はじめに
サンフランシスコ市や、オレゴン州ポートランド市、シアトル市など米国西 海岸の大都市では、近年ジェントリフィケーションとホームレスの問題が深刻 化しつつある。ジェントリフィケーション(
Gentrification
)は、高級化と訳さ れることもあり、それは、都市部における労働者階級または貧困層が多く住む 住宅地に、アッパーミドルクラスなどの比較的豊かな人々が流入することによ り、家賃や地価、さらに生活コストが上昇し、地域の住民の構成が変化する現 象を指す。ジェントリフィケーションの問題点として、それまで当該地域に暮 らしていた低所得層が、家賃や地価の上昇により追い出され、彼らによって築 かれてきた地域の文化や特徴が失われてしまう、という点が挙げられる。西海岸の主要都市のホームレスの現状を見てみよう。マルトノマ郡1(主に ポートランド市とその東にある小さい都市
Gresham
市から構成されており、マルトノマ郡の人口の
7
割以上はポートランド市住民が占めている)および ポートランド市が行った調査の結果によると、2017
年マルトノマ郡ホームレ スの人数は4177
人であり、これは、2年前の2015
より約9.9
%も増加してい た。人種的には、白人が58.8%、アフリカ系アメリカ人が 16.2%、アメリカ・
アラスカ原住民が
10.2
%、その他となっている。年齢的には、18
歳未満の子 供が約1
割であり、一方、55
歳以上の人は2
割弱である。成人ホームレスの 性別をみると、男性が59.7%、
女性が37.1%、
トランスジェンダーは1.1%となっ
オレゴン州ポートランド市の ジェントリフィケーション
畢 滔 滔
ている。1年以上ホームレスの状況にある人が
30.9%おり、残りは最近新たに
ホームレスになった人である。マルトノマ郡においては夜間ホームレスを収容 するための施設が不足しており、ホームレスの約4割は野宿をしている。マル トノマ郡は、特集例ではなく、米国西海岸の主要大都市は軒並みホームレスの 問題が深刻化している。例えば、2015
年から2017
年までホームレスの人数の 増加率をみると、ロサンゼルス郡は30%、サンフランシスコの周辺地域であ
るベイエリアであるアラメダ郡は39%、シアトル市が中心都市であるキング
郡は16
%であり、いずれもマルトノマ郡をさらに上回っていた。米国の西海岸の主要都市は、ジェントリフィケーションとホームレスの問題 が深刻化していのはなぜなのか。本論文は、この問題について、オレゴン州ポー トランド市に関する事例研究を通じて検討する。
1.ポートランド:人口の実態
(1)
ノースウエストコーストの三大都市:人口の増加図 1 ポートランド市の位置:ノースウエストコースト
注:星印はポートランド市を、丸印はシアトル市を、三角形の印はサンフランシスコ市を示す。
出所:グーグルマップにより筆者が作成。
図
1
に示されるように、オレゴン州ポートランド市は米国西海岸の北部にあ る。そのため、ポートランドは、しばしば「ノースウエストコーストの大都市」と呼ばれる。ポートランド近隣の大都市といえば、シアトルとサンフランシス コである。シアトル市、ポートランド市、サンフランシスコ市の3市は、ノー スウエストの三大都市と呼ばれることもある。
ポートランドの人口が増加し続けていることは、近年日本で頻繁に報道され ている。これは事実である。ただし、ノースウエストコーストの三大都市と呼 ばれるシアトル、サンフランシスコおよびポートランドすべての街において、
その人口増加率は全米平均よりはるかに高いということを、ここでは改めて強 調したい。
表
1
は、2010年代、シアトル、サンフランシスコ、ポートランド、および 全米の人口の状況を示している。この表に示されているように、2017
年、シ アトルの人口は72
万5000
人、サンフランシスコは88
万4000
人、ポートラ ンドは64
万8000
人であった。2010
年から2017
年までの人口増加率を見ると、シアトル市は
19.1
%増と最も高く、次いでポートランド市は11.0
%、サンフラ ンシスコ市は9.8%と、いずれも全米平均の 5.5%をはるかに上回っている。つ
まり、ポートランドだけではなく、ノースウエストの大都市の人口は軒並み増 加している。人口密度を見ると、サンフランシスコ市の人口密度はシアトル市 の2
倍以上、ポートランド市の約4
倍である。また、シアトル市の人口密度はオレゴン州ポートランド市のジェントリフィケーション
