第4章 監査役制度の変遷3
コーポレートガバナンス論の国際的展開による影響
1 総 説
前章でみた平成5年(1993年)の商法改正の時期に相前後して、コーポレ ートガバナンスの議論が国際的な広がりを見せていった。監査役制度も、こ のガバナンス論の影響を受けて、平成13年(2001年)商法改正(第三次改正)、 および平成14年(2002年)商法改正における変化に繫がっていく。
1980年代後半から2000年代の初頭にかけては、コーポレートガバナンスの 議論が最も熱心に議論された時代である。とりわけ1992年は画期的な年であ り、米国においてアメリカ法律協会 ALI による最終提案報告書「コーポレ ートガバナンスの原理⎜⎜分析と提言」が公表される一方、イギリスではキ ャドベリー報告書が公表され、国際的な議論として展開されていった。この 根本的原因はあいつぐ企業不祥事であったことは論を待たない。また同年 に、米国トレッドウェイ委員会による財務報告の内部統制に関する COSO 報告書が公表されたことも意義深く、これは会計監査に関連したものである が、コーポレートガバナンス論の一部を形成するものと位置づけてよいであ ろう。
その議論のキーワードは経営監視機関の「独立性」ないし「中立性」、お よび経営体の「透明性」と思われるが、ガバナンス論としての議論の主軸 は、社外役員の積極的採用およびその独立性に関するものであった。他方、
透明性はディスクロージャーの議論にも結びつき、企業情報開示制度の拡充 も避けて通れない議論となる(本件については第7章で改めて取り上げる)。そし て欧州でも、アメリカの機関投資家の進出によりアメリカ流のガバナンス議 論の影響を受け、制度論、運用論ともに活発な議論が続けられてきた。
本章では、米欧におけるこれらの議論を踏まえた各国の経営監視機関を概 観したうえで、わが国商法とりわけ監査役制度に与えた影響や、平成13年第 3次商法改正および平成14年商法改正における監査役制度の改正事項などを
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記しておく。同時に、この年代は、大規模公開会社においては、証券取引法 と商法の同質化・同一化が実質的に一段と進展を見せた時代でもある。この 点についても随所に明記するほか、最後に、現代の大規模公開におけるコー ポレートガバナンス議論の前提となる概念等を記しておきたい。
なお、本章はあくまでも平成14年(2002年)改正までの監査役制度の変遷 を取り上げるものであるから、外国の議論・制度を扱う場合も、平成14年
(2002年)商法改正前のコーポレートガバナンス論すなわち2001年までのコー ポレートガバナンス論や制度を中心に取り上げている。
2 1990年代以降のコーポレートガバナンス論と各国の 経営監視機関
本節では、法律・経営・経済など各分野に広がる各国のガバナンス論のう ちとくに法制度に関する論議ならびに各国経営監視機関の(法制度ないし運用 レベルにおける)機関構造に触れておきたい。なお、本節の訳語については、
これまでの学会論文・実務論文等で多く使われていると思われる表現を使用 することにする(第1章、1参照)。
ただ、予め確認しておくべきことは、先進各国における経営監視機関の類 型が多様性を帯びてきたことである。これまで会社法のテキストなどでは、
先進各国の経営監視機関はおよそ3つのカテゴリーに分類されると説明され てきた。すなわち、ドイツでは経営監視機関は「二層制」であり、これに対 し、アメリカは「一層制」、日本の経営監視機関たる監査役(会)は折衷型 で「水平制」といった説明である(ここに「一層」「二層」とかの数え方は、会社 機関のうち株主総会を除く経営監視機関がいくつになっているのかを示している)。
しかし、アメリカにおける経営監視機関の実質的な二層制化、フランスに おける選択制(とくに2001年以降)、わが国の平成14年改正からの選択制、それ に平成17年会社法における会社機関の自由設計などの点から、一概に論じき れなくなってきたことに留意すべきである。
(1)アメリカにおけるガバナンス論と経営監視機関の構造
周知のとおりアメリカでは、会社組織・運営等に関する法制度は連邦法に 83
よる単一の規制ではなく(モデルとなる模範事業会社法の存在があるものの)、州会 社法によって定められており、州によって会社法の規制内容は各様である。
しかも会社機関に関する詳細規定はあまり多く見られない。
アメリカで日本の経営監視機能すなわち監査役の機能に相当するものは、
取締役会内部の一委員会として設置される監査委員会(Audit Committee)で あるとよく説明される。しかし、ここ30年ほどの間にアメリカの取締役会は 経営体ではなく経営監視機関に特化しており、また監査委員会独自に独立監 査人や実質的に経営体から独立した内部監査部門を使って執行役以下を監視 できる状況となっている。したがって、一層制とはいっても水平制に接近す る様相を呈している。
ただ、アメリカの監査委員会は後述するようにもっぱら財務報告の監査を 通じて業務遂行面の監査をも担う形態であるので、日本の会社法制における 監査役・監査委員会が担う経営監視機能とは性格がやや異なるものと思われ る。
以上を要するに、アメリカの会社機関は(事実上の規制を含め)図表Ⅳ―1 のようないわゆる一層制の構造であるが、実質的には監査委員会は取締役会 からも独立した立場にある。
