Morphological
study
of cardiac
veins
that
drain
into
the coronary
sinus,
with
special
reference
to the coronary
artery
dominant
pattern
Takao
Fukushima
Department of Anatomy, Nippon Medical School
The morphology of the cardiac veins that drain into the coronary sinus was studied in 31 human hearts, with special reference to the coronary artery dominant pattern (Barnes' classification). The results were as follows:
1. Great cardiac vein (GCV)
The average GCV index of Barnes type I (BI) did not differ significantly from that of Barnes type II (BII).
2. Left marginal vein (LMV)
(1) The LMVs were divided into two types, according to the angle made by the LMV and the truncal vein: rect (18 cases, 58%) and acute (11 cases, 38%) angular influx type.
(2) The average LMV angle of BI (n=9, mean•}SD 77.0•}23.2) was greater than that of BII (n=19, mean•}SD 48.1•}34.3) and the difference was statistically significant (p< 0.05).
(3) The average LMV index of BI did not differ significantly from that of BII. 3. Left posterior ventricular vein (LPVV)
(1) The average LPVV infux angle of BI did not differ significantly from that of BII. (2) The average LPVV index of BI did not differ significantly from that of BII. 4. Middle cardiac vein (MCV)
The average MCV index of BI did not differ significantly from that of BII. 5. Small cardiac vein (SCV)
The average SCV index of BI did not differ significantly from that of BII. 6. Anterior cardiac veins (ACVs)
The number of ACVs correlated with the SCV index, and the correlation was statisti-cally significant (n=31, r=-0.416, p<0.02).
7. Coronary sinus (CS)
The average CS index of BI did not differ significantly from that of BII.
The right ventricular wall may not be perfused effectively during open heart surgery
Correspondence to Takao Fukushima, Department of Anatomy, Nippon Medical School, 1-1-5 Sen-dagi, Bunkyo-ku, Tokyo 113, Japan
(483) 71
-when retrograde
coronary sinus perfusion (RCSP) is used . The present study demonstrated
that this method can produce poor right ventricular
perfusion in cases when the ACVs
developed well.
Key words:
retrograde
coronary sinus perfusion , human cardiac veins, coronary artery
dominant pattern
緒
言
心臓 外 科 の 領 域 で は,開 心 術 中 の 心 筋 保 護 法 と
して大 動 脈 基 部 か らの 順 行 性心 筋保 護 法 が最 も一
般 的 で あ る.一 方,1956年,Lilleheiら1)は
冠 状 静
脈 洞 か らの 逆 行 性冠 灌 流 法(逆 行 性冠 状 静 脈 洞 灌
流 法,retrograde
coronary
sinus perfusion,
RCSP)を
報 告 した が,こ れ は そ の 後 標 準 的 な手 技
と して は 定 着 しな か った.し か し,近 年 に な っ て,
高 度冠 状 動 脈 狭 窄 症 の 冠 血 行 再 建 に逆 行 性冠 灌 流
法 が 臨 床 応 用 さ れ る よ うに な り2,3),この 方法 が再
評 価 され る よ うに な った4∼6).この 方 法 は通 常,逆
行 性 冠 灌 流 用 カ テ ー テ ル を冠 状 静 脈 洞 へ 挿 入 して
心 筋保 護 液 を注 入 す るが,こ
の場 合,右 心 系 の心
筋 保 護 効 果 は 不 十 分 で あ る と 考 え ら れ て い
る7,8).これ は,冠 状 静 脈 洞 内 で の カ テー テル の位
置9)や冠 状 静 脈 洞 に 注 ぐ静 脈 の形 態 が 深 く関 係 し
て い るた め と考 え られ る.そ
こで,本 研 究 は右 心
系 の心 筋保 護 を さ らに十 分 な もの とす るた め に冠
状 静 脈 洞 に 注 ぐ静 脈 に 着 目 して,そ の起 始,走 行
を観 察 し,さ
らに冠 状 動 脈 の走 行 あ るい は冠 状 動
脈 の優 位 型 との 関 係 に つ い て も検 討 し興 味 あ る知
見 を得 た の で 報 告 す る.
研 究 材 料 お よ び 方 法
材 料 は 日本 医 科 大 学 解 剖 学教 室 所 蔵 の本 邦 成人
ヒ ト心 臓25例(男
性11例,女
性14例,平
均 年齢
78.9±10.1歳)お
よ び本 邦 ヒ ト成 人 心 臓鋳 型 標 本
6例(女
性3例,不
明3例)を
使 用 した.検 索 方
法 は ヒ ト心 臓25例
を 肉眼 的,あ るい は実 体 顕 微 鏡
を 用 い て心 外 膜 を 剥 離 し,心 臓 壁 に分 布 す る動 脈
と静 脈 を剖 出 して,そ の走 行 と分 岐 状 態 を観 察 し,
写 真 撮 影 した.Fig.1の
ご と く静 脈 が本 幹 となす
角 度 を流 入 角 とし た.静 脈 の走 行 を強 調 す る た め,
剖 出 し た 静 脈 に細 筆 を用 い てLiquitexウ
ル トラ
Fig. 1 Definition of the influx angle
マ リ ン ブ ル ー を 塗 布 し た .6例 は 鋳 型 標 本 を 用 い た.ま た,各 指 標 の 平 均 値 の 有 意 差 検 定 はone-way ANOVA (Bonferroni法)を 用 い て 行 っ た .
結 果 1.冠 状 動 脈 優 位 型(Barnes10)の 分 類) 延 吉 ら11)は 冠 状 動 脈 優 位 型 の 分 類 で あ る Barnesの 分 類 を 紹 介 し て い る.本 研 究 で は 冠 状 動 脈 優 位 型 をBarnesの 分 類 に よ っ て 分 け,心 臓 静 脈 と冠 状 動 脈 優 位 型 と の 関 係 を 調 べ た.Fig.2は Barnesの 分 類 に よ る 冠 状 動 脈 の 優 位 型 で あ る.
