金融自由化と家計財務に関する一考察
内田滋
Abstract
In this article we examine some possible impacts on household finan- cial management by development of deregulation policy toward Japanese financial services industries. Households could somewhat be expected to introduce a quasi-corporate financial management measures to adjust their inherent financial management features in order to establish their own methods. With appropriate promotion of disclosure of corporate and financial imformation even households are gradually about to take and/or cope with the responsibility for their decision-making in financial behavior such as portfolio and asset-liability management with covering transaction cost and paying certain attention to the total assurance of life-long planning.
Keywords: Financial deregulation, household decision-making, finan- cial management
I 金融自由化と家計 t.金融自由化の進展
近年,家計をとりまく経済的環境,特に金融環境における諸変化には著し
いものがある。なかでも,今次不況対策に深くかかわりのある金融改革より
先んじて,1980年代から始められ90年代末には拡充されていわゆる日本版ビ
ッグバンとなった金融自由化の進展がその1つである。これが家計部門ない
し個々の家計に及ぼす影響については,日本版金融サービス法等を含む制度 整備を促すと共に,今後ますます広範な領域にわたって大きくなっていくこ
とが予想されている。
その動きのなかで,主要金融機関をはじめ金融部門の経済活動を担う金融 業および関連する産業に属する企業や非金融部門における企業の金融子会社 などのほか,一般の事業会社や政府・公企業,個人・家計などの経済主体が さまざまな金融サービス需給をめ
hぐって活動している。それらの各主体は,
それぞれの活動を通じて自由化の進展と大なり小なり何らかの関係を有して いる。
金融業務の営業主体は,たとえば金融仲介機関の 1 つである銀行といった 企業などが中心であるが,ある特定の金融業務を事業として行なう企業まで 含めれば多数種類の産業区分に分類が可能となる。ただ,金融自由化の進展 を担うのは,もとより,これらの産業に属するのみでもなければ,主要な金 融市場においてつねに大規模な取引高を有する企業だけでもないのは明らか である1)。
地域ないし国全体における,たとえば資金の出し手と取り手の行動や資金 の流れ・需給調整などについては,政府の行動をも含めてこれらに関する主 体と主体聞のつながり自体(取引様式やそのあり方など)やその場・枠組み のあり方(金融市場・制度など)にこそ大きく依存するものである。
そこでは,すでに内田 ( 2 0 0 0 ,2 0 0 1)において考察したように,主たる貯 蓄主体としての家計部門の果たす役割にはきわめて大きなものがある。これ に関係する取引相手ならびに取引内容と自由化にともなう変化などは,少子 高齢化時代における家計の行動様式ないしライフ・スタイルの多様化とも独 立ではありえないばかりか,供給サイドのイノベーションと需要サイドの ニーズの多様化から,むしろ密接に関係が強まる傾向にあることがうかがえ る 2 ) 。
もとより,制度上の違いによるところは考慮するにせよ,米国金融改革の
進展における小口預金者への金融サービスの供給問題などでもみられるよう に,金融サービス(商品)の開発と販売から金融機関の経営効率,ひいては 金融部門の産業や企業に対する行政指導や金融政策の方針とその内容等につ いて考えるときには,利用者の便益問題を含む需要サイドの実態ないし諸特 性への配慮とこれにもとづくいくつかのトピックスが指摘される。
これには,たとえば,ある金融商品に対する需要の利子弾力性の大きさ,
すなわち感応度やその速さの程度などが代表的な項目の一部として議論され るものとなる。また,消費者意識などとの関連で社会的にとり上げられたり,
中小企業などの法人や個人・家計に対する各種ローンや金融サービスをめぐ る需給状況や制度改革への論点などについてレポートされたりしてきた。
それは,たとえば預金とその利子について市場性金利への移行が約 1 0 年か けて行われたように,家計にとって身近なところにおいても十分に直接把握 したり観察するニとができる状況となっている。
家計が参加可能な金融市場についてもーこれを資金市場ならびに証券市 場と区分して「商品一市場」分野の多様化をみる場合一,従来に比べては るかに規模が大きくなると同時に新しく多様な市場種類として数えられるも のが,金融商品の開発・販売の進展とも相まって登場してきている。 IT
(情報通信技術)化ないしインターネット活用にもとづく金融商品・サービ スとその取引をめぐる R&D (研究・開発)とその実用化や,流通業ほかに よる限定的領域ではあるが銀行業への新規参入などの進展がみられるように なった。
このような金融自由化の動きは,金融の国際化ないしグローバル化ともか らんだものであり,わが国に固有の要因にもとづくものによるばかりでなく 欧米諸先進国における国際金融面からの波及効果や相互依存関係にもとづく
ものも少なくない 3 ) 。
家計や個人が,直接にこのような国際的側面に触れる機会は,海外旅行や
個人輸出入などを別とすれば外貨預金や外債購入などで,必ずしも多いもの
