圃場への害虫の侵入防止は,防除の基本の一つであり,そ の代表的な方法が防虫ネットの利用である。ハウスの側窓や 天窓での障壁資材としての利用,あるいはネットトンネルな どの被覆資材としての利用が知られており(田中,1999), 一般にも普及している技術である。近年では,新たな防除資 材として赤色ネットが市販されるようになり,侵入防止の重 要性が再認識されている(例えば,大矢ら,2011;桑原ら, 2013)。 防虫ネットは,一定以上の体サイズの害虫の侵入を一律に 阻止するものである。害虫を通過させない目合い(格子状 の空隙の1辺の長さ)は,例えば,マメハモグリバエでは 0.64mm,タバココナジラミでは0.46mm,ワタアブラムシ では0.34mm,ミカンキイロアザミウマでは0.19mm とされ ている(Bethke and Paine, 1991)。目合いが細かいほど害 虫の侵入阻止効果が高まるのは明らかだが,一方で,通気性 の低下による施設内温度の上昇といった栽培環境への影響や 作業環境の悪化も指摘されている(上遠野・河名,1996;田中, 1999;Shimazu et al., 2008)。実際の栽培場面での適切な 防虫ネット目合いとしては,例えば,コナジラミ類に対し ては0.4mm(佐々木・中村,2005;広島県総合技術研究所, 2008;野菜茶業研究所,2009),キスジノミハムシに対して は0.6mm ~ 0.8mm(京都府農業総合研究所,1997;福井 , 2002; 中野ら,2006; 中野,2008),ネギアザミウマに対し ては0.8mm(岡崎,2004),コナガに対しては1mm(柴尾ら, 2005),ワタヘリクロノメイガとオオタバコガに対しては4 mm(行徳ら,2004)など,多くの報告がなされている。 従来,農薬散布では防除しきれない害虫を対象として,害 虫ごとにネット目合いの検討がなされてきた。しかし,通常, 各作物上には害虫が複数種存在する。有機栽培や特別栽培, あるいはマイナー作物など農薬使用に制限がある場合には, 慣行栽培に比べてさらに多くの害虫種が発生する。こうした 栽培法では,一定サイズ以上の害虫の侵入を阻止する防虫 ネットの利点が生かされることになる(田中,1999)。この 防虫ネットの利点は,慣行栽培においても有効なはずである。 主要な害虫の進入を阻止するための防虫ネットの目合いを選 択するとともに,防虫ネットでは防ぎきれない害虫について も認識しておき,必要に応じて農薬散布や天敵放飼といった 補完的対策をあらかじめ計画しておくことが必要と考えられる。 圃場には土着天敵も存在するが,天敵が防虫ネットを通過 できない場合には,防虫ネットが害虫を保護する役目を担っ てしまう。一方,ビニールハウスなどで天敵を放飼する場合 には,防虫ネットによって天敵の移出を防ぐことができれば 都合が良い。このように,害虫とともに主要な天敵に対する 防虫ネットの影響を調査しておくことも防除プログラムを検 討する上で重要である(例えば,Bethke et al., 1994;鹿児 島県農業試験場,2005)。
アブラナ科葉菜類の主要害虫の侵入阻止に有効な防虫ネットの目合い
((独)農研機構 中央農業総合研究センター)Effective Mesh Size of Insect Proof Screens against Main Insect Pests
on Cruciferous Green Vegetables
Koukichi N
AGASAKA1, Takayuki M
ITSUNAGAand Chie G
