1.脱細胞化組織とは
脱細胞化生体組織および脱細胞化臓器(以下, 脱細胞化組織と表記)は,ヒトあるいは異種動物 の生体組織・臓器から細胞成分を除去して得られ る比較的新しいマトリックスであり,移植用およ び再生医療用の足場材料および創傷治癒促進材料 として注目されている.生体組織の細胞以外の成 分,細胞外マトリクス(Extracellular Matrices:ECM) は,構造・組成ともに生物種間で保存され,ほと んどの生物間で免疫拒絶を惹起しないことが明ら かになっている1).また,ECM が細胞の分化に関 係していることが広く知られ,特定組織の ECM 上で培養した細胞が,その組織の細胞へと分化し ていく報告もされている2).これらの知見から,ECM で構成される脱細胞化組織は,移植後に免疫拒絶 を受けず,レシピエントの細胞による再生が期待 されている. 異種組織を用いた脱細胞化組織は 1980 年代か ら研究が開始され,現在主として米国において開 発・実用化が先行しており,1999 年に米国 Cryo-Life社が脱細胞化ブタ大動脈弁の臨床研究を世界 で初めて開始し,2001 年に製品化した.その後 多くの企業が参入し3∼7),現在では表 1 に示すよ うにヒトあるいはブタやウシなどの同種・異種動総 説
脱細胞化生体組織の現状と将来展望
岸田晶夫
Present status and future prospect of decellularized biological tissues
〔Abstract〕 Decellularized tissues have broad applications as implantable biomaterials and/or biological scaffolds for tissue repair. Decellularized tissue is extracellular matrix (ECM) that can be obtained by several techniques. Decellularized tissue characteristics, such as their shape, structure, mechanical properties, and biological activity, are strongly affected by the decellularization protocol. The orthotropic implantation of decellularized tissues, a common procedure, typically induces cell infiltration and ECM reconstruction resulting in tissues that resemble the source tissues. The ectopic implantation of decellularized tissues results in reconstruction that is either adapted to the implantation site or to the decellularized tissue source. In this review, the differences between those methods are discussed. In this paper, we describe the method of making decellularized living tissue, current situation and future trend.
〔和文要旨〕 近年,脱細胞化組織は組織再生のための移植材料として広く応用されてい る.脱細胞化組織は,生体組織から細胞成分を除去した三次元構造を有する細胞外マトリッ クスであり,種々の脱細胞化技術によって得られる.この調製法の違いが,得られる脱細 胞化組織の形態や構造,力学的特性,生物活性に強く影響している.臨床でも広く試みら れている脱細胞化組織の同所性移植は,細胞が浸潤して ECM を再構築し,最終的に元の 組織を再生させる.一方で,脱細胞化組織を異所性に移植した場合は,移植部位に適した 組織が構築される場合と脱細胞化組織の由来となった組織が異所性に再構築される場合と がある.本稿では,脱細胞化生体組織の作成法,現在の状況および今後の動向について解 説した.
