実価法適用の諸問題
その他のタイトル On the Application of Equity Accounting Method
著者 末政 芳信
雑誌名 關西大學商學論集
巻 19
号 1
ページ 87‑102
発行年 1974‑04‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/00021152
(87) 87
実価法適用の諸問題
末 政 芳 信
1 は し が き
実価法は投資有価証券勘定を評価する場合に,原価法と対比される一つの 評価方法であるが,我国では,投資勘定,すなわち固定資産の評価は商法規 定の関係で原価法によることが原則とされ,近年に至るまで実価法について 多くの論議があまりなされなかった。
今世紀初頭,連結財務諸表の作成が実務的に行なわれるようになったアメ リカでは,やや年数が遅れた1910年から1920年頃にかけて実価法の適用が連 結財務諸表作成問題と併せて論議されるに至り,それ以後,実価法適用の賛 否について幾多の論争が行なわれ,また実際的に個々の企業で実価法を適用 することについても幾多の変遷を経てきたが, 1971年に発表された AICPA による APBOpinion, No.18によって実価法の適用方法が具休的に勧告さ れ, 1972年の SEC規則 (RegulationS‑X)の改正にもそれが本格的に織り込 まれるようになり,アメリカの会計実践の中に実価法の適用が定着してきて いると見ることができる。
アメリカにおける実価法の適用は,アメリカ連結財務諸表制度をささえる 大きな支柱をなすものである。我国の連結財務諸表と比ペアメリカにおいて は,支配会社株主とくに機関投資家を中心とした証券投資目的のための連結 財務諸表が,ー株当りの純利益の計算,税効果会計の採用,資金運用表の活 用とともに実価法の適用を行ない,それがアメリカ連結財務諸表の特徴をな
1)
すものである。このように,実価法の適用はアメリカの会計実践で重要視さ
1) アメリカ連結財務諸表の特徴については,日本会計研究学会で報告した拙稿報告要 旨(企業会計1973年12月号)を参照されたい。
88 (88) 実価法適用の諸問題 (末政) れている。
我国においても,ここ十数年前より我国の若千の大手企業において, AD R, CDR等のための連結財務諸表が外国向けの英文財務諸表形式でアメリ
カの8大会計事務所によって作成された。この作成過程で,アメリカ会計原 則 (GAAP)にしたがい実価法の適用が行なわれた。 今日では, 外国企業の 我国証券取引所への上場申請のための連結財務諸表の提出制度が問題となっ
ており,それと同時にまた実価法の適用が硯実的な問題となってきた。
そこで,「連結財務諸表に関する意見書」(昭和42年5月刊)に対する改正 が企業会計審議会で審議中であり,実価法の適用も今回の改正で実施される 見通しとなってきている。
この様な事情を背景として,実価法のもつ意味,内容,アメリカにおける
2)
実施状況等を考察し,我国における具体的な実価法の適用に関する諸問題を 若干考えることにしたい。
2 原 価 法 , 実 価 法 , 簿 価 法
投資有価証券とりわけ投資株式勘定の評価方法として一般に取り上げられ るのは,原価法,実価法,簿価法の三つである。投資有価証券の評価問題に ついてはもちろん投資公社債の評価問題をも含むが,ここでは,投資株式の 評価方法に限定して,上記の三つの評価方法について概略述べることにし
たい。
原価法(costvalue method)は長期投資目的で取得した株式は取得した投資 先会社 (investee)の財政状態に特別の事態が発生しない限り,投資会社 (in‑ vestor)は取得原価で何時までも貸借対照表に表示する評価方法である。した がって,投資先会社の経営成績は投資会社の貸借対照表に直接反映されない で,受取った配当金のみを損益計算書に受取配当金として営業外収益の部に 計上することになり,投資先会社に欠損金を生じた場合も投資会社の財務諸 2) アメリカにおける実施状況ならびにAPBOpinion, No. 18等についての論述は重 要ではあるが,頁数の関係上,この論文から割愛し,別稿にゆずることにしたい。
