のキャリア形成に発展させる試み
著者 長尾 明也, 渡辺 聡
雑誌名 北翔大学短期大学部研究紀要
号 58
ページ 109‑121
発行年 2020
URL http://doi.org/10.24794/00002995
Ⅰ は じ め に
東京オリンピック・パラリンピックの開催日が,近づいてきた。既に各競技種目の要領や日 程の細目も発表となり,その準備が進んでいる。学校においても,国を挙げての一大行事に向 けて,様々な指示が文部科学省や教育委員会からなされ,オリンピック・パラリンピック大会 を活用した,様々な取り組みが求められている所でもある。
教育現場では,改訂された学習指導要領の完全実施を,小学校では2020 年度,中学校では
2021年度に控え,教育課程の改変・再構築の最中である。新しい学習指導要領では,「主体的・
対話的な深い学び」と学校全体の教育課程に対する「カリキュラム・マネージメント」という 文言がクローズアップされている。
「主体的・対話的な深い学び」については,何を知っているかという「知識・技能の習得」
で終わるのではなく,教科や領域固有の「知識を活用」して思考・判断し,または表現するこ とで,深い学びを成立させることを目指している。つまり,教える教師にとっては,認知的領 域に関係することだけでなく,非認知的領域に関する能力の育成にも焦点を当てた,新しい現 場実践が求められていることになった。
カリキュラム構成について重要視されていることは,学習者が既にもっている既存の知識や 技能を結び付けたり,関連付けたりしながら,多様で多角的なものの見方考え方ができるよう にすることである。そうするための方法として現場に求められているのが,現存する各教科や 領域の目的や内容を精査・統合したカリキュラム・マネージメントであり,授業の目的を関連 付けて実施する教科横断的な授業実践である。小学校においては,総合的な学習の時間・特別 活動・道徳(特別の教科道徳)が既に,新しい学習指導要領に沿って授業実践が実施されてい る。また,体育科の授業をはじめ,その他の教科や活動については,全部または一部の内容を,
上述した趣旨で行われてもいる。
*北翔大学短期大学部こども学科 **札幌市立稲穂小学校
児童の体力向上意識を高める教科横断的な授業実践研究
オリンピック・パラリンピック教育を
児童のキャリア形成に発展させる試み
A classroom practicewithcross-curriculum
toraisephysicalstrengthimprovementawarenessofthestudents 長 尾 明 也* 渡 辺 聡**
Akiya NAGAO Satoshi WATANABE
Ⅱ 本 研 究 の 背 景
1.札幌市「健やかな体育成プラン」と学校経営の重点との関連
札幌市では,札幌市学校教育の重点の一つとして,『知・徳・体の調和のとれた育ち』を掲 げ,「学ぶ力・豊かな心・健やかな体」の育成を目指している。この目標を達成するために札 幌市は,特に「学ぶ力」と「健やかな体」の育成について,各学校に対して年間の指導カリキュ ラムに影響を与える,行動プログラムの作成と実施を義務付けている。
体育科の学習に大きく関係する行動プログラムの基本的な考え方は,該当年度の学校教育の 重点に大きく左右される。例えば本年度の内容は大きく分けると,体育(運動)と健康に関す るものに区分され,それぞれ細かな項目が決められている。
A小学校の学校経営方針は,アンダーラインを付加した項目が,今年度の学校経営方針の中
に大きく取り上げられている内容であった。また,アンダーラインを付加した項目が,研究の 基盤となっている。
(1)体育に関する指導の充実
1)体力・運動能力の向上
①体育・保健体育授業の充実
②縄跳び活動の活性化
③授業以外の運動・スポーツ機会の充実(運動の日常化)
④札幌らしいオリンピック・パラリンピック教育の推進(副教材の活用)
2)部活動の充実
①「札幌市部活動の方針」に基づく,休養日の設定,外部人材の活用
②「主体的・対話的で深い学び」の視点からの活動の改善
(2)健康に関する指導の重点
1)基本的生活習慣の確立
①健康な運動・生活習慣づくりの推進(養護教育,家庭・地域との連携強化)
②がん教育の推進 2)食育の推進
①健康的な望ましい食習慣の啓発(「食に関する指導の手引き」活用),栄養教諭・
栄養士との連携強化
②食と環境を結び付けた学習の充実(フォードリサイクルによる学習の充実)
3)性に関する指導の充実
①「命を大切にする指導の充実」と関連を図った道徳教育,人権教育の充実(「性 に関する指導の手引」の活用)
<「平成31年度札幌市学校教育の重点」より引用>
2.A小学校の教科横断的なカリキュラムと授業研究