key words : Decellularized tissue, Extracellular Matrices, Regenerative medicine, Tissue engineering (脱細胞化生体組織,細胞外マトリックス,再生医療,組織工学)
Akio Kishida
受付:2017 年 10 月 23 日,受理:2017 年 12 月 24 日
Institute of Biomaterials and Bioengineering, Tokyo Medical and Dental University; 東京医科歯科大学生体材料工学研究所
物由来の種々の脱細胞化組織が製品化され,様々 な用途で使用されている.脱細胞化組織の市場は 2011年に約 1,000 億円と報告されて以降,急速に 成長している.国内においては,2014 年に大阪 大学がドイツで脱細胞化されたヒト心臓弁を初め て臨床研究に用い,また 2015 年には,真皮欠損 表 1 脱細胞化組織製品の例 製品名 企業名 原材料 用途
AlloDerm® LifeCell Corp. ヒト真皮 軟組織補綴
AlloMaxTM Davol Inc. ヒト真皮 軟組織補綴
AlloPatch HDTM Musculoskeletal Transplant
Foundation, Conmed ヒト真皮
ArthroFlex® Arthrex, LifeNet Health Inc. ヒト真皮 軟組織補綴
AxisTM Coloplast ヒト真皮 子宮
CortivaTM RTI Surgical ヒト真皮 軟組織補綴
FlexHD® Structural Musculoskeletal Transplant
Foundation, Ethicon ヒト真皮 軟組織補綴 FlexHD® Pliable Musculoskeletal Transplant
Foundation, Mentor ヒト真皮 乳房 GraftJacket®, GraftJacket®Xpress LifeCell Corp., KCI ヒト真皮 軟組織補綴
MatrixTM HD RTI Surgical ヒト真皮 軟組織補綴
Oracell® LifeNet Health Inc. ヒト真皮 歯科領域
SureDermTM Biowel Sciences ヒト真皮 軟組織補綴
FortivaTM RTI Surgical ブタ真皮 軟組織補綴
MedeorTM Matrix DSM ブタ真皮 軟組織補綴
PermacolTM Surgical Implant Medtronic Inc. ブタ真皮 軟組織補綴
StratticeTM LifeCell Corp. ブタ真皮 軟組織補綴
XenMatrixTM Davol Inc. ブタ真皮 軟組織補綴
Zimmer® Collagen Repair PatchTM Zimmer Inc. ブタ真皮 軟組織補綴
Meso BioMatrixTM DSM ブタ中皮 軟組織補綴
PriMatrix TEI Biosciences, TEI Medical ウシ胎仔真皮 軟組織補綴 SurgiMend® TEI Biosciences ウシ真皮 軟組織補綴
TissueMend® TEI Biosciences, Stryker Corp. ウシ真皮 軟組織,
Suspend® Coloplast ヒト大 筋膜 尿道
MatriStem®, Acell Vet Acell Inc. ブタ膀胱 軟組織補綴
Oasis®, Surgisis® Cook Biotech Inc. ブタ小腸 軟組織補綴
CorMatrix ECMTM Aziyo Biologics ブタ小腸 心膜
IOPatchTM IOP Inc. ヒト心膜 眼科領域
CopiOs® Zimmer Dental Inc. ウシ心膜 歯科領域
Lyoplant® B. Braun Melsungen AG ウシ心膜 硬膜
Perimount® Edwards Lifesciences LLC ウシ心膜 心臓弁
Tutopatch® RTI Surgical ウシ心膜 軟組織補綴
Veritas Baxter ウシ心膜 軟組織補綴 CryoPatch® SG CryoLife Inc. ヒト大動脈 心臓
CryoValve® SG CryoLife Inc. ヒト心臓弁 心臓弁
EpicTM, SJM Biocor®, TrifectaTM St. Jude Medical Inc. ブタ心臓弁 心臓弁
Freestyle®, Hancock® ll, Mosaic® Medtronic Inc. ブタ心臓弁 心臓弁
Chondrofix® Osteochondral Allograft Zimmer Inc. ヒト骨・軟骨 膝関節
AlloWedge®, Biofoot®, Elemax® RTI Surgical ヒト骨 骨
BioAdapt®, map3® RTI Surgical ヒト骨 骨
Acornea® 中國再生醫學 ブタ角膜 眼科領域
优得清生物角膜 优得清(YOUVISION) ブタ角膜 眼科領域 Perigraft®, Corograft®, Babygraft® Labocor ウシ血管 血管外科
用グラフトとしてブタ真皮由来の「OASIS 細胞外 マトリックス(Cook Japan 株式会社)」が保険適用 となったが,国産の脱細胞化製品はなく,世界的 には一歩後れをとっている状況である.