実価法適用の諸問題 (末政) (89) 89 表には一切表示されない。なお,投資会社と投資先会社との内部取引(inter‑ company transaction)によって生じる未実硯利益の消去問題も原価法の適用 の場合には生じない。
実価法(actualvalue method, equify method)は投資会社が投資先会社の株 式を長期投資目的で取得した場合,その取得価格はそのときの投資先会社の 妥当な財務状態を反映した価格であると見て,それを出発点としてそれ以後 の投資先会社の経営成績ならびに財政状態を取得した持分割合に応じた額を 投資会社の貸借対照表及ぴ損益計算書に反映させるための投資株式に関する 評価方法である。したがって,取得日以後の投資先会社の経営成績を投資会 社の決算期間に合せてその持分割合を反映させねばならない。すなわち,そ の持分割合に応じた額を損益計算書に「投資先会社よりの損益」として表示 し,他方その額に見合うものを貸借対照表の「投資株式」に附加ないし控除 する形で,投資勘定を増減させることになる。それ故,受取った配当金の額 は損益計算書に収益として計上されないで,投資勘定の控除という形で処理 されなければならない。取得日以後投資先会社に生じた欠損金もその持分割 合の金額だけ投資会社の財務諸表に直接反映されることは云うまでもない。
簿価法 (bookvalue method, underlying net equity value method, equity in net asset method)は投資会社が長期投資目的で投資先会社の株式を取得した
とき,その取得金額のいかんを問わず,つねに投資先会社の純資産に対する 持分割合を投資会社の貸借対照表の投資勘定に反映させようとする評価法で ある。したがって,投資株式の取得金額と投資先会社の純資産に対する持分 割合額が遮うときは,その差額に見合う額は投資株式の金額を増減すること になる。株式取得後の配当金の受け入れについての会計処理は,(イ)原価法に 類する方法の場合と,(口)実価法に類する方法の場合が見られる。これは簿価 法の性格を原価法の性格に近かいものと考えるか,実価法の性格に近かいも のと考えるかの相遮によって異なる。
さらに,原価法・実価法・簿価法の会計処理の遮いを明らかにするため に,具体的な取引例題をあげて,上記の各方法による場合の仕訳処理を示す
90 (90) 実価法適用の諸問題 (末政)
ことにしたい。ただし,我国の利益処分方式にしたがうことにする。
〔取引例題〕
1 p社は昭和47年11月30日にA社の発行済株式総数の50%を1株当り 100 円で500千株購入し,その代金50,000千円を小切手で支払った。
A社は昭和47年11月末が決算期であり,そのときの貸借対照表の純資産 額は90,000千円である。なお, P社の決算期は毎年2月末である。
2 p社は昭和48年1月末にA社より, 株主配当金2,500千円のうち源泉所 得税375千円を差引かれた残額2,125千円を現金で受取った。
3 A社は昭和48年11月期の決算によって損益計算書上税引後の当期純利益 14,400千円を計上した。
4 p社は昭和49年1月末にA社より, 株主配当金3,000千円のうち源泉所 得税450千円を差引かれた残額2,550千円を硯金で受取った。
C原価法による仕訳〕 (単位千円)
1. 関 係 会 社 株 式 50,000 I当 座 預 金 50,000 2. 硯 金
3)
源 泉 所 得 税
(営業外費用)
3. 仕 訳 な し 4. 硯 金 源 泉 所 得 税
(営業外費用)
〔実価法による仕訳〕
1, 関 係 会 社 株 式 2. 現 金 源 泉 所 得 税
(営業外費用)
2,125 / 受 取 配 当 金 375 /
2,550 / 受 取 配 当 金 450 /
(単位千円)
50,000 I当 座 預 金 2,125 / 関 係 会 社 株 式
375 /
2.,500
3,000
50,000 2,500
3)源泉所得税の会計処理について,我国では通常「祖税公課」の勘定科目で整理し,
