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丸紅米国会社ワシントン事務所長今村 卓 +1-202-331-1167 [email protected] 2010-12 2010 年 11 月 2 日米国中間選挙
3 選挙前日の情勢とティーパーティー運動の評価
中間選挙の投票日を迎えた。今回は最新の選挙情勢を伝えるとともに、中間選挙後の政治を展望 するための準備として、ティーパーティー運動と今回の中間選挙の関係を整理しておきたい。 I. 選挙前日時点の情勢 主要メディアが本日11 月 1 日までに発表した最後の世論調査の結果によれば、選挙戦終盤で共和 党の攻勢が強まり、民主党は巻き返しを果たせていない模様である。選挙戦全般の状況を表す下院 の政党支持率(Generic Congressional Vote)でみれば、11 月 1 日現在、共和党が 50.3%に対して民 主党41.6%。両党の差は 8.7%に広がった。同差が 12%以上に達した調査も複数ある。 図表 1 議会下院の政党支持率* 図表 2 連邦議会上下両院の中間選挙における予想獲得議席数 現在 改選議席 非改選議席 上院予想勢力図 定数 100 民主党* 59 民主党 8 民主党* 40 民主党* 48 51 -8 過半数 51 接戦 7+ →接戦 7 安定多数 60 共和党 41 共和党 22 共和党 23 共和党 45 49 +8 下院予想勢力図 民主党 255 民主党 167 195±10 -60 定数 435 接戦 44 過半数 218 共和党 178 共和党 224 240±10 +62 欠員 2 (注)* 無所属(民主党系)2名含む. (資料)RealClearPolitics.com, Election 2010. 上院 現有議席 下院 中間選挙展望 2010/11/1 接戦なし 接戦なし -10 0 10 20 30 40 50 60 38 40 42 44 46 48 50 52 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 (注)2010年11月1日現在。* 政党支持率は、有権者に今日が連邦議会下院選挙の投票日である場合、どの党の候補者に投票するかという問いに対する回答率。(資料)Real Clear Politics 差(右目盛) 民主党(左目盛) 共和党(左目盛)
2 下院は、共和党が60 議席以上を上積みして過半数を大幅に上回る 240 議席前後を獲得する可能 性が高くなった。下院に限れば、民主党にとっては54 議席を失って 204 議席にとどまった 1994 年 の中間選挙を超える惨敗となる可能性が高まってきた。一方で上院は、激戦州で民主党が懸命の票 の掘り起こしを続けていため、この数日間で情勢が変化した選挙区はない模様である。民主党が僅 差で過半数を維持するとの予測に変わりはない。オバマ政権は、議会の上下両院を共和党に支配さ れるという1994 年の中間選挙後のクリントン政権のような最悪の事態は回避できそうである。 図表 3 州知事選の中間選挙における予想獲得議席数 民主党 26 民主党 7 民主党 7 民主党 12 19 接戦 9 接戦 11 接戦なし 共和党 24 共和党 21 共和党 6 共和党 27 30 独立 1 (資料)RealClearPolitics.com, Election 2010. 予想勢力図 現状 知事選展望 改選 非改選 II. 中間選挙とティーパーティー運動 本日の米国の主要メディアの選挙報道では、選挙戦を通じて共和党の運動に熱気を与え続けたテ ィーパーティー運動が大きく取り上げられている。ただ、2 カ月近い選挙戦の中で同運動の実態の 取材や調査は進み、同運動が共和党を席巻するとか逆に同党の内部対立を招くといった選挙戦の序 盤にあった単純な評価は姿を消している。以下、複数のティーパーティー運動に関する調査結果を 基に、同運動の実態や中間選挙への関わりを整理しておく。 1. 有権者の 1 割強が参加する運動を保守派が幅広く支持 (1) 有権者の 2%から 1 割強とみられるティーパーティー運動の参加者 ティーパーティー運動は保守強硬派を中心とした草の根運動と評されることが多い。公共宗教調 査機関(PRRI)のティーパーティー運動に関する世論調査によれば、ティーパーティー運動の参加 者数は全有権者数の11%を占めるに過ぎない。