ともあれ、アメリカで取締役会内部の一委員会である監査委員会について 定めているのはコネチカット州会社法・カリフォルニア州会社法など一部の 州会社法であり、1978年にニューヨーク証券取引所の改訂上場規則が発効し た以降、その多くは各証券取引所の指針・通達等による事実上の規制として 運用されていった。その後、SEC の監査委員会監査報告書に対する開示規 制が1999年と2003年に行われ、開示面から監査委員会の業務が逆に規律され ていくという効果が見られた(詳細は第8章3参照)。
アメリカにおけるコーポレートガバナンス論とりわけ監査委員会に関する 議論は、およそ三つの時代に区分されると考えられる。第一の時代は、1970 年代から1980年代後半にかけての敵対的企業買収と経営者の防衛策・訴訟、
監査委員会への関心が高まって言った時代である 。第二の時代は、1980年 代後半から2000年の初頭にかけての取締役会・監査委員会・外部独立監査人 に対する役割拡充の形成期であり、取締役会が経営体から経営監視機関へと
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変化する時代で、これが本節で直接取り上げている部分である。第三の時代 は、2002年企業改革法以降の監査委員会・外部独立監査人に対する規制が政 府による直接規制に移り変わっていった時代である。
1992年にアメリカ法律協会(The American Law Institute; ALI)が取りまと めた最終報告書「コーポレートガバナンスの原理⎜⎜分析と提言」(ALI
Principles of Corporate Governance, Analysis and Recommendations proposed Final
Draft)では、大規模公開会社(Large publicly Held Corporations)の監査委員会 について次のように定めたことが実際の監査委員会運営の基本となり、各国 における経営監視機能検討の検討素材となっていった。
すなわち、その 3.05において「大規模公開会社はすべて監査委員会を設 けなければならない。監査委員会は、会社の内部監査や外部独立監査人によ る独立性のある監査を経て作成された財務書類に対して監査を行う。監査委 員会はこの監査を通じて、取締役会が果たすべき会社業務の執行状況を監督 する機能(oversight function)を支援する(implement and support)ものであ
図表Ⅳ―1
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る。監査委員会は少なくとも3名以上のメンバーをもって構成し、そのメン バーは、会社に雇用されていない者または直近2年間会社に雇用されていな かった者もしくは経営執行者と重要な関係にない者によって構成されるべき である」とした。ここでは、監査委員会メンバーに独立性ないし中立性が求 められているものといえよう。
さらに、 3A.03では、以下のような監査委員会の役割等が列挙されてい た。
1)会社の外部独立監査人としての会計事務所の指名または解約 2)外部独立監査人の報酬・監査契約、その独立性に関するレビュー 3)内部監査担当役員の指名または変更(必要に応じて)
4)外部独立監査人と取締役会とのコミュニケーションづくり、必要に応 じて、内部監査担当役員と取締役とのコミュニケーションづくり 5)次の事項のレビュー。①外部独立監査人の監査結果、②同監査報告
書、③マネジメントレターに関する事項、④外部独立監査人の監査結 果から得られた提案事項に対する経営者の対応、⑤内部監査部門の監 査から導かれた会社全体の業務監査報告書、⑥以上各事項に関する経 営者の対応状況
6)次の各事項のレビュー。①年次報告書、②監査証明・監査報告・監査 意見、③財務書類を通して得られた外部独立監査人のレビュー、④以 上の財務報告に関してなされた経営者と外部独立監査人との間の重要 な論点
7)次の事項の検討。①外部独立監査人や内部監査担当役員から相談され た事項、②内部統制の状況の適正性
8)外部独立監査人や内部監査担当役員から指摘された次の事項の監査が いずれも適正であったかどうか。①会計方針の変更、②資産の運用状 況
このように、監査委員会は財務報告のアカウンタビリティーを背景にした レビューを基本に置きながら、業務関連事項の詳細にも敷衍していく方式を 採っている。この意味で、監査委員会のメンバーには財務に関する知識が必 要となる。このため、ニューヨーク証券取引所では2001年に、監査委員会の
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メンバーは少なくとも財務知識を得ている者(financial literacy)であること が必要で、メンバーのうち1人以上は財務の専門家(financial expertise)で なければならないとした。
開示面から監査委員会の役割をバックアップすることも行われており、各 社の監査委員会の目的・責任・権限等に関する監査委員会規程(charter)を 作成しなければならず、2001年から株主総会招集通知に添付(少なくとも3年 に1回は開示)されている 。
(2)ドイツにおけるガバナンス論と経営監視機関の構造
ドイツの会社機関は、古くからいわゆる二層制が採用されている。すなわ ち監査役会(Aufsichtsrat)および取締役(Vorstand)の二つの監視機関・監督 機関をもつ。わが国会社法では事前監査の文言は見られないが、ドイツ株式 法では、監査役会は、事後の監査を行うだけでなく、予防的に、計画された 行為も事前に監査しなければならない(事前監査、ex‑ante‑Kontrolle)とされ
(ドイツ株式法90条1項)、監査役会の監査が事前監査である旨を明確にうたっ ている。