営業外費用の部に表示することが多い。アメリカ会計実務では, 「法人税等」の支 払の一部と見て「法人税等」の勘定科目の中に含めて整理し, 「税引前純利益」の つぎに表示される。理論的には,後者の会計処理が妥当である。
3. 関 係 会 社 株 式 4. 硯 金 源 泉 所 得 税
(営業外費用)
実価法適用の諸問題 (末政) (91) 91
4)
7,200 I 関係会社よりの利益 7,200 2,550 / 関 係 会 社 株 式 3,000
450 /
5. さらに,各年度末に連結調整勘定に相当する金額についての償却仕訳 が必要である。
〔簿価法による仕訳〕 (単位千円)
5)
(イ) 原価法に類する性格と見る場合
1. 関 係 会 社 株 式 45,000 / 当 座 預 金 50,000 連 結 調 整 勘 定
(積極暖簾)
2. 現 金 源 泉 所 得 税
(営業外費用)
5,ooo I
2,125 / 受 取 配 当 金 375 /
3. 備忘記録としてつぎの仕訳を行なう。
2,500
関 係 会 社 株 式 7,200 I 関係会社未実硯利益 7‑,200
ー未実硯増加一
4. 現 金 源 泉 所 得 税
(営業外費用)
2,550 / 受 取 配 当 金 450 /
0備忘記録としての仕訳を行なう。
3,000
関係会社未実現利益 3,ooo I 関 係 会 社 株 式 3,000
ー未実現増加一
5. さらに,各年度未に連結調整勘定の償却仕訳が必要である。
(口) 実価法に類する性格と見る場合
1. 関 係 会 社 株 式 45,000 / , 当 座 預 金 50,000 連 結 調 整 勘 定 5,ooo I
(積極暖簾)
4)「関係会社よりの利益」の勘定科目は非連結子会社よりの利益をも含めるという意味 で,「投資先会社よりの利益」という勘定科目を使用する場合が多いが,ここでは,
この取引例題のみに限定し,借方科目名との釣合を考えてこの科目名を使用した。
5) この場合の仕訳方法は主として,つぎのペイトンの会計処理方法を参考にした。
W. A. Paton, and W. A. Paton Jr., Corporation Accounts and Statements, 1955. pp. 583‑584.
92 (92) 実価法適用の諸問題 (末政)
2.
3. 4.
(連結調整勘定に相当する金額を重要性が少ないとみれば,額損益勘定で処理す ることがある。)
現 金 2,125 / 関 係 会 社 株 式 2,500 源(営泉業所外費得用)税 375 /
関 係 会 社 株 式 7,200 / 関係会社よりの利益 7,200 現 金 2,550 / 関 係 会 社 株 式 3,000 源(営泉業所外費得用)税 450 /
5. さらに,各年度末に連結調整勘定の償却仕訳が必要である。
以上のような仕訳処理の相遮からも見られるように,原価法,実価法,簿 価法はそれぞれ特徴をもっている。それら各方法の長所,短所について,ム
6)
ーニッツ教授,稲垣教授,会田教授,大雄教授等の詳細な論述がが見られる が,ここでは,その主要な特徴だけ要約的に取り上げることにしたい。それ は本稿の主題が実価法の適用iこ焦点があり,各方法の特徴比較はその前提条 件ないし過程の整理であると思われるからである。
原価法と実価法を対比しながら,原価法の特徴を見ていくと,原価法は leagal entity basisであると云われるように,投資先会社の収益状況その 他の経済的事実は受取配当金の収受等によるものだけしか反映されないで,
従来の個別企業自体の会計慣行を重視する。したがって,収益計上について は実現主義の原則を重視し,投資先会社が現実に収益を計上していても,投 資会社がそれを受取るまでは未実現のものであるとして一切収益の計上を認 めない点に特徴がある。他方,実価法はeconomicentity basisであると云 われるように,投資会社が支配的影響力(controllinginfluence)をもつ投資先 6)① Maurice Moonity, The Entity of Consolidated Statements, 2nd, 1951.
