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仮想空間内での衣服設計を目的とした
バーチャルボディの比較検討
―アパレル 3D-CAD を用いて―
(2017 年 12 月 31 日受付;2018 年 5 月 19 日受理) 瀨尾 香 安田女子大学Comparison of Virtual Bodies for the Purpose of Clothes Design in Virtual Spaces
― Using Apparel 3D-CADs ―
Kaoru SEO
Yasuda Women's University, Hiroshima, Japan
―― 要 旨 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 本研究は,個別対応型のアパレル 3D-CAD に搭載されているバーチャルボディに着目し,その有 用性を確認する為に,アパレル CAD ソフトウエアサービス会社,東レ ACS 株式会社(CREA COMPO Ⅱ)とデジタルファッション株式会社(DressingSim LSX)2 社のバーチャルボディを対象として,リ アルボディとの比較検討を行った.結果,各社に搭載されているバーチャルボディは,同種類のリ アルボディをバーチャル化したものであっても,それを使用して作成したパターンにおいては,細 部で相違が認められ,各社で異なることが確認された.バーチャルボディの基準線をどう設定する か,リアルボディをバーチャル化する際における XYZ 軸の線の調整方法など検討する必要があるこ とが示された. キーワード:個別対応,アパレル 3D-CAD,バーチャルボディ,リアルボディ,バーチャル化 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(Journal of the Japan Research Association for Textile End-Uses, Vol.59, pp.629-635, 2018)
1.緒 言 ファッションを取り巻く社会環境が急速に変わ りつつある中,改革の動きが鈍く不振から抜け出 せないアパレル業界の現状がある.大きな転機と なったのは 1990 年代前半のバブル崩壊後の景気 低迷とデフレ,そして 2008 年のリーマンショック である.それによって,アパレルの業績不振が表 面化したのは 2010 年頃からだという 1).インター ネットの普及やデジタル技術の発達により,E コ マースや IoT など,ファッションの新しいビジネス モデルが構築され,消費動向も変化した.これま での大量生産,大量供給型ビジネスから,消費者 のニーズに対応したビジネスへの変換を迫られて いる 1),2).個々のニーズに応えるために,佐藤 3)~5) は,顧客の体形・サイズを調査し,三次元人体計 測システム(浜松ホトニクス製ボディラインスキ ャナー)を用いて,データに基づいたリアルボデ ィを作成した.また個別対応型のアパレル 3D-CAD にはバーチャルボディが搭載され,仮想空間 内で,ボディの表面展開や着装シミュレーション (バーチャルフィッティング)などを行うことが できる.いずれも衣服設計に活用可能なツールと して提案されている.バーチャルボディは搭載さ れたもの以外に,人体の 3D スキャンデータから 新たにボディを作成し搭載することもできる.こ れにより,様々な体形・サイズに対応が可能とな るとしている.しかし,この衣服設計の土台とな るバーチャルボディについては,まだ実例が少な く未知数で検討が不十分である. 本研究では,個別対応が可能なバーチャルボデ 資 料
Fig.4 Two-dimensional pattern with the virtual body's surface peeled off (CREA COMPOⅡ)
Fig.5 Loose pattern after adjustment of two-dimensional pattern (CREA COMPOⅡ)
Fig.6 Two-dimensional pattern with the virtual body's surface peeled off (DressingSim LSX)
Fig.7 Loose pattern after adjustment of two-dimensional pattern (DressingSim LSX) ィに着目し,その有用性を確認する為に,アパレ ル CAD ソフトウエアサービス会社 2 社のバーチ ャルボディを対象として,リアルボディとの比較 検討を行うこととした. 2.研究方法 2-1 ボディの選択 実験に使用するリアルボディは,一般に使用さ れる工業用の New Kypris A タイプ 9AR-R ボディ とし(Fig.1),比較対象のアパレル CAD ソフトウ エアサービス会社は,企業や個人のユーザーを多 数持つ,東レ ACS 株式会社(以下 T 社とする)と T 社とは異なる機能を持ち,且つ,3D 形状を 2D に展開する機能を持つデジタルファッション株式 会社(以下 D 社とする)とした.使用したソフト ウエアは,T 社の CREA COMPOⅡ(ver.4.0.0.2), D 社の DressingSim LSX(ver.3.2.3)である.バー チャルボディは,各社のアパレル CAD に搭載済の もので,リアルボディと同種類の New Kypris A タ イプ 9AR-R ボディを選択した(Fig.2,Fig.3).
