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税効果会計導入 による 企業評価へ の影響

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税効果会計導入 による 企業評価へ の影響

中 井 和 敏

1.はじめに 2.税効果会計の概要

3.税効果会計の会計処理について 4.企業評価に与える影響

5.おわりに

わが国を含め多 くの先進諸国において,法人税等の会計処理 として税 効果会計が採用 されている.税効果会計の処理方法 には繰延法 と資産負 債法があ り,両者 には税効果額の計算の仕方 に違いがある.わが国では 国際会計基準に準拠 し資産負債法が採用 されている. この方法は発生 し た一時差異等が解消する将来の期 間の税金支払- の影響額 として税効果 額 を把握する・このため,税効果額は将来の課税所得の予測に基づいた 見積額 になる・ この ような算出方法では当該企業の経営数値 に恋意性が 反映されるため,企業の業蘇評価 に影響 を与 えることになる.繰延税金 資産や繰延税金負債の計上の仕方,なかで も繰延税金資産の計上につい ては・回収不能額 をどのように判断 し見積 もるのかについて見解が分か れ,問題 を生 じさせている. このように,税効果会計の導入は企業評価 に多 くの影響 を及ぼす. このため,特 に,繰延税金資産の計上について は,統一的な基準設定が必要であ る.

論文 :税効果会計導入による企業評価への影響 61

1.はじめに

新会計基準の一つに税効果会計がある. この税効果会計 は欧米 とは異な り, わが国で は耳慣 れ ない ものであった. しか し,199810月 30日に 「税効 果会計 に係 る会計基準 の設定 に関す る意見書1)が公表 され,これに基づ き 同年 1221日には 「財務諸表等規則等」の改正が行われた.これ によ り, 公開会社 につ いては 199941日以後開始す る事業年度か ら税効果会計 が適用 されることになった. しか しなが ら,金融機関の相次 ぐ破綻 に関連 し, 税効果会計による繰延税金資産の計上について当該行 と監査法人との間の見 解の相違が問題 になるな ど,その会計処理方法 に関心が向け られている.

税効果会計は企業会計上の経理処理方法の一つである.そ して,課税所得 の算出において,税効果会計 とい う新たな会計処理によって発生する 「法人 税等調整額」の申告調整が必要になる.企業会計上の帳簿価額 を基礎に計算 を行 う受取配当等の額か ら控除す る負債利子額の計算等 にも影響 を与える場 合がある.特 に,計上す る繰延税金資産については,その回収可能性の判断 に関 し収益性 を含めた将来予測,換言すれば,計画 した利益の確実 な獲得が 必要 になる. しか しなが ら,将来予測については多分に悪意性が働 く.近年 問題になった 「りそなグループ」や 「足利銀行」の繰延税金資産の計上額に ついて見解が分かれた ことはこのことを表わ している.本稿では税効果会計 の導入が企業評価 にどの ような影響 を及ぼすのか,制度的な側面を含め検討 を試みるものである.

2.税効果会計の概要 (1) 税効果会計導入の経緯

税効果会計 はそ もそ も米国において制度化 された もので,その後,国際会 計基準 に大 きな影響 を与 えて きた2).企業会計は企業 を取 り巻 く利害関係者, 中で も株主や投資家にとっては的確 な投資判断が行 うために役立つ ツール と して,企業経営者や管理者は企業 目的達成のためのツールとして活用 される

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62 現代軽骨経 済研究 2号

ものであるが,いずれ も,企業に関する財務情報の開示 をその目的 としてい る. これに対 し,税務会計はあ くまで も企業が支払 う税金の額 を算 出する事 を目的 としている. この ような目的によって,企業会計上の 「収益 ・費用」

と税務会計上の 「益金 ・損金」 はそれぞれ金額が異なって くる. これは,わ が国が確定決算基準 3)を とってい るためである. したが って,企業会計 で 算出 した当期利益 に益金算入額 と損金不算入額 を加算 し,益金不算入額 と損 金算入額 を減算することによって課税所得 を求めるのである.また,損益計 算書 には納税額方式で税金を記載 していた.これはどうい うことを意味 して いるのか といえば,わが国における法人税等の税務会計は,個別財務諸表 ・ 連結財務諸表の両者 とも,納税額方式が採用 されて きた. この納税額方式 と い うのは,事業活動の結果,当期に納付すべ き金額 を損益計算書上に法人税 等 とい う勘定科 目で表示す る.そ して, まだ支払いが行われていない部分 に ついては,貸借対照表上の流動負債の部に未払法人税等 といった勘定科 目で 表示する.

しか し,発生主義 と費用収益対応の原則 に基づいて算出 された税引前当期 利益 を基礎に,一方で税法 に基づいて算出された申告納税額 を法人税等 とし て計上 し,この分 を税引前当期利益か ら控除 し,税引後の最終損益 を示す当 期利益が記載 されるのである.このことは,売上高か ら税引前当期利益 まで は発生主義 を基礎 として期 間損益計算の基本 ともいえる費用収益対応の原則 を遵守 した計算が行われるが,企業の当期利益の算出については, まった く 次元の異 なった観点か ら計算 された税額が差 し引かれ,計上 されることを意 味するのである. このような計算プロセスを経て表示 される当期利益 は当該 企業の期間損益計算 とい う企業会計の中心 をなす考え方 を歪める結果 となっ

いって も過言ではない.

