鎌倉仏教者 の 注釈活動
︱親鸞 と 覚如 の 左注 を 視点 として ︱ 金
子 彰
一︑親鸞の注釈活動鎌倉仏教者の親鸞は︑注釈書作成に於ても︑又自著や転写本に多くの書き入れ注を施すなど︑実に丹念な注釈活動
を行っている︒その注釈姿勢は︑読者を配慮した工夫を種々に凝らしている︒この時期の鎌倉新仏教の開祖達に共通して見られる点は︑新しい時代に即応する〝ことば〟への認識と読者への配慮である︒本稿では︑語学的注釈活動に絞り︑親鸞のほとんど全著作に丹念に書き入れられた左記のような注釈について検証していく︒真蹟に書き入れられた注の多くは親鸞晩年まで継続して行われ︑行間の狭いスペースへの書き入れ注が︑親鸞の注釈活動の特色の一つとして注目されるのである︒語のレベルの書き入れ注語句のレベルの書き入れ注︑文のレベルの書き入れ注諸記号の書き入れ注︵本稿では省略︶書き入れられた注︑特に左注の先行研究には︑管見によれば秋葉安太郎氏他や中川浩文氏︑龍谷大学仏教文化研究
所等によるものがある
・仮名交じり注釈書の注釈方法や字訓釈の実態の分析報告 私は独自に親鸞真蹟を取り上げ︑注釈活動を次のように記述︑分析してきた︒ もので貴重な労作であり︑親鸞の字訓研究の基礎資料の提示であるが︑そこでは活字本等に底本を求めている︒ 解明は今後に残された所が多い︒龍谷大学仏教文化研究所による字訓の一連の報告は遺文の全字訓を把握せんとする り上げられた左訓等は教義上難解な特定の字訓解明に主眼があり︑本稿で取り上げるような遺文全体に亙っての検討 字書的な拠り所に通じる普遍性をもった和訓を選別される国語学的な見方の態度があった﹂と指摘された︒ここで取 川浩文氏も三帖和讃の左訓を新撰字鏡等数種の古字書で比較検討された︒そして﹁訓の付され方の基本には︑つねに ︒秋葉氏等は浄土和讃の左注のうちで左訓を古字書のひとつ名義抄と比較したものである︒中 1
・字訓集稿の作成︒親鸞遺文の全字訓を蒐集分類︒ ︒注釈の形式や字訓の性格等を主に分析︒ 2
1
︑親鸞遺文の書き入れ注について親鸞の注釈法について略述し︑用例を抄出する︒︵尚︑親鸞遺文の引用に際しては﹃親鸞聖人真蹟集成﹄全九巻︵法蔵館︑一九七三・一九七四︶︑﹃増補親鸞聖人真蹟集成﹄全十巻︵法蔵館︑二〇〇五・二〇〇六年︶を使用した︒出典の漢数字は頁数︑算用数字は行数を示す︒漢字に附された声点︑返り点等は省略し︑漢字は通行字体に訂して示
したものである︒
書き入れ注の形式︵
1
︶ 語の訓み方の注︵ⅰ︶ 漢字音︵右訓が大半である︶○経 キヤウ証 シヤウ︵西方指南抄 上本三頁○古郷︵左訓フルキサト︶︵西本願寺本唯信抄四〇頁 コキヤウ ︵ⅱ︶和訓︵左訓が大半である︶
2
行︶○普 アマネク ︵ⅳ︶訓読
○稱字處陵反︵教行信証二巻五一頁︶ リヨウ ︵ⅲ︶反切︵左注が大半である︶
5
行︶告 ツケタマハク
于 ニ
予 ワカ
門 モンニン
人・念佛上人等 トウ︵西方指南抄 中末三頁
︵
1
行︶2
︶語釈の注︵ⅰ︶ 左注○悉 シチ
現 ケン
前 セン
︵左注コト〳〵クマヘニアラワシタマヘトナリ︶︵一念多念文意 三頁
3
行・六頁○東大寺・勧進上人 トウタイシノクワンシン ︵ⅱ︶頭注
1
行︶修 シユシヨウハウ
乗坊
重 チヨウ
クヱン源
︵頭注
に﹁或作俊字﹂︶︵西方指南抄 中末三七頁
被注釈語が︑語のレベルのものに対する書き入れ注は︑注釈の大部分を占める︒しかも左注の場合︑次に掲げるよ
6
行︶うに︑同一被注語に対しては同一の左注が多く披見し︑その都度︑任意に注が施されたのではなく︑親鸞の施注内容には︑何か根拠に基づいたものがあることを予想させる︒
○大涅 ネチハン槃︵左注マコトノホトケナリ︶︵一念多念文意 十七頁
○无上大涅槃︵左注マコトノホトケナリ︶︵一念多念文意二〇頁 ムシヤウタイネチハン
4
行︶○等正覚︵左注マコトノホトケニナルヘキミトナレルナリ︶︵一念多念文意十七頁 トウシヤウカク
2
行︶○等正覚︵左注ホトケニナルヘキミトサタマレルヲイフナリ︶︵一念多念文意二〇頁
3
行︶○本業︵左注モトモテルコトヲステヌコヽロナリ︶ヲ執スルコヽロナリ︵西本願寺本唯信抄四六頁 ホンコフシフ ︵ⅲ︶文釈の注︵被注語が語単位よりも広い語句・文のレベルのもの︶
3
行︶3
行︶左注による注釈活動︵
1
︶ 左注の形式次のように字訓を用いたり文による注釈の形態を見せている︒被注釈語も︑語のレベルや熟語のもの等が見られる︒・被注釈語︑語のレベルのもの○攝 セフ取 シユ
︵左注﹁攝﹂オサメ﹁取﹂トリタマフトナリ︶︵一念多念文意 一三頁