BarnesI型(以 下BI型)は 右 冠 状 動 脈(right coronaryartery,RCA)が 心 臓 の 横 隔 面 全 体 に お
よ び 鈍 縁 に 終 わ る も の,II型(以 下BII型)は 右 冠 状 動 脈 は 左 心 室 横 隔 面 の 半 分 に ま で お よ び,鈍 縁 は 左 冠 状 動 脈(left coronary artery,LCA)よ
り灌 流 さ れ る も の,III型(以 下BIII型)は 右 冠 状 動 脈 が 後 室 間 溝 で 終 わ り,左 心 室 横 隔 面 は 左 冠 状 動 脈 に よ り灌 流 さ れ る も の,IV型(以 下BIV型) は 右 冠 状 動 脈 が 右 心 室 横 隔 面 に 終 わ り,後 室 間 溝 ま で 左 冠 状 動 脈 が お よ ぶ も の,V型(以 下BV型) は 左 冠 状 動 脈 が 横 隔 面 全 体 に お よ び 鋭 縁 に 終 わ る も の,で あ る. 本 研 究 で は,BI型9例(29%),BII型19例 (61%),BIII型1例(3%),BIV型2例(6%)
Barnes III
Barnes IV
Barnes V
Fig. 2 Diaphragmatic aspect of the ventricles. Five dominant types of thecoronary artery, cited by Nobuyoshi as Barnes' classification. L and R: left and right coronary artery.
でBV型 は0例(0%)で あ っ た.
2.大 心 臓 静 脈(great cardiac vein,GCV) 左 心 室 よ り起 始 し前 室 間 溝 を 心 基 部 方 向 に 上 行 し て 冠 状 溝 に 入 り,横 走 し て 冠 状 静 脈 洞(coro-nary sinus,CS)に 開 口 す る 静 脈 を 大 心 臓 静 脈 と し た. (1)大 心 臓 静 脈 の 起 始 心 尖 部 の 位 置 を0と し,前 室 間 溝 上 部 ま で の 長 さ を+1.0,後 室 間 溝 上 部 ま で の 長 さ を-1.0と し て 大 心 臓 瀞 脈 が 起 始 す る 位 置 を 心 尖 部 か ら の 長 さ で 表 わ し た.こ れ をGCV indexと し た.結 果 (mean±standard deviation)は0.254± 0.021(n=31)で あ っ た.Fig.3は こ れ を0.1幅 で 表 し た ヒ ス トグ ラ ム で あ る.0.2を 頂 点 と し て 0か ら0.4に す べ て の 起 始 が 観 察 さ れ た.中 心 臓 静 脈(middle cardiac vein, MCV)と 心 尖 部 で 吻 合 す る も の は31例 中15例(48%)み ら れ た.
(2)大 心 臓 静 脈 の 壁 内 走 行(intramural course)
大 心 臓 静 脈 の 本 幹 部 が 壁 内 走 行 す る も の が25 例 中1例(4%)み ら れ た.心 筋 の 内 部 を 走 行 す
Fig. 3 Histogram of the great cardiac vein (GCV) index. A GCV index is a relative value of a length between the apex and the origin of the great cardiac vein to that of the anterior interventricular sulcus.
(485) 73
-Fig. 4 Anterior aspect of the heart. Ao: aorta, LA: left atrium , LCA: left coronary artery, pT: pulmonary trunc, PV: pulmonary vein
Fig. 5 In the anterior interventricular sulcus the great cardiac vein (GCV) crossed the anterior interventricular branch of the left coronary artery (AIB) in 20 cases or ran parallel in 11 cases. In detail: GCV crossed over AIB in 10 cases, under in 10 cases. GCV (black), Left coronary artery (gray) る 静 脈 の 長 さ は28mmで あ っ た.鋳 型 標 本6例 で は 壁 内 走 行 の 確 認 は 不 可 能 で あ っ た. (3)大 心 臓 静 脈 と左 冠 状 動 脈 の 走 行 関 係 31例 に つ い て,1)前 室 問 溝(anterior inter ventricular sulcus,AIS),2)左 心 室 前 壁,お よ び3)冠 状 溝 で 大 心 臓 静 脈 と左 冠 状 動 脈 の 走 行 関 係 を 観 察 し た(Fig.4). 1)前 室 間 溝 で 大 心 臓 静 脈 と前 室 間 枝(anterior interventricular branch of the left coronary artery AIB)と の 走 行 関 係 は,交 叉 し て い る も の 20例(65%),交 叉 せ ず に 並 走 す る も の11例 (36%)で あ っ た.交 叉 し て い る も の の う ち,10例 (32%)は 大 心 臓 静 脈 が 前 室 間 枝 の 前 面 を 走 行 し, 10例(32%)で は 前 室 間 枝 が 前 面 を 走 行 し て い た (Fig.5).
