水海道方言 の連体修飾格*
佐 々木 冠 (日本学術振興会)
ダ ニ エ ラ 。カ ル ヤ ヌ
(筑波大学大学院)
キ ー ワ‑ ド: 連 体 修 飾 格 ,所 有 格 , 名詞 句 階層 ,名詞 間 の意 味 関 係 ,準 体 助 詞
1.は じめに
Blake (1994:112)に よれ ば ,連 体 修 飾 機 能 を担 う格 ‑属 格 は ほ とん どの言 語 に お い て1つ の形 式 に よ って担 われ て お り,英 語 は'S属 格 とof属 格 とい う形 式 的 に 異 な る2つ の連 体 修 飾 格 を持 って い る点 で特 殊 で あ る とい う1). この見 解 を基 準 とす るな らは , 日本 語 の標 準 語 は連 体 修 飾 格 助 詞 が1つ しか な い点 で類 型 論 的 に無 標 で あ る とい え る .一 方 ,九 州 ・沖 縄 な ど南 日本 の い くつ か の方 言 は2
つ の形 式 的 に対 立 す る連 体 修 飾 格 助 詞 が 存 在 す る点 で英 語 と同様 に 有 標 で あ る
*本稿は第59回 日本方言研究会で発表 した内容 (カルヤヌ&佐 々木 1994)に,その後の 調査で得たデータを加え,大幅に改訂 した ものである.カルヤヌ&佐 々木 (1994)以来 貴重な御教示を賜 った河合透先生,奴生倍大郎先生,竹沢幸一先生,角田大作先生,橋 本鯵先生,松村一堂先生,松本克己先生,宮島達夫先生,佐藤琢三氏,山田久就氏,石 臼尊氏,福盛貴弘氏に深 く御礼申 し上げたい.また,筆者 らの調査に根気強 くつ きあっ て下 さった岩井市 ・水海道市の皆 さんの協力がなければ本研究は成 り立ち得なか った.
この場を借 りて感謝の意を表わ したい.なお, この論文におけ るデータ解釈上の誤 りな どすべての ミスは筆者 らの責任である.
1)連体修飾格が総合的 (synthetic)な形式 と分析的 (analytic)な形式で対立 している 言語は英語だけではない.Nikiforidou (1991)紘,中世 フランス語や コイネ‑の時代か ら現代にかけてのギ リシア語において同様の対立が存在 したことを報告 している. 日本 語のい くつかの方言は,対立す る2つの連体修飾格が格助詞 とい う同 じ文法 力テゴl)‑
である点において,連体修飾格が 2つの文法 力テゴ1)‑に分裂す るヨー ロッパの言語 と 異なる.
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といえ よう.本稿 で記述す る水海道方言は,3つの連体修飾格助詞 を持つ点で英 語や南 日本の方言 と比較 して も有標性 の高い格体系を持 ってい る.
本稿では,連体修飾格助詞が付属す る名詞 の名詞句階層上 の位置付け と連体修 飾構造 におけ る名詞間の意味関係か ら水海道方言の3つの連体修飾格助詞 の性質 を明 らかに したい.また,「属格重複現象」の記述を通 して連体修飾格助詞が準 体助詞 として転用 され る場合におけ る形式間の対立 を も明 らかに したい.
我 々が本稿において水海道方言 と呼ぶ言語体系は,水海道市を中心 とす る茨城 県南西部 で話 され てい る言葉 である. この方言は宮 島 (1956)の記述か ら明 ら かな よ うに,音韻的には茨城県の他の地方 の方言 と共通す る点が多い ものの,袷 助詞の体系はむ しろ利根川をはさんで隣接す る埼玉 の方言 に近い,この方言 の格 助詞の体系は与格や対格そ して本稿で問題 とす る連体修飾格 において有生格 と無 生格が対立 している点が一つの特徴 となっている.
本稿で用いるデータは筆者 らが1994年か ら1996年は じめにかけて行な った フ ィール ドワー クに よって得た もの と長塚節の小説 『土』2)の会話部分か らの引用 である.調査は水海道市及び岩井市において約30人 の60代か ら80代の男女に対
して行な った ものである.
なお, この論文 で扱 う連体修飾構造は 「私の服」 の よ うに 「名詞句一連体修節 格助詞 名詞」とい う構造だが,便宜的に連体修飾格助詞 に前接す る部分を Nl, 後接す る部分をN2と呼ぶ ことにす る.また,同様 の構造内の主要部 について言 及す るときほ N2を指す もの とす る.