○攝取︵左注﹁攝﹂オサメ﹁取﹂トリタマフトナリ︶シテ・ステタマハサルナリ・攝ハ・オサメタマフ・取 セフシユセフシユ 都度︑任意に注を施した場合以外に︑手控え等が存在しそれに基づいた注釈もあることをも予想させる︒ 左注は次に掲げるように︑同一被注語に対しては仮名交じり注釈書の本行に同一の注釈語や注釈文も披見し︑その
2
行︶ハ・ムカヘトルト・マフスナリ・オサメトリタマフトキ・スナワチ・日 ヒオモ・ヘタテス・正 シヤウチヤウシユ定聚ノ・クラヰ ニ・ツキサタマルヲ・往 ワウ生 シヤウヲ・ウトハ・ノタマヘルナリ・
︵一念多念文意一三
2
︶・被注釈語︑熟語のレベルのもの○法則︵左注﹁法則﹂コトノサタマリタルアリサマトイフコゝロナリ︶
︵一念多念文意五〇
︵ 左注の形式を整理し左注例を抄出して示すと次のようになる︒
3
︶○闇︵左注ヤミ︶ハレテ︵西方指南抄中末・一二〇 アム
2
︶被注漢字に一和訓被注漢字の意義に即した字訓の採用が見られるが︑訓として﹁侯﹂に﹁カタチ﹂の注釈は文脈からすれば独特なも
6
︶ のとも見られ︑名義抄あたりにも見られないものである︒﹁波 ハラウ浪﹂には﹁大・小﹂の具体的な意義注釈も見られる︒︵○鈔要文︵左注﹁鈔﹂ヌク・エラフトモ︶︵教行信証三・三七シテヲ
3
︶被注漢字に二和訓○抄︵左注﹁抄﹂ヌキイツ︶︵教行信証四・八
2
︶ る︒﹁周﹂字に対しては初め﹁オナシフ﹂の訓が注釈され︑他国に宗教上の感化を及ぼすという文脈から︑朱で﹁ア シウ ﹁佛ノ光明ハ清潔ニシテ﹂であり︑第二訓﹁アサヤカナリ﹂は観智院本類聚名義抄にも見られない訓が附加されてい りその意義注である︒﹁召﹂の﹁メス・マネク﹂︑﹁戀﹂の﹁シタウ・コウ﹂等も同様である︒また︑﹁潔﹂の文脈は テウニレンヲケチニシテ 二字訓併記は︑文脈上同義訓の場合が多い︒﹁群﹂の﹁アツマリ・アツマル﹂は︑﹁釈迦没シテ群胡大ニ叫ブ﹂であ クン5
︶マネシ﹂が重ね書きされたものと見られる︒﹁一部 フ﹂は﹁観経一部アラワシテ﹂という文脈からみて妥当な﹁アツム﹂訓以外に反義訓の﹁ワカツ﹂も併記されている︒又︑﹁鈔﹂は仮名交じり注釈書の本行の字訓釈に同様な注釈もある︒○抄 セウハスクレタルコトヲヌキイタシアツムルコトハナリコノユヘニ唯 ユイシンセウ信抄トイフナリ︵唯信抄文意五
2
︶︵
○弥陀ノ功徳ヲ稱セシム︵左注﹁稱﹂シヨウ反・ハカリ反・ヨム反・トナウ反︶︵浄土和讃二一 シヨウ
4
︶被注漢字に三和訓○名号ヲ稱スルナリ︵左注﹁稱﹂トナフルナリ︶︵西本願寺本唯信抄八七 シヨウ ﹁稱﹂の左訓 シヨウ 三字訓併記ともなると︑文脈上から少し離れた訓も見られる︒﹁稱﹂字は他の遺文では次掲の字訓釈が見られる︒
4
︶○口稱ノ義︵左注﹁口稱﹂クチニトナフルナリ︶︵願入寺蔵唯信抄一 クシヨウキ
5
︶○智稱︵左注﹁稱﹂ナツク︶︵教行信証四・四六ノナリ
2
︶○稱薗林遊戯地︵左注﹁稱﹂イフ︶︵教行信証四・五二スト
4
︶○復稱︵左注﹁稱﹂イフ︶︵教行信証六本二三シテ
5
︶○稱
1
︶譽
セム︵左注﹁稱﹂ホメ︑﹁譽﹂ホム︶︵教行信証五・一四
○稱字 ﹁ハカリ﹂訓以外は文脈に即した訓と見られるが︑﹁ハカリ﹂の訓は次のように親鸞の古字書引用等を窺わせる︒
1
︶處二一二陵反知軽重也説文曰銓也是也等也/俗作秤ルヲハル リヨウノハカリコレハカリニ
一云正斤両也昌 シヨウヨウノ孕反昌陵 リヨウ反︵教行信証二・五一︶○今 コムシン信知 チ・弥 ミ陀 タ本 ホン弘 ク誓 セイ願 クワン・及 キフ稱 シヨウ名 ミヤウカウ號︵中略︶・稱 シヨウハ・御 ミナヲ・トナフルトナリ・マタ・稱 シヨウハ・ ハカリトイフ・コヽロナリ・ハカリト・イフハ・モノ・ホトヲ・サタムルコトナリ・名 ミヤウカウ號ヲ・稱 シヨウスルコト・トコヱ・ヒトコヱ・キクヒト・ウタカフ・コヽロ・一念モナケレハ・實 シチ報 ホウ土 ト︵左注﹁實 シチ報 ホウ土 トアンヤウシ
ヤウトナリ︶ヘ・ムマルト・マフス・コヽロナリ・
︵一念多念文意九八
ちなみに﹁稱﹂字を古字書の一部を検索すると﹁ハカリ﹂訓が見られる︒
5
︶○稱 歯證反等ゝ是ゝ好ゝ/銓ゝ度ゝ
︵高山寺本篆隷萬象名義四・八二オ
︵
○稱處陵反又去カナウノタハクハカリ/ハカリアグホムハカルナヅク︵観智院本類聚名義抄法下一八︶
○稱ハカリ知軽重也/俗作秤正竹小也︵前田本色葉字類抄上二八オ︶
1
︶○詔書︵左注﹁詔書﹂センシナリ︶︵教行信証六末六三 セウ
5
︶被注漢字に和訓とは異なる性格の字訓釈︵ これは左注として︑和訓以外で意義解説を行ったものと見られる︒
4
︶○歓喜︵左注 クワンキ
6
︶被注漢字に一文釈﹁歓﹂
ミヲヨロコハシム︑﹁喜﹂コヽロヲヨロコハシムトナリ︶︵一念多念文意四五
○歓喜︵左注﹁歓﹂ヨロコヒ クワンキ
1
︶﹁喜﹂
ヨロコフ
﹁歓﹂
クワンハミヲヨロコハシムルヲイフナリ
﹁喜﹂