この ような問題や,先 の米国の動向 な どもあ り,企業会計審議会が 1997 6月に 「連結財務諸表制度の見直 しに関す る意見書」 を公表 した. これ により連結財務諸表原則がみなお され,子会社,関連会社の範囲が持株基準

論 文 :税効果 会計 導入 に よる企業評価へ の影響 63

か ら支配 ・影響力基準 に変更 された. さらに,子会社の資産 ・負債 に時価評 価適用を義務付けるなど,グローバル化 を視野 に入れた連結財務諸表作成 を 目的 とする内容で もあった. この ようなことが背景 としてあ り,税効果会計 について もその適用 を義務付 けることになった. しか し,当初は税効果会計 の適用は連結財務諸表だけに止 まってお り,個別財務諸表の作成 までには強 制適用 されていなかった. この ような問題点 もあ り,個別財務諸表- の税効 果会計の適用 につ いて検討が開始 され,その適用時期 を 199841日以 降に開始す る事業年度 より段 階的に行 うもの とされるにいたったのである.

わが国 における税効果会計導入の経緯 は 19981030日に公表 された

税効果会計に係 る会計基準の設定の関す る意見書」で明 らかにされている.

それ に よれば,19756月に企業会計審議会 よ り 「連結財務諸表 の制度化 に関す る意見書」が公表 され,連結財務諸表の作成 における税効果会計の適 用は任意 とされていた4). また,同意見書 による と 「税金の期間配分 を行 う いわゆる税効果会計は,わが国の会計実務ではいまだ慣行 として成熟 してい ないことを考慮 して,連結財務諸表原則ではこれを取上げていない. しか し なが ら,企業集団内取引に係 る未実現損益の消去 に伴 う税金の調整などは, 連結財務諸表による財務情報 として有意義であると考えられるので,税効果 会計 を適用 した連結財務諸表 を提出す る ことも差支 えない もの とす る」5)と されてお り,その主旨は 「税効果会計の任意通用 を規定 した もの」 に過 ぎな か った.

その後,1977年 41日以 降開始 され る事業年度か ら連結財務諸表制度 が導入 された. しか し,当時は先進諸国において,税効果会計導入は当然の こととされていたが,わが国だけがその適用 についての制度的整備が不十分 な状態であった.これが,経済の グローバ ル化にともなう企業の国際化の障 害の要因の一つ になっていた点で もあった.そ ういった理由もあ り,企業会 計審議会 より,19976月に 「連結財務諸表制度の見直 しに関す る意見書」

が公表 され,原則 として税効果会計の適用が義務づけ られることになった.

同意見書では 「従来の連結原則では税効果会計の適用は任意 とされてお り,

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64 現代軽骨経済研 究 2

我効果会計を適用 している企業に- て も,連結会社 間に係 る未実現損益の 消去等・連結手続上の修正項 目のみ を対象 として部分的に適用 しているもの と,個別ベースでの税効果会計 を含めて全面的に適用 しているもの とが見 ら れる・ しか し,連結手続上の修正項 目のみを対象 として税効果会計 を部分的 に適用 した場合 には,極めて限 られた効果 しか得 られない. この ような観点 か ら,我効果会計 を全面的に適用す るこ とを原則 とする6)旨を規定 してい るのである.

日本公認会計士協会の会計制度委員会 は,税効果会計の重要性が指摘 され てい るといった国際的 な動向 を注視 しなが ら,19985月 に 「連結財務諸 表における税効果会計に関する実務指針 (中間報告)Jを公表 した.そ して, 企業会計審議会 は 1998年 6月に 「税効果会計 に係 る会計基準 の設定 に関す る意見書 (公開草案)」 を公表 し・1998年 10月に先述 した 「税効果会計 に 係 る会計基準の設定に関する意見書」 にまとめ,公表 したのである. さ らに,

日本公認会計士協会の会計制度委員会は,個別財務諸表 にも税効果会計が適 用 される ようになった こともあ り,199812月に 「個別財務諸表における 税効果会計 に関す る実務 指針」 を取 りま とめ,実務 的 に も整備 が進 み, 199941日以降に開始 され る事業年度 よ り連結財務諸表制度が実施 さ れることになったのである.

(2) 税効果会計導入にいたる諸問題

わが国では税効果会計導入 に至 るまでにかな り時間がかかっている. これ は法人税に対する捉 え方が米国 と相違することが原因の一つ にあったのでは ないか と思われる・米国では費用 として認識する考 え方が一般的であったの に対 し,わが国では実務 的には費用 として認識 した としても制度的には違和 感があった ように思われる7)・基本原則 としては法人税 を費用 としてではな く・利益処分の一環である と把握す る考え方 も根強いか らである8).配当に 関 しては,商法第 290条 では債権者保護の観点か ら,純資産か ら資本金 と 法定準備金 を控除 した額 を限度 として利益 の配当を可能 としている.

論文:税効果会計導入による企業評価への影響 65

法人税に関す る費用か利益処分対象か という問題 は,企業は株主の もので ある とする見解 を持つか,あるいは,企業 は株主か ら独立 した もの と看倣す のかの どち らかである.企業 は株主の ものであるとした場合,企業 の利益 は 株主の所得 とし,法人税は納税義務者で もある株主の所得税の源泉分 と捉 え る. これに対 し,企業は株主か ら独立 した もの とする立場では,企業 自身を 独立主体である納税義務者 とし,法人税は企業に課せ られる所得税であると 捉 えることになる (図表 1).

図表 1 企業所有者と法人税の捉え方

なお,1963年の商法改正以前 は損益計算書 で税引前 当期利益 を表示 し, 法人税 を利益処分の一項 目として取 り扱 っていた. しか し,同年の商法改正 によ り損益計算書上で企業の利益は税引後当期利益 として表示 されることに な り,法人税額 を損益計算書 の中で控除す る表示方法 になった. このことに より,法人税 は事業年度末に確定する債務であるといった認識に基づ き,刺 益処分 とす るものではない とい う認識が一般化 されたのである.

