NDC 431.3
水溶液中におけるFe2+イオンの空気酸化(第倖艮)
近藤良夫*長船忠夫**樋口敏三**
(昭和51年9月10受理)
The Air Oxidation of Ferrous lon in Aqueous Solution (lst Report)
Yoshio KoNDo, Tadao OsAFuNE and Binzo HiGucHi
(Received September 10, 1976)
In order to study the rate of air oxidation ef ferrous ion in aqueous solution, the effects of initial pH value of solution, temperature, and flow rate of air stream were pursued.
The experimental results are summarized as follows.
(1) Both initial rates of oxidation in the aqueous solutions of pH at 4.5 and 4.8 were about ten times higher than the rate in the solution of initial pH at 4.2. The rate of reaction was retarded in the former solutions when the fractional reaction exceeds about O.5.
(2) The initial rate of reaction is higher at higher temperature of the solution. The apparent activation energy was estimated at about 11 kcal/rnole.
(3) Any significant difference was not found in the average bubble diameter at the Reynolds number of 500,
700, 1000, 1500 aRd 2000, and the increase of the rate of reaction due to the rise of Reynolds number from 700 to 1500 may be attributed to the increase of flow rate of air stream.
1 緒 言
金属製錬の工程には多くの不均一系反応が採用されでい る。特に気一液系の反応は乾式製錬における製鋼用または 銅製錬用の転炉,湿式製錬における浄液,ガス還元の工程 など極めて広範囲に用いられている。
これらの気一液系の反応は種種の物理的および化学的過 程が複雑に組合わされたものであって,基本的には(1)対流 および拡散による反応物質の移動,(2)化学反応,(3)反応生 成物の移動,(4)反応に伴う熱の移動等の過程から成り,こ れらの過程のうち,その抵抗の最も大きい過程が反応の律 速毅階となる。
これらの気一液系の反応機構はそれぞれの反応によって 異なり,またそれらの多くはまだ明らかではない。しか
し,液中を上昇する気泡の表面における気一町間の反応や 物質移動過程を伴うことは明らかである。もし,これらの 過程が律速段階であればその総括速度は気泡表面積,すな
*京都大学工学部冶金学科 淋津山工業高等専:門学校金属工学科
わち,気体流量あるいは気泡の大きさなどと何らかの関係 が存在するはずである。
本研究においてはfi一一液系反応のうち,湿式製錬におけ る浄液工程,あるいは産業廃水の処理等に関連して工業的 に重要な意義を持つと考えられる水溶液中におけるFe2+イ オンの空気酸化について研究を行なうことにした。この反 応は総括的な反応式として
Fe2+ + so42 rm +gH20 + {}02 == Fe (OH) 3 + H2SO4 (1)
によって示される。
この反応に関する従来の研究としてはLamb等1), George 等2),Posner等3), Huffman等4), Nico15),大橋等6),田村 等7)によるものなどが挙げられる。しかし,これらの研究 の多くは水溶液中の溶存酸素によるFe2+イオンのFe3+イ オンへの酸化反応に関するものであり,また空気流量ある いは気泡の大きさと反応速度との関連性については検討が 行なわれていない。
以上のような見地から本研究では主として水溶液中の Fe2+イオンの酸化速度に及ぼす空気流量あるいは気泡の大
きさの影響について研究を行なうζととした。本報におい てはそれらに先だって供試水溶液のpH値および温度など の反応条件について主として検討を加えることとした。
2 実験装置および方法
2.1空気酸化反応 2.1.1実験装置
本実験に用いた実験装置の概略図をFig.1に示す。
A
A:Compressor B:ManQrneter C:Orifice Flowmeter D二Vopor SatUra奮or E: Water Bath F:Reaetion Vessel G:Nozzle H:Reflux Condenser Fig. 1
B
E F c
H D
G Experimental Apparatus
空気はコンプレッサAから圧力計B,毛細管流量計C,
加湿槽Dを経てノズルGから反応槽Fに墨入される。
毛細管流量計はあらかじめ水置換法により補正を行なっ
た。
ま.た,加湿槽は多孔質ガラス板から水中に空気を吹出す ことによって細かい気泡を発生させ,送入空気中の水分を 室温における飽和蒸気圧に近づけるためのものである。
反応槽は摺合せの蓋をもつ内径120mm,高さ260mmの 円筒形フラスコであり,蓋の孔はノズル挿入目,試料採取 口,および還流冷却器取付口として使用した。:
空気出口に取付けた還流冷却器Hは反応槽内の気泡通過 による液の蒸発損失を防ぐためのものである。
2.1.2試 料
試料として用いたFeSO4・7H20およびCuSO4・5H20は それぞれ試薬特級品および一級品を用いた。また水は脱イ オン水にN2ガスを数時間吹込むことにより溶存酸素を除 去したものを用いた。
あらかじめの所定濃度のFeSO4水溶液およびCuSO4水 溶を母液として作成し,それぞれを試薬ビン内に保存し た。ただし.,このFeSO4水溶液には硫酸を添加し,その pH値を約2に調整した。これは母液保存中のFe2+イオン の酸化を極力防止するためである。.