OTO摘 要 アブラナ科葉菜類での害虫防除に適切な防虫ネットを選択する際の基本的情報を得るため,室内の一定条件下 で主要害虫10種について4種類のネット目合いに対する通過率を調査した。コナガ成虫と幼虫(若齢幼虫,以下 同様),ハスモンヨトウ幼虫,ヨトウガ幼虫,カブラハバチ成虫,キスジノミハムシ成虫,ダイコンサルハムシ成 虫と幼虫,ナモグリバエ成虫,ダイコンアブラムシ有翅虫,ニセダイコンアブラムシ有翅虫およびモモアカアブ ラムシ有翅虫について,目合い1mm,0.8mm,0.6mm,0.4mm の防虫ネットを垂直に設置した場合の24時間 後の通過率を調査した。1mm 目合いで通過を阻止できる害虫は,カブラハバチ成虫,ダイコンサルハムシ成虫, コナガ成虫であり,0.8mm 目合いで通過を阻止できるのはナモグリバエ成虫,0.6mm 目合いで阻止できるのは キスジノミハムシ成虫,ダイコンアブラムシ有翅虫,ニセダイコンアブラムシ有翅虫であった。0.4mm 目合いで おおむね阻止できるのはモモアカアブラムシ有翅虫とダイコンサルハムシ幼虫であった。一方,ヨトウガ,ハス モンヨトウ,コナガの若齢幼虫は,0.4mm 目合いでも通過した。また,コナガサムライコマユバチ,コレマンア ブラバチなどの寄生性天敵の通過率を調査したところ,1mm 目合いであれば通過可能であるが,0.6mm 目合い では通過が5%以下に阻止された。これらの情報を基に,アブラナ科葉菜類での防虫ネットの活用法を考察した。
1 Address:NARO Agricultural Research Center, Kannondai 3-1-1, Tsukuba, Ibaraki 305-8666, Japan 2014年5月16日受領
2014年9月26日登載決定
アブラナ科の葉菜類では,とりわけ殺虫剤を使用しない場 合に,多種類の害虫が発生する。そこで,本報告では,無防 除状態のコマツナ(Brassica rapa L. var. perviridis)で発生 する主要な害虫(河合,1983;長坂ら,2003;2009)に対 する,4種類の目合いの防虫ネットによる侵入阻止効果を 実験室内の一定の環境条件で調査した。主要な害虫のうち, 明らかにネットを通過しないような体サイズの害虫(例え ば,モンシロチョウやタマナギンウワバ,ナガメなどの成虫) を 除 き,10種の害虫を選択した。コナガ Plutella xylostella (Linnaeus)は成虫と幼虫を,ヨトウガ Mamestra brassicae (L.)は幼虫を,ハスモンヨトウ Spodoptera litura(Fabricius)
は幼虫を,カブラハバチAthalia rosae ruficornis Jakovlev は 成虫を,キスジノミハムシPhyllotreta striolata(Fabricius) は成虫を,ダイコンサルハムシPhaedon brassicae Baly は成 虫と幼虫を,ナモグリバエChromatomyia horticola(Goureau) は成虫を,ダイコンアブラムシBrevicoryne brassicae(L.) は 有 翅 虫 を, ニ セ ダ イ コ ン ア ブ ラ ム シLipaphis erysimi (Kaltenbach) は 有 翅 虫 を, モ モ ア カ ア ブ ラ ム シ Myzus persicae(Sulzer)は有翅虫を実験対象とした。また,アブ ラムシ類の寄生蜂3種とコナガの寄生蜂1種についても,4 種類の目合いの防虫ネットに対する通過率を調査した。これ ら主要な害虫と天敵類に対する防虫ネットによる侵入阻止の 効果に関する情報を基に,アブラナ科野菜における害虫群に 対する防虫ネットを組み込んだ防除方法について考察した。 材料および方法 1.実験昆虫の飼育 実験に用いた昆虫は,京都府綾部市および美山町(現,南 丹市)において採集した。10種のうち,コナガ,ハスモン ヨトウ,カブラハバチ,キスジノミハムシ,ナモグリバエ, ダイコンアブラムシ,ニセダイコンアブラムシ,モモアカア ブラムシの8種は,コマツナを餌として温度25±2℃,光周 期16L8D で飼育した。