CNN の 8 月の世論調査では、わずか 2%という結果 もでている。これらの数値は、おそらく保守強硬派の有権者に占める割合に近く(「強硬」の定義の 仕方によって差が出る)、主要メディアや識者の認識は適切であると考えられる。またPRRI 調査の 参加者のうち、白人が80%、キリスト教徒が 81%である。同調査によると、共和党支持者の 82% が白人キリスト教徒であるからほぼ同様の人種・宗教構成といえる。 (2) 自らの機会が奪われていると怒りを強める運動参加者 テ ィ ー パー テ ィー 運動 を支 え る 思想 に は、「 減税、 政 府 の極 小 化」( 財政保 守 主 義、Fiscal Conservative)と「反中絶、反同性愛結婚」(社会保守主義、Social Conservative)の二つの柱がある。 ティーパーティー運動に関する報道では財政保守主義の主張が取り上げられることが多いものの、 支持者の実際の構成比では社会保守主義が大半を占めるという見方が最近増えている。規模の大き いティーパーティー運動の団体が提唱する政策は、排出権取引法案(cap & trade)への反対、議会 とオバマ政権が成立させたばかりの医療保険改革法の撤廃、国内原油開発の促進、連邦予算の均衡、 違法移民対策の強化、税制の簡素化・一律税率の導入など。思想と政策の両面において保守派共和 党と一致する部分が相当多いといえる。 PRRI 調査では、「人生の中で一定のグループが有利でも構わないか?」との質問に、全回答者の 41%が「構わない」と答えたのに対して、ティーパーティー賛同者のそれは 64%である。ティーパ ーティー運動の賛同者には機会均等を支持する傾向が尐ないことが分かる。また、「連邦政府は必要
3 以上に尐数民族のニーズに対応しているか?」という質問に対し、「そうである」と答えたのが全体 では37%であったのに対して、ティーパーティー運動の賛同者は 58%であった。むしろ政府の機会 均等化などの行動・政策が、逆に自らの機会や権利を奪っているとして不満を高めている人々が同 運動の賛同者に多いことが分かる。 (3) 徹底した反オバマ大統領の指向 ティーパーティー集会では、オバマ大統領をヒトラーに模したポスターが散見される。運動参加 者の中には、オバマ大統領は外国生まれであるために大統領になる資格が無いと主張する活動家 (”Birthers”)もいる1。10 月 15 日付の New York Times は、下院のティーパーティー運動系の共和
党候補者のうち4 人が”Birthers”であると指摘している。 PRRI 調査によれば、オバマ大統領を支持 するティーパーティー運動の賛同者は25%。対象を「白人のティーパーティー運動の賛同者」に絞 ると、支持率は19%に低下する。一方、共和党のペイリン元副大統領候補を支持するティーパーテ ィー運動の賛同者は80%だが、「白人ティーパーティー賛同者」に対象を絞ると同支持率は 83%に 上昇する。 (4) ティーパーティー運動の主張は非運動参加者の保守派も支持 今回の中間選挙で注目すべき点は、規模がけっして大きくないティーパーティー運動に対する支 持が運動参加者以外にも広がったことによって、同運動の選挙戦への影響は逆に大きくなっている ことである。10 月 31 日に発表されたワシントンポストと ABC ニュース(WP/ABC)の共同世論調 査2によれば、中間選挙で投票する可能性が高い有権者の43%がティーパーティー運動を支持してい る。同調査では同運動を強く支持する有権者は12%、この層が PRRI の世論調査の運動参加者の 11% と重なる可能性が高いことから、残り3 割強の同運動に対する緩い支持者が同運動非参加者でもあ ると推測できる。 なお、WP/ABC の調査では中間選挙における共和党の支持率が 49%3、自らを保守派と考える有権 者の割合が37%、穏健派が 39%という結果が出ている。ティーパーティー運動は、運動への参加者 数は限定されるものの、中間選挙では共和党支持者の大部分、思想的には保守派に一部穏健派を合 わせた集団から支持されるに至ったとも推測できる。 2. 保守派全体が共感したティーパーティー運動の主張 中間選挙において、ティーパーティー運動に対する支持が非運動参加者に広がり、共和党支持者 や保守派全体からの支持を得るようになったのはなぜか。最近発表された主要メディア等によるテ ィーパーティー運動の実態調査の結果から分かることは、第一に同運動の主張が共和党支持者から 強い共感を得たことである。 (1) 経済・社会の安定のための改革を許せない保守派、オバマ政権に対する怒りを蓄積 実体経済や金融市場では、FRB の非伝統的な金融政策とともにブッシュ前政権とオバマ政権が講
