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米国における障害乳幼児施策の展開

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(1)

 本稿では、合衆国における障害乳幼児政策の展開過程を論じた。合衆国では、1975 年 の「全障害児教育法」の成立で、3〜 21 歳までの連邦政府の補助金を伴う 障害児の 全入 制度が確立したとされるが、現実は、必ずしもそうではない。3〜5歳までの障 害 幼 児 に つ い て は、1981 年 ま で に 全 州 で「 無 償 の 適 切 な 教 育(free appropriate  education)」の保障が実施に移されたのである。0〜2歳児の障害乳児に対する施策は、

3〜5歳の障害幼児施策とは異なり、1986 年の P.L.99-457 により各州政府が、連邦政府 の補助金を得て整備すべき早期教育(療育)施策の骨格が示された。同時に、P.L.99-457 では、0〜3歳未満児には、3〜 21 歳の障害児に適用される障害カテゴリーではなく、

「発達の遅れ」カテゴリーが早期教育(療育)対象を規定する用語として使用された。

その後、「発達の遅れ」用語の使用は、3歳児以降の障害カテゴリーの在り方に影響を 与え、今日に至っている。

キーワード  合衆国の障害児教育、障害乳幼児、障害カテゴリー、発達の遅れ、個別家 庭/家族支援計画(IFSP)

問題

 世界各国の障害児教育法制を鳥瞰すると、障害児教育という特別なサポートを受給できる有 資格者を障害カテゴリーを使用して特定する国と、有資格者を障害カテゴリーを使用しないで、

「特別な(教育的)ニーズを抱える子」として括って特定する国に2分できる。日本の障害児 教育法制は前者であり、合衆国の連邦政府の障害児教育法制も基本的には同様である言われて いる。それに対して、後者に属するのがイギリスなどである。前者は、障害カテゴリー別アプ ローチと呼ばれ、後者は非障害カテゴリー的アプローチとして呼ばれたりしている。

 ところで、合衆国の連邦政府の障害児教育法制は、確かに、障害カテゴリー別アプローチで はあるが、実際は、障害カテゴリーとは必ずしも言えない「発達の遅れ(developmetal  delay)」という用語で、障害児教育の対象の一部を括っている。以下の本稿では、この「発達 の遅れ」という用語が、障害児教育の対象児を括る用語として登場してきた歴史的経緯を明ら かにしようとするものである。

1.障害乳幼児施策の法制化への経過

 合衆国における教育行政の核は、州政府と地方教育当局であるが、第二次世界大戦後、連邦 政府の役割が大きくなり、今日を迎えている。障害児教育の分野でも同じであり、連邦政府は、

米国における障害乳幼児施策の展開

Sadao Shimizu

The Evolution of Early Childhood Special Education in U.S.A.

清  水  貞  夫 *

* 女子短期大学部 保育科

(2)

障害児教育で遅れを示している各州を引き上げることを目指して、1975 年に、「全障害児教育 法(P.L.94-142)(Education for All Handicapped Children Act、以下では EAHCA と略記)」

を成立させる。同法は、同法に規定する「適切な無償教育(free appropriate education:FARE)

を 1980 年9月新学期開始までに3〜 21 歳の全障害児に権利として保障することを規定し、そ のための連邦政府による州政府宛て補助交付金(連邦政府は全経費の 40%補助を約束してい たが最近になりやっと 10%になった)の支出を規定したものであった。以下では、同法の変 遷の中で、障害乳幼児施策が展開を跡づけながら、障害児教育法制の中で「発達の遅れ」とい う概念がいかに機能しているかを考察する。

注1

 EAHCA は、州政府に補助金を交付する対象障害児について、障害カテゴリー的アプローチ を採用している。すなわち、EAHCA は、①知的障害、②聾、③聴覚障害、④言語障害、⑤盲 を含む視覚障害、⑥情緒障害、⑦肢体不自由、⑧健康障害、⑨学習障害、の9つの障害カテゴ リーを設定して出発した。だが、その後 1978−79 年に、重複障害(multihandicapped)と盲 聾(deaf-blind)という2つの障害カテゴリーを加えたのを嚆矢として、1990 年には、自閉症

(autisum)と外傷性脳損傷(traumatic brain injury)を加え、総数 13 の医学−心理学的障害 カテゴリー数にまで拡大して今日を迎えている。

