水海道方言 の4つの斜路*
佐々木 冠 (筑波大学)
ダニエラ 。カルヤヌ (筑波大学大学院)
キーワード : 意味格、斜格、払milyresemblance、名詞句階層
0 はじめに
標準語の格助詞 「に」は意味的に多岐にわたる用法を持つ形態素であ るO水海道方言では標準語の 「に」の使用額域で5つの格助詞‑ngani,‑age,
‑sa,‑ni,‑eが用いられている。本稿では 、この うち‑ngani,‑nge,‑sa,‑niの 4つの格助詞の用法を明らかにしたい1。なお、この4つの格助詞の用法 を明らかにするためには、この4つ以外の格助詞とこれ らの対立をも問題 にすべきではあるが、本稿では もっぱらこの4つの格助詞の間の対立関係 と重複関係をもとにその用法を明らかにしていくことにしたい。水海道方 言の格助詞すべてで構成され る体系の中でのこの4つの斜格格助詞の位置 付けは今後の課題 とし、さしあた り問題 としない。
本稿の構成は次の通 りで ある。1節では先行研究の紹介を通 して この 方言の概略を述べるとともに、我々の行った調査の概要とデータの表記法
せ本稿は、1995年に書いた同名の未刊行草稿の改訂版である。この草稿に対して、金水 敏、角田多作、橋本修、松村‑登の各先生方から有益なコメン トをいただいた.この場を借 りて感謝の意を表したい。今回の改定にあた り、諸先生方か らいただいたご教示を生かすこ とができなかった点があるとすれば、その責任が筆者にあることは言 うまでもない。なお、
本研究は学内プロジェク ト研究費 (筑波大学、裸題 :水海道方言の文法記述)の助成を受け たものである。
l本稿では、格助詞‑eは考察の対象か ら外す。この格助詞は、先行研究では格助詞‑saと 同じ無生の 「ゆきさき格」と分類されている。実際、格助詞‑eは、ほとんどの用法において 格助詞‑saと交換可能である。格助詞‑saではなく、もっぱ ら‑eが用いられるのは、egg‑e‑no mLzi(駅への道)のような連体修飾環境であるOこのような環境では‑saを用いることはでき ない。本稿は、連用修飾構造における斜格助詞の用法の記述を目的としているので、‑Cは考 察の対象か ら外すことにした。
6 一般言語学論叢第2号(1999)
を示す02節では、‑ngani,‑nge,‑saの用法の意味的特性を記述し、3節で は‑ngeと‑sa、‑nganiと‑ngeの用法上の重なりと‑niと他の格助詞の対立と 重複を記述するとともに、「無標の斜格」としての一山の位置付けを明らか にしたい0 4節ではいくつかの残された課題について述べたいo
l 前提 となる事柄
1.1 水海道方言の概要
我々が ここで水海道方言と呼ぶものは茨城県南西部の水海道市を中心と する地域で話されている言葉である。茨城県の方言を3分割する説に従 う と茨城県西部方言ということになる。この方言の格助詞の体系は隣接する 埼玉県の方言 (井上1984)と共通する面が多いOこの方言の音韻体系およ び形態 ,統語論的特徴は宮島(1956,1961)に描かれているO
音声的特徴 としては、母音間閉鎖音 ,破擦音の有声化現象と 「ジピズブ」 の無声化が上げられ る2。また、標準語の 「ゆ」や 「ゆう」に対応する音は 中音よ りの狭母音として実現するアクセン トに関しては、茨城県の他の地 域と同様に無アクセント方言である。以上の音声的特徴を持つこの方言の 表記法 として、本稿では次の表記法をとることにする。母音に関しては、
「a,i,U,e,o」は標準語のそれ と近似した音価を持つ音を表わす ものとす るO「uJは非 円唇母音である.「i」は、標準語の 「ゆ」に対応する箇所な どに出現する中音化した狭母音である。「Ⅴ:」は長母音を示す。母音の無 声化は母音の脱落 と見なし、無声化した母音は母音としては表記しない。
子音に関しては、「p,i,k,b,d,i,m,n,S」は標準語のそれ と近似した音価 を持つ音を表わすO「h」は後続する母音とほぼ同じ調音位置で発音され る 無声摩擦音を表わすO「j」は硬 口蓋わた り音を表わし、「Cj」は口蓋化し た子音を示すO「ng」は 「ガ行鼻濁音」である。「N」は擬音を示すことに するO先行研究か ら引用したデータは、先行研究の表記 (カタカナ表記) のままとす る。
水海道方言の形態論的特徴に関しては、本稿に関与的な格助詞の体系に ついての概観にとどめる.先行研究 (宮島1956)で示された格助詞体系を 我々の表記で表わす と次のようになる.