札幌市学校教育の重点を受けて,A小学校では,新しい学習指導要領の趣旨に沿った,教科 横断的なカリキュラム研究を行ってきている。その中で,本年度重点項目の一つは,「札幌ら しいオリンピック・パラリンピック教育の推進」と「健康的な望ましい食習慣に関する食育」
の分野である。そこに,カリキュラム・マネージメントの観点からも,外部人材やその他の専 門的知識や知見を積極的に活用し,各教科の狙いが効果的にちりばめられた教科横断的な目標 を内包した体育の授業を行う。
本年度,A小学校の学校全体の研究テーマは,昨年度の反省を受けて以下のようになってい る。
3.A小学校研究推進部の方針を受けた食育・体力向上の取り組み
A小学校の学校研究推進部が設定した目標は,「協同して,学びを深める授業づくり」であっ
た。この目標を達成するために,授業研究においては研究主題として「互いに関わり合い,深 い学びを生み出す子どもの育成-新学習指導要領に対応した新しい授業の創造-」を掲げた。
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図 1 研究のテーマ設定にむけて(A小学校研究提案より)研究推進部が目標に掲げている「協同の学び」は,A小学校の学校経営の重点目標「協同し て深い学びを創る学校」をうけて,研究推進部の目標として設定されたものである。したがっ て,体育科の授業では,図
2に示された「協同の学び」を通した実践が行われている。
Ⅲ 本 研 究 の 目 的
1.教科横断的な取り組みによる体力向上意識形成の検証
本研究は,A小学校の
4研究部門の中の一つの実践である。その中の「食育・体力向上」部 門は,文字通り「体育に関する指導」と「健康に関する指導」に分けられている。札幌市の健 やかな体育成プランに沿った研究項目のオリンピック・パラリンピック教育の推進が,自分自 身の体力向上意識につながるか追究する。さらに,教科横断的な取組で児童の学びが深まるか も追究する。
2.教科横断的な取り組みが自己キャリア意識の醸成に及ぼす効果
本研究では,A小学校が年間を通して
3学年以上で実施した,オリンピアン等の外部招聘講 師による協同の学びを活用し,児童の自己キャリア形成を促す効果を検証することとした。
札幌市におけるオリンピック・パラリンピック教育は,国の施策に沿った事業でもあり,来 年度開催の「東京オリンピック・パラリンピック」の成功に向け,児童に対する学習の場の一 つになっている。したがって,この機会を児童のキャリア形成の大きな教材として捉えて活用 することは有意義であり,2020 年度から小学校では完全実施となる,新学習指導要領の「カリ キュラム・マネージメントの視点を踏まえ,外部人材を積極的・総合的に活用する」趣旨に合 致するものである。
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図 2協同の学びを成立させる 4研究部門の関係性(A小学校研究提案より)
Ⅳ 本 研 究 の 方 法
本研究目的に対して,「札幌市オリンピック・パラリンピック教育推進事業」を活用し,教 科横断的なカリキュラムの中に位置付けられるよう工夫する。A小学校で編成された教育計画
(
5学年のみ抜粋)は以下のようなものである。
1.オリンピック・パラリンピック教育指導計画 5
学年<
5時間配当>
1
)オリンピック・シンボル
1図工
~シンボルマークの意味 シンボルマーク作成
2
)講師の取り組んだ軌跡を知る
1総合的な学習の時間
3)オリ・パラ体験授業・講演学習
2総合的な学習の時間・体育
4)オリンピック・モットー
1道徳
~モットーメッセージを読み解く
~自分の生活・行動を振り返る
2.外部招聘講師(オリンピアン・パラリンピアン)を位置付けた授業計画
4
学年以上は外部招聘講師(オリンピアン・パラリンピアン)を指導計画に積極的に位置づ けた教育活動を展開している。以下は,本授業で招聘された講師及び業績,指導内容である。
外部招聘講師による教科横断的な授業は,複数学年にわたっているが,本論文では
A小学校において授業が行われた
5学年の取組についての成果と課題を検証する。
表 1 各学年の招聘講師と指導内容
学年 招聘日 講師名 業績 指導内容
4学年 9月3日 石野枝里子氏 スピードスケート(長距離)
トリノオリンピック代表選手 ・大倉山ジャンプ場体験後,石野 講師による「夢」の実現
・諦めない心,努力について 5学年 6月19日 神谷衣理那氏 スピードスケート(短距離)
ワールドカップ世界選手権,
平昌オリンピック代表選手
・スピードスケートのトレーニン グ体験とスケートの走法指導
・努力について 6学年 10月3日 為末 大氏 陸上ハードル400M日本記録
保持者 陸上世界選手権メダ リスト,シドニー・アテネ・