2.水海道方言の連体修飾格
水海道方言 には以下 に示す3つの連体修飾格助詞があ る. これ らの格助詞は標 準語の 「の」がそ うであるよ うに連体修飾構造のみで用い られ,動詞や形容詞を 2)『土』は1910年に朝日新聞に達哉された長塚節の小説.この小説の舞台となっている のは現在の茨城県結城郡石下町国生で,この小説の会話部分に現れる言語表現は,この 時代の茨城県西の方言を反映したものと考えられている (宮島1961・.239).本論文にお ける引用ページは新潮文庫版のページに対応 している.文献学的観点からは春陽重版が もっとも良いという (河合透氏の指摘による).ここで新潮文庫版を用いたのは,たまた ま筆者らが新潮文庫版をもとに 『土』の会話部分のデータベース作 りを開始してしまっ たという事情によるものである.
主 要 部 とす る構 造 で は用 い られ な い3). この点 は連 体 修 飾 格 と して対 立 す る形 式 が動 詞 や 形 容 詞 を主 要 部 とす る構 造 で も用 い られ る琉 球 方 言 と対 立 す る (松 本 1990).それ ぞれ の形 式 の使 い分 け は , も っぱ らそれ が 付 属 す る名 詞 の性 質 に依 存 す る もの とされ て きた .
(1) 水海 道 方 言 の連 体 修飾 格 助 詞
名詞 の性 質 着生 無生 場 所
宮島 (1956)紘 ‑nga,‑no,‑naをそ れ ぞれ 「い き もの名詞 」 に付 属 す る 「もち ぬ し格」,「もの名 詞 」 に付 属 す る 「もちぬ し格 」,「場 所 格 (連 体)」 と呼 ん で い る.後 に詳 し く述 べ る よ うに この名 称 は‑ngaと‑naに関 しては意 味 的 特徴 を反 映 した もの とい え る,
以下 に今世 紀 初 頭 の この方 言 の特 徴 を反 映 してい る とされ る長 塚 節 の小説 『土 』 の会 話部 分 か らそれ ぞれ の例 を示 す .下 線部 が問題 とな る形 式 で あ る.
(2)a.そ うら,姉 が処 へ で も来 て見 ろ‑ (p.16) b・先 刻 おっ うに垂里 お粥炊 い て貰 って ・(p・20)
C.そ ん じゃ, この側 な小屋 じゃあ んめ え・. (p.234)
3)言語に よっては属格に連体修飾の機能だけでな く,連用修飾の機能 もある場合がある.
い くつかの言語では,下記の英語,フランス語の例が示す ように,述語 (動詞,形容詞) の補語が対格ではな く属格でマークされることがある.
(i)a.HaveyoueverheardofJohn? (動詞の禰語) b.Sheisafraidofbutteraies. (形容詞の補語) C.Jen'aipasdel'argent. (否定分格) (ia)は松村‑生民の指摘 して くださった例である.
松村‑登氏は 日本語標準語の 「の」にも 「私の書いた本」のような連用格 としての用 法 もあることを指摘 して くだ さった.管見の及ぶ限 りでは標準語の 「の」には連用修飾 機能を持 っていると見な し得 る用法はこの用法だけである. しか しながら,このような
「が‑の交番」現象で用いられ る 「の」には動詞 「書いた」の修飾成分であるとする分析 と名詞 「本」 の修飾成分 であ るとす る分析がある.鈴木 (1971)は前者 の分析を, Sakai(1990)は後者の分析を行なっている,「が‑の交替」における 「の」 も遵体格 とし て解釈 しうるのであれは,標準語の 「の」はもっぱ ら連体修飾政経を担 う形式 と見なす ことが出来るであろ う.
4)本稿におけるフィ‑ル ドワークで得たデ‑タの表記は基本的には次のもの以外はIPA
の昔価に準 じることにする・「u」は非円唇母音 [叫 を示 し,「ng」は [勺】を示す ものとす る.「Cj」は 口蓋化 した子音を表す ものとし,「N」は摂音を表す もの とする.無声化 し た母音は脱落 した もの と見な し,表記 しない.なお,音声的に揺れのある語粂 (例えは utsj〜udzji「うち」など)は話者が発音 した音形通 りに衰記 したため,例文によって表記 が異なる場合がある.