1 米国憲法は大統領選挙の被選挙権の要件の一つに"natural born citizen"、すなわち米国内生まれの米国市民ま
たは米国市民である両親の子供(米国以外の出生でも構わない)であることを定めている。オバマ大統領はハ ワイ州ホノルルで生まれだが、”Birthers”と名乗るグループは外国生まれ(一部はケニア生まれ)であり立候補 資格がないと主張している。なお、10 年 4 月の New York Times/CBS の世論調査では、「オバマ大統領は米国 生まれと考えるか」との問いに対して、58%が「米国生まれ」、20%が「外国生まれ」、23%が「分からない」 と回答している。
2 Washington Post-ABC News poll,成人 1,202 人を対象に電話調査(携帯電話含む)を 10/25-28 に実施。選挙
登録済み有権者1,015 人(うち中間選挙で投票する可能性の高い有権者 786 人)から有効回答。 http://www.washingtonpost.com/wp-srv/politics/polls/postpoll_10302010.html?sid=ST2010103100110
3 本日が議会下院の投票日なら自分の選挙区のどの党の候補者に投票するかという問いに対する回答率。共和
4 じた大規模な金融・景気の二つの安定化策が、金融危機と景気後退の予想外に早い終結に大きな役 割を果たしたという見方が大勢である。しかし、景気の状態に関係なく普遍的に政府の経済への関 与は最小であるべきと考える保守派にとって、金融・景気の安定化策は米国の将来を危うくする許 せない政策だった。 筆者は、二つの安定化策を講じなければ金融危機は百年に一度の規模に膨らみ、今でも景気と雇 用の悪化が続いていたと確信している。しかし、保守派の多くは安定化策が危機の拡大を止めたと は一切考えない。安定化策がなくても景気はすぐに回復していた、オバマ政権は余計な政策を講じ て財政赤字と公的債務残高を膨らませたと確信しているのが彼らである。安定化策が危機を止めた という発想は皆無だから、オバマ政権の次善の策としての主要金融機関や自動車大手の救済が理解 できない。オバマ政権は我々の許せない大きな政府と経済に対する政府介入の拡大という方向に舵 を切ったという徹底した政権批判を迷いなしに展開できるのである。 その後にも米国の経済・社会を安定させるためのオバマ政権の改革への取り組みが、保守派の怒 りを増幅・蓄積させる展開が続いた。今年3 月に成立に漕ぎ着けた医療保険改革法は、オバマ政権 にとっては4,500 万人もの無保険者が存在する欠陥のあるシステムの修復策であり長期的な財政赤 字の抑制策だった。今年7 月に成立した金融規制改革法は、金融危機の反省から、二度と危機を起 こさない、金融機関が「大きすぎて潰せない」ことを防ぐ、消費者保護を強化するなどの目標を定 めた包括的な金融システムの安定化策であり、1930 年代以来の金融規制改革だった。しかし、この 二つの歴史的な改革を、保守派は政府介入の拡大と規制強化による個人権限の縮小が進む許し難い 政策と捉えた。オバマ政権にとって二つの改革は、経済・社会の安定を回復するための政府の役割 の見直し、政府と個人の権限のバランスの修正であり正しい選択だったが、保守派は経済・社会の 安定のために個人権限が縮小すること、政府介入が増えることが許せない。皮肉にも金融危機が収 まったことで、保守派の中から過度の規制緩和により経済・社会が不安定化したという危機感も消 えた。逆に保守派は、オバマ政権が米国を誤った方向に導こうとしているという危機感を強めた。 (2) 保守派の危機感を捉えたティーパーティー運動の明快な主張 この保守派の強まる危機感を捉えたのがティーパーティー運動の「大きな政府と増税に徹底して 反対する」という分かりやすい主張だった。