表 1 ノースウエストの三大都市と全米の人口の比較
項目 シアトル市 サンフランシスコ市 ポートランド市 全米 2017年人口(万人) 72.5 88.4 64.8 32571.9
2010-17年の人口増加率 19.1% 9.8% 11.0% 5.5%
2010年人口密度
(人/平方マイル) 7,251 17,179 4,375 87.4 出所:U.S. Census Bureau, QuickFactsのデータにより筆者が作成。
ポートランド市の
2
倍弱である。サンフランシスコはニューヨーク市に次いで 全米で2
番目に人口密度が高い都市である。つまり、サンフランシスコに関し ては、これ以上の人口増加が難しいだけでなく、人口増加が都市にもたらす諸 問題が一層深刻化することがうかがえる。実際、サンフランシスコとその周辺 地区の住宅・オフィス価格があまりにも高騰したため、起業家や専門職従事者 がシアトルへと移り住み、その後シアトル市の不動産価格も高騰したため、今 度は人々がポートランドへと移り住む、という傾向がノースウエストコースト 地域に見られた。(2)
誰がポートランド人・オレゴン人か表
2
は、 ポ ー ト ラ ン ド 市 に お け る 地 元 生 ま れ の 人 口 の 比 率 を 示 し て い る。この表に示されるように、2010
年ポートランドの総人口は58
万5429
人 であり、そのうち25
歳以上の人口の数は41
万687
人であった。総人口に占め る地元生まれの人の比率は40.9
%であり、約6割の住民は他の地域から移住し てきた人々であることがわかる。さらに、25歳以上、つまり子供を除いた大 人だけに着目すると、総人口に占める地元生まれの比率は30.4
%に下がり、約 7割の大人は他の地域から移住してきていることになる。このように、「ポー トランド人」の多くは、他の地域からポートランドに移住してきた人たちなの である。表 2 ポートランド市における地元生まれの人口の比率(2010年)
総人口(人) 25歳以上の
人口(人) 地元生まれの
人口(人) 地元生まれ
人口の比率 25歳以上の人口に占める 地元生まれ人口の比率
585,429 410,687 239,162 40.9% 30.4%
出所:U.S. Census Bureauのデータによる筆者が作成。
また、ポートランドに移り住む人の多くはオレゴン州出身者かというと、必 ずしもそうではない。表
3
は、オレゴン州経済分析室が、2016
年米国コミュ ニティ調査(American Community Survey: ACS
)のデータに基づいて公表し た「2016年オレゴン州住民の出身州ランキング」である2。この表に示され るように、2016
年、オレゴン州住民のうち、オレゴン生まれの人の数は過半 数に達していない。約2
割がカリフォルニア州生まれで、6.4
%はワシントン 州うまれであった。このように、ポートランド人(Portlandia)やオレゴン人(
Oregonian
)は、実に様々な州からの移住者の集まりであることがわかる。ポートランド人・オレゴン人のライフスタイルは、地元生まれの人だけではなく、
他の地域からポートランド市・オレゴン州に移住してきた多くの人々のライフ スタイルの集まりである。また、移住者のライフスタイルは、その人の出身地 の文化・ライフスタイル、さらに彼または彼女の教育などに影響される。
2.ポートランド:雇用の実態
ポートランドのジェントリフィケーションの実態および、それが同市の労働 者階級の生活におよぼしている影響について見てみよう。
アメリカ合衆国労働統計局は、ポートランド都市圏のすべての職業の賃金に 関するデータを公表している。表
4
は、当該データについて、被雇用者に占めオレゴン州ポートランド市のジェントリフィケーション 表 3 2016年オレゴン州住民の出身州ランキング(上位5位)
ランキング 出身州 オレゴン州住民に占める比率
1 オレゴン州 42.9%
2 カリフォルニア州 18.0%
3 ワシントン州 6.4%
4 イリノイ州 2.2%
5 ニューヨーク州 1.9%
出所:Oregon Office of Economic Analysis, “Fun Friday: Insular States vs Cosmopolitan, Origin vs Destination”により筆者が作成。
る比率が