2.脱細胞化組織の調製法
それぞれの組織・臓器を脱細胞化する際の最も 効果的な方法は,その組織の性質に大きく依存し ている.1)肝臓などの細胞が多い臓器なのか, のように細胞が少ない組織なのか(細胞密度),2) 組織自体の密度が高い皮膚のような組織か,密度 の低い脂肪組織のようなものなのか(組織密度), 3)組織に含まれる脂肪の量や,4)組織の構造・厚 さも重要である.理想的な脱細胞化組織調整は, ECMの破壊,損傷,損失なしに細胞成分のみを 組織から取り除くことである.しかし,細胞を除 去するためには,いかなる手法を使用しても,ECM 構成を変化させずに目的を達成することは困難で あり,ある程度の組織破壊を引き起こすのが現実 である.細胞成分の除去効率を最大にしながら, ECMの破壊を最小限に抑えることが現在の脱細 胞化の目的になっている(図 1).脱細胞化方法は, 化学的手法,生物学的手法,物理的手法の 3 つに 大別されている.それぞれに特徴があり,現在の 研究においては,複数の方法を組み合わせて脱細 胞化組織を調製していることがほとんどである. 2.1.化学的手法 化学的手法は,界面活性剤による脱細胞化が もっとも広く検討されており,臨床応用されてい る製品の処理にも頻繁に使用されている.界面活 性剤の細胞膜を可溶化し,DNA をタンパク質か ら分離する性質を利用して脱細胞化組織を調製し ている.しかし,界面活性剤のデメリットとして, ECMを破壊する可能性,組織内に残存する界面 活性剤の毒性などの懸念材料が挙げられる.その 他の化学的手法として,高張液と低張液のような 浸透圧ショックの利用がある.浸透圧ショックに より,細胞膜を破壊し,高張液により DNA をタ ンパク質から分離することで脱細胞化組織を調整 でき,ECM の変性を抑制可能であるが,細胞除 去効率が低いことが問題視されている.アルコー ルにより,組織を脱水することで細胞除去を行う 手法が報告されている.しかし,アルコール洗浄 の最大の利点は,組織からリン脂質,脂肪を除去 することにあり,リパーゼよりも効果的に脂肪を 除去することも報告されている.心臓弁などの脱 細胞化組織に残存するリン脂質は,石灰化を誘引 することが知られており,アルコール洗浄は石灰 化抑制処置として,頻繁に使用されている.問題 点としては,コラーゲンなどのタンパク質がアル コールにより架橋されてしまうことが挙げられ, アルコール洗浄も界面活性剤と同様に,使用する 濃度や種類の検討が必要である.化学的手法は, 溶液に組織を浸漬し洗浄するシンプルな手技であ り,工業化が容易であることからも,現存の製品 の脱細胞化によく利用されている.ほとんどの薬 剤に,ECM 変性の可能性があるため,脱細胞化 組織ごとに溶液の濃度,洗浄方法などの検討が必 要になり,数種類の洗浄の組み合わせが重要に なっている. 図 1 脱細胞化組織調製の概念図2.2.生物学的手法 生物学的手法は,酵素とそれ以外に大別される. 酵素による脱細胞化は,様々な酵素が検討されて きたが,酵素単独での完全なる脱細胞化は困難だ と考えられている.また,ECM 損傷の可能性も 高く,酵素残差により移植後の再細胞化が起きに くくなること,免疫反応惹起が懸念されている. 酵素処理は細胞破壊の目的よりも,化学的手法や 物理学的手法で細胞を破壊した後の細胞残差の除 去など補助的に利用されている.DNase や RNase などの核酸分解酵素は,DNA などの核酸を分解 し,洗浄効率を向上させるために脱細胞化工程に 組み込まれることが多い.トリプシンやコラゲ ナーゼによる脱細胞化は,細胞と ECM を分離さ せることにより細胞を除去しているが,どちらの 酵素もコラーゲンを分解するため,ECM の維持 には不向きであり,最近では,移植後に細胞が浸 潤しやすくなるように,意図的に ECM を変性さ せる目的で使用されている.また,α-ガラクト シダーゼにより,異種組織に含まれる超急性拒絶 の原因である細胞表面抗原,galactose-α-(1,3)- galactose(Gal epitope)を除去する手法が検討され ている.酵素以外の生物学的手法として,キレー ト剤がある.キレート剤はタンパク間の結合を分 解する目的で使用されているが,脱細胞化効率は 低く,酵素処理などと組み合わせて用いられるこ とが主である.また,血清利用の報告もあるが, 血清はリン脂質の除去が行えず,異種血清による 免疫反応惹起の懸念もあり,制限が多い.以上の ように,生物学手法は,組織内の特定因子をター ゲットにすることができるため,細胞破壊後の洗 浄工程において有力であると考えられている. 2.3.物理学的手法 物理学的手法には,温度,電気,圧力などが使 用されている.温度を利用した脱細胞化方法とし て,凍結融解が代表的である.凍結,融解のサイ クルを数回繰り返すことにより,脱細胞化効率を 向上の検討がなされている.電気を利用した手法 は,細胞への遺伝子導入に使用されているエレク トロポレーションがあげられるが,細胞除去のメ カニズムは不明であり,処理可能なサイズが小さ く,基本的には生体内で行う処理なので制限が多 い.我々は液体を圧力媒体として等方圧力を加え る冷間等方圧加圧法を用いた脱細胞化処理方法で ある高静水圧処理法(High hydrostatic pressure;HHP)