09 年春以降、政府の大規模な金融・景気安定化策が将 来の増税をもたらすという懸念、政府による主要金融機関や自動車大手の救済への反発がきっかけ とした草の根の反税・反政府運動として始まったティーパーティー運動は、上記のオバマ政権によ る改革が進展するたびに、反対という新たな目標を得て保守派の支持を獲得していった。その当面 のピークが中間選挙の選挙戦と考えればよいだろう。さらに選挙戦では、ティーパーティー運動の 主張に共感する保守派の団結が強まり、それが保守派の選挙への熱意を強めるという好循環をもた らした。個々のティーパーティー運動の団体や同運動の推薦候補の選挙公約には、教育省やエネル ギー省など一部の連邦政府組織やFRB の廃止、社会保障やメディケアの廃止など、保守派の中でも 異端に位置付けられる過激な内容や進化論の否定など宗教保守の要素の強く保守穏健派が敬遠しが ちな主張もあった。だが、小さな政府や財政均衡の主張に保守派の関心が集中し、個々の過激な主 張は事実上無視される形で、保守派のティーパーティー運動の主張への支持が強まった面もある。 このような経緯をたどって、選挙戦終盤での共和党支持率の上昇や共和党支持者の選挙に対する熱 意の拡大といった現象が発生したといえる。 (3) ブッシュ前政権という共和党の負のイメージの払拭に役立ったティーパーティー運動 共和党支持者がティーパーティー運動の主張を受け入れた要因はもう一つある。それはブッシュ 前政権という共和党の強い負のイメージの払拭である。議会の共和党の議席数は、06 年と 08 年の 選挙での連敗により、上院は06 年中間選挙前の 55 議席から現在の 41 議席へ、下院は 232 議席か
5 ら178 議席へと大幅に減尐している。この主因は 06 年の中間選挙は前年のハリケーン「カトリー ナ」に対するブッシュ前政権の不十分な対応、08 年はイラク戦争の悪化や景気後退などの問題がそ れぞれ影響して、ブッシュ前大統領と共和党に対する支持が落ち込んだことにあった。実際、ギャ ラップ社の世論調査によれば、ブッシュ前大統領の支持率は06 年 10 月から 09 年 1 月の退任まで 2 年以上にわたって40%を超えることはなかった。2 回の議会選でブッシュ前政権の存在が共和党に 対していかに強い逆風になったかが分かる数値である。 逆に言えば、共和党支持者はブッシュ前政権の負のイメージを払拭できる要素を探し求めていた のであり、ティーパーティー運動はその格好の材料だった。共和党支持者は同運動の主張を受け入 れ、同運動が共和党の中間選挙の選挙運動の看板となることを認めることで、3 年以上にわたり共 和党が悩まされてきたブッシュ前政権の負のイメージは消えたとして自信を持てた。また、ティー パーティー運動の「減税、政府の極小化、規制の縮小」などの主張が、80 年代の支持率が高位を保 ったレーガン政権の要素と重なることも見逃せない。共和党はブッシュ政権からレーガン政権へ党 の看板を差し替えることに成功したのだという意見もある。 3. ティーパーティー運動は看板、選挙運動は専門家と組織という役割分担の実現 第二に分かることは、共和党が党指導部や同党の有力活動家、有力スポンサーなどを通じてティ ーパーティー運動を同党の中間選挙中の看板に据え付けることに成功したことである。 (1) 政治運動の持続に必要条件を欠くティーパーティー運動が目立ち続ける謎 政治運動が盛んで運動間の競争も激しい米国において、一つの政治運動が勢いを強めて持続して いくことは容易ではない。主張自体が有権者の共感を得やすい優れたものであっても、それだけに 頼って政治運動を維持拡大させることは無理である。運動の求心力となる指導者と共通の思想は欠 かせない存在である。多くの有権者に主張を知ってもらって支持を広げ、個々の有権者から得た共 感を維持し、活動への参加者や寄付金を増やしていくというプロセスが必要である。それを実現し ていくには運動を進める団体に戦略や組織力や行動力が必要であり、それを担える経験と能力を持 つ人材の存在も欠かせない。全米単位の政治運動を展開するには、それに見合うプラットフォーム も必要である。大多数の「草の根」運動が全米の運動に拡大せずに消滅していくのも、こうした維 持・拡大の必要条件を満たせないからである。 草の根で始まったティーパーティー運動は、現在に至るまで指導者も共通の思想もプラットフォ ームもない。複数の全米組織が存在する以外は、記の維持・拡大の必要条件をことごとく満たして いないのである。