ドイツでも1990年代にはコーポレートガバナンスが熱心に議論された が 、その議論の背景にあったものは、金融市場のグローバル化とりわけ金 融市場の自由化、IT 技術進展による金融取引の容易化などを要因とする 1993年以降の大規模会社の破綻であった 。
この議論を受けて、1998年には「企業領域にける統制および透明化のため の 法 律」(Gesetz zur Kontrolle und Transparenz im Unternehmensbereich
(KonTraG)「コントラック」;いわゆる「コントラ法」)が制定された。この1998年 コントラ法によって株式法が改正された。株式法では、監査役会に関する改 正が行われたほか様々なディスクロージャーや監査に関する改正が行われ た 。
コントラ法による改正後も二層制を基本に据えているが、改正後のドイツ 株式法における監査役会制度は、大要以下のとおりである。
株主総会が監査役を選任し、監査役は監査役会を組織する(ドイツ株式法 101条)。監査役会は取締役を選任し、取締役は会社の経営を執行し会社を代 87
表する(ドイツ株式法77条、78条、84条)。取締役は1名以上で、300万ドイツマ ルク超の会社では原則として2名以上である(ドイツ株式法76条)。ただ、取締 役会制度は法定されておらず、複数の取締役が存在する場合には共同代表・
共同業務執行が原則となっている。
したがって取締役が経営執行機関であり(ドイツ株式法第76条1項)、監査役 会が経営監視機関である(ドイツ株式法第111条1項)。取締役の機能にはその経 営執行の一部として管理・監督の機能が内包されることを前提に、取締役の こうした管理・監督を含む経営執行全体を監視するのが監査役会といった整 理になろう。そして、特定の種類の行為は監査役会の同意によってのみ行わ れることを定めることができるほどの(ドイツ株式法111条4項)強力な権限を もつ。
なお、監査役会が取締役の上位機関だからといって、業務執行は取締役か ら監査役会に移譲することはできず、取締役・支配人等と監査役の兼任は禁 止されるから(ドイツ株式法105条1項)、経営執行機能と経営監視機能が完全 に分離した二層制になっている。ただ株式法上、二層制といっても経営執行 機関には株式法上ボードシステムが採用されていないので、この意味では実 質的に一層制と変わらないという見方もできるかもしれない。
経営監視機関メンバーの兼職は、先進各国で問題となった事項であるが、
ドイツの監査役の職は10を超えて兼職できず、その数の算定にあたり監査役 会会長職は2社と計算される(ドイツ株式法第100条2項)。株主総会の招集に際 しては監査役の氏名・職業・居住市町村も記載され(ドイツ株式法124条3項)、 上場会社が監査役選任案を株主に提供する場合には、外国会社を含めた兼職 状況を記載すべきものとされる(ドイツ株式法125条1項)。
取締役による監査役会への報告(少なくても年に一回)内容は、改正の際
「意図した営業政策よび将来の業務執行その他の原則的問題」から「意図し た営業政策および企業計画その他原則的問題(特に金融計画、投資計画および人 員計画)」(ドイツ株式法90条1項)に改められた。監査役会は、事後監査を行う だけでなく、予防的に、計画された行為も事前に監査しなければならないと 明文化したものである(序章2参照)。
監査役会は、具体的な監査役会の準備や決議事項実施のため、一人または 88
数人の監査役からなる委員会を置くことができる。つまり監査役会の内部に 委員会を設置することが認められている(ドイツ株式法107条3項)。この委員 会は、監査役会の委任にもとづき、監査役会の職務の執行を行うことができ る。ただし、監査役会の議長の選任、取締役の選任・解任、取締役議長の指 名、総会の招集等、一定の重要な事項については、その決定を委員会に委ね ることはできない(同項)。
何よりもガバナンスの見地から重要な点は、前述のとおり監査役会が個々 の取締役員に対する選任・解任などの人事を掌握していることであろう(ド イツ株式法84条)。
以上を要すればドイツの会社機関構造は図表Ⅳ―2のようになろう。
なお、ドイツの2002年以降のガバナンス論は、ドイツ司法省の政府委員会 が2002年に公表した「コーポレートガバナンス倫理指針」(Der Deutsche Cor- porate Governance Kodex いわゆる「コーポレートガバナンスコード」)を中心とした 論議にシフトしてきた 。取締役会は株式法上の制度としてはないが、同指 針では、「取締役会は、複数の者から構成され一人の会長を任ずるべきであ る。取締役会職務規程により、取締役会内部の職務分担ならびに協働関係が 規定されるべきである」としている(同指針4―2―1)。取締役会が法定のも のとなれば、(監査役会内部の委員会の存在があるだけに概念的には混乱するが)、二 層制がより明確なものになるように思われる。
同指針には、監査役会の関係でも注目すべきものがあるのでその一部を紹 介しておこう。
・監査役会の業務課題は、企業経営にあたって取締役会に定期的に助言を
図表Ⅳ―2
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与え、取締役会を監視することである。監査役会は企業グループにとっ て重要な意義を有する意思決定に関与しなければならない(同指針5―1
―1)。
・監査役会は取締役を任命・解任する。監査役会は取締役会と共同して長 期的な後継者プランを策定すべきである(同指針5―1―2)。