2)左 冠 状 動 脈 の 外 側 枝(lateral branch of the left coronary artery,LLB)は29例(94%)に
存 在 し,こ れ ら は す べ て 大 心 臓 静 脈 と交 叉 し て い た.こ の29例 の う ち20例(65%)は 外 側 枝 が 大 心 臓 静 脈 の 前 面 を 走 行 し,9例(29%)は 大 心 臓 静 脈 が 前 面 を 走 行 し て い た(Fig.6). 3)冠 状 溝(coronary sulcus,CS)で 大 心 臓 静 脈 と左 冠 状 動 脈 の 回 旋 枝(circumflex branch of the left coronary artery, LCX)は31例 す べ て
Fig. 6 In the anterior wall of the left ventricle the lateral branch of the coronary artery
(gray) existed in 29 cases. The great car-diac vein (black) crossed over it in 9 cases, under in 20 cases. で 交 叉 し,20例(65%)で 大 心 臓 静 脈 が 回 旋 枝 の 前 面 を 走 行 し,11例(35%)で 回 旋 枝 が 前 面 を 走 行 し て い た(Fig.7).Fig.8は 以 上 の 結 果 を グ ラ フ と し た も の で あ る. 4)冠 状 動 脈 の 優 位 型 に 対 す るGCV indexは BI型(n=9)で0.268±0.076(mean±standard deviation),BII型(n=19)で0.248±0.139,B III型(n=1)で0.368,BIV型(n=2)で0.187± 0.042で あ っ た.BI型 とBII型 に 有 意 差 は み ら れ な い(Fig.9).
Fig. 7 In the coronary sulcus the great cardiac
vein (black) crossed over the circumflex
branch of the left coronary artery (gray)
in 20 cases, under in 11 cases
3.左 辺 縁 静 脈(left marginal
vein,LMV)
左 辺 縁 静 脈 は左 心 室 よ り起 始 し心 左 縁 を上 行 し
て大 心 臓 静 脈 に開 口す る静 脈 と した.
左 辺 縁 静 脈 は31例
中29例(94%)に
存 在 し,
後 述 の よ う に心 左 縁 を走 行 す る左 冠 状 動 脈 と交
叉,ま た は並 走 す る もの が み られ た.
(1)左 辺 縁 静 脈 の 開 口部
後 室 間 溝 上 端 か ら前 室 間 溝 上 端 まで の 右 の冠 状
溝 の 長 さ を1.0と
し左 辺 縁 静 脈 の 開 口部 を後 室 間
溝 上 端 か ら の 長 さ で 表 わ し た.こ
れ をLMV
indexと
した.そ の平 均(mean±standard
(487) 75
-Fig. 9 Changes in mean great cardiac vein (GCV) index for every dominant
type of the coronary artery
tion)は0.54±0.12(n=29)で
あ った.Fig.10
は これ を0.1幅
で表 した ヒス トグ ラ ム で あ る.
(2)左 辺 縁 静 脈 の流 入 角 お よ び起 始
この 左 辺 縁 静 脈 に つ い て,大 心 臓 静 脈 へ の流 入
部 の 流 入 角 お よ び この 部 分 位 置 を測 定 した.
Fig.11は
縦 軸 に 流 入 角 を,横 軸 に 中心 臓 静 脈
との距 離 を と った グ ラ フで あ る.ほ ぼ直 角 に流 入
す る もの と,鋭 角 に流 入 す る もの の2群 に分 類 さ
れ,こ れ らを直 角 流 入 型 お よび鋭 角 流入 型 と した.
以 上 の結 果 をFig.12に
模 式 的 に示 した.直 角
流 入 型 は18例(58%),鋭
角 流 入 型 は11例(35%)
で あ っ た.
(3)中 心 臓 静 脈 と左 冠 状 動 脈 の走 行 関係
中 心 臓 静 脈 と左 冠 状 動 脈 は28例(90%)で
交 叉
した.こ の うち 中心 臓 静 脈 が左 冠 状 動 脈 の前 面 を
通 る もの16例(52%),左
冠 状 動 脈 の後 面 を通 る
もの12例(39%)で
あ った.1例(3%)は
交 叉
Fig. 10 Histogram of left marginal vein (LMV) index. An LMV index is a relative value of a length between the opening of the left marginal vein and the crux to that of the left coronary sulcus.
Fig. 11 Scattergram of left coronary vein (LMV) index and values of influx angle
Fig. 12 Lateral aspect of the heart. The left marginal vein (LMV) drained into
the great cardiac vein (GCV) right angularly in 18 cases, acute
angular-ly in 11 cases. GCV: great cardiac vein, LMV: left marginal vein
せ ず 並 走 し て い た. (4)中 心 臓 静 脈 と 冠 状 動 脈 優 位 型 の 関 係 冠 状 動 脈 の 優 位 型 に 対 す る 中 心 臓 静 脈 の 流 入 角 (LMV angle)はBI型(n=9)で77.0±23.2度 (mean±standard deviation),BII型(n=19)で 48.1±34.3度,BIII型(n=1)で88.0度,BIV型 (n=2)で114.0±11.3度 で あ っ た.BI型 はBII型 よ り 有 意 に 大 き い 値 で あ っ た(P<0.05)(Fig. 13). LMV indexはBI型(n=9)で0.563± 0.093(mean±standard deviation),BII型(n= 19)で0.533±0.136,BIII型(n=1)で0.522, BIV型(n=2)で0.486±0.019で あ っ た.BI型 とBII型 に 有 意 差 は み ら れ な い(Fig.14).
4.左 心 室 後 静 脈(left posterior ventricular vein, LPVV)
(489) 77
-Fig. 13 Changes in mean left marginal vein (LMV) influx angle for every dominant type of the coronary artery. An LMV influx angle is that of the LMV and the great cardiac vein.
Fig. 14 Changes in mean left marginal vein (LMV) index for every dominant type of the coronary artery
sinus,cs),あ
る い は大 心 臓 静 脈 に開 口 す る静 脈
の うち最 も発 達 して い る もの1本
に着 目 して,こ
れ と他 の 静 脈(中
心 臓 静 脈,冠
状 静 脈 洞)と
の 関
係 をみ た.
