成果と課題
著者 小林 真人
雑誌名 研究紀要 : 共に創りあげる授業
巻 20
ページ 73‑73
発行年 2020‑03
出版者 静岡大学教育学部附属静岡中学校
URL http://doi.org/10.14945/00027150
静岡大学教育学部附属静岡中学校 研究紀要(第20号)
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成果と課題
1 成果
第3学年で実践した「ガムランの鑑賞を起点とした創作」の題材では,子どもたちの「様々な音や音楽の よさや美しさを味わい,分かち合う人」となっていくきっかけとなるような姿が多く見られました。
(1) 心からの感動を伴いながら主体的に音楽科ならではの文化を味わう子どもたちの姿
子どもたちにとってガムランは,最初は得体の知れない音楽であったことでしょう。また,キッチンボウ ルで様々な「音色」を奏で,「音の重なり方」に変化を生み出して音楽を生み出すなどということは,考え もしなかったことでしょう。しかし,子どもたちは,ガムランにおいて変化に富んだ音楽表現を織りなして いる様々な「音色」や「音の重なり方」を知覚して新たな感受を得たり,キッチンボウルであっても奏で方 や用い方を工夫することで「音色」や「音の重なり方」などが様々に表情を変えていくことを発見したりし ていきました。そのような中で,子どもたちは音や音楽とじっくりと向き合い,音や音楽による驚きや喜び などといった様々な心からの感動を伴いながら,表現や鑑賞を深めていくことができました。
(2) 「その音楽ならでは」のよさや美しさにせまっていく対話を繰り広げる子どもたちの姿
子どもたちは,「バリ島のガムランは,神々や精霊にお供えするための音楽であり,その音響が生み出さ れる空間においては,人間界と霊界の交感(互いに感じ合うこと)が可能であるとされる」ことを押さえた うえで,「聴く人」としても,「つくる人」としても,「演奏する人」としても,ガムランだからこその音 楽表現のよさや美しさにせまっていき,立場の枠を越えた音を媒体としたコミュニケーションを充実させて いきました。そのため,音楽に対する感性を豊かに働かせたり,「言葉」や「音や音楽による表現」を媒体 としたりしながら,ガムランだからこそのよさや美しさにせまっていく対話を繰り広げる子どもたちの姿を,
様々な場面で見ることができました。
(3) 音楽文化に対する概念的な理解を深めていく子どもたちの姿
慣れ親しんでいる西洋音楽を基盤とした音楽とは異なる民族音楽に触れたり,そもそも楽器ではないもの で音楽を奏でたりする活動は,子どもたちの中にある音楽に対する既存の概念を覆していきました。本題材 を通しての振り返りとして,子どもたちは「興味をもったこと」「おもしろかったこと」「音楽の世界につ いて広がったこと」などを記述しましたが,そこでは次のような記述が見られました。
・痛快さや不気味さなどを感じさせるバリ島のガムランは,「音色」や「音の重なり方」などにバリ島の 人々独自の価値観や精神が宿っている貴重な音楽だ
・身の回りにある音と人々の生活に根付く思いや願いが結びついていく中で,音楽は様々に生まれていく
・様々な音楽について優劣をつけず,それぞれの音楽性を尊重していくことが大切だ
これらの記述から,子どもたちが音楽文化に対する価値観をさらに広げて,音楽文化に対する概念的な理 解を深めていったことがうかがえます。実感を伴ったこれらの気づきは,子どもたちが「様々な音や音楽の よさや美しさを味わい,分かち合う人」となっていくことに大いにつながっていくはずです。
2 課題
「様々な音や音楽のよさや美しさを味わい,分かち合う人」を育むためには,数少ない授業時数の中で,
幅広く様々な音楽についてじっくりと触れる機会や豊かな音楽表現の場を子どもたちに提供していくこと が肝要です。そのため,授業者が各学年・3年間・小中9年間の学びの見通しをもったり,領域や分野をま たいだ題材を意図的に組んだりしていくことは,子どもたちが様々な立場で音楽と向き合い,題材や学年の 枠を越えた「学びのつながり」に対する意識をもつこととなり,広がりや深まりのある充実した学びを展開 し,実感を伴った音楽文化に対する概念的な理解を深め続けていくことにつながるでしょう。
しかしながら,授業者が子どもたちの「学びのレール」を敷くことにはメリットもデメリットもあるでし ょう。子どもたちが最低限の知識・技能を獲得したり,よりよい音楽表現を求めて音や音楽にさらにじっく りと浸っていくために心を落ち着かせて音や音楽と向き合っていく秩序のある場面を提供したりすること は間違いなく重要です。ただし,「どのように表現していくか」「どのような感受を得たか」などについて は,音楽的な視点や表現の方向性などはある程度押さえつつ,子どもたちの自由で豊かな発想を引き出し,
学びへとつなげていきたいところです。それらを熟慮したうえで,子どもたちの「学びのレール」をどのよ うに敷くか,どの程度敷くかについて,授業者が柔軟に見極めていくことが大切になってくるでしょう。今 後は,子どもたちの「学びのレール」を見極めていくことをさらに大切にして,実践を重ねていきます。