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『沖縄が問う日本の安全保障〈日本の安全保障 第4巻〉』

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目 次

シリーズの刊行にあたって

序論 沖縄が問う日本の安全保障

⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 阿部浩己 島 袋 純 1 はじめに 1 1 辺野古移設をめぐる情勢 2 2 強制的併合から植民地的支配へ 4 3 脅威の実相 5 4 米軍駐留と安全保障の乖離 7 5 沖縄の自律 10 6 本巻の構成 12

Ⅰ すれ違う安全保障像

1章 安保をめぐる日本と沖縄の相克

⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 前泊博盛 17 はじめに 17 目 次

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1 日米関係は対等か従属か ⒡⒢ ﹁属国・日本﹂論の検討 20 2 沖縄と本土の温度差 ⒡⒢ ﹁平時の安保﹂と﹁有事の安保 ⅶ 25 3 在日米軍基地の﹁沖縄集中﹂の検証 28 4 琉球・米国関係からみる在沖米軍基地 40 5 沖縄の基地負担軽減と新たな日本の安全保障政策 43

2章 戦後沖縄と平和憲法

⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 小 松 寛 51 はじめに 51 1 平和憲法の不在 53 2 平和憲法の希求と批判 57 3 平和憲法への失望 67 おわりに 72

Ⅱ 近代領域国家の狭間で

3章 沖縄がつむぐ﹁非武の安全保障﹂思想

⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 波平恒男 81 1 沖縄人のアイデンティティ ⒡⒢ ﹁平和﹂と﹁自治﹂の希求 81 2 琉球王国と﹁非武﹂の伝統 84 3 近代日本による琉球併合 ( ﹁琉球処分﹂ ) 89 4 同化・皇民化から沖縄戦へ 96

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5 戦後の日本と沖縄 102

4章 基地と抵抗

⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 鳥 山 淳 111 はじめに 111 1 二つの軍隊による﹁要塞化﹂と生活基盤の喪失 112 2 恒久基地化と協力の論理 117 3 占領への対峙と恫喝 122 4 継続する抗いと沈静化の回路 128 おわりに 135

Ⅲ 基地問題の実相と構造

5章 法による暴力と人権の侵害

⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 秋林こずえ 141 はじめに 141 1  ⅵ 基地被害﹂ ⒡⒢ 歴史と現在 142 2 性暴力・性犯罪、米軍内での性暴力 149 3 日米地位協定の歴史と運用 153 4 他国の地位協定と性暴力 ⒡⒢ フィリピンと韓国 156 おわりに ⒡⒢ 安全保障をジェンダーの視点から、沖縄から問う 159 目 次

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6章 米軍基地と財政

⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 川瀬光義 165 はじめに 165 1 基地を維持するための財政支出の概要 167 2 基地そのものを維持するための財政支出 171 3 基地所在自治体・住民向けの財政措置 180 おわりに 188

7章 在沖米軍の存在理由

⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 屋良朝博 191 1 迷走の基地問題 191 2 沖縄の米軍は抑止力なのか 194 3 アジア太平洋を見据える海兵隊 201 4 アジア太平洋の安全保障ネットワーク 213 まとめ 217

Ⅳ 沖縄発の構造転換は可能か

8章 アメリカ政治と在沖米軍基地

⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 佐 藤 学 227 1 アメリカ国内政治と軍事・安全保障政策 227 2 冷戦終結後のアメリカの軍事的選択 237 3 オバマの時代と﹁その次﹂ 248

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4  ⅵ アメリカ国内政治と在沖米軍基地﹂という問題の立て方 252

9章 人権の国際的保障が変える沖縄

⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 阿部浩己 257 はじめに ⒡⒢ 沖縄にとっての国際法 257 1  ⅵ 琉球処分﹂ ⒡⒢ 不正の起点 260 2 軍事占領から軍事的植民地へ 264 3 自己決定権の規範構造 267 4 国際人権機関の眼差し 273 おわりに ⒡⒢ ﹁沖縄からの自立﹂のとき 280

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章 沖縄自律の構想と東アジアの構造転換

⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ 島 袋 純 287 はじめに 287 1 冷戦のさなかの施政権返還と﹁屋良建議書 ⅶ 288 2 冷戦の終結と﹁国際都市形成構想 ⅶ 294 3  ⅵ 沖縄 21世紀ビジョン基本計画﹂と地域安全政策課の設置 300 結 び 314 目 次