片野一郎監閲,白鳥庄之助訳注『ムーニッツ連結財務諸表』(昭和39年同文館)
90117頁
③稲垣冨士男著『連結財務諸表論』(昭和42年 中央経済社) 85 93頁
⑧会田義雄稿「実価法の理論と適用」産業経理 昭和48年6月号
④大雄令純稿「実価法の理論と適用」産業経理 昭和48年6月号
実価法適用の諸問題 (末政) (93) 93 会社の収益状況その他の経済的事実は投資会社にそれを反映させるべきであ
るとの立場から,配当金を受取る以前に,投資先会社の収益に対する投資会 社の持分割合を投資会社の財務諸表に反映させる。それは,ホーングレン教
7)
授による指摘に見られるように,原価法では投資先会社の配当政策により大 きな影響を受けることになるが,実価法では投資先会社の配当政策により報 告利益は影響を受けない点に特徴が見られる。原価法によると,特に投資会 社自体が投資先会社の配当政策に開与できる場合には,投資会社の利益計上 方針によってそれが左右されることになり,投資会社の利益計上を操作でき る短所が見られる。これは今日の我国における大企業決算の問題点の一つで もあると考えられる。
原価法の立場を基本的に維持しながら,実価法の立場から批判された問題 点を改善する方法として,投資先会社の未処分利益剰余金等についての投資 会社の持分割合を投資会社の貸借対照表の脚注に注記が勧められている。我 国の昭和42年5月発表の「連結財務諸表に関する意見書」はこの立場である。
さらに,原価法の基本的な立場を維持しながら実価法を批判的に取り上げ る考え方として,簿価法のうち,(イ)原価法に類する性格と見る立場がある。
この考え方は実価法により投資先会社の収益の持分割合を硯実に受取ってい ないにもかかわらず,収益に計上することは実現主義の原則に反すると批判 し,その収益に対する持分割合を将来の配当可能利益として備忘的記録によ り整理することを主張する。この考え方の代表的なものとしてペイトンの論
8)
述を見ることが出来る。この立場はやはり個別企業サイドの法律的実体の立 場を重視したものと思う。
実価法に対する批判の一つは,投資会社の投資金額と投資先会社の純資産 の持分割合額がその株式取得時に相遮していても,その内容の吟味を分析的 に詳細に行なわないで,一般的にその取得金額をそのまま投資勘定記入の出 7) Charece T. Horngren, Accounting for Management Control, 1970. pp. 72‑
73.
8) W. A. Paton, and W. A. Paton Jr., op. cit., pp. 583‑584.
94 (94) 実価法適用の諸問題 (末政)
発点とすることである。さらに,取得後の投資先会社の利益を反映させた投 資勘定は純粋の意味の原価でもなく,投資先会社の純資産の持分でもない,
性格の明らかでない混合物である。この点にのみ注目して,俺価法のうち(口)
実価法に類する性格と見る見解が発生した。
この考え方によれば,取得時の投資勘定と投資先会社の純資産の持分額と の差額は連結した場合に生ずる連結調整勘定と同様に処理することになる。
なお,この場合,その差額を取得時の特別損益で処理する考え方もあるが,
取得損益 (acquisitiongain or loss)を計上してはならないと通常のいき方に
9)
矛盾するというムーニッツ教授の指摘通りになり,理論的にも好ましい方法 ではない。したがって,連結調整勘定と同じ性格の暖簾と見ることが望まし い。このような実価法に類する性格と見る立場の簿価法は広義の実価法に含
10)
める解釈も成り立つ。
この考えに基づく会計処理によれば,実価法との相遮は取得時点の投資勘 定の金額の相遮のみとなり,さらに実価法においてその差額を連結調整勘定 の償却と同様に,投資勘定より償却処理するとすれば,その全額が償却され
11)
た後は実価法による投資勘定は簿価法のそれと同じ額になる。したがって,
原価法対実価法に分ける二分法の場合には実価法として取扱われる。 この ような考え方の簿価法により処理する場合, アメリカでは underling net equity valueとして表示される。以上のように考えると,簿価法は(イ)の立 場と,(口)の立場は大局的見地から,前者を原価法,後者を実価法に含めて考 える二分法の分類がより明解であると思われる。