 EAHCA は、法律名が「全障害児」となっているとはいえ、0〜2歳の障害児乳幼児は対象 とはしていないものの、3〜 21 歳までの全障害児に FAPE を法律の規定に適合するかたちで 保障したとき、当該州政府に対して連邦政府が障害児数に対応した補助金を交付する旨を規定 した。しかしながら、EAHCA は、州政府が3〜5歳の障害幼児について早期教育(療育)を 提供するための計画案を作成したときは、奨励資金を交付するとも規定したものの、「本法の 条項は、州法と矛盾する限り、いかなる州政府にも 適用されない」との但し書きの下で、3〜5歳児に 対する FAPE の保障は猶予されていた。つまり、

EAHCA の成立時、連邦政府の学齢以前の障害児に 対する政策は、学齢障害児の教育保障を第一義とし て、次に3〜5歳児の障害幼児に FARE を実現さ せようとするものであったといえる。上記の但し書 きは、各州政府当局が財源的に対応できないという 理由での強い反対で挿入されたと言われている。実 際、当初においては、3〜5歳の障害幼児に FARE の保障を打ち出した州政府は全州の半分 にもならなかった。そこで、連邦政府は、1977 年以降、FARE を保障された3〜5歳の障害 幼児数に対応して「就学前児奨励交付金制度(Preschool Incentive Grant Program)」を設けて、

障害幼児の就学前教育を奨励し始めた。また 1983 年には、EAHCA を改訂(P.L.98-199)し、

障害乳幼児の早期教育(療育)の実施のために、州政府に対する財政支援を意図して、0〜2 歳児をふくめて5歳児までの障害乳幼児に対する総合的なサポート体制整備のための奨励交付 金を新たに設ける。連邦政府の各州政府へのこうした支援策の結果として、1987 年には、合 衆国全州が3〜5歳の障害幼児の FARE の保障をする意思を示し、交付金支給を受けるまで になる。その結果として、3〜5歳の障害幼児で早期教育(療育)を受ける子ども数が、1987 年までに 1976 年当時に比して 33%増加したといわれるとともに(Yssldyke et al.,1999)、連邦 政府も3〜5歳の障害幼児の 75%が FARE を保障されていると推計するにいたる(Tenth 

EAHCA の原則

 ①無償の適切な教育保障

 ②評価手続き等での適正手続き保障  ③可能な限りの通常教育の保障(最少

制約環境(LRE)の保障) 

 ④個別教育計画(IEP)の作成  ⑤保護者の IEP チームへの参加、記録

へのアクセス権、異議申し立て権の

保障

(3)

Annual Report,1988)。しかしながら、3〜5歳の障害幼児に対する FAPE が完全に実現した わけはなかった。

 そこで、1986 年、EAHCA 改訂(P.L.99-457)で、連邦政府は、FARE の保障の対象に未だなっ ていない3〜5歳の障害幼児の解消を目指して、1991−92 年教育年度までに、すべての3〜5 歳の障害幼児に対する FAPE を実現しない州政府に対しては連邦政府の障害児教育交付金補 助の支給を停止することを規定する。これは、EAHCA 成立時に意図した3〜 21 歳までの「全 障害児」に対して FAPE を権利として保障するという立法意図の実現を期して、3〜5歳児 対する FAPE の実現を各州政府に求めたものといえる。1980 年代後半、合衆国は経済の低迷 の中、レーガン政権の下、「小さな政府」を目指した財政支出削減策が進行していた。そうし た社会状況下にも関わらず、障害幼児施策は別扱いにされ、財政支出の増大が伴う施策が展開 したのは、早期教育(療育)への投資が将来における支出減少につながるという楽観的な見方 の勝利だったのかもしれない。

 1980 年代後半になり、合衆国の障害児教育界は、障害乳幼児への関心を強める。それは、

定型発達における乳幼児は、弱々しく何もできない存在でなく、外界の活発に相互作用のもと で諸能力を発達させる主体として認識されるようになったという事実があり、その事実をもと に、非定型の発達の早期から発達促進的に働きかけることで、将来の障害児教育にかかる経費 の節減を実現できるのではないかという希望的観測が広がったことによるといえよう。

連邦政府の補助金対象の障害幼児数(3〜5歳児)            単位=千人 年次 1977 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 人数  197  201  215  232  237  228  242  243  259  261  266 Tenth Annual Report(1988)により作成

2.「パート H」と障害乳児プログラム

 ところで、P.L.99-457 は、障害幼児(3〜5歳児)に対する FARE の実現を期した法律であ ると同時に、障害乳児(0〜2歳)に対する早期教育(療育)(early intervemtion program)