ではなかったが,近時,いわゆる日本版ビッグパンにより,その機会が直接 にも間接にもいっそう増大しつつある。
このように,家計部門やこれと関係する取引面の観点にもとづいて金融自 由化とその進展を考えてみることは,単に家計の便益水準を考えることだけ でなく,金融機関をはじめとして関連する企業の行動や組織,あるいは金融 市場とそのあり方に対しでも少なからぬ有意味な情報を検討することにつな がることになる。
2 . 金融サービスと供給サイド
銀行など金融機関である企業の市場行動には,すでに観察されてきたよう な内外における競争拡大に対応したコミュニティ・バンキングやユニバーサ ル・バンキングなどの地域ないし国際的な領域と事業ドメインに関するマー ケティング戦略から商品開発・販売をはじめ経営体質の強化などにいたるさ まざまな経営管理面での競争戦略が企画され意思決定の上,実行されること になる。
しかるに,もし倒産や吸収合併などによって市場退出(ないしは消滅)す るならば,その影響が家計におよぶ場合には,ペイオフ制のあり方や預金保 険制度などの社会的セーフテイネット問題等とも関連するが,ある程度にお ける家計の負担は市場参加リスクとしての取引コストという意識で分担する ことが求められるようになってきた 4 ) 。
個人ないし家計における財務管理のあり方としても,金融自由化のいっそ うの進展においては最終的な期末決算への責任が,少なくともあるレベルま では自己にあるという責任負担の原則なる意識をもつことが求められてくる のである。
従来,わが国の金融部門における諸産業では,行政指導などを含む公的お
よび私的規制が他と比較して色濃く,とくに銀行業ではいわゆる護送船団方
式といった特徴もみられた。これには,戦後におけるわが国金融構造の環境
条件からする,たとえば鈴木(1 9 7 4 ) にも指摘されている人為的低金利政策 をはじめとした政策的枠組みないしそこでの主要政策項目とも関係してい る 。
戦前・戦中期における銀行倒産をはじめとする金融機関の経営問題が産業
・経済・社会に及ぼした影響には,当時の外部環境要因とも相まって信用不 安や秩序崩壊にもつながるものであったことなどにより,少なくとも金融部 門とその活動の関連においては信用・秩序の維持が政策運営上の主要な前提 条件の 1っとして合意(コンセンサス)を得るにいたったものと考えられる。
もとより,金融仲介機関とりわけわが国の銀行業という産業およびこれに 属する企業としての銀行には,預金の受入(預金業務・受信業務)と貸付・
融資(貸出業務・与信業務)にもとづく信用創造機能や,振込・送金などの 振替業務,債権・債務の相殺等ならびに内外国為替業務,国際関連業務等と いった決済機能や信用仲介機能などがある。
しかも,取引相手としては,ほとんどの産業や政府・自治体・家計部門に 及んでいるから,ある意味では経済における中枢的基幹産業としての役割を 担っている。
したがって,そこでの経営における健全性や効率性は,直接に当該産業に おける産業組織面での経済成果に関係するだけでなく,重要な間接効果を他 部門・産業におよぼすところとなってくる。その意味では,少なくともある 分野・水準における公的規制やガイダンスには十分な存在理由が付与されね ばならないものである。
このような市場原理にもとづく経済主体の諸活動に関する公的規制は,必
要とされる程度における信用秩序を確保し維持するのに有効かっ不可欠のも
のにとどめるのが市場経済への基本的政策スタンスであるといってよい。た
だ,そこでは,将来をも視野に入れた長期的観点から,いかなる分野・領域
において,いかほどのレベルで,どのようなタイプの信用秩序といったもの
を許容し目標とするのか,さらには,現実的な政策運営上の割当て問題
( P o l i c y A s s i g n m e n t )や規制緩和プログラム(実施計画)とその期間などをい かに設定し対応するのか等の問題に対する国民経済的視点からの合意形成が 求められることになる。
3 . 効率と公正
信用秩序の維持については,市場における制度的枠組みの一部を構成する 重要なポイントであることは肯けるが,他にも,市場における資金ないし資 源の配分に関する効率と,取引活動を中心とした経済社会における公正など
との整合性も見逃せない。
すなわち,独占ないし寡占といった市場競争状態のある一定水準をこえる 不完全性を市場構造の面から排除し,また,不公正な取引などを市場行動面 からなくしていこうとするものなどである。
( 1 ) 金融市場の効率
効率問題については,通常のミクロ経済学のテキストに述べられていると おりであるが,金融市場にあっては資金 ( m o n e ya n d / o r money e q u i v a l e n t )を
して資源と読みかえれば,その配分における効率問題となる。ただ,実際に は,狭義の金融・証券市場においても,多種多数の商品一市場が存在して取 引や需給調整が行なわれているから,いわゆる貨幣や準貨幣をはじめとして 株式・債券を含むさまざまな金融商品・資産の形態において現出されたいわ ば金融資源ともいうべきものの配分に関する効率水準を問うことにほからな
らない。
市場効率については,価格形成に関する公的規制の経済効果として,たと
えば消費者余剰と生産者余剰の和の存在とその大きさなど産業組織とそのあ
り方に関するものとなる 5 ) 。そして,金融部門に関する規制には,預金利子
や貸出利子,振込・送金における手数料といった価格面だけで、なく,いわゆ
る垣根・業際問題や(異業種からのを含む)新規設立・合併等を含む参入・
退出に関するもの,庖舗設置・広告宣伝など業務活動面,さらには配当・融 資・株式保有・財務指標などにわたる財務面に関するガイダンスや規制があ げられる。
もとより,それらには,経営の健全性や金融政策の有効性などの見地によ るところのものが少なくない。そして,戦後における金融環境やその後の金 融構造ないし 7 0 年代初めまでの経済成長などからすれば相応の評価が与えら れるであろうの。
しかるに,バブル経済の崩壊に伴なう長期の今次不況下でも,国際金融市 場や外国金融機関・投資家の動向をはじめとして内外における金融経済面の 環境変化は,日本型産業政策や日本的経営の方向性を検討させながら,わが 国においても公的規制の緩和にもとづく金融自由化の進展を促す方向に作用