(1)左 心 室 後 静 脈 の 流 入 角 と中心 臓 静 脈 との 距
離
左 心 室 後 静 脈 に つ い て,大 心臓 静 脈 また は冠 状
静 脈 洞 へ の流 入 角 お よ び 中 心臓 静脈 か らの 距 離 を
測 定 した.距 離 は左 心室 後 静 脈 開 口 部 の 右 縁 と中
心 臓 静 脈 開 口部 の左 縁 の 長 さ を測 定 し,左 冠 状 溝
の 長 さ で 除 し た も の を 用 い た.こ
れ をLPVV
indexと
した.
Fig. 15 Scattergram of left posterior ventricular vein (LPVV) indexes and LPVV influx angles. An LPVV influx angle is that of the LPVV and coronary sinus. An LPVV index is a relative value of a length between the right side of the LPVV and the left side of the middle cardiac vein to that of the left coronary sulcus.
Type 1
Type 2
Type 3
Fig. 16 Diaphragmatic aspect of the heart. The left posterior ventricular vein drained into the coronary sinus right angularly in 17 cases, acute angularly in 9 cases and confluently with the middle cardiac vein in 5 cases. CS: coronary sinus, LPVV: left posterior ventricular vein, MCV: middle cardiac vein
Fig.15は
縦 軸 に 流 入 角 を,横 軸 に左 心 室 後 静
脈 と中心 臓 静 脈 の 距 離 を とった もの で あ る.こ れ
よ り左 心 室 後 静 脈 を3型 に分類 した.1型(直
角
流 入 型)と
して大 心臓 静脈,ま
た は冠 状 静 脈 洞 へ
ほ ぼ直 角 に 流 入 す る もの,2型(鋭
角 流 入 型)と
して大 心 臓 静 脈,ま
た は冠 状 静 脈 洞 へ 鋭 角 に流 入
す る もの,3型(合
流 型)と
し て 中心 臓 静 脈 が冠
状 静 脈 洞 に開 口す る部 分 に合 流 す る もの で あ る.
Fig,16は
以 上 の 結 果 を模 式 図 と して 示 して い
る.1型
は17例(55%),2型
は9例(29%),3
型 は5例(16%)で あ っ た. (2)左 心 室 後 静 脈 と冠 状 動 脈 の 優 位 型 の 関 係 Table 1は 左 心 室 後 静 脈 の3型 と 冠 状 動 脈 優 位 型 の 関 係 で あ る.BIV型 は2例 と も3型 で あ っ た. 左 心 室 後 静 脈 流 入 角(LPVV angle)はBI型 (n=9)で46.6±31.7度(mean±standard devia-tion),BII型(n=19)で63.8±33.7度,BIII型 (n=1)で75.0度,BIV型(n=2)で83.0±1.414 度 で あ っ た.BI型 とBII型 に 有 意 差 は み ら れ な い(491) 79
-Table 1 Relation of the 5 dominant types of the coronary artery to the 3 types of the left posterior ventriclar vein
(Fig.17). LPVV indexはBI型(n=9)で0 .122± 0.074(mean±standard deviation),BII型(n= 19)で0.108±0.086,BIII型(n=1)で0 .167, BIV型(n=2)で0.000±0.000で あ っ た.BI型 とBII型 に 有 意 差 は み ら れ な い(Fig.18).
5.中 心 臓 静 脈(middle cardiac vein, MCV) 中 心 臓 静 脈 は 室 間 溝 よ り 起 始 し 冠 状 静 脈 洞 (coronary sinus,CS)に 開 口 す る 静 脈 と し た. (1)中 心 臓 静 脈 の 起 始 心 尖 の 位 置 を0と し,前 室 問 溝 上 端 ま で の 長 さ を+1.0,後 室 間 溝 上 端 ま で の 長 さ を-1.0と し て,中 心 臓 静 脈 の 起 始 す る 位 置 を 心 尖 か ら の 長 さ で 表 わ し た.こ れ をMCV indexと し た.Fig.19 は こ れ を0.1幅 で 表 わ し た ヒ ス トグ ラ ム で あ る. 31例 中28例(90%)で は 前 室 間 溝 よ り起 始 し て い た が,3例(10%)で は 後 室 間 溝 よ り起 始 し て い た. (2)中 心 臓 静 脈 の 起 始 と冠 状 動 脈 優 位 型 の 関 係 中 心 臓 静 脈 は 後 室 間 溝 部 分 で は す べ て 冠 状 動 脈 の 前 面 を 走 行 し て い た. MCV indexはBI型(n=9)で0.188± 0.151(mean±standard deviation),BII型(n= 19)でO.125±0.213,BIII型(n=1)で0.368, BIV型(n=2)で0.187±0.042で あ っ た.BI型 とBII型 に 有 意 差 は み ら れ な か っ た(Fig.20).