キ ハコヽロヲヨロコハシムルヲイフナリ︶
︵浄土和讃三八 があったようである︒右の﹁信行﹂の左注に対して︑書状の覚信房宛返書等に次掲のような同様な趣旨の文も見ら 左注を文で注釈する場合︑その都度注釈した場合と注釈文がある程度出来上がった固定したものを使用した場合と
2
︶る︒○信の一念行の一念ふたつなれとも信をはなれたる行もなし行の一念をはなれたる信の一念もなし︵
○歓喜トイフハ・歓ハ・ミニ・ヨロコハシムルナリ・喜ハ・コヽロニ・ヨロコハシムルナリ・ウヘキコト クワンキクワンキ 他にも注釈書の本行に見られる次のような同趣旨の固定した注釈文も見られる︒
9
行︶ヲ・エテムスト・カネテ・サキヨリ・ヨロコフ・コヽロナリ
︵一念多念文意八
5
︶○喜 キハコヽロノウチニヨロコフコヽロタエスシテツネナルヲイフウヘキコトヲエテノチニミニモコヽロニモヨロコフコヽロナリ︵唯信抄文意七六
︵唯信抄文意七九 ○慶喜スルヒトハ・諸佛トヒトシキヒトトナツク慶ハヨロコフトイフ信心ヲエテノチニヨロコフナリ キヤウキシヨフチキヤウシンシム
1
︶︵
4
︶ ○哀婉雅亮︵左注アワレニタワヤカナルヒヽキタワヤカナリ アイヱンカリヤウ7
︶被注漢字に二文釈﹁亮﹂
リヤウハタスクトヨムマタハヒトノ
ナニハナンノスケトヨムナリ︶︵浄土和讃四七
第二文の多くは補足説明の様相を見せるが︑﹁亮﹂について﹁マタハヒトノナニハナンノスケトヨムナリ﹂の注釈 リヤウ
3
︶は別義の注釈で意義の展開を図ったものかと見られる︒︵
○眞實︵左注 シンシチ
8
︶被注漢字に三文釈﹁眞﹂
マコト
﹁實﹂
ミトナル
﹁眞﹂
シンハクヰナラスケナラスクヰハイツワル反ヘツラウ反シンハカリナラスシチハコナラスコノムナシカラス︶︵浄土和讃三三
︵
3
︶○歌嘆ス︵左注 カタン
9
︶被注漢字に和訓と文釈の併用の注釈﹁歌﹂
ホメ︑﹁嘆﹂ホム︑﹁歌嘆﹂コヱニアケテホムルヲカトイフ コヽロノウチニホムルヲ タントイフ︶
︵浄土和讃四二
︵ 以上見たように︑親鸞の左注の形式は字訓釈︑文による注釈等多彩であることがわかる︒
3
︶ 同一被注漢字について︑左注と注釈書の本行とではどのような字訓釈が行われているか︑その様相を検討する︒字10
︶左注の字訓と本行の字訓訓例を抄録一覧する︒注釈書の本行の字訓が院政︑鎌倉時代の主な古字書二書︑観智院本類聚名義抄・色葉字類抄の和訓とを比較することで字訓の性格の一端を見てみたい︒親鸞の字訓がこれら古字書の掲載訓にどのように見られる
か︒古字書の掲載訓の掲出順位とどのように関係するかを見ていく︒これらの古字書の上位掲載訓はより当時通用の訓であろうから︑親鸞の字訓と比較することでその性格の一端を明らかにしてみたい︒
2
︑左注 の字訓︵抄出︶上段は左注の字訓︑仮名遣いは原文のままを示し︑下段は仮名交じり注釈書の本行の被注釈漢字︑字訓を示す︒出典は以下の遺文より採録し︵ ︶の略号で示す︒教行信証︱︵教行︶︑西方指南抄︱︵西方︶︑尊号真像銘文広本︱︵尊号広︶︑尊号真像銘文略本︱︵尊号略︶︑浄土和讃︱︵浄和︶︑浄土高僧和讃︱︵浄高︶︑正像末和讃︱︵正像︶︑唯信抄西本願寺蔵︱︵唯西︶︑唯信抄︱︵唯信︶︑唯信抄文意︱︵唯文︶︑一念多念文意︱︵一念︶︑浄土三経往生文類︱︵浄三︶︑皇太子聖徳奉賛︱︵皇太子︶︑大般涅槃経要文︱︵大般︶︑浄土論注︱︵浄論︶︑見聞集︱︵見聞︶︑書状︱︵書状︶︑︵1
︶□ハ︱ナリ
︵一字訓 が示されているもの︶︵左注の字訓︶︵仮名交じり注釈書の本行の字訓︶︻名詞︼界︵左注カイ︶︵教行︶
界︵極楽無為涅槃界︶サカイ
︵唯︶
逆︵左注サカサマ︶︵教行︶逆︵不逆違︶サカサマ
︵尊広・略︶
︻動詞︼迂︵左注メクル︶︵教行・尊広・略︶迂︵超ハ迂ニ対ス︶メクル
︵尊広︶
依︵左注ヨル︶︵西方︶依︵我依修多羅真実功徳︶ヨル ︵尊広・略︶︻形容詞︼宜︵左注ヨロシク︱ベシ︶︵浄土︶宣︵宣哉︶ヨシ
︵尊広・略︶
空︵左注ムナシク︶
︵西方︶
空︵遇無空過者︶ムナシク︵一︶︻副詞︼恒︵左注ツネニ︶︵一︶
恒︵恒願一切臨終時︶ツネニ︵一︶常︵左注ツネナリ︶︵西方・浄高・一︶常︵常照我身︶ツネニ︵尊広・略︶左注の字訓は︑仮名交じり注釈書の本行の字訓と一致することが多い︒特殊で難解な字訓を避けて︑一般的な通用訓を採用した方法が把握されよう︒︵
2
︶□ハ︱ナリ︱ナリ
︵二字訓 が示されているもの︶︵左注の字訓︶︵仮名交じり注釈書の字訓︶迎︵左注ムカフ︶︵西方︶ 迎︵総迎来︶ムカヘタマフ・ムカフル マツ
︵唯︶
形︵左注カタチ︶︵教行︶ 形︵上盡一形︶カタチ・アラワス ︵一︶形︵左注イノチ︶︵唯信︶左注の字訓と︑仮名交じり注釈書注の複数字訓とはこれも多く一致するが︑しかも注釈書の第一位訓と左注の字訓とが一致する傾向があるようである︒第一位訓は当該文脈の意義注として妥当なものが選ばれていると見られるが︑