また,わが国の会計制度 にも税効果会計導入を遅 らせた要因がある.わが 国の会計制度の特徴 として,商法,証券取引法,税法の 3つ が複合 的に連 動する トライア ングル体制が挙げ られる.い うまで もな く,商法は債権者保 護 を目的 として,証券取引法 は投資家保護 を目的 としている. この 目的を達 成す るためには,商法 と証券取引法 ともに,企業の経営実態 を的確 に把握 し, 企業情報 を適宜開示することが求め られる. このような立場 に対 して,一方 の税法 は課税の公正性の推拝が主 目的 となる.3者 には当初か らこの ような 相違があるにもかかわ らず, これ まで相互調整が図 られてきた とはいえない.

実務的には,む しろ,それ らの存在は税効果会計導入の阻害要因になってい た とのではないか と思われるのである.

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66 現代経営経済研究 第 2

しか しなが ら・実務的には税法による計上基準 を意識 した会計処理が行わ れてお り,税法で決め られた諸基準が会計処理に大 きな影響を与えているの である・このことを象徴的に表わ しているのが,損金経理 といわれるもので ある・これは 「会計処理 として費用計上 しなければ,税法では損金 として認 めない」 という考え方に基づいている.実際に多 くの企業で行われている日 常的な会計処理はこの損金経理 を考慮 した中で行われている.すべて税法を 優先 させているといっても言い過 ぎではない・多 くの経営者は経営実態 を適 切 に表示するというよりも・税法に沿った会計処理 を行 うことにより節税効 果 を図ろうとするインセンティブが働 くのは当然である.例えば,貸倒引当 金繰入についていえば,税法では引当金繰入額は敢 しく限定 している. これ を企業サイ ドの事情 を優先 させ,多額の引当金繰入 を認めるとしたならば, 引当金繰入損が発生することになる・このことは必然的に課税所得 を減額 さ せることにな り,税収の減少につながるため税務当局 としては安易に認める ことは しないであろう・ しか し,企業経営の立場か らは,回収が危ぶ まれる 債権の発生を想定 し・できるだけ早めに貸倒引当金の積み増 し,すなわち繰 入れを考える・そ して,不幸にして回収不能になった場合,この引当金 を取 崩 し,最終損益に影響 を与えない方法で処理することを望むのは当然である.

しか しなが ら,税法上の会計処理では親定額以上の引当金の繰入れを認めて いない・バブル経済崩壊後,金融機関や不動産業界 ・建設業業界などに多額 の不良債権が発生 したのはこの ような税法裁定の問題 も一因 としてあったの ではないか と考えることもで きる.

さらに・実際にはこの ような税務上の諸規定を重視 した会計処理が行われ ている中で,税効果会計については税法や商法などにおいても諸規定が未整 備であったことも要因 として挙げられる・特に,商法における税効果会計の 導入に関する法整備の主要な問題 としては ,図表 2」のような 3点がある.

第-の法人税等 を費用 として扱 うことの妥当性の有無については,必然的 に費用収益対応の原則に沿った費用の期問配分の対象 として扱ってよいか ど うかが問題になる・従来か ら,この法人税等については期間費用ではなく,

論文 :税効果会計導入による企業評価-の影響 67

図表 2 商法上の問題点

問題点

② 減価償却費 と同 じような費用の斯間配分の可能性 の有無

③利益処分の一環 であ るとす る考え方 との調整 2貸借対照表での表記 (む繰延税金資産の記載の安当性

②繰延税金負債の記載の安当性 3 利益処分へ の影響 ①配当可能利益算出の適合性

利益処分の一項 目であるとの考え方があった. まさに,企業経営 という観点 と税法のそれ との見解が対峠する課題で もあった.

第二の問題 として,貸借対照表に繰延税金資産あるいは繰延税金負債 とい う勘定科 目を記載することの妥当性 ということがある. この指摘 には税効果 会計によって算出された金額は計算手続 きを経て人為的に算出 した ものであ り,実際には金額の裏打 ちがない擬制資産や擬制負債ではないか という見解 である.この ような実体のない ものを企業資金の調達 と運用 を示す貸借対照 表に記載 しても良いのか問題視するのである.

第三には,商法が規定する会計制度は債権者保護を目的として整備 されて いることに関心を向けるべ きとの指摘がある. これには,損益計算の最終 目 的は可処分利益額を算出することにあるといった問題がある.いうまでもな く,利益処分の主な事項のひとつに配当がある.配当が可能か どうかを判断 するためには処分前の未処分利益額の正確な算出が必要である. こういった 観点からすれば,人為的な, しか も擬制的な計算が反映される税効果会計は 商法の持つ本来的な役割や 目的 と禿離状態にあるのではないかという点であ る.これ らの問題はわが国での税効果会計導入についての法制度的な条件が 整えられてお らず,反対にその導入に対 して障害になっていた と思われるの である.

(3) 税効果会計導入の推進

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68 現代経営経碕研究 2

わが国においては, トライアングル体制の中でも特 に税法主導で会計処理 が行われてきた・このような会計制度の下で作成 された財務諸表は,本当に 株主や投資家 を始めとす るステークホルダーに正確な企業情報を提供する資 料 こなっていたか どうか疑問である・特 に,発生主義 と期間損益を基礎 に測 定 され表示 される損益計算 と確定決算基準による法人税等の納税額 を混在 さ せて表示する方法が,財務資料 としてその利用について適切に機能するかど うか疑問であった・む しろ,各ステークホルダーに対 して誤った情報 を提供 してきたのではないだろうか・ どちらか といえば企業 における会計実践では 企業会計に準拠 させるというよりも,税法に適合 させるように会計処理が行 われて きた.