ダイコンサルハムシは,非休眠のま ま世代継続させるために,20±2℃,13L11D の条件で飼育 した。また,ヨトウガは,野外で採集した卵,あるいは中央 農研における継代飼育系統(16L8D)から得た卵から幼虫 を孵化させて用いた。 2.恒温条件下での害虫のネット通過率 4種類の目合い(0.4mm,0.6mm,0.8mm,1mm)の 防虫ネットについて,25℃の恒温室内で24時間経過後の10 種の害虫の通過率を調査した。防虫ネットがビニールハウス の側窓に展張された場合やネットトンネルとして利用された 場合を想定し,垂直方向にネットが張られた状態の試験容器 を用意した。ウンカ飼育箱(W30× D25× H28cm)の背面 のネットを除去し,防虫ネットを間に挟んで,2個を背中合 わせにクリップで固定し,試験容器とした。防虫ネットは, ポリエチレン糸を格子状に編み込んだもの(サンサンネットⓇ SL-4200,N-3000,GN-2300,GN-2000;日本ワイドクロス 株式会社,柏原)を用いた。恒温室内は25±2℃,45±10% RH に保った。試験容器は蛍光灯ランプ下に置き,明るさは 容器底面で1200 ~ 1400lx であった。光周期は16L8D とした。 コマツナが栽培されているハウスやネットトンネルの外 から害虫が侵入することを想定し,片側の試験容器に26 ~ 115頭の供試虫を入れ,ネットを隔てたもう片方の試験容器 内にポット植えのコマツナ(9cm 育苗ポットに草丈10 ~ 15cm のコマツナ6~ 10株)を入れた。成虫については羽 化後1日以内の個体を用い,幼虫については,ヨトウガ,ハ スモンヨトウ,ダイコンサルハムシはふ化後1日以内の個 体,1齢期を葉肉内にもぐるコナガ幼虫は2齢期の個体を用 いた。実験開始約24時間後に,コマツナ苗の入っている試 験容器側に移動した害虫の個体数を計数した。各害虫につい て4~7回の反復をとった。 3.恒温条件下での天敵のネット通過率 細かな目合いでも通過してしまうチョウ目害虫としてコナ ガ幼虫を選び,これに対する土着天敵であるコナガサムライ コマユバチCotesia vestalis (Haliday) について,防虫ネット の通過率を調査した。また,経験上細かな目合いを通過する ことが分かっているアブラムシ類については,市販されてい る天敵寄生蜂コレマンアブラバチAphidius colemani Vierek の 他, 土 着 天 敵 で あ る ギ フ ア ブ ラ バ チAphidius gifuensis
(Ashmead)およびダイコンアブラバチ Diaeretiella rapae (M’Intosh)を選択し,防虫ネットの通過率を調査した。上 記と同様の試験容器を用い,天敵を放虫する容器とは反対側 の容器内に,試験植物および害虫となる昆虫を置いた。コナ ガサムライコマユバチに対してはコナガ幼虫付きのコマツナ ポットを,コレマンアブラバチに対してはムギクビレアブラ ムシ付きのオオムギポットを,ギフアブラバチとダイコンア ブラバチに対してはモモアカアブラムシ付きのコマツナポッ トをそれぞれ入れた。調査方法は2と同様とした。 4.統 計 解 析 昆虫の体サイズに対して試験容器も防虫ネット面も十分大 きいので,個々の個体がネットを通過する際には,他個体の 影響を受けないものと仮定した。また,餌のある側に入った 後に餌のない側に戻ることはないと仮定した。そして,一定 条件での試行なので反復によらず一定の反応をすると仮定 し,反復を込みにして,独立の個体の反応として集計した。 応答として,各個体がネットを「通過した」,「通過しない」 の二値で扱い,ロジスティック回帰分析により,昆虫種間お よびネット目合い間での通過率の違いを解析した。また,個々 の昆虫種においてネット目合いに対して通過率の変化がロジ スティック曲線に従うと仮定して,50%および95%の個体 の通過を阻止するネット目合いを逆推定した。この解析には JMP8を使用した。 結 果 1.8種害虫の成虫の侵入を防止するネット目合い 8種害虫の25℃条件下,24時間後における4種目合いの 防虫ネット対する通過率を調査したところ,カブラハバチ成 虫とダイコンサルハムシ成虫は1mm 目合いの防虫ネットを 全く通過できなかった(第1図)。これら2種を除く6種の 通過率の変化の仕方は,種によって異なっていた(ロジスティッ ク回帰分析の交互作用:df =5,G=93.41,p <0.0001)。