2これ らのプ ロセスは現在では生産性を失いつつあり、標準語の無声子音がつねに有声子 音になって対応しているわけではない。
一般言語学論叢第2号(1999)
(1)水海道方言の格助詞 :
先行研究の名称 いきもの もの 本稿の名称 はだか格 ‑め ‑め 主格
目的格 ‑god0 ‑4) 対格 ゆ くさき格 ‑nge ‑Sa,‑e 与格 場所格 (連用) ‑ni ‑ni 位格 能力格 ‑ngani 経験者格 道具格 ‑de ‑de 具格 もちぬし格 ‑nga ‑nO 属格
場所格 (連体) ‑na 場所格 (連体 )
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このよ うに、水海道方言の格助詞は、いくつかの格で有生名詞に付属する 格助詞 と無生名詞に付属する格助詞が形式上対立していが 。
着点を表わす‑saまたはそれ と起源を共有すると思われ る形式を持つ方 言や、着点を表わす‑ngeまたはそれ と起源を共有すると思われ る形式を持 つ方言は少な くない。前者は、東 日本では関東 。東北そして西 日本では九 州に分布している。後者は、九州以南に主に分布し、東 日本では八丈島と 茨城県西部および埼玉県 と栃木県の一部に分布している02つの着点を表 わす形式は ともに 日本の歴史的な中心地を囲む形で分布している。
水海道方言では2つの着点を表わす形式が共存しさらに経験者を表わ す‑nganiを有するため、標準語で 「に」で表わされ る額域が形式上きめ細 か く分割されている。
1.2 調査
本稿のデータは、1994年か ら水海道市に隣接する岩井市で60代の話者 に行った調査 と1995年に水海道市で60代か ら80代の話者に行 った調査 で得 られたものである。調査に協力してくれた話者は30名にのぼる。上記 の表記法で示されている例文はすべて この方 々か ら教わったものである。
調査のために貴重な時間を割 いて下さった方 々に感謝の意 を表わしたい。
3なお、‑saは話者によって‑seになる場合があるが 、ここでは‑saで代表させることにす る。また、IgOd0,‑garaなどは子音を無声音で発音する話者が 、これ も一god0,‑garaで代表さ せる。
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'こ 憲二;‑:;:''i・・::二:;:、.I.∴一・.L・F..、'
2.1 ‑∩ge
ほとんどの話者によって用いられているNP‑ngeを含 む構文は、(3)に示 す3項動詞 (授受動詞 )を主要部とする構文である。なお、(2)の表の数 字は人数を表す。
(2) 対応す る標準語 NP‑ngeを使 う話者 構文タイプ (誰 々に)奄甫す る
(誰 々に)頼む (犬 に)放言 (馬に)乗る (誰 々に)似ている (誰 々に)親切だ (誰 々に)でか い (仏様に)あげる (誰 々に)寒い (先生に)向いている (バイ クに)乗る
19 19 18 16 13 12 8 6 3 3 2 1
使役文 (他動詞文か ら) 授受動詞 (情報伝達) 接触動詞 (対象‑有生) 動作動詞 (対象‑有生) 類似動詞 (対象‑有生) 形容動詞 (受益者補語) 形容詞 (描写の基準) 授受動詞 (着点‑霊的存在) 形容詞 (描写の基準) 関係動詞 (描写の基準) 動作動詞 (対象‑有生)
(3)a.one‑nge ktire‑ru..… ...… ‥‥‥.授受動詞 (物質移動) あなたヰ (着点)あげる
b.anohjto‑nge tsjkurappoit‑tsjat‑ta. 授受動詞 あの人一与 (着点)嘘一対 言ってしまった (情報伝達) C.zimuen針nge tanON‑tsj‑kj‑ta… ........授受動詞 (情報伝達)
事務員ヰ (著点)頼んできた