の新規創設を打ち出した法律でもあった。すなわち、P.L.99-457 は、「パート H・障害乳幼児 プログラム(Infants and Toddlers Programs)」(州政府の実施するプログラムに対して、連 邦政府が州政府に対して奨励補助金を交付することを規定した条項を含むセクション)を新設 したのである。これは、連邦政府の障害乳児へのコミットを示す金字塔であった。

 「パートH」の目標は、次の4つである。

  (1)障害乳児の発達を促し、発達の遅れを最小化する

  (2)障害乳児が学齢に達した後に必要となるかもしれない障害児教育経費を最小化する ことで社会に対する教育経費の負担を軽減する

  (3)障害者の施設入居の可能性を最小化し、社会における自立を最大化する   (4)障害乳幼児のニーズに対応できる家族の力量を増大させる

 そして、連邦政府は、州政府が「州全域をカバーした多種の専門性にまたがる行政横断的な

障害乳幼児に対する包括的早期教育(療育)プログラム」を開発し実行することを求め、州政

(4)

府に対し財政支援を行うことを規定したの である。これにより、各州政府は、障害乳 児とその家庭のニーズに応える包括的早期 教育(療育)システムを構築するために、

連邦政府から財政支援を得ることが可能に なったのである。その際、包括的早期教育

(療育)システムは、左表に示した事項を 満たしていることが求められた。また州政 府は州内の3歳児未満児の人数に応じて算 定される連邦政府補助金を受給開始から5 年間で工程表をもとに体制整備を完了する こととされた。さらに3歳児以降の障害児 の FARE のために求められている法定障 害 カ テ ゴ リ ー で な く、「 発 達 の 遅 れ

(developmental delay)」の用語を使用して、0〜2歳児の障害乳児を括り、その判定基準や 手続きを明示することも州政府の責任とした。

 ただし、P.L.99-457 は、連邦政府による州政府への財政支援は、包括的早期発見・早期教育(療 育)のシステム開発を中心にしたものであり、若干の要件は規定されながらも、早期教育(療 育)のプログラムの直接的な運営補助は各州政府に委ねられている。若干の要件とは、障害乳 児の早期教育(療育)プログラムで提供されるサポートは、発達支援であり、(1)公的監督 下にあり、(2)無償で原則提供され、(3)個別家庭/家族支援計画(Individualized Family  Service Plan:IFSP)にもとづく、等々である。各州政府は、経済の停滞の中で財政負担の増加 を危惧したものの、最終的には、すべての州政府は、順次、 「パート H」で示された早期教育(療 育)の体制化に踏み切る(Harbin,G.L.and Others,1989 & 1991)。総括的な言い方をすれば、

連邦政府が障害乳児施策に関する包括的な方向性を明示し、各州政府のそれに向けた努力を促 したのが 1986 年の P.L.99-457 であったと評価できる。そして、そこで登場したのが「発達の 遅れ」概念であったといえる。

3.早期教育(療育)提供システム

  EAHCA は、FAPE が専門家・教師の提供する特殊教育(special education)と教師以外の 専門家の提供する関連サービス(related services)から構成されていることを規定している。

すなわち、障害児教育の対象として認定された障害児(3〜 21 歳)は、専門家・教師から教 育指導を受けるとともに、必要に応じて教師以外の専門家から多様なサポートの提供を受ける ということである。専門家以外からのサポートは「関連サービス(related services)」という 用語で括られ、個別障害児ごとに作成される「個別教育計画(Individualized Education  Plan:IEP)により提供されるサポートの種類と頻度が示されることになっている。この考えは、

合衆国の障害児教育法制の骨格であり、今日になるまで変わってはいない。そして、3〜5歳 の障害幼児の早期教育(療育)にも、この考え方が適用されている。

 他方、0〜2歳の障害乳児の早期教育(療育)体制の方向性を示した P.L.99-457 では、「パー 包括的早期教育(療育)体制の要件

①「発達の遅れ」の定義明示

②体制整備のための工程表

③多種専門家によるアセスメントの確立

④個別家庭/家族支援計画の作成とケースマネジメント

⑤早期発見体制の確立

⑥早期教育(療育)の啓発

⑦州における所管中央省庁の明示化

⑧人材養成体制の整備

⑨行政機関間の協働体制の確立

⑩人材資格認証等の整備

⑪サポートサービスの確保のための政策確立

⑫連邦交付金の交付手続きの確立

⑬保護者への手続き上の権利保障

⑭早期教育(療育)のデータ収集

Part H Section676

(5)