・監査役会は企業グループの特殊事情、監査役数を考慮しつつ、専門知識 を備えたメンバーから構成される委員会を設けるべきである。委員会は 監査役会業務の効率化・複雑な問題の処理に資するものである。委員長 は監査役会に対し定期的にその業務内容を報告する(同指針5―3―1)。
・監査役の任命のための選挙提案において、監査役は適正な業務遂行に必 要とされる能力・専門的経験を有し、独立性が十分確保されている人物 であることに留意すべきである。そして、企業グループの業務活動の国 際性、潜在的利益相反、設定されるべき年齢制限が考慮されるべきであ る(同指針5―4―1)。
(3)フランスにおけるガバナンス論と経営監視機関の構造
フランス商法は成文法として欧州で最も歴史が古く、その起源は1673年の 陸上商事王令までさかのぼる。1867年に株式会社の組織が法定された際は既 に、株主総会が「取締役(administrateur)」と「監査役(commissaire)」を選 任するものと定めていた。
監査役に関しては、1935年の改正によって、公開会社の監査役については 一定の職業的資格を要求されてお り、1966年 の 改 正 の 際 に は、「監 査 役
(commissaire)」の名称は「会計監査役(commissaire aux comptes)」に改めら れている。その職務内容は会計監査に限らず業務監査にまで踏み込んだ内容 となっている 。会計監査役は、株式会社のみならずすべての物的会社およ び一部の人的会社で強制される(連結計算書類作成会社は複数制)。会計監査役 は、業務監査面にもかなり踏み込んではいるものの、外部性が強く意識され ているから、およそ日本の会計監査人に相当するものと考えてよいであろ う。訳語では「役」とされていることで会社内部の経営監視機関であるよう に理解されがちであるが、一方で1966年会社法以降は二層制の経営監視機関
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として監査役会(conseil de surveillance)が法定されており、この構成員(監 査役会のメンバーなので訳語としては監査役になるであろう)とは異なる。
フランスの会社機関とりわけ経営監視機関に関する大きな会社法改正は、
1966年および2001年の改正といえよう。2001年改正では、本節の扱う時代の コーポレートガバナンス論が反映されているので、本節では同改正による経 営監視機関を中心に取り上げる。
フランスの会社機関構造で最も特徴的なのは、1966年の改正で導入された 一層制と二層制の選択制であろう。1966年会社法における一層制は取締役会
(conseil dʼadministration)が経営執行機関である。二層制はドイツの組織にな らったものであるが、執行役会(directoire)および監査役会からなる組織で ある。株式会社はその定款において、この二層制の組織によることを定める ことができるものされた(1966年フランス会社法118条)。
フランスの1990年代のコーポレートガバナンス論では、一層制と二層制そ れぞれの制度的長短、運用レベルの問題点などが焦点となっていた。フラン スでは1990年代半ばより旺盛な資金需要の要請がアメリカを中心とした機関 投資家を呼び込み、その影響が強くなってきたことが、コーポレートガバナ ンスの議論を支える背景となっていたからである。折しも1992年にはイギリ スのキャドベリー報告書が公表されており、1994年の米国機関投資家である 年金基金カルパースがフランス市場に進出したことから、ガバナンス議論が 展開されていった。
以降のフランスにおけるガバナンス議論は、企業組織・企業運営上の問題 と、企業情報開示の2面から進められ、1999年までに民間企業経済団体によ るヴィエノ報告書Ⅰ(1995年)、ヴィエノ報告書Ⅱ(1999年)、あるいは政府機 関によるマリーニ報告書(1996年)、という3つの報告書がまとめられてい る 。
中でもマリーニ報告書は、会社法の現代化をテーマとするものであるが、
その提案のうち会社機関に関する主要点だけ次に紹介しておこう。
・よりよい会社運営の確保を目的として、会社の業務執行方法を改善する こと。
・会社機関の責任・権限のバランスをよりよくするため、株主や会計監査 91
役による経営監視を改善すべく、まず株主の役割について再評価し、次 に、会計監査役の役割を明確にし、その独立性を確保すること。同時 に、罰則を厳格にすること。
・取締役会の内部に設置する委員会に、一定の権限を委譲できるものとす る定款条項を認めるべきこと。経営執行者について、任意選択で取締役 会会長の職務と経営全般指揮者(directeur general)の職務を分離するこ とを認めること。
以上のガバナンス論議を経て、2001年5月に新経済制御法が制定され、同 法によって会社法が改正された 。この改正では、以下にみるように、取締 役会会長職と経営全般指揮者職との分離、取締役の報酬の個別開示などもあ るが、特筆すべきは、二層制を残しながらも、一層制の中において従来型の 執行と監督・監視一体型の組織に加え、さらに執行機能と監督・監視機能を 分離させる組織も認められたたことであろう。したがって、一層制度の中で さらに選択できることになるので、この意味では、フランスの会社機関構造 は三つのパターンになるといってもよいかもしれない。ともあれ、一層制と 二層制とに分けて2001年以降の会社機関構造を図示すると図表Ⅳ―3のよう になろう。
2001年改正において会社機関については以下のような改正が行われてい る。
まず一層制であるが、ヴィエノ報告書ⅠおよびⅡの議論を経て、前述のと
図表Ⅳ―3 92