上記のような原価法,実価法,簿価法の特徴の概要からみて,いずれを選 択適用すべきかの問題がつぎに課題となる。その選択適用にあっては,上記 の一般的な意味での各方法の特徴のみによって選択すべきでなく,つぎのよ
うな問題点について基本的な見解が明らかにされた後に選択されるべきであ 9)片野監閲 白烏訳注『ムーニッツ連結財務諸表論』 116頁参照
10)会田義雄稿「前掲論文」 111頁参照
11)鮒子田俊助編著『連結財務諸表の実務』(昭和43年 同文館) 53頁
実価法適用の諸問題 (末政) (95) 95 る。
〔I〕原価法の基本的立場は leagalentity basisであり,実価法のそれは economic entity basisであるが, このいずれの entitybasisをより重 視して考えるかの問題を解決しなければならない。しかし,このことは単 に投資会社の個別企業サイドで考えるか,投資会社の支配的利害関係,な いし支配的影善をもつ範囲の投資先会社を含めた企業集団グループとして 考えるかが先決問題である。それは,原価法,実価法,簿価法選択の問題 を,連結財務諸表の作成を前提としない投資会社のみの個別財務諸表の作 成過程で考えるか,連結財務表の作成を前提としてその作成過程における 一つの問題として考えるかを明らかにすべきである。
〔I〕原価法,実価法,薄価法の選択適用すべき対象会社をどのように考え るかの問題も重要である。上記〔I]の基本問題に対する見解に関連して,
投資先会社は100彩持株子会社, 50彩以上持株子会社, 50%持株合弁会社 (joint venture company), 50彩未満持株の関係会社 (affiliatecompany)の いずれに適用するかが問題である。連結財務諸表を前提とすれば,連結対 象投資先会社には原価法を適用することはできない。その場合,原価法,
実価法,簿価法の選択が可能なのは非連結投資先会社になる。他方,連結 を前提にしない個別財務諸表の場合においても, 100彩持株子会社と, 50 彩未満持株の関係会社のうち特に支配的影響力の少ない会社とでは,ー率 に原価法か,実価法かの選択は事実上問題である。
3 我 国 に お け る 投 資 株 式 の 評 価 規 定
我国における投資勘定の評価方法については,従来,個別財務諸表作成に 関する側面の問題としてのみ考えられてきたきらいがある。事実このような 側面から,我国の商法規定ならびに企業会計原則にはこの評価方法が定めら れている。この両者におけるその取扱い,ならびに企業会計原則修正案,連 結財務諸表に関する意見書の考え方を要約すると,つぎのようになる。
96 (96) 実価法適用の諸問題 (末政)
(
イ) 商法関係の規定
旧商法規定では,財産一般の評価原則として時価以下主義を掲げ(商法第 34条), 取引所の相場ある有価証券については, 決算前1ヶ月間の平均価格 で評価する(商法第285条)と定めていた。
しかし,昭和37年に改正された親行商法第285条の6の1項では,株式の 評価は取得原価主義によることを原則すると明示している。さらに,取引所 の相場ある株式については,子会社の株式を除き,原価法と低価法の選択適 用が認められている(商法第285条の6の2項)。しかし,取引所の相場なき 株式には低価法の選択適用は認められない。その代り,同条第 3項では,取 引所の相場なき株式について,その発行会社の資産状態が著しく悪化したと きは相当の減額をすべきものとしている。
このような現行商法規定では,原価法が原則であり,取引所の相場ある株 式についてのみ低価法の選択が認められた。さらに,取引所の相場なき株式 については,その発行会社の資産悪化の著しいときにのみ原価より減額する ことを認めている。したがって,実価法の選択余地は取引所の相場なき投資 先会社の資産悪化が著しいときの場合にしか残されていない。これは投資会 社の個別財務諸表の立場において厳守されなければならないことである。
