中央大学博士論文
道路交通安全対策のための総合計画の課題 と改善方法の提案
Takayasu Kato
加藤 正康
博士(工学)
中 央 大 学 大 学 院 理 工 学 研 究 科 都 市 環 境 学 専 攻
平 成 3 0 年 度 2019年3月
目次
第1章 序章
1-1 研究の背景と動機 ··· 1-1 1-1-1 研究の背景 ··· 1-1 1-1-2 研究の動機 ··· 1-1 1-2 研究の目的 ··· 1-2 1-3 研究の意義 ··· 1-2 1-3-1 交通安全対策の効果の分析に関する課題 ··· 1-2 1-3-2 交通安全対策の効果の予測に関する課題 ··· 1-4 1-3-3 交通安全対策の効果的な実施に向けてのアプローチの検討 ··· 1-5 1-4 研究の構成と各章の位置付け ··· 1-7 1-4-1 全体構成 ··· 1-7 1-4-2 交通安全に関する計画を改善するための分析・検討の考え方 ··· 1-9 1-4-3 計画の実行に関連した課題の検討 ··· 1-11 1章 参考文献 ··· 1-14
第2章 交通安全基本計画の課題と改善方法の提案
2-1 背景と目的 ··· 2-1 2-2 研究の位置付け ··· 2-1 2-3 交通安全基本計画の推移 ··· 2-2 2-3-1 計画の構成 ··· 2-2 2-3-2 目標設定と達成状況 ··· 2-3 2-3-3 施策の構成 ··· 2-5 2-3-4 事故の現状に関する認識 ··· 2-7 2-3-5 施策選択の考え方 ··· 2-8 2-3-6 施策の内容 ··· 2-9 2-4 目標達成のために計画が備えるべき要件 ··· 2-14 2―4―1 目標指標と目標水準の設定 ··· 2-14 2-4-2 目標達成のための施策選択 ··· 2-15 2-4-3 説得力に関する要件 ··· 2-17 2-5 結論と課題 ··· 2-18 2章 参考文献 ··· 2-20
第3章 都道府県交通安全計画の課題と改善方法の提案
3-1 背景と目的 ··· 3-1 3-2 研究の位置付けと構成 ··· 3-1 3-2-1 先行研究の整理と研究の位置付け ··· 3-1 3-2-2 本研究の対象範囲と構成 ··· 3-2 3-3 目標設定状況 ··· 3-3 3-3-1 都道府県の目標値と国の目標値との整合性 ··· 3-3 3-3-2 目標設定の根拠 ··· 3-6 3-4 事故分析と施策選択 ··· 3-7 3-4-1 施策の記述方法の分類 ··· 3-7 3-4-2 体系的な施策の記述状況 ··· 3-7 3-4-3 重点施策に関する記述 ··· 3-9 3-4-4 その他の記述に関する特徴 ··· 3-11 3-5 事故分析及び施策選択の記載と目標達成状況との関連 ··· 3-11 3-5-1 目標設定状況 ··· 3-11 3-5-2 事故分析実施状況等の影響 ··· 3-15 3-6 結論と課題 ··· 3-17 3章 参考文献 ··· 3-18
第4章 道路交通安全計画の韓日比較
4-1 背景と目的 ··· 4-1 4-2 対象国の選定 ··· 4-1 4-3 韓日における交通安全基本計画の相違点 ··· 4-4 4-4 交通安全基本計画の枠組み ··· 4-5 4-4-1 根拠法 ··· 4-5 4-4-2 計画の作成体制 ··· 4-5 4-4-3 対策の種類 ··· 4-6 4-5 計画の構成 ··· 4-7 4-5-1 計画の内容 ··· 4-7 4-5-2 目標指標及び設定根拠 ··· 4-10 4-6 日本の安全計画への示唆 ··· 4-14 4-6-1 計画の構成 ··· 4-14 4-6-2 計画の記述内容 ··· 4-14 4-7 結論と課題 ··· 4-15 4-7-1 結論 ··· 4-15 4-7-2 課題 ··· 4-15 4章 参考文献 ··· 4-16
第5章 交通事故指標に関する課題の検討
5-1 背景 ··· 5-1 5-2 交通事故指標に関する課題 ··· 5-1 5-3 目的 ··· 5-2 5-4 先行研究での自動車保険データを用いた推計 ··· 5-3 5-5 自動車保険データを用いた推計方法 ··· 5-3 5-5-1 使用する自動車保険データ ··· 5-3 5-5-2 自動車保険の種別に関する整理 ··· 5-4 5-5-3 死傷者数の推計方法 ··· 5-4 5-5-4 物損事故件数の推計方法 ··· 5-6 5-6 推計結果 ··· 5-7 5-6-1 死傷者数の推計結果(全国) ··· 5-7 5-6-2 死傷者数の推計結果(都道府県別) ··· 5-8 5-6-3 物損事故件数の推計結果 ··· 5-9 5-6-4 死傷者数と物損事故件数の関係 ··· 5-10 5-7 結論と課題 ··· 5-12 5-7-1 結論 ··· 5-12 5-7-2 今後の課題 ··· 5-12 5章 参考文献 ··· 5-14
第6章 道路交通安全対策の評価手法に関する検討
6-1 はじめに ··· 6-1 6-1-1 背景と目的 ··· 6-1 6-1-2 ドライブレコーダー設置義務化の規制影響分析の概要 ··· 6-1 6-1-3 研究の位置付け ··· 6-2 6-2 研究の枠組み ··· 6-3 6-2-1 ドライブレコーダーの設置条件 ··· 6-3 6-2-2 ドライブレコーダー設置効果 ··· 6-4 6-2-3 関係主体とドライブレコーダーの影響 ··· 6-5 6-2-4 分析対象の費用・便益 ··· 6-7 6-2-5 分析対象期間 ··· 6-8 6-3 費用・効果の推計方法 ··· 6-8 6-3-1 推計に使用する基礎データ ··· 6-8 6-3-2 費用推計方法 ··· 6-8 6-3-3 効果別の便益推計方法 ··· 6-9