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はじめに

  ⅵ 日本の安全保障﹂と題する本シリーズにあって、本巻の位置づけには少々特異なところがあるかも しれない。その特異性は、なにより﹁沖縄が問う日本の安全保障﹂というタイトルに示唆されているよ うに思う。端的にいって、本巻で企図しているのは、沖縄を基軸にすえて、安全保障の名の下に生み出 されてきた国内の抑圧的現実を分析し、さらに、その抑圧性の深まりによって日本の安全保障の基盤が かえって脆弱化している様を照射することにほかならない。  本 巻を 構成 する 諸論 考が雄 弁に 示す よう に、 日本の 安全 保障 を実 現す るにあ たり 、沖 縄は 常に ﹁本 土﹂とは異なる取扱いを受け、極端に重い負担を強いられてきた。沖縄が法的に日本の一部であること はたしかだとしても、安全保障をめぐる沖縄の実景は本土との間にこのうえないほどの違いを浮き立た せて いる 。そ の相 貌は 、ま さし く日 本の 国内 に埋 め込ま れた 外部 (他者 )のそ れに ほか なら ない 。本 巻で は、そうした日本本土と沖縄の非対称な関係性を反転させて、沖縄を基軸にすえることで日本の安全保

序論 沖縄が問う日本の安全保障

阿部浩己

序論 沖縄が問う日本の安全保障

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障のあり方を根源的にとらえなおす契機を提供したい。  も とよ り、 その 眼目 は沖 縄か らの 一方 向的 な告 発にあ るの では なく 、む しろ 、人 間本 位 ( 中心 )の安 全 保障を実現するために欠かせぬ視座の構築に資することにある。さらに敷衍すれば、本シリーズのタイ トルを成す﹁日本﹂あるいは﹁安全保障﹂の意味するものを、沖縄が一貫して強いられてきた実情を通 して批判的につむぎなおしてみたいということでもある。  日本の安全保障はいったい何から何を守ろうとするものなのか。本巻では沖縄というプリズムを通し てその問いに向き合っていく。

1 辺野古移設をめぐる情勢

 本巻が刊行される時点において、安全保障をめぐる沖縄の情勢は強度の緊張状態にある。その緊張状 態は、一方を沖縄、他方を日本政府・本土・米国とする構図の中で生み出されている。より精確には、 日本政府・米軍の強圧的な態度とこれを支える本土の無関心ぶりが、稀にみる政治的意思の高まりを沖 縄の地に生み出している、といってよい。  その直近のきっかけは、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設問題にある。二 棚 一四年に行われ た名護市長・市議、沖縄県知事、衆議院議員のいずれの選挙においても辺野古移設反対の声が多数を占 め、とくに移設の是非が文字通りの争点となった県知事選挙において反対を唱える翁長雄志が圧倒的な 票差をもって勝利をおさめたにもかかわらず、日本政府は前知事の承認を得ていることを理由に移設推

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進の態度を見直す気配すら見せない。それどころか、上京した翁長知事との面会を首相や官房長官らは 数次にわたって拒否し、二 棚 一五年三月には辺野古沖のボーリング調査を再開するにも及んでいる。米 軍施設前での反対運動の規制も進められ、さらに、沖縄平和運動センター議長らの逮捕・送検 (刑事特別 法違反容疑 )といった事態まで起きている。  住民の生活や自然環境に甚大な影響を与える米軍基地の存在・拡張をこれ以上容認できないという明 確な意思を示す沖縄の多くの人々と、これを拒否する日米両政府・本土との対立の図式がいっそう先鋭 化しているように見える。全国紙など日本の主要メディアによってとりあげられる機会があまりないこ ともあって、沖縄のおかれた窮境が多数者を構成する本土の人々によってきちんと認識されるのは容易 ではないところもある。しかし、日本の安全保障の根幹を成す日米安全保障体制にしても、あるいは日 本国憲法の誇るべき平和主義にしても、そのいずれもが沖縄への過重な負担の強要によってはじめて有 意性をもちえてきたことはまぎれもない。沖縄なくしてこれまでの日米安保も日本本土の安全もありえ なかった、ということである。  だが、長期にわたる過重な負荷は、本巻の各所で指摘されているとおり、いまや沖縄において日本か らの本格的な自律を希求する動力に転化しつつある。自律がどのような形態をとりうるのかについては 不透明なところがあるにしても、沖縄が徐々に歩を進めつつある現下の道行きは、その沖縄への依存な くし て成 立し えな かっ た日 本 (日米 ) 安全 保障 と憲法 の平 和主 義の 根幹 に深 刻な 動揺 を与 えか ねぬ もの でもある。辺野古移設をめぐる緊張状態には、ひとり沖縄の帰趨を超え出る、広範な安全保障上の含意 が込められていることを銘記しておかなくてはならない。 序論 沖縄が問う日本の安全保障