Fig.1 Real body and body dimension (New Kypris A type 9AR-R) 2-2 比較方法 バーチャルボディの基準線は,既存(デフォル ト)の基準線をそのまま利用した.リアルボディ もバーチャルボディと同様の位置,即ち,前後中 心(以下 CF,CB とする),肩,脇,首付け根,前 後プリンセスライン,バストライン(以下 B.L と する),ウエストライン(以下 W.L とする),ヒッ プライン(以下 H.L とする),袖ぐり(以下 A.H と する)を設定し,鎌底は B.L より 1.0 ㎝上に設定 した.バーチャルボディの基準線については,既 存の位置がそのまま衣服パターンの基準線になる とは限らない.しかし,現段階では線の移動は, フリーハンドで行うしかなく,移動量が曖昧にな る為,今回は線の移動は行わなかった. 基準線設定後,各パーツを基準面として登録. ボディの表面展開機能を使用して,上半身と下半 身両方の 2D パターンを生成した(Fig.4,Fig.6). 2D パターンは傾いたままで各パーツが展開され る為,CF,CB を垂直に,B.L 及び H.L を水平に なるよう調整してからゆとりを入れた(Fig.5, Fig.7).ゆとりの入れ方は,大野式 6)のパターンメ ーキング法を参考に,ゆとり量もそれに準じて,バ スト=+4.0 ㎝,ウエスト=+2.4 ㎝,ヒップ=+ 4.0 ㎝とした.トワルは両身頃を作成し,上半身と 下半身はウエストで接ぎ合わせ,これをリアルボ ディに着せ付け検証を行った(Fig.9).
Fig.2 Virtual body of New Kypris A type 9AR-R and body dimension (CREA COMPOⅡ)
Fig.3 Virtual body of New Kypris A type 9AR-R and body dimension (DressingSim LSX)
Fig.4 Two-dimensional pattern with the virtual body's surface peeled off (CREA COMPOⅡ)
Fig.5 Loose pattern after adjustment of two-dimensional pattern (CREA COMPOⅡ)
Fig.6 Two-dimensional pattern with the virtual body's surface peeled off (DressingSim LSX)
Fig.7 Loose pattern after adjustment of two-dimensional pattern (DressingSim LSX)
3.結果及び考察
生成した 2D パターンを調整し,ゆとりを入れ た各社のパターン重合図を Fig.8 に示す.実線は T 社 CREA COMPOⅡ,破線は D 社 DressingSim LSX で,各々の B.L と H.L を合わせたものである.両 社の CF~S.N.P 間及び CB~S.N.P 間を比較する と,前後差が T 社 1.1 ㎝,D 社 1.6 ㎝で,特に D 社の CB~S.N.P 間が大きい.前後丈を見ると T 社 は前のほうが 0.5 ㎝長く,D 社は後ろのほうが 1.2 ㎝長いことから,D 社のサイドネックポイント(以 下 S.N.P とする)は通常よりも前寄りに設定され ていることが示された.また,フロントネックポ イント(以下 F.N.P とする)及びバックネックポ イント(以下 B.N.P とする)と前後のショルダー ポイント(以下 S.P とする)及び A.H にも違いが 認められた.鎌底については,T 社は B.L から 1.7 ㎝上がった位置,D 社は B.L から 3.4 ㎝上がった 高い位置に設定されており,いずれも腕付け根に
Fig.8 Polymerization diagram of loosened pattern after adjustment (Solid line:CREA COMPOⅡ,
Dashed line:DressingSim LSX) 近い位置であった.バスト,ウエスト,ヒップの 前後差については,T 社はバストが 3.6 ㎝,ウエ ストが 3.1 ㎝,ヒップが 3.8 ㎝と前後差が大きく, D 社はバストが 0.6 ㎝,ウエストが 1.9 ㎝,ヒップ が 0.2 ㎝と前後差は小さかった.ダーツについて は,T 社のバストダーツ量は肩で 7.1 ㎝,ウエス トで 3.4 ㎝と通常よりも多く,D 社は肩で 5.5 ㎝, ウエストで 2.6 ㎝であった.後ろのダーツ量につ いては,T 社は肩で 1.7 ㎝,ウエストで 1.6 ㎝,D 社は肩で 1.2 ㎝,ウエストで 2.7 ㎝を示し,T 社の ウエストダーツ量が少ないことが示された.下半 身のウエストダーツ量については,各社で殆ど差 は認められなかったが,ダーツ位置については, 特に後身頃で 2 ㎝近くずれが生じていた.これは 脇線の設定位置が異なることが原因であると考え られた.