それゆえに、同運動が中間選挙まで活力を保ち、共和党の選挙運動の看板的な存 在になったことは専門家にとって驚きと謎であり、選挙前日になっても主要メディアがティーパー ティー運動や同運動の推薦候補の報道に時間を割くことになった。 (2) 選挙戦とは縁のない草の根団体が今でも大半を占めるティーパーティー運動 しかし選挙戦の終盤になって、この謎を主要メディア自らが解明し始めた。やはりティーパーテ ィー運動自体が草の根の形態を保ったまま、共和党の選挙運動の中心になっているのではないこと が判明してきたのである。まず、前述のPRRI の世論調査によって、ティーパーティー運動への参加 者が有権者の1 割強であることが示された。次にワシントンポスト紙によるティーパーティー運動 の実態調査(10 月 24 日付の同紙に掲載4)が、同運動に関する報道や一部団体の主張と実態の大き な乖離を明らかにした。例えばティーパーティー運動には2,300 の地方団体があると一部の同運動
4 The Washington Post, October 24, 2010, “Gauging the scope of the tea party movement in America”
6 団体が主張していたが、同紙が存在を確認できた団体数は 1,400、同紙の調査に回答があった団体 数は647 にとどまったという(以下、各種比率は 647 団体に占める割合)。 しかも、その中の51%の団体は構成員数が 50 人未満の小さな組織であり、全米で活動する団体 との関係はない。86%の団体は、初めて政治運動に参加したメンバーが大部分を占める。注目され る資金力は予想外に弱く、各団体が2010 年に獲得した資金の中央値はわずか 800 ドル。さらに驚 かされるのは、7 割の団体が今年のいかなる選挙運動にも参加していないことである。ほとんどの 団体はオバマ政権と民主党に反対しているが、その度合は共和党指導部に対する不満を多尐上回る 程度だという。ティーパーティー運動自体の大半を占める草の根の団体は、その形態と主張に変わ りないが、中間選挙とは一線を画しているか、選挙戦から取り残された存在になっているのである。 (3) 選挙戦に参加したのはティーパーティー運動の看板を後付した既存団体とその推薦候補 逆に中間選挙で活動が目立つティーパーティー運動の団体は、複数の全米単位の団体に限られる。 しかもその多くは、同運動が始まった09 年春より前から存在している政治運動の経験が豊富な政治 団体か、経験や資金が豊富な指導者が創設した新団体である。例えばフリーダム・ワークスはリチ ャード・アーミー元共和党下院院内総務が運営する組織であり、その前進組織が1984 年から存在す る「老舗」である。ティーパーティー運動の以前から各種の草の根の運動のプロデュースで実績が ある。アメリカンズ・フォー・プロスペリティーも2003 年にシチズンズ・フォー・サウンド・エコ ノミーという団体から分離した組織であり、大富豪のデビット・コッホ氏が医療保険改革に対する 反対のために3,000 万ドルの資金を既に投入したといわれる。これらの団体は「草の根(Glass roots)」 ではなく「人工芝(Astroturf)」と揶揄されることも尐なくない。ティーパーティー・パトリオッツ やティーパーティー・ネーションは草の根から全米単位に発展した数尐ない団体だが、後者は共同 創設者の内部分裂が起こっている。追放されたエイミー・クレマー氏らが創設した新団体がティー パーティー・エクスプレスであり、全米各地を巡回する興行団体的な役割を担っている。この団体 には上記のティーパーティー・ネーション以外の団体が資金を提供するなど、団体間の関係も複雑 である。このほか、FOX テレビの保守派トーク番組の司会者グレン・ベック氏が創設した 912 プロ ジェクトなどもある。 フリーダム・ワークス、ティーパーティー・エクスプレス、ティーパーティー・ネーションなど の団体は、共和党の中間選挙の予備選において、自らの主張に合っていると認定した候補を推薦し た。その候補者が同党穏健派の推す候補、場合によっては同党指導部の推薦候補を破って同党の候 補に選出された。こうした候補者たちが、今回の中間選挙で注目を集めたティーパーティー推薦候 補である。前述のワシントンポスト紙の調査によれば、地方の草の根のティーパティー運動の団体 の大部分は、これら全米団体のような特定候補の推薦は一切行っていないという。