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先行研究 (宮島 1956)においてほ,これ らの格助詞は基本的には使用領域が 相補分布す るが,付属する名詞が周辺的範噂に属す る場合,形式間で使用の揺れ が見 られ ることが報告 されている.例えば,人間名詞に比べて名詞句階層上無生 名詞に近い動物名詞の場合,‑ngaが付属 した り ‑noが付属 した りす るとい う.
しか しなが ら,実際には ‑no が他の形式の使用領域を覆 う形で分布 しているの である.例えば ‑ngaや ‑naに とって典型的な範噂であるはずの人間名詞や場所 名詞に ‑noが付属す る例が兄い出され る,
(3)a・どうで もおめえの腹だか ら好 きに した方がええやな (p・46)
<有生名詞 ‑no>
b・俺 らまた こっちの家なんぞ・・ (p・249) <場所名詞 ‑no>
一万,‑ngaや ‑naが ‑noの使用領域 とされ る場所以外の無生名詞に付属する例 は存在 しない.『土』における連体格助詞の分布をまとめると以下のようになる,
「+」は出現を ト」は出現 しないことを表す.
(4) 『土』における連体格助詞の分布
したが って,名詞の性質は ‑ngaや ‑naに とって必要条件であって十分条件では ないのである.このことは現在におけ る3つの連体格助詞の用法について もあて は普る.
3.Nlの名詞句階層上の位置付けと‑ngaの分布
『土』における‑ngaの使用例はNlが人間名詞の場合に限 られている.では, 同 じ有生名詞でもNlが動物などを表す名詞の場合,‑nga と ‑noの分布はどう なっているのだろ うか.フィール ドワークで得たデータを もとにこの点を明 らか に した い .
筆者 らは94年か ら96年にかけて水海道市及びその西に隣接す る岩井市で行 っ た調査で,名詞句階層上のどの位置にある名詞の場合に ‑ngaが付属 しうるかイ
ンフォーマン トに確認 した.なお,名詞句階層はSilverstein(1976)において分 裂能格現象の説明のために提案 されたスケールで,人称代名詞を一つの極点 とし て名詞をその内在的意味に よって連続体を構成 しているものとして捉えた もので ある.角田 (1991)は分裂能格現象以外のい くつかの言語現象が このスケール を反映 していることを報告 している.筆者 らは以下の名詞句階層を仮定 し調査を 行 った.なお,この付属す る名詞の名詞句階層上の位置は,‑ngaの出現に関 し て,現在の水海道方言においても 『土』の方言 と同様に必要条件であって十分条 件ではない, したがって,名詞句階層上のある位置で‑ngaが付属可能であると い うことは,同時に同 じ条件で‑noも出現可能であることを合意す る.
(5) 名詞句階層
人称代名詞 親族名詞 人間名詞 動物名詞 植物名詞 もの名詞 場所名詞 (大) (小)
‑ngaの使用領域には以下に詳 しく示す ように個人差があったが,Nlが名詞句 階層上 もっとも左に位置す る人称代名詞の場合,ほ とんどの話者が‑ngaが使用 可能であるとした.以下に例を示す.
(6) a.ore‑nga蝕u 私の服 C.are‑ngame‑waaoi彼の 目は青い b.one‑ngakurumaあなたの車
一方,Nl が人間を表す語柔的名詞の場合,話者に よって判断が異なった.以 下に示す例に関 して,問題な く‑ngaを使用出来 るとす る話者 と親族名詞以外に 紘 ‑ngaを付属 させることが出来ない とい う判断を示す話者,そ してどちらの例 でも11gaを使わない とする話者にわかれた.親族名詞 に限 って使用可能 とい う 判断を示 した話者 とどちらの例でも‑ngaを使わない とした話者は名詞句階層上
これ以上低い位置にある名詞が Nlの場合,‑ngaを用いることは出来ないとし ている.
(7) a.ojazjトngaktsu 親父の靴 Nl‑親族名詞
b.seNse:‑ngaklユruma 先生の車 Nl‑親族以外の人間名詞 人間名詞なら‑ngaが使用可能 と判断 した話者でも,Nlが動物を表す名詞の 場合は‑ngaを用いることは出来ない と判断する人 と使用可能であると判断す る
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人がいた. さらに,動物名詞に ‑ngaが付属 しうると判断 した話者 の中で も, (8a)の ように比較的大 きな動物 の場合使えるが (8b,C)の ような小動物になる と使用出来な くなると判断す る話者 といずれの場合に も使用可能 であると判断す る話者 にわかれた.