おり一層制の組織のなかでも経営執行と監督・監視機能を分離する選択肢を 新たに定めている。一層制の組織においては、業務執行(業 務 全 般 の 指 揮 direction generale)を取締役会の会長に委ねるか、それとも、会長とは別の執 行委員に委ねるかは、定款が定める条件に従って取締役会が選択するものと されている。その方式が選択される場合には、取締役会は会長とは別に
《directeur general(執行役員)》を選任することになる。そこで、まさに CEOに相当する企業トップであるこの《directeur general(執行役員)》と区 別するために、従来補佐の「執行役員(directeur delegue)」の名称は《dir- ecteur general delegue(担当執行役員)》に改められている 。
一層制の会社機関では、取締役会会長が1名で、取締役会において選任・
解任される。取締役会会長は執行役員を兼務できる。取締役会会長は取締役 会を代表する。取締役会の組織および指揮を担当し、結果等については株主 総会に報告する。会社経営の健全な運営を視点に監視する。ボードである取 締役会は、会社の事業方針を決定し、その実施状況を監視する。取締役会 は、株主総会権限事項以外で会社の目的内の健全な運営に関するすべての負 託を受け、審議決定する。ボードメンバーたる取締役は、3名以上18名以下 で、株主総会で選任・解任される。執行役員は1名で、取締役会において選 任・解任される。執行役員は株主総会権限事項以外で会社の目的範囲内のあ らゆる事項につき最も広範な権限を有する。担当執行役員は、1名以上5名 以下で、執行役員の提案に基づいて取締役会によって選任・解任される。担 当執行役員は執行役員の補佐を任務とする。
次に、二層制の会社機関では、1966年法から監査役会が執行役会構成員を 選任するものとされていたが、その解任は執行役会構成員の地位を安定させ るために、監査役会の提案にもとづいて株主総会が決定するものとされてい た。そのために、監査役会と執行役会の意見が対立すると、実際には組織が 機能しなくなるおそれがあると指摘されていた。そこで、2001年改正では、
一方で、執行役会構成員の解任は株主総会で決議できるものとして、その場 合には、もはや監査役会による提案は必要ないものとした。さらに、他方 で、定款にそれを認める条項がある場合には、監査役会が執行役会構成員を 解任できるものとされた 。
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二層制における監査役会の構成員は3名以上18名以下で、株主総会におい て選任・解任される。監査役会は執行役会による経営執行について常時監視 する役割をもつ。執行役会は2名以上5名以下で、前述のとおり構成員は株 主総会で選任・解任されるが、定款の定めにより監査役会が執行役会構成員 を解任できる。執行役会は、株主総会権限事項以外で会社の目的範囲内のあ らゆる権限を与えられ、行使できる。執行役会の代表権は執行役会会長が有 する。定款の定めにより、監査役会は、執行役会会長のほか、1名または数 名の執行役会構成員に代表権を付与することができる。
また、2001年改正では、兼務数の制限も厳格になった。一層制における取 締役は5社以下、執行役員は兼任ができない。二層制の監査役会構成員は5 社以下、取締役は兼任ができない。
3 監査役の独立性を高めた平成13年第三次改正
(1)監査実務上の隘路と立法
平成5年(1993年)商法改正前後からのわが国のコーポレートガバナンス 論議は、企業を取り巻く経営環境が混迷している中で行われている。経済の グローバル化、IT 技術などが進展する一方、失われた十年(とくに1990年代 前半)といわれる経済のバブル期を迎えた。したがって、コーポレートガバ ナンス論も規制緩和の動きの中で行われているところが特徴であろう。ま た、当時の規制緩和の流れの中で、ガバナンスにおいても、法令による規制 は最低限の規制に止め、実務のあり方については取引所や民間団体のガイド ラインに委ねようとするベストプラクティス方式の考え方が有力に主張され た。当時の英米におけるガバナンス論の流れを汲むものといえよう。
当時の監査役監査はどのような実態であっただろうか。平成8年(1996年)
に、日本監査役協会が平成5年改正商法以降の監査役監査の実態を調査して いる 。回答会社数が2,624社という大規模な調査であったが、この調査結 果によれば、組織的監査体制が着実に進展し、行動する監査役の姿が見て取 れる。監査役会を四半期に1回以上開催している会社は9割近くになり、そ の付議事項も実質的なものとなり、総じて形骸化は見られない。監査計画に
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も実質が反映されており、監査業務の分担、重点監査事項などの絞込み、ま た内部統制に対しても積極的な取り組みをみせるなど充実してきている。ま た、内部監査部門や会計監査人との連係も若干向上しており、実務が前向き に動いている様子が伺える。反面、非常勤の社外監査役に兼務数が多いこ と、監査役補助者の数の減少、取締役の監査役に対する報告制度の不備など のマイナス面も見られる。
平成8年以後も、監査役監査の実務は上場会社を中心に着実に進展してい ったが、いくつかの障害もあった。運用上の課題として監査品質の向上、社 外監査役の活性化、会計監査人との一層の連係強化などもあったが、他方、
法制面でも手当てすべき事項があるものと監査役実務からは次の3点が強く 主張されていた 。