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2 強制的併合から植民地的支配へ

 第二次世界大戦後の日本の国家領域は、ポツダム宣言とサンフランシスコ平和条約を通じて国際法上 画定されているが、そのなかにあって沖縄の地位にはひときわ不安定なものがあった。沖縄は、サンフ ランシスコ平和条約第三条により、日本の潜在主権下におかれる一方で、米国による行政・立法・司法 上の統治を受けることになった。豊下彦によれば、 ﹁潜在主権とは、露骨な併合を避けつつ、沖縄を 事実上米国の軍事基地として恒久的に確保するための巧みなレトリックであった﹂とされる。豊下はま た、 ﹁日本が主権を保持しているという ⅷ 体裁 ⅸ こそが、米国が沖縄の軍事占領を永続させる上で最も 円滑な方式であると天皇の側が考えた結果﹂でもあることをつまびらかにしている (豊下二 棚棚 六 六九、 七一 )  終戦工作にあたり近衛文麿がとりまとめた﹁和平交渉の要綱﹂は、沖縄が﹁日本固有の本土﹂ではな く、それゆえ﹁捨てる﹂対象として連合国側に提示する予定の地であったことを伝えている。なにをも って﹁固有﹂というのかは判然としないものの、このような取扱いが浮き彫りにしているのは、日本に おける沖縄のきわだって特殊な位置づけである。  本土とは異なる処遇を沖縄がこうむる背景に、歴史的な文脈が少しくあずかっていることはいうまで もない。本巻第三章の冒頭で波平恒男が言明するように、 ﹁現在の沖縄県の地には、かつて琉球王国と いう独自の国家が存立していた﹂ 。 ﹁琉球処分﹂と称される措置により、琉球王国は一八七九年に日本に

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強制的に併合されて消滅する。沖縄の受ける差別的処遇の近代的起点は、まぎれもなくここに見出され る。その事実は、しかし、強制的併合を断行した側の日本本土において、今日にいたるもどれほどの認 知を得ているのか甚だ心もとない。日本政府もまた、琉球王国併合についてその不正性をけっして認め ようとしない。沖縄への過度の負担は、日本による琉球支配という歴史的不正義とその忘却のうえに推 し進められてきたことは否定できないところである。   ⅵ 琉球処分﹂によって圧殺の対象とされたのは、前記波平論文が記すように、琉球王国それ自体とと もに、そこに映し出されていた﹁非武﹂の文化でもあった。日本国憲法の平和主義とも深く共鳴しうる その伝統文化は、第二次世界大戦期にはじまる米軍の支配下にあって沖縄のアイデンティティの核とし て精錬されていく。その精錬作業をうながしたのは、米軍の圧倒的な支配の下に人々の生活や安全が根 底か ら損な われて いく沖 縄の現 実であ った。 その実 情は、 平和主 義を掲 げる日 本国憲 法下へ の復帰 ( 一 九七二年 )によってかえって制度的な深まりを見せることにもなる。大規模な米軍の駐留が、有事に備え た安全保障を理由に、平穏たるべき人々の日常を奪い取っていく。第一章で前泊博盛が用いる表現を借 用すれば、 ﹁有事の安保﹂に備えた日米安保体制が、沖縄の﹁平時の安保﹂にとって最大の脅威となっ て立ち現われていくのである。