法を開発した8).基本的なプロセスとして脱細胞 化と滅菌効果が期待できる 980 MPa(10,000 気圧) の圧力処理を基本操作として行っている.物理学 的手法の一つである,高静水圧処理は,処理時間 が短く,血管や角膜のような組織において,界面 活性剤や酵素と比較して高い脱細胞化効率を示す ことが明らかになっている.しかし,圧力処理に よって,組織内に生じる氷晶が組織構造を破壊す る可能性がある.また,氷晶を生成しない温度条 件での圧力処理は,エントロピーを増大させ,組 織損傷を誘発する可能性がある.物理学的手法の 利点は,薬剤の残存の可能性がないことが挙げら れる.しかし,細胞破壊後に細胞残差を取り除く ためには,先に挙げた酵素などの利用が必要だと 考えられている. 脱細胞化の確認については,組織切片の染色像 や残存 DNA 量で評価されることが多く,S. Badylak らのグループは脱細胞化組織の基準として,組織 中の残存 DNA が 200bp 以下,50ng/mg 以下であ ることを提唱している5). 以上のように,脱細胞化手法は多岐にわたり, 界面活性剤や酵素溶液の濃度,処理時間,物理学 的手法における温度条件や圧力の条件など,検討 すべき因子は無数といえる.さらに,いくつかの 処理を組み合わせること,臓器ごとに最適条件の 検討が必要であり,さらなる研究が必要とされて いる.
3.脱細胞化組織の生体内機能
脱細胞化組織は同所性あるいは異所性で足場材 料として用いられている(表 1).基本的には,移 植部位と同じ組織を脱細胞化し,同所性に移植し て組織再構築を行う(同所性・同系組織再構築). しかし,実際には異所性にも応用されており,例 えば脱細胞化皮膚が腹膜や靭帯として利用されて いる.この場合,最終的には移植部位には移植部 位に適した組織が構築されている(異所性・異系 組織構築).これは,移植部位に存在する細胞が,脱細胞化組織を足がかりとして,移植部位に必要 な組織を構築していると考えられる.我々は脱細 胞化組織を異所性に移植し,異所性に脱細胞化組 織由来の組織を再構築させる試みも行っている (異所性・同系組織再構築)(表 2).異所性におけ る脱細胞化組織由来組織の再構築は,脱細胞化組 織の ECM の損傷が少ないだけでなく,脱細胞化 組織の由来,移植部位など,いくつかの条件が っ た際に達成されると考えられる.これまでの細胞 主体の組織再生に対し,異所性に目的の組織を構 築することは,材料主体の組織再生につながると 考えている. 脱細胞化組織の生体内機能の一例として,ここ では脱細胞化角膜9∼11)を用いた同所性角膜組織再 構築をついて検討した例を以下に示す. 角膜白斑や円錐角膜などの角膜実質疾患に対す る治療法として,角膜の表層より 90%以上を取 り除き,ドナー角膜を移植する深層角膜移植 (DLKP)が行われている.DLKP は患者自身の内 皮細胞を残しており拒絶反応を起こしにくいが, 国内ではドナー角膜が不足しているため,我々は 脱細胞化角膜の移植用角膜実質としての応用を期 待した.これまでの検討の結果,HHP 処理によ り調製された脱細胞化角膜が本来の角膜と同様の 構造や物性を有することが明らかになった.また, ウサギ角膜へのポケット移植により高い組織適合 性を有することを明らかにした.DLKP における 脱細胞化角膜の有用性について評価するため,ウ サギの角膜中央に直径 6mm の深層欠損を作製し, 欠損部位に脱細胞化角膜を移植した.移植直後は 白濁したが,時間経過とともに透明性が回復した (図 2A-E).再上皮化をフルオレセイン染色によ り評価したところ,徐々に上皮化が進行し,移植 6ヶ月間後には完全な再上皮化が示された(図 2F-J). 組織学的評価の結果,血管新生および角膜上皮細 胞のダウングロースは観察されず,拒絶反応は認 められなかった.また,脱細胞化角膜上に角膜上 皮様の構造が観察され,さらに脱細胞化角膜内部 への角膜実質細胞の浸潤も認められた.したがっ て,脱細胞化角膜の移植用角膜実質としての有用 性が示唆された.以上より,脱細胞化組織の同所 性移植にて組織再構築が確認され,組織欠損部な どの足場材料として有用であることが示された.