Table 1 Pattern dimension of CREA COMPOⅡ
Table 1 は CREA COMPO II,Table 2 は DressingSim LSX の各バーチャルボディから生成した 2D パタ ーン寸法と,それを調整したゆとり入りパターン 寸法,及び,リアルボディに合わせて修正したゆ とり入りパターン寸法を示す.各部位におけるバ ーチャルボディ寸法と生成した 2D パターン寸法 との差は,T 社ではバスト,ウエストで-0.4cm, ヒップで-0.5cm,D 社ではバスト,ヒップで±0.3 ㎝,ウエストで-0.1 ㎝であった.CF~S.N.P 間及 び CB~S.N.P 間については,前述した通りである. 背丈については,T 社,D 社ともに 1.0 ㎝伸長して いたが,これは,背中のカーブに沿った形でパタ ーンが展開された為だと推察する.他の部位につ いては,D 社の背肩幅が 0.4 ㎝伸長,他は 0.1~0.2 ㎝の伸縮に留まった. 以上より,生成した 2D パターン寸法について は,T 社,D 社いずれも各部位に対して伸縮が認 められたが,これは,立体形状を平面化するとき に起こる歪みが影響したもので,ある程度は止む を得ないと考える. 調整後のパターン寸法については,加えたゆと り量を差し引いて,生成した 2D パターン寸法と 比較してみると,両社ともに寸法差の大きい箇所 はバストであった.T 社では 0.5 ㎝,D 社では 0.7cm の差が生じていた.これは,線の繋がり等パター ンメーキング上,必要な調整を加えたことによる もので,背丈及び CF~S.N.P 間と CB~S.N.P 間, CF~F.N.P 間と CB~B.N.P 間についても同様の理 由で若干寸法差が生じている. 次に,ゆとり量についてであるが,リアルボデ ィ自体にも個体差がある為,バーチャルボディか ら作成したパターン,即ち,調整後のゆとり入り パターンとの寸法差を把握しておく必要がある. リアルボディのバスト寸法は 88.0 ㎝.T 社のバー チャルボディのバスト寸法はリアルボディと同寸 法であるが,D 社は 87.0 ㎝でリアルボディよりも 1.0 ㎝小さい為,最終的なゆとり量は 2.0 ㎝と少な くなっている.また,T 社の生成した 2D パターン のヒップ寸法は 0.5 ㎝収縮した為,最終的なゆと り量は 3.4 ㎝とこちらもやや少なくなっている. 他の部位については,特に問題は認められなかっ たが,リアルボディとバーチャルボディとの寸法 差によって,想定したゆとり量が変わってくるこ とが明らかとなった. 上述の通り,各社,アパレル CAD に搭載された バーチャルボディについては,同種類のリアルボ ディをバーチャル化したものであっても,それを
Fig.9 Photographs correcting the body on the right side of the toile according to the shape of the body 使用して作成したパターンは,T 社,D 社でいず れ も 異 な り 細 部 で 相 違 が 生 じ る 結 果 と な っ た (Fig.8).Fig.9 の着装写真は,調整後のゆとり入 りパターンを使用してトワルを作製し,リアルボ ディに合わせて右半身を修正したものである.
Fig.10 Polymerization diagram of pattern modified according to the shape of the body (Solid line:CREA
COMPOⅡ, Dash-dotted line:DressingSim LSX) 修正箇所は,衿ぐり,AH,W.L,脇線である.写 真中の実線は修正前の線を示し,破線はボディに 合せて修正した線を示す.基準線の位置やゆとり 量の違いによって,着せ付けたときの見た目の印 象が異なって見える.T 社の CREA COMPOⅡに ついては,肩が広くヒップが小さい逆三角形に見 え,D 社の DressingSim LSX については,肩はナチ ュラルに見えるがヒップは大きいという印象を受 ける.これは,ゆとり量が T 社ではバストがヒッ プより多く,D 社ではヒップがバストより多くな っている為だと推察する.しかし肩幅については, 寸法差はわずかで,最終的なパターンの違いによ り異なった印象になったと考える.主として脇線 と AH の修正においては,T 社の脇線は後寄りで, 各所(B.L,W.L,H.L)の前後差が 3 ㎝以上あっ た為,パターンは前後のバランスを見て,上半身, 下半身ともに 1 ㎝前へ平行移動した.また AH の 形状が異なることから袖つけも変わってくること が 予 測 さ れ た . 修 正 し た パ タ ー ン の 重 合 図 を Fig.10 に示す.実線は CREA COMPOⅡ,一点鎖線 は DressingSim LSX で,各々の B.L と H.L を合わ せたものである.やはり,元々のパターンに違い がある為,同じボディに着せ付け修正しても,パ ターンは各社で異なることが示された. このように,生成した 2D パターン,それを調整 したパターン,また,リアルボディに合わせて修 正したパターンについて,各社で違いが生じた原 因については,生成した 2D パターンにおける歪 みや調整による誤差の影響というよりも,基準線 の設定位置やバーチャルボディ作成時における XYZ 軸の線の調整方法に問題があるのではないか と考える.