(8) a.nego‑ngasjippo猫の尻尾 C.onimusji‑ngatsuno カブ トムシの角 b.koi‑ngakogera 鯉 の鱗
また,小動物を表す名詞に‑ngaが付属 しうるとした話者 で も (8も)と (8C)の 両方 が可能 であ るとす る ものはいなか った.(8b)の よ うに魚を表す名詞 な ら
‑ngaを付属 させ ることが出来 るが (8C)の ような昆虫の場合‑ngaを付属 させ る ことが出来 ない とす る話者 と,逆 に (8C)は良いが (8b)は無理だ とす る話者 にわかれた.
以上を まとめ ると以下の図の ようになる.A〜Eは‑ngaの使用範囲に関 して 同様 の振 る舞いをす る話者の クラスを示 し,右端の数字はそれぞれの クラスの話 者 の人数を表す.また,最 も下の段の数字はNlが名詞句階層上の当該位置の場 令 ‑ngaが使用可能 であるとした話者の数である.
A忠CDE
圃
欄か‑‑掛便 人称代名詞
+
%・
+
舶二
初動+︻小
鮒++
畑++
+ + + 一 ‑
十
5223
1 1
23 22 19 7 5 0 図 1 名詞句階層に関す る‑ngaの使用範囲の個人差
個人間の‑ngaの使用範 囲の差異は決 して無秩序に分布 してい るのではな く,名 詞句階層の右側か ら順に制限が強 くなる形 で現れ る.また,使用範関の広い話者 ほ ど日常的に一nge(着生方位格)早 ‑ngani(経験者格) とい った この方言に特有 の文法形式を 自分の言葉 として用いる傾向があ った.一方,使用範囲の狭い話者 の中には, こ うした文法形式は他の人が話す言葉 として知識 の上では知 っている が, 自分 自身では 日常生活では使わない とす るコメン トをす る者 もいた.名詞句 階層上の‑ngaの使用領域の違いは方言を使 った言語生活か らの距離に対応 して
いるように思われ る.
先行研究においては‑ngaの分布は付属す る名詞 (Nl)の 「有生/無生」 とい う2項対立的な特性に よって決定 され るもの とされてきた. しか しなが ら,上記 のデータは付属す る名詞の性質は2項対立的なものとして捉えるべ きではな く名 詞句階層上の連続体 として捉えるべ きものであることを示 している.
4.NlとN2の関係
これ までは,Nlの有生性が‑ngaの使用に関する必要条件であることをみて きた.次にNlの名詞に内在的な意味的特性だけではな く,NlとN2の間の意 味関係 もまた‑ngaの使用に関す る必要条件であることを明らかに したい.
以下に有生性に関 しては‑ngaが用いられ る必要条件を満た しているに もかか わ らず‑ngaを用いることが出来ない例を示す.
(9) a.kitsune‑ngasjippo 狐の尻尾 d.usjトngasjippo牛の尻尾 b.*kitsune‑ngaerimaki狐の襟巻 (狐は材料)e.*usjトnganiku 牛の肉 C.kitsune‑noerimaki狐の襟巻 (狐は材料)f.usji‑noniku 牛の肉 (9a,也)はkitsune,usjiとい う名詞が名詞句階層上の位置付け としてほ ‑ngaが 用いられ る必要条件を満た していることを示 している.では河故 (9b,e)では
‑ngaを用いることが出来ないのか ?あ くまで‑ngaの分布がNlの性質に依存す ると考えるならば有生性以外の要田を考 えざるを得ない.考えられ る1つの要因 はNlの指示物が生 きているか否か (【±alive])である,(9a,d)の場合指示物 に [十alive】の読みが可能であるが,(9b,e)の場合卜 alive〕と解釈 され る・
上の例文では,‑ngaがまった く使えない例を見たが,同一のNlとN2でNl に ‑noを付けるか ‑ngaを付けるかで名詞句全体の意味が変わ って くる例 もあ る.岩井市のあるイ ンフォーマ ン トは下に示 した連体格助詞の形式だけで対立す る例に次の解釈を行 った.