このような状況下で作成 される財務諸表は,特に株主や投資家に対 し的確 な投資判断に活かす資料 こなっていたであろうか. このことは比較的資本コ ス トを低 く抑えることで きる直接金融によって資金調達 を行 うことがで きる 企業にとっては重要な問題でもあった・企業にとって,投資家が適切な企業 評価 を行 うために,企業情報の適切な開示は必要不可欠であることはいうま でもない・投資家は企業か ら発信 される財務資料等を精査 し合理的な投資活 動 を行 う・投資家 にとって・特に企業に対する投資判断の重要な業績指標 と して利用 されるものに当期利益がある・企業にはこの当期利益 を正確 に計算 し表示することが求められるのである・ しか しなが ら, これまでの会計制度 では企業会計を基礎 に税引前当期利益 を算出 し,その後,法人税法に基づい て益金 欄 金について算入 ・不算入の加減算を行い,法人税等を算定する.

そ して,税引前当期利益か ら法人税等を控除 して当期利益が表示 されていた.

この当期利益は当該期間の収益状況 を示すだけでな く,投資判断にも影響力 を持つ未処分利益 を構成する重要な原資 として位置付けられていた.

しか し・これまでの税法 を基礎 とした算 出方法では,例 えば,前期 と当期 で税引前当期利益が同額であっても,法人税等の算出の仕方によっては当期 利益が異なるケースも見 られる・これは税金の算出の仕方が期間損益計算 と

まった く異なる方法によって計算されるか らである・発生主義 と費用収益対

論文 :税効果会計導入 に よる企業評価- の影響 69

応の原則が徹底 して遵守 された会計処理が行われていれば,税引前当期利益 が同額であっても当期利益が異なるということは起 こらないはずである. こ れまでの会計制度の下で行われてきた会計処理方法はこの点でも, 自己矛盾 を内包 していたともいえるのである.

特 に ,1998年の税制改正 は企業会計 と税法の兼難をさらに拡げ るものに なった 9㌧ 法改正の主な内容 として,

(D賞与引当金の撤廃

②貸倒引当金の法定繰入率

③退職給付引当金の限度額

④減価償却資産の金額 20万円未満か ら 10万円未満への引Tげ

⑤建物に関する減価償却方法の定額法への統一化 などを挙げることがで きる.

賞与引当金についていえば損金算入で きな くなった. しか し,特に上場企 業を中心 とした公開企業では,これまで計上 していた賞与引当金を撤廃する ということは監査の観点からは指摘事項 となる. また,非公開会社では,金 融機関や債権者に対 し,損金処理ができないため,今後,賞与引当金は一切 計上 しないと説明 しなければな らな くなる. したがって,賞与引当金 を計上 する場合は,すべて賞与引当金 として引 き当てた金額を有税処理することに なる. これ までの会計では賞与引当金 を有税処理することで,賞与引当金繰 入損 という費用が増加す ることと,税負担 も増加するというさらなる費用負 担が発生 した. しか しなが ら,税効果会計では賞与引当金 を有税処理 したこ とによって発生する税負担は前払いした税金 として資産 (繰延税金資産)に 計上する.このため,当期利益 に与える影響は賞与引当金繰入損 という費用 だけの発生に止 まり,企業会計 と税法 との利益計算において生 じていた兼離 幅をい くらかで も横和 させることになる.

この ような企業会計 と税法の違いによって生 じる当期利益への影響 は,今 後,減損会計 も視野に入れなければならない時価主義会計によっても大 きく

なる.時価会計による税法 との問題 としては,例 えば,帳簿価額 との関係で

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70 現代経常軽 済研 2

企業会計 上,評価増が発生す る場合は,将来売却 した時の売却益課税 に関連 して発生する繰延税金負債がある.反対 に,企業会計上,評価減が発生す る 場合 は,税務上の売却損の控除に関連 して繰延税金資産 を計上す ることにな る.いずれにせ よ,企業業績の重要な指標 となる当期利益 を期間損益 とい う 観点 で,的確 に表示す るためには,企業会計 と税法の禿離幅 をで きるだけ調 整す るために,税効果会計 とい う会計手法が必要 となって くる.

また, これ まで,わが国企業の海外への進出に ともない,わが国企業が作 成 して きた従来の財務諸表では企業情報 として機能 していない.不透明であ る.他企業 との国際比較がで きない とい った議論がな されていた.特 に,北 海道拓殖銀行や山一謹券の経営破綻 を契機 とし,わが国企業が作成す る財務 諸表 に対す る国際的不信感はピー クに達 した といって もよい.企業 に とって 必要 な資金 を調達するために も,従来の会計情報では国内外 の投資家 を始め としたステークホルダーか ら信頼が得 られない とい う危機感 もあ り, これ を 契機 にわが国において国際会計基準 と整合性 を図る機運が高 まった.その中 で,税効果会計の導入は不可欠であるとの共通理解が得 られた ように思われ る.

その後, さらにバブル経済崩壊後 の金融 システムの再構築 に向けて,特 に 金融機 関 におい て,い わゆる不良債権 の早期償却 が至 上命題 と して問題 と

なって きた, しか し,従来の会計制度では,不良債権 を有税 で償却 した場合 , 税 引前 当期利益 に比べ法人税等の金額が高 くなる. したが って,その結果, 税引後 当期利益は減少す る. この ような理 由 もあ り,不良債権 を償却す るこ とは収益性 を悪化 させ るため,当初,不 良債権の償却がなかなか進 まなか っ た ともい えるか も知れない. この ような課題 を解消す るため に も,税効果会 計 を導入す ることが必要であった と思われる.税効果会計導入 は, これ まで の会計処理 と異 な り,税引後 当期利益 の減少 をある程 度抑制す ることがで き る. このため,有税 による貸倒償却 を早め るためにも,個別財務諸表へ の適 用 も求め られることになったのであ る, これに よって,会計制度の国際化が

よ り促進 されることになったのである.