ト H」の対象になる子どもに対して、

個別家庭/家族支援計画(IFSP)(左 表参照)が IEP に代わる文書として 作 成 さ れ る と 規 定 し て い る。 そ の IFSP に基づき障害乳児及び家庭/家 族に対して、①保護者訓練・カウンセ リング・居宅訪問、②特別の指導、③ 言語治療と聴能訓練、④作業療法、⑤ 理学療法、⑥心理サービス、⑦ケース マネジメント、⑧診断と評価のための 医療サービス、⑨早期発見・スクリー ニング・アセスメント、⑩保健サービ ス、等々が支援のために提供されるこ とになる(ここに列記したサポートは「関連サービス」と重複しながらも同一ではない。1991 年にはソーシャルワークがサポートして追加されている)。これらサポートと障害乳児とその 家族を確実に結びつけるのが、各障害乳児家庭に無償で指名されるケースマネージャーであり、

彼(女)は適切なサポートの権利と手続きが確実に守られることを保障する責任者であり、サ ポートのコーディネーターである(「施行規則」∮303.6)。

 ケースマネージャーがコーディネートしたサポートの提供の場は、「パート H」では、特段 の指定がなされていないが、1997 年の IDEA 改正

注2

では「自然な環境(natural enviroiment)」

が IFSP に書かれることとなっている。「自然な環境」は、入所施設ではないことの意味であり、

必要に応じて居宅訪問やディケア・センターでのサポート提供が目指されている。これは、「全 障害児教育法(P.L.94-142)」が、障害児教育の場を可能な限りの通常教育であると表明してい ることと同一の趣旨といえる。

 IEP が教育行政と障害児保護者との契約書的性格をもつのと同じように、IFSP は障害乳幼 児と家庭/家族に保障される権利内容を文書化したものといえる。IEP でなく IFSP の作成が 求められるのは、乳児という年齢段階において、乳児だけでなく家庭への支援が欠かせないこ とが認識されてのことである。

4.「発達の遅れ」の登場と新たな矛盾

 障害乳児に対する施策で新地平を打ち出したのが P.L.99-457 の「パート H」であるが、同「パー ト H」は、対象となる障害乳児の括り方についても新地平を打ち出している。それは、「発達 の遅れ」という概念で0〜2歳(3歳未満)児を括っているのである。「発達の遅れ」の判定 基準と判定手続きの詳細は各州政府にゆだねながらも、「パート H」は、障害を有する乳児に ついて、0〜2歳児(3歳未満児)であり、(1)適切な診断機器と手続きにより、認知発達、

身体発達、言語発達、心理−社会的発達、身辺処理スキルの一つ以上で発達の遅れを示してい るか、 (2)発達の遅れに結果する可能性が高いと診断された心身状態を有している乳児である、

と示されている。特に(2)の乳児については、注記があり、「可能性」という用語は統計的 な意味で使用しているのではないとし、ダウン症及び染色体異常、視覚及び聴覚等の感覚障害、

 「個別家庭/家族支援計画(IFSP)」の内容

①障害乳幼児の発達の各領域での現水準

②障害乳幼児の発達促進に関係する家族のリソースや懸 念(ニーズ)

③早期教育(療育)により期待される子どもと家族にか かわる成果

④障害乳幼児のニーズ充足に必要なサポートとその頻度

⑤早期教育(療育)提供される自然な環境

⑥サポート開始日時と終了予定日時

⑦早期教育(療育)の実施に責任をもつケースマネー ジャーの指名

⑧障害幼児が3歳児以降のプログラムに移行するときの ステップないし手続き

Part H ,Section 677,  ⑤は後日の改定で追加された

(6)

先天性代謝異常、小頭症、重度の愛着障害、発作、胎生期アルコール中毒症が列記されている。

これら(1)と(2)に加えて、州政府の裁量により、「サポートが提供されないなら発達の遅 れを示すリスク」を抱えた乳児(以下、リスク児と表記)も加えることができるとされている