北京オリンピック出場
・為末氏によるハードル上達教室
(体育),栄養士による食育教室,
為末氏による「夢」授業(道徳・
総合的な学習をアクティブ・ラー ニング形式で学習)
11月28日 伊藤 みき氏 スキー・モーグルワールドカッ プ世界選手権,トリノ・バン クーバー・ソチオリンピック 代表選手
・オリンピックの価値,自分の努 力とケガ,「夢」の大切さ,挫 折からの立ち直り方等講演(道 徳)
Ⅴ 授業の実際( 5学年)
本論文では,体育科を中心とした教科横断的な取組について紹介する。
3学年と
4学年も教 科横断的な視点で考えられた取組である。しかし,教科体育的な視点は挿入されていない。し たがって,本論文では
5学年の取組について児童の意識の変容や深い学びの様子について取り 上げることとする。
6学年も同様に教科横断的なカリキュラム構成でオリンピック・パラリン ピック教育を行ったが,その研究報告は論文の構成上,次回に報告したいと考える。
対象学年は,A小学校
5学年の
3クラスである。
1.授業のねらい
本授業実践では,以下のような具体的なねらいを学年間で共有して授業が行われた。
1
)オリンピック・シンボルの意味を学び,オリンピックについて理解を深める
2)オリンピアンとの体験授業を通して,運動の価値について考える
3
)オリンピックモットー(より速く・高く・強く)に対する理解を深め,自分の生活を見 つめ直す
また,第
1時・
2時と第
5時間目は,各学級の教室で授業実践がなされた。第
3・
4時間目 は,招聘講師の都合上,体育館において学年合同で授業実践が行われた。
2.調査対象の児童
A小学校,第5
学年全児童89 名。ただし,講師招聘授業当日に欠席した児童は調査の対象外 とする。
3.児童意識の変化の調査方法
児童に対して,授業に入る前と授業が一通り終わりかけたころに,次のような内容のアンケー トを施した。これによって,児童の思いの変化を比較検討することとした。
<質問項目> ~ みる・する・ささえる・しる アンケート Ⅰ ~
1.体を動かすこと(運動)は、すきです。
2.学校の体育の授業は、すきです。
3.オリンピックやパラリンピックに興味がある。
4.ふだん、やってみたい・挑戦したいスポーツがある。
5.オリンピックやパラリンピックのことで、知っていることがあれば書きましょう。
質問
1から質問
4までは,
5段階評定を児童にしてもらった。また,質問
5と質問
6につい ては,自由記述とした。さらに,アンケートによる児童の意識の変化を調べるために,事後に 行う児童アンケートは,質問
1から質問
4に関しては,同じ内容の質問とした。自由記述の質 問
5と質問
6は,事後の意識変化を記述するものとして扱った。
4.取組の様子(授業分析)
( 1) 1時間目:オリンピック・シンボルについての学習
1
時間目の授業ではまず最初に,五輪色が塗られていない無色の五輪マークを児童に提示し,
着色させるところから始めた。児童は,普段何気なく見ている五輪のマークの「色」,「並び方」,
「色にこめられた意味」について,実はよくわかっていなかったことに気づいた。意味を学習 した児童は,個人一人一人が思いを込めながら,正しいオリンピックマークについて思いを込 めて着色していた。
( 2) 2時間目:招聘講師についての調べ学習
この時間では,講師である神谷理那氏について,自分なりの認識をもつための個人学習を行っ た。コンピュータや発刊されている資料を活用して,講師の人となりについて学んだ。児童は,
自分たちの調べたことをもとにして,個人や小グループで話し合いをもちながら,講師が来校 した際に追究したい問いをもつことになった。
<児童が抱いた問い>提出数:76 名
1)スケートを始めたきっかけ
2
)メダルが取れないときの「つらさを乗り越える諦めない気持ち」 「小平選手の陰」の気持ち
3)食生活について
6.オリンピックやパラリンピックで、もっと知りたいことはありますか?あれば書きま しょう。
<事前アンケート項目>
<質問項目> ~ みる・する・ささえる・しる アンケート Ⅱ ~
5.オリンピックやパラリンピックのことで、知っていることがあれば書きましょう。
6.オリンピックやパラリンピックで、もっと知りたいことはありますか?あれば書きま しょう。
<事後アンケート項目(一部省略)>
4
)自分が変わったこと
5)トレーニングの時間
6)緊張することについて
7)プロ,一流になるには
8)楽しいと感じること
9
)スケート以外にしていること
10)好きなこと