6.小 心 臓 静 脈(small cardiac vein, SCV) 小 心 臓 静 脈 は 右 心 室,あ る い は 右 心 房 よ り起 始 し,冠 状 溝 を 左 方 に 進 み,冠 状 静 脈 洞(coronary sinus, CS),あ る い は 中 心 臓 静 脈 に 注 ぐ静 脈 と し た.小 心 臓 静 脈 は31例 中23例(74%)に 観 察 さ れ た. (1)小 心臓 静 脈 の 起 始 16例(52%)は 右 心 室 よ り起 始 し,右 冠 状 動 脈 (right coronary artery, RCA)の 右 心 室 側 を 通 っ
I
(n=9)
II
(n=19)
III
(n=1)
IV
(n=2)
Fig. 17 Changes in meas left posterior ventricular vein (LPVV) angle for every dominant type of the coronary artery
Fig. 18 Changes in mean left posterior ventricular vein (LPVV) index for every dominant type of the coronary artery
Fig. 19 Histogram of middle cardiac vein (MCV) index. An MCV index is a relative value of a length between the apex and the beginning of the MCV. A positive value is for a relative length to that of the anterior interventricular sulcus and a negative the posterior interventricular sulcus. LV: left ventricle, RV: right ventricle
(493) 81
-I
(n=9)
II
(n=19)
III
(n=1)
IV
(n=2)
Fig. 20 Changes in mean middle cardiac vein (MCV) index for every dominant type of the coronary artery
Fig. 21 Diaphragmatic aspect of the heart. The small cardiac vein originated in the right ventricle in 16 cases and in the right atrium in 7 cases. It was missing in 8 cases. CS: coronary sinus, MCV: middle cardic vein, RCA: right coronary artery (gray), SCV: small cardiac vein (black)
て 並走 し冠 状 静 脈 洞,ま た は 中 心臓 静 脈 に流 入 し
て い た(右 心 室 起 始 型).ま
た,7例(23%)で
は
右 心 房 よ り起 始 し,右 冠 状 動 脈 の 右 心 房 側 を通 っ
て 並走 し冠 状 静 脈 洞 へ 流 入 して い た(右 心 房 起 始
型).Fig.21は
小 心臓 静 脈 を起 始 お よ び走 行 に よ
り,右 心 室 起 始 型,右
心 房 起 始 型 に分 類 した もの
で あ る.
(2)小 心 臓 静 脈 の長 さ と冠 状 動脈 優 位 型 の関 係
右 冠 状 溝 の長 さ を1.0と
して小 心 臓 静 脈 の長 さ
を比 較 し た.こ れ をSCV indexと し た(Fig.22). Table 2は 小 心 臓 静 脈 と冠 状 動 脈 優 位 型 の 関 係 を あ ら わ し た も の で あ る.小 心 臓 静 脈 を も た な い も の で はBII型7例,BIV型1例 で あ っ た.SCV indexはBI型(n=9)で0.330±0.105(mean± standard deviation),BII型(n=19)で0.274± 0.344,BIII型(n=1)で0.856,BIV型(n=2) で0.117±0.165で あ っ た.BI型 とBII型 に 有 意 差 は み ら れ な か っ た(Fig.22).7.前 心 臓 静 脈(anterior cardiac veins, ACVs) 右 心 室 前 面 か ら起 始 し,冠 状 溝 を 越 え て 直 接 右 心 房 に 開 口 す る 静 脈 は す べ て 前 心 臓 静 脈 と し た. (1)前 心 臓 静 脈 の 本 数 Table 3は 前 心 臓 静 脈 の 数 と例 数 を あ ら わ し た も の で あ る.前 心 臓 静 脈1本1例,2本13例,3 本8例,4本7例,5本1例,6本1例 で あ っ た. (2)前 心 臓 静 脈 の 開 口 部 Fig.23は 心 房 を 分 離 し,心 室 側 を 上 面 か ら み た も の で あ る.三 尖 弁(tricupsid valve,TV)の 周 囲 に360度 の 円 を仮 定 し 前 心 臓 静 脈 の 開 口 部 位 を 調 べ た.な お,三 尖 弁 の 中 隔 尖 と前 尖 の 間 を0
Fig.24は
横 軸 に前 心 臓 静 脈 の 流 入 角 度 を,縦
軸 に前 心 臓 静 脈 の 本 数 を と った ヒス トグ ラ ム で あ
る.90度 付 近 を頂 点 と し,10か
ら140度
の範 囲 で
前 心臓 静 脈 が 右 心 房 に流 入 して いた.
(3)前 心 臓 静 脈 の 数 と冠 状 動 脈 の 優 位 型 の 関 係
BI型,BII型
と も に前 心 臓 静 脈 は2本 の も のが
最 も多 く,BIII型
の1例
は1本,BIV型
の2例
は
3本 で あ った(Table4).
(4)前 心 臓 静 脈 の 数 と小 心 臓 静 脈 の 長 さ の 関係
Fig.25は
前 心 臓 静 脈 の 数 を 横 軸 に,SCV
indexを 縦軸 に とっ た 分 布 図 で あ る.両 者 に は有
意 の 相 関(n=31,r=-0.416,p<0.02)が
み ら
れ た.な
お,小 心 臓 静 脈 が 存 在 し なか っ た もの は
SCV index=0と
した.
I
(n=9)
II
(n=19)
III
(n=1)
IV
(n=2)
Fig. 22 Changes in meas small cardiac vein (SCV) index for every dominant type of the coronary artery. A SCV index is a relative value of a length of the SCV to that of the right coronary sulcus. SCV: small cardiac vein
(495) 83
-Fig. 23 View of the cardiac bases after removal of both atria. The openings of the ante-rior cardiac veins were measured by the angles from the anterior commisure around the tricupsid valve as above. Ao: aorta, MV: mitral vauve, pT: pulmonary trunc, TV: tricupsid valve
8.左 心 房 斜 静 脈(oblique
vein of the left
atrium,OV)
左 心 房 背 面 で 左 肺 静 脈 開 口部 付 近 よ り起 始 し,
右 下 方 に進 ん で 大 心 臓 静 脈 と冠 状 静 脈 洞 の移 行 部
に開 口 す る もの を左 心 房 斜 静 脈 と した.左 心房 斜
静 脈 は27例(87%)に
観 察 さ れ た.