(Section 672)。リスク児の認定についても、注記があり、「発達の遅れ」のリスクと想定され る新生児期の生物(病理)学的要因等、並びに低体重、新生児期呼吸困難、酸素欠乏、脳内出 血、感染症などがリスク要因になるとし、州政府の判断で決定することを求めている。こうし た障害乳児のリスク児概念の規定は、以後、今日に至るまでの連邦政府の規定する障害乳児の 対象規定となっていく。すなわち、診断上で明白な障害乳児だけでなく、将来的に障害児とし て認定され障害児教育を受けることになるかもしれないリスク児を州政府の裁量で予防的に早 期教育(療育)の対象にする方向性を示したのが「パート H」だったのである。しかし、リス ク児を「発達の遅れ」概念に含めることは、それだけの財政負担を覚悟するということである とともに、なにをリスク要因とするかを明らかにしなければならないという課題を背負うこと であった。その点で、連邦政府の「第 13 年次議会宛報告」(U.S.Department of Education,  1991)では、連邦教育局は、単一のリスク要因より複数のリスク要因の複合(例えば、保健問 題を抱える低体重児であることに加えて家庭の養育環境がストレスにとみ安定性に欠けるよう な場合)が問題であることを述べつつ、州政府の「発達の遅れ」用語の定義素案が環境要因な いし生物(病理)学的要因によるリスク児を早期教育(療育)の対象にすることを考慮してい るものの、「多くの州政府がリスク児を(パート H のサポート受給の)有資格としない方向で あることが示唆されている」というコメントをしている。

 早期教育(療育)において、その対象を障害乳児と診断されたケースに限定するとするなら、

それは比較的容易と考えられる。またそうした障害乳児は、学齢期で使用する障害カテゴリー を当てはめることもできよう。それにもかかわらず、「発達の遅れ」という用語を登場させた のは何故であろうか。「発達の遅れ」が登場した背景には、関係者の強い働きかけがあったと 言われる。

 関係者が「発達の遅れ」という用語を敢えて主張したのは、①障害種別にこだわらないで、

子どもを まるごと 理解しニーズに対応することを考えると、学齢期以降の障害カテゴリー で分類することが不適切であろう、②ほとんどの0〜2歳児が家庭で養育されていることを考 えれば、家庭環境と子どもの発達は深く関わるばかりか、乳児の診断は場面や環境によって違っ たものになり、また乳幼児期の診断名は変易性に富み、学齢児以降の障害カテゴリーを使用し たのでは、誤った早期教育(療育)につながりかねない、③乳児を早期に特定の障害カテゴリー にあてはめてしまうことで、障害カテゴリーに引きずられて子どもや家庭の抱えるニーズから 外れたサポートの提供になりかねない、④早期教育(療育)が必要なのにも関わらず、乳幼児 期の子どもに障害カテゴリーの貼付がスティグマにつながり、早期教育(療育)の忌避が起き る可能性がある、等々の懸念をもっていたからにほかならない。すなわち、早期教育(療育)

の対象を幅広く把握して、家庭や乳児のニーズを総合的に把握するのに、障害カテゴリーは問 題が多いというのが関係者の懸念であり、それが「発達の遅れ」概念を登場させたのである。

 しかし、それだけでなく、「発達の遅れ」状態が確認できないが、医学的に「発達の遅れ」

につながる恐れを抱えたリスク児を含めて、予防的観点を踏まえて早期教育(療育)の体制を 確立するのに選択されたのが「発達の遅れ」であった。リスク児は州政府のオプションながら

「発達の遅れ」を構成すると考えられ、早期教育(療育)の対象となったのである。0〜2歳

(7)

児における早期教育(療育)の対象は、「発達の遅れ」を現に示していないリスク児を含める 用語として登場したのである。

 しかしながら、ここで述べたことは0〜2歳児に限定されないで、幼児期(3〜5歳児)に ついても言えることであろう。その点で、P.L.99-457 は、各州政府が EAHCA の対象障害児数 を連邦政府へ報告するに当たり、就学前幼児の3〜5歳児については、特に障害カテゴリー別 数を報告する必要がないとした。この措置は、3〜 21 歳の障害児については、法定された障 害カテゴリーで分類された子ども数に応じて、連邦政府は補助金を州政府に支出するという建 前を修正し、0〜2歳の乳児に採用した考えを3〜5歳の障害児にも活かそうとしたものと言 える。