質問項目を見てみると児童の疑問は,主に体づくりやトレーニングの仕方に注目している内 容のものと,そうではなく精神的な心の在り方に注目しているものに大別できる。どちらかと いうと項目的には後者のほうが多い。本授業の取組が,体づくりのためにすべきスポーツの役 割だけでなく,教科横断的にオリンピアンの心の在り方まで思いを馳せ,自分の生き方や考え 方にまで思いをはせる契機になっていることが伺える。またこの傾向は,前掲した質問紙の評 定結果考察からも明らかになっていくことになる。
( 3) 3・ 4時間目:招聘講師との体験授業・講演学習
今回,招聘された講師は平昌オリンピック代表選手であった神谷衣理那氏である。神谷氏は,
オリンピック代表であるが,一方,他の選手との競争の中で,悔しい思いをしてきた選手でも ある。
5学年の児童は,前時においてそのような様子を少なからず認識して学習に臨んでいる。
したがって,神谷氏が体験を伴う指導でスピードスケートの走法訓練を行ったことを,神谷氏 の心の在り方として捉えている児童が多かった。授業の流れは大まかに以下のようにまとめら れる。
1)スピードスケート体験トレーニングについて
神谷氏は,スピードスケートの短距離の選手であった。スピードスケートにおいて一番求め られることは,体幹の安定であり,特に独特の低姿勢で,遠心力に逆らいながら,ぶれずにリ ンク・コースを滑りきる筋力が必要であるという。写真
2~
5は,それを児童に体感させるた めに行った動きのひとつである。神谷氏の動きを見て児童は,スピードスケート競技やトレー ニングの辛さや凄さについて,実感を伴った学びができた。この後に報告するが,児童の感想 を見ると,その際に体感した思いについて,調べ学習では理解することができない様々な想い を膨らませながらもつことができている。
この内容は,新学習指導要領の大きな骨子である,教科のもっている目的を有機的に総合さ
<授業の流れ>
① 体育館に入場 → ② 講師紹介 → ③準備運動 → ④スピードスケート体験ト
レーニング(神谷氏による指導) →(休憩後)⑤児童への講演と質問について
せる,カリキュラム・マネージメントのねらいに合致していると考える。
2)神谷氏の講演に対する児童の質
児童は,先に調べ学習において発生した質問項目を,講師である神谷氏に問いかける。
神谷氏からは,自分たちが疑問に思ったことについて回答が得られ,運動意識とともに物事 への取組み方などに理解を深めていた。
( 4) 5時間目:オリンピック・モットーについて
神谷氏の授業を受けて,自分の学びについてのまとめの授業が行われた。授業の感想には,
自分の生き方に関する内容に思いを馳せているものが多々見られ,本研究の目的の一つを十分 満たしたものになった。
Ⅵ 分 析 と 考 察
1.意識調査の分析
講師招聘授業前後の児童意識の変化
前掲した事前アンケートの内,児童に
5段階評定の平均値は,以下のようである。
写真 1 スケート走法の実演 写真 2 スケート走法の練習体験
写真 3 スケート走法の指導 写真 4 スケート走法の体験
・クラス(C1~C3)ごとの意識調査結果
・グラフ(縦軸): 評定値
・グラフ(横軸): Q1 運動に対する好感 Q2 体育の授業に対する好感 0
0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
1 2 3 4
図 3 体験授業前の児童意識 C1
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
1 2 3 4
図 4 体験授業後の児童意識 C1
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
1 2 3 4
図 5 体験授業前の児童意識 C2
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
1 2 3 4
図 6 体験授業後の児童意識 C2
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
1 2 3 4
図 7 体験授業前の児童意識 C3
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
1 2 3 4
図 8 体験授業前の児童意識 C3
Q3
オリンピック・パラリンピックに対する興味
Q4スポーツ種目への興味
1)運動や体育の授業に関する項目
運動や体育の授業に関する調査結果は,Q1 と
Q2に示した通りである。どのクラスの児童 も,事前調査の段階から,平均値が
4をはるかに超える肯定的な評定をしている。さらに授業 の事後評価の結果は若干ではあるが,すべてのクラスでその平均値は上昇している。
2)オリンピック・パラリンピックに関する項目
4
つの質問項目の中で
Q2の項目が,すべてのクラスにおいて顕著に授業前と授業後の評定 に差が表れた項目である。学年全体としての評定平均を比べてみると,0.