それらが︑多く一致することは︑より通用の字訓が採用された性格を持つものであろう︒︵
3
︶□ハ︱ナリ︱ナリ︱ナリ
︵三字訓 が示されているもの︶︵左注の字訓︶要︵左注モトム︶ ︵教行︶要︵左注ハカラフ︶ ︵教行︶去︵左注スツ︶ ︵教行︶去︵左注ユク朱︶ ︵教行︶去︵右注サラ朱︶ ︵教行︶︵仮名交じり注釈書の字訓︶要︵故使如来選要法︶モハラ・モトム・チキル
︵唯︶
去︵必得超絶去往生︶スツ・ユク・サル ︵尊広・略︶左注に使用された字訓は︑仮名交じり注釈書本行の字訓とも多く一致し︑親鸞においては︑左注という狭いスペー
スでの注釈活動も︑注釈書の本行と同じ姿勢で行われたことが窺われる︒親鸞の多彩な字訓釈は巨視的に見て難解な字訓を使用せず︑当時の一般的な通用字訓の使用が確認できるようである︒しかも複数字訓を併記することも多く見
られることも特徴である︒小林芳規博士には訓点資料を分析された字訓史解明の一連の研究があり
遷の原理をつぎの如く説かれているものがある︒ ︑その成果のひとつに字訓史に共通する変 3
平安初期の訓読法が︑一つ一つの漢文を文全体としてとらえ︑その文意を正確に理解してこれに対応する当時
の口語を当てて微妙な意味用法をも訓読の上に表し出した︑文脈に支えられた一回限りの方式であったのに対して︑院政期点の示す訓読法は︑漢文の各漢字を一字一字として︑それに対する一定の訓をもって読み︑これの寄
せ集めとして訓読する︑いわば即字的な訓読法に変化したことである︒その背景には︑古代日本人が文化の源泉と仰ぎ吸収した中国文化との交流の歴史的な推移が大きく関与している︒院政期以降は︑文脈に即した一回限りのものから︑一字毎に一定の字訓に固定した即字的なものへ変遷したのだと言われる︒親鸞も即字的な字訓釈が窺われる︒赤松俊秀博士
言う︒親鸞の字訓釈も当時通用訓が採用され︑そこには容易に理解出来るようにという配慮が窺われるのである︒ 書写して与えたのは︑﹃教行信証﹄のような難解な著書を理解し得ない大多数の門弟に対する彼の心づかいからだと は︑親鸞が平易で門弟らが容易に理解できる著書を自分で 4
二︑覚如自筆﹃口伝抄﹄の注釈活動
1
︑覚如﹃口伝抄﹄について本願寺第三代の覚如の﹃口伝抄﹄を龍谷大学図書館にて原本調査し︑その紙焼き写真をもとに左注について検証す
る︒親鸞からの注釈方法の伝承という視点でも検証する︒覚如の時代について鎌倉時代の末期で︑蒙古の襲来あり︑また建武中興や南北朝の争いなどがあり︑戦乱が多かった︒戦乱の時代に生き︑親鸞の伝統を伝えようとしたが︑言語史的には親鸞の注釈法が伝承され︑独自に創造された様相が記述される︒本文献からは鎌倉末期︑南北朝期の言語様相の一端も解明が期待されよう︒
書写者の覚如について文永七年︵一二七〇︶〜正平六年︵一三五一︶︒本願寺三世︒親鸞の曾孫であり弘安九年︵一二八六︶出家受戒して いる︒著書には左記が伝存する︒永仁三年︵一二九五︶御伝鈔嘉暦元年︵一三二六︶執持鈔元徳三年︵一三三一︶口伝鈔康永二年︵一三四三︶最要鈔口伝鈔について覚如が六二歳の十一月下旬︑門弟乗専の所望によって集録した親鸞口伝の言行録である︒この中には︑法然と親鸞の親密な師弟関係を記し︑特に親鸞の信仰と行実とについて注目すべき物語を載せる︒これによって︑法然の教えが親鸞に相承されたこと︑そして︑それが如信に伝えられたことを示す︒この法然・親鸞・如信と三代にわたって伝持された教えを︑覚如は直接その如信より面受口決したことを示す︒本書冒頭に次のとおりである︒﹁本願寺親鸞聖人︑如信上人に対しましまして︑おりおりの御物語の条々﹂全二一箇条わたり︑法語︑行実︑または親鸞の妻恵信尼や門弟たちの行歴を述べている︒当時の浄土異流に対して正統を強調している︒龍谷大学蔵 覚如上人直筆﹃口伝抄﹄略説︒︵
︵
1
︶龍谷大学蔵本︑覚如上人直筆﹃口伝抄﹄三帖︒原本の紙焼き写真に基づいて以下記述を進める︒2
︶本書は覚如上人︑七五歳の康永三年︵一三四四︶に書写されたもので︑以下の書写識語をもっている︒︵上巻︶﹁康永三歳︵一三四四︶甲申孟夏上旬七日此巻書寫之訖 桑門宗昭七十五﹂︵中巻︶無︵下巻︶﹁康永三歳︵一三四四︶甲申九月十二日相當亡父尊霊御月忌故終寫功 /釈宗昭七十五/同年十月廿六日夜燈火付仮名訖﹂︵
平仮名草書︑三帖︑縦一五・
3
︶書誌略記︵下巻︶七十七帖 ︵中巻︶五十四帖 ︵上巻︶七十五帖
7
︑横一五・八︑桝形本︑半葉五行︑一行十一字前後︑全文に振り仮名︒2
