旋法 が長音 階 と して、 エオ リア旋 法 が短音 階 と して確立 して、他 の旋 法 は次第 にまれ に しか顧 み られな くな り、 同時 に調性 と拍節構造が完成 した とい う点 で重要 である 動 。拍節構造 の もつ安定庶 推進力 は、様 々な領域 で の音楽療法 に重要 で あ り、精 神 障害、特 に統合失調症 のあ る人 々へ の音楽鑑賞 にお いて も、拍節構造 の明快 なバ ロ ック音楽 は好 んで使用 されて い るの。 またバ ロ ック時代 は、宗教至 上主 義 と もい うべ き立場か ら解放 され、様 々な器楽が発展 し、
オル ガ ンな どによ る即興演奏 が活発 とな った とい う点 で も、音楽療法 との関係で重要 で ある 0。
フランス革命が発生 した 18世 紀後半 になると、ベー トー ヴェ ンに最初 に代表 され るよ うに、音楽家 は教会 や貴族 か ら独立 した音楽家 と して、 自由 に自分 の信念
発達 障害児 の音楽療法 につ いての 一考察
一 音楽学と発達臨床心理学の関連から一
大 谷 正 人
A Study of Music Therapy for Developmentally Disordered Children
:In】 RelatiOn to Musicology and]Developmental Clinical Psych010gy
Masato Orttr
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