一
、 は じ め に 二
、 事 業 承 継 と の 関 係 に お け る 遺 留 分 権 の 弱 化 1
. 遺 留 分 権 利 者 の 配 慮 義 務 2
. ド イ ツ 民 法 二 三 三 一 a 条 の 解 釈 論 お よ び 改 正 論 3
. 遺 留 分 額 の 算 定 方 法 4
. 小 括 三
、 遺 留 分 権 の 正 当 化 根 拠 1
. 遺 留 分 の 機 能 論 2
. 基 本 法 上 の 遺 留 分 権 の 位 置 づ け 3
. 連 邦 憲 法 裁 判 所 二
〇
〇 五 年 四 月 一 九 日 決 定 4
. 連 邦 憲 法 裁 判 所 二
〇
〇 五 年 四 月 一 九 日 決 定 後 の 遺 留 分 権 論 5
. 小 括
五 八 三
(
) 一
事 業 承 継 の 妨 害 を 正 当 化 す る 遺 留 分 権 の 根 拠
─
─ ド イ ツ の 遺 留 分 権 論 を 参 考 に
─
─
青 竹
美 佳
四
、 わ が 国 の 遺 留 分 権 論 1
. 事 業 承 継 と 遺 留 分 を め ぐ る 議 論 状 況 2
. 遺 留 分 権 の 正 当 化 根 拠 3
. 小 括 五
、 お わ り に
一
、 は じ め に 遺留 分は
、遺 言に よっ ても 奪う こと ので きな い家 族の 最低 限の 相続 分で ある こと から
、被 相続 人の 遺言 する 権利 を制 限 す るも のと 捉え るこ とが でき
しか し、 近年
、遺 留分 は、 遺言 する 権利 を制 限す るの みな らず
、被 相続 人が 営む 事業 の 承 継を 妨害 する もの と捉 えら れる よう にな って き
こ のこ とは
、と りわ け、 事業 と個 人の 所有 が分 離し てい ない こと の 多 い、 中小 企業 にお ける 事業 承継 の場 面で 妥当 する
。そ こで は、 経営 者が
、後 継者 に、 株式 およ び事 業用 の資 産を 集中 し て 遺贈 した 場合 に、 他の 相続 人が 遺留 分権 を行 使す ると
、株 式や 事業 用の 資産 が分 散し
、事 業の 承継 に支 障を きた すと い う 問題 があ る。 この よう な問 題を 一定 程度 解決 する のが
、二
〇〇 八年 に成 立し た、 中小 企業 にお ける 経営 の承 継の 円滑 化 に 関す る法 律( 以下
、経 営承 継円 滑法 と略 記す る) であ る。 同法 によ り、 中小 企業 の代 表者 の死 亡に 伴う 遺留 分の うち
、 後 継者 が取 得し た株 式等 を算 定す るに 際し て、 推定 相続 人全 員の 合意 によ り、 後継 者の 取得 した 株式 等を
、遺 留分 額算 定 の 基礎 とな る 財産 に算 入 しな い とす る特 例 が認 めら れ るこ とと な った
( 経営 承 継円 滑法 四 条)
。 こ れは
、 被 相続 人が 営 む 事 業の 承継 を、 遺留 分か ら守 ろう とす る試 みで あり
、事 業の 承継 を遺 留分 が妨 害す ると いう 問題 意識 の高 まり を示 す。 事 業 の承 継を 遺留 分か ら守 ろう とす る立 法的 対策 の背 景に は、 国民 経済 上の 利益 を保 護し よう とす る考 えが ある
。す なわ ち、
( 1
る)
。
( 2
た)
。
<
論 説
>
修 道 法 学 三 三 巻 二 号
五 八 四
(
) 二
中小 企業 は国 内企 業数 の九 割を 占め
、雇 用 の七 割 を支 える とと もに
、独 自に 高 度な 技術 を有 し
、取 引先 で ある 大企 業に と っ て も不 可欠 な存 在に なっ てい
した がっ て、 中小 企業 の事 業承 継が 遺留 分に よっ て妨 害さ れる こと は、 地域 経済 およ び 国 民経 済の 発展 や雇 用確 保と いう 観点 から は、 深刻 な問 題で ある
。そ こで
、事 業の 承継 を遺 留分 から 守る こと が重 要と な る
。 遺留 分が 事業 承継 を妨 害す る問 題は
、と くに 近年
、遺 留分 制度 の機 能が 変化 し、 その 存在 意義 が問 われ てい るだ けに
、 い っそ う深 刻な 問題 とな る。 事業 の承 継を 保護 する 傾向 とは 対照 的に