︑口伝抄の左注の形式左注の形式は以下のように分類される︒字訓︵漢字一字に対するもの︶語訓︵熟語に対するもの︶句訓︵文又は句に対するもの︶上段に覚如の左注の字訓︑下段に親鸞の左注の字訓を併せ載せ︑鎌倉時代の古字書二書︑観智院本類聚名義抄・色葉字類抄の和訓と比較する︒古字書の掲載訓の掲出順位︿分母は辞書の訓の数︑分子は口伝抄訓の掲載順位︶を示す︒古字書の上位掲載訓は当時通用の訓である可能性があるとの認識から︑口伝抄の字訓の性格を明らかにしてみる︒
口伝抄の字訓︵左訓︶︵
闇闇冥︵やみにまよひたる也︶ヤミ︵教行 あむ
被注字語例左注親鸞左注類聚名義抄色葉字類抄
1
︶名詞訓2
・西唯1
2
/4
2
/2
唯信1
・西方1
見聞1
︶クラク︵教行
因正因︵まさしきたね︶タネ︵教行 イン
1
︶1
・浄三1
7
/8
×
浄和
1
︶チチミ︵教行
1
︶ムカシ︵浄和
怨怨結︵あたをむすふ︶アタ︵教行 おむ
1
︶3
︶2
/6
4
/6
形 きやう形躰︵かたちすかた︶イノチ︵西唯
1
︶1
/5
4
/33
尊形︵たうときかたち︶魚 きよ魚鳥︵いをとり︶
2
/2
1
/1
孝 けう師孝︵しのをしへ︶
×/
8
×剱 けむ刀剱︵かたなつるき︶
1
/1
1
/3
言 けん一言︵ひとことは︶コトハ︵西方
3
︶4
/17
10
/13
ミコト︵西方
國本國︵もとのくに︶クニ︵西方 こく
1
︶3
・浄和1
︶1
/2
1
/4
下國︵くにへくたる︶國中︵くにのうち︶罪 さい小罪︵ちいさきつみ︶ツミ︵西方
4
・正像2
︶1
/2
1
/19
山 さん山野︵やまの︶ヤマ︵正像
1
・西方1
︶1
/3
1
/4
事 し重事︵をもきこと︶コト︵西方
2
︶1
/7
1
/15
往事︵むかしのこと︶瞬 しゆん一瞬︵ひとましろき︶
2
/3
1
/2
心 しむ迷心︵まとえるこころ︶ココロ︵西方
7
・西唯1
1
/5
1
/3
浄和孫孫︵まこ︶×/ そん
2
︶1
1
/1
1
/躰形躰︵かたちすかた︶ たい
1
︵ムマコ︶3
/8
︵軆︶5
/7
刀 たう刀剱︵かたなつるき︶
1
/2
1
/1
中 ちう國中︵くにのうち︶ナカ︵浄高
1
︶1
/15
1
/6
アタル︵教行鳥魚鳥︵いをとり︶ てう
1
︶1
/2
1
/1
法 ほつ法譬︵みのりとたとへとなり︶ミノリ︵正像
1
︶1
/5
︵ノリ︶ノリ︵西方
1
︶1
/鼻突鼻︵はなつく︶ ひ
7
︵ノリ︶1
/3
1
/2
譬 ひ法譬︵みのりとたとへとなり︶タトヒ︵浄高
1
︶1
/1
︵タトヒ︶ フ1
/物珎物︵めすらしきもの︶ ふつ
4
︵タトヒ︶1
/5
1
/1
命 みやう生命︵いけるものヽいのち︶イノチ︵西方1
・正像1
︶2
/3
1
/6
オホセ︵教行2
・浄和命告命︵つくるみこと︶メシニ︵浄和 みやう
1
︶1
︶×/3
1
/1
夢 む夢想︵ゆめ︶ユメ︵教行
1
︶1
/3
×野 や山野︵やまの︶
1
/2
1
/1
憂 ゆう忘憂︵うれへをわする︶
1
/2
1
/3
糧 りやう資糧︵たすくるかて︶
1
/1
1
/3
一 ゐち一言︵ひとことは︶ヒト︵浄和
1
︶1
/2
一瞬︵ひとましろき︶ヒトツ︵浄高
1
︶1
/1
︵ヒトツ︶ヒトリ︵浄高
1
︶ヨロツ︵一念
2
︶︵
咽悲歎鳴咽︵かなしみなけきむせふ︶ えち
被注字語例左注親鸞左注類聚名義抄色葉字類抄
2
︶動詞訓1
/3
1
/3
加 か加︵くわへる︶してクワフ︵教行
2
︶1
/6
×改 かい改悔︵あらためくゆ︶アラタム︵教行
2
︶1
/3
1
/12
アラタマル︵教行向下向︵くだりむかふ︶ かう
1
︶1
/10
1
/27
告 かう告命︵つくるみこと︶
1
/4
1
/19
仰 きやう仰崇︵あふきあかむ︶アオク︵西方
1
・浄和1
︶3
/7
1
/10
オホス︵浄和敬恭敬︵つヽしみうやまふ︶ウヤマフ︵教行 きやう
1
︶1
︶1
/7
1
/10
ウヤマウ︵浄和2
・浄高1
尊広
居落居︵おちゐる︶ヰル︵西方 きよ
1
︶3
︶1
/6
2
/7
恭 く恭敬︵つヽしみうやまふ︶ツヽシム︵教行
1
︶4
/8
34
/57
求 く求法︵ふちほふをもとむるなり︶1
/2
1
/26
偽 くゐ偽言︵いつはりいふ︶イツハル︵教行
8
︶1
/6
1
/25
イツワル︵教行1
︶アヤマル︵教行
悔改悔︵あらためくゆ︶クユ︵教行 くゑ
1
︶3
︶1
/5
1
/6
群 くん群集︵むらかりあつまる︶ムラカル︵教行
2
・浄高1
︶2
/6
1
/2
アツマル︵教行下下向︵くだりむかふ︶×/ け
1
︶21
1
/19
下國︵くにへくたる︶教 けう教誘︵をしへこしらふ︶
×/
4
1
/24
結 けち怨結︵あたをむすふ︶
1
/13
1
/5
現 けん發現︵おこりあらはる︶アラワル︵浄和
1
・唯信1
1
/
5
5