6-4 推計結果 ··· 6-12 6-4-1 ドライブレコーダーの効果別にみた便益 ··· 6-16 6-4-2 設置パターンによる違い ··· 6-18 6-4-3 主体別の費用・便益とその移転 ··· 6-18 6-5 結論と課題 ··· 6-20 6-5-1 規制影響分析の結果 ··· 6-20 6-5-2 結論 ··· 6-20 6-5-3 課題 ··· 6-21 6章 参考文献 ··· 6-22
第7章 結論と課題
7-1 各章の成果7-1
7-1-1 2章 交通安全基本計画の課題と改善方法の提案 ··· 7-1 7-1-2 3章 都道府県交通安全計画の課題と改善方法の提案 ··· 7-2 7-1-3 4章 道路交通安全計画の韓日比較 ··· 7-3 7-1-4 5章 交通事故指標に関する課題の検討 ··· 7-3 7-1-5 6章 道路交通安全対策の評価手法に関する検討 ··· 7-4 7-2 今後の課題 ··· 7-5
第1章 序論
1-1 研究の背景と動機 1-1-1 研究の背景 1-1-2 研究の動機 1-2 研究の目的 1-3 研究の意義
1-3-1 交通安全対策の効果の分析に関する課題 1-3-2 交通安全対策の効果の予測に関する課題
1-3-3 交通安全対策の効果的な実施に向けてのアプローチの検討 1-4 研究の構成と各章の位置付け
1-4-1 全体構成
1-4-2 交通安全に関する計画を改善するための分析・検討の考え方 1-4-3 計画の実行に関連した課題の検討
1章 参考文献
1-1 研究の背景と動機
1-1-1 研究の背景
我が国の交通事故発生件数は、1969 年にピークを迎え、その後急激に減少したものの、
1977 年以降は増加に転じ、2004 年に再びピークを迎えて以降は、継続して減少傾向にあ る。交通事故死者数についても同様の傾向である。人口10万人当たりの死傷者数について も同様な傾向であるが、人口10 万人当たりの死者数については、1993年に二度目のピー クを迎えて以降減少しており、交通事故発生件数等よりも早い時期から減少傾向が続いて いる。日本における現在の交通事故情勢は、2,018年における交通事故発生件数が430,345 件、交通事故死者数(24時間)が3,532人である。
交通事故死者数に関する今後の動向については、交通安全基本計画において長期予測が 示されている。長期予測では、トレンドによる分析、年齢階層別人口の大きさに着目した 分析等の手法が検討されており、今後も交通事故死者数の減少傾向は続くものと予測され ている。ただし、人口構成、道路交通状況及び交通安全対策の実施状況が現在の想定から 大きく変化しないとの仮定の下での予測であることに留意する必要がある。
一方、国の定める交通事故削減の目標についてみると、第10次交通安全基本計画におい て、2020年までに交通事故死者数を2,500人以下にすると定められており、2018年の交通 事故死者数3,532 人という状況を鑑みると、目標の達成は危ぶまれる状況にあると言わざ るを得ない。
我が国の交通事故情勢は、依然として憂慮すべき水準であることに加え、今後の動向に ついても、必ずしも楽観できる状況ではないといえる。
近年の交通事故死者数は4千人を下回るまでになり、ピーク時の約1万6千人と比べる と4分の1程度まで減少しているが、これまでにも数多くの対策を実施してきたことを踏 まえると、交通事故死者数をさらに削減していくことは、今まで以上に困難であると考え られる。どのような対策を講じるべきかについて、これまで以上の工夫が求められる状況 にあるといえる。
また、近年の日本の経済情勢は、以前に比較して悪化しており、緊縮財政とならざるを 得ない状況である。道路や橋梁といったインフラを始め、信号機といった交通安全施設の 老朽化が進み、施設の改良や更新に必要な予算が十分に確保できていない状況にある。こ のような状況下、交通安全対策に関しても限られた予算や人員のもとで効果を挙げるため には、効率的に対策を実施することが今まで以上に求められる。
1-1-2 研究の動機
我が国の道路交通安全対策は、交通安全対策基本法に基づき作成される交通安全基本計
の選定等が行われ、国としての総合的な対策が定められている。
同じく交通安全対策基本法により都道府県交通安全計画の作成が義務付けられている。
全ての交通安全対策が国により行われるわけではなく、都道府県において実施される対策 の果たす役割は大きい。交通安全対策は、全国一律に実施するべき対策もある一方で、効 果的・効率的な対策を実施するためには、地域の交通事故情勢に応じた対策が必要となる。
また、我が国の警察制度においては、都道府県警察の果たす役割も大きい。
一方、交通安全基本計画をどのように作成するべきかの検討については、内閣府1)によ り、交通事故に関する問題点の把握や講じるべき対策の検討が行われているものの、計画 そのものをどのように作るべきかの検討は行われていない。
そこで、交通安全対策基本法に基づき作成される交通安全基本計画及び都道府県交通安 全計画に着目し、これらの計画を分析することにより課題を把握するとともに、改善方法 について検討することとした。
1-2 研究の目的
研究の背景としても述べたように、現在の交通事故情勢及び経済情勢を鑑みると、交通 事故対策を計画するに当たっては、より効果的に実施するための工夫が求められるととも に、経済的観点からより効率的に実行していくことが必要である。
そこで、本研究では、交通安全基本計画及び都道府県交通安全計画を分析してその課題 を把握するとともに、改善方法の提案を行うことにより、効果的・効率的な道路交通安全 対策の実施に貢献することを目的とする。
1-3 研究の意義
1-3-1 交通安全対策の効果の分析に関する課題
交通安全対策には、様々なアプローチが考えられるが、一般的に交通社会を構成する3 要素とされる人間、交通機関及び交通環境に対応して分類することができる。道路交通安 全対策の場合には、運転者、自動車及び道路がそれぞれに該当する。