これ らの構文はすべて項構造において動作主、移行の対象、移行の着点と いう3つの項を含んでいる。(3a)と(3b,C)は、移行の対象は具体的なもの であっても抽象的な情報であってもかまわないことを示している。
上記の例では 、すべての構文で行為の著点が有生でしかあり得ないた め、必然的に有生の 「ゆきさき格」である‑ngeが用いられるO同様に行為 の着点が有生でしかあり得ない構文に(4)の受益構文がある。
(4)mango‑nge kore kose‑da‑Nda 孫ヰ 格 (受益者)これ一対 作ったんだ
一万、3項動詞でも着点が有生の場合もあれば無生の場合もある場合 は、以下に示すように有生の着点には‑ngeが用いられ 、無生の著点には‑sa
一般言語学論叢第2号(1999) 9 が用いられ る。
(5)a.hjto‑nge mizubukkage‑N‑zja‑ne. 人一与 (着点)水一対 かけるんじゃない b.gohaN‑sa natto kage‑detabe‑ttsi‑mae
ご飯ヰ (着点)納豆一対 かけて 食べてしまえ
なお、こうした構文で‑ageや‑saの代わ りに‑miが使われ る例については後 述することにするO
これ らの典型的な用例のほか 、以下に示す2項動詞を含む構文で もNP‑
ngeが用いられ る。
(6)a.ozitsjaN‑nge naate‑de kj‑ta b.uma‑nge nor‑u お爺さん一与 (着点)名宛てで 来た 馬ヰ (着点)乗る C.anoinn‑age sa:i‑tokuttsugare‑N‑do
あの犬一与 (対象)触ると 食いつかれるぞ
これ らの2項動詞は、着点 ・対象が無生の場合は名詞に‑saが付属する。
(7)a.ora‑tsj‑a dare‑moki‑ne: 私の家一与 (著点)誰も一主 来ない b.t)aeku‑sa not‑te‑N‑be
バイクヰ (着点)乗っていこう C.kore‑sa sa:レtsjadame‑da
これ‑与 (対象)触ってはダ メだ
2項動詞では上記の例のよ うに有生 ・無生双方の着点をとる動詞もある が、(8)の例のようにもっぱ ら無生の着点をとるものもある。
(8)mitskedo‑saeN‑be 水海道一与 行 こう
(8)の構文の場合着点が有生であることはありえない。この場合、(3)の3 項動詞の場合とは反対に、着点が無生であることが義務的である。仮にあ る人物のもとに行 くという動作を表わす とするならば、Ltsj(‑〜の家)」
10 一般言語学論叢第2号(1999)
などの形態素を人間名詞に付加することによって場所化を行 うoeng‑を主 要部とする構文にはNP‑ngeは出現し得ない4O
上記の2項動詞 と3項動詞構文において共通 している点は次の2点で ある。
a.述静によって表わされ る行為がNP‑ngeで表わされ る項に向けられた ものであること。
b.NP‑ngeで表わされ る項が述語で表わされ る行為の終着点を意味する こと0 3項動詞の場合には、NP‑ngeは、物質または情報の着点を示 し、2項動詞の場合には、述語で表わされ る行為が完結した地点を示 している。
この2つの共通点ゆえに、上記の例文のNP‑ngeは [+directed](a.)と[+con‑
tact](b.)とい う素性を共有しているものと考 えられ る。ただ し、全ての NP‑ngeの用例が2つの素性を含んで いるわけではないよ うである。以下 に示す文に現われ るNP‑ngeは[+contact]の素性を欠いているように思わ れる。
(9)a.odogo‑ngaoNna‑nohjto‑ngehole‑de‑Tu
男‑ガ 女の人一与 惚れている b.hamonohjto‑ngemuse‑de...
刃物一対 人一与 向けて...
C.seNse‑ngemuede‑be d.urusトngeni°e‑ru.