連結財務諸表作成を前提とした投資株式の評価方法については,現行商法 規定上定めがない。それは現行商法自体で連結財務諸表そのものを前提とし た諸規定が考えられていないからである。では,連結財務諸表を前提とした 場合一般的な意味での実価法の適用は許されないかの問題が生ずる。この点 について,商法学者の矢沢教授によれば, 「……原価以上になる実価での評 価は単独財務賭表では許されない。連結財務諸表が特別な追加情報を示すも のとすれば,単独財務諸表の評価基準によらないと割り切れば,実価法によ
12)
ることも出来る。……」と話されている如<,連結財務諸表を投資会社の個 別財務諸表の追加的情報を示すものであると考えるならば,連結財務諸表上 12)矢沢惇教授の我国の連結財務諸表制度に関する座談会における発言(「連結財務諸
表制度実施の方向と問題点」企業会計 昭和46年9月臨時増刊号)
実価法適用の諸問題 (末政) (97) 97 実価法の適用は可能であろう。
(
口) 企業会計原則
昭和38年以前の企業会計原則では,貸借対照表原則5のFで「投資は,市 場価格の変動にかかわらず,原則として,取得原価又は投資価格で記載す る」とされ, 1日注解18では,投資価格とは,投資勘定すなわち投資公社債及 び投資株式について実価を反映する価額であると定めしていた。したがって,
原価法と実価法の選択適用が可能であった。
昭和38年に,現行商法の改正評価規定に譲歩する形で,上記貸借対照表原 則5のFは「投資は,原則として,取得原価で記載する」と改正され,さら に,注解17では, 「投資有価証券は, 原則として,取得原価によって記載す るが,投資株式については,当該会社の財政状態を反映する株式の実価がそ の取得原価よりもいちじるしく低下した場合には相当の減額をしなければな らない。……」と改められた。 したがって,現行企業会計原則のもとでは,
現行商法規定と同様に,投資先会社の財政状態が悪化して株式の実価が著し く低下したときにのみ実価法の適用が許される。これも個別財務諸表につい ての場合であり,連結財務諸表の場合については特にふれられていない。
(ハ) 企業会計原則修正案(昭和44年12月発表)
修正案では,現行の貸借対照表原則5のFは削除され,同5のBの有価証 券の評価において,有価証券は平掏原価法を適用して算定した取得原価をも って貸借対照表価額とするとし,ただし書で,硯行商法規定と同様の「……
取引所の相場のない有価証券のうち株式については,当該会社の財務状態を 反映する株式の実価が著しく低下したときは,相当の減価をしなければなら ない。」と記している。 なお, この株式に関連する注解は削除されている。
したがって,企業会計原則修正案でも実価法の適用は取引所の相場のない投 資株式の実価が著しく低下したときしか許されない。
( 二
) 連結財務賭表に関する意見書(昭和42年5月発表)
この意見書では,脚注事項の中で, 4.非連結従属会社との関係の項目に おいて,重要な非連結従属会社に対する支配会社の投資原価,支配会社の持
98 (98) 実価法適用の賭問題 (末政)
分,その従属会社の当期純利益その他必要な財務情報を注記することを要求 している。この昭和42年 5月発表の意見書においても,連結財務諸表作成面 における実価法の適用を認めていない。ただし,素朴な原価法の適用ではな く,実価法で主張される特徴を脚注事項における追加的情報として示めそう としている点で注目する必要がある。
以上の諸規定から見て,我国では個別財務諸表そのものの元では,実価法 はその投資株式の実価が著しく減価した場合を除き,諸規定上は適用できな いと思う。しかし,それら諸規定は連結財務諸表作成について明示されてい ない。個別財務諸表と異質のものとして連結財務諸表を把握し,連結財務諸 表を個別財務諸表に代置するものとしてではなく,個別財務諸表を補完的な
15)
いし追加情報を与えるものとして考えるときに実価法の適用が可能になる。
4 我 国 に お け る 実 価 法 の 具 体 的 適 用
我国においては,上述の如<,個別財務諸表作成の過程で全面的に実価法 適用の問題は諸規定上は許されない。個別財務諸表の過程ではやはり法律的 実体ベースで考えることが我国の企業会計実践面で要求されている。もちろ ん,これは個別財務諸表を経済的実体ベースで考えることの妥当性を理論的 に否定したものとは云えない。アメリカの場合, APBOpinion, No. 18で は個別財務諸表についても実価法の適用を勧告しており,私見としては,