してきた。
そこでは,市場原理にもとづく(自由)競争効果が,需給実勢を反映した 市場価格形成や自由度の高い市場参入・退出等を通じて,市場における資源 配分効率を実質的にも高めていくことが期待されている。
金融部門にあっては,従来から規制産業としての性格が強かったがために,
第 2 次産業部門の製造・工業などにおけるように自由な価格メカニズムにも とづく市場競争が見られず,きわめて限定された範囲において,実効金利や 過当競争の存在とも呼べるようなケースをも含めて行なわれてきた,いわゆ
る規制下での市場競争行動であった。
昨今におけるように不良債権処理から業界再編成までの諸問題をかかえ て,銀行業や証券業,保険業など金融部門に属する産業と企業にとっては,
一層の実質的市場競争の拡大とその水準向上に取り組まねばならない状況に ある。
したがって,そのような金融部門企業による競争行動が,将来的にある l
つの結果として市場構造であるレベル以上の不完全競争状態をもたらしたり
拡大させたりするような場合には,市場における適正な競争水準をチェック
してその維持をはかるように適切な競争政策の運営が市場制度の枠組みの一 環として実施されることが不可欠となる。
( 2 ) 企業内部組織の効率
さらに,いま lつ指摘される効率問題としては,企業としての個別金融機 関における X 一非効率の低減すなわち内部組織効率の改善問題があり,経営 者をはじめすべての内部関係者またはステーク・ホルダーが関わるところと なる。
これは,市場競争に対応する企業としての内部スラックの排除ないし企業 経営における生産コストの低減を通じて行なわれ,その結果として企業(の 組織)効率の向上に結びついてくるものであり,公的資金投入をめぐる銀行 経営のモラル・ハザード問題とも関係するものである。
したがって,先の意味における市場効率の増大は,このような市場競争に 適応しそこでの活動を維持しうる企業(群)とその行動によってもたらされ るものともいえるのである 7 ) 。
( 3 ) 公 正
経済活動に関してふれるべき重要な基準としては,さらに「公正」に関す る問題がある。これは,たとえば独占禁止法においてみられるような市場支 配ないしあるレベル以上の独占力や市場競争の制限といった状態,これに関 係する企業行動・取引様式やその強要・行使などがあげられる。
一時,欧米をはじめとして,わが国においても喚起されたように,金融市 場における取引について,たとえばインサイダー取引などにみられる情報の 非対称性にもとづく不公正取引の排除などが指摘される。
とりわけ,内部者ないしその取引相手などの関係者が得る内部情報とその
評価・判断・利用については,主観的なものや市場価値にもとづく評価も含
めて,それが起因でもたらしうる諸効果には市場経済の公正性に反しこれを
損なうものであるとみなされるケースが少なくない。
このような不公正取引の排除についても,適正かっ効果的な独占禁止法の 運用とそのあり方の検討によって,市場原理にもとづく経済活動が円滑に営 まれることが金融自由化における留意点の lつとなっている。
そしてまた,後節でもふれるように,個別経営体としては規模も小さく構 成メンバーも少ない家計が,企業などと比較されるとき,いわば情報収集力 をはじめ市場影響力などさまざまな面において劣位にあることは否めないと ころである。このため,個別家計ないしは家計部門全体に対して公共的見地 から,市場参加をはじめとする家計活動への適切な政策的取扱いないし配慮、
が求められることも今 1 つの留意点となるものであり,ベーシック(ないし ライフライン)バンキングへの対応や郵貯民営化問題を含む金融機関立地な どの諸論点にも関連しうるものである 8 ) 。
E 家計財務と取引コス卜
1.家計と計画 ( 1 ) 家計と自己責任
家計の市場参加におけるリスク負担については,本来,民間企業部門に求 められていたところの自己責任に対する意識の変化ないし行動基準の拡張と いう形で,今後の自由化の進展にともなって,金融機関や企業におけるディ スクロージャーの拡充とあわせて一層重要なポイントとなる 9 ) 。
それは,たとえば家計の資産選択(ポートフォリオ・セレクション)にお
いて,高い収益が期待されうるが場合によっては結果としての状態で大きな
損失も可能になるといういわゆるハイリスク・ハイリターンのケースをロー
リスク・ローリターンのケースなどよりも好むという危険愛好的態度を示す
ようなときでも,そのような選択行動がその結果における状態への自己責任
負担として包括するものとなることを意味している。
一般には,家計が示すであろう危険に対する態度としては,②危険回避,
⑥危険中立,@危険愛好といったタイプのうち基本的には②が妥当とみなさ れている 1 0 ) 。そして,利潤やその追求に目標づけられる派生的経営体として の企業の場合はともかく,本源的経営体である家計においてもし④以外のタ イプが示されるとすれば,それをきわめて例外的な家計であるとみなすか,
一時的なものとして実際にいま少し観察するのが妥当なところといえよう。
後者であれば,その家計の属性としてはどのようなものがあり,いかなる 階層・地域・構成メンバ一等々における特徴がほかと比較して見出される か,あるいは,そのような危険に対する選好ないし態度がその家計のすべて の資産選択時に存在しうるのか,期間についてはどうか,態度決定要因は何 か,資産選択以外の家計行動との関連はどうか…等々の調査項目があげられ るであろう。
ただ,ある現実的な解釈の lっとして,通常の②に属する家計にあっても,
たとえば目標純貯蓄高 1 1 ) を超える余剰資金が生じた場合の運用方法において はその一部分をして@のようなケースに配分させることもよくあることとい ってよい 1 2 ) 。そのような場合には,いかなる要因がどのような条件のときに どの程度の範囲内で行なわれるのかを中心に先と同様の観察・調査を試みる ことができょう。
( 2 ) 家計と経営計画