Table 4 Relation of the 5 types of the coronary artery to the number of the anterior cardiac veins
9.冠 状 静 脈 洞(coronary sinus,CS)
左 心 房 斜 静 脈(oblique vein of the left atrium, OV)開 口 部 か ら 冠 状 静 脈 洞 口 左 縁 ま で を 冠 状 静 脈 洞 と し た.左 心 房 斜 静 脈 が 不 明 で あ る も の4例 は 除 外 し た. (1)冠 状 静 脈 洞 の 長 さ 冠 状 静 脈 洞 の 長 さ は27例 で 計 測 し35.52± 10.15mm(mean±standard deviation)で あ っ た.左 冠 状 溝 の 長 さ を1.0と し た 場 合(CS index) は0.375±0.110で あ っ た. (2)冠 状 静 脈 洞 の 長 さ と冠 状 動 脈 優 位 型 の 関 係 CS indexはBI型(n=9)で0.394±
Fig. 25 Regression plot for the number of the anterior cardiac veins (ACVs) and small cardiac vein (SVC) index
Fig. 26 Changes in mean coronary sinus (CS) index for every dominant type of the coronary artery. A CS index is a relative value of a length between the opening of the left atrial oblique vein and the right margin of the coronary sinus ostium to that of the left coronary sulcus.
0,109(mean±standard deviation),BII型(n= 19)で0.358±0.119,BIII型(n=1)で0.400, BIV型(n=2)で0.434±0.008で あ っ た.BI型 とBII型 に 有 意 差 は み ら れ な か っ た(Fig.26).
考
察
Schlesinger12)は 冠 状 動 脈 の 形 態 を右 冠 状 動 脈
優 位 型,バ
ラ ンス 型,左 冠 状 動 脈 優 位 型 の3型 に
分 類 した.し か し,本 研 究 で この分 類 を用 い る と
(497) 85
-前2者
が94%を
占 め て し まい 詳 細 に 冠 状 動 脈 の
形 態 を把 握 で き な い .そ こで,冠 状 静脈 と冠状動
脈 優 位 型 の 関 係 を よ り詳 細 に調 べ るた め,冠 状 動
脈 優 位 型 を5型
に分 類 し たBarnesの
分 類 を用 い
た.心 臓 静 脈 の 走 行 分 岐 に つ い て はX線
造 影 法 に
よ りTori13),Campeti14),Goffredo15)ら
が 臨 床 解
剖 学 的 に検 索 し報 告 して い る.
心 臓 静 脈 と 冠 状 動 脈 の 関 係 に つ い
て,Pi-quand16)は 心 臓 静 脈 の 形 態 は 変 化 に富 ん で お り基
本 型 を見 い 出 す の は 困難 で あ る が,右 側 の心 臓 の
静 脈 は右 冠 状 動 脈 支 配 領 域 に,左 側 の 心 臓 の静 脈
は左 冠 状 動 脈 領 域 に 分 布 す る と述 べ て い
る.Mo-chizuki17)は本 邦 成 人 の 冠 状 静 脈 に つ い て 局 所 解
剖 学 的 に詳 細 な報 告 を行 い,こ の 中 で 心 臓 静 脈 と
冠 状 動 脈 の 関 係 に つ い て 言 及 して い る.
Table 5に 大 心 臓 静 脈 の 起 始 に つ い て の 文 献 的
比 較 を挙 げ た.ど
の報 告 も前 室 間 溝 の 下 部3分
の
1よ り起 始 す る もの が 最 も多 く,次 い で 中 部3分
の1,心
尖 の 順 とな っ て い る.
Luedinghausen18)は
大 心 臓 静 脈 の2%に2∼10
mm程
度 の 壁 内 走 行(intramural
course)が
み ら
れ た と報 告 して い る が,Pejkovicら19)は
大 心 臓 静
脈 の枝 に の みmyocardial
bridgeを 有 す る もの が
2%で
あ っ た と報 告 して い る.本 研 究 で は大 心 臓
Table 5 Beginning of the great cardiac vein in the anterior interventricular sulcus
静 脈 の本 幹 の 壁 内 走 行 が1例(4%)で
観 察 さ れ
ほ ぼ 同様 の 結 果 を得 た.
大 心 臓 静脈 と左 冠 状 動 脈 の走 行 関係 につ いて,
Mochizukiは160例
を調 べ,一 般 的 に は大 心臓 静
脈 が 左 冠 状 動 脈 の 前 面 を走 行 す る が,Table
6の
よ うに これ と逆 の 位 置 関 係 が あ る こ とを報 告 して
い る.
大 心 臓 静 脈 と左 冠状 動脈 前 室 間 枝 お よ び左 冠 状
動 脈 回旋 枝 が形 成 す る三 角Triangle
of Brocq
and Mouchet20)に
つ い てLuedinghausenは350
例 の う ち,大 心 臓 静 脈 が左 冠状 動脈 の 前 面 を走 行
す る もの が49%,左
冠 状 動 脈 外 側 枝 が大 心臓 静 脈
の 前 面 を走 行 す る もの が9%,回
旋 枝 が 大 心臓 静
脈 の 前 面 を走 行 す る も の が20%で
あ った と報 告
して い る.ま た,Pejkovicら
は150例
の うち,回
旋 枝 が 大 心臓 静 脈 の 前 面 を走 行 す る もの が27%,
左 冠 状 動 脈 前 室 間 枝 が 大 心 臓 静 脈 の前 面 を走 行 す
る も の が3%,大
心 臓 静 脈 がTriangleの
後 面 を
走 行 す る もの が37%で
あ っ た と報 告 して い る.
本 研 究 で は 冠状 動脈 優位 型 と大 心 臓 静 脈 の 起 始
部 に は関 連 は 見 られ ず,ほ
とん どの 大 心 臓 静 脈 の
起 始 部 は前 室 間溝 の下 部3分
の1で あ った.し た
が っ て,逆 行 性 冠 灌 流 法 で 大 心臓 静 脈 に注 入 され
た心 筋 保 護 液 は冠 状 動 脈 優 位 型 に 関 係 な く前 室 間
溝 の 下 部 に到 達 す る と考 え られ る.