人間(運転者)の対策としては、運転者教育、運転免許制度、道路運送事業者における 運行管理等が挙げられる。交通機関(自動車)の対策としては、シートベルトやエアバッ グによる乗員の保護、歩行者及び自転車利用者の保護を行うための被害軽減対策、衝突被 害軽減ブレーキを備えた先進安全自動車の普及等が挙げられる。交通環境(道路)の対策 としては、歩道などの交通安全施設の整備、機能分担を考慮した道路網の整備等が挙げら
れる。
これらの分類毎に多様な交通安全対策が行われており、特定の地域を対象とした個別の 施策又は複数の施策の組み合わせについて、その効果や改善方法の検討を行った研究は多 数存在しているが、全国を対象として、全ての施策を総合的に分析・検討した研究はみら れない。
その理由としては、全国で実施される多数の交通安全対策の効果を把握することが困難 であることが考えられる。
一般的に、交通安全対策の効果を把握するには、次のような課題がある。
1点目として、交通事故の発生には、様々な要因が影響することが挙げられる。例えば、
交通量、速度、時間帯、気象条件などである。これらの関連する要因が変化する状況にあ る場合、分析対象とする地域の交通事故発生状況の変化が交通安全対策の効果によるもの なのか、関連する要因の変化によるものなのかを切り分ける必要があるが、それは必ずし も容易ではない。
2点目として、交通事故の発生は、事故を発生させる要因が偶然に生じることによって 引き起こされる確率現象と捉えられることが挙げられる。例えば、毎日、同じように自動 車を運転する場合においても、たまたま何かに気を取られたために事故が発生するケース がある。また、ある運転者が交通違反をしたとしても、周囲の運転者が危険を回避できる ことがあるが、たまたま、近くを走る別の運転者も交通違反をした場合、交通状況が複雑 になって回避が不可能となり、交通事故が発生することもあり得る。このように交通事故 が偶然に左右される確率現象であることから、交通事故発生状況が変化したとしても、そ れが交通安全対策の効果によるものなのか、あるいは偶然に左右されるものなのかを判断 することが必要となる。特に、分析対象地域が限られ、期間が十分に確保できない場合に は、判断がより困難となる。そして、交通事故の中でも死亡事故の場合には、その発生件 数が全体の交通事故発生件数に比較して少ないことから、偶然に影響される度合いはより 大きくなる。
3点目として、分析対象の地域において実施される交通安全対策において複数の施策が 同時に施される場合には、異なる施策が相互に影響し合うこととなるため、分析対象とす る個別の施策による効果を把握することは困難である。このような影響は、特定の交差点 や路線の特定区間を対象とするような場合には比較的小さく、対象地域が広範になるほど 大きくなる。
これらの課題を踏まえると、交通安全対策の効果の把握に関して、次のようなことが言 える。
交通安全対策の分析対象が特定の路線や地域であり、分析期間も十分に確保することが でき、具体的施策の種類が限られている場合には、対象とする路線や地域の交通量や速度
策以外の要因による道路状況の変化等を把握することは比較的容易である。
一方、交通安全対策の分析対象とする地域が広範囲になると、実施した施策と対象地域 の交通状況との関係を把握することがより困難となる。また、分析対象地域において、分 析対象以外の施策が実施されるケースが生じることが考えられる。この場合、多数の施策 のうちの特定の施策に着目してその効果を把握することは容易ではない。そのため、全国 を対象として実施される交通安全対策の施策全体の効果を把握することは困難である。
1-3-2 交通安全対策の効果の予測に関する課題
国全体として交通事故を最大限に削減することを目的とした場合、理想的な交通安全対 策の一つの進め方としては、次のようなものが考えられる。
まず、交通事故の発生状況及びその原因に対して、考えうる全ての施策を検討対象とし、
それぞれの施策が事故削減にどの程度の効果があるのかを予測・評価する。効果の予測・
評価については、予測される将来の交通状況に対して、現状の交通安全対策に変更がない 場合における将来の交通事故死者数、交通事故死傷者数、交通事故発生件数といった交通 事故被害の予測を行う。そして、新たな施策を追加した場合における交通事故被害の減少 を予測して、将来における実際の交通事故被害状況を求めることにより、追加した新たな 施策の効果を評価する。
実行可能な施策は、通常複数あるため、全ての施策について同様に効果を予測する必要 があることに加え、施策間の相互作用についても考慮しなければならない。その上で、交 通安全対策に費やすことのできる予算及び人的資源を制約条件として、それぞれの施策の 実施量を決定する。
ただし、既に述べたように交通安全対策の効果を把握することは難しい。そして、これ から新たに実施する施策の効果について将来予測を行うためには、将来における交通状況 の変化を予測しなければならない。国全体としての計画に含む施策を検討する場合には、
広範囲に渡って実施される全施策が対象となるため、施策間の相互作用の影響が大きくな り、効果を予測することはさらに困難となる。
また、交通安全対策の効果の予測に当たっては、以下の2点について留意する必要があ る。
1点目として、それぞれの施策が事故削減にどの程度の効果があるのかについては、必 ずしも投入資源と効果との関係が直線的にならないことが挙げられる。例えば、交差点の 改良事業について考えると、課題の多い箇所から優先的に対策を実施するといったことが 行われている。これは、言い換えると、より効果の期待できる箇所から対策を行うという ことであり、単純に交差点一箇所あたりの費用が同じと仮定すると、2倍の交差点改良事 業を実施しても2倍の効果は期待できないということになる。