コナガ成虫は0.3%の個体が1mm 目合いを通過できたが, 0.8mm 目合いを通過できた個体はなかった。ナモグリバエ, キスジノミハムシ,ダイコンアブラムシ(有翅虫),ニセダ イコンアブラムシ(有翅虫),モモアカアブラムシ(有翅虫)は, 目合いが細かくなるほど通過が困難となった(ロジスティック 回帰分析:それぞれ,df =1,G =32.38,p <0.0001; df =1, G=1065.36,p <0.0001; df =1,G =197.42,p <0.0001; df= 1,G =360.59,p <0.0001; df = 1,G =756.32,p <0.0001)。ナモグリバエとキスジノミハムシは,0.8mm 目 合いは通過できたが,0.6mm 目合いでは全く通過できなかっ た。3種のアブラムシのうち,ダイコンアブラムシ有翅虫は 0.6mm 目合いを通過できず,ニセダイコンアブラムシは0.4mm 目合いを通過できなかった。一方,モモアカアブラムシは0.4mm 目合いを通過する個体が0.3%とわずかに見られた。 これらのデータをもとにしてロジスティック回帰により推 定された50% および95%の個体の通過を阻止するネット目合 いは,それぞれ,ナモグリバエ1mm 以上,0.95mm,キス ジノミハムシ0.80mm,0.61mm,ダイコンアブラムシ0.98mm, 0.61mm,ニセダイコンアブラムシ1mm 以上,0.70mm,モ モアカアブラムシ0.82mm,0.49mm であった(第1表)。 2.4種害虫の若齢幼虫のネット侵入 成虫がネット上に産卵した場合や,付近の植物上に産卵し た場合には,若齢幼虫がネットを通過して作物上に発生する ことがある。こうしたことが想定される4種の害虫を対象と して,4種類の目合いに対する通過率を調査した。25℃条 件下で24時間後における4種類の防虫ネットに対する通過 率は,目合いの大きさに対する変化の仕方が昆虫種によっ て異なっていた(ロジスティック回帰分析の交互作用df= 3,G =436.72,p <0.0001)。ハスモンヨトウでは,0.4mm ~1mm の間では目合いに関係なく(df =1,G =0.83,p =0.3621)60 ~ 65%の通過率であった(第2図)。ヨトウ ガとコナガでは,目合いが細かいほど通過率が減少する傾 向だった(df=1,G =389.66,p <0.0001; df =1,G = 14.51,p =0.0001)ものの,0.4mm 目合いでも通過率はそ れぞれ16%と43%であった。一方,ダイコンサルハムシでは, 目合いが細かいほど通過率は減少し(df=1,G =301.15, p<0.0001),0.4mm 目合いは全く通過できなかった。 これらのデータをもとにしてロジスティック回帰により推 定された50%および95%の個体の通過を阻止するネット目 合いは,それぞれヨトウガ0.58mm,0.4mm 以下,コナガ 0.4 0.6 0.8 1.0 0 20 40 60 80 100 0 20 40 60 80 100 2 4 時 間 後 の 通 過 率 (% ) 防虫ネット目合い(mm) キスジノミハムシ ナモグリバエ コナガ カブラハバチ ダイコンサルハムシ モモアカアブラムシ ダイコンアブラムシ ニセダイコンアブラムシ 第1図 ネット目合いによる主要害虫(成虫)の通過率の変化 実験反復にかかわらず各個体の通過の可否は独立に決 定されると仮定した.