・取締役からの直接的かつ定例的な報告制度を義務付けること。当時の商 法274条ノ2の「会社に著しい損害を及ぼす虞のある事実を発見した場 合の報告義務」や同法260条ノ3第3項の「取締役の取締役会に対する 報告」によって情報入手することはできるが、直接的かつ定期的に報告 させることで個別の情報も入手しやすく、取締役に緊張感を与える結果 になるからである。
・監査役に対し、常務会など経営会議への出席を義務付けること。可能な 限り重要な会議に出席することが監査役監査の実効性を上げることにつ ながる。とくに経営会議での情報入手は欠かせない。
・監査役会に監査役候補者の選任同意権を付与すること。ガバナンスの視 点から、監査する者の独立性を担保しようとする議論がなされており、
この機会に法定すべきであるとされた。
一方、規制緩和の反射効果として、会社経営がやりにくくなってきたこと も深刻であった。平成6年(1994年)にも商法改正があり株主代表訴訟制度 をしやすくしたため、上場会社では株主代表訴訟の事例が増えてきており、
平成7年(1995年)には174件もの事例があった。中には多額な訴額にのぼる 事例もあり、このような状況では取締役等のなり手がいなくなるのではない かと懸念された。これが、取締役の会社に対する責任軽減の議論や株主代表 訴訟制度合理化の議論につながっていく。平成13年第三次商法改正では、ガ 95
バナンスの視点も踏まえ、この双方に監査役が関与していくことになる。
(2)平成13年第三次改正による監査役制度の拡充
コーポレートガバナンス論が国際的に展開していく一方、わが国も上記の ように熱心な議論が展開された。このような状況下、与党国会議員もガバナ ンス論に大きな関心を寄せ、経済界との議論を重ねていった結果、与党三党 の議員立法方式による平成13年第三次商法改正に至った。この改正は「企業 統治に関する商法等の改正」と呼ばれている。なお、平成13年(2001年)に は3本の商法改正が行われたが、他の2本は法制審議会の議論を経由したも のであり、第一次は金庫株解禁等を内容としたもの、第二次は株式制度、会 社関係書類の電子化等を内容とした改正である。また、平成13年は同時に、
法務省民事局参事官室による商法の抜本改正の中間試案として会社機構全体 の選択制も提案されていた(次節で取り上げる)。
さて、平成13年第三次商法は、①監査役機能の強化、②取締役等の会社に 対する責任軽減、③株主代表訴訟制度の合理化、という三つの柱で構成され ている。なお、②と③においても監査役として関与する条項が設けられてい る。取締役による企業活動が自由闊達にできることを保障する一方、ガバナ ンスの見地から、取締役の活動が逸脱することのないよう、監査役監査の役 割に期待が高まったことによる改正といえよう。
とりわけ、上記①では、監査役任期の伸長、監査役選任議案に対する同意 権・提案請求権、任期中の辞任(いわゆる取締役からの肩たたき)に対する牽制 措置、社外監査役体制の強化、取締役会での出席義務・意見陳述義務など、
監査役の地位保全や独立性に関わる核心的な部分(換言すれば弱かった部分)に ついて以下のような改正が行われた。なお、監査役選任議案に対する同意 権・提案請求権ならびに社外監査役体制については、商法特例法上の大会社 に関する改正となった。
まず、平成13年第三次改正商法273条では、監査役の任期を4年とした。
これまでの3年から4年と伸長することで、その地位を安定化させ独立性を 高めようとしたものである。また、監査業務が複雑化してきたことで監査の 実効性を高めるには相応の期間も必要とされていたが、任期を伸長すること
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でこの問題にも対応しようとした。
同法260条ノ3では、監査役は取締役会に出席することを要し、必要と認 めるときは意見を述べることを要するものとされた。以前の条文では、出席 して意見を述べることができるとされていたものの⎜解釈上はこのような義 務規定と解されていたが⎜明文で義務を強調したものである。
同法266条は取締役の会社に対する責任を軽減する規定であるが、その7 項で、責任免除に関する議案を株主総会に提出するには、監査役の同意を得 ることを要するものとされた。定款規定によって取締役会の決議に委ねられ る場合も、同条13項で監査役の同意が必要とされた。
同法275条ノ3ノ2では、その3項で、株主総会において監査役の辞任に ついて意見を述べることができるものとした(同項による275条ノ3の準用)。い わゆる肩たたきに備えた条項である。監査役が任期の途中で辞任する場合 は、自らの意思によるのではなく、代表取締役による間接的な勧告によるも のが多くを占めていたことを牽制する措置として機能するものである。
同法268条8項では、代表訴訟で取締役を補助するために会社が訴訟参加
(いわゆる補助参加)する場合、監査役の同意を得るものとされた(266条9項の 準用)。これもガバナンスの視点から重要なもので、取締役は監査役を無視 しえないという効果も持つ。監査役としても、最終的に判断が求められる以 上、専門家の意見も徴するなど厳正な対応が必要となる。この同意権は、取 締役の会社に対する責任軽減とともに、規制緩和の対極的位置づけともいえ よう。
平成13年第三次改正商法特例法18条1項では、大会社にあっては、監査役 は3人以上で、そのうち半数以上は、その就任前に会社またはその子会社の 取締役または支配人その他の使用人となったことがない者でなければならな いとされた。社外監査役は半数以上とされ、また、平成5年時のいわゆる5 年ルールは撤廃された。当時のガバナンス論の影響を直接受けた箇所といえ よう。