4.脱細胞化組織の医療応用
4.1.世界の現状 臨床で実際使用されている脱細胞化関連商品群 の例は表 1 に示した.様々な組織・由来生物の商 品が存在している.同種移植となる脱細胞化ヒト 組織が多くみられるが,異種移植となるブタ・ウ シなどを由来とする商品群も増えている.商品化 されているものの特徴としては,皮膚や小腸粘膜 下組織,心膜や筋膜のようにシート状の材料が多 く存在し,血管や心臓弁のように複雑な 3 次元構 造を持つ商品はまだ少ない.米国は組織バンクが 整備されており,ヒト組織商品も安定して作成が 可能だと考えられているが,それ以外の地域にお いては,供給量の観点などから異種組織脱細胞化 商品が望まれている.商品群には,架橋処理を施 しているものと,架橋処理を行わないものがある. 架橋処理は,既存の生体弁の架橋処理にならい, 組織内細胞の免疫原性抑制を目的として施されて いる.しかし,架橋処理には移植後に生体からの 細胞浸潤を阻害する可能性があり,商品戦略によ り使用するか否かがわかれている. 心臓弁に関しては,当該分野で研究を続けてい る Harverich 教授が EU 圏内でヒト新鮮脱細胞化 心臓弁のプロジェクトを立ち上げ,臨床評価を 行っている.ARISE と命名されたこのプロジェ クトの特徴は,EU 諸国の研究者らのネットワー ク構築もあるが,脱細胞化心臓弁の調製法におい て凍結プロセスが禁忌であることが注目される. ヒト心臓弁はこれまでもホモグラフトとして凍結 移植部位 目的 例 同所性 早期の機能発現 脱細胞化心臓弁による心臓弁の再構築 異所性 単純機能の応用 脱細胞化皮膚による腹膜の構築 新しい組織構築 脱細胞化骨の皮下埋植による骨の再構築 表 2 脱細胞化組織の移植部位と目的保存されたものが使われているが,脱細胞プロセ スによって凍結保存プロセスを一部代替すること によって,成績が向上すると報告しており,今後 の長期移植成果の帰趨が注目される. 4.2.日本のガイドライン 脱細胞化組織は,欧米ではすでに産業として成 功を収めつつあり,近い将来日本でも広く使用さ れることが予想される.このような状況において 我が国での生物材料を用いた医療機器開発を促進 図 2 脱細胞化ブタ角膜のウサギへの異種深層角膜移植(DLKP)実験
するために,経済産業省と厚生労働省の連携事業 として開始された次世代医療機器・再生医療等製 品評価指標作成事業において平成 27,28 年度に 「生体由来材料分野」が設置され,評価指標(ガイ ドライン)作成が行われた.筆者も座長を拝命し て参加し,委員の先生方や厚生労働省,医薬品医 療機器総合機構(PMDA),および事務局の国立医 薬品食品衛生研究所の方々と討議を行い,ガイド ライン案をまとめることができた.現在,本ガイ ドラインは厚生労働省および PMDA で査読が行 われており,パブリックコメントを経て,厚生労 働省の大臣官房参事官通知として発出予定であ る.このように脱細胞化組織の実用化のための骨 組みづくりが進められている.