縦棒は95%信頼区間.カブラハ バチとダイコンサルハムシは通過率ゼロのため,統計 解析からは除外.ロジスティック回帰分析の結果は, 虫の種類:df=5,G =600.86,p <0.0001; 目合い: df=1,G =19.32,p <0.0001; 交互作用:df =5, G=93.41,p <0.0001 昆虫種 df G p (成虫) カブラハバチ - - - ダイコンサルハムシ - - - コナガ 1 1.33 0.2485 - - ナモグリバエ 1 32.38 <0.0001 1mm以上 0.95 (0.90 - 1.00) キスジノミハムシ 1 1065.36 <0.0001 0.80 (0.79 - 0.81) 0.61 (0.59 - 0.63) ダイコンアブラムシ 1 197.42 <0.0001 0.98 (0.95 - 1.01) 0.61 (0.55 - 0.65) ニセダイコンアブラムシ 1 360.59 <0.0001 1mm以上 0.70 (0.66 - 0.73) モモアカアブラムシ 1 756.32 <0.0001 0.82 (0.80 - 0.83) 0.49 (0.45 - 0.52) (幼虫) ヨトウガ 1 389.66 <0.0001 0.58 (0.56 - 0.60) 0.4mm以下 ハスモンヨトウ 1 0.83 0.3621 - - コナガ 1 14.51 <0.0001 0.76 (0.64 - 0.94) 0.4mm以下 ダイコンサルハムシ 1 301.15 <0.0001 0.88 (0.86 - 0.91) 0.4mm以下 (天敵) コナガコマユバチ 1 342.84 <0.0001 1.00 (0.98 - 1.02) 0.67 (0.62 - 0.70) ギフアブラバチ 1 313.99 <0.0001 1mm以上 0.74 (0.71 - 0.77) コレマンアブラバチ 1 1039.64 <0.0001 0.85 (0.83 - 0.86) 0.55 (0.52 - 0.57) ダイコンアブラバチ 1 780.53 <0.0001 0.88 (0.86 - 0.89) 0.54 (0.51 - 0.57) ロジスティック回帰分析 50%通過を阻止する目合い(mm) 95%通過を阻止する目合い(mm) 推定値 (95%信頼区間) 推定値 (95%信頼区間) 第1表 害虫あるいは寄生蜂類の通過を阻止する目合い
0.76mm,0.4mm 以下,ダイコンサルハムシ0.88mm,0.4mm 以下であった(第1表)。ただし,ハスモンヨトウについて はロジスティック回帰自体が有意ではなかったため,逆推定 はできなかった。 3.4種の天敵寄生蜂類の通過を許容するネット目合い コナガの天敵寄生蜂1種,アブラムシ類の天敵寄生蜂3種 について,4種類の目合いの防虫ネットに対する通過率を調 査したところ,天敵種によって目合いに対する変化の仕方が 異なっていた(ロジスティック回帰分析の交互作用,df=3, G=11.82,p =0.0080)。コナガの寄生蜂コナガサムライコ マユバチについては0.8mm 目合いでは19%の通過が認めら れたが,0.6mm 目合いでは通過できた個体はなかった(第 3図)。一方,3種のアブラバチ類については0.6mm 目合い まではわずかに通過できる個体が見られたが,0.4mm 目合 いでは全く通過できなかった。 これらのデータをもとにしてロジスティック回帰により推 定された50%および95%の個体の通過を阻止するネット目 合いは,それぞれコナガコマユバチ1.00mm,0.67mm,ギ フアブラバチ1mm 以上,0.74mm,コレマンアブラバチ 0.85mm,0.55mm,ダイコンアブラバチ0.88mm,0.54mm であった(第1表)。 