5%をこえる職業、すなわち、従業員の人数が比較的多い職業のデー
タを示している。この表に示されるように、2017
年5
月に行われた調査によ ると、ポートランド都市圏の被雇用者のうち、最も人数が多い職業は、企業・公的機関の一般職であり、被雇用者の
14%を占めた。彼らの平均年間賃金は 4
万320
ドル、すなわち444
万円(1
ドル110
円で換算する。以下同)であり、さほど高くないことがわかる。次に従事者が多い職業は、調理と接客サービス 関係の職業である。シェフ、バリスタ、レストランのウェイターやウェイトレ ス、バーテンダーなどはこの職業に分類されている。彼らの平均年間賃金は日 本円で
298
万円と非常に低い額である。3番目に従事者が多い職業は、公的機 関と民間企業の管理職であり、全被雇用者に占める比率は7
%である。彼らの 平均年間賃金は日本円で1263
万円であり、調理・接客サービス関係の平均年 間賃金の4
倍を超えている。次に従事者数が多い職業は、小売販売関係の職業 である。それらは被雇用者の6
%を占め、その年間平均賃金は326
万円である。これまた低い水準にあることがわかる。
表 4 ポートランド大都市圏における職業別給与水準(2017年、$1=110円、以下同)
職業 被雇用者 平均年間賃金・税込
人数(人) 構成比 米ドル 円(万)
企業・公的機関の一般職 167,420 14% 40,320 444 調理と接客サービス関係の職業 106,010 9% 27,130 298 公的機関と民間企業の管理職 77,660 7% 114,790 1263 小売販売関係の職業 69,510 6% 29,671 326 工場の労働者 72,030 6% 39,910 439 バス・タクシー運転手、物流関係の職業 71,860 6% 40,310 443 経営・金融業の専門職 66,610 6% 75,050 826 教育、図書館関係の職業 65,270 6% 62,360 686 医師、看護師、医療機関の技師 60,260 5% 91,660 1008 出所:BLS, Occupational Employment Statisticsのデータにより筆者が作成
このように、ポートランド都市圏の雇用は4つの特徴があるといえるであろ う。第一に、公的機関と民間企業の管理職、医師や企業の専門職に従事する人 は約
2
割おり、日本円で800
万円以上の賃金をもらっている。第二に、約1
割 を占める教育、文化関係の仕事の従事者は、年間700
万ほどの賃金をもらって いる。以上の3割ほどの人は、いわゆるミドルクラスやアッパーミドルクラス と言われる人々である。第三に、バリスタ、シェフ、ウェイターやウェイトレス、バーテンダーなど調理と接客サービス関係の職業に従事する人と、小売販売関 係の仕事に従事する人の数は
2
割弱であり、彼らの年間賃金は300
万円程と非 常に低い値である。第四に、企業の一般職や一般職の公務員、工場労働者、運 転手などは、全被雇用者の約3
割を占め、その平均年間賃金は400
万から450
万程度である。2017
年、ポートランドが立地するマルトノマ郡の公式報道によると、2007 年から2017
年までの10
年間、ポートランド地域で最も急速に増加している雇 用は、低賃金の雇用、すなわち平均年間賃金が21,000
ドル(231
万円)の飲 食・ホテルなどの仕事と、高賃金の雇用、すなわち平均年間賃金が133,000
ド ル(1463
万円)のハイテク製造業の専門職・技術職の仕事であるという3。そ れぞれ18
%と13
%増加しているそうある4。このように、ワーキングプアが 急速に増えているという問題は、ポートランドで年々深刻化している。3.ポートランド:ジェントリフィケーションの現状
ポートランド市において、住民間の格差が広がると同時に、収入のより高い アッパーミドルクラスが同市に移住することにより、もともとそれほど高くな かったポートランド市の住宅価格が押し上げられている。バーテンダーやバリ スタ、ウェイター・ウェイトレス、シェフといったポートランド市に多くいる 一般サービス業の従業員にとって、自分達に手の届く住宅を見つけることが困 難になりつつあるのである。
オレゴン州ポートランド市のジェントリフィケーション
The Seattle Times
紙は、2017
年3月3日に「高騰するポートランド住宅市場。住宅コストが急騰し、収入の格差が拡大。どこかで聞いたことがあるような?