家計という経営体も,経営学や企業経済論のテキストにおける企業と多少 なりとも類似して,それぞれの経営期間ごとに内部および外部環境要因の示 す状況を,目標達成に向けた行動体系を意思決定する参考情報として利用し 適宜修正作業を行なっている。そこでは,目標そのものがかならずしも不変 であるとはかぎらず,行動様式や方法についても短期にはともかく長期では 十分に可変的でありうるものと考えられる 1 3 ) 。
ただし,このことは,それらの可変性ゆえに長期的にみて,結果的に得ら
れる目標達成度ないし純便益といったものが不変性にもとづくケースよりも 常に大きくなることを必ずしも意味するものではない。というのも,目標自 体の変更がある時点に生じると,その遂行のために選択されてきた合目的的 行動の体系やそれに属する行動様式などにおいてもなんらかの変化をともな うことが考えられ,しかもその行動体系が十分に機能を発揮するまでの初期 段階におけるいくばくかの習熟効果形成コストといったものを排除すること は必ずしも容易ではないからである。
なお,変更後の新しい目標を当初から設定していた場合に,変更時点まで の期間においてもたらされていたであろう成果の累計ないし蓄積について は,単にそれを得べかりしものとしての評価を与えることには若干の異論が 存在する。すなわち,家計という経営体が行なう変更は,その時点において 主体的に最適と考える意思決定をすることによって生じてくるものと解釈で きるからである 1 4 ) 。そして,それぞれの毎期首時点における行動計画作成や 見直しの作業には,主体的意思内容や内部および外部環境条件などの検討に
もとづいた意思決定が反映されているものとみなされる。
家計財務についても,基本的にはおおむね同様のことがあてはまるものと 考えられるが,意思決定レベルでヨリ上位にある家計としての長期経営計画 に依存するところとなる。そこで示される目標に沿う形で長期および短期財 務計画が整合的に策定されるから,家計における財務行動についても,この 計画が許容する範囲内で先の議論に準じた変更行為を含む意思決定にもとづ いて計画の実行が進捗していくことになる。
ただ,ヨリ下位にあるほど変更行為が経営体全体におよぼす影響度には相 対的に小さいケースが少なくない。これは,財務行動やその内容項目の個別 案件・プロジェクトについても,家計の危険に対する態度がリスク・アパー ター(危険回避者)としてのものであるほど,あてはまることになろう。
実際, 日本版4 0 1k の導入をはじめ公・私的年金制度の改革や,平成不況
の長期化と失業率の上昇など,家計の収支計画に影響を及ぼすところの諸要
因の動向にも配慮する形で,家計財務に関係する諸計画の検討が行なわれな ければならないのである。
2 . 家計の財務行動と取引コスト ( 1 ) 家計と情報管理
家計の財務行動は,家計という経営体の主体的意思・目標にもとづいて計 画され実行されるものであるが,その各領域・レベルにおける個別案件等の 意思決定には家計内部や外部環境の諸要因の動向にも依存するところが少な
くない。
たとえば,自他における家計可処分所得の水準や,平均純貯蓄高をはじめ 生活経済から景気循環や国際金融市場の動向にいたるまでのさまざまな関連 情報も,諸要因ないし変数の推移・変動に対する家計リスク・マネジメント での判断ないし意思決定プロセスにおける正確さをもたらすために有用とな るものである。
とりわけ,内外における資金・証券市場の動きには,いわば 2 4 時間体制と もいうべき不断の情報収集とそれにもとづく素早くかっ適切な反応などが市 場参加者に求められるようになってきた。しかも, 1 T化の進展における技 術革新は,国際化ないし地球規模でのグローバル・ネットワーク化をいっそ う促進させて,さまざまな分野における最新の情報が諸種の媒体(メディア) を通じてヨリ速やかにヨリ低価格(したがって低費用)で流通し利用できる ようになりつつある。
そこでは,基礎的ないし汎用的技術成果を金融・財務分野への応用を可能 にするような制度面での配慮と対応が,新しい産業の創生やマクロ的視野か らのソフト面の開発・整備のために行なわれることが期待される。
内外における金融市場とこれに関連した政治・経済‑社会情勢に関する多
種多様でさまざまな情報のなかから,家計がその行動に何が必要であるかと
いうことをも含めて,何を,どれだけ,いつ,どこから,どのように収集し
て利用すればよいのか,そして,その場合のコストについてはいかほどまで 許容されうるのか,などのポイントが現実に提起され対応されることになる。
したがって,家計が有する個別案件ないし財務行動全体における財務予算 制約を中心とした諸条件下で,期待される純利益ないし純便益が最大化され ることを可能とするような最適(と家計主体が判断する)財務計画への意思 決定がなされることになり,これにもとづいで情報管理とそのコスト(計画 値すなわち予算額)が設定される 1 5 ) 。
すなわち,家計がたとえばハードならびにソフト面での設備等の導入にお ける初期費用の大きさを長期および短期計画のなかでいかに位置づけようと も,事前的に計画上あるレベルでペイしなければ計画は策定されず練りなお されることになる。それは,キャプテン・システムやホーム・バンキングな どがかつて急速に普及するという状況にいたらなかった原因の一部としても 理解されよう。
( 2 ) 家計と取引コス卜
インターネット取引分をはじめとする情報管理に要する諸費用は,広い意 味における取引コストの一部分をなすものであるが,日常においても家計が 取引先の金融機関や金融部門諸企業にわざわざ出向いたり,勤めや買い物の 帰りに立ち寄ったりするのに使われる費用もアクセス・コストとして取引コ ストに含まれる。
金融サービスの需要者ないし購入者サイドにとって,アクセス・コストも 他の事情にして同じであれば小さい方が望ましいことは明らかである。しか も,金融機関とりわけ銀行業の場合,給与振込をはじめ公共料金の自動振込 や提携クレジット・カード利用など諸種の取引関係の有無と各種ローン・
レート(対家計貸出利子率)とが関連しており,いわば家計のメイン・パン ク化のもとに個人・家計部門への融資比率や取引高を増大させている。
このため,家計側からは,メイン・パンク設定すなわちいくつか複数の取
引先銀行を一本化することのメリットを調べたりする場合に,当面ないし将 来において需要するサービス内容や利便性とそれにもとづくアクセスなど諸 コストの算定とその評価いかんについても判断する作業をともなうことにな る 。