/45
来現︵きたりあらはる︶ 西唯
1
・浄三1
浄高
2
・一念言偽言︵いつはりいふ︶ けん
3
︶2
/17
2
/7
思 し思擇︵おもひえらへ︶オモフ︵尊広
1
・一念1
1
/3
1
/30
西方1
・浄三失失︵うするなり︶し しつ
1
︶1
/4
×集 しふ群集︵むらかりあつまる︶アツマル︵浄高
1
︶1
/9
1
/70
生 しやう生命︵いけるものヽいのち︶7
/8
1
/7
来生︵きたりむまる︶
︵ウム
6
/8
︶1
/2
唱 しやう唱
︵となへ︶トナフ︵教行
1
︶1
/9
1
/18
サカリ︵教行出出離︵いてはなる︶イツ︵西方 しゆつ
1
︶1
・一念1
1
/6
1
/23
浄高1
・正像1
︶イタス︵皇太子
取攝取︵おさめとりたまふ︶トル︵浄和 しゆ
1
︶2
・一念3
1
/1
1
/94
正像1
・大般1
・書状准准知︵なすらへしる︶ しゆん
1
︶1
/3
1
/10
稱 しよう稱︵となう︶してトナフ︵唯信
2
・西唯1
︶×/9
2
/18
トナウ︵浄和1
︶ハカル・ヨム︵浄土
1
︶イフ・ナツク︵教行
乗乗︵のる︶し しよう
1
︶1
/7
1
/18
進 しん進道︵ふちたうにすヽむこと也︶スヽム︵教行4
︶1
/6
1
/50
コノム︵教行侵侵奪︵をかしうはふ︶オカス︵教行 しん
1
︶1
︶4
/6
2
/17
照 せう照觸︵てらしふるヽなり︶テラス︵浄和1
・西方1
1
/6
2
/12
尊広1
︶設 せち虚設︵むなしくまうく︶マウク︵教行
3
・浄論1
︶1
/6
6
/15
絶 ぜち絶離︵たちはなる︶タユ︵教行
3
・浄土1
︶2
/7
1
/25
攝 せふ攝取︵おさめとる︶オサム︵西方
6
・浄和3
5
/12
8
/23
攝持︵おさめたもつ︶ 浄高
3
・一念3
尊略3
・正像1
尊広1
・書状崇仰崇︵あふきあかむ︶ そう
1
︶1
/20
2
/6
觸 そく照觸︵てらしふるヽなり︶フル︵教行
3
・浄土1
︶1
/7
1
/10
堕 た堕︵おつといふ︶オツ︵教行
3
・見聞2
︶4
/8
2
/23
ヲチル︵浄論1
︶アヤウシ︵浄論
導導︵みちひく︶ミチヒク︵教行 たう
1
︶2
︶1
/3
1
/12
奪 たち侵奪︵をかしうはふ︶ウハフ︵教行
2
・西方1
︶1
/2
︵ムハフ︶1
/7
歎 たん・歎 たむ 悲歎鳴咽︵かなしみなけきむせふ︶ナケク︵教行2
︶2
/2
1
/20
悲歎︵かなしみなけく︶知 ち知聞︵しりきく︶シル︵西方
1
︶1
/2
1
/15
准知︵なすらへしる︶持 ち攝持︵おさめたもつ︶タモツ︵教行
1
︶1
/7
1
/10
トツ︵見聞
擇思擇︵おもひえらへ︶エラフ︵教行 ちやく
1
︶1
・浄和1
︶1
/2
3
/27
停 てい停滞︵とヽこほりとヽこほる︶2
/7
3
/11
滞 たい停滞︵とヽこほりとヽこほる︶1
/8
1
/11
突 とち突鼻︵はなつく︶
1
/6
1
/30
入 にふ直入︵すくにいる︶イル︵浄土
1
︶1
/3
1
/21
イツ︵西方忘忘憂︵うれへをわする︶ワスル︵教行 はう
1
︶1
︶1
/5
1
/17
發 はち發現︵おこりあらはる︶
1
/14
1
/17
悲 ひ悲歎鳴咽︵かなしみなけきなきむせふ︶カナシム︵教行
3
・西方11
/ 悲歎︵かなしみなけく︶唯文2
︵カナシフ︶1
︶1
/29
分 ふん分明︵わかちあきらかなり︶ワカツ1
/13
1
/35
冥 みやう闇冥︵やみにまとひたる也︶
×/
2
×迷 めい迷心︵まとえるこヽろ︶マトウ︵教行
4
︶1
/4
1
/11
マトフ︵西方没没︵かくる︶してカクル︵西方 もつ
3
︶1
︶3
/9
×
シツム︵教行
3
︶オツ︵西方
2
︶聞 もん知聞︵しりきく︶キク︵教行
1
・一念1
1
/5
1
/13
浄和誘教誘︵をしへこしらふ︶コシラフ︵教行 ゆ
2
︶2
︶1
/11
1
/6
來 らい來生︵きたりむまる︶キタル︵西方
4
︶3
/9
1
/10
來現︵きたりあらはる︶落 らく落居︵おちゐる︶オトス︵教行
1
︶1
/5
1
/24
離 り絶離︵たちはなる︶ハナル︵浄高
2
・西方1
︶1
/11
1
/13
出離︵いてはなる︶違 ゐ違︵たかふなり︶タカフ︵教行
5
・西方1
1
/9
1
/32
違︵たかふ也︶す 浄三
鳴悲歎鳴咽︵かなしみなけきなきむせふ︶ をう 違︵たかふ︶せば
1
︶2
/7
×︵
厚厚薄︵あつくうすし︶アツシ︵教行 かう
3
︶形容詞訓1
︶1
/3
1
/12
虚 こ虚設︵むなしくまうく︶ムナシ︵一念
1
・浄高1
︶1
/6
2
/24
カリナリ︵唯心近淺近︵あさくちかし︶チカシ︵教行 こむ
1
︶1
・西方4
︶1
/5