2点目として、交通安全対策のために実施する施策の量の選択肢が、交差点数のように
連続的でないケースである。第6章で取り上げるドライブレコーダーの設置義務化を例に すると、この規制を実施する場合には、規制対象とする自動車をどのように決定するかが 選択肢となる。この場合、事業用貸切バス、事業用貨物車、自家用乗用車といったような 車種別に規制対象を選択することが考えられるが、その場合には、規制対象となる自動車 台数は連続的なものとはならない。そして、車種毎にドライブレコーダー設置の効果も異 なることから、費用と効果との関係は直線的にはならない。
ここで述べたように交通安全対策のために実施する施策内容を決定するためには、個別 の施策毎に効果の分析・検討が必要となることに加え、将来予測と複数の施策が組み合わ された場合の効果の把握が困難であることなどから、全国を対象に実施する全ての交通安 全対策について、その効果を予測することによって施策の内容と実施量を決定していくと いうアプローチを取ることは容易ではない。
1-3-3 交通安全対策の効果的な実施に向けてのアプローチの検討
(1)計画の評価に関する課題
交通安全対策を効果的に実施していくためには、実施する施策の効果を予測して内容と 実施量を決定していくことが望ましいことは既に述べた。これは、具体的には国全体とし ての交通安全対策に関する計画を策定・実行して、その実施結果を評価することで改善点 を把握し、次の計画に盛り込むべき交通安全対策の内容を検討していくというアプローチ に他ならない。次の計画における交通安全対策の内容を決定するためには、将来における 交通状況の変化を予測し、その予測結果に対して実施を計画している交通安全対策がどの 程度の効果を与えるのかを把握することが必要である。将来予測と効果の把握が困難であ ることは既に述べたとおりであり、そのため、実行した計画の評価とその結果に基づく次 期計画の内容の決定を定量的に把握することに課題がある。
我が国において作成される交通安全基本計画においても、実施した計画の評価と次期計 画へ評価結果を反映するプロセスは存在する。
第 10 次交通安全基本計画の作成過程において、中央交通安全対策会議で第9次交通安 全基本計画に関する評価書1)が作成され、個別の施策毎に評価が行われているほか、内閣 府で年度毎に政策評価書2)3)を作成している。しかし、個別の施策による交通事故死者数 の減少、交通事故発生件数の減少といった効果への影響を最終アウトカムとして評価して いるものは少なく、中間アウトカムやアウトプットについて評価している項目が多数を占 める。これらの評価結果については、第10次計画の作成段階において議論に活用されてい るものと考えられるが、評価結果の全体を次期計画の改善にどのように活用するかについ ての体系的な分析について、報告書といったような形式で公表された資料は確認できない。
おいても第9次交通安全基本計画の評価と評価結果に基づく第 10 次計画の方向性に関す る検討が行われている。しかし、評価については、個別の施策毎ではなく、「高齢者の安全 確保」、「子どもの安全確保」といった施策群に対して評価が行われており、次期計画の方 向性についても同様に施策群毎に検討されている。そのため、それぞれの施策群に含まれ る個別の具体的施策について、次期計画で改善の必要があるのかどうかを判断することは できない。
以上のことは、交通安全対策効果の評価と将来予測が困難であることを考えると、現状 では止むを得ない。現段階では、交通安全基本計画に掲げられた施策のうち、交通事故死 者数等の最終アウトカムに関する定量的な評価が行われているものは一部に限られている が、将来的には、計画の実施結果を評価して、次期計画における個別具体的施策の改善の ための方向性を検討する材料として十分なレベルにまで評価の精度を向上させる必要があ る。これは、必ずしも不可能なことではないが、実用的に活用できるレベルにするために は、長期間にわたって各方面での研究を積み重ねていく必要があるものと考えられる。
(2)本研究におけるアプローチ
交通安全基本計画について、個別具体的な施策の効果を定量的に評価して、その評価結 果に基づいて次期計画で実施する施策の内容と実施量を検討するアプローチは、現状にお いて困難であることは既に述べた。
本研究では、それ以外の方法で交通安全対策をより効果的に実施するためのアプローチ について検討する。
まず、1点目としては、交通安全基本計画の内容に着目すると、これまで述べてきたよ うに、どのような交通安全対策のための施策を盛り込んで効果を上げるかという本質的な 内容に関する議論がある一方で、交通安全基本計画において定める目標設定のあり方、計 画を策定するに当たっての基本的な考え方に関する記述のあり方、計画に記載する個別具 体的な施策の分類方法といった、計画の作成手法に関する分析・検討が考えられる。計画 に記載する「内容」の議論に対して、計画作成の「枠組み」に関する議論ということがで きる。
2点目は、個別具体的な施策の効果を定量的に評価するための手法を向上させることで ある。交通安全対策に関連した分野では、複数の具体的交通安全施策が相互に作用した場 合の効果の切り分けに関する課題などから、個別具体的な施策の効果を定量的に分析・評 価した事例は極めて少ない。そこで、特定の施策の内容について、定量的な分析を実施し て、分析・評価の手法について、実例に基づいた議論を行うことにより、それ以外の施策 の評価・分析を促進するために参考となる知見を得ることは有益である。交通安全基本計 画に記載された全ての個別具体的な施策の評価を理想とした場合、特定の施策の内容に関 する分析・評価手法の検討は、先行事例の蓄積による他の施策の分析・評価の促進という
観点から、これについても「枠組み」に関する議論であるということができる。