(In red-hot Portland, housing costs soar and income gap grows. Sound familiar?)」 というタイトルの記事を掲載した。当該記事には、ポートランド市とシアトル 市について、表
5
に示されるデータが掲載されていた。表5
からわかるように、2017
年ポートランド市において、平均月間家賃は18
万5650
円であり、また、平均住宅価格は
4468
万円で非常に高かった。ポートランド市では、平均収入 の家庭であっても家賃を支払うことが容易ではない。飲食業や小売業の従業員 に至っては、たとえ共働きでも、このような水準の家賃を支払うことは無理で あろう。結果として、賃金が高い人々が、かつて労働者階級の住宅地であった はずのウィラメット川東側の住宅を次々と購入し、住宅価格の高騰が続いてい る。家賃が払えない人は、どんどん遠い東の住宅地へ転居し、そこでの家賃す ら払えなくなると、他の都市や州に移住したり、ホームレスにならざるを得な いのである。マルトノマ郡は、以下のように、ホームレスが増加し続けている要因が、
家賃高騰とワーキングプアの増加にあると指摘している(
Multnomah County,
表 5 ポートランド市とシアトル市の平均世帯年収および住宅コスト(2017年)項目 ポートランド シアトル 平均世帯年収・税込(中央値) $60,892
670万円
$80,349 884万円 平均月間家賃 $1,695
18万5650円
$2,350 25万8500円 平均住宅価格 $406,200
4468万円
$609,100 6700万円
出所:Hal Bernton, “In red-hot Portland, housing costs soar and income gap grows. Sound familiar?” The Seattle Times, March 3, 2017より筆者が作成。
Retrieved from https://www.seattletimes.com/business/economy/portland-economy- growing-pains-startups-housing-costs/(November 12, 2019)
4.住宅コストが高騰し続ける理由
ポートランドをはじめ、米国西海岸の住宅コストは高騰し続けているのはな ぜなのか。理由は主に2つある。一つは、良いまちをつくったためである。例えば、
ポートランド市は、
1970
年代から10
年以上をかけて、景観の良いまちをつくり、市民参加の市政運用を行ってきた。このような都市の特徴を好む人、とりわけ 教育水準の高い人々が、全米各地からポートランドに移住している。もう一つ の理由は、
1970
年代以降、米国の産業構造が変化したからである。製造業や 建設業のような、年収5
万ドル(550
万円)から6
万ドル(660
万円)の中レ ベルの収入の仕事が減り続ける一方、年収3万ドル(330万円)未満の一般サー ビス業の仕事と、年収10
万ドル(1100
万円)以上の専門職の仕事が増加して いる。つまり、格差が広がると同時に、収入のより高いアッパーミドルクラス がポートランドに移住することにより、もともとそれほど高くなかったポート ランドの住宅価格を押し上げているのである。これにより、バーテンダーやバ リスタ、シェフといったポートランド市に多くいる一般サービス業の従業員は、自分達の賃金で住める住宅を見つけることが困難になっているのである。
以下では、これらの二つの理由を具体的に見てみよう。
オレゴン州ポートランド市のジェントリフィケーション
Multifamily NW
のデータによると、2017年ポートランド地域におい て、1DKアパートの平均家賃は1
カ月1,100
ドルを超えている。2005 年から2017
年までの1DK
アパートの家賃の増加率は、平均収入の増加 率の20
倍を超えた。マルトノマ郡において、連邦障碍者障害者手当を主な収入としている 人の数は
1
万8000
人であり、その手当の月額は735
ドルである。法定 最低賃金の仕事をして生活する人もまた、2005年以降の家賃の高騰によ り、収入の多くを家賃に費やさざるを得ず、他の生活必需品を購入する ことがますます困難になっている。(1)
まちづくりの成功61960
年代終盤まで、ポートランド市当局は、他の米国都市の政治家・官僚 と同じように、連邦政府が推進した高速道路建設と都市再開発事業を積極的に 実施することで、雇用創出と経済発展を図ろうとした。ところが、1960
年代末、ポートランド市議会は、それまで経験したことのないほど大きな変化の時を迎 えた。戦前生まれの市会議員が亡くなったり、リタイヤしたりして、市会議員 の顔ぶれが大きく変わった。実際、1969年から
1973
年までのたった4年の間 に、ポートランド市長・市会議員が大きく入れ替わった。1960
年代終盤、ポー トランドの5
人の市会議員は、全員男性であり、長い間ポートランドの市政を コントロールした人々であった。一方、彼らに代わり、1970
年代前半、30
代 の市長が就任したのをはじめ、2人の女性を含む革新派議員が市会議員5つの ポストのうちの4つを占めるようになった。彼ら新世代の政治家達は、年齢が 若いだけではなく、前世代のポートランド市会議員とは以下の4つの点で大き く異なっていった。第1に、新しい世代の市会議員は、
1960