同法18条3項では、監査役の選任議案を株主総会に提出するには、監査役 会の同意が必要であり、また、監査役会の決議によって監査役選任議案を株 主総会の会議目的とするよう取締役に請求することができるものとした(3 97
条2項・3項の準用)。本件こそ実務界が最も要望していたものであり、監査役 の意識に貢献した部分も多かったものと思われる。
4 経営監視機関の選択制を認めた平成14年改正
(1)国際化への対応としての商法改正
前節で見た平成13年(2001年)改正の翌年の平成14年(2002年)に再び商法 改正が行われた。前者は議員立法によるものであったが、後者は法制審議会 の議論を経た政府提案によるものである。2000年初頭にはグローバル経済が 一段と進展し、バブル経済崩壊後の復興がなかなか進まない中でも国際的な 競争力が求められることは必至の情勢であった。同時に、資本市場も IT 技 術の発展とともに国際的な展開を増し、海外投資家によるわが国への投資や 子会社設立なども一段と増してきた。いわば、このような国際化の下では企 業の機動的な意思決定が求められるため規制緩和も必要になってくる。一方 において、規制緩和ばかりでなく、国際資本が安心して投資できるための、
あるいはわが国企業が国際場裏で活躍できるためのコーポレートガバナンス やディスクロージャーも拡充しなくてはならなかった。
平成14年の改正作業は平成12年から法制審議会によって始められてい る 。上記の背景から、当初からコーポレートガバナンスの実効性の確保、
高度情報化社会への対応、資金調達手段の改善、企業活動の国際化への対応 などを柱として審議されてきた。平成13年4月には、法制審議会による法律 案要綱の中間試案が公表され各界の意見照会が行われた。ちょうど期を同じ くして、与党議員による平成13年改正作業も進行していたことになる。その 後改正作業は、改正要綱、法案と経過していき、平成14年5月に成立をみ た。
平成14年改正は、会社機関、株式、計算と多岐にわたるほぼ全面改正とい えるものである。後述するように、この改正は平成12年(2000年)の証券取 引法の改正すなわち会計ビッグバンによる影響が大である。監査役も実質的 に資本市場を背景とした監査の概念を受け、実際に踏み込むべき使命が形成 されたのである。
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一方、監査制度全体の注目すべき改正として、経営監視機関の選択制の採 用が挙げられるであろう。大会社の経営監視機関は、監査役制度と監査委員 会との選択が可能になった。
次款では、監査役監査に相当する監査委員会など、ガバナンスに関連する ものを取り上げておこう。
(2)経営監視機関に選択制を導入
平成14年改正商法特例法1条の2第3項によって、「大会社」または「み なし大会社(現行会社法上はなくなった)」であれば、定款の定めによって委員 会等設置会社(現行会社法上、「等」は削除されている)となることが可能となっ た。つまり、対象会社は限定されているものの、定款次第で委員会等設置会 社への移行が可能となったのである。同条は定義規定であり、実体的規定は 同法21条の5以下に置かれることになった。
同法21条の5によれば、委員会等設置会社では、指名委員会・監査委員 会・報酬委員会の三委員会、それに執行役を置かなければならいとされ、こ れが委員会等設置会社の基本である。この場合においては監査役を置いては ならない(同条2項)ので、取締役・取締役会が残ることになる。そうする と、委員会構成員は取締役の中から選ばれることになるので、委員会は取締 役会の内部委員会と位置づけできる。なお、委員会の構成員は過半数が社外 取締役でなければならない(同法21条の8第4項)とされたが、取締役会その ものについては、社外要件は課せられなかった。適材の不足と取締役会から の業務執行の大幅委譲の観点から見送られたようである 。
三委員会はすべてガバナンスに関する委員会であるが、監査役監査に近い 業務を受け持つのは監査委員会である。同法21条の8第2項では、監査委員 会は商法特例法に定めるもののほか、取締役および執行役の職務の執行の監 査(同項1号)、株主総会に提出する会計監査人の選任・解任ならびに再任し ないことに関する議案の内容の決定(同項2号)が、その権限とされている。
同項1号は、まさに監査役監査の基本となる条項(平成14年商法274条)に相当 する。同法21条の10では、各種の調査権や指止請求権など監査委員会に対し 監査役とほぼ同様の権限を与えている。したがって、監査委員会は監査役監
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査とほぼ同様の機関ということができる。
ところで、「監査委員会は取締役会が決めた内部統制システムが適正に運 用され機能しているかどうかをチエックするものであり、独任制の監査役が 会計帳簿等の書類をめくって自分の足で監査するという体制ではなく、監査 委員会の形であれば常勤制は必要ない。常勤についてはむしろスタッフを充 実させ、また内部統制で充実させることで賄うもの」と、この時点では考え られていたようである 。だが当時、監査役の監査も、少なくとも昭和49 年以降における大規模会社においては、内部統制システムの有効性そのもの に対する監査が実施されていたのであり、その有効性を前提にして(会計監 査人や内部監査との連係も取りながら)、もし不足分があれば自らその部分につい て監査を実施していた。すべてが監査役自身の日常的活動によるものばかり ではなかったのである。しかしながら、常勤で直接監査することの意義は大 きいものと思われる(終章で触れる)。なお、当事の議論のように、常勤で直 接監査する主体者としてこれを補助者で手当てすることもでき、あるいは内 部統制の研究によってはもっと合理的な手法が発案されるかもしれない。こ れらの議論はさらに今後も継続されるべきであろう。