5ポイントをはるか に超える差が出ている。他の質問項目との違いをみても大きな教育効果がみられることとなっ ている。その理由については,後で考察する。
3)挑戦したいスポーツ競技に関する項目
Q4
の項目は,スケート競技への体感・理解を飛び越えて,様々なスポーツ競技に対する関 心意欲が大きくなるかを見るものであった。この項目は
Q1や
Q2ほど,事前の評価は高くな かったが,事後の意識調査結果も,大きく好転はしなかった。
2.結果の考察
一般的に,小学校児童に学校でどんな教科が好きかを問うた場合,他の教科や活動に比較し て,体育の教科や運動に関して肯定的な評価があることは知られている。本研究では,教科横 断的な視点で単元を構成することによって,体育があまり得意でない児童も含め,運動への肯 定的態度や意識を高めることを狙ったものであった。A小学校の
5学年は,スポーツ庁が行っ ている「全国体力・運動能力,運動習慣等調査」においては,半数近くの児童が能力評価で
Dもしくは
E段階にとどまっている。けれども,本研究における事前の調査において,児童の意識は,運動や体育の授業に肯定的な態度があるが,今回の取組でさらに大きく体力向上意識 を増進させていたとは言い難い。したがって,体力向上意識を高めるための教科横断的な授業 実践を,様々な教科や領域の価値項目を総合して単元構成するだけでは不十分である。さらに
<学年全体としての集計素点>
事前Q1 事前
Q2 事前
Q3 事前
Q4 事後
Q1 事後
Q2 事後
Q3 事後
Q4 合計素点 132 131 109 117 130 133 132 116
児童数 87 87 87 87 86 86 86 86
平均値 4.3908 4.3218 3.2528 3.7356 4.4534 4.4302 3.8189 3.9663
成功体験を含めた体育的技能面を基盤として,運動への関心・意欲や価値理解などの心情的側 面が醸成されるべきと考える。
その理由を明らかにするのが,Q3 のデータ結果であると考える。この項目は,本研究のね らいとして,自らの体力向上にかかわる意識や教科横断的な視点に立ったカリキュラム構成に よるキャリア形成への影響を,評価するために設定した指標である。授業のはじめ,オリンピッ ク・パラリンピックに対する意識は高くはなく,どちらかというと平均的な数値であった。し かし,教科横断的な単元構成や体験・体感する学習を通して,選手アスリートの気持ちに寄り 添う授業を展開することにより,運動・健康そして,自分の生き方やキャリア形成に波及して スポーツの価値を感得していく姿が見られた。以下に紹介する内容は,授業後の
Q5や
Q6の 記入例や授業後の感想文例の一部(抜粋を含む)である。
1
)難しいトレーニングは
6時間もしていることや食生活に気を付けることが大切だ。
2
)辛さを受けても,やり続けることが大切であることを知りました。
3
)辛いトレーニングがあるからこそ,強くなれるということがわかった。
4
)スピードスケートもなんでもそうだけど,努力がとても大切だということがよくわかっ た。
5
)プロなどになるためには,自分の好きなことを楽しくやり続けること。
6
)プロになるためには,努力が必要だということがわかりました。
7
)スピードスケートに大切なのは,体感やバランスだけじゃなくて食生活にもかかわっ ていることがわかりました。今日教えてもらったトレーニングもこれからやっていき たいし,質問したことの答えも今日なものだから大切にしまっておきたいです。
8
)「自分の好きなことを,楽しんでやる」とても大切なことだと思うし,心に残った言 葉です。衣理那さんが言っていたように,毎日自分から明るく大きな声で気持ちの良 い挨拶を続けていきたいと思いました。
9
)「自分の好きなことを,楽しんでやる」とても大切なことだと思うし,心に残った言 葉です。衣理那さんが言っていたように,毎日自分から明るく大きな声で気持ちの良 い挨拶を続けていきたいと思いました。
10
)神谷さんへの質問コーナーでは,私が今習っているピアノにとても使えるなと思いま した。
11
)私も好きなことを楽しんでやって,一生嫌いにならないようにしたい。もっと好きな ことを増やして,しあわせな将来で神谷衣理那さんのようにすごい選手や人になりた い。
12
)苦手なことも毎日の積み重ねで克服できるし,練習でも前向きにやれば楽しくなる。
13
)トレーニングがどれだけ辛くとも,頑張ってその壁を乗り越えていてすごいと思いま した。私もつらいけいこも頑張ってやって,大会で花が咲くようにしたいです。
14
)スポーツ選手はつらいことが多いのに,それをがまんできるかどうかで自分の人生が
変わるのではないかと思いました。人生の一つ一つが大切で,苦労したことを自分で意識出来たら最高なのではないかと思いました。
15