1
/31
チカツク︵西方3
︶コノコロ︵西方
正正因︵まさしきたね︶イツクシ︵教行 しやう
1
︶1
︶1
/15
3
/16
タヽシキ︵正像︶深 しん深重︵ふかくをもし︶フカシ︵西方5
・西唯2
1
/6
1
/36
正像小小罪︵ちいさきつみ︶チヒサシ︵正像 せふ
1
︶1
︶5
/5
1
/7
︵ちゐさきつみ︶オサナシ︵西唯
淺淺近︵あさくちかし︶アサシ︵教行 せん
1
︶1
・西方2
︶1
/1
1
/8
尊 そむ尊形︵たうときかたち︶タウトシ︵浄和
1
︶1
/2
1
/14
シヤカ︵西方重重事︵をもきこと︶オモシ︵西唯 ちう
1
︶1
・正像1
︶1
/7
1
/3
重 てう深重︵ふかくをもし︶カサナル︵浄和
2
︶アマタ︵浄和
珎珎物︵めつらしきもの︶メツラシキ︵西方 ちん
1
︶1
︶2
/7
1
/14
薄 はく厚薄︵あつくうすし︶ウスシ︵教行
1
︶1
/26
1
/6
繁 はん繁昌︵しけくさかむなり︶1
/6
1
/11
︵
昌繁昌︵しけくさかむなり︶ しやう
4
︶形容動詞訓1
/9
︵サカリナリ︶8
/明分明︵わかちあきらかなり︶ みやう
49
︵サカリナリ︶1
/3
×︵
直直入︵すくにいる︶×/ ちき
5
︶副詞訓9
×/
1
口伝抄の語訓︵左訓︶︵
1
︶即字訓 語例 左注親鸞左注類聚名義抄色葉字類抄
A
御 こききよ起居︵おきゐまします︶起︵おき︶
7
/8
タツタチオコス
オコス
居︵ゐ︶
1
/ 得否︵うるやいなや︶ とくふ6
︵ヰル︶得︵うる︶ウ
1
/2
否︵いなや︶
2
/3
愛 あい別 へち離 り苦 く︵わかれはなるヽくるしみ︶別︵わかれ︶ワカレ×/
4
ワカツ
コトナル
離︵はなるヽ︶ハナル
1
/14
苦︵くるしみ︶クルシミ
1
/ 迅速︵とくすみやかなり︶ じんそく13
︵クルシフ︶迅︵とく︶トシ
1
/5
速︵すみやかなり︶スミヤカナリ1
/12
︵スミヤカニ︶トクスミヤカナリ係 けく求︵こヽろにかけもとむ︶
係︵かけ︶カク
1
/9
求︵もとむ︶
1
/2
極 こくそく促︵きわまりつヽむるなり︶極︵きわまり︶キワマリ
1
/5
︵キハム︶キワメテ
キワ
促︵つヽむる︶
6
/ 進道︵ふちたうにすヽむこと也︶ しんたう9
︵ツヽマル︶進︵すヽむ︶スヽム
1
/3
コノム
道︵ふちたう︶
×/
13
×/
20
ミチ求 くほふ法︵ふちほふをもとむるなり︶法︵ふちほふ︶フチホフ×/
5
×/
2
ノリ求︵もとむる︶
1
/2
落 らくるい涙︵なみたをおとす︶落︵おとす︶オトス
1
/9
︵オツ︶涙︵なみた︶ナミタ
1
/1
歸 クイサン参︵かへりまいりたまふ︶歸︵かへり︶
3
/8
タノムヨリタノム
ヨル
参︵まいる︶マイル
1
/4 B
再 さいさん三︵ふたヽひみたひ︶再︵ふたヽひ︶
1
/3
三︵みたひ︶ミ×徃 わうし事︵むかしのこと︶
徃︵むかしの︶ムカシ
3
/18
ユク事︵こと︶コト
1
/7
御 こせん前︵おむまへ︶
御︵おむ︶
前︵まへ︶マヘ
1
/9
諸︵もろ〳〵の︶モロモロ
1
/11
ヨロツアラユル御 こさむ参︵おむまいり︶
御︵おむ︶
参︵まいり︶マイル
1
/4
舊 きうり里︵ふるさと︶
舊︵ふる︶フルシ
1
/4
里︵さと︶サト
1
/5
︵
2
︶熟字訓A
邂 かいこう逅︵たまさか︶
禁 きんちゆう中︵だいりなり︶ 決 くゑちちやう定︵さためてといふ︶ 掲 けちえん焉︵いちしるし︶ 呼 こきう吸︵つくいきひくいき︶
御 こへいふく平復︵よき御こと︶
古 こらい来︵ふるくよりこのかた︶
時 しふん分︵ときなり︶
種 しゅじゅ々︵さま〳〵︶
世 せヽしやう々生々︵しやうしやうこむしやう︶
年 ねんらい来︵としころ︶
紕 ひびう謬︵あやまり︶
毎 まいし事︵ことこと︶
沐 もくよく浴︵ゆあむること︶
流 るつう通︵ひろむる也︶
徃 わうやく益︵わうしやうなり︶
委 ゐきよく曲︵くわしき也︶
B
御 ごかんるい感涙︵うれしさになみたをなかします︶ 御 こくゐきやう歸京︵みやこへかへらせたまふ也︶六 ろくぞく賊︵六こんをぬすひとにたとふ︶ 言 こむせち説︵ものおほせられぬ︶ 口伝抄の句訓︵左訓︶謗 はうほふせんたいゑしんかいわう法闡提廻心皆徃︵ほふをそしるふちのたねをやくものもそのこヽろをひるかへしてほんくわむをたのめはみなわうしやうするなり︶
3
︑覚如の注釈活動の特徴覚如の注釈活動を左注の字訓を中心にまとめると大凡次の傾向が見られよう︒︵
これは︑覚如が親鸞の遺文から受容したものか︑あるいは独自に当時の通用訓と見られる字訓を施したものか︒覚如 ○法︵左注ふちほう︶︵口伝抄︶○法︵左注フチホフ︶︵西方指南抄︶ 親鸞の左注の字訓は同様なものも多い︒ 覚如の口伝抄には多量の左訓がある︒親鸞と同様漢字︑語句等への綿密な注釈活動が特徴である︒しかも口伝抄と