.実験の開始に当って,上述のFeSO4水溶液およびCuSO4 水溶液をそれぞれ所定量採取し,水を加えて1000meとする
ことにより,試料溶液中のFe2+イオン濃度およびCu2+イ オン濃度をそれぞれ0.01mole/4およびO.005mole〃とし た。.
.2.1.3実験方法
以上のようにして作成した試料溶液1000π4にN2ガスを 約1.5時間吹込み試料作成時に溶解した酸素を除去した。
次に,2N−NaOH水溶液を所定量添加し,空気との接触を 断った状態で約1時間実験温度に保持した後そのpH値を 測定した。その後,コンプレッサから所定流量で空気を送 慨した反応を開始させる。実験開始後,所定聞隔で10nlず つ試料を採取した。採取した試料のFe2+イオン濃度の決 定は0.01N−K班nO4液を用い,常法によって行なった。
実験開始前および終了後の試料溶液のpH値の測定には 東亜電波工業㈱製ディジタルpHメータHM−20Bを用いた。
2.2気泡径測定 2.2.1実験装置
本実験はFig.1に示した概略図において反応槽Fおよ び還流冷却器Hを除き,水槽Eの正面にカメラおよびスト ロボを取付けて行なった。.
本実験に使用したノズルGは2.1に述べたノズルと同一 で,外径10mmのガラス管の先端に長さ5mm,内径1.Omm の毛細管を融着したものである。そのノズル先端部は静止 水面下18cmの位置に固定した。
上昇気泡の写真撮影には最:高シャッター速度1/1000秒 を持つアサヒ・ペンタックスSPを用いたが,気泡の上昇 により写真がぶれ解析が不可能であったので,露光時間 1/3000秒のカコ・ハイビームデラックス・ストロボを用い た。ストロボの位置は予備実験により水槽のガラス面でハ レーションをおこさないように決定した。
2.2.2実験方法
ノズルから水中に噴出される気泡の写真撮影は水槽の正 面に三脚でカメラを固定し,ストmボを使用し,レリーズ を用いて行なった。
まず,スケールを撮影することによって写真の倍率を決 定した6その後,所定流量で液体中に気泡を噴出させ撮影 を行なった。
3 実験結果および考察 3.1初期pH値の影響
試料溶液の初期pH値を4.2,4.5および4.8に調整し,液 温50。C,ノズルにおけるレイノズル数1000で空気酸化を行 なった。
実験結果をFig.2.に示す。
この図から判るように,初期pH値4.2の場合の反応速 度は終始小さいが,初期pH値4.5および4.8め場合の反応 速度はいずれも初期pH値4.2の場合の速度に比べると約 10倍程度大きくなっている。しかし,初期.pH値4.5の場 合には反応率(=(生成Fe3+量)/(初期Fe2+量))約0.5か
ら,また初期pH値4.8 a)場合には反応率約OL6からその 一 2 一
水溶液中におけるFe2+イオンの空気酸化(第1報) 近藤・長船・樋口 IOP
0 5?O一×ミ20εマ︒δ
06
●−一●軸●軸一●一●軸__● ●
O︐.\
翫︑
SYMBOL lnitial pH
e 4.2 e 4.5 0 4.8
一y
\××こ一,.一,.一.一一。
o s..so
Temp. 50ec
Re IOoo
\\︒\. ︑ 斌\辱・