Pejkovicら
は13%で
大 心 臓 静 脈 は中 心 臓 静 脈
と吻 合 しvenous ringを 形 成 し て い た と し て い
る.本 研 究 で は心 尖 部 で大 心 臓 静 脈 と中心 臓 静 脈
の 吻 合 は48%に
み られ,観 察 の精 度 に よ り結 果 が
異 な る もの と考 え られ る.心 臓 静 脈 問 の 吻 合 に つ
い てHadziselimovicら21)は100例
中49例(左
心
室表 面46例,右
心 室 表 面3例)に
見 られ た と報 告
(1983)に
も第6版Nomina
Anatomica(1989)
に も独 立 した 静 脈 と して は記 載 され て い な い.左
辺 縁 静 脈 はV.posterior
ventriculi sinistri(第5
版)あ るい はV(v).ventriculi
sinistri
posterior
(es)(第6版)に
含 まれ て い る もの と考 え られ る.
しか し,本 研 究 で 明 らか に され た よ うに左 辺 縁 静
脈 は鈍 縁 を走 行 す る左 冠 状 動 脈 の分 枝 に対 応 して
高 率 に存 在 して い た.
左 辺 縁 静 脈 の 流 入 角 はBI型
で はBII型
よ り有
意 に大 きい値 で あ った(p<0.05).こ
れ は左 冠 状
動 脈 回旋 枝 部 分 の 手 術 の 際 に考 慮 され るべ き で あ
る.
Fig.16に
示 した左 心 室 後 静 脈 の 型 は 冠状 動 脈
造 影 の静 脈 相 で 確 認 可 能 で あ る と考 え られ る.左
心 室 後 静 脈3型(合
流 型)で
は,逆 行 性 冠 灌 流 用
カ テ ー テ ル を冠 静 脈 洞 の 深 部 に留 置 す る と,左 心
室 横 隔 面 の 心 筋 保 護 効 果 が 低 下 す る 危 険 性 が あ
る.し たが っ て,左 冠状 動脈 優 位 型(Barnes
IV,
V型)で
左 冠 状 動 脈 に 高度 狭 窄 を有 す る場 合 は逆
行 性冠 灌 流 用 カ テ ー テ ル の 位 置 に特 に注 意 す べ き
で あ る.ま た,左 心 室 後 静 脈3型
で は逆 行 性冠 灌
流 用 カ テー テ ル が左 心 室 後 静 脈 に 挿入 され て し ま
う可 能 性 が あ る.こ の場 合,カ
テ ー テ ル に よ る静
脈 損傷 や 左 心 室 の心 筋 保 護 低 下 の危 険 性 が あ る と
考 え られ る.
Mochizukiは
中 心 臓 静 脈 は160例
中 全 例 に 観
察 され た と報 告 し て い る.小 心 臓 静 脈 と心 臓 動 脈
優 位 型 の関 係 に つ い て 望 月22)はBarnes IV V型
に相 当 す る11例
に小 心 臓 静 脈 を有 す る もの が4
例,I,II型
に相 当 す る21例 にSCVを
有 す る も
の が7例,III型 に相 当 す る22例
に小 心 臓 静 脈 を有
す る ものが4例
で あ り,こ れ ら3群 に著 しい差 異
を有 す る とは思 わ れ な い と報 告 して い る.ま た,
小 心 臓 静 脈 以 外 の心 臓 静 脈 につ い て も冠 状 動 脈 優
い ず れ も記 載 し た.
本 研 究 で は右 心 室 起 始 型 は52%(16%)で
あ り,
小 心 臓 静 脈 に注 入 さ れ た 心 筋 保 護 液 は約 半 数 で 右
心 室 横 隔面 の 上 部 を灌 流 す る と考 え られ る.
Mochizukiは
小 心 臓 静 脈 の 発 育 程 度 か ら次 の
5群 に分 類 して い る.1群)こ
の 群 に 属 す る もの
は160例
中18例
で あ った.小
心 臓 静 脈 の 発 達 が
「
強 大 」で,右 心 室 前 壁 お よび 下 壁 の静 脈 を集 め る.
大 心 臓 静 脈 と同等 か そ れ 以 上 に発 達 し,前 心臓 静
脈 を欠 く.2群)こ
の 群 に属 す る もの は160例
中
23例 で あ っ た.小 心臓 静 脈 の 発 達 が 「
強 」 で右 心
室 の 大部 分 の 静 脈 を受 け るが,前 壁 の 一 部 の み 前
心 臓 静 脈 に注 ぐ.3群)こ
の 群 に 属 す る もの は160
例 中15例
で あ った.小 心 臓 静 脈 の 発 達 が 「
弱 」で
右 心 室 下 壁,あ
る い は右 心 縁 外 の静 脈 を集 め る.
4群)こ
の 群 に 属 す る も の は160例
中18例
で
あ っ た.小 心臓 静 脈 の発 達 が 「
弱 小 」 で冠 状 溝 に
か ろ う じて 径2mmの
静 脈 が わ ず か の 長 さ で 走
行 す る.5群)こ
の群 に属 す る もの は160例
中86
例 で あ っ た.小 心臓 静 脈 をほ とん どあ るい は完 全
に欠 く.