1
︶覚如の字訓釈と親鸞の字訓釈との関連の左訓の字訓も類聚名義抄・色葉字類抄において掲出字の上位訓である一番目と二番目のものが多く︑基本字訓の選択であろう︒
覚如は親鸞の注釈法の左注を施す方法を継承している︒覚如の左訓は当時にあっての通用訓であったか︒これは親鸞の語の注釈の姿勢と同じである︒更に同一漢字への親鸞と異なる字訓の使用についても検討の要がある︒︵
言語変化の様相も見られる︒覚如には下二段動詞の終止形︑連体形の合一が窺われる︒これは両者の持つ時代の反映 親鸞と覚如とは鎌倉時代の初期と後期という時間的隔たりがある︒そこには両者の記述した言語に時間的に異なる
2
︶時間的隔たりと注釈活動 でもある︒加 かして︵左注くわへる︶︵口伝抄︶加︵左注クワウ︶︵教行信証︶︵親鸞語頭のオの統一
3
︶覚如には親鸞の特徴的な仮名遣い等の伝承が行われていない面もある︒ 助詞﹁ヲ﹂の複合↓オバ・オモ・オヤ・オカ等覚如 語頭のオの統一が見られない歴史的仮名遣いオ↓オ
オ↓ヲ をよふ︵及︶︵上六オ
1
・一二ウ3
・六三ウ5
︶他ヲ↓ヲ
ヲ↓オ おさなく︵幼︶︵上七四ウ
5
︶おさむ︵収︶︵上七四ウ4
・中一七ウ2
︶他 助詞﹁ヲ﹂の複合↓オバ・オモ・オヤ・オカ等が見られない︒をば
17
例全て︑をも
5
例全て︑をや6
例全てまとめ院政期以降︑鎌倉時代の注釈活動について︑注釈書の存在を広く調査して︑その書目を整備︑展望した柳田征司氏
は︑次の点を鎌倉時代の特色をされている
た︒親鸞同様︑覚如にも左注という注釈活動が盛んであった︒両者とも紙面の余白に注を施し︑文意の伝達に意を用 鎌倉仏教者の親鸞と曽孫の覚如の注釈活動を書き入れ注のひとつであるである左注の形式を中心として比較記述し それを作成した人から見ると進歩的な仏家が独自の注釈書を早く作っていること ︒ 5
いようという表現活動が窺えた︒親鸞の左注は多彩で諸形式を用いた注釈法であった︒覚如には親鸞ほど多くの形式は見られなかったが︑字訓には両者同様なものも多かった︒そこには当時の辞書の上位訓にあたる基本訓︑通用訓使用の姿勢が窺われた︒訓の選択には同様なものが多く共通しているようであった︒鎌倉仏教者の言語表現の特質は二人の注釈活動に如実に表れている︒
注
︵
1
︶秋葉安太郎他︑山田瑩徹担当﹁親鸞聖人真跡三帖和讃国宝本の研究︱浄土和讃について﹂︵﹃語文﹄︵日本大学︶20
一九六五年三月︶中川浩文﹁三帖和讃における左注について︱古字書との関係を主として︱﹂︵龍谷大学論集
400
・中川浩文﹁三帖和讃における訓注︱その国語学よりの検討︱﹂︵﹃龍谷大学論集﹄
401
一九七三年三月︶武田龍精他︵共同研究︶﹁親鸞聖人著作用語の学術的解明︱三帖和讃左訓集︱﹂︵﹃龍谷大学仏教文化研究所紀要﹄
417
一九七五年一〇月︶16
一九七七年六月︶嬰木義彦他︵共同研究︶﹁親鸞聖人著作用語の学術的解明︱三帖和讃左訓と古字書︱﹂︵﹃龍谷大学仏教文化研究所紀要﹄
教文化研究所紀要﹄ 浅井成海他︵共同研究︶﹁親鸞聖人著作用語の学術的解明︱用語解釈及び字訓・左右訓の分類︵一︶︵二︶︱﹂︵﹃龍谷大学仏 一九七九年六月︶
18
20
・22
一九八二年三月 一九八三年九月︶
浅井成海他︵共同研究︶﹁親鸞における他力救済用語の総合的研究︱教行信証の左右訓と古字書︵一︶︵二︶︱︵﹃龍谷大学仏教文化研究所紀要﹄
25
・27
一九八六年一一月 一九八九年二月︶︵
︵ 一九九二年三月︶ 金子彰﹁親鸞の片仮名交じり注釈書の字訓︱古字書との関係を主として︱﹂︵﹃小林芳規博士退官記念国語学論集﹄汲古書院 金子彰﹁親鸞の片仮名交じり注釈書の字訓釈﹂︵﹃言語表現の研究と教育﹄三省堂一九九一年三月︶ 金子彰﹁親鸞の注釈活動︱片仮名交じり注釈書の注釈文の構造︱﹂︵﹃思考力を育てる国語教育﹄明治図書一九八七年三月︶
2
︶金子彰﹁親鸞の片仮名交じり注釈書の文章表現法の特質﹂︵﹃訓点語と訓点資料﹄七七輯一九八七年三月︶3
︶小林芳規﹁字訓の変遷﹂︵漢字講座﹃漢字
3
と日本語﹄ 一九八七年一一月 明治書院︶﹁漢文訓読史研究の一試論﹂︵﹃国語学﹄ 第
︵ ﹁訓読法の変遷︱平安時代の妙法蓮華教の古点本を例として︱﹂︵﹃漢文教育の理論と指導﹄一九七二年二月大修館︶
55
輯一九六三年一二月︶4
︶﹃親鸞﹄︵吉川弘文館︑一九六一年四月︶︵
216
頁蔵野書院︑一九八〇︶
5
︶柳田征司﹁中山法華経寺本三教指帰注の成立︱院政期までの注釈活動︱﹂︵﹃中山法華経寺蔵三教指帰注総索引及び研究﹄︵武キーワード鎌倉仏教者︑親鸞︑覚如︑注釈活動︑書き入れ注︑左注︑字訓︑通用訓