0
10
0 5
師一O︸X=\Φ一〇¢﹂︸㌔臨O
1.0 2.O
Time ($ec)×:IOS
3.0
Fig.2 Effect ef pH on the rate of reaction
反応速度は急速に小さくなっている。またこれらの試料溶 液の反応終期のpH値はいずれも初期pH値より約0.6低 下していた。
以上のことから初期pH値4.5および4.8でFe2+イオ ン濃度が急激に減少する初期の酸化反応は式(1)にみられ る酸生成反応であり,この反応の進行とともに液のpH値 は低下する。そして電位一pH図におけるFe3+イオンの安 定領域に入ると
Fe2++so42一+S−H2SO4+{}02
・・F…+9・・1 +去… (・)
の反応がおこると考えられる。この反応は酸消費反応であ って,その反応速度は式(1)に比べて極めて小さいことが 知られている2)。したがって上に述べた空気酸化の反応後 期においては式(2)の反応が式(1)の反応とともに同時に 進行し,反応速度は低下し,溶液のpH値はほとんど進行
.しなくなるものと考えられる。
3.2温度の影響
試料溶液の初期pH値を4.5に調整し,液温40。,50。お よび60。C,レイノルズ数1000で空気酸化を行なった。
実験結果をFig・3に示す。
この図より判るように,温度の上昇とともに初期反応速 度は増大している。
本反応系の反応機構とその律速段階はまだ明らかではな いが,いま仮りにその反応速度が水溶液中のFe2+イオン 濃度に比例する一次反応であるとすると,Fe2+イオン濃 度は時間に対して指数関数的に減少することとなる.。すな
一N−
x.× x.
.sexe ● 1〜
\O
@ A\
@\\誌
Ob\
SYMBOL Temp.
一 40ac o soec o 600c
lnttlal pH 4.5
Re Iooo
o O 1.0 2.0 5D
Ti me {sec)xt o
Fig. 3 Effect of temperature on the rate of reaction
わち,Fe2+イオン濃度の対数値と時間との聞には直線関 係が成立し,その直線の勾配から反応速度定数k(sec−1)
を求めることができる。
Fig. 4にFe2+イオン濃度の対数値と反応時間との関係 を示した。
一2,0
5 乏
・︒︑OOo﹂
ミミこ一r;繍・誹
\譲讐2
ゆ ココの
k筥a95×10喝ls8c『tr一一一一一一r讐o
SYMBQL 丁emρ一
一 40ec e soec e 60eC
一5.O
O 1.0 2.0 3.O
Time (sec) xlo
Fig. 4 Logarithmic concentration of Fe2+ ion vs.
reaction ti皿e
同図より明らかなように,反応の比較的初期では両者の 間に直線関係が認められ,これらの直線の勾配から求まる 速度定数の値を同図に記入した。このようにして求めた速 度定数の対数値を絶対温度の逆数に対してプロットするこ
とにより得られるアレニゥス・プロットをFig.5に示し た。この直線の勾配から見かけの活性化土ネルギとして約 11kcal/moleを得た。
一4.0
5
4.