なお,このことに関連して,地域性における差異も,家計ごとに(家計タ イプに応じて)異なる影響をその財務行動に対して与えうることが考えられ る。しかし,金融工学や IT 化による技術革新と制度改革などにより,たと えば地方における金融サービ、スの利用可能性については,従来から存在した なんらかの地域に固有な特性にもとづくマイナス要因の大きさが十分克服さ れうるようになれば,地域性に関する事情は変わってくることになる。ただ,
そのような場合でも,情報コストやアクセス・コストの算定は不可欠である。
というのも,コスト面においても地域性に関する事情ーとくに取引におけ るアクセス・レベルなどーはヨリ一層変化することが考えられるからであ る 。
3 . 家計と市場競争
市場での革新動向は,金融サービスを生産・販売する供給者サイドにあっ ても競争条件の変化要因としてとらえることが可能である。実際,資金の出 し手としての貯蓄主体である家計の約半分近くは東京・大阪・名古屋の 3大 都市圏に住んでおり,残り半分が中核都市をも含めて地方に住んでいるわけ であるから地方における金融サービス需給をめぐって全国型あるいは総合 金融機関型企業から地域密着型あるいは専門・特化型金融機関企業にいたる 諸タイプの企業群による競争戦略がいっそう多様に展開されることになる。
金融の自由化において,このような点と関連するものの lつに,郵便貯金・
簡易保険・郵便年金といった総務省及び郵政事業庁が扱ういわば官業商品
と,金融庁の監督下にある金融機関企業が供給する民間商品との補完・競合
問題がある。かつて,景気循環や経済変動における諸政策運営の局面では,
たとえば金利操作における金利一元化問題などがみられたし,現在でも国民 経済的視点から官民事業の調整・分担ないし完全民営化等に関する議論が続 けられている 1 6 ) 。
そこでは,供給相手や商品機能・内容など主たる事業目的や活動内容につ いて,各階層・地域にわたる個人・家計部門の利用者・消費者・需要者とし ての意見・ニーズ・便益をも反映する形で検討されることが求められてい る 。
たとえば電子マネーや電子決済などと呼ばれるような電子・通信・機械技 術の利用による技術革新にもとづく新しい金融システムやその手段の登場 は,金融サービスへのアクセスビリティとそのための費用負担・便益比較,
類似近接商品との属性ないし機能や差別化の比較検討をはじめ,従来におけ る商品‑市場の分類や公的規則ないし関連する政策手段とその有効性の見直 しゃ再確認にいたる影響をも与えつつある。
商品開発・販売については,すでに内外の異業態や異業種における企業間 でいくつかの組合せ商品が売り出されているほか,流通業ほかの他産業から のナロー・バンキング等への参入や既存銀行等のインターネット取引の導入 も行なわれている。今後,規制緩和ないし自由化の進展状況に応じて新たな 組合せないし新規の機能や商品属性を有する金融商品が開発され販売される ことが予想される。同時に,その主体も,ノンバンク企業から非金融部門企 業の参入をも含めて一層さまざまな組合せが出現するものと考えられる。
金融商品の供給サイドでは,事業主体ないし企業としての経営戦略が長期 および短期の経営理念・方針とこれにもとづく経営計画において明示され,
基本的にはそれに沿う形で商品開発・販売ないし企業結合などが展開される ことになる。
個人・家計部門や地域経済・社会へのマーケティング・リサーチを中心と
するこれら企業などの供給側の活動もそこから出発しているとみなすことが
できる。マーケティング・マネジメントのテキストが示すように,要は需要
サイドにおける多様なニーズに関する情報収集とそれらに適合する商品性を 適切に備えかっ市場性を有するものへ加工・製作する,すなわち付加価値を つけることにほかならない。そして,そこでは,地域や家計部門とその活動 に関する情報蓄積が重要な戦略資源として評価されうると同時に,場合によ っては当該市場における参入障壁の一部をなすものとして把握されるのであ る 。
E 金融自由化と家計財務管理
1.家計財務管理
家計財務管理は,家計の自己経済内部において,いわゆる本源的活動に必 要な資源ないし財・サービスを外部経済から購入するために取引・交換され る決済手段としての貨幣等を準備・調達し,かっそれを記録して他の資産を も含めて管理することが主たる役割であった。
金融自由化の時代においては,今まで以上にそれが重要な位置を占めてく ることになる。そこでの方法や様式,領域などには多様化がみられ,かつて 8 0 年代に登場した地価上昇をはじめとする外部環境諸要因における変化,と りわけ証券化(セキュリタイゼーション)などによって実物資産と金融資産・
負債に関係する新たなタイプの商品から資産・負債等に関する管理技術, 9 0 年代に開発・販売されたものや近時 IT 化の進展に伴なうサービス商品,さ
らには他産業からの参入によるものまで多岐にわたっている。
それは,家計ないし家族のライフ・イベントにおける長期計画ゃあるいは それを含む生活設計の内容項目とも関連するものであって,なんらかのイベ ントの実施において必要となる資金に関してなされる予算管理にも少なから ず影響しうるところとなる。
企業における予算管理ないし財務管理と異なり,家計にあっては法制面で
も企業の場合ほど複雑で多岐にわたる制約や配慮を要する場合は比較的少な
い。しかし,たとえば租税制度面についてなど家計行動とその内容に対して 及ぼす影響度にはかならずしも小さなものばかりとはかぎらないロ
自由化とスケール・エコノミーズにもとづき,家計部門内部での所得格差 の拡大がありうべきものとするならば,周知のように所得把握の向上と租税 制度の見直しによる所得再分配政策も検討されることになろう。
この税制面での家計に対する取扱いのいかんによっては,たとえばパー ト・タイマーなどの付加的ないし裁量的労働供給による賃金稼得を通じてさ らに勤労所得を増やそうとしたり,年金収入に加わる賃金・利子・配当その 他所得の大きさを決定したりする場合などに,課税の家計行動に与える効果
としてはそれなりに大きなものが見込まれることも考えられる。
このため,家計財務管理における計画作成ならびに実行段階では,税制を はじめとして,関連する法律・制度面の改正・変更等にも必要に応じてチェ