5.脱細胞化組織による臓器再生
前述のとおり,現在臨床利用されている脱細胞 化製品は,皮膚や心臓弁,血管などであり,肝臓 や心臓のような複雑な構造を有する臓器の適用に は至っていない.臓器全体を脱細胞化する研究は, 様々な手法が提案されているが,現状では還流シ ステムの利用が主流である.複雑な 3 次元構造を もつ臓器(肝臓,心臓,肺等)の血管網を利用した 還流システムが 2000 年代から検討されている. 血管網は,酸素,栄養供給に必要最低限の拡散能 を有しているので,血管を利用して脱細胞化試薬 を流すことは効果的であると言える.還流システ ムの使用は,小動物の脱細胞化報告が主であるが, ヒトに近い大きさの臓器脱細胞化として,ブタ心 臓の還流脱細胞化が報告されている.近年,心臓 以外に肺,肝臓の還流脱細胞化の報告が数例なさ れている.肺には,血管網と気管支群の 2 つの還 流に使用可能なネットワークが存在している.い くつかのグループが異なる還流アプローチで,脱 細胞化肺を作成しているが,グループ間での比較 検討がなされておらず,最適なプロトコールの確 定には至っていない.また,脱細胞化肺の再細胞 化検討も行われているが幹細胞ではなく,肺細胞 を播種しているグループが多いため,脱細胞化組 織の細胞分化への影響は不明である.Ott らのラッ ト脱細胞化肺の移植実験では,血液の漏出などが 確認され,微小な血管構造が破壊されていること が明らかになった12).一方,肝臓の脱細胞化は, 門脈を通して検討されている.脱細胞化肝臓への 細胞播種から,組織特異的な細胞分化を誘引する 可能性が示されている.また,Ross らの腎臓脱 細胞化の報告では,脱細胞化した腎臓内で培養し た ES 細胞が腎臓特異的な細胞に分化していくこ とを明らかにした13). 臓器の脱細胞化は,小動物レベルでの移植実験 の報告がなされているが,ヒトへの応用には,越 えなければならない障壁が残されている.今の脱 細胞化臓器を,移植に用いても,おそらくうまく いかないと考えられる.レシピエント細胞による 臓器再生には,時間を要するため,再生が達成さ れる前に機能不全になってしまうだろう.また, 疾患を持つヒトの細胞で再生した臓器が,正常な 働きを持つのか,疾患が再発してしまうのかなど の不安が残っている.解決策として,臓器脱細胞 化を研究しているグループは,脱細胞化臓器に多 能性幹細胞を播種・培養し,生体外で臓器を再生 することを目指している.6.脱細胞化組織の将来
現在,生体由来材料を用いた移植用材料には大 きな期待が寄せられ,アメリカでは,Tissue Source 社のような生体材料研究のための牧場が造られて いる.インフラが整備されはじめ,脱細胞化製品 の適用も広がり,脱細胞化組織・臓器研究開発の 今後のさらなる発展が予測される.また,脱細胞 化組織,臓器から得られた知見を,細胞再生医療 分野,人工臓器分野の研究者と共有していくこと も,今後の重要な課題であると思われる.7.結言
脱細胞化組織は,欧米ではすでに産業として成 功を収めつつあり,近い将来日本でも広く使用さ れることが予想される.現在我々の研究室では, 先に述べた血管8),角膜9∼11),骨,皮膚に加えて, 骨髄,軟骨,歯根膜,気管,羊膜,子宮,肝臓, 腎臓,脳などの種々の組織・器官の脱細胞化を行 い,組織・器官再構築の基盤材料としての研究を 進めている.また,既存の脱細胞化組織に機能性を付与することで付加価値を与えることで,さら なる応用を目指している.
謝辞
本稿の研究は藤里俊哉(大阪工業大学),小林尚 俊(物質・材料研究機構),佐々木秀次(本学眼科), 望月学(本学眼科)の各先生および東京医科歯科大 学生体材料工学研究所物質医工学分野の木村剛, 舩本誠一,橋本良秀,根岸 淳,中村奈緒子との 共同研究にて行われました.ここに感謝申し上げ ます.また,研究の一部は,日本学術振興会科学 研究費補助金および厚生労働科学研究費の補助を 受けて行われました. 文 献1) Bernard MP, Chu ML, Myers JC, Ramirez F, Eikenberry EF, Prockop DJ. Nucleotide sequences of complementary deoxyribonucleic acids for the pro alpha 1 chain of human type I procollagen. Statistical evaluation of structures that are conserved during evolution. Biochemistry 22(22): 5213–5223, 1983
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