3点目として、交通安全対策の効果を把握するための指標について検討する。第8次交 通安全基本計画から目標指標として交通事故死傷者数が新たに追加されたが、国の作成す る交通事故統計における交通事故死傷者数については、自動車保険の保険金支払件数と異 なる傾向があるなど、検討すべき課題があることがわかっている。交通事故統計での交通 事故死者数の計上に関する基準が、全国的に見て時系列で変化してきている場合、又は同 時点でも都道府県によって基準が異なる場合には、交通事故対策の評価に大きな影響をあ たえる可能性があることから、分析・検討を行う必要がある。
これら3点の分析事項について、交通安全基本計画の「枠組み」の観点から研究するこ とによって交通安全基本計画の改善方法を検討・提案するとともに、最終的には、交通安 全基本計画に掲載された個別具体的な施策の評価を適切に実施することができるようにな り、さらなる計画の改善につながるものと考える。
1-4 研究の構成と各章の位置付け
1-4-1 全体構成
本研究は、交通安全に関する計画の作成方法についての分析(2章から4章)と計画の 作成・実行に関連する課題の検討(5章及び6章)の2つに分けられる。
2章から4章では、交通安全に関する計画の作成方法についての分析を行う。2章では 交通安全基本計画、3章では都道府県交通安全計画、4章では韓国における交通安全計画 に関する分析を行う。
5章及び6章では、計画の作成・実行に関連した課題として、5章で交通事故指標の検 討、6章で計画に示された個別の施策の優先順位についての検討を行う。
論文の全体構成を図1.1に示す。
図1.1 論文の全体構成
1章 序論
1-1 研究の背景と動機 1-2 研究の目的 1-3 研究の意義
1-4 研究の構成と各章の位置付け
2章 交通安全基本計画の課題と改善方法の 提案
2-1 背景と目的 2-2 研究の位置付け
2-3 交通安全基本計画の推移 2-4 目標達成のために計画が備える
べき要件 2-5 結論と課題
3章 都道府県交通安全計画の課題と改善方法 の提案
3-1 背景と目的
3-2 研究の位置付けと構成 3-3 目標設定状況 3-4 事故分析と施策選択
3-5 事故分析及び施策選択の記載と目標 達成状況との関連
3-6 結論と課題
4章 道路交通安全計画の韓日比較 4-1 背景と目的
4-2 対象国の選定
4-3 韓日における交通安全基本計画の相違点 4-4 交通安全基本計画の枠組み
4-5 計画の構成
4-6 日本の安全計画への示唆 4-7 結論と課題
5章 交通事故指標に関する課題の検討 5-1 背景
5-2 交通事故指標に関する課題 5-3 目的
5-4 先行研究での自動車保険データを用いた推計 5-5 自動車保険データを用いた推計方法
5-6 推計結果 5-7 結論と課題
6章 ドライブレコーダー設置義務化の規制影響分析 6-1 はじめに
6-2 研究の枠組み
6-3 費用・効果の推計方法 6-4 推計結果
6-5 結論と課題
7章 結論と課題 7-1 各章の成果 7-2 今後の課題 計画の作成手法に関する課題の検討
計画の実行に関連した課題の検討
1-4-2 交通安全に関する計画を改善するための分析・検討の考え方
2章から4章においては、交通安全に関する計画を改善するための分析・検討を行う。
2章では、交通安全基本計画について分析を行う。ここでは、計画の構成、目標設定、
事故分析、施策の選択等、計画の作成方法について、第1次から第10次の計画を時系列で 分析し、課題を把握するとともに改善方法を提案する。
3章では、都道府県交通安全計画について分析を行う。ここでは、計画の構成、目標設 定、事故分析、施策の選択等、計画の作成方法について都道府県間で比較するとともに、
国との関係についても分析し、課題を把握するとともに改善方法を提案する。
4章では、韓国における交通安全計画を分析する。韓国においては、早い段階からトッ プダウン型の目標設定を行っているほか、国と地方の計画が作成されていることから、国 と地方の関係について、我が国にとって有用な情報を得られる可能性がある。これらの観 点に基づいた分析を行うこととする。合わせて、その他の我が国の計画にない特徴につい ても把握する。
これらの分析を行うに当たって前提とする考え方は以下のとおりである。
(1)計画実行に伴う事故指標の改善と効果の評価に関する課題
ある目的を達成するために計画を作成し、継続的にその改善を図りながら実行していく 場合には、PDCA サイクル(計画-実施-評価-改善検討)に代表されるような体系的な 手法が用いられるが、その実施には、計画が作成・実行された後に発生した効果を把握し て評価することが必要となる。交通安全に関する計画の場合には、国が作成する交通安全 基本計画及び都道府県が作成する都道府県交通安全計画のそれぞれにおいて、死者数(第 8次計画以降では死者数及び死傷者数)が目標に定められており、これらの目標の達成状 況を踏まえて計画の目標達成の成否を評価することが必要となる。
しかし、交通安全に関する計画では、以下に示す理由から、計画の目標達成の成否を評 価し、計画を改訂するに当たって改善すべき事項を把握するには、困難が伴う。
第1に、個別の施策による交通事故削減の効果を把握できないことが挙げられる。交通 安全基本計画及び都道府県交通安全計画では、第8次を除いて、計画全体で1つの死者数 又は死傷者数に関する目標値を定めている。計画においては、複数の施策が記述されてお り、それぞれの施策が死者数又は死傷者数に関する目標達成にどれだけ貢献したのかを把 握することが困難であるため、目標達成の成否だけでは具体的な改善策の検討を行うこと ができない。例えば、現状の計画において、どの施策が想定した効果を挙げていないのか を把握し、その施策に要した予算・人的資源をより効果的な施策に振り向けるといったこ とができない。
第2に、交通事故の将来予測が困難なことが挙げられる。交通安全対策の効果を評価す