論文 :税効 果会計導入 による企業評価への影響 71

さらに,商法 との調整が可能 になった ことも大 きな要因であった・ これ ま で,商法 ではいわゆる配当可能利益の計算 を重要視 して きた・ このため,餐 産性が疑 わ しい ものについてはその計上 を認めていなかった・ これには資産 に計上す る分 だけ費用 として計上す る場 合 もある・ こういったケースでは, 資産 として計上 した分だけ,損益か ら計算か ら費用計上分 を外す ことになる・

その結果,計上 した分だけ費用が減少 し,利益 (配当可能利益)の増加 につ なが ることになる.税効果会計 の導入 は この ような会計処理 を促進す ること になるため,当初,商法 の立場 では,税効果会計 の適用による法人税等 の調 整が当期利益 を増加 させ ることになるとい う理由で容認 しなか った・ しか し, 連結財務諸表の規則改訂後,商法 との調整 も促進 され・税効果会計 について の会計基準 に準拠 して,繰延税金資産お よび繰延税金負債 として・換言すれ ば,法人税等の前払税金 または未払税金 として,その資産性 あるいは負債性 があるとこ とが示 されれば, これ らについて も貸借対照表 に計上す ることが で きるようになったのである1 )・0

この ように,会計制度上 に- て も税効果会計の必要性が認め られるよう になって きた ことにより,わが剛 こおいて も税効果会計導入が さらに促進 さ れる ことになった.当時の上場企業 を対象 とした実態調査 で も徐 々にではあ るが,税効果会計導入の方向に向かっていることが明 らかになっている ( 表 3).

税効果会計の導入 目的には,企業会計上の利益 の計算 と税法上の課税所得 の計算の間に発生す る金額の禿離状態 をで きるだけ解消 させ ることがある・

これにより,企業が作成 順 示す る財務資料 に信頼性が付与 され,投資家 な どに とっては適正 な業績評価 を行 うことがで きる有力 な資料 になる との期待 がある.

企業会計 には適切 な期 間損益計算 を・税法 には適切 な課税所得 の算 出によ り課税の公平化 を図ることを目的がある・両者 にはこのように 目的の違いが ぁる.特 に税法では課税所得の計算 を行 うために,会計上の利益計算 とは異 なる計算方法 を別途規定 している・ しか しなが ら,あ くまで も税額計算の基

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現代軽骨経済研 2号

図表3 税効果会計導入状況 (当時)

1995 1996年 1997

全面的に税効果会計を採用 23 23 25

連賭決算固有の項目について適用 59 59 68 連結会社の一部について適用 73 73 74 連結決算固有の項目及び連結会社の一部について適用 21 23 31 税効果会計を適用していい事例 296 295 274

税効果会計通用不明 1 1 1

合 計 (下記26社 を除 く) 473 474 473

出所:日本公認会計士協会ii(1998)r決算掲示 トレ ン ド-有価証券報告書500社 の実態分析Jより(一部 俸正 )

礎 となる金額 は企業会計上で算 出 された ものである.課税所得の算 出につい て は,企業会計上 の当期利益 をス ター トと し,それ に税法上の 「別段 の定 め」 による調整,す なわち 「益金 ・損金の各算入 ・不算入」 とい う調整事項 が加 え られる. この調整事項が企業会計上算 出された収益 お よび費用 と税法 上算 出 された課税所得 との間に,益金 または損金の認識の相違,あ るいは計 上時期のズ レな どの要素が加わる.この ような諸要素が,企業会計上で計上 される資産あるいは負債 の金額 と,税法に よる課税所得 の計算 を考慮 して計 上 される資産あるいは負債の金額 に大幅 なズ レを生 じさせ ているのであ る.

この ような計算 プロセスを経て算出 され る当期利益 は,かならずLも企業実 態 を適切 に表わ している とはい えないのである. また, この ように して算 出

された当期利益 を利用 した指標 で業輯比較 は間違 った判断 を行 うことになる.

したが って,税 引前当期利益 とそれ に適切 に対応 させ た法人税等の算出の仕 方 を具備 した税効 果会計導入 の必要性 は国際化の流 れに沿 った ものであろ う.

3.税効果会計の会計処理について (1) 税効果会計 の適用範囲

論文:税効果会計導入による企業評価への影響 73

す ることに よって把握で きる差異 を調整す ることを目的 としている・すなわ ち 「企業会計上の資産又 は負債 の額 と課税所得計算上の資産又 は負債の額 に 相違がある場合において,法 人税その他利益に関す る金額 を課税標準 とする 税金 似 下 「法人税」 とい う・) の額 を適切 に期間配分す ることに よ り,法 人税等 を控除す る前の当期純利益 と法人税等 を合理的に対応 させ ることを目 的 とす る手続 きである.」11)とい うことがで き

,

法人税 には,法人税 のほか・

都道府県税 ,市 町村税及び利益 に関連す る金額 を課税標準 とす る事業税が含 まれる.」12

しか し,税効果会計は把捉で きるすべての差異 に対 し適用で きる とい うわ けではない.税効果会計 は法 人税等の税金 を費用 と見 な し・将来加算 される 税金や将来減算で きる税金 を,資産 (これ を 「繰延税金資産」 とい う)や負 (これ を 「繰延税金負胤 とい う) として貸借対照表上に計上す るもので

あ る.

