はじめに
本発表では,ビデオで収録された会話,手遊びなどといっ た人々の相互行為(interaction)を対象とした定性的研究 について紹介を行った.相互行為を対象とした定性的研究 の中でも,以下本発表で紹介した分析・研究は,ビデオを 繰り返し観察し,人々の振る舞い(発話や身体動作など)
を記述し,そして人々の振る舞いの連なりに着目したもの である(牧野・坂井田・坊農,印刷中).事例1は,日本科 学未来館において職員(科学コミュニケーター(以下SC))
が2名の来館者(以下V1,V2)に展示物「すばる望遠鏡」
について解説を行っている場面である(図1).この事例の 中でSCは展示物を「見えますか?」と質問し(13行目),
それに対して来館者たちは同時に一歩に移動していた.そ して展示物解説を進めながら「こちらの方からご覧くださ い」と移動を促し(18行目),来館者たちはV1,V2の順番 に移動していた.このようにSCの発話に対して来館者たち は移動という振る舞いを連ねることで,展示物解説という 活動を展開させている.また同時に来館者たちの移動は一 度は狭い範囲への移動であるため同時に移動し,二度目の 移動では広い空間への移動のため順々に移動していた.こ のとき彼女らの従事する活動は,SCが解説役であり来館者 が聴き手であった.そして,このことは彼女ら自身たちの
立ち位置によって示されており,事例内の移動は,来館者 が横並びの立ち位置を維持するやり方でなされていた(牧 野ら,2015).以上のように我々の日常的な相互行為におけ る人々の振る舞いは,周囲の環境や従事する活動と結びつ きながら調整されている(Goodwin,2013).
多様な人々の多様な相互行為の分析
我々の日常的な相互行為は自身とは異なる“多様な”人々 との間でなされている.事例2は,事例1と同じく未来館に おける展示物解説活動場面である.この事例の参与者たち は兄弟とその保護者の来館者とSCであった.子供の兄弟 と,大人のSCと保護者の身長には差があった.この身長差 に対して,SC(大人)が兄(子供)に対して質問を行うと き,中腰となり自身より背の低い子供の視線に合わせてい た.このような互いの違いに基づくやり方によって,SCは 質問の宛先を明確としていた(01行目).そして,SCの質 問に対する応答を兄に促す保護者は,自身の発話を引用の 形式で産出しつつ,中腰となることをしていなかった(05 行目).この振る舞いによって,保護者は現在の会話活動が SCと兄の間を主として行われているものであることを理 解し,自身は一方引いた位置から会話に参加していること を示しているといえる.
話題提供者:牧野 遼作
演 題:多様な人々,多様な相互行為の定性的研究 開 催 日 時:2019 年7月 10 日,18:00 ~ 19:00 開 催 場 所:100 号館第1会議室
第
43
回
図1.事例1(牧野ら,2015及び牧野ら,印刷中より一部抜粋)1
1図は人々の発話内容や身体動作について書き起こしがなされている.詳細については牧野・坂井田・坊農(印刷中)を参照されたい.
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人間科学研究 Vol.32, No.2(2019)
「人間科学研究交流会」報告
以上のように,我々は自身とは異なる“多様な”人々の 間の相互行為において,活動・環境だけではなく,互いの 違いを利用,理解した上で自身の振る舞いを調整し,その 時その場の相互行為を展開していると考えられる.
議論
実際の人々の相互行為場面で観察し,その中の人々の振 る舞いの連なりに着目することで,日常生活で人々が用い る「社会規範」を再記述することや(Psathas,1995),人々 の相互行為の基盤となる体系的構造(Kendon,1990)を見 出すことができる.このような「相互行為分析」に対して,
「日常的相互行為は(研究者及び参与者にとって)観察可能 な振る舞いだけによって構成されているのか」と,質問を 受けた.この疑問は,諸個人の文化差,発達段階,心理的 特性といったその場その時の相互行為の外側(=観察可能 ではない)ものをどのように扱うべきかという問題に関わ るものである.本発表者は,このような外側にあるものの 中で,相互行為の参与者間の身体的な“違い”を取り込む ことを課題としている.つまり,子供と大人の間で生じる 身長差といったような,目に見える“違い”に着目するこ とで,その違いが,どのようにその場その時の相互行為に 制約を与えつつ,その “互いの違い”を調整しながら,そ の場その時の相互行為を組み立てているのかを検討するこ とは可能であると言える.このような分析を進めていくこ とで,我々の日常生活がいかに展開されているかについて
の新たな理解を得ることができる.また同時に,このよう な身体以外の相互行為の外側にあるものを,いかに組み込 むことができるのかという問いに対する示唆を与えること ができると考えている.
参考文献
Goodwin, C.(2013).The co-operative, transformative organization of human action and knowledge. Journal of Pragmatics, 46(1),8-23.(北村隆憲(監訳)・須永将 史・城綾実・牧野遼作(訳)(2017):人間の知と行為の根 本秩序:その協働的・変容的特性,人文学報,513(1),35- 86.
Kendon, A.(1990). Conducting Interaction: Patterns of Behavior in Focused Encounters, Cambridge University Press.
牧野遼作・古山宣洋・坊農真弓(2015).フィールドにおけ る語り分析のための身体の空間陣形:科学コミュニケー ターの展示物解説行動における立ち位置の分析,認知科学,
22(1),53-68.
牧野遼作・坂井田瑠衣・坊農真弓(2019).社会的インタラ クションの定性的研究: 振る舞いの連なりに対する相互行 為分析,バイオメカニズム学会誌,43(3),188-194.
Psathas, G(1995).Conversation Analysis: The Study of Talk-in-interaction, SAGE publications.(北澤裕・
小松栄一(訳)(1998).会話分析の手法.マルジュ社).
図2.事例2(牧野ら,2018より一部抜粋・改変)
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人間科学研究 Vol.32, No.2(2019)
「人間科学研究交流会」報告