ックし配慮することが望まれる17)。
金融自由化と効率・公正問題についてはすでにふれたが,家計部門の内部 および外部における金融取引・金融行動についても効率と公正という基準や それに関わる問題には大きな意味をもつものがある。
それは,たとえば家計部門内部における資本蓄積や資金活用が部門内部で なんらかの投資行動となっているような場合でも,そこでは,外部との一般 的な金融取引などと同様に効率や公正にもとづく行動内容の展開が考慮され ているものとみなすことができるからである 1 8 ) 。
2 . 家計信用と組織
家計が行なう市場などでの取引活動では,貨幣を中心とした支払・決済手 段が用いられるが,継続的取引により,特に同ーの取引相手とのケースをは じめとして,そこには信用の流れも付随して生じてくる。これは,取引当事 者の双方に関係するものであり,両者の取引における信頼関係を形成するう
えで重要な要因の 1 つとなるものである。
家計については,これは,とりわけ家計の財務状態と関係するものであり,
さらに家計信用情報は家計部門内外における取引の内容と条件(決済条件を 含む)などとも密接に関係してくることになる 1 9 ) 。従って,家計信用情報に 関する十分な自己管理を行うことが求められる。
情報の非対称性の問題は,家計信用に関する情報についてもあてはまるか ら継続的取引実績にもとづく顧客(としての家計)情報の蓄積は企業にと って単にマーケティング面でのデータとなるだけでなく,支払‑決済状況か ら得られる信用管理・審査業務や資金管理面にとっても利用可能なデータと なりうるものである。
これには,もし NGO や NPO を含むなんらかの家計部門内外における共 同利用方式での総合家計金融情報センターなる組織が形成され機能するよう にでもなれば,プライバシ一保護等の法制面における取扱いや情報内容・領 域・レベル等に関する合意ないし了解のもとに,家計部門における金融・経 済・暮らし等々の生活に関するさまざまな分野の多種多様な情報を分析する ことによってニーズの特定化が可能となろう。必要に応じて,それに対する いわば本源的生産活動を家計部門内部(の組織)で行なったり,外部組織な いし企業部門に対する開発・販売等供給面での共同事業関連のものを含む適 切な情報提供や対外活動の実施などが試みられるかもしれない。
もとより,そのようなスタイルが長期的にも短期的にもいかほどに効率面 での意味が見出されるか,あるいは,たとえば企業組織における場合と比較 してどの程度までの格差幅が許容されうるのか,また,公共部門ないしそれ との共同事業方式についてはどうであるかなどの問題がただちに提起される であろう。
すなわち,そこでは,たとえば各種の協同組合組織における経済活動が有
する社会的経済的意味や役割に関する検討をも含めて,家計部門内部におけ
るそのような組織(ないしは共同事業経営体)に関して,その活動目的・分
野・運営方法など少なくとも経営管理面からの検討をともなうことになる。
そして,その結果,事業活動として情報管理・仲介などにとどまらず金融・
財務などの分野におけるものを扱うように拡張されるかもしれない。ただ,
そのような場合でも,既存の企業などとの効率面における競合は十分存在し うるものとして認識することが求められる。
さて,家計信用について,例えば中小企業金融などで用いられるスコアリ ング手法を自己管理へ活用することなども含めてその状態や動向を把握し審 査する場合,それをだれ(いかなる主体)が行なうにせよ,家計信用度の計 測に対するなんらかの客観的な共通の尺度ないしは基準を設定することが不 可欠となる。しかも,そこには家計に固有の経済的属性といったものがどの 程度に存在し,企業や公共部門における経営体との比較にはそれらが与える 諸効果をどう解釈し位置づけて,かついかなる方法で適正な比較を可能なら しめるように調整し準備すればよいのか, というような点が指摘されるであ ろう。
もとより,家計サイドからみても,一般に企業とりわけ金融機関や金融関 連企業における活動内容や経営状況に関する情報公開レベルは,会計情報面 のディスクロージャーに関して先進諸国なみになるとしても,金融自由化の 進むアメリカにおけるケースは,制度的差異の存在を認めても参考とすべき
ところが大きいであろう。
3 . 家計財務と自由化のインパクト
自由化時代における家計の財務行動については,生活設計上のトータルな 生活保障を考慮、して実物資産はもとより金融諸資産に関するポートフォリ オ・セレクション(資産選択)での情報管理や意思決定にもとづく行動に自 己責任の原則がヨリいっそう適用されることになる。
すなわち,自由化の進展につれて,家計が参加し選択できる市場‑商品分
野も拡大していくとき,個々の家計とそのメンバー各人がなんらかのリスク
分担にもとづくコスト意識をそなえもつことが求められるようになる。その
意味でも,学校教育や社会教育における個人・家計部門向けのファイナンス 教育の重要性が指摘されてよい。
市場における参入・退出の自由度が大きくなったり,銀行・証券・保険…
等におけるいわゆる業際・垣根問題から相互乗入や営業が容易に実施される ようになれば,先行する価格(すなわち金利や手数料等)自由化との相乗効 果をもたらして,金融諸産業やそこに属する企業あるいは参入を意図する企 業と,それらの経営戦略や市場行動に対しでも効率と公正などの諸基準にも
とづく大きなインパクトを与えることになる 2 0 ) 。
それは,わが国金融部門の市場効率を高めるだけでなくこれにもとづく他 部門ないし経済全体への波及効果や相乗効果が期待されるものであり,家計 部門にも程度の差こそあれ同様のことがあてはまるものといえる。
すなわち,貯蓄主体とみなされる家計部門が資金の出し手として供給する 相手先は,従来,主として間接金融方式における金融仲介機関の中心的主体 である普通銀行であった 2 1)。しかし,高度経済成長期以降では,直接金融方 式の定着・増大と家計可処分所得上昇などによって,証券会社・保険会社等 を介した貯蓄形態の多様化や金融資産蓄積の量的拡大とその分散化の傾向が みられる 2 2 ) 。