エ0︒﹂
一50 e
e
e
Fig・6に見られるように,本実験で測定したレイノルズ 数500,700,1000,1500および2000における気泡の平均球 体相当径可の値には有意な差違が見当らない。
3.3.2空気流量の影響
試料溶液の初期pH値を4.5に調整し,液温50℃,レイノ ルズ数700,1000および1500で空気酸化を行なった。
実験結果をFig.7に示す。
IO.O
も茎蚤塞
隔で50
8一
5.0
Fig. 5
3.1 3,2
レT〔OK冒。}×IO
Arrhenius plot
Ingraham等8)は式(2)に示す反応について速度論的研究 を行ない1。〜24。Cにおける活性化エネルギは約6kcal/mole であり,それ以上の温度では活性化エネルギの値は無視で きるほど小さいと報告している。
3,3空気流量と気泡の大きさの影響 3.3.1空気流量と気泡径との関係
2.2.で述べた方法によって撮影した気泡の形状は球形,
回転惰円形およびキノコ笠形の三種類のものが観察され た。これらの形状の気泡の直径からそれぞれの体積を求 め,それと同体積の球の直径に換算し,さらに写真の引伸 し倍率で割って球体相当径dを求めた。ノズルにおけるレ イノルズ数に対して各レイノルズ数において測定したdの 平均値iをプロットしてFig.6を得た。
)FNNX S:ixxxo.ttx. ・:××xi〈x.,,,,
1.O
5 0
︵Eo︸η
o
o o o
o
SYMBOL Re . 700 e looO
.e lsoo
ox一一一一〇
lnitial pH 4.5
Temp. soec
o
500 700 IOOO t500 2000.
Reyneldz number
Bubble diameter vs. Reynolds number
o O LO 2.0 5,0
Time (sec)klO
Fig. 7 Effect of Reynolds number on the rate of reaction
この図から判るように,レイノルズ数が増加すると酸化 反応速度も若干上昇している。しかしFig.6に示したよ うに,本実験におけるレイノルズ数の範囲内では気泡の平 均球体相当径に大差が認められないため,Fig.7に示し たレイノルズ数の増加による反応速度の上昇は主として空 気流量の増加によるものと考えられる。
4 結 言
Pig. 6
気一液系反応の一例として水溶液中におけるFe2+イオ ンの空気酸化を取上げ,その酸化速度に及ぼす水溶液の初 期pH値,液温,および空気流量などの影響について研究 を行なった。
得られた実験結果を要約すると次のようになる。
(1)初期pH値4..2の永溶液における. Fe2+イオ.ンの酸 、化反応速度は低いが,初期pH値4.5および4.8の水 溶液の初期反応速度はpH値4.2の水溶液の約10倍で あり,かなり高い値を示した。しかし,これらの水溶 液においても反応率0.5ないし0.6以降の反応後期に おいてはその反応速度はpH値の低下とともに急速に 減少した。
一 4 一
水溶液中におけるFe2+イオンの空気酸化(第1報) 近藤・長船・樋口
(2)液温の上昇とともに初期反応速度は増大した。ま た,この反応の見かけの活性化エネルギとして約11 kcal/mole を得た。
(3)レイノルズ数500,700,1000,1500および2000に おける気泡の平均球体相当径の値はほとんど相違が無 く,レイノズル数の上昇に伴なう酸化反応速度の上昇 は主として空気流量の増加によるものと考えられる。
終りに,本実験の一部を熱心に遂行されました増田博史 氏(日本鉱業㈱)に深く感謝致します。
文 献
(1) A. B. Lamb and L. W. Elder; J. Amer. Chem. Soc.,
vol. 53, (1931−1), 137−166
(2) P. George; J. Chem. S6c. (London), (1954−6), 4349−
4359
(3) A. M. Posner; Trans. Farady Soc., voL49, (1953),
389−395
(4)R.E. Huff皿an and N. Davidson;」. A皿er. Chem・
Soc., vol 78, (1956),4836−4842
(s) D.1. Nicol ; National lnstitute for Metallurgy,(1975−
4), 1−18
(6)大橋,福島,吉永,東;日本鉱業会春季大会予稿集,
(昭51),132
(7)田村,高橋,永山;電気化学協会春季大会予稿集,
(昭51),160
(s) T. R. lngraham and G. Thomas; Gorden and Breach Science Publlshers (New York), (1964), 67