、遺 留分 に関 して は、 その 存在 意義 につ いて 再検 討 を 加え る研 究が 盛ん に行 われ てい るの であ
とり わけ
、学 説に おい て遺 留分 の機 能の 一つ とさ れて いる
、被 相続 人の 子 の 生活 を保 障す る機 能は
、疑 われ るよ うに なっ てい る。 たと えば
、高 齢社 会で は、 親が 死亡 した 時に は、 子は 既に 独立 し た生 活を 送 って い る場 合が 多 く、 子の 遺留 分に 関 して は
、も はや 生 活保 障は 遺 留分 の機 能と は捉 えに くい との 指摘 があ こ のよ うに
、遺 留分 の存 在意 義が 問い 直さ れて いる 状況 下で は、 その よう な遺 留分 によ って 事業 を妨 害す るこ とが はた し て 正当 化で きる かど うか が問 題と なら ざる をえ ない
。こ こで は、 その よう な観 点か ら、 遺留 分の 機能 の変 化を 踏ま えた 遺 留 分制 度の 新た な基 礎づ けを 検討 する こと が避 けら れな いの であ る。 以上 のよ うな 問題 につ いて 検討 する 手が かり とし て、 本稿 では
、ド イツ の遺 留分 制度 をめ ぐる 議論 を取 り上 げる こと と す る。 ドイ ツで も、 遺留 分の 機能 の変 化が 指摘 され
、遺 留分 制度 の存 在意 義を 再検 討し
、遺 留分 の基 礎づ けを 試み る研 究 が 盛ん であ
とく に、 遺留 分を 基本 法上 基礎 づけ る試 みが ある こと
、事 業承 継を 遺留 分が 妨害 する とい う認 識が
、日 本 に おけ る認 識と 比べ て、 早く から 一般 化し てい るの が特 徴的 であ る。 遺留 分を 基本 法上 基礎 づけ る試 みか らは
、一 方で
、 遺 言の 自由 は、 基本 法上 明ら かな 保障 を受 け、 他方 で、 遺言 の自 由を 制限 する 遺留 分は
、基 本法 上保 障さ れる こと が明 ら
( 3
る)
。
( 4
る)
。
( 5
る)
。
( 6
る)
。 事
業 承 継 の 妨 害 を 正 当 化 す る 遺 留 分 権 の 根 拠
( 青 竹
)
五 八 五
(
) 三
か とは いえ ず、 新た な基 礎づ けが 必要 であ ると いう 状況 をみ るこ とが でき この よう な状 況の 中、 連邦 憲法 裁判 所は
、二
〇〇 五年 四月 一九 日の 決定 にお いて
、遺 留分 が、 基本 法上 保障 され ると の 立 場を 明ら かに し
連 邦憲 法裁 判所 が、 遺留 分の 基本 法上 の基 礎づ けを 明ら かに した こと が一 つの 契機 とな り、 遺留 分 の 基礎 づけ を検 討す る議 論が 新た な展 開を みせ てい る。 議論 の展 開を 示す もの とし て、 二〇
〇六 年一 一月 三〇 日か ら同 年 一 二月 二日 まで キー ルで 開催 され たシ ンポ ジウ ムが ある
。同 シン ポジ ウム は、 遺留 分法 改正 をテ ーマ とし
、研 究者
、公 証 人
、司 法省 代表 者な どの メン バー によ って 構成 され
、改 正の 社会 経済 上の 効果 およ び正 当性 につ いて の歴 史的
・理 論的 な 考 察、 事 業 承継 と遺 留分 の 関係
、 遺 留分 の正 当 性な どが 議論 さ れ
そ の 後、 ド イツ 連 邦政 府は
、「 相続 法 およ び消 滅 時 効 法の 改正 に 関す る法 律草 案
」 を公 表し
(二
〇〇 八年 一 月三
〇
、 諸委 員 会に よる 検討 を 経て
、 同法 は
、 二〇
〇九 年 九 月 一八 日に 連邦 参議 院を 通過 し、 二〇 一〇 年一 月一 日に 施行 され
これ によ って 遺留 分に 関す る規 定は
、根 本的 に改 正 さ れた とい うわ けで はな いが
、現 在の 社会 状況 や法 的状 況に 対応 させ た形 で、 遺留 分の 対象 とな る財 産の 範囲 や遺 留分 剥 奪 事由 に つい ての 規 定が 改正 さ れ
事 業承 継 との 関 係で は、 後 述 する よう に
( 二参 照)
、 ド イ ツ民 法二 三 三一 a条 の 改 正 が重 要で ある