企業会計 と税務会計 との会計処理の違いに よって発生する差異 には

①会計上 と税務上の認識時期の ズレに よる もの

②会計上 と税務上の認識基準が異 なるもの

が あ る.税効果会計 で は,会計上 と税務 上 の認識時期 の ズ レに よる もの を

一時差異,会計上 と税務上の認識基準の相違 に よって生ず るもの を 「永久 差異」 と称す る.そ して,税効果会計の適用 についてい えば・永久差異 には 適用す ることがで きない.税効果会計はあ くまで も一時差異だけに適用 され

(図表 4).

図表 4 税効果会計適用の対象領域

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74 現代軽 骨経済研 究 2号

一時差異では,単 に会計上の 「収益 ・費用」 と税法上の 「益金 ・損金」に よって生 じる認識の時間的ズレだけではなく,会計上,課税対象 にならない 資産 ・負債について含み損益 を認識 した場合等 もー時差異 として扱 う. これ について 「税効果会計 に係 る会計基準 (以下 「会計基準」 と称する)」では, 財務諸表上の一時差異 として 「①収益又は費用の帰属年度が相違する場合,

②資産の評価替えにより生 じた評価差額が直接資本の部に計上 され,かつ, 課税所得の計算に含 まれていない場合」 と規定 している13

さらに,一時差異は,将来減算一時差異 と将来加算一時差異 とに区分 され る.「会計基準」では,将来減算一時差異 を 「当該一時差異が解消す る とき にその期の課税所得 を減額する効果 を持つ もの」 と,そ して,将来加算一時 差異 を 「当該一時差異が解消するときにその期の課税所得 を増額する効果 を 持つ もの」 と規定 している 14㌧

将来減算一時差異は,課税所得 を計算する上で差異が生 じた時に加算 され, それが解消 される時に減算 される差異である.そ して, この将来減算一時差 異に,回収が期待で きる当該期の実効税率 を乗ずることによって 「繰延税金 資産」 を計上する.但 し,この繰延税金資産は,生 じた一時差異が将来の課 税所得で法人税等が減額あるいは課税 される場合にのみ計上する.

一九 将来加算一時差異 とは,課税所得計算上で差異が生 じた時に減算 さ れ,それが解消 される時に加算 される差異である.そ して,将来減算一時差 異の場合 と同様,この将来加算一時差異に支払いが見込 まれる当該期の実効 税率 を乗ず ることによって 「繰延税金負債」 を計上するのである.「会計基 準」では 「期首の繰延税金資産 (負債) と期末の繰延税金資産 (負債) とで 比較 した差額 (増減額)は,当期 に納付すべ き法人税等の調整額 として計上 しなければならない」15)としている.そ して,それ ら法人税等の調整額 は損 益計算書に表示 される.

(2) 一時差異 と永久差額

企業会計上の収益および費用 と,税務会計上の益金および損金の認織時点

論文 :税効果会計導入 による企業評価へ の影響 75

の相違 によって,一時的に差額が発生する.このように して発生 した差額の 中で,将来解消 されるものを一時差異 といい税効果会計の適用対象 となる.

この一時差異 には,将来減算一時差異 と将来加算一時差異の 2種類がある ことは先述 した とお りである.なお‥ 将来の課税所得 と相殺可能 な繰越欠 損金は,一時差異 と同様に取 り扱われる16).

永久差異 としての典型的な費用項 目として 「交際費」がある.大会社では この交際費は損金不算入になっている. また,反対に 「受取配当金」につい ては益金不算入額 として故われることになる. このように,企業会計 として 費用や収益 として計上できる項 目であっても,税務会計上は永久に損金また は益金に算入 しないため,税効果会計の対象にはな らないのである.

また,課税所得 を計算する際,差異が生 じた時に加算 され,将来解消する 時に減算 される将来減算一時差異は,税効果会計の適用 において取扱 うケー スが最 も多い.例えば,貸倒引当金や退職給付引当金等の損金算入限度超過 額,あるいは減価償却費の損金算入限度超過額, さらには棚卸資産等 に関連 して発生する棚卸資産評価損等 を上げることがで きる.これ らについては, 回収が見込 まれる期の実効税率 を乗 じて繰延税金資産を計上する.一方,秤 来加算一時差異については,課税所得を計算する際,差異が生 じた時に減算 され,将来解消する時に加算 される. これには,例 えば,いわゆる利益処分 方式によって積み立て られた租税特別措置法における諸準備金等がある.こ れについては支払いが見込まれる期の実効税率 を乗 じて繰延税金負債 を計上 する.一時差異 と永久差異 (典型的なもの として交際費損金不算入がある)

図表 5 -時差異と永久差異に係る主な勘定科目

勘定科 目名

将来減算一時差異 未払事業税、退職給付引当金超過額、役員退職慰労引当金超過賞与引当金繰入超過額、貸倒引当金繰入超過額、有価証券評価 減価償却限度額超過額,少額固定資産償却超過額

損、 将来加算一時差異 土地圧縮積立金、特別償却準備金

永久差異 交際費損金不算入額、受取配当金益金不算入額、役員賞与損金不

(9)

76 現代軽骨軽済研究 2

に係 る主な勘定科 目を区分 し,整理す る と 「図表5」の ようになる.

ちなみ に, この ような繰延税金資産や繰延税金負債 を計上す る時の計算 の 基礎 として利用する実効税率は

*実効税率 -値 入栽率 ×(1+住民我率)+事業税率 (1+事業税率) の算式 によって算定す る.