先生一与 向いているだろう 漆一与 似ている
これ らの構文ではNP‑nge以外の項がNP‑ngeで表わされ る項に接触す ることは含意されていない。しかし、述語によって表わされる行為(9b)ま たは状態(9a,C,a)が方向性を含んでいることは明らかであるoしたがっ て、こうした用法においてもNP‑ngeで表わされ る名詞句は〔+directed]の 素性を持っていることになる。
標準語には 「教える」「教わる」のよ うに請負的に関連のある動詞が、と もに 「Np‑に」をとる。この場合、その 「Np‑に」が担 う意味役割が異な
4欝秦概念構造における着点の有生性の前指定は、3項動詞の場合 [+animate】のかたちで 起き、2項動詞の場合ト animate】の形で起きているようである。
一般言語学論叢第2号(1999) ll るO「教える」の 「Np‑に」は着点であり、「教わる」の 「Np‑に」は起点 である。また、「聞く」のように動詞が同じ形でも「Np‑に」が場合によっ て異なる解釈を受ける場合がある。
(10)a.彼女が 彼に 駅への道を 教えた‥‥… ..… ‥‥‥‥Np‑に‑着点 b.彼は 彼女に 駅への道を 教わった ‥‥‥‥… ‥… .Np‑に‑起点 C.彼は その間題について 先生に きいた ‥… ..… ‥.Np‑に‑着点 d.彼は その話しを お爺さんに きいた ‥‥… ..… ‥.Np‑に‑起点 e.子供に もらった
f.親に もらった
Np‑に‑着点 Np‑に‑起点 (lob,d,f)の 「Np‑に」はそれぞれ、rNp‑か ら」で置き換えることが可能で ある。岩井市や水海道市で話されている方言では、(10a,C,e)の 「Np‑に」 に対応する表現はNP‑ngeで表わす ことが可能だが、(lob,d,i)の「Np‑に 」
で表わされ る表現はNP一mgeで表わす ことが出来ない :
(ll)a.mango‑ageose:‑ru‥ .… ‥‖… ‥… .,… … .NP‑nge=着点 (10a) 孫一与 教える
b.奉oga:S左N‑ageosa:t‑ta ‥… ‥‥… ‥… 川 .*NP‑nge=起点(lob) お母さん‑与 教わった
C,oga:saN‑ni osa:i‑ta. … .‥… … ‥… "… … NP‑ni=起点 (lob) お母さん一位 教わった
d.tomodazi‑ngeogane kas‑togi ‥… … 川 ..‥‥… NP‑nge=着点 友達一与 お金一対 貸すとき
e,*to:tsjaN‑ngekar‑i‑tsj‑kj‑ta‥‥‥‥‥… ...‥‥… *NP‑nge=起点 お父さん一与 借 りてきた
f.togae‑nohjto‑jamaziba‑nohjto‑ngekjk‑togiwa… NP‑Age 都会の人や町の人ヰ 聞くときは… =着点(loo) g.sonohjto‑niki:‑da hanasi‑wa dare‑nge‑momores‑a‑nae‑gaN‑na.
その人一位 聞いた 話‑トピック 誰一与‑も 洩 らさないか らな NP‑ni=起点 (lo貞) h.*dorobo:ziNsa‑nBetSkamaも‑ta … … ..… … *NP‑nge=動作主
泥棒一主 巡査一与 捕まった (動作の起点)
12 一般書哲学論叢第2号(1999)
Ldorobo:ziNsa‑nitskamat‑ta.‥… ‥..日 .… … . NP‑ni=動作主 泥棒一主 巡査一位 捕 まった (動作の起点 ) j.darega‑nihku‑demo moral‑te.‥‥‥‥… ..… ..NP‑ni=起点 持OO
誰か‑位 服一対‑で も もらって
k.sajuri‑ngemorat‑ta........"..............NP‑nge=執 *(10e) さゆ り一与 もらった
Lodogo‑ngaoNna‑nohjto‑ngebore‑de一m ‥..‥... NP‑nge‑感情 男‑ガ 女の人ヰ 惚れている の対象(9a) m.*oNna‑ngemode‑ru..‥‥‥… ‥‥‥‥.." .*NP‑nge=経験者
女一与 もてる (感情の起点 )
NP‑ngeは行為の着点を表す ことは可能だが 、行為の起点を表す ことはで きないO このことか らもNP‑ngeで現われ る名詞句は [+directed]の素性 を 持 ってい ることがわか る。
使役構文や受益構文 といった派生的な構文に現われ るNP‑ngeもまた こ の素性を持っているO使役構文における被使役者 と受動文における 「意味 上の主語 (抑制され た外的項)」は、いずれ も動詞の形態論的派生に伴って 生じた斜格要素で あ り、標準語ではともに 「に」で表わさる。一方 、この 方言では 、両者は、以下に示すよ うに異なる形式で表現 され る。