economic entity basisを基本として実価法を個別財務諸表にも適用する方 法に長所を認めたいと思うが,我国の関係諸規定から見て,個別財務諸表上 で実価法の全面的適用の問題をさらに取り上げることはさけることにする。
したがって,以下,連結財務諸表との関係で実価法の適用を考えたい。
連結財務諸表の性格として,支配会社を中心とした企業集団グループが単 ーの経済的実体を有するものとして,その経営成績並びに財政状態を示すも のであり,支配会社,及ぴ支配会社による支配的利害関係 (controllingin‑ 13)我国における連結財務諸表の本質の理解については,つぎの論稿が有益である。
中村忠稿「個別財務諸表と連結財務諸表」産業経理 昭和48年 4月号
実価法適用の諸問題 (末政) (99) 99
14) 15)
terest)を有する従属会社,ならびに支配的影響力(controllinginfluence)が及 ぶ投資先会社をあたかも単一の会社である如く, 1つの企業集団グループと しての総合的経済活動を適確に示めす目的で作成される会計情報である。い うまでもなく, economicentity basisの考え方が基本である。したがって 連結財務諸表の元では,投資勘定の評価は economicentity basisに基づく 実価法の適用が理論的に妥当する。それ故,実価法の適用も連結会計処理と の関係で取扱われるぺきである。
投資先会社に対する投資額を表示する投資株式については,投資先会社を すべて連結した場合と同じ効果になるように会計処理することが基本的に望 まれる。しかし, 50%超の持株の従属会社であり,それに完全な支配的利害 関係が及ぶ投資先会社であるものと, 50%以下の持株の関係会社であり,そ れに支配的影善力が及ぶ投資先会社であるものとは区別して考えねばならな い。この場合,連結方式として,前者に対しては全部連結(fullconsolidation) が適用され,後者に対しては一行連結 (oneline consolidation)が適用される べきである。全部連結とは投資先会社のすべての財産ならびに経営成績を連 結財務諸表に連結する方法であり,一行連結は連結貸借対照表上単独の「投 資株式」として,また損益計算書上の単独の「投資先会社よりの利益」とし て表示する方法である。このような一行連結の意味を有するものとして実価 法の適用を考えることが重要であり, APBOpinion, No. 18も本質的には この種の見解に属するものと思われる。それ故,我国における実価法の適用 も基本的には一行連結の構想に従って考えなければならない。
我国における実価法用において.,具体的に解決しなければならない問題を つぎに若干述べることにする。さらに,アメリカ会計実務における実価法の 適用と比べて注目すべき点にもふれることにしたい。
14)連結範囲を決定する基準として持分基準とともに支配力基準が用いられる場合,
controlling interestの用語がアメリカではよく用いられる。
15) APB Opinion, No. 18では, controllingfinancial influenceを有することを実 価法適用会社の決めての一つにしている。
100 (100) 実価法適用の諸問題 (末政)
(1) 実価法適用の対象会社をどの範囲にすぺきかの問題である。 APBOpi‑
nion, No.18では,非連結従属会社, 50%持株合弁会社, 50%未満以下 で20%以上持株の関係会社をその対象会社に含める。ホーングレン教授は この APBOpinion, No. 18に対する批判的意見として10%以上持株の
16)
関係会社(affiliates)を含めるべきとしている。したがって,我国において も基本的には APBOpinion, No. 18と同じ範囲の対象会社とし,事情 が許せば10%以上持株の関係会社に範囲を拡大するのが望ましい。
(2) 支配会社,連結対象会社,実価法適用対象会社相互間における内部取引 によって生じた期末棚卸品,固定資産等に含まれている未実現利益は消去 されなければならない。