(3) 会計処理の計算事例

例 えば,棚卸資産 について2,00 0の評価損 を計上 した とす る. しか し, こ の棚卸資産評価損 は税務上 では損金 として算入す ることは認め られ ない. こ のため・当期の課税所得 を計算する時は 自己否認 し (申告加算)す る.そ し て,翌期廃棄 した こ とによ り損金算入が認め られた とす る.

こ ういった事例 において,税効果会計 を適用 しない場合 と適用 した場合 と の損益計算書には どの ような違 いが出て くるのか示 してお く.

*課税所得の計算

当 期 翌 期

税引前当期利益 10,000 10,00 棚卸資産評価損(否認) 2,000

棚卸資産評価損(容認) 2,0 課税所得 12,000 8,

実効税率 40% 40

0

00 000

%

I・税効果会計を適用 しない場合の損益計算書

当 期 翌 期

税引前当期利益 10,000 10,00

法人税等 4,800 3,

当期利益 5,200 6,8 0 200 00

論文:税効果会計導入による企業評価への影響 77 [.税効果会計を適用 した場合の損益計算書

当 期 翌 期

税引前当期利益 10, 000 10,00 法人税等 4,800 3,2 法人税等調整額 ▲ 800 8 当期利益 6, 000 6,00

0 00 00 0

この ような場合,法人税等調整額 の計算 と仕訳」 は次 の ようにな る (6).

図表 6 会計処理の計算事例 将来減算一時差異

課税所得×実効税率-税額 会計上の利益×実効税率 12.000×400/-0 48,(

100,00 4/-x 000 4,00 0

*当期 棚 卸 資産評価 損 否 認 2,000×40% -800 (実効税 率 を40%

とす る)

(借方)繰延税金資産 800 (貸方)法人税等調整額 800 将来減算一時差異 20 0,0×実効税率 4 % 0 - 08 0

*翌期 棚卸資産評価損認容200,0×実効税率4 % 0 -8 0 0 (借方)法 人税等調整額 800 (貸方)繰延税金資産 800 前年度 (事例 では当期) の一時差異が解消す るため,繰延税金資産 に計上 した800を取 り崩すのである.

税効果会計の会計処理の 目的は,損益計算書 の 「法人税等調整額」 と,貸 借対照表 の 「繰延溌金資産 (負債)」の 2つ の項 目を算定す るこ とであ る.

その手順 は,①一時差異の把握,②法人我等調整額 の算定,③繰延税金資産

(10)

7g 現代経営経済研究 第 2

(負債)の算定,④財務諸表への表示, ということになる. しか し,税効果 会計 を適用す る場合,法人税等調整額 は税効果相当額 を調整するための勘定 科 目であって,税務会計上益金に算入するものではない.このため,申告調 整において減算することになる. したがって,課税所得の金額 自体には,秩 効果会計の適用 を しない場合 と税効果会計 を適用す る場合 との問に差異 は生

じないことになる.

4.企業評価に与える影響

(1) 税効果会計導入による損益への影響

税効果会計を適用することにより,支払 う税額が変わることはない.税効 果会計では,この支払 った税金の うち,該当期 に関る税金分だけを会計上の 損益計算に反映させ る. これにより,期間損益計算 とい う点では会計上の利 益計算 に沿った計算手続 きを経るため,財務諸表については,企業業績 をよ り実態 に近づけた ものを表示することになる. しか し,このことは,特 に業 績 に悪化の兆候が見 られる場合な ど,費用 を繰 り延べることになる といった 点 もあ り,経営サイ ドに とっては何か と有利 な面 もある.

また,特に貸倒引当金の繰入や不良債権の処理等 を巡る繰延税金資産の計 上については,債権の回収可能性 を十分 に考慮する必要がある.そうでなけ れば,その運用の信頼性 に疑問が持たれる恐れがある.実際,この税効果会 計の適用 については,特 に銀行などの金融機 関における不良債権処理の促進 と自己資本比率の維持 といった問題に大 きな影響 を与 えた.特 に繰延税金資 産の計上額について,銀行当局 と監査法人の間で見解が分かれたことは記憶 に新 しい17)

税効果会計導入 によ り,これ までの税法基準による会計処理か ら期間損益 計算 をベースに した会計処理へ移行 したことは画期的であった.すなわち, 当期 に発生 した収益 と費用 を合理的に対応 させ,税引前 当期利益 と税引後当 期利益 に介在す る法人税等の税額 をこれに合わせ,当期利益 を適正に算出す る手続 きが導入 されたのである.但 し, この税効果会計 だけが,これまでの

論 文 :税効 果会計導入に よる企業 評価- の影響 79

財務諸表の適正化に寄与 したのでな く,退職給付引当金会計や連結財務諸表 作成な どといった他の改訂要素 も相侯って新 しい会計基準が運用 され適正化 が図 られて きたのである.

(2) 金融機関における税効果会計の問題

税効果会計 については,特 に金融機関の不良債権処理問題 に関連 して取 り 上げ られて きた.税効果会計が問題視 される点について,事例 をまじえ検討

してみたい.