自由化の進展は,平成不況が回復した後もあるいはバローの中立命題がい かなるものとして観察されようとも,そのような傾向をいっそう推進させる 働きをなすものと予想される。すなわち,経済の安定成長下にあっては,家 計における勤労所得の伸びも高度成長期のようには期待できないことと,規 制緩和にもとづく価格・参入・業務等の自由化が市場競争の拡大要因として 企業行動に作用することで,家計部門に対してもヨリ多様なニーズに応じた しかも選択領域の広い商品の開発・販売を提供するようになるであろうか ら,家計による金利選好の高まりや資産選択の多様化などの傾向も IT 化の 進展と共に依然として存続ないし増幅していくものと推測される 2 3 ) 。
家計部門内部においても,情報管理に関して,その技術(ノウ・ハウ)水
準の向上と同時に費用・便益比較にもとづくコスト意識の浸透がはかられ る。そして,このことは,情報面のみならず金融市場における取引活動や資 産選択行動全般にわたっても拡張して行なわれるはずである。
それは,ある意味で,金融自由化が家計部門に対しでもたらしうる 2 次的 経済効果ともいうべきものを意味する。すなわち,そこでは,家計部門内部 における諸資源の利用状況が,ポートフォリオ形成への意思決定プロセスか ら得られる技術的ないし方法論的知識とその体系をも組込んだ家計経営管理 手法によって再検討され,一層の効率化がはかられる可能性を示唆している からである。
4 . 家 計 便 益
自由化プログラムにおいては,例えば日本版消費者保護法をはじめとして 家計部門など利用者の利便性ないし便益全体を法制面で配慮することは,市 場原理にもとづく取引行動や経済活動さらには市場成果などにおける効率や 公正をヨリ円滑に一定水準まで達成させることとも関係してくるものであ
る 。
というのも,その lつには,それが,直接的に取引の一方の当事者として の家計部門ないし金融サービス需要者(利用者)とその行動に影響を及ぼし て市場需給動向に結びつくことになるからである。いま 1つは,それが,先 の意味における家計部門内部での資源配分状況や資産選択への意思決定状況 を通じ,内部組織や経営における効率増大と結びつくことにより,間接的に 市場経済や他の家計部門外部組織へ関連するものとなるからである。
需要サイドにおける利便性については,市場分野をはじめ取引主体,行動 様式などにわたる多角的な視点から検討されるものとなる。これに関しては,
たとえば,市場競争の結果として,市場の不完全性が著しく拡大されるよう
なケースや,インサイダー取引を含む不公正な取引,あるレベルをこえたマ
イナス効果を市場経済に与えるような企業結合や信用秩序の崩壊などが出現
するケースなどが考えられる。
また,たとえば金融その他の制度上や商取引などの慣習上の差異はあると しても,一部の小口預金者(低所得者層)と商業銀行などにおいてみられた 口座の維持・管理コストと手数料をめぐるアメリカなどでのいわゆる金融排 除の問題や,わが国における中小企業金融の意味と担当機関に関する経営問 題,郵便貯金・簡易保険・郵便年金と通信・情報関連の技術やサービスに関 わる旧郵政省関係事業のもつ意味・評価と将来にわたる郵政公社等の位置づ けの問題などが検討されるべきものとしてあげられる。さらに,商社や流通 業系列の金融企業を含むいわゆるノンバンクをはじめ,証券・保険会社など が,持株会社方式,本体ないし子会社方式等なんらかの方法・形態により預 貸業務など銀行業務に進出して営業する場合,家計・企業など顧客の審査能 力をはじめとする銀行事業の経営能力が,主要ノウ・ハウの整備とあわせて いかなる水準のものとなるのかについても,企業のグローバル化戦略と企業 情報の開示問題,等とあわせて考慮されるところとなる。
他方で,高齢化社会においては,高齢者(若年層についてもそうであるが) に向けたインターネット取引マニュアルやソフトウェア,あるいは資産選択 への相談サービスなどの供給といった金融取引に関する消費者保護・教育の 観点も必要となる。
これらの問題については,少子高齢化社会における個人・家計部門でも,
単に貯蓄主体や資産選択者としてだけでなく家計部門における経営管理者と して,あるいは拡大し多様化する市場における取引当事者・参加者としての 主体的な取組み・発言や市場行動を可能とするような自助努力と制度的対応 が期待される。
とりわけ金融自由化が法律ないし制度とその運用における変革をともなう
ものであるだけに,短期および長期にわたる視野で自由化ビジョンやプログ
ラムの作成と実行がはかられることになる。そして,そのような視野こそ家
計にとっても,財務面での最適ポートフォリオにおける運用資金と期間の設
定や,これと密接に関係する家計の生活設計の方針と内容を考える際にも不 可欠のものとなってくるのである。
〔 注 〕
1)貯蓄主体としての家計部門とその行動にも大きく依存している。
2 )このことは,短期金融市場等との関係においても,たとえば CD (譲渡性預金)や M M C の小口化以降の動向をみれば明らかである。
3 )かつて外国為替市場における動向や外国金融機関の営業認可への対応などがその例 としてあげられてきた。また,蝋山(1 9 8 9 ) が自由化に関するいくつかのトピックス を取りあげて以来,多くの文献が見られる。
4)以前からイギリス等では,預金の一定割合しか保護されない。取引先の選別を通じ 銀行行動をチェックすることなどにもとづく自己責任としてのリスク分担を意味して いる。わが国でも, 2 0 0 2 年にペイオフ制への移行が予定されている。これはまた,金 融企業の経営管理能力の向上を促すと同時に競争効果の増大にもつながるものである。
5) たとえば, Hay & Morris ( 1 9 8 0 ) や Varian( 1 9 8 4 ) など産業組織論ないし応用ミク ロ経済学のテキストを参照。また,初期の規制緩和については,鶴田(1 9 8 9 ) 臨時行 革審(1 9 8 9 ) などを参照。
6 )ただし,このことは,資金の出し手である家計部門と借り手である企業部門,なら びにその仲介機関である銀行部門の 3 者における帰属利潤に関する問題を除外するも のではない。
7)たとえば, P o r t e r ( 1 9 8 5 ) では競争優位がキー・ワードとして用いられている。な お , x ‑ 非効率については L e i b e n s t e i n ( 1 9 6 6 ) を,組織分析に関連するものとしては W i 1 1 iamson ( 1 9 7 5 ) などを参照。