(12)a.mango‑ngeemu‑ngesa:r‑ase‑ne:. 孫一与 犬一与 触 らせない
b.seNse‑niogor‑are‑da c.*seNse‑ngeogor‑are‑da 先生一位 怒 られた 先生一与 怒 られ た
(12a)のよ うな被使役者は項構造において使役行為の被 り手 と解釈 され う るものであ り(AIsina1992)、[+directed】として解釈可能である。なお 、こ こでは‑ngeが付属する名詞が2つ存在しているが、inu‑ngeの方は動詞語 幹によって選択 されている[+directed】の項であるのに対 し、mango‑ngeの 方は使役形態素に [+directed]の項 として選択されているO‑方 、受動文の 意味上の主語は動作の被 り手 とい うよ りは動作を発する側であ り、着点 と しての解釈が不可能である。NP‑ngeとい う形をとることが 出来ないのは 、 このため と考 え られ る。
一般書語学論叢第2号(1999) 13 受益構文には、(4)に示した動詞に+ αの要素が加わらないタイプの他、
「動詞+て」に後援する要素の性質によって異なるいくつかのタイプがあ る(Uda1994)O以下に示すよ うに受益者を主語とし受益行為の送 り手を斜 格 として表わす フレームをもつ 「〜てもらう」タイプの構文では 、標準語 で 「に」でマークされ る名詞句を‑ngeでマークすることが 出来ない。
(13)a.kodomo‑ngehku tat‑tejar‑a‑ne … … ‥… … ‥… .V‑tejar‑u 子供一与 服一対 買ってや らない
b.hana‑ngemizukure‑dekuro.… ‥‥‥‥… ‥… ‥… V‑tekure‑ru 花一与 水一対 くれて くれ
C.*kodomo‑ngejoN‑demora: ‥‥‥‥‥‥‥… ‥‥… ..V‑temora:
子供一与 読んで もらう
d.to:tsjaN‑ni ki:doe‑temora:‑be: .‥… … … .‥...V‑temor且: お父さん一位 開いておいてもらお う
e.sajuri‑ngekose‑demoraトta.… 日.…‥‥‥HHHHH V‑temora:
サユ しト与 作ってもらった
(13a,b)のjaト,kure‑を用いる受益者構文では受益者がNP‑ngeの形をとっ ている。これは、受益者が受益行為に関して[+directed】の素性を持つため と考え られ る。一方、mora:を補助動詞 とす る構文(13C,也)では受益者は 主格 とな り、受益行為の起点である動作主は斜格 (NP‑ni)で ある。そし て、標準語で 「に」が付与され る場所に‑ngeが現われ ることが出来ないO (13e)において 「〜て もらう」タイプであるに もかかわ らず受益者が‑nge でマークされているのは 、このNP‑ngeが 「〜て もらう」に選択されてい るのではな く、動詞語幹(紅ose‑)によって選択されているためである。「〜 てもらう」タイプの受益者構文は、動作主がNP‑niで現れる点で 、受動文 と共通点を持っている。
これ まで 、主に動詞を主要部 とする構文について見てきたが、NP‑nge は形容 (動)詞文にも出現する。
(14)a.tosijori‑ngesiNsezu‑da. ら.enu一mgemottaene: 年寄 り一与 親切だ 犬一与 もったいない
14 一般言語学論叢第2号(1999)
(14)でNP‑ngeで表わされている名詞句は、意味的素性として [+directed】
と巨contact】を潜在的に持っている。なぜなら、(14a)の場合、親切の被 り 芋を表わしているし、(14b)の場合、「もったいないもの」の潜在的な受け 手を表わしているか らであるOこれ らの構文のNP‑ngeは、意味的な特性 としては(3)の3項動詞構文のNP‑ngeと同じであるOしかしなが ら、全 ての話者がNP‑ngeを使 うというわけではな く、何人かの話者はNP‑nge ではなくNP‑niを使 うべきだという判断を示している。これは、構文の主 要部が動詞ではなく形容 (勤)詞であるからか もしれないO
上記の例文でNP‑ngeで表わされていた名詞句はいずれ も[+directed]の 素性を持つものであった。しかし、以下に示す例文に現われ るNP‑ngeは 起点の読みこそないものの[+directed]の素性を持っているとは解釈Lがた いものである.