即ち,ボディデータの各ポイントを体 表面に沿って XYZ 軸方向に動かし調整する際,ど の方向にどの程度動かすかは,作成者の裁量によ るところが大きく不確実な面が否めないからであ る.また,アパレル 3D-CAD のソフト上の問題な ども考えられる.バーチャルボディについては, 各社,統一されたボディが搭載されることが望ま しいが,ソフトウエアなどの関係で相違が生じた 場合には,それに対してどう整合性を図るのかな どの課題も残る. 近年は,アパレル 3D-CAD を被服教育に向けて 活用する例も見受けられ,住野 7) は,学生 124 名 のバーチャルボディを作成し,それを使用して着 装シミュレーションによる原型の検討を行ってい る.工藤 8) も学生の衣服構成への理解・関心を深め る為に着装シミュレーションを被服実習に取り入 れている.また,大塚ら 9) によるバーチャルボディ を視野に入れた,三次元人体モデルの計測や分析 なども活発に行われており,アパレル設計の為の 最新の人体計測データベースを構築し,公開する 動きも見られる.バーチャルボディの有用性が高 まれば,それが一般化し,個別対応が容易に可能 となり,仮想空間内での衣服設計や着装シミュレ ーションにも高い再現性が期待できる.これを端 緒として,アパレル CAD ソフトウエアサービス会 社各社の早急の対応を切望するものである. 尚,図表中の測定部位の英語表記については, 「JIS ハンドブック繊維 L0111“衣料のための身体 用語”」を参照した. 4.結 語 個々のニーズに対応した新たな衣服設計への取 り組みが不可避であることから,個別対応が可能 なバーチャルボディに着目し,その有用性を確認 する為に,アパレル CAD ソフトウエアサービス会 社 2 社のバーチャルボディを対象として,リアル ボディとの比較検討を行った.結果,各社のバー
チャルボディは,同種類のリアルボディをバーチ ャル化したものであっても,それを使用して作成 したパターンにおいては,細部で相違が認められ, 各社で異なることが確認された.パターンが異な れば見た目の印象も変わる.衣服設計においては パターンの違いによる差は大きい.基準線をどう 設定するか,バーチャルボディ作成時における線 の調整方法など検討する必要があることが示され た. 終わりに,本研究に有益なご助言,ご教示を頂 いた文化学園大学名誉教授田村照子氏,並びに, 元東京デザイナー学院講師宮内典子氏に深甚の謝 意を表します. 参考文献 1) 杉原淳一,染原睦美;誰がアパレルを殺すの か,日経 BP 社,P104,P187(2017) 2) 尾原蓉子;創造する未来,繊研新聞社,P32-34(2016) 3) 佐藤隆三;顧客満足創造型アパレル設計,繊 研新聞社,(2002) 4) 佐藤隆三;グットフィット・テクノロジーの 知識と技術,繊研新聞社,(2005) 5) 佐藤隆三,下垣内裕香,野口賀代;アパレル 設計のイノベーション,繊研新聞社,(2013) 6) 大野順之助;パターンメーキングの原理,株 式会社アミコ ファッションズ,(1985) 7) 住野雅子;3 次元着装シミュレーションによ る原型検証-マス・カスタマイゼーションに よる方法論-,ファッションビジネス学会 東日本支部講演論文 No.4,P120-125(2010) 8) 工藤寧子;3 次元着装シミュレーションと被 服実習との関係(1),東北女子大学・東北女 子短期大学紀要,No.52:P129-133(2013) 9) 第 27 回ファッション造形学セミナー【速報】 2014~2016 年日本人の人体計測結果-日本 人の体型はどのように変化しているのか-, 日本繊維製品消費科学会,(2017) Abstract
In this research, we focused on the virtual body that is mounted in the individual correspondence type apparel 3D-CADs. In order to confirm their usefulness, 2 apparel CAD software service companies, i.e., the virtual bodies of Toray ACS Co., Ltd. (CREA COMPO II) and Digital Fashion Co., Ltd. (DressingSim LSX), were compared to a real body. As a result, the virtual bodies used by each company virtualize the same type of real body, but it was confirmed that the patterns created by using them are different. It was shown that it is necessary to consider how to set the reference line of the virtual body and how to adjust the XYZ axis line when virtualizing a real body.
(Received December 31, 2017; Accepted May 19, 2018) Key words : individual correspondence, apparel 3D-CAD, virtual body, real body, virtualization.