3 脅威の実相

  ⅵ 有事の安保﹂と﹁平時の安保﹂の相克は、 ﹁安全保障﹂の意味するものについて根源的な問いを生み 序論 沖縄が問う日本の安全保障

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出さずにはいない。沖縄にあってその問いは抽象的な思惟として提示されるものではなく、余儀なく迫 られた現実への衝迫的な問いかけとしてある。  砂川事件における最高裁判所の政治的作為というべき司法判断にも守られて、日米安保体制は戦後日 本の安全保障のかなめとされてきた。その法的主柱をなす日米安保条約第六条によれば、米国の﹁陸軍、 空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される﹂のは、なによりも﹁日本国の 安全 ⒆ 保障 ( sec uri ty ) ⒇に寄 与﹂す るから である 、とさ れてい る。だ が、日 本国の 安全保 障に資 するは ずの 米軍基地の存在は、実際には、安全保障という言葉とはおよそ対極にある抑圧的な情景を沖縄に広げて きた 。沖縄 (の人々 )は日 米安保 条約にい う﹁日 本国﹂ には含 まれない のか、 という 素朴な 疑問をい ざな わずにもいないものだが、これを別していえば、国に焦点をあてた安全保障の実態と限界が沖縄におい て如実に現われ出たということでもある。  米兵による性暴力の問題は、それを象徴的に伝えている。第五章で秋林こずえが描き出すように、軍 隊の駐留が生み出す性暴力は、ジェンダーの視点が導入されることでようやく可視化されるようになっ た。ジェンダーを駆使するフェミニスト理論は、安全保障の対象を人間の福利や生存に引きつけて定義 しなおす批判的アプローチと共振しつつ、安全保障概念の国家/男性中心性を転換することに大きな成 果をあげている。沖縄の強いられた実情を安全保障の観点から言説化するにあたっても、その学術的・ 実務的成果は不可欠といってよく、ここでは次の二点を確認しておきたい。  第一は、国の安全に資する伝統的な安全保障が、女性たちに甚だしい負の影響をもたらすにもかかわ らず、その現実を不可視化するように概念構成されてきた実態を浮き彫りにしたことであり、第二は、

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女性たちの受苦を可視化するために、安全保障概念を多元化したことである。安全保障の中核にあらゆ る形態の暴力の削減・廃絶をすえることで、国による軍事力行使のみならず、軍事施設の内外で生ずる 性暴力、ドメスティックバイオレンス、人身売買、貧困といった数々の不正義・不条理を安全保障の射 程に組み入れる枠組みをつくりあげた。日米安保条約第六条の投射する伝統的な安全保障が軍事的脅威 に照準をあわせているのに対して、そうした軍事的脅威がないからといって人間の安全が保障されるわ けではないという認識を打ち立て、種々の暴力を安全保障上の脅威として名指すことを可能にしたので ある。  ジェンダーの視点を組み入れた安全保障の枠組みは、二 棚 世紀最後の年に、安全保障の領域に女性の 経験を組み入れる国連安全保障理事会決議一三二五を採択させるまでになった。以来、国連安保理では ﹁女 性、 平和 、安 全保障 ﹂が 重要 なテ ーマと して 議論 され るよう にな って いる ( 眞田二 棚 一四 )。そ の一 方で、日本を含む先進国政府等からの激しい抵抗を受けてその射程が著しく切り縮められてはいるもの の、国連人権理事会では 平和への権利 ( the ri g ht to p e ac e )の定式化に向けた議論 が行われてもきた。広大 な軍事基地がつくりだす沖縄の実情は、こうしたグローバルな規範的展開も視野に入れながら、人間の 安全を損なう深刻な脅威として再定位されてしかるべきことはいうまでもない。

4 米軍駐留と安全保障の乖離

 とはいえ、いかに人間本位の安全保障を実現しようにも、沖縄の地にあって国の安全保障との対立は 序論 沖縄が問う日本の安全保障

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解消しえないもののようにも思われよう。現に、日本政府や良心的な本土の人々の心情は、沖縄に負担 をかけることは申し訳ないが、日米安保の重要性に鑑みて米軍の駐留は避けられない、というものでは ないか。日本国の安全保障上、米軍の沖縄駐留はやむを得ない、ということである。しかし、ジェンダ ーの 視点 を組 み入 れた 安全 保障 論に 触発 され つつ 掘り下 げて 吟味 すべ きは 、国 の (軍事 )安全 保障 を実 現 するために米軍の沖縄駐留は必要不可欠なのか、という問いであり、さらには、そもそも日本国の安全 保障は米軍の駐留によって真に守られているのか、という疑問でなくてはならない。  本シリーズ第一巻で、遠藤乾が次のように記していることを想い起こしておきたい。 ﹁安全保障の概 念には⋮⋮一貫して強力な正統化作用が潜んでいる。例えば、一般に政治家や官僚が ⅷ これは国の安全 保障に関わることだ ⅸ と言明するとき、それは ⅷ それ以上議論を許さない ⅸ ⅷ 実行するしかない ⅸ とい う響きをもつ﹂ 。たしかに、米軍の沖縄駐留は不可欠だ、それは安全保障にとって必要なのだ、という 言葉が発せられた瞬間に、私たちの思考はひるみ、停止してしまいがちである。しかし、遠藤が警告す るように、そうなると、安全保障は国の都合にあわせて操作される概念におわってしまう。日本国の安 全保障なるものの内実について思考を重ねることは、 ﹁誰か他の人たちの独占物であった安全保障を、 自らの手に取 り戻す ⅶ (遠藤二 棚 一四 三七、三九 )ために欠かせ ぬ営みであることを、ここ でも再度強調 しておきたい。  沖縄の米軍基地は、誰のために、何のためにおかれているのか。日本国の安全保障にとって、その存 在は必要不可欠のものなのか。基地がおかれるにいたった具体的経緯については第四章の鳥山淳論文が 詳論しているが、現時点における米軍基地の機能・役割については前述の前泊論文とともに、第七章の