 全米各州で、障害幼児に対する早期教育(療育)は量的に拡大していく。その過程で、連邦 政府は、障害児幼児(3〜5歳児)について、州政府に対して補助金を交付するにあたり障害 カテゴリー別人数を基礎にして交付金額を決定してきた。すなわち、P.L.99-457 は、早期教育(療 育)の受給資格決定にあたり、「パート H」で、0〜2歳の障害乳児には「発達の遅れ」とい うカテゴリーを用意し、それとは別に「パート B」(3〜 21 歳の障害児教育プログラムの在り 方を規定したセクション)」の対象になる3〜5歳の障害幼児には学齢障害児に適用される障 害カテゴリーを用意するという2方式を採用した。そこで懸念されたのは、障害乳児が3歳児 に達したとき、引き続き早期教育(療育)を必要とするとき、うまく連続するのか否かという ことであった。これは、言い換えると、 「パート H」と「パート B」の接続性の問題であり、 「発 達の遅れ」が学齢児の障害カテゴリーに円滑につながるのか途切れるのかという懸念である。

「発達の遅れ」というカテゴリーは、障害が医学的に顕在で明示的とは必ずしも言えない0〜

2歳の乳児を対象にして導入されたのではあるが、子どもが3歳時点で早期教育(療育)の必 要性が解消されないとき、学齢児童生徒のために用意された障害カテゴリーに該当するとは必 ずしも言えないケースに対して、どのように対応するのかが問われたのである。ハービンら

(Harbin and Others,1992)は、各州政府の「発達の遅れ」定義における「発達の遅れ」の程度、

「発達の遅れ」の判定基準と手続き、専門家の判断方法、リスク要因などを検討し、 「パート H」

での対象となっている子どもが3歳になったときに「パート B」でのサポートを引き続き受け られなくなる可能性のある州政府は全米で 27 州になると指摘した。

 この問題の解決は 1991 年の P.L.102-119 の成立まで待つことになる。同法により、「発達の 遅れ」概念の使用は、州政府のオプションとして、3〜5歳児にまで延長されたのである。つ まり、3〜5歳児について「発達の遅れ」という括りの下、早期教育(療育)を提供できると ともに、同時に、3歳児以降の障害児教育有資格者に貼付される障害カテゴリーを並行して使 用できると P.L.102-119 は規定したのである。ここに至って、3〜5歳児について、障害カテ ゴリーを使用するか、それとも、それに加えて「発達の遅れ」というカテゴリーを使用するか の選択を求められたのである。

5.1997 年の IDEA の改訂(P.L.105-17)

  1997 年、P.L.105-17 の成立により IDEA はかなり大幅な改訂が行われた。以前においては、

連邦政府の「障害乳幼児プログラム」は「パート H」に規定されていたが、規定内容には手が

加わらないものの、「パート C」に組み替えられた。つまり、障害乳幼児のうち0〜2歳の乳

(8)

児は「パート C」、そして、3〜5歳児の幼児は「パート B」(3〜 21 歳の障害児に FAPE を 保障するにあたり求められる要件と連邦政府が障害児数をもとに州政府に補助金を交付するこ とを規定したセクション)に規定されたのである。以下では、1997 年の P.L.105-17 の詳細には 触れないで、「発達の遅れ」に限定して、その内容を検討する。

 「パート B」には、連邦政府が州政府に対して補助金を交付する対象として、( i )障害を抱 えた子ども、(ⅱ)障害故に 特殊教育 及び 関連サービス を必要とする子ども、の2要 件を満たす子どもとし、障害カテゴリーを列記するとともに、3〜9歳児については、次のよ うに特に規定している。

  <1997 年 IDEA のパート B>

 発達の遅れを示す3歳から9歳までの子どもには、....州政府および地方教育学区の裁量により....

次の要件を満たす子どもを含めることができる。

 (1)....州政府の定義及び適切な診断方法と手順で、身体発達、認知発達、コミュニケーション発達、

   社会あるいは情緒発達、あるいは適用能力の発達の領域で複数において発達の遅れを示し、

 (2)上記条項ゆえに、特殊教育と関連サービスを必要とする。

IDEA Amendments of 1997 ;20 U.S.C 140 (3)(A)and (B)∮300.7  

 この「パート B」の条文は、パブリックコメントを経て、「施行規則(regulations)」で、次 のように説明されている。

 <1997 年 IDEA の「発達の遅れ」に関する施行規則 >

(a)「発達の遅れ」の使用。(1) 「発達の遅れ」というカテゴリーを採用する州政府は、....それが、

3歳から9歳までの子どもに適用されるのか、同範囲の子どもの一部範囲(例えば、3〜5歳児)