又は死傷者数と交通安全対策を改善・強化した場合における将来の交通事故死者数とを比 較する必要がある。しかし、交通事故の発生は、自動車保有台数、運転免許保有者数の他、
自動車の利用状況(走行距離や頻度)などの社会情勢の変化のほか、自動車運転者の習慣
(交通ルールの遵守や交通マナー)の変化など、様々な要因の影響を受けるため、将来の 事故の発生状況を予測することは極めて難しい。そのため、予測を行う場合には、ある程 度の変動幅を考慮した予測値を示すといったことが行われるが、この場合には、交通安全 計画によってどの程度の効果があったのかを判断するための予測精度としては十分でない。
(2)計画の作成方法に着目した分析・検討
上述のとおり、交通安全に関する計画では、効果を評価して改訂のための検討・改善を 行うことは困難であるため、本研究においては、以下に示すような分析・検討を行うこと とする。
計画の改訂のために改善案を検討する別の方法として、計画の作成方法に着目した分 析・検討を行うことが考えられる。これは、計画の構成はどのようにあるべきか、計画に 含むべき内容はどのようなものか、国の計画と都道府県の計画との関係はどのようにある べきかといった観点から、計画の作成方法そのものに着目して分析・検討を行うものであ る。
計画に記述すべき内容は計画の目的に応じてケースバイケースであるが、一般的に計画 に含むことが求められる事項などの基本的な考え方について論じることは可能である。計 画の作成方法について体系的に考え方を整理した文献は少ないが、例えば、長尾5)は、土 木計画の作成に関連した考え方についてまとめている。計画の目的、目標設定、問題発見、
評価方法等について一般的な考え方が整理されており、計画の作成方法について検討する 際に必要となる基本的な事項を示している。これらの基本的事項についての検討を行うこ とに加え、交通安全対策を目的とした交通安全基本計画及び都道府県交通安全計画におい て記述するべき内容等について検討を行うこととなる。
本研究では、分析対象である交通安全基本計画、都道府県交通安全計画及び韓国におけ る交通安全計画について、一般的に計画作成時に記述が必要とされる事項に加え、個別の 計画毎に記述が必要又は記述することが望ましいと考えられる事項について検討を行い、
計画の作成方法について分析するとともに改善案の検討を行う。
(3)計画への記述の必要性
交通安全基本計画及び都道府県交通安全計画の作成方法を分析するに当たっては、計画 に記述されている内容に基づいて分析を実施する。
例えば、第10次交通安全基本計画を作成する際には、事前に検討のための基礎資料とし て、報告書4)が作成されていることに加え、中央交通安全対策会議において検討された検
討結果についても内閣府ホームページ6)で公表されている。しかし、本研究の分析対象は、
交通安全基本計画であり、計画自体の構成はどのようになっているか、計画に記述すべき 内容が記述されているか、といった観点から分析を行うこととし、関連する報告書や会議 資料は検討対象に含まない。
これは、(2)において述べた分析の考え方に基づくものであり、本来、計画そのものに 含まれるべき事項が記述されているかという観点での分析を実施し、計画自体の構成や記 述内容に関して、改善方法を検討することとする。
1-4-3 計画の実行に関連した課題の検討
5章及び6章においては、計画の実行に関連した課題の検討を行う。
5章では、交通事故指標としての死傷者数について検討を行う。先行研究から死傷者数 の統計データが正しくない可能性があることが分かっており、我が国においても、同様な 問題がないかを自動車保険のデータを用いて検証する。
6章では、規制影響分析を用いて施策を効率的に実行する方法について検討する。具体 的には、ドライブレコーダー設置義務化を例にして規制影響分析を行い、計画で定められ た施策の実施優先順位の決定等の手法について検討を行う。
以下に述べる考え方に基づき、これらの分析を行う。
(1)事故の指標に関する検討(5章)
交通安全基本計画及び都道府県交通安全計画においては、死者数が目標指標として採用 されており、第8次計画からは死傷者数が目標指標に追加された。死傷者数が目標に追加 されることにより、交通事故による被害や損失をより広範に捉えてその削減が図られるこ ととなる。
しかし、交通事故による死傷者数の統計のうち負傷者数については、負傷の定義が曖昧 であることから、事故の負傷者の被害意識の影響を受ける可能性について森ら7)により指 摘されている。また、坂本ら8)は、自動車保険データを用いて交通事故負傷者数を推計し たところ、交通事故統計による負傷者数よりも推計値が大きくなっており、交通事故によ り負傷した場合に警察へ届けられていないケースがある可能性について指摘している。長 期間にわたって事故による負傷者数の増減を比較する場合には、被害意識の変化による影 響を受けるなどして、統計に現れる負傷者数の基準が時期によって異なる可能性がある。
また、これらの影響が都道府県によって異なる可能性も考えられる。都道府県における 事故の危険度を評価し、都道府県を比較することによって相対的な危険度を把握すること は、交通安全対策の優先度を検討する際には有用な情報となる。その場合には、都道府県 間で同一の尺度により比較することが重要となるが、仮に前述の被害意識の変化などの影
評価や、事故対策の優先度の判断に大きな影響を与えることとなる。
そこで、5章では、自動車保険データを用いて交通事故による死者数及び死傷者数を推 計し、交通事故統計の死者数及び死傷者数と比較することにより、負傷の定義が曖昧であ ることの影響について分析を行う。また、物損事故件数についても自動車保険データによ り推計を行い、死傷者数の推計結果の検証に活用するとともに事故の全体像をより広範に 捉える方法を検討する。