考 察 防虫ネットを利用する際には,目合いが細かいほどより多 くの害虫を防ぐことができる。その一方で,目合いが細かい ほど通風性が減少するため,作物や作業者にとって不適な環 境となる(田中,2009)。また,細かな目合いは天敵をも排 除することになる。これらの兼ね合いから,主要な害虫を防 ぐ程度の目合いを選定する必要がある。 コマツナの害虫の場合,1mm 目合いでは,カブラハバ チやダイコンサルハムシ,コナガやこれ以上の大きさの成虫 の侵入は防ぐことができる。しかし,ナモグリバエが低率な がら通過するほか,キスジノミハムシやアブラムシ類が高率 で通過する。また,害虫の若齢幼虫を対象にした場合,ヨト ウガ,ハスモンヨトウ,コナガ,ダイコンサルハムシなど は容易に通過してしまう。0.8mm 目合いでも,この状況は ほとんど変わらない。一方,0.6mm 目合いとした場合には, ナモグリバエやキスジノミハムシ,ダイコンアブラムシ,ニ セダイコンアブラムシの侵入をほぼ防ぐことができる。しか し,ヨトウガやハスモンヨトウ,コナガなどの幼虫を防ぐこ とはできない。特に,ハスモンヨトウは防虫ネット上にも卵 塊を産卵するため,成虫自体は防げたとしても幼虫の侵入を 食い止めることができない(例えば,熊倉ら,2005;中野ら, 2006)。しかし,この状況は0.4mm 目合いとしたときでも 変わらないので,通気性を考慮して0.6mm 目合いが妥当と 考えられる。実際に,0.6mm 目合いを使用した場合,害虫 による被害が大幅に軽減されることがプランター規模の試験 (長坂ら,2003)や圃場試験(熊倉ら,2003, 2005;中野ら, 2006)で示されている。 0.6mm 目合いを選択した場合には,アブラムシ類がわず かながら通過するほか,コナガなどチョウ目害虫の若齢幼虫 も通過する。その一方で,アブラムシ類の天敵であるアブラ バチ類やコナガの天敵であるコナガサムライコマユバチはほ とんど通過できない。従って,ネット内にアブラムシ類や チョウ目幼虫が発生した場合,土着天敵が施設内に入れず天 敵による害虫制御が期待できなくなる。このため,侵入した わずかな害虫個体がもととなって増殖したり,被害を及ぼし たりすることが報告されている。例えば,0.6mm 目合いの ネットトンネルを用いたコマツナやハクサイの栽培では,ニ セダイコンアブラムシが侵入したトンネルにおいて,無被覆 栽培よりも大きな被害が認められた(熊倉ら,2003, 2005)。 また,ハスモンヨトウの被害は,無被覆に比べて軽減され るものの,被害を食い止めることは出来なかった(熊倉ら, 2003, 2005; 中野ら,2006)。ネットトンネルの場合には,ネッ トが妨げとなって害虫の発見が遅れることや,その対策とし て殺虫剤散布をする際に,ネットを開閉する手間がかかると いった問題もある。ビニールハウスで側窓に0.6mm 目合い 0 20 40 60 80 100 0.4 0.6 0.8 1.0 2 4 時 間 後 の 通 過 率 (% ) 防虫ネット目合い(mm) ヨトウガ ハスモンヨトウ コナガ ダイコンサルハムシ 第2図 ネット目合いによる4種害虫(若齢幼虫)の通過率の 変化 実験反復にかかわらず各個体の通過の可否は独立に 決定されると仮定した.縦棒は95%信頼区間.ロジ スティック回帰分析の結果は,虫の種類:df=3,G =509.72,p <0.0001; 目合い:df =1,G =515.32, p<0.0001; 交互作用:df =5,G =436.72,p <0.0001 0 20 40 60 80 100 0.4 0.6 0.8 1.0 2 4 時 間 後 の 通 過 率 (% ) 防虫ネット目合い(mm) コレマンアブラバチ ダイコンアブラバチ コナガサムライコマユバチ ギフアブラバチ 第3図 ネット目合いによる4種寄生蜂の通過率の変化 実験反復にかかわらず各個体の通過の可否は独立に決定さ れると仮定した.縦棒は95%信頼区間.ロジスティック回 帰分析の結果は,虫の種類:df=3,G =244.02,p <0.0001; 目合い:df=1,G =2071.51,p <0.0001; 交互作用:df =3, G=11.82,p <0.0080