8 )小・零細企業および農林水産業者などに対する取扱いや配慮についても,ある程度 家計に準じて考えることができょう。なお,市場競争において生じるプライベート・
バンキング等が所得格差の拡大作用をなすという点については,所得税などの捕捉率 のさらなる向上こそが有効な対応手段であるとする考え方が一般に説得的とされる。
9 )クレジット・カード等の利用についても,計画性のある購買行動と適切な資金管理 が必要となることや,関連する消費者教育さらにはポートフォリオ等のファイナンス 教育などの重要性はその一例である。
1 0 ) 家計のポートフォリオにおいては,一般に収益性よりも安全性が優先されてきたこ
となどにもとづく。
1 1 ) ここでは,貯蓄在高から負債(借入残高)を引いた正味貯蓄の目標値をさす。
1 2 ) とりわけ,純貯蓄高に対して,ごく小さな割合でしかないと家計がみなすところの 余剰資金については,いっそう, 0 のケースに配分される傾向が強くなるとも推測さ れる。
1 3 ) たとえば,企業においても,利潤最大化から売上高最大化あるいは ROE や ROA目 標への転換のケースなど。
1 4 ) 長期にわたり一貫した目標を保持することは,各時点を通じて,諸条件を考慮、した うえでの意思決定が結果としては同じ(すなわち不変)であったことにほかならない。
1 5 ) ここでは,それがかならずしも長期計画のみであるとはかぎらない。ただ,長期計 画と短期計画の整合性が重要となる。
1 6 ) これは,小泉内閣における構造改革の一部分をなす。従来においても,新しい商品 一市場分野の開発・認可等の進展では,たとえば,商品ファンドなどについては,商 社をはじめとするノンバンク系企業が中心となって担当して主たる監督官庁である通 産省が関与するなどにより省庁間ないし政府内部での政策調整問題にも及ぶものとな
ったりした。
1 7 ) もとより,このことは,財務管理面にかぎらず家計行動とその計画・管理全般にわ たってもいえることである。
1 8 ) 部門内部でのなんらかの迂回生産的活動と資本蓄積については,これが外部取引に よって促進されることも考えられる。
1 9 ) クレジット・カードの利用や支払状況をはじめとして, P 0 S (販売時点情報管理) などの発足とも相侠って顧客取引や市場販売情報の利用・管理が行なわれている。
2 0 ) これら金融自由化の諸効果については,内田(1 9 9 5 ) ほかを参照。
2 1)普通銀行とは,都市銀行・地方銀行・第二地方銀行・在日外国銀行をさす。くわし くは, 日本銀行(1 9 9 5 ) 等を参照。
2 2 ) たとえば,内田(1 9 8 5 ) ,橘木・下野(1 9 9 4 ) ,ホリオカ・浜田(1 9 9 8 ) ,村本(1 9 9 8 ) など参照。
2 3 ) Barro ( 1 9 7 4 )参照。また,財務管理面での参考には, Amling & Droms ( 1 9 8 6 ) , K l o t t ( 1 9 8 7 ) ないしは日本経済新聞社(1 9 9 8 ) ,銀行研修社(1 9 9 8 ) なども利用でき る 。
〔 参 考 文 献 〕
Amling , F . and W. G . Droms , ( 1 9 8 6 ) P e r s o n a l F i n a n c i a l M a n a g e m e n t , l r w i n
Ba
汀0 , R . J . ( 1 9 7 4 ) Are Government Bonds Net W e a l t h ? J o u r n a l 0 1 P o l i t i c a l E c o n o m y , 8 2 , 1 0 9 5 ‑ 1 1 1 7
Hay , D . A . and D . J . M o r r i s , ( 1 9 8 0 ) l n d u s t r i a l E c o n o m i c s T h e o r y a n d E v i d e n c e , O x f o r d U . P .
K l o t t , G . L . ( 1 9 8 7 ) T h e New Y o r k T i m e s C o m p l e t e G u i d e t o P e r s o n a l l n v e s t i n g , Times Books
L e i b e n s t e i n , H . ( 1 9 6 6 ) A l l o c a t i v e E f f i c i e n c y v e r s u s X ‑ E f f i c i e n c y , A m e r i c a n E c o n o m i c R e v ‑ i e w , 5 6 , 3 9 2 ‑ 4 1 5
P o r t e r , M. E . ( 1 9 8 5 ) C o m p e t i t i v e A d v a n t a g e , Macm i 1 1 a n ,土岐坤・中辻高治・小野寺武夫訳
『競争優位の戦略』ダイヤモンド社,昭和 6 0 年
V a r i a n , H. R . ( 1 9 8 4 ) M i c r o e c o n o m i c A n a l y s i s , N o r t o n ,佐藤隆三・三野和雄訳『ミクロ経済 分析』勤草書房,昭和 6 1 年
Wi 1 1 i a m s o n , O . E . ( 1 9 7 5 ) M a r k e t s a n d H i e r a r c h i e s , Macm i 1 1 a n ,浅沼寓里・岩崎晃訳『市場 と企業組織』日本評論社,昭和 5 5 年
内田滋(1 9 8 5 ) I 家計貯蓄と資産形成 J ,長崎大学教育開放運営委員会編『不況下の企業経 営』大蔵省印刷局
一
( 1 9 9 5 ) r 規制緩和と銀行競争』千倉書房
一
( 2 0 0 0 )家計行動とファイナンスに関する一考察, r 経営と経済』第 8 0 巻第 3 号 , 2 3 ‑ 4 1 頁
一