(2)対策の優先度に関する検討(6章)
交通安全基本計画及び都道府県交通安全計画においては、様々な施策が記述されている が、第1次計画から第7次計画まで、施策間の優先順位については記述されていない。第 8次計画以降は、重点施策及び新規施策が明示されるようになり、重点施策とそれ以外の 施策との優先度の違いは判別することができるようになったが、重点施策として示された 複数の施策間の優先度、重点施策以外の複数の施策間の優先度については示されていない。
一方、交通安全基本計画に記述される施策は、計画の改訂を重ねる毎に増えてきている。
技術の進歩や制度の改正に伴って、新しい施策が追加されることとなるが、従来から行わ れてきた安全対策が不要となって削除されるケースは相対的に少ないといえる。そのため、
施策間の優先度について検討する重要性は高くなる傾向にある※1。
昨今の日本における財政事情を鑑みると、効果的・効率的な交通安全対策の実施が求め られるが、そのためには、施策の効果を定量的に分析することによって費用と効果を把握 して、施策間の優先順位を定める必要がある。
交通安全対策の個別の施策について、道路上の区間毎に事故の危険度や施策の効果を評 価し、優先的に対策を施す区間を決定する優先度明示方式は、従来から取り入れられてい る。ただし、これは交通安全基本計画や都道府県交通安全計画において定めるものではな く、より下位の、あるいは実行段階に近いレベルの計画において定められるものである。
そして、これは、施策間の優先順位ではなく、特定の一つの施策において、対策を実施す る箇所の選定に関する議論である。
施策間の優先順位の決定については、従前より費用便益分析に代表される定量分析の手 法が用いられている。費用便益比が1を超えるかどうかによって施策そのものを実施すべ きかどうかという判断が可能である。また、費用便益比の大小によって施策毎の効率に関 する議論が可能である。すなわち施策間の優先順位に関する判断に活用することができる。
2007 年 10 月から、法律又は政令による規制の新設又は改廃を対象とした事前評価が
義務付けられた。これは、規制影響分析(RIA: Regulatory Impact Analysis)と呼ばれている。
規制影響分析においては、規制に伴う費用と便益を金銭価値化して定量的に分析する費用 便益分析が主要な分析手法となるが、政策に関連する全ての費用と便益を金銭価値により 定量的に表現することは容易ではなく、我が国において実施された規制影響分析の多くが
定性的分析にとどまっているのが現状である 9)10)11)。定量的な分析を促進していくこ とが望まれる状況にあるといえる。
そこで、本研究においては、個別具体的な施策を対象として規制影響分析を行い、定量 的な分析を実施した場合において、規制のあり方についてどのような分析や議論ができる のかについて検討することとする。分析対象の施策としては、2017年 12月より義務化さ れた貸切バスへのドライブレコーダーの設置について、設置義務化の対象車種を拡大する ことを想定して複数パターンを比較することとする。
補注
※1 国のインフラ全体について老朽化が進んでおり、国においてインフラ長寿命化基本 計画が策定されるなど、老朽化したインフラの維持・更新が課題となっている。イン フラ長寿命化基本計画に基づき各省庁で行動計画が作成され、国土交通省、警察庁の 行動計画には交通安全に関する事項が記載されている12)13)14)。緊縮財政を背景に 現状の施策を維持することも困難な状況にあるといえるが、従来から実施している施 策の廃止、あるいは新規の施策への変更といったスクラップアンドビルドについて も、交通安全対策において、当然、検討対象となり得る。
1章 参考文献
1) 内 閣 府(2015), 「 第 9 次 交 通 安 全 基 本 計 画 に 関 す る 評 価 書 」( 平 成 27 年 ),
https://www8.cao.go.jp/koutu/kihon/keikaku10/senmon/k_1/gijishidai.html(参照 2019-01-18)
2) 内閣府(2017),「平成28年度実施施策に係る政策評価書」(内閣府28-41(政策12-
施策⑥)),https://www8.cao.go.jp/hyouka/h28hyouka/h28jigo/h28jigo-12.pdf(参照 2019-01- 18)
3) 内閣府(2018),「平成29 年度実施施策に係る政策評価書」(内閣府29-42(政策12-
施策⑥)),https://www8.cao.go.jp/hyouka/h29hyouka/h29jigo/h29jigo-12.pdf(参照 2019-01- 18)
4) 内閣府(2015), 「道路交通安全に関する基本政策等に係る調査報告書」(平成 27 年3
月),https://www8.cao.go.jp/koutu/chou-ken/h26/index_1.html(参照 2019-01-18)
5) 長尾義三(1972), 「土木計画序論」,共立出版
6) 内閣府ホームページ,https://www8.cao.go.jp/koutu/kihon/keikaku10/index.html(参照 2019-01-18)
7) 森健二,近藤豊(2004),「自動車保険データを用いた交通事故発生件数の推移に関す る考察」, 交通工学,39(5),pp49-58.
8) 坂本将吾,今長久,鹿島茂(2012),「自動車保険データを用いた交通事故の死傷者数 と物損事故件数の推計」,第32回交通工学研究発表会論文集,pp133-138.
9) 山本哲三(2009),「規制影響分析(RIA)入門」,NTT出版
10) 山本哲三(2014),「規制影響分析の勧め ─ 英国の配電改革関連の RIA を中心に ─」,
早稲田商学,第439号,pp173-206.