つまり、ティー パーティー運動が草の根レベルから中間選挙の選挙戦に積極的に参加したのではない。同運動の主 張を巧みに活用できる政治経験の豊富な全米単位の同運動の団体とその指導者、そして同団体に推 薦された候補者の選挙運動が、共和党の選挙戦の中心を占めたと報じられたティーパーティー運動 の実態だったのである。 (4) ティーパーティー運動を「利用」できた共和党指導部 さらに、ティーパーティー運動の主張、全米単位のティーパーティー運動による推薦候補(以下、 ティーパーティー候補と呼ぶ)の選出とその後の選挙活動を効果的に利用したのが共和党指導部だ った。尐なからぬ主要メディアが、予備選で党指導部の推薦候補を破ったティーパーティー推薦候 補と党指導部の対立の懸念を指摘していたが、今回の中間選挙の共和党指導部は非常に現実的だっ た。オバマ政権と民主党を破ることを優先して、ティーパーティー運動との対立を回避したのであ る。もちろん、同党支持者がティーパーティー運動の主張を受け入れている現状では、同運動との
7 対立はあり得なかったし、「小さな政府、規制の最小化、減税」などのティーパーティー運動の主張 の大半は共和党の普遍の主張と重なる。同運動側も、過去に何度か既存政党に反発を持った政治運 動が起こした第三党の創設という民主党を利する行動を避けるという現実指向があった。近年は90 年代のロス・ペロー氏の大統領選への挑戦のように、二大政党制の確立後、第三党を目指す動きは 何度か起きているが全て失敗している。 例えばベイナー下院院内総務は、自ら獲得した豊富な選挙資金をティーパーティー候補に提供し ていることを主要メディアが報じている。主要メディアから好奇の目でみられているデラウェア州 のオドネル候補も、予備選の勝利後は党指導部から支援を拒否されて立ち往生するという見方さえ あったが、現実には、大差での敗北予想こそ変わらないが、共和党指導部から多額の資金提供を受 けて選挙戦を続けている。 中間選挙後にティーパーティー候補が一定数を議会の上下両院で占めてグループを形成するほど になれば、再び共和党指導部と同グループの内部対立の可能性は出てくるだろう。だが、党指導部 は、そんな先のリスクを恐れるよりも、目の前の選挙に勝つという目的を優先することにした。テ ィーパーティー候補や同運動も選挙戦が白熱する中で、共和党指導部と対立するという愚は避けた。 それゆえに共和党指導部は、ティーパーティー運動の主張、それが共和党支持者に与える選挙への 熱意を手に入れ、その上でオバマ政権に反発する経済界から豊富な選挙資金を獲得している。その 上に、党外団体による共和党を支援する積極的な選挙広告支出もある5。以上のような手堅い選挙体 制を固めた同党指導部は、ティーパーティー運動に主導権を奪われることなく、安定的な形で今回 の選挙戦を乗り切りつつある。 (5) それでも中間選挙の共和党勝利は 2012 年大統領選の参考にはならない 以上の選挙戦の充実ぶりをみれば、下院における共和党の大勝も納得できる。逆に言えば、これ だけの体制を整えることに成功しながら、共和党が上院の多数派を獲得でいない可能性が高いこと は、同党の深刻な弱さも示していると考えられる。反オバマ政権という軸で攻勢を固めることはで きたが、オバマ政権に代わる共和党のリーダーと政策を示すことができないから、民主党寄りの無 党派層、オバマ政権の実績に不満を高めている民主党支持者の一部を引き付けることができず、上 下両院での完勝に至れないのである。米国政治の専門家によれば、新政権の最初の中間選挙は、そ の2 年後の大統領選の参考にはほとんどならないという。 議会が共和党に完全に支配されれば、オバマ大統領も残り2 年間で巻き返しが進まず、12 年の大 統領選での再選に向けた支持率回復が難しくなる可能性はある。しかし、下院だけが共和党支配で あれば、共和党は責任を分担される。拒否を続けていれば、過去の議会を一定支配した野党のよう に、有権者の不満が政権から自党に向かってくるリスクは十分にある。 一方で、党指導部はティーパーティー議員から妥協を拒否される可能性もある。議会での投票歴 をティーパーティー運動に攻められて予備選で敗退した現職議員を目の前で見てきたティーパーテ ィー議員は、同運動の主張に背くことのリスクを強く認識しているはずである。