に適用されるのかを明確にする。

(2)州政府は、地方教育当局に同用語の採用を要求しないでもよい。

(3)地方教育当局が同用語を採用するときは、当該地方教育当局は、州 政府による同用語の定義及び適用年齢範囲(例えば、3〜9歳あるい は3〜5歳)に従うものとする。

(4)州政府が「発達の遅れ」を採用しないときは、....地方教育当局は、

子どもの障害児教育受給の基準として、同用語を独自に採用すること はできない。

(b)障害カテゴリーの使用。(1)3〜9歳の子どもについて「発達の遅 れ」の用語を使用することとした各州政府あるいは地方教育当局は、

同時に、∮300.7 に規定した障害(筆者注記−知的障害をはじめとする 13 の障害カテゴリー)を使用することもできる。ただし、....子どもは、

本施行規則に規定された手続きに従って評価をうけ、障害故に障害児 教育と関連サービスを必要としなければならない。

 20 U.S.C.1401(3)(A)and(B)∮300.313

 P.L.105-17 による「発達の遅れ」概念に関する改正を要約す ると、①「発達の遅れ」を適用できる範囲を9歳児まで拡大し、

州政府は適用年齢範囲を別に定めることもできる、②「発達の遅れ」ないしは州政府の定義す る類似用語を適用することができる、③「発達の遅れ」や類似用語の判定手続きの詳細は州政 府が定めるものの、地方教育学区はそれに従わないこともできる(ただし、州政府が同語を採 用しないときはできない)の3点といえる。9歳までの年齢拡大は、関係研究団体等の主張を 参酌してのものであろう。例えば、特殊教育協議会幼児部会(DEC of Council of Exceptional 

パートC及びパート B の対象乳幼児数(割合)

0 〜2 3〜5 1994

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

1.30%

1.41 149 1.69 1.62 1.78 2.00 2.07 2.23 2.25 3.32 4.40

5.29

5.55

5.81

5.88

5.84

NECTAC の Part C 及び

Section 619 により作成

(9)

Children)などは、8歳児までの拡大を主張していた。発達研究者の間で、認知構造等を踏ま えて、5〜8歳を一まとまりにすることができるとされてきたことも見落とすことができない。

 なお、IDEA は 2004 年に見直し(P.L.108-446)が行われ改訂される。「発達の遅れ」に関し ては手が加えられてはいない。すなわち、ここに紹介した状況が今日まで継続されている。た だし、2006 年に公布された同「施行規則」には、「順調に進級していながらも障害を疑われる 子ども」も、障害児として対応する規定が追加されていることが注目される。この措置は、予 防的措置としてリスク児を「発達の遅れ」に組み入れることを認めた「パート H」以来の引き 継ぎといえなくもない。

6.各州政府における「発達の遅れ」の使用概況

 「発達の遅れ」概念は、P.L.99-457(1987 年)により、早期教育(療育)の対象を指定する 概念として登場し、その後、その適用範囲は拡大し、今日では、9歳未満に適用できる用語と なっている。以下では、同用語が各州でいかなる適用をうけているのかを概括しておく。

(1)用語と用語の適用される年齢レンジ

 2007 年の時点で、大多数の州政府(37 州)が障害幼児(3〜9歳)の分類カテゴリーとし て「発達の遅れ」ないし同類似語(「重度の発達の遅れ(significant developmental delay)」等)

を採用している。約 1/3 の州政府(17 州)は、独自の障害カテゴリー用語(preschool special  needs,developmental disability,preschool student with a disability 等)を使用している。その際、

例えば、①「パート B」で規定された障害種別に加えて「発達の遅れ」を使用している州政府 と、②障害乳幼児について「パート B」の法定障害種別の代わりに「発達の遅れ」を使用して 法定障害種別の一切を使用しない州政府と、「パート B」の法定障害種別の一部に代えて「発 達の遅れ」を使用する州政府がある(その場合、学習障害、知的障害、情緒障害を包摂するも のとして使用する州政府は9州)、③「パート B」の法定障害種別で障害乳幼児を分類できな いときに限定して「発達の遅れ」の使用を認める州政府があ る、などである。

 「発達の遅れ」を適用する年齢レンジは、3〜5歳として いる州政府(26 州)が最も多く、次に多くの州政府(8州)

が規定しているのは3〜9歳までのレンジである。その他、

3〜8歳(6州)、3〜7歳(5州)、3〜6歳(2州)と続 いている(Danaher,2007)。現状では、9歳までの「発達の 遅れ」概念の提供を認めている州政府は、多いとは言えない。

