論文の内容の要旨
氏名:長 野 伸 彦
専攻分野の名称:博士(医学)
論文題名:新生児における糖代謝・脂質代謝に関する研究 ―胎児環境とインスリン抵抗性について―
【目的】不当軽量児(small for gestational age:SGA)は、将来肥満やメタボリックシンドロームになる リスクが高いことが示され、Barker仮説として知られている。今回著者は、母親と出生児の状態を診療録 を基に後方視的に解析し、在胎週数、出生体重、性別および胎児期や出生時のストレス状況が児のインス リン抵抗性におよぼす影響について検討を行った。
【対象と方法】対象は、日本大学医学部附属板橋病院のNICUに入院した49例(男児27例、女児22例)
の新生児で、在胎週数は32から40週で、在胎週数37週未満の早産児23人、正期産児が26人であった。
出生体重が在胎週数別標準体重の10から90パーセンタイル未満の児(appropriate for dates:AFD)25 人、10パーセンタイル未満の児(SGA)21人、90パーセンタイル以上の児(heavy for dates:HFD)3 人であった。
方法は、生後2時間以内で、ブドウ糖の点滴静注前あるいは哺乳前の静脈血を検体とし、血糖値、IRI、
3-ヒドロキシ酪酸、遊離脂肪酸(free fatty acid:FFA)、乳酸、Hb 、ACTH、コルチゾール、HOMA-R、
QUICKI、グルコース/インスリン比、インスリン/コルチゾール比について評価した。主解析として(1)
インスリン抵抗性(IRI、HOMA-R、QUICKI、グルコース/インスリン比、インスリン/コルチゾール比)
に影響を与える因子に関して多変量解析を行った。副解析として(2)インスリン抵抗性を示す指標に関し て、(2-1)男児と女児、(2-2)早産児と正期産児、(2-3)SGAとAFD、(2-4)仮死ありとなし、(2-5)高 インスリン血症で低血糖ありとなしの2群間で比較検討を行った。
【結果】IRIはHbと正の相関関係である傾向があったが、有意差はなかった(P=0.07)。QUICKIは母体 のBMIと負の相関関係である傾向があったが、有意差はなかった(P=0.07)。グルコース/インスリン比は、
遊離脂肪酸と正の相関関係である傾向があったが、有意差はなかった(P=0.05)。インスリン/コルチゾー ル比は、在胎週数、出生体重と負の相関関係である傾向があったが、有意差はなかった(P=0.08、P=0.05)。 高インスリン血症で低血糖なし群では、高インスリン血症で低血糖あり群と比較して HOMA-R が有意に 高値で(P=0.01)、インスリン/コルチゾール比が低値の傾向があったが、有意差はなかった(P=0.09)。
【考察】早産児、低出生体重児の中で下垂体‐副腎系(Hypothalamic-pituitary-adrenal axis:HPA axis)
が慢性的に刺激を受けて、コルチゾールが高値を示す症例は、その後インスリン抵抗性が継続して存在し、
将来メタボリックシンドロームを発症するリスクが高い可能性が示唆された。