11) 京都大学経済研究所附属先端政策分析研究センター(2010),「規制評価に関する経済学 的分析に関する研究報告書」
12) インフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議(2013),「インフラ長寿命化基本 計画」
13) 国土交通省(2014),「国土交通省インフラ長寿命化計画(行動計画)平成26年度~平 成32年度」
14) 警察庁(2015), 「警察庁インフラ長寿命化計画(行動計画)平成26年度~平成32
年度」
第2章 交通安全基本計画の課題と改善方法の提案
2-1 背景と目的 2-2 研究の位置付け
2-3 交通安全基本計画の推移 2-3-1 計画の構成
2-3-2 目標設定と達成状況 2-3-3 施策の構成
2-3-4 事故の現状に関する認識 2-3-5 施策選択の考え方
2-3-6 施策の内容
2-4 目標達成のために計画が備えるべき要件 2―4―1 目標指標と目標水準の設定 2-4-2 目標達成のための施策選択 2-4-3 説得力に関する要件 2-5 結論と課題
2章 参考文献
2-1 背景と目的
我が国の道路交通安全対策は、交通安全対策基本法に基づき作成される交通安全基本計 画において、総合的かつ長期的な施策が定められている。1971(昭和46)年の第1次計画 以降、10次に及ぶ計画が作成された。1971年当時は、第一次交通戦争と呼ばれ、年間の道 路交通事故死者数が1万6千人を超える深刻な状況であったが、2017(平成29)年の年間 死者数は、4千人を下回るまでになった。しかしながら、依然として多くの犠牲者がいる ことに変わりなく、さらなる道路交通安全対策が求められる。
本稿では、我が国の道路交通安全対策をより有効かつ効率的なものとしていくための第 一歩として、交通安全対策基本計画に関し、次の事項を考察する。
1点目は、目標設定方法である。目標指標と目標水準の設定の根拠について整理し、これ まで 10 次に及ぶ交通安全基本計画で道路交通の安全に関する目標がどのように設定され てきたのかを考察する。
2点目は、施策の選択方法である。目標達成のためにどのような施策が選択されてきた のかをみるために、削減を目指す事故の種類、それらの事故の発生原因に関する記述内容 を分析する。
3点目として、計画の望ましい性質について考える。分かりやすさ、根拠の明確さなど が考えられるが、これらの観点から計画がどのように変化してきているかを考察する。
2-2 研究の位置付け
計画を分析する場合、計画に記述される施策の内容と事故実態やその変化とを比較する ことにより、計画の効果について分析するものと、計画における目標の立て方、記述する 項目等について調査し、計画の作成手法等について分析するものとが考えられるが、本研 究の対象は後者である。
交通安全対策に関する計画についての研究事例は極めて少ないため、ここでは交通安全 対策以外の分野において研究された事例についても含めて整理を行う。
前者に関する既往研究としては、例えば、地区計画と土地資産価値の関係を分析した和 泉1)によるものが挙げられる。また、Gitelman et al2)は、先進国の道路交通安全計画を比 較分析して、共通する課題や効果の高い対策について整理し、イスラエルへの適用可能性 について議論している。
後者については、原田3)や村木ら4)による住民参加等の計画策定プロセスについて議 論したもの、佐藤ら5)による複数の自治体の景観計画の構成や記載内容を比較整理したも のが挙げられる。また、金ら6)は、日本の交通安全基本計画の変遷について、交通事故実 態と計画内容との関連を整理分析したほか、交通安全を人権と捉える考え方について議論
の減少に大きな成果を上げるとともに、第8次計画において方針が大きく改良され、安全 問題は人権の問題であると表明できる計画内容になったとしている。
本研究では、交通安全基本計画をより効果的にするための知見を得る観点から、計画の 作成方法、特に計画に記載すべき内容に着目した分析を中心に行う。交通事故実態につい ても、計画の成果として捉えるのではなく、交通事故実態を受けてどのような目標を設定 するのか、そしてどのような内容を計画に盛り込むのかといった観点から分析する。また、
交通事故実態そのものの捉え方についても、実際の事故データの分析には重点を置かず、
計画に記述された事故に関する現状認識に基づいた議論を行う。
本稿では、第2章で主に形式面からの整理を行い、それらの事項を踏まえ、第3章で目標 設定、目標達成のための施策の選択、計画の望ましい性質について、内容面から分析・検 討を行った結果を示す。第4章においては、分析により得られた課題についてまとめると ともに、今後の望ましい計画のあり方についての考え方を述べる。
2-3 交通安全基本計画の推移
2-3-1 計画の構成 計画の構成を表2.1に示す。
第1次から第10次までの計画は、概ね次のような構成となっている。冒頭に計画の基本 方針に関する事項が記述され、続いて陸上、海上及び航空の交通安全に関する3部から構 成される。道路交通の安全は、第1部の第1章に記載される。第1部第1章は、第1次か ら第7次まで2節で構成されていたが、第8次以降は3節構成に変更された。
基本方針に関する事項は、計画が進むにつれて記載内容が充実している。
まず、第1次から第10次まで共通して、交通社会を構成する3要素である人間、交通機 関及び交通環境のそれぞれに関する対策の方針と相互の連携について記載されてきたが、
特に第8次以降では、記載内容がより具体的になるとともに、考え方が丁寧に説明される など、分かりやすい記載となっている。
また、第8次以降では、交通事故のない社会を目指すことや人優先の交通安全思想を基 表2.1 計画の構成
計画時期 1次 2次 3次 4次 5次 6次 7次 8次 9次 10次 基本方針(冒頭) 計画の構想 計画の基本的考え方 計画の基本理念
全体構成 3部構成(陸上交通の安全、海上交通の安全、航空交通の安全)
第1部
陸上交通の安全 3章構成(道路交通の安全、鉄道交通の安全、踏切道における交通の安全)
第1部第1章 道路交通の安全
◯道路交通事故のすう勢とそ の抑止
◯講じようとする施策
◯道路交通のすう勢と交通安全 対策の今後の方向
◯講じようとする施策
◯道路交通事故のない社会を目指して
◯道路交通の安全についての目標
◯道路交通の安全についての対策