(3) 取得時における投資勘定と投資先会社の純資産に対する持分との差額 は,連結会計における連結調整勘定の取扱い問題と同様にその内容を吟味 し,その実体が何に基づくものであるかを分析しなければならない。もし 償却が必要な内容のものであれば,その性質にしたがい償却年数等を決定
しなければならない。
(4) 投資先会社の純資産額の確定についてはまず,公認会計士による監査済 の投資先会社の財務諸表を用いるべきであり,それは投資先会社が一般に 公正妥当と認められた会計原則にしたがって財務諸表を作成していること が前提とされなければならない。
(5) 投資先会社の当期純利益を投資会社の損益計算書上, 「投資先会社より の利益」として反映させる場合,やはり連結会計と同じように投資会社と 投資先会社の決算期のずれを慎重に取扱うべきであり,可能な限り,投資 会社の事業年度に見合う期間の投資先会社の純利益を用いるぺきである。
(6) 我国における特有の問題として,実価法適用のための個別財務諸表作成 自休がアメリカ会計実務と著しく相遮している点に注目すべきである。そ の主要のものをあげると,つぎの如くである。
( イ
) 租税特別措置法等の適用にもをづく特定引当金について,我国では通 16) Charece T. Hdrngren, Accounting for Management Control, 1970, p. 73.
実価法適用の諸問題 (末政) (101)‑101 常負債の部に表示されるが,アメリカ会計実務では,所得税効果後の金 額ば利益剰余金の性質を有するものとして処理する。すなわち,その額 を純資産に含めて取扱い,投資会社の投資価額と対比させる。したがっ て,特定引当金の取扱い相遮によって投資勘定と純資産に対する持分と の差額が異なってくる。我国においても,利益性引当金は実価法適用に おいて所得税効果後の金額を利益剰余金として処理すべきである。
(口) 利益処分方式について,アメリカ会計実務では当期分にかかる利益処 分額をその年度末の財務諸表に織り込み済みであるが,我国では決算期 末より約 2ヶ月後の株主総会により利益処分が確定するので,その年度 末の財務諸表には当期分の利益処分額は含まれていない。したがって,
投資株式の取得時の投資先会社の純資産を確定する場合にこの点に注目 すべきである。アメリカ会計方式では,我国の会計方式に比べ2ヶ月後 の利益処分額のうち社外流出する現金配当,役員賞与等の額だけ利益剰 余金の額が少なくなるが,未収配当金の計上は心要となる。この利益処 分方式の選択については,やはり親会社,子会社等の連結会計処理を行 なう場合と同じ方式が実価法の適用の場合にも考えなければならない。
しかし,アメリカ会計方式と我国の会計方式のいずれにも長所・短所が 認められるので,その選択については慎重を期すべきである。9
( ハ
) 税効果会計をほぼ全面的に採用しているアメリカ会計実務と,税効果 会計の採用がほとんど行なわれていない我国では,投資先会社の純資産 確定については種々の面で異なってくる。我国の現況から見て,全面的 にはむりとしても,少なくとも特定引当金等の一部については税効果会 計を採用した後の金額を元にして,実価法を適用すべきである。
上記のように,実価法の適用は連結会計との関連において把握し,基本的 には一行連結の主旨にかなうように行なうべきであり,さらに上記の具体的 な問題点にも注意を払うぺきである。
102 (102) 実価法適用の諸問題 (末政)
5 む す び
実価法は主として投資株式の評価方法として取り上げられるが,個別財務 諸表上の取扱いと,連結財務諸表上の取扱いとでは基本的に異なる。本稿で は,連結会計に関連するものとして実価法の適用を取り上げ,一行連結の効 果を果すものとしてその特質を考えたいと思う。実価法の具体的な適用につ いては,この問題についての先進国であるアメリカのAPBOpinion, No. 18 を基本的には見習うべきである。しかし,アメリカ会計実務と我国の会計実 務の相遮点を十分認識し,我国の実情に沿った実価法の適用を展開すること が今後の課題となるであろう。
(昭和49年2月稿)