(10) a.usji‑ngaatama (生 きている牛の頭)
b.usji‑no atama (料理の材料になった牛の頭,生 きている牛の頭) (10a)の場合,生 きている牛の頭の読み しかあ りえないが,(lob)の場合生 き ている牛の頭 と死んで しまった牛の頭の2つの読みが可能であるとい う.(lob)
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が両義的であるのはNlの特性が必要条件に過 ぎないためであろ う.また,同 じ イ ソフォーマ ン トは次の連体格助詞だけで対立す るペアについて a.の方はあ ま
り使わないが,あえて使 えば下に示 した解釈にな ると説 明 して くれた.
(ll) a.saNma‑ngakaNzume 秋刀魚の餌にす る缶詰 b.saNma‑nokaNzume 秋刀魚を材料 に した缶詰
こ うした例文を見 ると‑ngaが出現す るた糾 こはNlは【+animate]であ りかつ
〔+alive〕であ ることが必要 であるかの よ うに思われ る・
しか しなが ら,Nlが明 らかに卜 alive】であるに もかかわ らず‑ngaを用いる ことが可能な場合 もある,
(12) a.ka:tsjaN‑ngadzjaNbo お母 さんの葬式 b.daresore‑ngame:nitsji 誰 々の命 日
では, どんな要因が着生性に関す る条件を満た しているNlに‑ngaが付属す ることを妨げているのか. これ まではNlの特性のみに着 日して きたが,以降で はNlとN2の問に存在す る意味関係について考察す ることにす る.
まず ,これ まで 巨 alive】に着 目して きた例を名詞問の意味関係か ら捉 え直す と,‑ngaを使 うことが出来なか った例はすべて,Nl とN2の関係が 「材料一製 品」 の関係であ ることがわか る.(12a,ら)はNlが卜 alive]ではあるが,2つの 名詞句の関係は 「材料一製品」ではない.
では,2つの名詞 の意味関係が 「材料‑製品」ではない場合,Nl の着生性に関 す る条件が満た されていれば‑ngaを使えるか とい うと必ず しもそ うではない・
2つの名詞が 「同格」 の関係にあ った り,Nl とN2が部分格の意味関係 (奥津 1978の 「選択の範囲」)の場合,‑ngaを使 うことは出来ない.以下に例を示す . (13) a.se:zjika‑nokisjiro: 政治家の喜四郎 (同格)
b.*se:zjika‑ngakisjiro: 政治家の喜四郎 (同格) C.sjlrlal‑nOitsjibu 知 り合いの一部 (部分格) d.*sjiriaiーngaitsjibu 知 り合いの一部 (部分格) 標準語で 「Nl の N2」で表 し得 る関係の中で,Nlが着生名詞であ り得 る関係 には, これ まで例に挙げて きた意味関係以外に 「属性」,「対象一出来事」,「経験 者一経験」,「受益者一対象」,「動作圭一動作」,「親族関係」,「時間関係」,「場所関
水海道方言の連体修飾格
係」 な どがある. こ うした意味関係の場合,‑ngaを使 うことが可能であ った (14) a.neko‑ngaomosa
b.ka:tsjaN‑ngadzjaNbo c.ore‑ngakonomi d.kodomo‑ngaho灯 e.ore‑ngatanomi f.sengare‑ngajome g.ore‑ngakoro h.ore‑ngamac
猫の重 さ
お母 さんの葬式(12a) 私の好み
子供向けの本 私の顧み 息子の嫁 私の頃 私の前
(属性) (対象一出来事) (経験者一経験) (受益者一対象)5)
(動作主一動作) (親族関係) (時間関係) (場所関係) なお,2つの名詞 の問に 「所有‑被所有」 の関係があ る場合 ,その関係が分離可 能であるか分離不可能 であるかを問わず‑ngaを用いることが可能である, (15) a.obatsjaN‑ngatsjawaNお祖母 ちゃんの茶碗 (分離可能所有)
b.neko‑ngasjippo猫 の尻尾 (分離不可能所有)
C.one:‑ngameあなたの 目 (分離不可能所有)
NlとN2の意味関係 と‑ngaの使用についてまとめ ると次の ようになる.(9) 以前に出て きた例文は (2),(3b)を除 いてすべ て 「所有一被所有」 の意味関係 である.また (10a)も同様 である.