なお、平成14年商法特例法では、重要財産委員会も創設された(1条の 4)。同委員会は上記三委員会とは性格が異なり、ガバナンスの視点という よりもむしろ規制緩和の色合いが濃いが、重要財産委員会を設置した会社で は取締役会の決議事項の一部について決定する権限を持たせた。いわば常務 会など経営会議に相当するものを法制化したものである。平成14年改正商法 特例法1条の3第1項では、大会社ないし「みなし大会社」で、取締役の人 数が10人以上でかつ内1人以上は社外取締役である会社は、重要財産委員会 を設置できるものとした。重要財産委員会は3人以上で組織するものとされ
(同条2項)、同条3項では取締役会付議事項のうち重要な財産の処分・譲受、
多額の借財などについては重要財産委員会に委任することができるものとし た。
(3)成り立たなくなった証券取引法と商法の峻別論
監査役監査にとって弱かった部分を補強する改正は、前述のとおり平成13 100
年改正で拡充されているので、大幅な変化はないが、連結計算書類の作成が 導入されたことにより、監査役も会計監査人とともに連結計算書類に対する 監査を行わなければならなくなった(平成14年改正商法特例法19条の2第3項)こ とが注目される。この改正部分は、証券取引法上の会計規制が平成12年
(2000年)の会計ビッグバンによって大幅に国際基準に近づいたことを受けて の改正であり、まさに商法の会計規制に証券取引法の概念が入ってきたこと になる。したがって、この時点においてすでに証券取引法と商法との峻別論 は成り立たなくなっていたものということができよう。
同様に、商法上、連結計算書類監査のための子会社に対する調査権も規定 された(同法19条の3)。当時の商法上の連結計算書類はまだ連結貸借対照表 と連結損益計算書だけであったが、少なくとも監査役監査でもこれら書類の 監査が始まったことになる。いよいよ監査役監査も証券取引法による資本市 場を背景とした、企業グループに対する監査の時代に突入したことを物語る であろう。
[注]
(1) この時代のガバナンス論の推移については、佐藤敏昭「社外監査役の役割と監査役 制度の課題⎜⎜アメリカにおける監査委員会、社外取締役の議論を踏まえて」長濱洋 一教授還暦記念論文集『現代英米会社法の諸相』成文堂(1996年)283〜286頁参照。
(2) 監査委員会規程の内容については、佐藤敏昭「監査役会監査報告書の開示機能」酒 巻俊雄先生古稀記念『21世紀の企業法制』商事法務(2003年)416頁〜421頁参照。
(3) 1998年までのドイツ監査役会とガバナンスの関係を論じたものとして、正井章筰
「ドイツにおけるコーポレート・ガバナンス」ジュリスト1050号(1994年)69頁以下 参照。
(4) 泉田栄一「ドイツにおける企業会計法の進展とコーポレートガバナンス」明治大学 法律研究所・法律論叢76巻6号(2004年)20頁。
(5) 泉田・前掲(注4)21頁以下に詳しい。このほか、ディスクロージャーや監査に関 する改正が幅広く行われている。
(6) 同指針の邦訳がある。池田良一「『ドイツのコーポレートガバナンス倫理指針』の 全文和訳と内容解説」監査役461号(2002年)62頁以下参照。なお、ドイツでは2005 年、2006年に商法・株式法の改正が行われているが、これらの改正については、池田 良一「ドイツのコーポレートガバナンス改革における会社法の継続的改正⎜⎜2005 年、06年におけるドイツ商法・株式法の改正・施行を中心に」監査役512号(2006年)
54頁以下参照。
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(7) その名称のとおり、フランスの会計監査役は会計面に力点を置いたものであるが、
業務面の監査にも踏み込んでいる。会計監査役の業務内容の詳細は、蟹江章「フラン スにおける情報監査と実態監査」北海道大学・経済学研究49巻4号(2000年)46頁以 下に詳しい。
(8) その詳細については、日本監査役協会訪仏団「フランス企業のコーポレートガバナ ンス」監査役451号(2001年)17頁以下参照。なお、筆者もこの訪仏団に参加するこ とができたので、本節はここでの知見も含め記している。
(9) 2001年のフランス会社法改正とガバナンスの関係および制度改正の詳細について は、鳥山恭一「コーポレート・ガヴァナンスとフランス会社法(上)」監査役459号
(2002年)13頁以下、鳥山恭一「コ ー ポ レ ー ト・ガ ヴ ァ ナ ン ス と フ ラ ン ス 会 社 法
(下)」監査役460号(2002年)69頁以下参照。
(10) 鳥山・前掲(注9)の第一論稿18頁。
(11) 鳥山・前掲(注9)の第一論稿19頁。
(12) 詳細は佐藤敏昭「平成8年の監査役監査の実態」商事法務1430号(1996年)23頁以 下参照。
(13) 佐藤敏昭「監査役制度を補強する立法と実務の実効性」ニューファイナンス31巻5 号(2001年)6頁以下参照。
(14) 改正審議の経過については、始関正光編著『平成14年商法改正』商事法務(2003 年)6〜8頁参照。
(15) 前掲・始関(注14)70頁参照。
(16) 久保利英明ほか『平成14年商法改正のすべて』商事法務(2003年)94頁参照。
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