年代の社会運動に影響され、あるい は参加した経験を持つなど、社会変革の流れに対して肯定的・積極的であった。第2に、前世代の市会議員がビジネスマンや労働組合のリーダー出身である ことが多かったのに対し、新しい世代の市会議員の前職は、弁護士や都市計画 者、ジャーナリスト、すなわち専門職従事者であった。
第3に、前世代のポートランド市会議員の支持基盤がダウンタウンの不動産 所有者や大手企業であったのに対し、新世代の市会議員の支持基盤は、ダウン タウン周辺の伝統的住区の住民および、彼らと同じような経験を持つ新世代の 都市計画者や建築家などの専門職従事者であった。
第4に、新しい世代の市会議員達は、市会議員になる前に市当局の官僚とし
これらの特徴故に、新世代の市会議員達は、1960年代終盤までのポートラ ンド市のまちづくりの失敗を真正面から見据えることができた。市会議員の世 代交代がきっかけとなり、まちづくりの方針が根本的に変わり、また、市民参 加のまちづくりが本格的に始まった。「1972年ダウンタウンプラン」の策定と 実施は、ポートランド市のまちづくりのターニングポイントとなった。同計画 では、ポートランド市の心臓部であるダウンタウンのまちづくりについて、「郊 外に住む人々が車で訪れやすい場所をつくる」という従来の目標が改められ、
「人々が住みたくて、歩きたい場所をつくる」という新しい目標が打ち出された。
その後、このダウンタウンプランは、実に
10
数年間という長い年月かけて実 施された。10
数年間の間に、高速道路ハーバードライブを撤去して公園をつ くる事業(写真1
)、公共交通を整備する事業(写真2
)、古い倉庫を若者の起 業の場にする事業など(写真3)
、数多くの事業は完成した。オレゴン州ポートランド市のジェントリフィケーション
写真 1 高速道路ハーバードライブの跡地につくられたトム・マッコール公園
写真:筆者が撮影。
ポートランドのまちづくりの成功にともない、
1970
年代以降米国の都市の 利用者と居住者も大きく変化した。米国の人口を見ると、1970
年代はベビー写真:Oregon Historical Society提供。
写真 2 公共交通:トランジット・モールのバス専用道
写真 3 起業の場となっている古い倉庫の集積
写真:筆者が撮影。
り高い教育を受けていただけでなく、キャリアや家庭に関して彼らの親の世代 とは大きく異なる考えを持っていた。米国の社会学者
Paul Light
は、その古典 となっているBaby Boomers
において、ベビーブーム世代と彼らの親の世代と の違いを次のように述べている(Light, 1990, pp. 147-153)。このようなベビーブーム世代の人々の間には、彼らの親のように、都心にあ る企業に勤め、結婚して、家族と共に郊外に住み、休日家族と共に郊外のショッ ピングモールで買い物をする、といったライフスタイルを選ばない人が増えた。
Glaeser et. al. (2000)が指摘したように、 1970
年代以降、都市のクオリティ・オブ・ライフを改善することは、高学歴の従業員を同地に惹き付けるための必要条件 となった。
ポートランド市は、1970年代以降、人々が住みたくて、歩きたくなるよう な場所をつくる、というようなまちづくりを積極的に実施してきた。こうした 生まれ変わったポートランドは、若く、高い教育を受けた人々を米国の各地か ら惹きつけた。
Jurjevich and Schrock (2012)
によると、1980-2010
年、25
歳か ら39
歳までの大卒以上の学歴を持つ人の純転入率が50
大都市圏中上位15
位 以内にランクインし続けた都市圏は、ポートランド都市圏とシアトル都市圏だ けだったというのである。しかし皮肉なことに、多くの高学歴の若者がポート ランドに転入し続けることが、ジェントリフィケーションを引き起こす一因と もなった。オレゴン州ポートランド市のジェントリフィケーション
ベビーブーム世代の米国人は、離婚率が極めて高く、また、自らの意思 により生涯独身や子供のいないライフスタイルを選ぶ人の比率が彼らの親 世代よりはるかに高い。中略。ベビーブーム世代の親たちは、仕事をする こと自体、あるいは求められる社会的役割を果たすこと自体に幸せを感じ ていた。しかし、ベビーブーム世代の人々は、より意味のある仕事を求め、
さらに仕事とプライベート両方の幸せを追求する。
(2)1970
年代以降アメリカの産業構造の変化アメリカの製造業、
1970
年代以降、製造業被雇用者が全米被雇用者に占め る構成比が急速に低下し続ける一方で、付加価値の高い製造業へと徐々にシフ トしてきた。図2
は、米国における製造業の雇用者構成比の推移と、製造業が 産出する付加価値が全米のGDP
に占める比率の推移を示している。この図か らわかるように、1970
年、米国における製造業の雇用者構成比が37.4%であっ
た一方、
GDP
構成比は25.4%であり、前者は後者よりはるかに高い状況にあっ
た。しかし、
2017
年になると、米国の製造業の雇用者構成比は10.0
%、そのGDP
構成比は11.6%であり、GDP
構成比は雇用者構成比より高くなった。アメリカの製造業は、低付加価値業務をアウトソーシングする一方で、国内 の雇用については高付加価値を生み出す技術者やエンジニア、高級管理者に集 中させてきた。第
2
節で紹介したマルトノマ郡の報告にもあったように、2010 図 2 米国における製造業の雇用者構成比とGDP