(16) NlとN2の意味関係 ‑ngaの使用 例
a.所有一被所有 可能 (6)(7)(8)(9a,a)(15)
b.属性 可能 (14a)
C .親族関係 d.受益者一対象 e.対象一出来事 f.経験者一経験 g.動作主一動作 h.時間関係
可能 (14f) 可能 (lla)(14d) 可能6) (12) 可能 (14C) 可能 (14e) 可能 (14g) i.場所関係 可能 (14h)
j.材料一製品 不可能 (9C,f)(lob)(llb) 汰.同格 不可能 (13a)
1.部分格 不可能 (13C)
5)この例は 「受益者一対象」の他,「所有者一所有物」の関係としても解釈される点で二 義的である.
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では,‑ngaの使 用 が可 能 な意 味 関 係 は お互 い どの よ うに結 び つ い て い るのだ ろ うか .そ して ‑ngaの使 用 が可 能 な意 味 関 係 と‑ngaの使 用 が不 可 能 な意 味 関 係 の 間 に は どの よ うな 関 係 が 成 り立 って い る の だ ろ うか . こ の 問 題 に 関 して Nikiforidouの提 唱 す る所 有 関 係 を 中心 と した認 知 的 ネ ッ トワー クは示 唆 的 で あ る.認知 言語 学 の観 点 か ら様 々な言 語 の属 格 を研 究 した Nikiforidon (1991)に よれ ば ,属 格 で表 現 で きる様 々な意 味 関 係 の間 に は所 有 関 係 を 中心 に メタ フ ァー に よ って結 びつ きあ って い るネ ッ トワー クが存 在 す る とい う.以下 に そ の ス キ ー マを引 用 し,‑ngaの使 用領 域 もあわ せ て示 す ・
図 2 Nikiforidou(1991:198)の スキ ーマ と ‑ngaの使用領域
上 の 図か ら明 らか な よ うに,2つ の名詞 が表 す 様 々な 関 係 の 中 で,PatienトAd‑
ventures,Experiencer/Agent‑Experiences/Products,Whole‑Parts,Holderof Attribute‑Attribute,Person‑Kin とい った関 係 は所 有 関 係 か ら メタ フ ァーに よ っ
6)「被 り手一出来事」 とい う意味関係では,他の意味関係の場合に比べて「Nl‑ngaN2」 とい う構文にな りに くいとす る話者が何人かいた.この意味関係で‑ngaが使いに くくな る憤向性は Nlが人間名詞の場合 よりも動物名詞の場合の方が顔著で,inlユーngaSjitske (犬のしつけ)紘,‑ngaを‑noにかえた方が良いとす る話者 もいた・宮島達夫氏 (私信) 紘,Nlの名詞句階層上の位置付け と同様に名詞間の意味関係に関 しても‑ngaの許容度 紘,「可/不可」 とい う2項対立をな しているのではな く,話者に よって異な り,連続体 をな しているのではないか, と指摘 して くれた.「被 り手‑出来事」 とい う意味関係に関 してはこうした指摘が当てはまる.また,非意図的な行為者が Nlを占める例 (ka:ts‑ jaN‑ngaosaN(家内のお産))においても,他の意味関係に比べて許容度が低 くなる話 者が出た, しか しなが ら,他の意味関係に関 しては話者の反応は概ね‑致 していた.
て直接派生可能 な関係であるとい う.(16)を見 ると,‑ngaを使い得 る関係の多 く(16a,b,C,e,i,g)が所有か ら直接派生可能な関係であることがわか る. これ らの関係はそれぞれ,(16a)はPossessor‑Possessionと,(16b)はHolderof Attribute‑Attributeと,(16C)はPerson‑Kinと,(16e)はPatient‑Eventと,
(16f,ど)はExperiencer/Agent‑Experiences/Productsと対応 している.一万,
‑ngaを使 うことが不可能な関係 (16j,k,1)は,所有関係か ら間接的に派生 され た関係 として位置づけ られている. こち らの場合,それぞれ,(16j)は Constト tuentMaterial‑ThingConstitutedと,(16k)紘 (Distinctive)Property‑Holder ofanAttributeと,そ して (161)はWhole(abstract)‑Partsに対応す る.この
ような間接的に派生 された関係は メタフ ァーに よって所有関係 と直接結びついて お らず,originな どの他 の関係を間に挟 んだかたちで結びついていた り,抽象化 のプロセスを間に挟んだかたちで結びついてい る.