これは、「発達の遅れ」を採用することで、多額の教育費の かかる FAPE を保障する対象児にするのに州政府が躊躇し ているといえよう。

(2)「発達の遅れ」の判定基準

 「発達の遅れ」の判定基準や手続きは州政府に一任されて いる。判定基準の設定の仕方で、対象人数が異なり、それは 結果的に財政規模に影響するという性格をもっている。ダナハー(Danaher,2007)の調査によ れば、「発達の遅れ」ないし州政府独自の類似カテゴリーについて、数量的な判断基準を設定

「発達の遅れ」及び類似用語 を使用する州政府の年齢範囲

 年齢レンジ 州政府数

 0−5歳まで 1

 0−8歳まで 1

 2−8歳まで 1

   3歳に限定 1

3−4歳まで 1

3−5歳まで 26

3−6歳まで 2

3−7歳まで 5

3−8歳まで 6

3−9歳まで 8

全年齢 2

Danaher(2007)により作成

(10)

している州政府が大多数(44 州)であるという。数量的判定基準として多用されているのは(39 州)、①発達検査で観察された「発達の遅れ」が一つの発達領域である場合、平均値より 2.0SD 以下、二つの発達領域で「発達の遅れ」が観察される場合にあっては、平均値より 1.5SD 以下 というように偏差値で示す方法である。偏差値でなく、 「発達の遅れ」の程度を平均値からのパー セント(その場合、20 〜 30%と幅がある)で示す方法もあるばかりか、偏差値とパーセント 表示を併用する州政府もある。

 こうした数量的な判定基準の設定は、 「パート C」の適用を受ける0〜2歳の乳児については、

妥当性と信頼度の高い検査が必ずしも多くないので、「パート C」の「施行規則」により、保 護者を含む多職種専門家チームの臨床的判断による判定が求められている。そのため、「パー ト C」の乳児につては、数量的データによらないで臨床的判断だけで判定することができると している州政府もある(Shackelford,2006)。実際、0〜9歳までの「発達の遅れ」の判定で、

②発達検査で示された数値によらないで、チームでの判断、専門家の判断ないし臨床的判断で 判定できるとしている州政府は 14 州にのぼる。さらに、9つの州政府は、3〜9歳での「発 達の遅れ」と判定された子どもに障害カテゴリーの貼付を求めるが、それは小数派である。さ らには③州政府が独自の診断基準を示さないで「指針」を示すにとどまり地方教育機関に判断 をゆだねている州政府や IFSP をもとに実際にサポートを受けている者としている州政府など がある。こうした多様さは、誕生し居住する土地により、サポートが異なるという状況を生み 出しているといえよう。

(3)リスク児をふくむか否か

 障害乳児プログラム(「パートC」)の対象として、リスク児を州政府の判断で対象に加えて いる州政府は、ハワイ、カリフォルニア、マサチュセッツ、ニューハンプシャー、ノースカロ ライナ、ニューメキシコ、ウェストヴァージニア、サモア、グァムに過ぎない。これらの州政 府は、そうでない州政府の倍以上の乳児(0〜2歳児)にサポートを提供している。ここでも、

州政府は、財政上の負担を考慮して躊躇していることが疑われるといえよう。それ以外の州政 府は財政負担を忌避してリスク児をモニターするにとどまっている。

注1:合衆国における就学前期障害乳幼児に対する支援システムとしては、本稿でとりあげた 障害児教育法(EAHCA から IDEA につながる法制)下での支援だけでなく、1965 年の「貧 困との戦い」で発足したヘッドスタート計画による「早期ヘッドスタート」(0〜2歳児)

及び「ヘッドスタート」(3〜5歳児)がある。同支援計画下では、貧困家庭の障害乳幼 児や遅滞児に対する早期教育(療育)の支援が行われている。現在では、へッドスタート のプログラム参加児童の 10%が障害児であると規定されいる。もう一つ、連邦政府によ る補助金交付の行われるプログラムに「初等及び中等教育法」の第1章(Chapter 1)に よるものがある。Chapter 1 の資金は、 「パート H」が制定された以降、初等教育での読み・

算数の補償教育に使われることが多くなったが、就学前乳幼児にも使用でき、障害乳幼児 や遅滞児の支援がされている。

注2:EAHCA は、1990 に法律名が変更になり、Individuals with disabilities Education Act

(IDEA)となり、以後、今日にいたっている。

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参照

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