構成比 の推移(1947-2017年)年代、ポートランド地域で最も急速に増加している雇用は、飲食・ホテルなど の低賃金の雇用と、ハイテク製造業の専門職・技術職などの高賃金の雇用であ る。そのような中、製造企業が立地を選定する際に重視するポイントも大きく 変化した。従来の製造企業は、道路とりわけ高速道路が整備されていて輸送コ ストが低いこと、原材料や安い労働力が得やすいことなどの要素を重視してい た。しかしいまは、候補地のクオリティ・オブ・ライフを重要視している。と いうのも、優れたクオリティ・オブ・ライフを提供できるような場所ではなけ れば、企業の競争力を左右するエンジニアや技術者、高級管理職者を確保する ことが困難であるからである。一方、これは、ジェントリフィケーションとワー キングプアの増加をも引き起こしている。
おわりに
ポートランドは特殊例ではない。米国の西海岸の主要都市において、ジェン トリフィケーションとワーキングプアは大きな社会問題となっている。例え ば、サンフランシスコ市における低賃金労働者の困窮状況は深刻化している。
サンフランシスコ地元新聞最大手の
San Francisco Chronicle
紙は、「サンフラン シスコには低賃金の仕事がいくらでもある。しかし、そのような仕事につい たとして、どこに住めというのか(Low-wage jobs are plentiful in San Francisco,but where can you live?)
」というタイトルの記事を掲載したほどである7。実際、サンフランシスコの主要産業である金融・保険産業や専門サービス業の従業員 の賃金と、観光関連のレストラン・バー・カフェのシェフ、バリスタ、ウェイ ターやウェイトレス、ホテル、モーテル、リゾートの従業員の賃金を比較する と、前者は後者の3倍から
4
倍にものぼる。サンフランシスコのワーキングプ アの住宅問題は、マスメディアに大いに取り上げられている。このように、ワー キングプア、ジェントリフィケーション、ホームレスの問題は、今日アメリカ 西海岸の主要都市が抱えている大きな社会問題である。オレゴン州ポートランド市のジェントリフィケーション
1 マルトノマ郡のホームレスの現状は、Krishnan and Elliott (2017)による。
2 この数字には外国からの移民は含まれておらず、米国生まれの人口の数字のみ である。
3 Multnomah County (2017), Strong growth masks troubling trend. Retrieved from https://multco.us/multnomah-county/news/strong-growth-masks-troubling-trend (November 12, 2019)
4 同上。
5 Retrieved from https://multco.us/file/63263/download (November 12, 2019)
6 本項の説明は、畢(2017)を加筆したものである。
7 C.W. Nevius, “Low-wage jobs are plentiful in S.F., but where can you live?” San Francisco Chronicle, September 18, 2015. Retrieved from https://www.sfchronicle.
com/bayarea/nevius/article/Low-wage-jobs-are-plentiful-in-S-F-but-where-6515053.
php (November 13, 2019) 参考文献
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Glaeser, E. L., Kolko, J., and Saiz, A. (2000). Consumer City. Harvard Institute of Economic Research Discussion Paper Number 1901 (JUNE 2000). Retrieved from https://scholar.harvard.edu/files/glaeser/files/consumer_city.pdf (November 12, 2019)
Jurjevich, J. R. & Schrock, G. (2012). Is Portland Really the Place Where Young People Go To Retire? Migration Patterns of Portland's Young and College-Educated, 1980- 2010. Publications, Reports and Presentations, Paper 5, pp. 1-22.
Krishnan, U., & Elliott, D. (2017). 2017 Point-In-Time: Count of Homelessness in Portland/Gresham/Multnomah County, Oregon. Publications, Reports and Presentations, 40. Retrieved from https://pdxscholar.library.pdx.edu/prc_pub/40 (November 8, 2019)
Light, P. C. (1990). Baby Boomers, Norton Paperback Edition. New York: W.W. Norton &
Company.