ティーパーティー 運動の主張を取り込んだ共和党支持者の声はティーパーティー議員以外にも響く。12 年が改選対象 である共和党の上院議員は、今回の中間選挙を経て、保守的イメージの構築に励む可能性がある。 共和党全体の思想が「メインストリーム」よりも右傾化する可能性、共和党の内部分裂ではなく全 般的な「共和党の極右化」が起きる可能性もある。 5 今年 1 月に連邦最高裁が「企業や団体の選挙候補者の広告への支出を制限した連邦法が言論の自由を保障する合衆国憲法 修正第1条に違反する」との判決を下した。この判決を受けて、企業や労働組合等の資金を使って候補者に関する広告を出 すことが事実上可能になり、上記の飛躍的な支出拡大につながった模様である。上記判決後には大企業の政治への影響力の 増大、共和党に有利、中間選挙や大統領選に影響を及ぼすのは必至との見方が広がっていたが、それが早くも現実になった。
8 ティーパーティー議員も従わざるを得ないというリーダーシップを持った次の大統領選の候補が 共和党内から出てくれば、展開も違ってくるだろうが、今のところその予兆はない。ティーパーテ ィー運動の中で目立ったサラ・ペイリン前アラスカ州知事は次期大統領選への意欲を示したが、未 だに党内でその資質が問われているし、今回の選挙戦を経て、有権者の支持は逆に減っている。本 日、中間選挙が終わるとともに12 年の大統領選は始まるといわれるが、共和党はティーパーティー 運動の主張を看板とした新たな体制の下で、同党内から高い支持を得られるだけでなく、無党派層 も引き付けられる候補の選出という難しい課題に取り組むことになる。 なお、中間選挙後の共和党とティーパーティー運動との関係や予想される問題点、さらに新しい 議会の勢力図の下でのオバマ政権の政策運営と米国政治の行方は、次回以降に検討していきたい。 4. (参考)中間選挙とティーパーティーの規模 共和党とティーパーティー候補の立候補状況 合計 民主党優勢 やや優勢 民主党 接戦 やや優勢 共和党 共和党優勢 上院 (9) 37 (0) 6 (1) 3 (4) 8 (3) 8 (1) 12 下院 (129) 435 (67) 155 (29) 48 (19) 37 (7) 27 168 (7) [注]:()内の数字はティーパーティー候補の数 今回の中間選挙(上下両院)に出馬するティーパーティー候補(ティーパーティー運動の支持・ 推薦を得た候補者)は138 名。ニューヨークタイムズ紙によれば、このうち 10 月中旬時点で当選 の可能性がある候補者は上院8 人(下記)、下院 33 人であった。 上院に当選の可能性があるティーパーティー候補一覧 州 候補者名 選挙戦の現状(11/1) Utah Mike Lee 当選圏 Florida Marco Rubio 優勢 Alaska Joe Miller やや優勢 Kentucky Rand Paul やや優勢 Wisconsin Ron Johnson やや優勢
Colorado Ken Buck 接戦 Nevada Sharron Angle 接戦 Pennsylvania Pat Toomey 接戦 (資料)New York Times, 10/15/2010.
http://www.nytimes.com/interactive/2010/10/15/us/politics/tea-party-graphic.html?ref=politics (1) 上院 共和党は、白人キリスト教徒という潜在支持増を呼び戻したティーパーティーを歓迎。一方、「能 力に疑問のあるティーパーティー候補」や「無党派層が嫌う過激なティーパーティー候補」が共和 党予備選で勝利したため、従来なら共和党候補が勝利すべき選挙区で「接戦/民主党候補が圧勝」 という最悪シナリオを招いたケースも見られる(デラウェア州等)。 (2) 下院 ティーパーティー候補129 名のうち、67 名は「民主党優勢」と予想される選挙区に出馬している。 いずれも当選率は極めて小さく、大半が「泡沫候補」の位置付け。「民主党やや優勢」「接戦」「共和 党やや優勢」と予想される112 区のうち、55 区に出馬するティーパーティー候補の勝利は、下院の 過半数(217 議席)の獲得に向けて極めて重要となる可能性が高い。 以 上/上原・今村
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