これ に よ り,小 心 臓 静 脈 と前 心臓 静 脈 の発 達 に
は逆 相 関 性 の あ る こ とが 示 唆 され て い るが,本 研
究 に よ り前 心 臓瀞 脈 の 数 と小 心 臓 静 脈 の相 対 的 な
長 さ で あ るSCV
indexは 統 計 的 に 逆 相 関 す る こ
とが 改 め て証 明 され た(Fig.25).し
た が っ て,前
心 臓 静 脈 の数 が 少 な い 場 合 で は小 心 臓 静 脈 か ら注
入 され た 心 筋 保 護 液 が 右 心 室 前 面 上 部 へ 灌 流 しや
す い と考 え られ る.
冠 状 静 脈 洞 に注 ぐ心 臓 静 脈 の 分 布 様 式 に つ い て
Luedinghausenは5型
を報 告 して い る.
Table 7に 示 す よ う に,冠 状 静 脈 洞 の 計 測 値 は
報 告 者 に よ っ て幅 が あ る が,本 研 究 で は個 体 差 を
補 正 す るた め 冠状 静 脈 洞 の計 測 値 を左 冠 状 溝 の 長
(499) 87
-Table 7 Length of the coronary sinus
さ で除 したCS indexを 用 い た(Fig.26).逆
行 性
冠 灌 流 用 カ テ ー テ ル は通 常 冠 状 静 脈 洞 部 分 に置 か
れ るが,冠 状 静 脈 洞 の 長 さ と冠 状 動 脈 優 位 型 に は
関 連 は見 られ な い.
逆 行 性 冠 灌 流 用 カ テ ー テ ル が 冠 状 静 脈 洞 に深 く
留 置 さ れ た 場 合,中
心 臓 静 脈 へ の心 筋 保 護 液 の灌
流 低 下 が 考 え られ る.こ の場 合,冠
状 静 脈 洞 あ る
い は中 心 臓 静 脈 に 開 口す る小 心 臓 静 脈 へ の心 筋保
護 液 の灌 流 低 下 も考 え られ る.し た が っ て,効 果
的 な右 心 室 の 心 筋 保 護 の た め に は逆 行 性 冠 灌 流 用
カ テ ー テ ル はで き る限 り浅 く留 置 し,か つ バ ル ー
ン部 分 で 中 心 臓 静 脈 あ る い は小 心臓 静 脈 開 口部 を
閉 塞 し な い よ うな 注 意 が 必 要 で あ る.さ
らに右 心
室横 隔 面 の心 筋 保 護 を確 実 に し よ う とすれ ば 中 心
臓 静 脈 へ の逆 行 性 冠 灌 流 用 カ テ ー テル の留 置 も検
討 さ れ る べ きで あ る.し か し,中 心 臓 静 脈 は冠 状
静 脈 洞 と比 較 して 心 筋 の 被 覆(myocardial
cover-age)が
少 な い た め25)に血 管 損傷 の 危 険 性 もあ り,
今 後 さ ら に技 術 的 な検 討 が 必 要 と考 え る.
結
論
本 邦 ヒ ト成 人 心 臓31例
を使 用 し,冠 状 静 脈 洞 の
形 態 な らび に 冠 状 静 脈 洞 に 流 入 す る各 静 脈 枝 と冠
状 動 脈 優 位 型 との 関 係 に い て 調 査 し下 記 の 結 論 を
得 た.
1) 大 心 臓 静 脈 の 起 始 はBI型
とBII型
と の 間
に差 は な か った.
2) (1)左 辺 縁 静 脈 は ほ ぼ 直 角 に 流 入 す る も の
(18例,58%)と,鋭
角 に流 入 す る もの(11例,
35%)の2群
に 分類 され た.
(2)LMV流
入 角(LMV
angle)はBI型
がBII
型 よ り有 意 に大 きか っ た(p<0.05).
(3)LMV
indexはBI型
とBII型
に差 は み られ
な か っ た.
3) (1)左 心 室 後 静 脈 流 入 角(LPVV angle)は BI型 とBII型 と の 間 に 差 は な か っ た. (2)LPVV indexはBI型 とBII型 と の 間 に 差 は な か っ た. 4) 中 心 臓 静 脈 の 起 始 はBI型 とBII型 と の 間 に 差 は な か っ た. 5) SCV indexはBI型 とBII型 と の 間 に 差 は な か っ た. 6) 前 心 臓 静 脈 の 数 とSCV indexに は 有 意 の 相 関(n=31,r=-0.416,p<0.02)が み ら れ た. 7) CS indexはBI型 とBII型 との 間 に 差 は な か っ た. 以 上 よ り,冠 状 静 脈 洞 に 注 入 さ れ た 心 筋 保 護 液 は 心 胸 肋 面(Fscies sternocostalis),横 隔 面 (Facies diaphragmatica),肺 面(Facies pul-monalis)を 容 易 に 灌 流 す る と考 え られ た.ま た, 小 心 臓 静 脈 が 右 心 室 起 始 型 で 発 達 し て い る 場 合, 心 右 縁(Margo dexter)の 灌 流 は 良 好 と 考 え ら れ た.前 心 臓 静 脈 の 発 達(ACVsの 数)と 小 心 臓 静 脈 の 発 達(SCV index)は 逆 相 関 し て お り,前 心 臓 静 脈 が 発 達 し て い る 場 合,心 右 縁(Margodex-ter)の 灌 流 低 下 が 考 え られ た. 稿 を終 わ る にあ た り,懇 切 な る御 指 導,御 校 閲 を賜 わ り ま した 日本 医科 大学 解剖 学 第2教 室伊 藤博 信 教授 に厚 く御 礼 を申 し上 げ ます.ま た,終 始御 協 力 を頂 きま した 日本 医 科 大 学解 剖学 第2教 室 田沼 久 美子 助 教授 に深 く感 謝 致 しま す. 本 論文 の要 旨 は第99回 日本 解剖 学 会総 会(1994年3月) に おい て発 表 した.文
献
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