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屋良朝博論文がその詳細を描き出しているとおりである。二 棚 一二年一二月の防衛大臣離任の際に森本 敏も明言したように、沖縄の米軍基地の大半を占める海兵隊が軍事的必要から沖縄に駐留しているわけ ではないことは、いまや公然たる秘密といってよい。政治的な理由から、つまりは本土と異なる差別的 処遇を強いることができるので沖縄に基地が集中しているにすぎない、という実情を森本の会見は図ら ずも露呈するものであった。  軍事的な観点からいえば、沖縄に海兵隊を配備する必然性は皆無に等しく、海兵隊の機能から見ても 米軍の沖縄駐留によって日本の安全が保障されているという理路は成り立たない。その一方で、第八章 の佐藤学論文が記すように、米軍に対する日本政府の期待と米軍の軍事的思惑とのギャップが、ことの ほか大きくなっていることにも留意しておかなくてはならない。屋良論文のたとえを用いれば、米国が 望遠鏡でアジアを見渡しているのに、日本は顕微鏡で尖閣周辺を覗いているという、同床異夢というべ き状況が出来している。こうした認識ギャップが肥大化していく先に待ち受けるのはどのような事態な のか。 ﹁沖縄には申し訳ないが、米軍の駐留は安全保障上避けられない﹂というおうむ返しのように繰 り返される弁明は、安全保障についての思考を停止させ、日本の安全保障基盤そのものの空洞化に帰着 しかねぬ危険性すら秘めている。  思考停止は、日米安保の名の下になされる財政的支出の不透明性を増幅させることにもつながってい る。米軍基地の設置・運用について日本が担う経費負担は日米地位協定第二四条に明記されているが、 第六章の川瀬光義論文が実証的に描き出すように、米軍基地のために日本が負う財政負担は一九八 棚 年 代後半以降、特別協定によってなし崩し的に増大し続け、いまでは日本の主権が及ばぬ国外での米軍基 序論 沖縄が問う日本の安全保障

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地建設にまで対象が拡大している。加えて、原則も根拠も不明確なまま対象自治体への補助金・交付金 の支給もふくらんでいる。日米地位協定の存在意義を無化するのみならず、地方自治のあり方をひどく ゆがめる深刻な事態が進んでいるといわなくてはならない。

5 沖縄の自律

 第八章の佐藤論文が紹介するように、絶えず揺動する米国の政治力学を受けて沖縄の基地問題を打開 する機会はこれまでにまったくなかったわけではない。現況がきわめて緊張した局面にあることについ ては既に述べたが、沖縄においてはそうした緊張状態が日本本土からの自律の機運を促す状況にある。 自律への議論のなかでひんぱんに用いられるようになっているのが﹁自己決定権﹂という言葉である。 国際法上は﹁自決権﹂と表記されるのが一般的ではあるが、自らのあり方を自ら決することを可能とす る権利のことである。第九章の阿部浩己論文では、近年、自己決定権が普遍的な権利として国際法上発 展してきた経緯と論理及び沖縄への適用可能性を明らかにしている。この権利は人民・民族といった集 団に認められるものであり、沖縄ではこの権利を前面に出して日本政府等からの強圧的な姿勢に抵抗す る局面が見られるようになっている。  本来であれば、日本国憲法こそが沖縄の抑圧的な事態への防壁となってしかるべきではあろうが、第 二章で小松寛が論ずるように、憲法の平和主義は沖縄に平和をもたらさないというあまりにも冷厳な現 実が、 ﹁脱日本国憲法言説の台頭﹂をうながす土壌を耕すことにもなってしまった。そうして台頭する

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