Nikiloridolユ は筆者 らが調べた関係の うち,時間関係や場所関係については扱 っていないので,そ うした関係が所有か ら直接 メタフ 7‑に よって派生 し得 る関 係なのか ど うか検証す ることが出来ない.だが,Nikiforidouの方法に従 って考 えるな らは, これ らの関係は所有関係か ら直接派生す ることが可能 になるもの と 思われ る.なぜ な ら,Nikiforidouはhaveな どの所有動詞 に よってその関係を表 し得 るか膏かを基準の一つ としてお り, この基準を時間関係や場所関係にあては めた場合,「時間がある」「場所 を とる」な どの表現が存在す るので, こうした関 係は所有関係 とメタフ 7‑に よって直接結びついているもの と考 え られ る.
上記の対応関係は先行研究におけ る‑ngaの扱い方をある側面において支持す る.すなわ ち,‑ngaは所有格 (「もちぬ し格」宮島 1956)とい う見方が妥当で あ ることを示 してい るのである.なぜ な ら,‑ngaは所有か らメタ77‑に よっ て直接派生可能 な用法,つ ま り所有を中心 とした関係においてだけ用い られ るか らであ る.あるイ ソフ ォ‑マ ン トか らトngaを使 うときほ所有の意味が強 まる」 とい うコメ ン トがあ った. この ことは母語話者の直感において もーngaが所有 と 強 く結びついていることを示す もの と考 え られ る.
また上記 の対応関係は,‑noを‑ngaとパ ラレルに 「所有格」 と呼ぶのがおか しい ことを も示唆す る.なぜ な ら,‑noは所有 またはその メタフ ァーか ら離れた
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意味的関係 で も用 い られ るか らであ る. この方言 の ‑noは,標準語 の 「の」 と 同様 に,着生性や名詞句 間の意味関係か ら自由で2つ の要素 が連体修飾 関係にあ ることを標示す る機能 しか持 っていないのであ る.
‑ngaと‑noの対立は着生性 に関す る連体修飾格 の対立 であ るだけでな く,「所 有格」(possessive)と 「属格」(genitive)の対立 で もあ るのであ る.
5.連体場所格‑na
‑naは先行研究において 「場所格 (連体)」 とされ てい る とお り,NlとN2の 間に場所 関係 が成 り立 つ場 合 に用 い られ る.ただ し,Nlが場所 を表 す場 合 は
‑naが用 い られ るが,N2が場所 を表す場合は,Nlの名詞句階層上 の位置付けに したが って‑ngaが用い られた り,‑noが用 い られた りす る.
(17) a.me:‑namono 前 の もの Nl(場所),N2(無生) b.ore‑ngame: 私の前 Nl(有生),N2(場所) C.tana‑noue 棚の上 Nl(無生),N2(場所) Nlが場所を表す場合で も,地名 の場合は‑naを用 い ることが出来 ない.
(18) *tsllkuba‑nabjo:iN 筑波 の病院 (筑波 にあ る病院)
Nlの特性 に関 して見 る と‑naは,場所を表す名詞 の中で も,me:(節)やue(上), sjta(千),tonari(隣),attsji(あ っち),kottsji(こっち),sottsji(そ っち) とい
った ものにだけ付属す る よ うであ る. これ らはそれ 自体 で具体的 な場所を指示す るのではな く,空 間的 な関係を示す表現 であ る.7)
7)松本克己氏 (私信)はNlのこうした性質から,‑naは格助詞ではなく,名詞を形容 詞化する接辞の可能性があると指摘 してくれた.たしかに形容動詞の連体形も 「名詞+
な」という構成になっているわけだから形式的には同じである.そして形容動詞を構成 する 「な」が適時的には 「に+ある>なる>な」と変遷 してきたこと,つまり形式的に 場所を表す ことにも用いられる表現 「に+ある」から発生 したことを考えれば,宮島 (1956)と我々が場所格 (連体)として記述 している 「な」を形容詞化接辞 として解釈 することも可能かもしれない.しか しながら,我々は次の2つの点から 「な」を形容詞 化接辞ではなく格助詞として解釈することにする.
