アカデメイア
最近のオリンパスの不祥事についての雑感
法学部長 畠 田 公 明
1 はじめに
最近、日本の光学機器・電子機器メーカーである オリンパスがイギリス人社長を電撃的に解任したこ とや、イギリスの医療機器メーカーの会社を買収(M
&A)する際に投資助言会社に過大の報酬を支払っ
ていたことなどが話題になった。オリンパスといえ ば、内視鏡分野では世界シェアの大部分を占めるな ど、医療用の光学機器や顕微鏡分野では世界最大手 となっている。オリンパスの不祥事をニュースで聞 いたり新聞などを読んだりしたが、会社法の研究分 野においても典型的なものの1つとして興味深い。2 オリンパスの不祥事
オリンパスの不祥事が発覚して、オリンパスでは 弁護士と公認会計士から構成される第三者委員会が 設置された。この委員会による調査によって、オリ ンパスが1990年代以降、バブル期の投機性の高いデ リバティブ(金融派生商品)へ走ったが、バブル崩 壊によって金融商品の価格が急落し多額の含み損が 発生した。その損失を決算で計上せず先送りするた めに、外部のファンドなどに「飛ばし」(含み損を 抱えたままの実態よりも高い価格で一時的に売り渡 す方法)を行うことにより隠蔽が続けられ、上記の 買収の際の巨額の報酬などがその穴埋めに利用され たことが明らかとなった。結局、東京証券取引所で はオリンパスは監理銘柄に指定され、上場廃止とな る見込みである。
オリンパスは、光学機器・電子機器の製造という 本業により営業利益を増大させるということに専念 せずに、財テク、すなわち投機性の高いデリバティ ブに手を出して高収入を目指したが、当時の多くの 会社がそうであったように、バブル崩壊により多額 の損失を被った。しかも、経営者は、会社の株主や その他の利害関係者の利益のためでなく、自分らの
保身のため、その損失を巧妙に隠蔽した。
3 会社の目的
ところで、会社法の研究分野において、会社の目 的とは何か、会社は誰のものかということが理論的 に問題とされる。わが国でも、近時、会社の目的と して、とくに株主利益の最大化ということが取りあ げられることが多い。アメリカでは、株主中心の会 社 法 の 構 造 を し ば し ば 株 主 第 一(shareholder pri-
macy)主義と呼び、また、とくに取締役が株主の
最善の利益に合致する決定をすべき信任義務を負う ことは、株主第一規範(shareholder primacy norm)あ るいは株主の富の最大化の規範(shareholder wealthmaximization norm)と称される。このような考え方
を背景に、とりわけ1980年代に敵対的な企業買収 ブームが加熱して、多くの買収者が買収対象企業を 買収した後にこれを解体して売却すること(裁定取 引〔arbitrage〕)により裁定利益のみを目指す事態 に至り、地域において当該企業が消失し、大量の失 業者が出て、その地域が疲弊してしまうことが問題 とされるようになった。日本においても、第二次世界大戦前の会社のなか には、アメリカのように、株主が自己の利益の最大 化を実現するものが多かったものと推測される。戦 前の企業は、会社の最高かつ万能の決定機関である 株主総会制度のもとで、獲得した利益の大部分を、
利益の多寡に応じて直ちに配当し、経営者に対する インセンティブ・システム(役員賞与)も、株主の 利益に合致するように設計されていた。大正5年当 時、会社の従業員の知らない間に、会社の株式が大 量に移動する度毎に経営首脳者が変わり、方針が一 向に定まらなく、また、株主の権力が絶大で、経営 首脳者は会社の基礎をよくすることよりも株主の歓 心を得るために、高率の配当をして株の値上がりを
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ねらっており、支配人は会社の業績の良否よりも株 価の上下に心を使うありさまであったとの指摘がな されていた。また、昭和5年当時、会社経営の腐敗 堕落が厳しく批判され、事業経営の態度がその場主 義で、いわゆる事業百年の繁栄を目標としていない こと、企業財政の乱脈、不正決算・蛸配当の横行、
事業道徳が消磨して反生産的な虚業的事業経営が平 然と許されていること、重役の著しい無能・腐敗・
不正等のために事業の多くが食い物にされているこ と、その場主義の大株主の横暴と高配当および多額 の重役賞与による事業基礎の衰弱などが指摘されて いた。このような当時の指摘や問題点については、
最近の企業不祥事をみていると、現在の日本でも同 じようなことがいえるのであり、何時の時代でも人 間の本質は変わらないとか、進歩がないとかいわれ ても仕方がないのではないかと感じる。
近時のアメリカの多数の州では、会社の取締役が その義務を履行する際に、株主以外の利害関係者(従 業員・顧客・供給者・地域社会等)の利益を考慮す ることを認める利害関係者制定法(constituency stat-
utes)が定められており、従来の伝統的な株主第一
規範の考えが修正されてきている。日本においても、著名な八幡製鉄政治献金事件の最高裁判決(最大判 昭和45年6月24日民 集24巻6号625頁)以 後、企 業 の社会的責任(CSR)の議論が盛んに行われるように なり、日本経済団体連合(経団連)の企業行動憲章 にもその精神が明記されている。
4 結び
会社の経営者は、会社の利益、いいかえれば企業 価値を最大化する義務を負うものであって、株主や 経営者自身のためだけでなく、その他の多くの利害 関係者のためにも企業価値の確保・向上をさせるよ うにしなければならないと考えられる。このような 企業価値の向上は、財テクに走って利ざやを稼ぐこ とではなく、本業により営業利益を増大させるとい うことに専念することによるべきものである。この ような本業に専念することが、企業の存在意義であ り、かつ社会的責任を果たし社会貢献に繋がるもの と考える。このことは、会社以外の組織・団体にも 共通するものであると考える。以上のようなことが、
最近の企業不祥事をめぐる私の雑感である。
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