(15)a.ore‑ngani‑wa dekkae‑na 私一種 ‑トピック 大きいな b.tosijoかngesamue‑jO,SOttSi‑wa
年寄り一与 寒いよ そっち‑トピック
これ まで 、挙げてきた例文はすべて、文の命題的意味を変えずに‑ngeを‑
nganiに置き換えることは不可能だが、(15)の例文は、NP‑ngeをNP‑ngani に置き換えても命題的意味が変わらないol+directed】の素性を欠いている 点と‑ngeと‑nganiが互換性を持っている点で(15)の例はこれ までの例と 異なる。こうした例を含めて‑ngeの性質を規定するには、用例に一貫する 素性を指摘するのとは別の分析が必要となる。2.4では、この間題に関し て、familyresemblanceの概念に基づ く分析を行 うことにする0
2.2 ‑sa
‑saが用いられやすいのは、前節の(5),(7),(8)に対応する無生の著点ま たは対象名詞句を含む構文である。
一般書語学論叢第2号(1999)
(16) 対応する標準語 NP‑saを使 う話者 構文タイプ (見に)行く
(殿に)触る (バイクだy乗る (バスに)乗㌃ (馬に)乗㌃
(犬に)触る (風呂に)入れる (仏様に)あげる
21 19 19 13 10 10 8 6 5
目的の婦文標識 接触動詞 (対象‑無生) 動作動詞 (対象‑無生) 動作動詞 (対象‑無生) 動作動詞 (対象‑有生) 接触動詞 (対象‑有生) 授受動詞 (著点‑無生) 授受動詞 (着点‑霊的存在)
15
この用法に関してはr saは、‑ngeと有生性において対立しているといえ るOまた、‑saは名詞の格助詞 としてだけではな く、目的節や行為の目的 となるeventnominalを導 く補文標識 としても用いられる0
(17)e:nga mi‑saengTu 映画一対 見一与 行 く
前按する要素こそ格助詞の場合とは異なるが、主節で表わされ る行為の潜 在的な到達点としての目標/目的を表わしているわけだから、意味的には これ までに出た格助詞の用法と共通する点があるといえるだろう5。
しかしなが ら、NP‑ngeの場合と同様、NP‑saの場合にも[+directed】と [+contact]の双方を含むとは認めがたい。
(18)a.nani‑sani‑de‑ru?
何一与 似ている
類似の対象
b.kuwa‑noaeda‑satskut‑ta‑Nda‑gedo‑jo‥ .… ‥ ‥ ‥‥… 出現の場所 桑の間一与 作ったんだけどよ
C.kogo‑saaNmaritska‑ne: ‥‥‥‥… … … … .‥‥..使用の場所 ここ一与 あまり 使わない
(18a)は[+contact]の素性こそ持たないが、(9d)の場合と同様、述語が状態 の方向性を示している点で、i+directed】を含むものと思われ る。しかし、
(18b,C)には[+directed〕も[+contact】も認めがたい。‑saの場合にも‑ngeの 場合 と同様 こうした周辺的用法をも含めて意味的な定義を与えるために は、用例に一貫する素性を指摘するという方法は不適切と思われ る。‑nge
5Ⅰ止koff(1993)にもr行き先」としての 「目的」という分析がある.
16 一般言語学論恭第2号(19991
にせよ‑saにせよ主格や対格 といった文法格ではない。従って、何 らかの 形で意味的な定義を行なわなければならない。こうした形式を記述するた めには、後述するようにfamiiyresembianceの概念に訴えるべきであるよ
うに患われ る。
2.3 1ngani
Np‑nganiは、標準語における与格主語と似た分布をしているo標準請 において与格主語をとる構文には 「所有 ・可能 。必要を中心とした概念を 表わす状態述語 (動詞 ・形容詞 ・形容動詞)」(柴谷 1978:223)を主要部と するものが多いとされ るo岩井市 。水海道市で話されている方言の場合、
動詞文では、この うち可能および必要を表わす構文で、NP‑nganiが用い られ るO所有 もしくは存在を表わす構文では用いられない ((19e)参照)。
(19)a.ore‑nganja so:♭no wagaN‑ne‑gara 私一経‑トピック そ ういうの わか らないか ら
b.muko:‑nosjtodazi‑mganJa SungOgu:kjtsug‑ukjkoe‑da 向こうの人たち‑桂一トピック すご く きつ く 聞こえた C.ore‑ngani‑wa mie‑ru
私一経‑トピック 見える d.ore‑nganisore‑ngaera‑ne.
私‑経 それ‑ガ 要らない e.*ore一mganja kane‑nganae.
私一経‑トピック 金一ガ ない
NP‑nBaniで表わされている名詞句は、広い意味で経験者 として解釈され るものである。
以下に示す例文は、可能表現におけるNP‑nganiの用例である。NP‑ngani をとる構文の主要部は、内在的に能力表現である動詞 (Iやa)であっても、
派生的に可能表現になった動詞でも構わない。
(20)a・are‑nganja e:ngo sjaber‑e‑N‑nga"
彼一線‑トピック 英語一対 しゃべれるが…
b.ora‑nganla OJOng‑e一m.
私‑経‑トピック 泳げる