日本銀行の統計資料 (全 国銀行の平成 13年度決算 につ いて」81り による と,繰延税金資産は 「有価証券含み損 を拡大 させ た先が多かったことや不良 債権の有税 引当増加等 に よ り,13月 月末か ら増加 (都長信 1/33月末 53. 円- 1β 月末 804 .兆 円,地銀 ・地銀 Ⅱ1/33月末 18.兆 円- 1/43月末 26兆. 円) し, また 「税効果会計 では,有税引当の対象 とした債権が近 い将来に 無税適状 となるな ど税負担が軽減 される見通 しにある額 (税効果相当額) を

繰延税金資産」 として計上 し,その結果 として資本勘定 (剰余金)がその 分増加す る扱 い となっている.こうした税効果は,税還付 とい う形ではな く, 課税所得に対する税負担が軽減 される形で将来顕現化することとなるため, 仮 に課税所得が想定 した もの より低水準で推移す る場合 には,見込んでいた 税効果が実現 しないことがあ り得 る.」 とコメ ン トしている19㌧ この点につ いて,報告書では 「日本公認会計士協会の実務指針 「繰延税金資産の回収可 能性 の判断 に関す る監査上の取扱 い」 (1999年 11月)では,過去 の業績等 に応 じた繰延税金資産の計上範囲に関するルールが示 されてお り,現状,概 5年分の課税所得見合 いの水準 を限度 とす る区分が適用 されてい る金融 機関が多い.」 としている20㌧ さらに,報告書 (25頁)では,「(4) 自己資 本 の内訳」 と して,資本金 ・剰余金等資本勘定が減少 した一方,繰延税金 資産相 当額 は増加 した と し,Tire二 (単体 ベース) に占め る割合 は,国内 統一基準行で 415,% (資本勘定対比で 446.%)に達 した.」 と述べている.

図表 7の 「主要大手行 の 自己資本比率 と税効果資本 の割合」 は 日本経済 .i

(11)

.

JJ 現代軽 骨経 済研 究 2

図表 7 主要大手グループ行の自己資本比率と税効果資本の割合

グ ル ー プ 行目 項

2003自己資本比率3 20023 200繰延税33金資本 の割合 20023

みず ほ 9.50% 10.56% 56% 50% 三井住友 10.10% 10.45% 59% 50% 三菱東京 10.74% 10.30% 42% 31% UFJ 9.96% ll.04% 59% 49%

りそな 3.78% 8.73% 99% 67% 三井 トラス ト 7.50% 10.59% 100% 71%

(注)後効果資本の割合は貸本金な ど中核 自己資本に対す る比率であるC

出所 .日本経済新聞 2003527日朝刊 (一部加筆修正)

新聞社による資料である.いずれの資料 を見て も,金融機関に限っていえば, 自己資本比率の中に占める繰延税金資本の割合は高 く,税効果会計の恩恵 を 受けているといわざると得ないのである.

金融庁 は,銀行が 自己資本 とみ なせ る繰延税金資産の上限を 「今後 5 間に見込 まれる課税所得の累計額 に約 40%の実効税率 をかけた額」 として いる.また, 日本公認会計士協会の実務指針の影響 もあ り,ほとんどの金融 機 関では 5年分 を計上 してい る. これ も,繰延税金資産の 自己資本比率 を 増加 させている要因になっている.ちなみに,繰延税金資産の計上の上限を 1年分 に短縮 した とす ると,大半の大手行の 自己資本比率は国際基準 (8%) を下回ると思われる.

しか し,この本質的な問題は計上期間の長 さではな く,企業評価 という観 点か ら,何故人 (担 当者)によって計上する期間が異なるのか ということで ある. りそなグループや足利銀行で も見 られたように,繰延税金資産に対す る認識に悪意性が介在することである.事実,両行について繰延税金資産の 計上衝の的確性 については,複数案存在 したことが明 らかになっている.計 上対象期間が短ければ,当然,自己資本に組み込まれる繰延税金資本の割合 が少な くな り, 自己資本比率を押 し下げる要因になる.反対 に過剰な繰延税

論 文 :税 効 果会 計 導 入 に よる企 業 評 価 へ の影 響 81 金資本の組み入れは,自己資本比率を高めることがで きるが,将来獲得す る 利益は確実なものなのか.あるいは債権回収は確実になされるのか といった 経営課題が残る. しか しなが ら,税効果会計の問題点は,その会計処理が扱 う人の立場 に よって,あるいは人的慈恵性 に よって,繰延税金資産の計上 額 ・繰延税金資本の組み入れ額が異な り,結果 として,最終損益などの当該 企業の経営数値 に大 きな影響 を与えることが問題なのである.

(3)税効果会計の問題点

税効果会計 とは,先述 したように,企業の会計上の利益 と税法上の諸規定 で算出される課税所得 との間に禿難が生 じた場合,その差額 を調整する会計 手法である.銀行では 19993月期か ら本格的導入が認め られている.例 えば,不良債権の処理を行 うために,準備のために前倒 しで貸倒引当金を積 み立てた場合,貸倒引当金繰入額は,会計上は 「費用」 となるが,税法上は

損金」 とならない.す なわち,課税所得か ら控除 されないのである.言い 換 えれば,貸倒引当金 として積み立てた繰入損は,積み立てた時点では有税 となる. しか し,将来,債権回収がで きな くな り,損失が確定 した時は 「 倒損失」 として処理 され, この分について支払った税金が還付 されるのであ る.

この ような税効果会計の持つ特徴 を活用 し,将来還付 される税金をあ らか じめ 「繰延税金資産」 として貸借対照表 に計上す ることで,税効果資本

を同時に計上 し,その分・自己資本の増強を図ることがで きる. しか しなが ら, こういった方法で計上 された 「税効果資本」は実態を伴わない,いわば 「 制資本 (未実現の資本)」 とい うものである.税効果会計による会計処理は, これまでの税法中心の考え方,確定決算主義ではなく,発生主義 に基づ く期 間損益計算を基礎に置いた会計処理方法である. しか しなが ら,そこには, 特 に銀行業界において,これまでの繰延税金資産の自己資本への算入につい ては引 き下げを含めた検討がなされているようである. しか し,この議論に ついては, もしも, 自己資本への算入上限の引下げが行われた場合は,銀行

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