(i)7.1.で記述 しているように,場所格 (連体)の 「な」は名詞句の主要部が省略され た構造 ([Nl‑na一朗)にも出現可能である・これは,‑ngaや‑noといった他の連体 格助詞 と共通する性質である.一方,形容動詞の連体形を構成する形容詞化接辞の
「な」はこうした構造には出現しない.このことは次の例から明らかである.
a.me:‑natot‑te (‑na‑連体修飾格) 「前にあるのとって」(‑29a) b.雅ire:‑natsure‑teki‑ta(‑na‑形容動詞の語尾) 「きれいなの連れてきた」
(19) a.ue‑namono 上にある物 e.attsji‑nautsj あ っちの家 (分家) b.sjta‑namono 下にある物 f.kottsji‑naje こちらの家 C.tonari‑nautsj 隣の家 g.sottsji‑namono そちらにある物 d.ura‑nalltSj 嚢の家
Nl とN2の間の意味関係に関 しては,上記の例の よ うに「場所一存在物」の他, 以下に示す 「場所‑出来事」 の場合で も‑naを用いることが出来 るとす る話者 も いるが,多 くの話者は この ような例では‑naを使 うことが出来ない としている.
(20) ur且‑naso:zji 裏 の掃除 Nl(場所),N2(出来事)
そ して,以下 の例が示す ようにNlが場所を表 している場合で も,相対的な場 所関係を表す形式名詞が N2として後続す る場合には‑naを使 うことが出来な い.
(21) a.*tonarトnamuge:‑wahaske:隣の向かいは斜向かい (N2‑形式名詞) b.tonarトnomuge:‑wahaske:隣の向かいは斜向かい (N2:=形式名詞) C.*sumikko‑naho:‑niar‑u 隅の方にある (N2‑形式名詞) d.sumikko‑noho:‑niar‑u 隅の方にある (N2=ニ形式名詞) Nl とN2の意味関係に関 しては,‑naを使 うことが出来 るのは「場所‑存在物」 の場合だけで,他の意味関係の場合,許容度が下が った り,全 く使えな くな った
りす る.
(22) NlとN2の関係 ‑naの使用 例 場所一存在物 可能 (17a,19) 場所一出来事 話者に よって揺れ (20) 場所一形式名詞 不可能 (21a,C)
‑naが出現す るための必要条件はNlが地名以外の場所名詞であることと,名 詞間の意味関係が 「場所一存在物」であることである.‑ngaがNlに内在的な意 味的特性 と名詞間の意味関係の2つの要因に よって用法を規定 されていたの と同 (ii)場所格 (連体)の 「な」はこの節の記述から明らかなように,Nlが場所関係を表 す名詞であるだけでなく,N2が存在物でなければ出現できない.形容動詞の場合 にはN2に関するこうした制限はない.‑方で,Nlに内在的な意味だけでなく, NlとN2の間の意味関係が用法を規定している点はもう一つの連体鯵飾構造にお ける意味格である‑ngaと共通する性質である.
72 佐 々木 冠 , ダ ニ ニ ラ ・カ ル ヤ ヌ
様に,‑na もまた2つの意味的要田に よって用法を規定 され る連体修飾格助詞な のである.‑naは,意味的に規定 される点で,110 とは性質が異なる格助詞であ るといえる.
なお, この格助詞 ‑naは ‑ngaなどの他の格助詞に比べて現在ではあま り用い られない傾向にある.2年間の調査で出会 ったイ ソフォーマ ン トの何人かは,他 のこの方言に特徴的な格助詞 (‑ngaや‑nge(有生方位格)など)を頻繁に用い るに もかかわ らず,‑na は用いない と答えた.また,attsji‑nai:(〜je)/attsji‑na udzji(分家 した親戚の家)のように化石化 した例で しか用いない とす る話者 も多 か った.
6.3つの連体修飾格助詞の位置付け
以上,‑ngaや ‑maを ‑no と対比 させ る形でこの方言の3つの格助詞の用法を 見てきた.3つの助詞を名詞句階層上の位置付けに関 して分類す ると次の ように なる.
(23) 連体格助詞 (付属す る名詞の名詞句階層上の位置に関す る分類)
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制約なし制約あり 1 ^
‑no 着生 場所 I I
nga na
上記の分類における 「着生」は,これまでの ‑ngaの記述が示す ように名詞句階 層上の左端を中心 とす る領域の意味であ り,生物学上の生物/無生物の区別 とは 必ず しも一致 しない.
NlとN2の間の意味関係に関 しては3つの格助詞を次のように分類す ること が出来 る.分類の基準 こそ異なるが, ここで も ‑no は 「制約な し」であ り,他 の2つの助詞は 「制約あ り」のメンバーである.