。同 条は
、遺 留分 の支 払猶 予を 認め る規 定で ある が、 二〇 一〇 年の 改正 で猶 予の 要件 が緩 和さ れた ため
、 事 業承 継が 遺留 分に よっ て妨 害さ れる のを 防ぐ 可能 性が 広が った
。 この よう な、 遺留 分が 事業 承継 を妨 害す ると いう 問題 意識 と遺 留分 の存 在意 義へ の疑 い、 そし て、 遺留 分の 基本 法上 の 基 礎づ けと 機能 を解 明し よう とす るド イツ の遺 留分 権論 にお ける 試み は、 わが 国で 新た な遺 留分 制度 の基 礎づ けを 考え る 上 で参 考に なる
。わ が国 でも 近年
、事 業承 継が 遺留 分を 妨害 する こと が認 識さ れる よう にな って いる こと
、遺 留分 の機 能 が 変化 した こと に伴 い、 遺留 分の 存在 意義 が疑 われ る状 況に ある こと は、 ドイ ツの 遺留 分権 の議 論状 況と 同様 であ る。 し
( 7
る)
。
( 8
た)
。
( 9
た)
。
(
)
日10
)
(
)
た11
。
(
)
た12
。
<
論 説
>
修 道 法 学 三 三 巻 二 号
五 八 六
(
) 四
か し、 わが 国の 遺留 分権 論に おい ては
、遺 留分 によ る事 業承 継の 妨害 がな ぜ正 当化 され るの か、 ある いは
、事 業承 継を 保 護 する ため に遺 留分 を弱 化さ せる こと がな ぜ正 当化 され るの かに つい て、 考え る理 論的 基盤 が十 分に 形成 され てい ると は い えな い。 つま り、 遺留 分権 の根 拠や 機能 が十 分に 明ら かに なら ない まま
、社 会の 要請 に応 じて
、事 業承 継と の関 係で
、 遺 留分 を弱 化さ せる 立法 や議 論が 行わ れて いる とい う状 況で ある
。こ のよ うな 状況 で、 わが 国と 同様 の問 題意 識を 出発 点 と して
、遺 留分 権の 基礎 づけ を試 みる ドイ ツの 遺留 分権 論は
、今 後の わが 国に おけ る遺 留分 法の 解釈 およ び立 法の 在り 方 を 考え る上 で参 考に なる もの と思 われ る。 そこ で本 稿で は、 ドイ ツの 遺留 分権 論を 紹介 し、 分析 を加 える こと によ り、 事業 承継 の妨 害を 正当 化す る遺 留分 権の 根 拠 の解 明を 試み るこ とと する
。以 下で は、 まず
、事 業承 継と 遺留 分に つい ての ドイ ツの 議論 を紹 介し
、遺 留分 が、 いか に 事 業承 継を 妨害 する もの と捉 えら れ、 どの よう にそ れを 阻止 しよ うと して きた かを 紹介 し、 事業 承継 との 関係 では 遺留 分 が 弱体 化さ れて いる こと を示 す。 次に
、遺 留分 の基 礎づ けに つい ての 議論 につ いて
、と くに 連邦 憲法 裁判 所二
〇〇 五年 決 定 に重 点を 置い て紹 介し
、事 業承 継と の関 係で の遺 留分 の弱 化と いう 状況 にあ って
、遺 留分 をど のよ うに 理論 的に 正当 化 し てき たの かと いう こと を示 す。 さい ごに
、わ が国 の遺 留分 権論 を紹 介し
、ド イツ 法に おけ る遺 留分 権論 を参 考に しな が ら
、わ が国 にお いて
、事 業承 継の 妨害 を正 当化 する 遺留 分権 の根 拠に つい ての 現段 階で の若 干の 私見 と今 後の 検討 の方 向 性 を示 すこ とに する
。
( 1
) 中 川 善 之 助
・ 泉 久 雄
『 相 続 法
( 第 四 版
)』
( 有 斐 閣
・ 二
〇
〇
〇 年
) 六 四 六 頁
、 伊 藤 昌 司
『 相 続 法
』( 有 斐 閣
・ 二
〇
〇 二 年
) 三 六 三 頁
。も っ と も
、 遺 言 と 遺 留 分 と の 対 立 の 捉 え 方 は 両 者 に お い て 全 く 異 な る
。中 川 教 授 は
、遺 言 の 自 由 を 個 人 主 義 的 に 解 し
、 遺 事 業 承 継 の 妨 害 を 正 当 化 す る 遺 留 分 権 の 根 拠
( 青 竹
)
五 八 七
(
) 五