を利用した場合には,これらの問題は軽減される。また,ア ブラバチ類など天敵の放飼も可能となる。 調査した4種の寄生蜂類は,1mm 目合いならば容易に通 過できた。土着天敵を活用しようとする場合には,1mm 目 合いの選択を考えることもできる。ただし,この場合には, キスジノミハムシへの対策が前提となる。キスジノミハムシ の幼虫は地下部で根を食害するので,収穫後における圃場内 での根部残さの適切な処理や,圃場内外で餌となる雑草(イ ヌガラシなど)をなくすことなどが重要である。また,秋季 にダイコンサルハムシが発生する場合もある。ダイコンサル ハムシの幼虫は1mm 目合いのネットを容易に通過してしま う。これらへの対策として,防草シートを用いて発生源をな くすことで防除効果を上げた事例がある(長坂ら,2009)。 また,作期が短いコマツナやミズナの場合,同一ハウス内で は一斉播種,一斉収穫を行うことにより,キスジノミハムシ やアブラムシ類,コナガなどの侵入次世代が増加しないよう にすることで,安定生産が可能となると考えられる。 今回の実験では調査していないが,コマツナにおいても アザミウマ類やハダニ類が発生する(竹内ら,2000; 中野, 2008)。これらは0.6mm 目合いの防虫ネットでは大きな防 除効果は認められない(長坂ら,2003; 中野ら,2006)ため, 多発する場合には別途対策を検討する必要がある。また,ハ モグリバエ類については,今回ナモグリバエを調査したが, コマツナと同じくアブラナ科葉菜類のチンゲンサイにはマメ ハモグリバエが発生する(中野,2005)。このマメハモグリ バエを完全に防ぐには,0.5mm 目合いが必要である(市川ら, 1996)が,実用上は0.8mm 目合いが適切であると報告され ている(中野,2005)。この0.8mm 目合いを選択した場合 にも,程度の差はあるものの,1mm 目合いの時と同じ害虫 に対する対応策が必要である。 防虫ネットの弱点は,地際や地中にある。ネットトンネルの 場合には,地際部の封鎖には労力のかかる土寄せが必要である。 不完全な土寄せで済ませてしまうと,隙間から害虫が侵入す る場合が見られる(田中,1999)。また,先のキスジノミハ ムシのように土中に生活史をもつ害虫では,これらが土中に 存在する状態でネット被覆をすると,被害を助長してしまう。 カブラヤガなどのネキリムシ類は,幼虫が土中に潜むだけで なく,被覆の外側から地中を通って侵入することがある。対 策としては,キスジノミハムシの幼虫に対しては夏季の太陽 熱処理が有効である(福井,2002)。カブラヤガ幼虫に対しては, 進入阻止のための障壁が検討されている(長坂ら,2012)。 以上のように,どの目合いを選択するにしても防虫ネット だけで全ての害虫を防ぐことはできない。対象とした作型で の害虫の発生量や発生頻度,及ぼす被害の重要度,さらには 防虫ネットの価格や収穫物の品質を総合的に検討して防虫 ネットを選択した上で,耕種的な防除手段のほか,必要に応 じて殺虫剤や天敵などとの組合せを検討していく必要があ る。ここで報告した多種類の害虫,天敵のデータはその際の 基本情報として有用である。 引 用 文 献
Bethke, J. A. and T. D. Paine(1991)J. Entomol. Sci. 26: 169-177.
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